【実施例】
【0063】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されない。
【0064】
[実施例1]
Mortierella alpinaのゲノム解析
M. alpina 1S-4株を100mlのGY2:1培地(2%グルコース、1%酵母エキス pH6.0)に植菌し、28℃で2日間振とう培養した。濾過により菌体を集菌し、DNeasy (QIAGEN) を用いてゲノムDNAを調製した。上記ゲノムDNAの塩基配列を、 Roche 454 GS FLX Standard を用いて決定した。その際、フラグメントライブラリーの塩基配列決定を2ラン分、メイトペアライブラリーの塩基配列決定を3ラン分行った。得られた塩基配列をアッセンブリすることにより、300個のSuper Contigが得られた。
【0065】
cDNAの合成とcDNAライブラリーの作製
M. alpina 1S-4株を100mlの培地(1.8%グルコース、1%酵母エキス、pH6.0)に植菌し、3日間28℃で前培養した。10L培養槽(Able Co.,東京)に5Lの培地(1.8%グルコース、1%大豆粉、0.1%オリーブ油、0.01%アデカノール、0.3%KH
2PO
4、0.1% Na
2SO
4、0.05% CaCl
2・2H
2O、0.05% MgCl
2・6H
2O、pH6.0)を入れ、前培養物を全量植菌し、300rpm、1vvm、26℃の条件で8日間通気攪拌培養した。培養1、2、及び3日目に各々2%、2%、及び1.5%相当のグルコースを添加した。培養1、2、3、6、及び8日目の各ステージに菌体を回収し、塩酸グアニジン/CsCl法でtotal RNAを調製した。Oligotex-dT30 <Super> mRNA Purification Kit(Takara Bio Inc.)を用いて、total RNAからpoly(A)
+RNAの精製を行った。各ステージのcDNAライブラリーを、ZAP-cDNA GigapackIII Gold Cloning Kit (STRATAGENE) を用いて作製した。
【0066】
ACSホモログの探索
酵母のACSであるScFAA1(YOR317W)、ScFAA2(YER015W)、ScFAA3(YIL009W)、ScFAA4(YMR246W)、ScFAT1(YBR041W)、ScFAT2(YBR222C)のアミノ酸配列をquery 配列として、M. alpina 1S-4のゲノム塩基配列に対しtblastn検索を行った。その結果、12種類の配列がヒットした。すなわち、配列番号5、配列番号10、配列番号15、配列番号20、配列番号25、配列番号30、配列番号35、配列番号40、配列番号45、配列番号50、配列番号55、配列番号60の配列を含むSuper Contigがヒットした。配列番号5、にかかる遺伝子をMaACS-1、配列番号10にかかる遺伝子をMaACS-2、配列番号15にかかる遺伝子をMaACS-3、配列番号20にかかる遺伝子をMaACS-4、配列番号25にかかる遺伝子をMaACS-5、配列番号30にかかる遺伝子をMaACS-6、配列番号35にかかる遺伝子をMaACS-7、配列番号40にかかる遺伝子をMaACS-8、配列番号45にかかる遺伝子をMaACS-9、配列番号50にかかる遺伝子をMaACS-10、配列番号55にかかる遺伝子をMaACS-11、配列番号60にかかる遺伝子をMaACS-12とした。
【0067】
ACSホモログのクローニング
MaACS-1〜12の遺伝子に対応するcDNAをクローニングするために、上記cDNAライブラリーのスクリーニングを行った。なお、プローブのラベリングは、ExTaq(Takara Bio Inc.)を用いたPCRにより行った。すなわち、ExTaqに添付のdNTPミックスの代わりにPCRラベリングミックス(Roche Diagnositcs)を用いて、増幅されるDNAをジゴキシゲニン(DIG)ラベルしたプローブを作製した。
ハイブリダイゼーションの条件は、次のとおりである。
バッファー:5xSSC、1%SDS、50mM Tris-HCl(pH7.5)、50%ホルムアミド;
温度:42℃(一晩);
洗浄条件:0.2x SSC、0.1%SDS溶液中(65℃)で、20分間×3回;
検出は、DIG核酸検出キット(Roche Diagnositcs)を用いて行った。スクリーニングによって得られたファージクローンから、in vivo エキシジョンによりプラスミドを切り出し、各プラスミドDNAを得た。
以下に、各遺伝子のスクリーニングに用いたプローブ作製用のプライマー、得られた各遺伝子のCDSの塩基数、CDSの塩基配列より導かれるアミノ酸配列のアミノ酸数、および、ゲノムDNA配列とCDS配列との比較によるエキソン、イントロンの数を記載する。
(1)MaACS-1プライマーACS-1-1F:5'-gtcggctccaagcttgcaatcc-3'(配列番号61)
プライマーACS-1-2R:5'-ggacagctccagcactgtggtaaag-3'(配列番号62)
cDNA(配列番号4)
CDS(配列番号3):1857bp
ORF(配列番号1):1854bp
アミノ酸配列(配列番号2):618アミノ酸(
図1参照)
エキソン数:5、イントロン数:4(
図2参照)
(2)MaACS-2
プライマーACS-2-1F:5'-gaccacgggattccccaaggctgc-3'(配列番号63)
プライマーACS-2-2R:5'-cttggtcgcgcttgttcctggccac-3'(配列番号64)
cDNA(配列番号9)
CDS(配列番号8):1929bp
ORF(配列番号6):1926bp
アミノ酸配列(配列番号7):642アミノ酸(
図3参照)
エキソン数:8、イントロン数:7(
図4参照)
(3)MaACS-3
プライマーACS-3-1F:5'-tacagctttgttgctgtccccatc-3'(配列番号65)
プライマーACS-3-2R:5'-gatgatgggtgtgcttgcaaagatc-3'(配列番号66)
cDNA(配列番号14)
CDS(配列番号13):1653bp
ORF(配列番号11):1650bp
アミノ酸配列(配列番号12):550アミノ酸(
図5参照)
エキソン数:9、イントロン数:8(
図6参照)
(4)MaACS-4
プライマーACS-4-1F:5'-aacccaaagctgcgccaggctgtcc-3'(配列番号67)
プライマーACS-4-2R:5'-ttacagcttggattccttttgatgg-3'(配列番号68)
cDNA(配列番号19)
CDS(配列番号18):2067bp
ORF(配列番号16):2064bp
アミノ酸配列(配列番号17):688アミノ酸(
図7参照)
エキソン数:7、イントロン数:6(
図8参照)
(5)MaACS-5
プライマーACS-5-1F:5'-gtcgtgcccgatgcggagacgc-3'(配列番号69)
プライマーACS-5-2R:5'-tcagtggatcccgttatacatcag-3'(配列番号70)
cDNA(配列番号24)
CDS(配列番号23):1980bp
ORF(配列番号21):1977bp
アミノ酸配列(配列番号22):659アミノ酸(
図9参照)
エキソン数:6、イントロン数:5(
図10参照)
(6)MaACS-6
プライマーACS-6-1F:5'-gcgtccccctctatgatacattg-3'(配列番号71)
プライマーACS-6-2R:5'-gtgggatgcaggacggcaacatcg-3'(配列番号72)
cDNA(配列番号29)
CDS(配列番号28):1980bp
ORF(配列番号26):1977bp
アミノ酸配列(配列番号27):659アミノ酸(
図11参照)
イントロン数:少なくとも5つ(
図12参照)
(7)MaACS-7
プライマーACS-7-1F:5'-ggatgccgaacaacagcgcgtgg-3'(配列番号73)
プライマーACS-7-2R:5'-gcaccctcctcagaaacagccctc-3'(配列番号74)
cDNA(配列番号34)
CDS(配列番号33):1827bp
ORF(配列番号31):1824bp
アミノ酸配列(配列番号32):608アミノ酸(
図13参照)
エキソン数:5、イントロン数:4(
図14参照)
(8)MaACS-8
プライマーACS-8-1F:5'-cagtcgagtacattgtcaaccacg-3'(配列番号75)
プライマーACS-8-2R:5'-gcggttcaagaggcgaggcacagc-3'(配列番号76)
cDNA(配列番号39)
CDS(配列番号38):2079bp
ORF(配列番号36):2076bp
アミノ酸配列(配列番号37):692アミノ酸(
図15参照)
エキソン数:8、イントロン数:7(
図16参照)
(9)MaACS-9
プライマーACS-9-1F:5'-gttcatcttctgctggctgggtctc-3'(配列番号77)
プライマーACS-9-2R:5'-gttgcgttgttcacgcggcaatcc-3'(配列番号78)
cDNA(配列番号44)
CDS(配列番号43):1851bp
ORF(配列番号41):1848bp
アミノ酸配列(配列番号42):616アミノ酸(
図17参照)
エキソン数:5、イントロン数:4(
図18参照)
(10)MaACS-10
プライマーACS-10-1F:5'-atggaaaccttggttaacggaaag-3'(配列番号79)
プライマーACS-10-2R:5'-tcagcaaagatggccttgggctgg-3'(配列番号80)
cDNA(配列番号49)
CDS(配列番号48):2076bp
ORF(配列番号46):2073bp
アミノ酸配列(配列番号47):691アミノ酸(
図19参照)
エキソン数:8、イントロン数:7(
図20参照)
(11)MaACS-11
プライマーACS-11-1F:5'-gtcaagggcgagactcgcatcc-3'(配列番号81)
プライマーACS-11-2R:5'-cggtgacgatggtcatggactgc-3'(配列番号82)
cDNA(配列番号54)
CDS(配列番号53):2043bp
ORF(配列番号51):2040bp
アミノ酸配列(配列番号52):680アミノ酸(
図21参照)
エキソン数:3、イントロン数:2(
図22参照)
(12)MaACS-12
プライマーACS-12-1F:5'-gcgagacccgcatccgccgctcc-3'(配列番号83)
プライマーACS-12-2R:5'-gaccgtcctcgcccagggtgtcg-3'(配列番号84)
cDNA(配列番号59)
CDS(配列番号58):2043bp
ORF(配列番号56):2040bp
アミノ酸配列(配列番号57):680アミノ酸(
図23参照)
エキソン数:3、イントロン数:2(
図24参照)
【0068】
配列解析
M. alpina由来の12種類のACSホモログのCDS塩基配列間の同一性を表1に、アミノ酸配列間の同一性を表2に示す。MaACS-11とMaACS-12は、塩基配列で80.2%、アミノ酸配列で84.3%と高い同一性を示した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
MaACS-1〜12のCDS配列の推定アミノ酸配列をquery配列として、GenBankに登録されているアミノ酸配列に対して、BLASTp検索を行った。MaACS-1〜12の推定アミノ酸配列と最も高いスコアでヒットしたアミノ酸配列を有するタンパク質及び該タンパク質のアミノ酸配列とMaACS-1〜12の推定アミノ酸配列との同一性を表3に示す。また、S.cerevisiae由来のアシル‐CoAシンセターゼのアミノ酸配列に対するMaACS-1〜12の推定アミノ酸配列の同一性を表4に示す。
さらに、
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
MaACS-1〜12のうち、S.cerevisiae由来のFAAタンパク質と比較的高いアミノ酸配列の相同性を有するMaACSと該FAAタンパク質とのアラインメントを
図25に示す。またS.cerevisiae由来のFATタンパク質と比較的高いアミノ酸配列の相同性を有するACSホモログのアラインメントを
図26に示す。
図25及び26に示すいずれのグループのACSホモログもACS活性に重要なモチーフであるATP-AMPモチーフとFACS/VLACS-FATPモチーフの領域が高度に保存されている。
【0074】
発現ベクターの構築
酵母発現用ベクターpYE22m(Biosci. Biotech. Biochem., 59, 1221-1228, 1995)を用いて、以下のようにMaACS-1、MaACS-10、MaACS-11、MaACS-6、MaACS-8、MaACS-9をそれぞれ酵母で発現させるためのベクターを構築した。
【0075】
MaACS-6をスクリーニングして得られた配列番号29を含むプラスミドを制限酵素BamHI及びXhoIで消化し、得られた約2.1kbpのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素BamHI及びSalIで消化したDNA断片とをligation high(TOYOBO)を用いて連結することによりプラスミドpYE-ACS-6を得た。
【0076】
MaACS-8のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、以下のプライマーを使って、ExTaq(Takara Bio Inc.)を用いたPCR増幅により得られたDNA断片を、TOPO-TA cloning Kit(Invitrogen)にて、クローン化した。
プライマーEcoRI-ACS-8-F:5'-GGATCCATGCCTTCCTTCAAAAAGTACAACC-3'(配列番号85)
プライマーSmaI-ACS-8-R:5'-CCCGGGCAAAGAGTTTTCTATCTACAGCTT-3'(配列番号86)
インサート部分の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を有するプラスミドを制限酵素EcoRI及びSmaIで消化して得られた約2.1kbpのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素EcoRII及びSmaIで消化したDNA断片とをligation high(TOYOBO)を用いて連結することによりプラスミドpYE-ACS-8を得た。
【0077】
MaACS-9のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、以下のプライマーを使って、ExTaq(Takara Bio Inc.)を用いたPCR増幅により得られたDNA断片を、TOPO-TA cloning Kit(Invitrogen)にて、クローン化した。
プライマーEcoRI-ACS-9-F:5'-GAATTCATGGTTGCTCTCCCACTCG-3'(配列番号87)
プライマーBamHI-ACS-9-R:5'-GGATCCCTACTATAGCTTGGCCTTGCC-3'(配列番号88)
インサート部分の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を有するプラスミドを制限酵素EcoRI及びBamHIで消化して得られた約2.0kbpのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素EcoRII及びBamHIで消化したDNA断片とをligation high(TOYOBO)を用いて連結することによりプラスミドpYE-ACS-9を得た。
【0078】
MaACS-1のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、以下のプライマーを使って、ExTaq(Takara Bio Inc.)を用いたPCR増幅により得られたDNA断片を、TOPO-TA cloning Kit(Invitrogen)にて、クローン化した。
プライマーEcoRI-ACS-1-F:5'-GGATCCATGTATGTCGGCTCCAAGCTTGC-3'(配列番号89)
プライマーSalI-ACS-1-R:5'-GTCGACTCAAAGCCTGGCTTTGCCGCTGACG-3'(配列番号90)
インサート部分の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を有するプラスミドを制限酵素EcoRI及びSalIで消化して得られた約1.9kbpのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素EcoRI及びSalIで消化したDNA断片とをligation high(TOYOBO)を用いて連結することによりプラスミドpYE-ACS-1を得た。
【0079】
MaACS-10のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、以下のプライマーを使って、ExTaq(Takara Bio Inc.)を用いたPCR増幅により得られたDNA断片を、TOPO-TA cloning Kit(Invitrogen)にて、クローン化した。
プライマーACS-10-1F:5'- GGATCCatggaaaccttggttaacggaaag-3'(配列番号91)
プライマーKpnI-ACS-10-R:5'- GGTACCTAGAACTTCTTCCACATCTCCTC-3'(配列番号92)
インサート部分の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を有するプラスミドを制限酵素EcoRI及びKpnIで消化して得られた約2.1kpbのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素EcoRI及びKpnIで消化したDNA断片とをligation high(TOYOBO)を用いて連結し、MaACS-10のCDSの5’側に、ベクターpYE22mのGAPDHプロモーターがある向きに連結されたものを選択することによりプラスミドpYE-ACS-10を得た。
【0080】
MaACS-11のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、以下のプライマーを使って、ExTaq(Takara Bio Inc.)を用いたPCR増幅により得られたDNA断片を、TOPO-TA cloning Kit(Invitrogen)にて、クローン化した。
プライマーSacI-ACS-11-F:5'-GAGCTCATGCCAAAGTGCTTTACCGTCAACG-3'(配列番号93)
プライマーBamHI-ACS-11-R:5'-GGATCCTTACTTGGAGCCATAGATCTGCTTG-3'(配列番号94)
インサート部分の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を有するプラスミドを制限酵素SacI及びBamHIで消化して得られた約2.0kbpのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素SacI及びBamHIで消化したDNA断片とをligation high(TOYOBO)を用いて連結することによりプラスミドpYE-ACS-11を得た。
【0081】
酵母での発現
形質転換株の取得
プラスミドpYE22m、pYE-MaACS-6、pYE-MaACS-8、pYE-MaACS-9をそれぞれ用いて酢酸リチウム法により、酵母S. cerevisiae EH13-15株(trp1,MATα)(Appl. Microbiol. Biotechnol., 30, 515-520, 1989)を形質転換した。形質転換株は、SC-Trp(1lあたり、Yeast nitrogen base w/o amino acids (DIFCO) 6.7g、グルコース20gアミノ酸パウダー(アデニン硫酸塩1.25g、アルギニン0.6g、アスパラギン酸3g、グルタミン酸3g、ヒスチジン0.6g、ロイシン1.8g、リジン0.9g、メチオニン0.6g、フェニルアラニン1.5g、セリン11.25g、チロシン0.9g、バリン4.5g、スレオニン6g、ウラシル0.6gを混合したもの)1.3g、)寒天培地(2%アガー)上で生育することを基準に選抜した。
【0082】
酵母の培養
それぞれのプラスミドを用いて形質転換して得られた任意の1株ずつを、以下の培養実験に供した。
前培養として、SC-Trp培地10mlに酵母をプレートから1白金耳植菌し、30℃で1日間振とう培養を行った。本培養は、SC-Trp培地に前培養液を1ml添加し、30℃で1日間振とう培養を行った。
【0083】
菌体の脂肪酸分析
酵母の培養液を遠心分離することにより、菌体を回収した。10mlの滅菌水で洗浄し、遠心分離により再び菌体を回収し、凍結乾燥した。塩酸メタノール法により菌体の脂肪酸をメチルエステルに誘導した後、ヘキサンで抽出、ヘキサンを留去し、ガスクロマトグラフィーにより分析を行った。
培地あたりの脂肪酸生産量を表5に示した。pYE22mで形質転換したコントロールと比較して、ppYE-MaACS-6、pYE-MaACS-8またはpYE-MaACS-9で形質転換した株では培地あたりの脂肪酸生産量が上昇していた。
【0084】
【表5】
【0085】
アラキドン酸生産酵母での発現
(1)アラキドン酸酵母の育種
アラキドン酸生産酵母(S. cerevisiae)を育種するために、以下のプラスミドを構築した。
まず、M. alpina 1S-4株から調製したcDNAを鋳型として、以下のプライマーΔ12-f及びΔ12-r、Δ6-f及びΔ6-r、GLELO-f及びGLELO-r、又はΔ5-f及びΔ5-rの組み合わせにより、ExTaqを用いてPCRを行い、M. alpina 1S-4株のΔ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(GenBank accession No.AB020033)(以下、「Δ12遺伝子」)、Δ6脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(GenBank accession No.AB020032) (以下、「Δ6遺伝子」)、GLELO脂肪酸鎖長延長酵素遺伝子(GenBank accession No.AB193123) (以下、「GLELO遺伝子」)及びΔ5脂肪酸不飽和化酵素遺伝子(GenBank accession No.AB188307) (以下、「Δ5遺伝子」)を増幅した。
Δ12-f:5'-TCTAGAatggcacctcccaacactattg-3'(配列番号95)
Δ12-r:5'-AAGCTTTTACTTCTTGAAAAAGACCACGTC-3'(配列番号96)
Δ6-f:5'-TCTAGAatggctgctgctcccagtgtgag-3'(配列番号97)
Δ6-r:5'-AAGCTTTTACTGTGCCTTGCCCATCTTGG-3'(配列番号98)
GLELO-f:5'-TCTAGAatggagtcgattgcgcaattcc-3'(配列番号99)
GLELO-r:5'-GAGCTCTTACTGCAACTTCCTTGCCTTCTC-3'(配列番号100)
Δ5-f:5'-TCTAGAatgggtgcggacacaggaaaaacc-3'(配列番号101)
Δ5-r:5'-AAGCTTTTACTCTTCCTTGGGACGAAGACC-3'(配列番号102)
これらをTOPO-TA-cloning Kitによりクローン化した。塩基配列を確認し、Δ12遺伝子、Δ6遺伝子、GLELO遺伝子及びΔ5遺伝子の塩基配列を含むクローンをそれぞれプラスミドpCR-MAΔ12DS(Δ12遺伝子の塩基配列を含む)、pCR-MAΔ6DS(Δ6遺伝子の塩基配列を含む)、pCR-MAGLELO(GLELO遺伝子の塩基配列を含む)、pCR-MAΔ5DS(Δ5遺伝子の塩基配列を含む)とした。
【0086】
一方、プラスミドpURA34(特開2001-120276)を制限酵素HindIIIで消化して得られた約1.2 kbのDNA断片を、ベクターpUC18(Takara Bio Inc.)を制限酵素EcoRIとSphIで消化したあと末端を平滑化し、セルフライゲーションして得られたベクターのHindIIIサイトに挿入し、ベクターのEcoRIサイト側がURA3の5’側であるクローンをpUC-URA3とした。また、YEp13を制限酵素SalIとXhoIで消化して得られた約2.2kbのDNA断片をベクターpUC18のSalIサイトに挿入し、ベクターのEcoRI側がLUE2の5’側であるクローンをpUC-LEU2とした。
【0087】
次に、プラスミドpCR-MAΔ12DSを制限酵素HindIIIで消化した後に末端を平滑化したものを制限酵素XbaIで消化して得られた約1.2 kbpのDNA断片と、ベクターpESC-URA(STRATAGENE)を制限酵素SacIで消化した後に末端を平滑化したものを制限酵素SpeIで消化した約6.6 kbpのDNA断片とを連結し、プラスミドpESC-U-Δ12を得た。プラスミドpCR-MAΔ6DSを制限酵素XbaIで消化した後に末端を平滑化したものを制限酵素HindIIIで消化して得られた約1.6 kbpのDNA断片と、プラスミドpESC-U-Δ12を制限酵素SalIで消化した後に末端を平滑化したものを制限酵素HindIIIで消化した約8 kbpのDNA断片とを連結し、プラスミドpESC-U-Δ12:Δ6を得た。これを制限酵素PvuIIで部分消化して得られた約4.2kbの断片をpUC-URA3のSmaIサイトに挿入し、プラスミドpUC-URA-Δ12:Δ6を得た。
【0088】
また、プラスミドpCR-MAGLELOを制限酵素XbaIとSacIで消化して得られた約0.95 kbpのDNA断片と、ベクターpESC-LEU(STRATAGENE)を制限酵素XbaIとSacIで消化して得られた約7.7 kbpのDNA断片とを連結し、プラスミドpESC-L-GLELOを得た。プラスミドpCR-MAΔ5DSを制限酵素XbaIで消化した後に末端を平滑化したものを制限酵素HindIIIで消化して得られた約1.3 kbpのDNA断片と、プラスミドpESC-L-GLELOを制限酵素ApaIで消化した後に末端を平滑化したものを制限酵素HindIIIで消化して得られた約8.7 kbpのDNA断片とを連結して、プラスミドpESC-L-GLELO:Δ5を得た。これを制限酵素PvuIIで消化して得られた約3.2 kbp断片をpUC-LEU2のSmaIサイトに挿入し、プラスミドpUC-LEU-GLELO:Δ5を得た。Saccharomyces cerevisiae YPH499株(STRATAGENE)をプラスミドpUC-URA-Δ12:Δ6とプラスミドpUC-LEU-GLELO:Δ5とでco-transformationした。形質転換株は、SC-Leu,Ura寒天培地上で生育することを基準に選抜した。こうして得られた株のうち、任意の一株をARA3-1株とした。この株は、ガラクトースを含む培地で培養することにより、GAL1/10プロモーターからΔ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、Δ6脂肪酸不飽和化酵素遺伝子、GLELO遺伝子、Δ5脂肪酸不飽和化酵素遺伝子を発現させることができる。
【0089】
(2)アラキドン酸生産酵母への形質転換と解析
ARA3-1株をプラスミドpYE22m、pYE-ACS-1、pYE-ACS-10、pYE-ACS-11でそれぞれ形質転換した。形質転換株は、SC-Trp,Leu,Ura(1 Lあたり、Yeast nitrogen base w/o amino acids (DIFCO)6.7 g、グルコース20 g、アミノ酸パウダー(アデニン硫酸塩1.25 g、アルギニン0.6 g、アスパラギン酸3 g、グルタミン酸3 g、ヒスチジン0.6 g、リジン0.9 g、メチオニン0.6 g、フェニルアラニン1.5 g、セリン11.25 g、チロシン0.9 g、バリン4.5 g、スレオニン6 gを混合したもの)1.3 g)寒天培地(2%アガー)上で生育することを基準に選抜した。それぞれのプラスミド導入株の中から、任意の4株を以下の培養実験に使用した。
【0090】
これらの株を上記SC-Trp,Leu,Ura液体培地10 mlで30℃、1日間培養した。そのうち1 mlをSG-Trp,Leu,Ura(1 Lあたり、Yeast nitrogen base w/o amino acids (DIFCO)6.7 g、ガラクトース20 g、アミノ酸パウダー(アデニン硫酸塩1.25 g、アルギニン0.6 g、アスパラギン酸3 g、グルタミン酸3 g、ヒスチジン0.6 g、リジン0.9 g、メチオニン0.6 g、フェニルアラニン1.5 g、セリン11.25 g、チロシン0.9 g、バリン4.5 g、スレオニン6 gを混合したもの)1.3 g)液体培地10 mlに植菌し、15℃、6日間培養した。集菌し、水洗した後、凍結乾燥した。塩酸メタノール法により乾燥菌体内の脂肪酸をメチルエステルに誘導し、ガスクロマトグラフィーにより、脂肪酸分析を行った。プラスミドpYE22mで形質転換したコントロール株、および、モルティエレラ由来の各ACSホモログで形質転換した株の総脂肪酸に対する各PUFAの組成比を表6に示す。
【0091】
【表6】
【0092】
表6に示すように、モルティエレラ由来のACSホモログを発現させることで、脂肪酸の組成を改変させることができた。特に、MaACS-11発現株では、コントロール株と比べてアラキドン酸の組成比が約1.8倍、リノール酸は約1.5倍、γ-リノレン酸は2.4倍に増加していた。また、MaACS-1発現株では、コントロール株と比べてアラキドン酸量は約1.5倍に増加していた。さらに、MaACS-10発現株では、コントロール株と比べてリノール酸は約2倍、γ-リノレン酸は約4倍に増加していた。
【0093】
[実施例2]
発現ベクターの構築
酵母用発現ベクター
MaACS-12を酵母で発現させるためのベクターpYE-ACS-12を以下のように構築した。MaACS-12のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、
プライマーEco-ACS-G-F:5’-GAATTCATGACAAAGTGCCTCACCGTCG-3’
(配列番号103)
プライマーSma-ACS-G-R:5’-CCCGGGACTTAGGCCGTTCCATAAAGCTG-3’
(配列番号104)
を使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで増幅したDNA断片を、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(インビトロジェン)にてクローン化した。インサート部分の塩基配列を確認し、正しい塩基配列を有するプラスミドを制限酵素EcoRIとSmaIで消化して得られた約2 kbpのDNA断片と、ベクターpYE22mを制限酵素BamHIで消化した後Blunting Kit(TAKARAバイオ)を用いて末端を平滑化し、続いてEcoRIで消化したDNA断片を、Ligation High(TOYOBO)を用いて連結し、プラスミドpYE-ACS-12を得た。
【0094】
M. alpina用発現ベクター
MaACS-10とMaACS-11をM. alpinaで発現させるために、以下のとおり、ベクターを構築した。
まず、ベクターpUC18を制限酵素EcoRIとHindIIIで消化し、オリゴDNA MCS-for-pUC18-F2とMCS-for-pUC18-R2をアニーリングさせたアダプターを挿入し、プラスミドpUC18-RF2を構築した。
MCS-for-pUC18-F2:
5’-aattcataagaatgcggccgctaaactattctagactaggtcgacggcgcgcca-3’
(配列番号105)
MCS-for-pUC18-R2:
5’-agcttggcgcgccgtcgacctagtctagaatagtttagcggccgcattcttatg-3’
(配列番号106)
【0095】
M. alpinaのゲノムDNAを鋳型として、プライマーNot1-GAPDHt-FとプライマーEcoR1-Asc1-GAPDHt-Rを使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで増幅した約0.5 kbpのDNA断片を、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(インビトロジェン)にてクローン化した。インサート部分の塩基配列を確認したあと、制限酵素NotIとEcoRIで消化して得られた約0.9 kbpのDNA断片をプラスミドpUC18-RF2のNotI及びEcoRIサイトに挿入し、プラスミドpDG-1を構築した。
Not1-GAPDHt-F:5’-agcggccgcataggggagatcgaacc-3’
(配列番号107)
EcoR1-Asc1-GAPDHt-R:5’-agaattcggcgcgccatgcacgggtccttctca-3’
(配列番号108)
【0096】
M. alpinaのゲノムを鋳型として、プライマーURA5g-F1とプライマーURA5g-R1を使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで増幅したDNA断片を、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(インビトロジェン)にてクローン化した。インサート部分の塩基配列を確認したあと、制限酵素SalIで消化して得られた約2 kbpのDNA断片をプラスミドpDG-1のSalIサイトに挿入し、URA5遺伝子の5’側がベクターのEcoRI側になる向きで挿入されたものをプラスミドpDuraGとした。
URA5g-F1:5’-gtcgaccatgacaagtttgc-3’ (配列番号109)
URA5g-R1:5’-GTCGACTGGAAGACGAGCACG-3’ (配列番号110)
【0097】
続いて、M. alpinaのゲノムを鋳型プライマーhisHp+URA5-FとプライマーhisHp+MGt-Fを使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで増幅した約1.0 kbpのDNA断片と、pDuraGを鋳型として、プライマーpDuraSC-GAPt-FとプライマーURA5gDNA-Fを使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで増幅した約5.3 kbpのDNA断片を、In-Fusion(登録商標)Advantage PCR Cloning Kit(TAKARAバイオ)を使って連結し、プラスミドpDUra-RhGを得た。
hisHp+URA5-F:5’-GGCAAACTTGTCATGAAGCGAAAGAGAGATTATGAAAACAAGC-3’
(配列番号111)
hisHp+MGt-F:5’-CACTCCCTTTTCTTAATTGTTGAGAGAGTGTTGGGTGAGAGT-3’
(配列番号112)
pDuraSC-GAPt-F:5’-TAAGAAAAGGGAGTGAATCGCATAGGG-3’ (配列番号113)
URA5gDNA-F:5’-CATGACAAGTTTGCCAAGATGCG-3’ (配列番号114)
【0098】
プラスミドpDUra-RhGを鋳型として、プライマーpDuraSC-GAPt-FとプライマーpDurahG-hisp-Rを使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで約6.3 kbpのDNA断片を増幅した。
pDurahG-hisp-R:5’-ATTGTTGAGAGAGTGTTGGGTGAGAGTG-3’ (配列番号115)
【0099】
MaACS-10のcDNAを含むプラスミドを鋳型として
プライマーACS-10+hisp-F:
5’-CACTCTCTCAACAATATGGAAACCTTGGTTAACGGAAAGT-3’ (配列番号116)
プライマーACS-10+MGt-R:
5’-CACTCCCTTTTCTTACTAGAACTTCTTCCACATCTCCTCAATATC-3’ (配列番号117)
を使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで約2.1 kbpのDNA断片を増幅した。得られた断片を、上記6.3 kbpのDNA断片と、In-Fusion(登録商標)Advantage PCR Cloning Kit (タカラバイオ)を使って連結し、プラスミドpDUraRhG-ACS-10を得た。
【0100】
MaACS-11のcDNAを含むプラスミドを鋳型として、
プライマーACS-11+MGt-R:
5’-CACTCCCTTTTCTTATTACTTGGAGCCATAGATCTGCTTGA-3’ (配列番号118)
プライマーACS-11+hisp-F:
5’-CACTCTCTCAACAATATGCCAAAGTGCTTTACCGTCAAC-3’ (配列番号119)
を使って、KOD-plus-(TOYOBO)を用いたPCRで約2.1 kbpのDNA断片を増幅した。
得られた断片を、上記6.3 kbpのDNA断片と、In-Fusion(登録商標)Advantage PCR Cloning Kit (TAKARAバイオ)を使って連結し、プラスミドpDUraRhG-ACS-11を得た。
【0101】
ACS活性の評価
プラスミドpYE22m、pYE-ACS-5、pYE-ACS-8、pYE-ACS-10、pYE-ACS-11、pYE-ACS-12、で、酵母EH13-15をそれぞれ形質転換して得られた任意の2株を以下のとおり培養した。前培養として、SC-Trp培地10 mlに菌体を1白金耳植菌し、30℃、1日振とう培養した。本培養として、SD-Trp培地100 mlに、前培養液を1%植菌し、28℃、で1日振とう培養した。
【0102】
粗酵素液の調製は、以下のように行った。遠心分離にて、集菌後、水洗し、-80℃にて菌体を一時的に保存した。菌体をBuffer B(50 mM リン酸ナトリウムbuffer(pH6.0)、10%グリセロール、0.5 mM PMSF)5 mlに懸濁し、フレンチプレス(16 kPa、3回)にて、菌体を破砕した。1,500 xg、4℃にて10分間、遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。
【0103】
ACS活性の測定は、参考文献(J.B.C., 272(8), 1896-4903, 1997)の記載に沿って以下の手順で行った。反応液は、200 mM Tris-HCl(pH7.5)、2.5 mM ATP、8 mM MgCl
2、2 mM EDTA、20 mM NaF、0.1% TritonX-100、脂肪酸50 μg/ml、50 μM CoA、粗酵素液(適当にbuffer Bで希釈)100 μlを含み、これを全量500 μlとして、28℃にて30分間反応させた。反応終了後、停止液(イソプロパノール:n-ヘプタン:1 M 硫酸(40:20:1))2.5 mlを添加し、よく攪拌した。さらに、n-ヘプタン 2 mlを添加し、よく攪拌後、遠心分離し、上層を回収した。下層にさらに2 mlのn-ヘプタンを加え、同様にして、上層を回収した。回収した上層をあわせ、遠心濃縮機で乾固させたあと、内部標準として、0.2 mg/mlのトリコサン酸(23:0)を50μl添加し、塩酸メタノール法により、脂肪酸をメチルエステルに誘導し、ガスクロマトグラフィーにより、脂肪酸分析を行った。検出された脂肪酸量から、アシル-CoAとなったために上記操作で下層に分配された脂肪酸量を算出した。以下の表に結果を示す。なお、ACS活性は、粗酵素液のタンパク質量当たりの、上記操作で下層に分配された脂肪酸量として示す。コントロールとはpYE22mで形質転換した株であり、そのほかは、それぞれの遺伝子の発現ベクターを導入した株である。
【0104】
【表7】
【0105】
パルミチン酸を基質にした場合、MaACS-5、MaACS-10、MaACS-11、MaACS-12は、コントロールの2〜4倍程度のACS活性を示した。
【0106】
【表8】
【0107】
オレイン酸を基質にした場合、MaACS-10、MaACS-11、MaACS-12は、コントロールの2倍程度のACS活性を示した。
【0108】
【表9】
【0109】
リノール酸を基質にした場合、MaACS-5、MaACS-8、MaACS-12はコントロールの数倍(それぞれ3倍、3倍、6倍程度)のACS活性を示したのに対し、MaACS-10とMaACS-11はコントロールの数10倍(それぞれ40倍、20倍程度)のACS活性を示した。
【0110】
【表10】
【0111】
γ-リノレン酸を基質にした場合、MaACS-5、MaACS-8、MaACS-10、MaACS-11、MaACS-12は、いずれもコントロールの2〜10倍程度のACS活性を示した。
【0112】
【表11】
【0113】
ジホモγ-リノレン酸を基質にした場合、MaACS-10、MaACS-11、MaACS-12はいずれも、コントロールの数10倍(それぞれ60倍、40倍、30倍)程度のACS活性を示した。
【0114】
【表12】
【0115】
アラキドン酸を基質にした場合、MaACS-10、MaACS-11、MaACS-12は、数10倍(それぞれ90倍、30倍、10倍)程度の活性を示した。
【0116】
このように、特にMaACS-10、MaACS-11、MaACS-12は、ジホモγ-リノレン酸やアラキドン酸といった、炭素数20の高度不飽和脂肪酸に対する活性が高かった。
【0117】
ACSを発現させた酵母のアラキドン酸取り込み活性
プラスミドpYE22m、pYE -ACS-10、pYE -ACS-11、pYE -ACS-12で、酵母EH13-15をそれぞれ形質転換して得られた任意の2株を以下のように培養した。前培養として、SC−Trp 10 mlに1白金耳植菌し、30℃、1日間、振とう培養した。本培養として、SC-Trpに、50 μg/mlとなるようアラキドン酸を添加した培地10 mlに前培養の培養物を100 μl添加し、25℃、1日振とう培養した。集菌後、凍結乾燥し、脂肪酸分析し、添加したアラキドン酸のうち、菌体内に取り込まれたアラキドン酸の割合を求めた。結果を表14に示す。コントロールとはpYE22mで形質転換した株であり、そのほかは、それぞれの遺伝子の発現ベクターを導入した株である。
【0118】
【表13】
【0119】
【表14】
【0120】
M. alpina形質転換株の取得
国際公開公報WO2005/019437(「脂質生産菌の育種方法」)に記載の方法にしたがってM. alpina 1S-4株より誘導したウラシル要求性株Δura−3を宿主としてパーティクルデリバリー法で、プラスミドpDUraRhG-ACS-10とpDUraRhG-ACS-11を用いて、それぞれ形質転換を行った。形質転換株の選択には、SC寒天培地(Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate(Difco)0.5%、硫酸アンモニウム0.17%、グルコース2%、アデニン0.002%、チロシン0.003%、メチオニン0.0001%、アルギニン0.0002%、ヒスチジン0.0002%、リジン0.0004%、トリプトファン0.0004%、スレオニン0.0005%、イソロイシン0.0006%、ロイシン0.0006%、フェニルアラニン0.0006%、寒天2%)を用いた。
【0121】
形質転換M.alpinaの評価
得られた形質転換株を、GY培地4mlに植菌し、28℃で2日間振とう培養を行った。菌体をろ過により回収し、RNeasy plant kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出した。スーパースクリプトファーストストランドシステム for RT-PCR(インビトロジェン)によりcDNAを合成した。導入したコンストラクトからの各遺伝子の発現を確認するため、以下のプライマーの組み合わせでRT-PCRを行った。
ACS10-RT1:5’-GTCCCGAATGGTTCCT-3’ (配列番号120)
ACS10-RT2:5’-AGCGGTTTTCTACTTGC-3’ (配列番号121)
ACS11-RT1:5’-AACTACAACCGCGTCG-3’ (配列番号122)
ACS11-RT2:5’-CGGCATAAACGCAGAT-3’ (配列番号123)
【0122】
過剰発現を確認できた株のうち、各1株について、GY培地(グルコース2%、酵母エキス1%)10 mlに植菌し、28oC、300 rpmで3日間振とう培養した。これをGY培地500 ml (2 L坂口フラスコ)に全量移し、28oC、120 rpmで振とう培養した。ここから3日後、7日後、10日後、12日後にそれぞれ5 ml、10 mlずつ分取し、これを濾過した。菌体を120℃で乾燥させ、塩酸メタノール法により、脂肪酸をメチルエステルに誘導し、ガスクロマトグラフィーにより、脂肪酸分析を行った。乾燥菌体あたりの脂肪酸生産量およびアラキドン酸生産量の経時変化を調べた。なお、形質転換の宿主であるΔura−3株をコントロールとした。結果を
図27(MaACS-10)及び
図28(MaACS-11)に示す。
【0123】
図27及び28に示されるように、MaACS-10及びMaACS-11をM. alpinaで過剰発現させた場合、菌体あたりの脂肪酸量、アラキドン酸量ともに、コントロールに比べて増加していた。