【文献】
Biochem. Soc. Trans.,2009年,vol.37, no.2,pp.427-432
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記参照ブロック配列鎖上の5’−末端は、Taq DNAポリメラーゼによる5’から3’のエキソヌクレオリシスを妨げるヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
MALDI−TOF、HR−融解、ジデオキシ配列決定法、単一分子配列決定、ピロシーケンス、第二世代ハイスループット配列決定、SSCP、RFLP、dHPLC、CCM、デジタルPCR、および、定量的PCRからなる群から選択される1以上の方法を用いて、濃縮した標的鎖で前記混合反応物を分析する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
遺伝子分析で一般に遭遇する状況は、過剰な非変異体配列(「参照配列」)の存在下で、低い割合の変異体DNA配列(「標的配列」)を特定する必要性を伴う。そのような状況の例は次のものを含む。(a)過剰な正常対立遺伝子の存在下で、少数の突然変異対立遺伝子を特定して配列を決定すること;(b)エピジェネティック解析で、過剰なメチル化していない対立遺伝子(またはその逆)の存在下で、少数のメチル化した対立遺伝子を特定すること;(c)ミトコンドリアDNA中の低レベルのヘテロプラスミーの検出;(d)ウィルス感染症での薬剤耐性の疑似種の検出と、(e)過剰な野生型対立遺伝子の存在下で、癌患者(ここで、人々は、癌の処置の成果を追跡するため、または、再発を検知するために、癌を有している疑いをかけられる)の血液中の腫瘍循環DNAの特定。
【0003】
本出願の発明者は、サンプルPCR反応混合物中の低含量対立遺伝子の濃度を濃縮するためのCOLD−PCR方法を先に記載した。「Enrichment of a target Sequence」と題された、公開されたPCT出願である特許文献1(現在では特許文献2(Gerassimos Makrigiorgosによる。本発明の譲受人に譲渡された))を参照のこと。記載されたCOLD−PCR濃縮方法は、臨界(critical)変成温度「T
c」で、反応混合物をインキュベートする修飾された核酸増幅プロトコルに基づく。従来の特許出願は、COLD−PCRの2つのフォーマット、すなわち、full COLD−PCRとfast COLD−PCRについて記載している。
【0004】
full COLD−PCRでは、反応混合物は、従来のPCRに類似した参照(例えば、野生型)および標的(例えば、変異体)の配列のために、融解温度をゆうに上回って選択される第1の変性温度(例えば、94°C)にさらされる。その後、その混合物はゆっくり冷却され、ハイブリダイゼーションによって参照−標的ヘテロ二本鎖の形成を促進する。8分間にわたって94°Cから70°Cまで、制御された方法で温度を確実に低下させることは、適切なハイブリダイゼーションを保証するのに典型的なことである。あるいは、温度を急速に70°Cに低下させ、この温度を8分間保つことで適切なハイブリダイゼーションを保証する。いったん冷やされると、反応混合物は、参照−標的ヘテロ二本鎖だけでなく、参照−参照ホモニ本鎖(homoduplexes)も(より少ない程度に、標的−標的ホモニ本鎖)含有している。標的配列と参照配列がクロスハイブリダイズする際、短い(例えば、<200bp)二本鎖DNA配列に沿ったどの場所でも、1以上の単一ヌクレオチドのミスマッチまたは、挿入、または、欠失のわずかな配列の差は、その配列の融解温度(T
m)のわずかながら予測可能な変化をもたらす(非特許文献1および非特許文献2)。ミスマッチの正確な配列構成と位置に依存しているため、0.1−20°Cの融解温度の変化を熟慮する。上で参照した特許出願に述べられているように、full COLD−PCRは、ニ本鎖参照配列とハイブリダイズされた参照−標的ヘテロ二本鎖との間の融解温度の差を前提としている。参照−標的ヘテロ二本鎖を形成するために冷却した後、反応混合物を臨界変性温度(T
c)でインキュベートする。該温度は、ニ本鎖参照配列の融解温度未満で、かつ、参照−標的ヘテロ二本鎖の低融解温度よりも高くなるように選択され、その結果として、参照−参照ホモニ本鎖よりもクロスハイブリダイズされた標的−参照ヘテロ二本鎖を優先的にインキュベーションする。
【0005】
臨界変性温度(T
c)は、それ以下で、参照核酸配列について、PCR効率が不意に落ちる(それでも参照−標的ヘテロ二本鎖の変性を促進するのに十分な)温度である。例えば、PCR変性温度が87°Cに設定されると167 bp p53配列はよく増幅し、PCR変性が86°Cに設定されると、86.5°Cで適度に増幅し、検知可能な生成物を生み出さない。したがってこの例では、T
c〜86.5°Cである。臨界変性温度(T
c)の中間インキュベーション後、プライマーは、変性した標的と変性したヘテロ二本鎖からの参照鎖とにアニールされ、ポリメラーゼによって伸長され、参照配列に対する標的配列の濃度を濃縮する。full COLD−PCRの利点の1つは、同じプライマー対が標的と参照の配列の両方に使用されるということである。
【0006】
Fast COLD−PCRは、上記で引用された特許出願に記載されるように、ニ本鎖参照配列(例えば、野生型配列)とニ本鎖標的配列(例えば、変異体配列)の間の融解温度の差があることを前提としている。とりわけ、標的配列の融解温度は参照配列より低くなければならない。fast COLD−PCR中の臨界変性温度(T
c)は、それ以下で、ニ本鎖参照核酸配列についてPCR効率が不意に落ちる温度であるが、それでもニ本鎖標的配列の変性を促進するのに十分である。fast COLD−PCR濃縮サイクル中に、反応混合物は、full COLD−PCRサイクルの第1工程でのように、参照配列の融解温度以上の温度(例えば、94°C)では変性にさらされない。むしろ、反応混合物は、臨界変性温度(例えばT
c=83.5°C)でインキュベートされ、該温度は、(a)ニ本鎖参照配列の融解温度未満であるとともに、ニ本鎖標的配列の低融解温度よりも高くなるように、または、(b)参照と標的の配列の変性の程度間の差を依然として生み出しながら、参照と標的の配列の両方のT
mよりも低くなるように、選択される。臨界変性温度(T
c)でのインキュベーション後、プライマーは変性した標的にアニールされ、ポリメラーゼによって伸長され、こうして、参照配列に対する標的配列の濃度を濃縮する。再度、同じプライマー対は標的と参照配列の両方に使用される。
【0007】
full COLD−PCRによる濃縮は、Fast COLD−PCRによって濃縮と比較して、比較的非能率的で時間もかかることがわかっている。しかしながら、fast COLD−PCRの使用は、ニ本鎖標的配列の融解温度が、ニ本鎖参照配列の融解温度未満である出願に限定されている。例えば、変異体配列の融解温度が野生型の配列の融解温度と同じか高い場合、変異は、fast COLD−PCRにさらされた低含量の変異体配列を備えたサンプルのデータを配列する際には検出できない。したがって、full COLD−PCRサイクルの有効性と速度を改善することが望ましい。
【0008】
full COLD−PCRの相対的非効率は、主として、とりわけfull COLD−PCRの初期のサイクル中に形成されるヘテロ二本鎖の不足によるものと信じられている。たとえばハイブリダイゼーション工程の間にゆっくりとした冷却が最適化され(例えば、94℃から70℃まで8分間徐々に冷却される)ても、とりわけ初期のサイクル中の非常に低い濃度の標的(例えば、変異体)は、ヘテロ二本鎖を形成する能力を低下させる。ハイブリダイゼーションによる冷却のための時間の増加は望ましいことではなく、どのような場合においても、濃縮を改善するのにとりわけ有効であるとは分かっていない。
full COLD−PCRがfast COLD−PCRほど比較的効率的ではないという別の理由は、後のfull COLD−PCRのサイクル中の増幅産物はヘテロ二本鎖を形成するよりもホモ二本鎖を
再形成する傾向があるということである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の1つの目的は、full COLD−PCRの初期のサイクル中のヘテロ二本鎖形成の効率を改善することである。別の目的はfull COLD−PCRのための全体的なサイクル時間を減少させることである。
【0012】
本発明はサンプル中の低含量対立遺伝子を濃縮するための方法を対象としており、full COLD−PCRの効率を改善し、かつ、サイクル時間を減らすために、反応混合物中の過剰な参照ブロック配列の使用を対象としている。
【0013】
本発明は、先に引用された特許出願(「Enrichment of a target Sequence」と題された特許文献1(現在では特許文献2(Gerassimos Makrigiorgosによる。本発明の譲受人に譲渡されている))の
図1と2に関して記載されたCOLD−PCR方法に対する修飾を含んでおり、該文献は引用によって本明細書に組み込まれている。より具体的には、本発明に従って、修飾されたfull COLD−PCRプロトコルにつき、反応混合物を熱サイクル(thermocycling)にさらす前に、操作された参照ブロック配列(例えば、一本鎖オリゴヌクレオチド)は、反応混合物に過剰に加えられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
修飾されたfull COLD−PCR方法は、核酸サンプルを含有する増幅反応混合物の調製を含む。核酸サンプルは、野生型の配列のような参照配列と、1つ以上の変異型配列のような1つ以上の標的配列を含有していると
想定される。言及されたように、本発明の目的は、標的配列の濃度を濃縮することであり、したがって、ほとんどの状況では、標的配列が(存在するとして)低含量である場合、該方法が使用される。該方法は約1乃至10のヌクレオチド配列の変化を含む突然変異対立遺伝子を濃縮するのに適しているが、本発明に従う標的配列は、参照配列に使用されたものと同じ対のプライマーを含むPCRによって増幅可能である。言及されたように、本発明は、超過濃度レベルの反応物混合物に参照ブロック配列の存在を含んでいる。参照ブロック配列は、少なくともそのプライマー部位間の参照配列鎖の1つの少なくとも一部と相補的であるか、または、プライマー部位に部分的に重複する核酸配列である。反応混合物に加えられる参照ブロック配列は、一本鎖であるのが望ましい。(だが、最初の変性工程が変性した一本鎖の参照ブロック配列をもたらすため、二本鎖でもありうる)。
【0015】
full COLD−PCRプロトコルに従って、反応混合物は、参照配列とさらには標的配列の融解温度(T
m)以上ある第1の変性温度(例えば95°C)にさらされ、結果として、参照配列と標的配列の変性鎖をもたらす。反応液は、例えば、70°Cまでハイブリダイゼーションを促進するために冷却される。冷却が配列を過剰な量の参照ブロック配列の存在下で起こるため、参照ブロック配列は、参照配列の相補鎖と、さらに標的配列の相補鎖とハイブリダイズする。例えば、一本鎖参照ブロック配列が工程の開始時に過剰に加えられると仮定すると、工程でのこの時点での反応混合物は、参照ブロック配列と相補的な参照(例えば、野生型)鎖のヘテロ二本鎖、および、参照ブロック配列と標的(例えば変異体)鎖のヘテロ二本鎖を含有している。この時点での反応混合物は、参照と標的の配列の変性マイナス鎖を含有する。修飾されたfull COLD−PCRサイクル中に存在する形成されたヘテロ二本鎖は、上記の参照された特許出願に記載されたfull COLD−PCRプロトコル中で形成された参照−標的ヘテロ二本鎖とは基本的に異なる。過剰な量の参照ブロック配列を加えると、従来のfull COLD−PCRプロトコル(例えば、約8分)中よりも迅速なハイブリダイゼーション(例えば、約30秒)を促進する。本発明の好ましい実施形態では、冷却ハイブリダイゼーション工程は、継続時間が1分未満である。
【0016】
その後、反応混合物は、参照ブロック配列からの標的鎖の優先的な変性を可能にするの
に十分な臨界温度(例えば、Tc=84.5°C)にさらされる。臨界温度(Tc)は、
反応混合物がTcインキュベートされる場合、参照ブロック鎖と相補参照鎖の
二本鎖が
ほとんど変性されないままであるが、参照ブロック鎖と標的鎖はほとんど変性されるように選択される。「ほとんど」という用語は、所定の変性型または未変性型の少なくとも60%、好ましくは少なくとも90%、または、さらに好ましくは少なくとも98%を意味する。参照ブロック配列と標的鎖の
二本鎖の融解温度は、参照ブロック配列と相補配列鎖の
二本鎖の溶解温度よりも常に低い。なぜなら、前者はミスマッチを含むが、後者はミスマッチを含まないためである。
【0017】
優先的な変性後、反応混合物の温度が下げられることによって、反応混合物中の遊離標的(free target)と参照の鎖にプライマー対をアニール化することが可能となる。再度、一本鎖参照ブロックオリゴヌクレオチドが工程の開始時に過剰に加えられると仮定すると、サイクルのこの時点で、理論上は、最初の変性工程と比較して標的配列の2つの遊離鎖と、わずか1つの遊離参照鎖がある。別の参照鎖は参照ブロック配列でハイブリダイズされ、したがって、増幅には利用不可能である。アニールされたプライマーは伸長され、結果として、標的配列の指数関数的な増幅をもたらす一方で、参照鎖は単に直線的に増幅されるだけである。従って、標的配列は、COLD−PCRサイクルのあいだ、サンプル中の参照配列に対して委徐々に濃縮される。
【0018】
方法は10乃至30以上のサイクルが繰り返される傾向がある。該方法は、標的増幅産物の濃縮をかなり増加させて、full COLD−PCRのためのサイクル時間を減らすことがわかった。それは、従来のfull COLD−PCRプロトコルではヘテロ二本鎖を形成しなかったホモ接合変異を濃縮することもできる。
【0019】
参照ブロック配列の長さは、標的または参照配列の長さと等しいか、または、標的または参照の配列の長さよりも
短いか、あるいは、
長くてもよい。好ましい実施形態では、参照ブロック配列は、プライマーが参照配列にあまり結合しないように、配列の各側で標的と参照の配列よりもいくつかの塩基分小さい。従って、参照ブロック配列は、標的配列を増幅するプライマーによって伸長することができない。この目的のために、随意に、参照ブロック配列の3’OHはDNAポリメラーゼ伸長に対してブロック可能である。同様に、随意に、参照ブロック配列の5’―末端は、Taq DNAポリメラーゼ(すなわち、ハイブリダイズされた参照ブロック配列の分解)による5’から3’のエキソヌクレオリシス(exonucleolysisi)が避けられるように、部分的に重複するヌクレオチド配列で設計されてもよい。
【0020】
言及されるように、参照配列は一本鎖またはニ本鎖である。好ましい実施形態では、参照ブロック配列は一本鎖核酸である。しかしながら、参照ブロック配列は、一本鎖DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)またはロックト核酸(LNA)、あるいは、別の修飾ヌクレオチドのあいだのキメラのような他の形状をとることができる。キメラ配列上のPNAまたはLNAの位置は、その位置での潜在的なミスマッチの効果を最大限にするように、変異が存在しそうな位置にマッチするために選択可能である。参照ブロック配列は、一本鎖PNAまたは一本鎖DNAであってもよい。
【0021】
本発明の他の実施形態と利点は、図面と以下の詳細な記載を再検討すると当業者に明白なことがある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で使用されているように、「標的配列を濃縮する」という用語は、標的配列の量を増加させて、サンプル中の対応する参照配列に対する標的配列の割合を増やすことを言う。例えば、
サンプル中で標的配列と参照配列の割合は当初5%対95%である場合、標的配列は30%の参照配列に対して70%の標的配列の割合をもたらすように、増幅反応で、優先的に増幅されてもよい。したがって、参照配列に対する標的配列の14倍の濃縮がある。
【0024】
本明細書に使用されるように、用語「標的配列」は、対応する参照配列ほど核酸サンプル中では見られない核酸を指す。標的配列は、サンプルにおいて、参照配列+標的配列の総量の50%未満を構成する。標的配列は突然変異対立遺伝子であってもよい。例えば、サンプル(例えば、血液サンプル)は多数の正常細胞とわずかな癌細胞を含有してもよい。正常細胞は突然変異でないまたは野生型の対立遺伝子を含有するが、少数の癌細胞は体細胞突然変異を含有している。この場合、変異体は標的配列であり、その一方で野生型の配列が参照配列である。
【0025】
本明細書で使用されているように、「標的鎖」は、標的配列の一つの核酸鎖(single nucleic acid strand))を指す。
【0026】
標的配列は対応する参照配列に少なくとも50%相同でなければならないが、参照配列からの少なくとも1つのヌクレオチドで異ならなければならない。標的配列は、参照配列に使用されたものと同じ対のプライマーによるPCRを介して増幅可能である。
【0027】
本明細書で使用されているように、用語「参照配列」は、対応する標的配列よりも核酸サンプル中で見られる核酸を指す。参照配列は、サンプル中の全参照配列+標的配列の50%以上を構成する。好ましくは、参照配列は、標的配列よりも、RNAおよび/またはDNAレベル10X、15X、20X、25X、30X、35X、40X、45X、50X、60X、70X、80X、90X 100X、150X、200X以上で発現される。本明細書で使用されているように、「参照鎖」は、参照配列の一つの核酸鎖を指す。
【0028】
本明細書で使用されているように、用語「野生型」は、母集団中の特定の遺伝子について最も一般的なポリヌクレオチド配列または対立遺伝子を指す。一般に、野生型対立遺伝子は正常細胞から得られる。
【0029】
本明細書で使用されているように、用語「変異体」は、核酸配列中のヌクレオチド変化(すなわち、単一または複数ヌクレオチドの置換、欠失または挿入)を指す。変異を有する(bear)核酸は、対応する野生型ポリヌクレオチド配列とは配列において異なる核酸配列(突然変異対立遺伝子)を有している。本発明は、体細胞突然変異と多型性に広く関連している。本発明の方法は、多くの配列変化でも有用であるが、約1乃至10のヌクレオチド配列変化を含有する突然変異対立遺伝子を選択的に濃縮する際に特に役立つ。突然変異対立遺伝子は、病変組織または細胞から典型的に得られ、疾患状態に関連している。
【0030】
本明細書に使用されるように、用語「融解温度」または「T
m」は、ポリヌクレオチドがその相補的配列から解離する温度を指す。一般的に、T
mは、
二本鎖核酸分子中のワトソン・クリック塩基対の半分が破壊または解離し(すなわち、「溶解している」)、その一方で、ワトソン・クリック塩基対のもう半分が
二本鎖立体構造中で
変化しない温度として定義されてもよい。言いかえれば、T
mは、2つの相補配列のヌクレオチドの50%がアニールされ(二本鎖)、ヌクレオチドの50%が変性される(一本鎖)温度として定義される。したがって、T
mは、二本鎖から一本鎖の核酸分子への移行時(または、逆に、一本鎖から二本鎖の核酸分子への移行時)の中間点を定義する。
【0031】
T
mは、多くの方法、例えば、Wetmur 1991(Wetmur, J. G. 1991. DNA probes: applications of the principles of nucleic acid hybridization. Crit Rev Biochem Mol Biol 26: 227−259, のように最隣接計算(a nearest−neighbor calculation)、および、インターネットで利用可能なOligo(商標)プライマー設計と計画を含むコマーシャル番組によって、推定することが可能である。あるいは、T
mは実際の実験を介して測定可能である。例えば、二本鎖DNA結合、または、臭化エチジウムまたはSYBR−Green(分子プローブ)のような挿入色素は、核酸の実際なT
mを測定するために、融解曲線アッセイで使用されることができる。核酸のT
mを測定するための追加の方法は、当該技術では周知である。
これらの方法のいくつかは、発明者の先行特許「Enrichment of a target Sequence」と題された特許文献1(現在では特許文献2)に列挙されており、この文献は引用によって本明細書に組み込まれる。
【0032】
本明細書で使用されているように、「参照ブロック配列」は、オリゴヌクレオチドなどの操作された一本鎖またはニ本鎖の核酸配列であり、好ましくは標的配列よりも短い長さを有する。好ましい実施形態では、参照ブロック配列は、プライマーが参照配列にあまり結合しないように、配列の各側で、参照配列よりもいくつかの塩基分小さい。随意に、参照ブロック配列の3’OH末端は、DNAポリメラーゼ伸長に対してブロックされ、5−末端はTaq DNAポリメラーゼによる5’から3’のエキソヌクレオリシスを避けるために修飾される。参照ブロック配列は、反応混合物が一本鎖DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)またはロックト核酸(LNA)、あるいは、別の修飾されたヌクレオチドの間のキメラのような臨界温度「T
c」にさらされる際に、参照配列にアニール化されたままの他の形状をとることもできる。
【0033】
本発明に関して使用されるように、用語「臨界温度」または「T
c」は、標的鎖と参照ブロック配列のニ本鎖を優先的に変性するために選択された温度を指す。反応混合物がT
cでインキュベートされる際に、参照ブロック鎖と相補的な参照鎖からなるニ本鎖はほとんど変性しないままであるが、参照ブロック鎖と標的鎖からなるニ本鎖がほとんど変性されるように、臨界温度(T
c)は選択される。「ほとんど」という用語は、所定の変性型または未変性型の少なくとも60%、好ましくは少なくとも90%、または、さらに好ましくは少なくとも98%を意味する。以下に提供される例において、中間のインキュベーション工程に選択された臨界温度「T
c」は、84.5°Cであるが、第1の変性温度は95°Cである。
【0034】
本明細書で使用されているように、「プライマー対」は、PCR反応の間に増幅生成物を形成するように標的と参照の配列の反対側の鎖とアニール化される2つのプライマーを指す。標的および参照配列は、プライマー結合を促進するために少なくとも25の塩基でなければならない。プライマー対は反応のT
c未満のT
mを有するように設計されている。
【0035】
本明細書で使用されているように、「相同性」は、2つのポリマー分子、例えば、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド間のサブユニット配列の類似を指す。パーセント配列同一性と配列類似性を測定するのにふさわしいアルゴリズムの例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはAltschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389−3402 (1997) とAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403−410 (1990)にそれぞれ記載されている。BLAST分析を行なうためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を介して公に利用可能である。
【0036】
(核酸増幅)
一般的に、1つの実施形態では、本発明の方法で用いられる核酸サンプルは、標的と参照配列を有するゲノムDNAを含む。別の実施形態では、本発明の方法の核酸サンプルは、先に核酸増幅反応で増幅させた標的と参照の配列を含む。当業者は、核酸を増幅するのに利用可能な多くの方法があることを認識するであろう。恐らく、最も一般的な方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば、米国特許第4,683,195号と第4,683,202号だけでなく、Saiki et al., Science 230:1350−1354 (1985) and Gyllensten et al., PNAS (USA) 85:7652−7656 (1985)を参照)である。PCR方法の好ましい変更形態は、非対称PCR(例えば、Mao et al., Biotechniques 27(4):674−678 (1999); Lehbein et al., Electrophoresis 19(8−9):1381−1384 (1998); Lazaro et al., Mol. Cell. Probes 6(5):357−359 (1992); および、米国特許第6,197,499号を参照)。他の増幅方法は、限定されないが、鎖置換増幅(SDA)(Walker et al., Nucleic Acids Res. 20(7):1691−1696 (1992)と同様に、米国特許第5,744,311号、5,648,211号、および、5,631,147号を参照)、ローリングサークル増幅(RCA)(PCT公報WO97/19193を参照)、核酸配列に基づく増幅(NASBA)(Compton, Nature 350:91−92 (1991)と同様に、米国特許第5,409,818号と第5,554,527号を参照)、転写増幅法(TMA)(Kwoh et al., PNAS (USA) 86:1173−1177 (1989)と同様に、米国特許第5,399,491号を参照)、自家持続配列複製法(3SR)(Guatelli et al., PNAS (USA) 87:1874−1879 (1990)を参照)、および、リガーゼ連鎖反応(LCA)(米国特許第5,427,930号と5,792,607号を参照)を含む。
【0037】
その最も単純な形状では、PCRは、標的DNA中で反対側の鎖にハイブリダイズして関心領域に隣接する2つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、特異的DNA配列の酵素合成のためのインビトロな方法である。鋳型変性、プライマーアニーリング、および、DNAポリメラーゼによってアニールされたプライマーの伸長に関与する一連の反復的な反応工程は、その終端がプライマーの5’末端によって定義される、特定のフラグメントの指数関数的な蓄積をもたらす。PCRはゲノムDNA中の他の配列に対する109の因子によって特異的DNA配列の選択的な濃縮をもたらすことができると報告されている。PCR方法はSaiki et al., 1985, Science 230:1350にも記載されている。
【0038】
PCRは、鋳型DNA(標的と参照の配列)(少なくとも1fg;さらに好ましくは1−1000ng)と少なくとも25pmolのオリゴヌクレオチドプライマー用いて行われる。典型的な反応混合物は以下のものを含んでいる:2μlのDNA、25pmolのオリゴヌクレオチドプライマー、2.5μlの適切な緩衝液、0.4μlの1.25μM dNTP、2.5ユニットのTaq DNAポリメラーゼ(Stratagene)、および、脱イオン水で総容積25μl。PCRはプログラム可能なサーマルサイクラーを用いて行なわれる。
【0039】
PCRサイクルの各工程の長さと温度は、サイクルの数と同じように、ストリンジェンシー条件にしたがって有効に調節される。アニール温度とタイミングは、プライマーが鋳型とアニール化される効率と、許容されるミスマッチの程度の両方によって決定される。プライマーアニーリング条件のストリンジェンシーを最適化する能力は、十分、当業者の知識の範囲内である。30°Cと72°Cの間のアニール温度が使用される。鋳型分子の最初の変性は、4分間、92°C乃至99°Cの間で通常生じ、その後、変性(15秒乃至1分間、94°C乃至99°C)、アニーリング(上に議論されるように測定された温度;1−2分)、および、伸長(1分間72°C)からなる20−40のサイクルが続く。最終の伸長工程は72°Cで4分間行なわれるのが一般的であり、その後、4°Cで限定されていない(0−24時間)工程が行われてもよい。
【0040】
PCRは、ヌクレオシド三リン酸の重合を触媒する核酸ポリメラーゼまたは酵素を利用する。一般に、酵素は、標的配列にアニールされたプライマーの3’−末端で合成を始め、鋳型に沿って5’−方向に続ける。既存のDNAポリメラーゼは、例えば、大腸菌DNAポリメラーゼI、T7 DNAポリメラーゼ、サーマス・サーモフィラス(Tth)DNAポリメラーゼ、バチルス・ステアロサーモフィルスDNAポリメラーゼ、サーモコッカス リトラリス(Thermococcus litoralis)DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアティクス(Taq)DNAポリメラーゼ、および、パイロコッカス・フリオサス(Pfu)DNAポリメラーゼを含んでいる。用語「核酸ポリメラーゼ」はRNAポリメラーゼを含有する。核酸鋳型がRNAである場合、「核酸ポリメラーゼ」は逆転写酵素のようなRNA依存性の重合活性を指す。
【0041】
本発明の濃縮手順は、サーモサイクラーのようなPCR装置で行われるか、または、より好ましくはリアルタイムPCR装置でリアルタイム反応条件下で行なわれる。リアルタイム反応条件は、さらに、生成時にPCR生成物を測定/検知するために、核酸検出剤(例えば、色素またはプローブ)を用いる。
【0042】
(サンプル)
本明細書で使用されているように、「サンプル」は、対象の核酸(標的および参照の配列)を含有しているかまたは含有すると推定される任意の物質、あるいは、対象の核酸を含有しているかまたは含有すると推定される核酸そのものを指す。用語「サンプル」は、このように核酸(ゲノムDNA、cDNA、RNA)、細胞、生物、組織、液体、または、物質のサンプルを含み、限定されないが、例えば、血漿、血清、髄液、リンパ液、滑液、尿、涙、便、皮膚の外分泌液、気道
、腸管、および、泌尿生殖器、唾液、血球、腫瘍、器官、組織、インビトロの細胞培養成分のサンプル、自然分離株(飲料水、海水、固形物質など)、微生物標本(microbial specimens)、および、核酸トレーサー分子で「マーキングされた」物体または標本を含む。
【0043】
本発明の核酸配列はゲノムDNAから増幅することができる。ゲノムDNAは、以下の方法に応じて組織または細胞から分離することができる。あるいは、本発明の核酸配列は、当該技術で周知の方法によって血液から分離することができる。
【0044】
特定の組織から遺伝子の変異形態の検出を促進するために、組織は分離される。哺乳動物組織からゲノムDNAを分離するために、組織は液体窒素中で細分化されて凍結させる。凍結させた組織は、あらかじめ冷やしておいた乳鉢と乳棒で細かい粉末に砕かれ、消化緩衝液(100mM NaCl、10mM Tris−HCl、pH8.0、25mM EDTA、pH8.0、0.5%(w/v)SDS、0.1mg/mlのプロテイナーゼK)中で、組織100mgごとに1.2mlの消化緩衝液で、懸濁される。哺乳動物の組織培養細胞からゲノムDNAを分離するために、細胞は500xgで5分間、遠心分離によってペレット状にされ(pelleted)、1−10mlの氷のように冷たいPBS中で再懸濁され、500xgで5分間再度ペレット状にされ、1容量の緩衝液中で再懸濁される。
【0045】
消化緩衝液中のサンプルは、50℃で12−18時間(振りながら)インキュベートされ、その後、等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを用いて抽出される。相が遠心分離工程(1700xg、10分間)後に分解しない場合、別の容量の消化緩衝液(プロテイナーゼKを含まない)が加えられ、遠心分離工程が繰り返される。厚い白い
物質が二相の界面に
明瞭に存在する場合、有機抽出工程が繰り返される。抽出後、上の水層は新しい管に移され、該管には、1/2の容量の7.5M酢酸アンモニウムと2容量の100%エタノールが加えられる。核酸は、1700xgで2分間のペレット状に
され、70%エタノールで洗浄され、空気乾燥
され、1mg/mlのTE緩衝液(10mM Tris−HCl、pH8.0、1mM EDTA、pH8.0)中で再懸濁される。残りのRNAは0.1%SDSと1μg/mlのデオキシリボヌクレアーゼを含まないリボヌクレアーゼの存在下で、37℃で1時間サンプルをインキュベートすることによって、および、抽出とエタノール沈殿工程を繰り返すことによって、取り除かれる。本方法によるゲノムDNAの収量は、およそ2mgDNA/1g細胞または組織であると推定される(Ausubelら。上記参照)。この方法によって分離されたゲノムDNAは、本発明にしたがって使用することができる。
【0046】
標的DNAも全血から抽出されてもよい。例えば、血液は、血清を調製するための抗凝血剤を伴わないか、または、EDTA、クエン酸ナトリウム、ヘパリン、あるいは、同様の抗凝血剤、最も好ましくは血漿の調製のためのEDTAを伴う、好ましくはシリコーン化されたガラスを含む採取チューブへと、標準的な方法によって採取されてもよい。好ましい方法は、必ずしも必要とされるとは限らないが、血漿または血清が全血から分画されるものである。血漿または血清は、遠心分離によって、好ましくは5−10分間、300〜800xgの穏やかな遠心分離によって全血から分画されるか、または、他の標準分析法によって分画されてもよい。ヘパリンがPCRの邪魔になることがあるため、ヘパリン処置した血液の使用はヘパリナーゼによる事前処理を必要とすることがある。したがって、EDTAは血液標本の好ましい抗凝血剤である。採取したばかりの血漿または血清、あるいは、凍結させて(保存して)その後解凍した血漿または血清のいずれかは、本発明の方法で使用することができる。保存された血漿または血清は、−20°C乃至−70°Cで維持されなければならず、採取したばかりの血漿または血清は、使用するまで冷却されたままか氷の上で維持される。その後、DNAは当該技術で周知の方法によって抽出されてもよい。
【0047】
本発明の方法はメチル化が標的配列で生じたかどうかを検知するために使用することができる。メチル化検出法は、DNAのメチル化感受性処置のための化学的または酵素的な手法を含む。化学処理は、亜硫酸水素ナトリウムによるDNAのインキュベーションを含み、それはメチル化されていないシトシンを選択的にウラシルへと変換する。DNAはまず熱変性され、次に、5Mの亜硫酸水素塩(pH5−7)で処理される。あらかじめ存在するウラシルを取り除くゲノムDNAの事前処理は、亜硫酸水素塩による処置の前に使用される。この事前処理は、5mMヒドロキシルアミン(pH7)の存在下でのウラシル・グリコシラーゼ処置からなる。
【0048】
標的配列のメチル化されたシトシンはウラシルに変換されるので、(参照ブロック配列の存在下において)full COLD−PCRのハイブリダイゼーション冷却工程で参照ブロック配列を用いて二重になる際に、該シトシンはここでミスマッチを形成することになる。
【0049】
(参照ブロック配列の不在下でのfull COLD−PCR(先行技術))
図1は、先に組み込まれた、「Enrichment of a target Sequence」と称された特許文献2で説明されるように、標的と参照の配列を含有している核酸サンプル中の標的配列を濃縮するための、full COLD−PCRとして知られている先行技術手順を示す。
図1は、上記の組み込まれた特許出願で
図1の再生である。
【0050】
標的と参照の配列は、ゲノムDNA、cDNA、ウィルスDNA、哺乳動物DNA、胎児DNA、または、細菌DNAを含む様々なソースから得ることができる。参照配列は一般に野生型対立遺伝子で、標的配列が突然変異対立遺伝子であるが、逆もまた真実であってもよい。突然変異対立遺伝子は1つ以上のどんなヌクレオチドの欠失、挿入または変質を含んでもよい。幾つかの実施形態では、突然変異対立遺伝子は体細胞突然変異である。他の実施形態では、標的配列はメチル化されたDNAであり、その一方で、参照配列はメチル化されていないDNAである。
【0051】
方法は、参照配列の融解温度「T
m」以上の第1の変性温度(
図1A、工程1)に増幅反応混合物をさらす工程を含んでいる。核酸のT
mは実験を通じて測定され、計算によって評価されてもよい。当業者は、本明細書に記載の核酸のT
mを測定するための多数の周知な方法をよく知っている。PCR反応の変性温度を通常選択されるように、第1の変性温度は一般に選択され、標的と参照の配列を十分に変性するのを可能にするほどに十分高いものでなければならない(例えば94°C)。1つの実施形態では、第1の変性温度は参照配列のT
m以上の約1°C乃至30°Cで、より好ましくは、参照配列のT
mは、参照配列のT
m以上の約5°C乃至20°Cである。
【0052】
次に、増幅反応混合物の温度は、標的配列と参照配列がハイブリダイズするのを可能にするほど低い(
図1A、工程2)。このアニーリング工程は、標的―標的、参照―参照、および、標的―参照の配列の二本鎖の形成をもたらすが、標的―参照の二本鎖を形成するために最適化されなければならない。
この方法で使用されるPCRプライマーは、該プライマーがこの中間温度で標的と参照の配列に結合するのを妨げる融解温度を有するように設計される。上に言及されるように、標的―参照ハイブリダイゼーションと冷却に係る比較的長い時間の要件は、少なくともいくつかの適用でfull COLD−PCRの有効性を制限することがわかっている(
図1A、工程2)
【0053】
その後、標的参照ハイブリダイゼーションのニ本鎖は、反応混合物の温度をT
cに増加させることによって優先的に変性される(
図1A、工程3)。
図1のT
cまたは臨界温度は、参照配列のT
m未満であるが、標的−参照のニ本鎖のT
m以上になるように選択される。先に言及されたように、標的配列と参照配列がクロスハイブリダイズすると、二本鎖DNA配列に沿ったどの場所でも、1以上の単一ヌクレオチドのミスマッチのわずかな配列の差が、その配列の融解温度(T
m)の小さいが予測可能な変化を生じさせる(非特許文献1;非特許文献2)。ミスマッチの正確な配列の構成と位置に依存しているため、0.1−20°Cの範囲での融解温度の変化が起こり得る。T
cは、約1秒から5分間適用されるのか一般的であり(
図1A、工程3)、好ましくは5秒から30秒適用される。必要に応じて、多くのサイクルについて、工程3と2の間で振動させることができる。
【0054】
標的−参照ハイブリダイゼーションのニ本鎖を優先的に変性させた後、反応混合物の温度は、1つ以上のプライマーが標的配列とアニールすることを可能にするように、下げられる(
図1A、工程4)。アニールされたプライマーは、核酸ポリメラーゼによって伸長され(
図1A、工程5)、それにより、サンプルに含有される核酸の母集団中の標的配列を濃縮する。
【0055】
この方法の工程は、標的と参照の配列の十分な増幅を得るために、多数のサイクルで繰り返されるのが一般的である。1つの実施形態では、方法の工程は、5乃至40のサイクルが繰り返され、より好ましくは、10−30のサイクルが繰り返される。サイクルの最適な数は、当業者によって決定されることができる。好ましくは、本方法は、PCR装置で、より好ましくはSMARTCYCLERリアルタイムPCR装置(カリフォルニア州サニーベールのCepheid)やMx3005PリアルタイムPCR装置(カリフォルニア州ラホーヤのStratagene)のようなリアルタイム検出PCR装置で行われる。この実施形態では、反応混合物は、反応の増幅産物を定量化するか、および/または、モニタリングするために、核酸検出剤(例えば、SYBR Green色素またはLC−Green色素のような核酸検色素、あるいは、蛍光染料に適切につながれたプローブ)を含んでもよい。ひとたび標的配列の濃縮が完全であれば、サンプルはさらに処理されてもよく、例えば、配列決定反応にさらされてもよい。濃縮した対立遺伝子は、以下のものを含む様々な手順によってさらに処理されてもよい:MALDI―TOF、HR−融解、ジデオキシ配列決定方法、単一の分子配列決定、第二世代ハイスループット配列決定(second generation high throughput sequencing),ピローシケンス,RFLP,デジタルPCR、および、定量的PCR(
図1Bを参照)。診断アッセイと同様にこれらの処理技術のさらに具体的な記載は、「Enrichment of a target Sequence」と題された上記の特許文献2に含まれており、該文献は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0056】
(反応混合物中の過剰な参照ブロック配列によるfull
COLD−PCRサイクル)
図2は、本発明の修飾されたfull COLD−PCR方法に従って標的配列の濃縮を説明する。初めに(
図2、工程1)、核酸サンプルは、二本鎖の参照配列(10)(例えば、野生型の配列)を含有しており、二本鎖の標的配列(12)(例えば変異体配列)を含有している。増幅反応混合物は、サンプル、他のPCR成分、および、本発明に従って、25nMのような過剰な濃度レベルの参照ブロック配列(14)を含有している。
図2では、描かれた参照ブロック配列(14)は、そのプライマー部位間の参照配列(10)の鎖(10A)の一つと相補的な一本鎖核酸配列である。
【0057】
図2の工程1の反応混合物は、30秒間、例えば95℃の第1の変性温度にさらされ、その結果、参照配列(10A)、(10B)と、標的配列(12A)、(12B)の変性鎖がもたらされる。その後、反応混合物はハイブリダイゼーションを促進するために冷やされる(例えば70℃で、30秒間)が、これは、
先行技術での通常の8分間の冷却からの劇的な減少である。冷却は過剰な量の山参照ブロック配列(14)の存在下で起こるため、参照ブロック配列(14)は、参照配列の相補鎖(10A)と標的配列の相補鎖(12A)と優先的にハイブリダイズする。
図2の工程2は、70℃までのハイブリダイゼーション冷却後の反応混合物の状態を説明する。参照ブロック配列(14)および相補的な参照鎖(10A)のヘテロ二本鎖(16)と、参照ブロック配列(14)および相補的な標的鎖(12A)のヘテロ二本鎖(18)に加えて、反応混合物は、参照と標的の配列の変性したマイナス鎖(10B)および(12B)をそれぞれ含有している。
【0058】
図2の工程3で、反応混合物は、臨界温度「T
c」(例えば、84.5°C)にさらされる。この温度は、標的鎖(12A)と参照ブロック配列(14)のヘテロ二本鎖(18)の優先的な変性を可能にするために選ばれる。臨界温度(T
c)は、反応混合物が「T
c」でインキュベートされる際に、参照ブロック鎖(14)と相補的な参照鎖(10A)のニ本鎖(16)がほとんど変性されないままであるように、選択される。参照ブロック配列(14)と標的鎖(10B)のニ本鎖(18)の融解温度は、常に、参照ブロック配列(14)と相補的な参照鎖(10A)のニ本鎖(16)の融解温度未満となる。なぜなら、参照ブロック配列(14)は参照鎖(10A)の少なくとも一部と完全に相補的であるためであり、標的鎖(12A)を含む少なくとも1つのミスマッチがある。
【0059】
図2の工程4を参照すると、優先的な変性の後、反応混合物の温度が60℃に下げられることで、プライマー対(20A)(20B)は、反応混合物中の遊離標的鎖(12A)(12B)と遊離参照鎖(10B)とアニールすることが可能となる。参照番号(20A)はフォワードプライマーを、参照番号(20B)はリバースプライマーを指す。先に記載されたように、標的配列(12)は、参照配列(10)に使用されるものと同じ対のプライマー(20A)(20B)を介して増幅可能である。
図2の工程5は、第1の変性工程と比較した標的配列の2つの遊離鎖(12A)(12B)と、たった1つの遊離参照鎖(10B)を説明している。もう一方の参照鎖(10A)は、参照ブロック配列(14)によってハイブリダイズされ、したがって、増幅には利用できない。その後、反応混合物の温度が例えば72℃に上げられることによって、アニールされたプライマー(20A)(20B)を伸長し、そうすることで参照配列(10)に対する反応混合物中の標的配列(12)の濃度を濃縮する。
この方法は5乃至30サイクル繰り返される傾向にある。
【0060】
図2で示される方法は、個々のプロトコルに関して最適化可能であり、最適化されなければならない。様々なPCRおよびリアルタイムPCR機器を操作するために、必要に応じて、このようなプロトコルをソフトウェアで具体化することができる。
【0061】
(好ましい参照ブロック配列についての設計面での配慮)
上記のように、参照ブロック配列は多くの形態をとることができるが、好ましい形態は一本鎖の非伸長性のDNAである。より具体的には、好ましい参照ブロック配列は以下の特徴を有する:(a)長さが200bpまでの一本鎖DNAを含む;(b)プライマーが参照ブロック配列にアニールされる際に参照配列にあまり結合しないように、標的配列よりもいくつかの塩基分(例えば、配列の各側で8−12の塩基分)小さな長さを有し、および、参照ブロック配列そのものにもあまり結合しない;および、(c)DNAポリメラーゼ伸長にブロックされる3’−末端を含有している。
【0062】
そのような参照ブロック配列は、いくつかの方法の1つで合成することができる。まず、参照ブロック配列は、配列の3’−末端の修飾を可能にする標準的なオリゴヌクレオチド合成方法を用いる直接合成によって作ることができる。3’−末端は、リン酸基、アミノ基、ジデオキシヌクレオチド、または、3’乃至5’ポリメラーゼ伸長をブロックする他の部分を含有してもよい。あるいは、参照ブロック配列は、最終生成物として一本鎖DNAを生成するPCR反応の間に、ポリメラーゼ合成によって作ることができる。この場合、生成された一本鎖DNAは、参照ブロック配列に必要な完全な配列に相当する。ポリメラーゼ合成によって一本鎖DNAを合成する方法は、複数あり、当業者に周知である。例えば、非対称のPCRまたはLATE PCRは適切である。あるいは、一本鎖DNA参照ブロック配列は、固体の支持体上でニ本鎖PCR生成物を結合することによって合成可能である。これは、ビオチン化されるプライマー対のひとつを用いて、標準的なPCR反応を行なうことにより遂行される。PCRの後、PCR生成物は、ストレプトアビジンでコーティングされた固体支持体(例えば、電磁ビーズ)でインキュベートされ、ビーズに結合することが可能となる。その後、温度を2−3分間95°Cに上げることで、DNAを変性して、固定化されたPCR生成物からビオチン化されていないDNA鎖を溶液に放出する。相補的DNA鎖を含む磁気ビーズは、その後取り除かれ、溶液中に残っている一本鎖生成物は、参照ブロック配列として役立つ。
【0063】
一本鎖参照ブロック配列が使用される前に、3’−末端は好ましくはポリメラーゼ伸長にブロックされる。これは当業者に周知のいくつかの方法で遂行することができる。例えば、末端デオキシヌクレオチド転移酵素(TdT)による反応は、一本鎖参照ブロック配列の末端に単一のジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を加えるために、溶液中のddNTPの存在下で用いることができる。ddNTPsは、ポリメラーゼ伸長をブロックする役目をする。あるいは、参照ブロック配列の3’−末端に相補的なオリゴヌクレオチド鋳型は、一時的なニ本鎖構造を提供するために使用することができる。その後、ポリメラーゼはハイブリダイズされたオリゴヌクレオチドの反対側の参照ブロック配列の3’−末端に、単一のddNTPを挿入するために使用することができる。
【0064】
ニ本鎖形態の参照ブロック配列を合成する別の方法では、従来のPCRが、まれな酵素制限部位を含有するプライマーを用いて行われることで、対象の配列の野生版を増幅する。PCR増幅の後、制限酵素は、PCR生成物の両末端を温浸し、オーバーハングを形成するために適用される。その後、これらのオーバーハングは、ジデオキシヌクレオチドの存在下でポリメラーゼ伸長にさらされ、それによって、さらなる伸長から両側の3’−末端をブロックする。その後、二本鎖の3’−末端ブロックPCR生成物は、ニ本鎖参照ブロック配列として役立つことができる。
【0065】
(オリゴヌクレオチド合成により生成された参照ブロック配列の特異的な例)
2つの参照ブロック配列は合成された:p53エキソン8の部分に対応する、60bp(RBS60)および90bp(RBS90)参照ブロック配列。表1は、合成されたRBS60およびRBS90の参照ブロック配列について列挙される配列を含む。RBS60およびRBS90配列の両方は、Integrated DNA Technologies, Incによる3’−ブロックリン酸基で合成された。同じエキソン8フラグメント中の変異を含む株化細胞は、方法を試験するために使用される(表1の配列表を参照)。
【0066】
図3は、修飾されたfull COLD−PCR濃縮に関する、RBS60参照ブロック配列の使用を説明する概略図である。87 bp増幅産物は、下線を引いたプライマーを用いて予備的に増幅される。相補的な参照ブロック配列(RBS60)は、
図3の参照鎖のために設計される。
図3から明白なように、RBS60はプライマーが結合するのを防ぎ、伸長を防ぐために3’リン酸基を含有している。
【0067】
RBS60のためのプロトコル:p53エキソン8からの167bp配列は、従来のPCRと、プライマーEx8−167F、および、Ex8−167R(表1)を用いて最初に増幅された。使用されたゲノムDNAは、野生型のDNA、または、3%変異体DNA混合物を野生型のDNAに入れたもののいずれかであった。特定の変異を含有する使用された突然変異細胞株が、表1に列挙される。
【0068】
PCR生成物はその後500倍に希釈された。その後、25nMの参照ブロック配列RBS60と、167bpフラグメント内で入れ子にされた(nested)領域を増幅する200nMのプライマー87fおよび87rとの存在下で、修飾されたfull−COLD−PCR反応は実行された。Phusion(商標)ポリメラーゼ(New England Biolabs)は増幅に用いられた。full−COLD−PCRプログラムは次のとおりだった:5サイクルの従来のPCR(95°Cで30秒;60°Cで30秒;72°Cで1分);その後の25サイクルのfull COLD−PCR(95°Cで30秒;70°Cで30秒;その後T
c=84.5°Cで3秒、その後60°Cで30秒;72°Cで1分)X25。あるいは、(RBS60の不在下での)full COLD−PCRは、RBS60の存在下でfull COLD−PCRについてまったく同じプログラムを適用することによって、しかしながら、反応混合物からRBS60を取り除くことによって、行なわれた。RBS60の存在下でのfull COLD−PCR(および、full COLD−PCR(RBS60はない)と、fastCOLD−PCRと規則的なPCR)の後、生成物は長めのプライマー30T−p53−87F用いて配列決定された。
【0069】
RBSS90のためのプロトコル:RBS60について記載されたように、同じ手順がRBS90にも適用された。しかしながら、入れ子にされたfull COLD−PCRのために設定されたプライマーは、p53−ex8−115Fおよびp53−ex8−115Rであり、RBS90に適用されたT
cは、T
c=84.4°Cであった。
【0071】
結果:代表的な結果がRBS60について
図4乃至7で、RBS90について
図8で描かれる。
図4乃至7において、(RBS60の存在下の)修飾したfull COLD−PCRは、full COLD−PCR(RBS60はない)、Fast COLD−PCR、および、従来のPCRと比較される。
【0072】
図4は、修飾したfull COLD−PCR(25nM RBS)による濃縮は、変異が融解温度を上昇させる環境には左右されない(3%から37%までの増加)ことを説明している。
図4のFast COLD−PCRと従来のPCRを使用する場合、変異は検出できない。
図5は、修飾したfull COLD−PCR(25nM RBS)による濃縮は、変異が融解温度に影響を与えない環境には左右されない(3%から47%までの増加)ことを同じように説明している。再び、
図5のFast COLD−PCRと従来のPCRを使用する場合、変異は検出できない。
図6は、修飾したfull COLD−PCR(25nM RBS)による濃縮は、変異が融解温度を下げる環境には左右されない(3%から45%までの増加)ことを説明している。
図6では、Fast COLD−PCRによる濃縮は、同様に(すなわち、下がった融解温度によって)左右されない。再び、
図6では、従来のPCRを使用する場合、変異は検出できない。
図7は、欠失を減らす温度の結果を説明する。修飾したfull COLD−PCR(25nM RBS)による濃縮は、Fast COLD−PCRによる濃縮と同じように堅調である(3%から45%までの増加)。再び、従来のPCRを使用する場合、変異は検出できない。
【0073】
図8は、RBS90を用いて処理されたサンプルからのHCC1008突然変異対立遺伝子の濃縮のSanger配列決定データを表示しており、90bp参照ブロック配列の存在下での修飾したfull COLD−PCRによる濃縮が堅調である(3%から38%までの増加)を示している。RBS60を用いて処理されたサンプルからのHCC1008突然変異対立遺伝子の濃縮のSanger配列決定データを表示している
図5の結果を、
図8の結果と比較することで、本発明の方法が異なる期間の参照ブロック配列で堅調であることが確認される。ここまで研究してきたすべてのケースとすべての変異において、(RBSの存在下の)修飾したfull COLD−PCRは、短い反応時間ですべてのタイプの変異(T
mを上昇、維持、低下させる変異)を濃縮し、かつ、Full−COLD−PCR)(RBSがない)よりも濃縮が優れているという点で、最良の性能を有するように思われる。