(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単接合並びに第1及び第2のコンタクトを有する太陽電池に関して、前記第1及び第2のコンタクトにわたるバイアスを、前記バイアスの最小値と最大値の間で周期的に交番させ、前記最小値と最大値は同一の極性であり;
前記バイアスの最小値と最大値の間での交番の期間は、前記太陽電池のホットキャリア冷却時間より短く、これにより、様々なエネルギレベルにわたって、前記太陽電池から光励起キャリアを抽出することを含む、太陽電池を動作させることを特徴とする方法であって、
前記バイアスの最小値は、前記太陽電池のビルトインポテンシャルが、前記太陽電池内で光励起される電子及び正孔(キャリア)を、前記太陽電池の前記第1及び第2のコンタクトに向けて、その最大値に近づく又は到達する輸送速度で加速するために十分なほど高くなるようなバイアス値であり;並びに 前記バイアスの最大値は、前記太陽電池内で生成される前記光励起キャリア(ホットキャリア)の電気化学ポテンシャルの最大値と実質的に等しい方法。
前記太陽電池はまず、固定バイアスで動作して、回路に電力を供給して、これによって、前記第1及び第2のコンタクトにわたる前記バイアスを、前記バイアスの最小値と最大値の間で周期的に交番させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
前記太陽電池のバイアス値が前記バイアスの最小値に近づく又は到達するサブ期間は、前記太陽電池が達成する平均光電圧を、その可能な最高値又はその付近に維持するために十分なほど短く選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
前記太陽電池のバイアス値が前記バイアスの最小値に近づく又は到達する前記サブ期間は、前記太陽電池内の前記光励起キャリアの実質的に全てを、前記ホットキャリア冷却時間内に、前記太陽電池の前記第1及び第2のコンタクトへ輸送するような平均キャリア輸送速度を持続するために十分なほど長く選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
前記バイアスの最小値と最大値の間での周期的な交番の前記期間、及び前記サブ期間と前記交番期間との比は、前記太陽電池の禁制帯幅、キャリア移動性及び結晶格子特性に応じて選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
前記バイアスの前記交番は、前記交番期間より短い少なくとも1つの時間間隔を含み、その間に、前記太陽電池のバイアスは、前記太陽電池内の前記光励起キャリアの実質的に全てを、前記ホットキャリア冷却時間内に、前記第1及び第2のコンタクトへ輸送するために十分な平均キャリア輸送速度を持続するような、前記バイアスの最小値および最大値の極性の反対の極性、持続時間及び反復期間のバイアス値に到達することを特徴とする請求項1に記載の方法。
前記太陽電池のバイアス値が前記バイアスの最小値に近づく又は到達する前記サブ期間は、前記太陽電池内の前記光励起キャリアの実質的に全てを、前記ホットキャリア冷却時間内に、前記第1及び第2のコンタクトへ輸送するような平均キャリア輸送速度を持続するために十分なほど長く選択され、
前記太陽電池のバイアス値が前記バイアスの最小値に近づく又は到達する前記サブ期間は、前記太陽電池が達成する前記平均光電圧を、その可能な最高値又はその付近に維持するために十分なほど短く選択され、
前記バイアスの最小値と最大値の間での周期的な交番の前記期間、及び前記サブ期間と前記交番期間との比は、前記太陽電池の前記禁制帯幅、前記キャリア移動性及び前記結晶格子特性に応じて選択され、
これにより、前記太陽電池のコンタクト間での前記抽出エネルギの分離が、前記太陽電池内の前記光励起キャリアの前記電気化学ポテンシャルのプロファイルに実質的に適合する様々な抽出エネルギにわたって一時的に広がることができ、従って、単接合太陽電池が、多接合太陽電池のエネルギ抽出効率の便益を有することができるようになることを特徴とする請求項8に記載の方法。
前記太陽電池のバイアス値が前記バイアスの最小値に近づく又は到達する前記サブ期間は、前記太陽電池内の前記光励起キャリアの実質的に全てを、前記ホットキャリア冷却時間内に、前記第1及び第2のコンタクトへ輸送するような平均キャリア輸送速度を持続するために十分なほど長く選択され、
前記太陽電池のバイアス値が前記バイアスの最小値に近づく又は到達する前記サブ期間は、前記太陽電池が達成する前記平均光電圧を、その可能な最高値又はその付近に維持するために十分なほど短く選択され、
前記バイアスの最小値と最大値の間での周期的な交番の前記期間、及び前記サブ期間と前記交番期間との比は、前記太陽電池の前記禁制帯幅、前記キャリア移動性及び前記結晶格子特性に応じて選択され、
これにより、前記太陽電池のコンタクト間での前記抽出エネルギの分離が、前記ホットキャリア冷却速度と同等、またはこれより速い速度で、広範な抽出エネルギにわたって一時的に広がることができ、
これにより、前記太陽電池内の前記光励起キャリア間の前記エネルギ分離と実質的に等しい、前記コンタクト間の瞬間的なエネルギ分離によって、前記太陽電池のコンタクトに到達する前記光励起キャリアを、各前記コンタクトにおける、時間的に不連続の狭い抽出エネルギ幅を通して、前記太陽電池の負荷へと輸送することができるようになることを特徴とする請求項8に記載の方法。
前記太陽電池の材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金から選択され; 前記太陽電池の前記第1及び第2のコンタクト間での、前記バイアスの最小値と最大値の間での前記バイアス値の前記交番は、前記ホットキャリア冷却時間と同等、又はこれより短い交番期間を有し、これにより、前記ホットキャリアを、前記太陽電池材料又は前記太陽電池のコンタクト内で冷却される前に前記太陽電池から抽出できるような、前記時間的に不連続の狭い抽出エネルギ幅を可能とすることを特徴とする請求項10に記載の方法。
前記太陽電池の前記材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金から選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
前記バイアスの最小値と最大値の間での前記太陽電池の前記バイアス値の前記交番は、前記太陽電池材料の前記禁制帯幅エネルギから、前記太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギにまで及ぶ、前記太陽電池内で生成される前記光励起キャリアの前記エネルギプロファイルに実質的に適合する様々な抽出エネルギにわたって、前記太陽電池内の前記光励起キャリアを抽出することを特徴とする請求項12に記載の方法。
前記バイアスの最小値と最大値の間での前記太陽電池の前記バイアス値の前記交番は、前記太陽電池材料の前記禁制帯幅エネルギから、前記太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギにまで及ぶエネルギ範囲にわたって広がるエネルギを有する太陽光の光子によって光励起された、前記太陽電池内のキャリアを抽出することを特徴とする請求項14に記載の方法。
前記太陽電池の前記バイアス値の前記交番は、前記太陽電池の前記禁制帯幅エネルギの実質的に下から、前記太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギ値にまで及ぶ、前記太陽電池内で生成される前記光励起キャリアの前記エネルギプロファイルに実質的に適合する様々な抽出エネルギにわたって、前記太陽電池内の光励起キャリアの抽出を提供することを特徴とする請求項14に記載の方法。
前記太陽電池の前記バイアス値の前記交番は、前記太陽電池の前記禁制帯幅エネルギの実質的に下から、前記太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギにまでの、広範なエネルギ範囲にわたって広がるエネルギを有する太陽光の光子によって光励起された、前記太陽電池内のキャリアの抽出を引き起こすことを特徴とする請求項14に記載の方法。
前記コア太陽電池は自己バイアス式であり、これにより、初期化にあたって、前記コア太陽電池は、固定バイアスで動作し、前記バイアス回路は、まず前記固定バイアスコア太陽電池から電力供給されて初期化され、続いて、前記コア太陽電池の安定状態動作のための交番バイアス値をもたらすことを特徴とする請求項20に記載の太陽電池。
前記バイアス値の前記交番は、前記コア太陽電池の前記バイアスが前記バイアスの最小値および最大値の間の前記交番の前記極性の反対の極性のバイアス値に瞬間的に到達する少なくとも1つの短い時間間隔を中断し、
持続時間及び反復の期間は、前記コア太陽電池内の前記光励起キャリアの実質的に全てを、前記ホットキャリア冷却時間内に、前記第1及び第2のコンタクトへ輸送するのに十分な平均キャリア輸送速度を持続させることを特徴とする請求項20に記載の太陽電池
前記コア太陽電池の材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金から選択されることを特徴とする請求項27に記載の太陽電池。
前記コア太陽電池の材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金から選択され;
前記バイアスの最小値と最大値の間での前記バイアス値の前記交番は、前記コア太陽電池材料の前記禁制帯幅エネルギから、前記コア太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギ値にまで及ぶ、前記コア太陽電池内で生成される前記光励起キャリアの前記エネルギプロファイルに実質的に適合する様々な抽出エネルギにわたる、前記コア太陽電池内の前記光励起キャリアの抽出につながることを特徴とする請求項27に記載の太陽電池。
前記バイアス回路は、前記コア太陽電池の背面に設置される回路基板又は集積回路チップ上に実装され、前記コア太陽電池の前記交番バイアス値を引き起こすことを特徴とする請求項27に記載の太陽電池。
前記コア太陽電池の材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金からなる群から選択され;
前記量子閉じ込め構造は、前記コア太陽電池材料の前記禁制帯幅エネルギの実質的に下から、前記コア太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギ値にまで及ぶ、前記コア太陽電池内で生成される前記光励起キャリアの前記エネルギプロファイルに実質的に適合する様々な抽出エネルギにわたる、前記コア太陽電池内の前記光励起キャリアの抽出を可能にすることを特徴とする請求項34に記載の太陽電池。
前記コア太陽電池の材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金からなる群から選択され;
前記量子閉じ込め構造は、前記コア太陽電池材料の前記禁制帯幅エネルギの実質的に下から、前記コア太陽電池から抽出される前記ホットキャリアの前記電気化学ポテンシャルの前記最大値と実質的に等しいエネルギ値にまで及ぶエネルギ範囲に広がるエネルギを有する、前記コア太陽電池内の光励起キャリアの抽出を可能にすることを特徴とする請求項35に記載の太陽電池。
前記コア太陽電池の材料は、シリコン(Si)、ガリウムヒ素(GaAs)、テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)及びIII−V材料の合金からなる群から選択され、これによって、前記ホットキャリアを、前記コア太陽電池の材料又は前記対1及び第2のコンタクト内で冷却される前に抽出することができることを特徴とする請求項38に記載の太陽電池。
前記光閉じ込め微小キャビティは、前記第1及び第2のコンタクト間に、前記コア太陽電池からの前記ホットキャリアの抽出を可能とするのに十分なほど小さい距離を提供することを特徴とする請求項40に記載の太陽電池。
前記微小キャビティは、前記コア太陽電池内で生成される光子(内部放出光子)の閉じ込め及びその後の吸収、並びにそれに続く、前記コア太陽電池からの前記内部放出光子による光励起キャリアの抽出を可能にすることにより、前記コア太陽電池の効率を更に向上させることを特徴とする請求項40に記載の太陽電池構造。
前記スイッチング調整器の切り替えは、前記スイッチング調整器の入力に連結され、前記バイアスの最小値及び最大値を達成するように前記スイッチング調整器を制御する電圧制御によるものであることを特徴とする請求項44に記載の太陽電池。
前記太陽電池電圧が前記太陽電池電圧の最小値に近づく又は到達するサブ期間は、前記太陽電池電圧が達成する平均光電圧を、その可能な最高電圧又はその付近の前記第1及び第2の間に維持するために十分なほど短く選択されることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【背景技術】
【0003】
太陽電池の効率ロスのメカニズム:
今日の太陽電池は、ショックレー−クワイサーモデル(SQモデル、W.Shockley及びH.J.Queisser著「Detailed Balance Limit of Efficiency of p−n Junction Solar Cell」j.App.Phys.、32巻、510〜519ページ、1961年3月)によって確立される理論的な効率レベルを実質的に下回って動作する。ここに記載する太陽電池の設計は、SQモデルによって確立される限界を超えることができる。太陽電池の効率を向上させてSQモデルを超えるために、太陽電池の効率の低下が起こるメカニズムを理解することが重要である。
図1(出典「Third Generation Photovoltaics:Advanced Solar Energy Conversion」M.A.Green著、Springer、ニューヨーク、2003年、35〜43ページ)は、単接合太陽電池におけるこれらの効率低下メカニズムを示す。
図1を参照すると、太陽電池の効率ロスメカニズムは、以下に列挙する効果を含む。
【0004】
(1)デバイスの禁制帯幅(E
gで表す)未満のエネルギ(E
p)を有する光子の入射を示し、このエネルギは吸収されず、従って、光子のエネルギは、太陽電池によって電流に変換されない。
【0005】
(2)デバイスの禁制帯幅を超えるエネルギを有する光子の入射を示し、このエネルギは吸収されるが、音子の生成による、光励起電子及び正孔(キャリア)の、それぞれ伝導帯の底(CBM)及び価電子帯の頂上(VBM)への緩和(
図1に破線で示す)によって、過剰なエネルギを熱として失う。このロスメカニズムでは、まず、太陽電池の材料の禁制帯幅を超えるエネルギを有する光励起キャリアが、他のキャリアと平衡化して、ボルツマン分布で記述可能なキャリア群を形成する(
図2参照)。この時点において、キャリア分布を定義する温度は、材料の格子温度を超えており、従って、キャリアは「ホットキャリア」と呼ばれる。典型的には、上昇する温度に関連する更なるエネルギは、その低い実効質量により、主に電子が含有する。典型的な太陽電池では、ホット電子は、冷却時間τ
cの間に音子を生成することによって、その過剰なエネルギを電池の材料の格子に与えることにより、電池の材料の格子と平衡化される(
図2参照)。次に、これらの音子は他の音子と相互作用し、電池の材料の禁制帯幅E
gを超えた、吸収された電子のエネルギE
pは、熱に変化して失われ、従って、太陽電池によって電圧に変換されない。キャリアの可動性及び電池の材料の結晶格子特性に応じて、キャリア冷却時間τ
cは、数ピコ秒から数ナノ秒となる(
図2参照)。
図2に示すように、キャリア冷却時間τ
cが終わると、光励起キャリア分布は、それぞれ電池の材料の伝導帯及び価電子帯の端、即ちCBM及びVBMに近い電子及び正孔の狭いエネルギ分布と合体する。光励起キャリアの寿命のこの最終段階では、典型的には、数マイクロ秒(キャリア再結合時間τ
r)かけて、光励起キャリアがその残留エネルギを光子に与えて順次再結合する。従来の太陽電池が、光励起キャリアのエネルギを電気エネルギに変換できるように、光励起キャリアは、再結合する前に、即ちキャリア再結合時間τ
rが過ぎる前に、分割されて電池のコンタクトへと輸送される必要がある。従来の太陽電池の設計パラメータは、典型的には、光励起キャリアを、その再結合前に、即ちキャリア再結合時間τ
rが過ぎる前に、電池のコンタクトへと輸送するために必要なキャリア輸送特性を達成するために選択される。以上の議論から、光励起キャリアに付与された太陽光の光子エネルギは、2つの主段階、即ちキャリア冷却段階及びキャリア再結合段階で消散する。これら2つの手段界のうち前者、即ち冷却段階の間、光励起キャリアは、材料の禁制帯幅エネルギ分離を超えるそのエネルギを音子に付与し、その一方で、後者即ち再結合段階の間、光励起キャリアは、典型的には材料の禁制帯幅エネルギ分離に等しいその残留エネルギを、放射再結合によって光子に付与する。
【0006】
(3)禁制帯幅と等しいエネルギを有する光子、又は禁制帯幅より低いエネルギを有する存在し得る複数の光子を抽出及び生成する前に、放射再結合する、光励起キャリア(電子及び正孔)を示す。これらの光子は再吸収され得るため、放射されるこのエネルギは必ずしも失われるわけではない。しかし、放射されるこれらの光子は、閉じ込められない限り、電池の背面から入射する太陽光へと再び放出され、永久に失われ、これは、太陽電池が達成できる最大効率を最終的に制限する効果である。大抵のバルク半導体材料では、キャリア再結合の時間規模は、典型的には数マイクロ秒未満である(
図2参照)。太陽電池を効率のよいものとするために、大半の光励起キャリアを、キャリアが再結合する前に電池のコンタクトへと輸送して抽出する必要があるが、この時点で電池から抽出される電子及び正孔のエネルギ分離は電池の材料の禁制帯幅エネルギと同等でしかない。
【0007】
(4)電気的状態が禁制帯幅内にあることより、非放射再結合する光励起キャリア(電子及び正孔)を示す。これらの状態は典型的には、太陽電池の材料の格子構造の欠陥又は不純物原子によるものであり、その結果起こるキャリアの非放射再結合によって音子が生成され、従って、これらのキャリアの励起を引き起こす吸収される太陽光の光子のエネルギは、太陽電池によって電流に変換されずに熱へと変化する。このロスメカニズムは、モノリシック多接合積層型太陽電池の主たる効率ロスメカニズムの1つであり、このような太陽電池では、連続する層間の格子のミスマッチが、格子の不整合な転位を生成し得、これによって、キャリアの非放射再結合が起こり得る積層された電池の境界の更なる領域が生成され、太陽電池の性能が大幅に減衰し得る。
【0008】
(5)太陽電池のコンタクトによって効率的に抽出されない光励起キャリア(電子及び正孔)を示す。このロスメカニズムは典型的には電池のコンタクトの高い抵抗によるものであり、これはキャリアを電池から抽出するにあたって非効率の原因となる傾向があり、従って、太陽電池が達成できる最大効率を最終的に制限する。このメカニズムもまた、モノリシック多接合積層型太陽電池の重要な効率ロスメカニズムであり、多接合積層から電流を抽出するためのコンタクトが2つしか無く、積層内で最低の個別電流を生成する電池構造によって、多接合積層全体の総電流が制限されてしまう。また、このロスメカニズムは、ホットキャリアを太陽電池から抽出することを困難にする主因であり、なぜならこれらのキャリアはコンタクトで急速に冷却される傾向があり、これは、ホットキャリアが電池の接合点付近に集まることを引き起こす効果であり、これらのキャリアを冷却前に抽出することを困難にするからである。
【0009】
上述の効率ロスメカニズムに加えて、太陽電池の効率を予測するために通常用いる理論モデル、即ちSQモデルは、太陽電池が達成可能であるとされる効率を制限する、ある前提を含んでおり、従って、太陽電池設計者が太陽電池の設計を真の限界まで押し上げる多少の妨げとなる。これらの前提のうち最も関係の深いものを以下に列挙する。
1.入力は、集光されていない太陽光スペクトルである;
2.入射する太陽光の光子はそれぞれ、1対の電子−正孔しか生成しない;
3.電池は、擬フェルミ準位(QFL)の分離を1つしか達成できない;
4.電池は、電池とキャリアの温度が等しいという熱平衡状態で動作する;
5.電池は、電池は定電流条件下で動作する。
【0010】
SQモデルに基づく太陽電池効率の制限は、入射する太陽光の光子あたり抽出可能な電気エネルギの量を試験することで計算される。入射する太陽光の光子は、電子を太陽電池の材料の価電子帯から伝導帯へと励起し、電池の材料の禁制帯幅を超えるエネルギを有する光子のみが電力を生成する。これは即ち、太陽光スペクトルの光子の約半分は1.1eV未満のエネルギしか有さないため、1.1eVの禁制帯幅を有するシリコン(Si)太陽電池の理論的変換効率が50%未満となることを意味する。6000°Kの太陽光から吸収される太陽光の光子と、300°Kで動作する電池との間のエネルギの差を考えると、SQモデル平衡前提は、電池の材料の禁制帯幅エネルギより上及び下のいかなる太陽光光子エネルギも失われることを暗示している。青い光子は、1.1eVを超える太陽エネルギの約半分を有するので、これらの2つの前提を組み合わせると、単接合Si太陽電池について、およそ30%の理論効率ピーク性能という結果となる。
【0011】
SQモデルの前提が包含する効率の制限に加えて、太陽電池に使用する材料系に包含される、考慮すべきその他の複数の事項が存在し、それは例えば、材料系のキャリア生成速度及び移動特性等である。これらのタイプの考慮すべき事項は、通常の条件下では電池の効率に影響を及ぼさないが、ある条件(例えば、集光による、入射する太陽光の光子の数の増加)下ではさらなる制限をもたらす。上述の2つの効果のうち第1のもの、即ちキャリア生成速度は、光励起の結果としてキャリアが電池の材料内で生成される速度に飽和(又は最大)レベルを設定し、従って、電池から抽出できるエネルギの量を制限する。直感的には、電池表面への太陽光の光子の入射が増加すると、電池が生成できるエネルギの量は増加するはずである。しかし、これは、電子移動性が低いために、光励起の上昇とともに、電子より遥かに速い速度で正孔の数が増加するようないくつかの材料系(例えばSi等)の場合には当てはまらない。この正孔と電子の密度の不均衡によって、光励起電子は、抽出される前に、豊富に存在する正孔と再結合されてしまい、従って、電池から抽出できる電子/正孔の数に制限をもたらす。Si電池では、2sunの入射光未満でこの制限速度(平衡)に達してしまう。その結果、Si太陽電池の表面に太陽光の2倍の光が入射すると、キャリア生成速度は1sunの場合よりわずかに高くなるだけであり、入力エネルギと出力エネルギの比が低下し、即ち効率が極めて低くなる。以上から、Si太陽電池は、太陽光集光装置を用いても効率的ではない。
【0012】
その他の材料系、例えばガリウムヒ素(GaAs)又は窒化ガリウム(GaN)等における電子移動性はシリコンよりはるかに高く、これにより、光励起電子はより速く電池の接合点に到達することができ、従って、正孔/電子密度の不均衡の発生を緩和し、電子と正孔が抽出される前に再結合してしまう機会を減らし、これによって、入射する太陽光の光子の数は増加し続けることができ、結果として、平衡に達する前の光励起キャリアの数が増加する。従って、このような電子の移動性の上昇により、このような材料系から作製した太陽電池は、集光した太陽光の下で、向上した効率を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の本発明の詳細な説明における「1つの実施形態」又は「ある実施形態」の参照は、その実施形態に関して記載される特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。この詳細な説明の随所に見られる「1つの実施形態では」という表現は、その全てが必ずしも同一の実施形態を指しているわけではない。
【0023】
ここで記載されることになるホットキャリアを得るためのアプローチは、上述の従来技術のように、ホットキャリア冷却速度を遅くすることによるものではなく、その代わりに、ホットキャリア抽出を加速させることによるものである。ここで記載するホットキャリア抽出のためのアプローチは、キャリア抽出が十分速ければ、キャリアがそのエネルギを熱として失う前にキャリアを抽出することができる、という所見に由来する。ホットキャリア冷却時間τ
c内で、即ちキャリアが冷却される前に、キャリアをコンタクトへ輸送する役割を果たす電場の強度を瞬間的に上昇させることができれば、上記は達成可能である。電場の強度のこのような上昇による効果は、キャリア抽出時間がキャリア冷却時間τ
cより短くなり、それによって、キャリアがまだ「ホット」である状態、即ちキャリアが電池の禁制帯幅の縁を超えるエネルギレベルをまだ有している状態でキャリアを抽出することが可能となる程度に、ホットキャリアの輸送速度を上昇させることである。これを達成することができれば、ホットキャリアが集中する場所の近傍に複雑な超格子コンタクトを用いる、現在主流のものとして追求されているアプローチ(これを達成するのは幾何学的形状上かなり困難であることが分かっている)よりも極めて容易にデバイスレベルで実装できることは間違いない。このようなアプローチのホットキャリア抽出能力は、既に説明した複雑な超格子コンタクトのエネルギ選択性のいかなる態様によっても制限されることはなく、太陽電池デバイスの構造を煩雑化するいかなる幾何学的制約も生み出すことはない。寧ろ、このようなアプローチは、デバイス材料レベルではなく回路レベルでの追加だけで、従来のバルク材料にも、量子閉じ込めベースの太陽電池にも合わせて適用される。以下の議論では、この節の残りの部分において、バルク材料電池におけるこのアプローチの応用の更なる詳細を提供し、続く節において、ここで記載したキャリア加速アプローチを同様に適用することができる、量子閉じ込め構造を有する太陽電池におけるこのアプローチの応用の更なる詳細を提供する。
【0024】
照明無しで、太陽電池のn型側とp型側とを接触させることにより、電池のn型側からp型側への一時的な電流が生じ、従来接合点の内蔵電位V
biとして知られている、電池の接合点の2つの側のフェルミ準位の差により生じるコンタクトの電位をオフセットする。この一時的な電流は、電池の接合点で分散した電荷によって形成される電場が、電子と正孔に作用するコンタクトの拡散力をオフセットすると、停止する。照明下で、入射する太陽光光子による光励起によって、p型側の価電子帯からの光励起電子が伝導帯へと進むにつれて電池内のキャリア数密度が上昇する。この電池内での光励起キャリア数の増加により、電池のビルトイン電場ε
biは光励起キャリアを分割し、電子及び正孔がそれぞれ電池のnコンタクト及びpコンタクトへと移動するようにする。電池の2つの側にわたって負荷を接続すると、
図3Bに示すように、光励起電子は電池内を、電池のp型側からn型側への方向へ流れ、n型側コンタクトにおいて抽出されて、接続された負荷へと流れ、負荷内へ移動する際にエネルギを失い、電池のp型側コンタクトを介して電池へ戻り、ここで電池のp型側で待ち受けている正孔と再結合する。太陽電池及び接続された負荷内での、電子のこの順方向バイアス流を、
図3Bに示す。
【0025】
図3Bを参照すると、電池のコンタクトにわたる負荷抵抗の値R
Loadに依存して、電池のコンタクトで生み出される光電圧は、キャリア輸送効果を持つ電池の内部電場ε
biと反作用する、電池の接合点にわたる電場ε
pvを引き起こす。電池のコンタクトにわたる光電圧が増大すると、電池の内蔵電位V
biによって引き起こされる電池の内部電場ε
biは、電池のコンタクトで生み出される光電圧によって引き起こされる対向する電場ε
pvによって弱められる。その結果、電池のコンタクトへの光励起キャリアの輸送は順次弱められ、再結合前に電池のコンタクトへ到達できる光励起キャリアの数はより少なくなる。この効果は、ホットキャリア太陽電池にとって有害であり、なぜなら、電池の輸送メカニズムは主として内蔵電位V
biによって引き起こされる電池内部電場ε
biであり、その一方で、電池から抽出される電子のエネルギ、及び従って、電子が電池のコンタクトにわたって生成すると予測される光電圧が、従来の太陽電池の光電圧より極めて高いためである。既に説明したように、ホットキャリア抽出の後に必要とされる電池のビルトインキャリア輸送メカニズムは弱められ、これは光電流の低下につながり、従って、ホットキャリア太陽電池の高い電力抽出効率は得られなくなる。
【0026】
図4は、従来のp−n接合太陽電池の、暗所(405)及び照明下(410)での電流−電圧(I、V)特性を示す。今日慣用の単接合太陽電池から得られる出力を最大化するために、負荷抵抗値R
Loadを、典型的には反作用する電場ε
bi及びε
pv、即ち、電池の内蔵電位V
bi及び電池のコンタクトで発生する光電圧によって引き起こされる電場の間の平衡点で選択し、これは、電池から得られる最大光電圧(V
m)及び光電流(I
m)を達成する。得られる最大光電圧(V
m)及び光電流(I
m)は、典型的には、
図4の(I、V)カーブの折れ曲がる点(415)付近のバイアスで電池によって達成される。これらの最大光電圧V
m及び光電流I
m値を達成するために、2つの反作用する電場ε
bi及びε
pvの間の平衡は、キャリアが再結合する前に、最大数の光励起キャリアをコンタクトに輸送するのに十分なキャリア輸送力を残さなければならない。電池の内蔵電位V
biの典型的な値、即ち接合点の数ミクロンの空乏領域にわたる内部電場を生成する値である〜1ボルトによって、キャリア輸送速度(従来からドリフト速度としても知られる)は、電池の空乏領域にわたって、典型的には〜10
7cm/sの範囲の飽和速度に達することができる。電池のコンタクトにわたる光電圧が最小値である場合、このレベルのキャリア輸送速度によって、キャリアが再結合する前に、光励起キャリアを電池のコンタクトへと容易に輸送することができる。このことは、電池の光電圧が
図4の(I、V)カーブの折れ曲がる点(415)より下にある場合に、電池が生成する光電流がその最大値を取ることを示す
図4において明らかである。しかし、電池のコンタクトにわたる高電圧が可能な最高値である場合、これは典型的には電池の禁制帯幅の範囲内である(典型的にはシリコンで1.1eV、ガリウムヒ素で1.4eV)が、結果として得られる電池のコンタクトにわたる電場ε
pvは、電池の内部電場ε
biを、キャリアが全て電池のコンタクトに輸送されて輸送が停止する程度に弱め、コンタクトに到達して電池から抽出される前にキャリアが再結合するため、電池の光電流は最小値まで減衰する。このことは、電池の光電圧が
図4の(I、V)カーブの折れ曲がる点(415)より上にある場合に、電池が生成する光電流が急激に最小値まで減衰することを示す
図4において明らかである。この条件は、ホットキャリア太陽電池では酷く悪化する。というのは、このような電池の背景にある主たる目的は、電池材料の禁制帯幅エネルギより実質的に高いエネルギを有するホット電子を抽出することであるが、電池の光電圧が電池材料の禁制帯幅エネルギより実質的に高い値に達した場合、キャリアの輸送の役割を果たす電池の内部電場ε
biは、いずれのエネルギレベルの光励起キャリアも電池のコンタクトに到達することができないほど十分に弱められてしまうためである。
【0027】
本発明のホットキャリア太陽電池の設計の好ましい実施形態のハイレベルなブロック図を、
図5Aに示す。本発明のホットキャリア太陽電池のこの好ましい実施形態は、電池を通る光励起キャリアの平均輸送速度を、キャリアが冷却される前に、即ちキャリア冷却時間τ
cより短い時間内に光励起キャリアが電池のコンタクトに輸送されるような値に維持するために、電池が生成する光電圧を、最小値(V
min)と最大値(V
max)の間で逐次変化させることができるようにすることによって、既に記載した従来技術のホットキャリア電池設計が直面する欠点を克服する。本発明のホットキャリア太陽電池500の設計の交番光電圧の最小値V
minとして、内部ビルトイン電場ε
biが依然として最大値を有するような点、つまり光励起キャリア輸送速度が最大値に到達できるような点を選択する。本発明のホットキャリア太陽電池500の交番光電圧の最大値V
maxとしては、太陽電池500内の光励起キャリアの電気化学電位の最大値と実質的に同程度の値を選択する。(電気化学電位とは、太陽光の光子による光励起によって引き起こされる、半導体材料の擬フェルミ準位間のエネルギ分離である。)本発明のホットキャリア太陽電池500の交番光電圧のこのような最大値としては、このような高い光電圧値が有する、電池の内部ビルトイン電場ε
biの値を減衰させる反作用効果を考慮せずに、電池が達成できる最高光電圧を選択する。従来の太陽電池の(I、V)特性に関する、V
min及びV
maxの値の取り得る範囲を、
図4に符号420で示す。本発明のホットキャリア太陽電池500の光電圧の、上述の基準に基づいて選択した最小値V
minと最大値V
maxとの間での交番の結果、電池を通る光励起キャリア輸送速度がそれぞれ最大値及び最小値に到達する期間の交番が起こる。本発明のホットキャリア電池の光電圧の最小値と最大値の間での交番のデューティサイクルに応じて、結果として得られる光励起キャリアの平均輸送速度を、電池の光電圧がその交番サイクルの最大値にある場合でさえ、電池のコンタクトへのキャリアの連続的な輸送を提供する、従って光電流を提供するような値に維持することができる。
【0028】
図5Bは、本発明のホットキャリア電池500の光電圧の交番を表す波形を示す。
図5Bに示すように、本発明のホットキャリア太陽電池500の光電圧の、最小値V
minと最大値V
maxの間での交番は、持続時間T
bを有する。本発明のホットキャリア電池500の光電圧の交番を表す
図5Bの波形の、第1の主要パラメータは、その間に光電圧が最小値V
minに到達することができる、サイクルT
bのパーセントであり、これは
図5Bで(αT
b)で表され、また、光励起キャリアの必要な平均輸送速度を持続させるのに十分なほど長く、その一方で、ホットキャリア電池500によって達成される平均光電圧を可能な最高値に維持するのに十分なほど短い長さに維持する必要がある。本発明のホットキャリア太陽電池500のコンタクトへの光励起キャリアの輸送の主要な部分は、電池の内部ビルトイン電場ε
biが、交番サイクルT
bの間にその最大値まで上昇することができる場合、光電圧交番サイクルT
bの期間(αT
b)の間に起こる。既に述べたように、電池の光電圧がその最小値V
minである場合、光励起キャリアの輸送速度は期間(αT
b)の間に〜10
7cm/sに到達することができ、これは1nsの間に光励起電子を100μm輸送するのに十分である。期間(αT
b)の間に増大し減衰するキャリア輸送速度の過渡効果を考慮すると、この期間の間の光励起キャリアの平均輸送速度は、〜0.1×10
7cm/sにしか到達することができないが、これはなお、1nsの間に光励起電子を100μm輸送するのに十分であると仮定するのは妥当である。これは即ち、電池の光電圧がその最小値V
minに到達する、光電圧交番期間のサブインターバル(αT
b)=1nsである場合、電池の内部電場ε
biは、この時間間隔内に10μm近くの光励起キャリアを輸送することができることを意味する。これは、期間(αT
b)を、光励起キャリアが電池のコンタクトまで輸送される必要がある平均距離に応じて選択することができることを暗示する。例えば、ガリウムヒ素(GaAs)単接合太陽電池では、電池のエミッタとベース層との間の典型的な厚さは5μm未満であることができ、これは、GaAs太陽電池の光励起キャリアは、電池のコンタクトで抽出されるために2.5μmの平均距離を移動しなければならないことを暗示する。これは、GaAs太陽電池に関して、(αT
b)=0.25nsは、電池500内の光励起キャリアのほぼ全てを、ホットキャリア冷却時間τ
c内にコンタクトへ輸送するのに十分な時間を得るために十分であることを意味する。テルル化カドミウム(CdTe)、銅インジウムジセレニド(CIS)、銅インジウムガリウムジセレニド(CIGS)等の薄膜タイプの太陽電池にも同等の値(αT
b)が適用されるが、これは、これらのタイプの太陽電池でも、電池のエミッタとベース層との間の典型的な厚さは5μm未満であることができるためである。シリコン(Si)及びゲルマニウム(Ge)太陽電池等の間接禁制帯幅太陽電池に関して、これらの電池の光吸収の長さが大きいため、電池のエミッタとベース層の典型的な厚さはGaAs、CdTe及びCIGS太陽電池より極めて大きくなり得る。しかし、これらの電池の間接禁制帯幅、キャリア移動性及び結晶格子特性により、これらの電池のホットキャリア冷却時間τ
cを、GaAs、CdTe及びCIGS太陽電池より少なくとも一桁だけ長くすることができる。Si単接合太陽電池では、電池エミッタとベース層の典型的な厚さは300μmであり得るが、これは、Si太陽電池の光励起キャリアが、電池のコンタクトで抽出されるために平均距離150μmを移動しなければならなくなることを意味している。これは、Si太陽電池に関して、(αT
b)=15nsは、電池500内の光励起キャリアのほぼ全てを、ホットキャリア冷却時間τ
c内にコンタクトへ輸送するのに十分な時間を得るために十分であることを意味する。
【0029】
キャリア輸送時間の値はSi太陽電池においてより高いが、Siのホットキャリア冷却時間τ
cもまた同様に長くなることが予想されることに留意されたい。それでもなお、本開示の後続の議論は、Si電池のコンタクト間の厚さを実質的に削減することができる光閉じ込め手段をSi太陽電池構造内に組み込めば、キャリア輸送時間は実質的に短くすることができることを示す。光閉じ込め手段を組み込んだこのような薄いSi太陽電池に関して、厚さ20μmのシリコンフィルムは、光閉じ込め手段を有さない、厚さ400μmのSi電池より極めて高い吸収率を有する(「Physics of Solar Cells」Wurfel著、173−177ページ)。更に、後の議論でも説明する埋め込みコンタクトも組み込んだ、光閉じ込め手段を組み込んだ薄いSi太陽電池では、電池のコンタクト間の距離を5μm程度にすることができ、これにより、このタイプの電池のキャリア輸送時間を、GaAs、CdTe及びCIGD太陽電池に匹敵するものとすることができる。これは、光閉じ込め手段を組み込んだSi太陽電池に関して、(αT
b)=0.25nsとすることも可能であることを意味する。
【0030】
本発明のホットキャリア電池500の光電圧の交番を表す
図5Bの波形の、第2の主要パラメータは、その間に光電圧が最小値V
minから最大値V
maxまでの全サイクルを通過することができるサイクルT
bである。最小の光電圧交番サイクル期間(αT
b)の間に電池内で光励起キャリアを輸送する能力により、あとは、キャリア冷却時間τ
cと実質的に等しい又はこれより短くなるように、サイクルT
bを選択すればよい。既に説明したように、電池材料の結晶格子特性に応じて、数ナノ秒の時間規模でホットキャリア冷却が起こるため、本発明のホットキャリア電池の光電圧の交番、即ちサイクルT
bもまた同様に、数ナノ秒程度となるよう選択することができる。GaAs、CdTe、CIGS及び薄膜Siタイプの太陽電池に関して、期間(αT
b)=0.25nsを選択することにより、パラメータα=0.1という値は、T
b=2.5nsという結果を生み、これは、その間に実質的に全てのホットキャリアが電池500のコンタクトへ輸送されるサブサイクル(αT
b)の発生前に、サイクル時間T
b内で電池が生成するホットキャリアが冷却される機会を確実に有するようにするために十分な短さである。
【0031】
電池500のコンタクトにわたる光電圧は、サイクルT
bの間に、電池の禁制帯幅エネルギ未満から、電池500から抽出されるホットキャリアのエネルギに対応する所望の最大値まで広がる値の範囲にわたって変化するため、光励起キャリア輸送は、全サイクルT
bを通して、輸送速度を変化させつつ起こり続け、サイクルT
b内の様々な瞬間において電池500のコンタクトに到達するキャリアを、そのエネルギレベルに比例するエネルギレベルで抽出することに留意されたい。従来のSi太陽電池(つまり、光閉じ込め手段又は埋め込みコンタクトを組み込んでいないものを指す)に関して、より大きな値のパラメータαを選択することができ、例えばα=0.5とすると、その結果T
b=30nsという値が生まれ、これは、冷却前に、有意な数の光励起ホットキャリアを電池から確実に抽出するために十分な値であり得、これは、既に説明したように、Siベースの電池のホットキャリア冷却時間τ
cが、GaAs、CdTe及びCIGSベースの太陽電池のホットキャリア冷却時間よりも有意に(1桁近く)長いことが予測されるからである。
【0032】
本発明のホットキャリア電池500の光電圧が、サイクルT
bの間に最小値V
minから最大値V
maxまで変化することによって、電池内で生成される光励起キャリアのエネルギプロファイルに実質的に適合するようにすることができる抽出エネルギ範囲にわたる、光励起キャリアの抽出が可能であり、上記範囲は、電池の禁制帯幅エネルギから、サイクルT
bの間に電池500の光電圧が到達できるように選択した最大値によって定義される最大エネルギレベルにまで及ぶ。現在流通している全ての従来の単接合光電太陽電池は、単一のエネルギレベルでしか電池から光励起キャリアを抽出できないので、上記のことは、本発明のホットキャリア電池500に固有の特筆すべき特徴である。コストのかかるp−n接合の積層を用いる多接合太陽電池でなければ、広範なエネルギレベルにわたって光励起キャリアを抽出することができず、それでも1つの接合層あたり単一のエネルギレベルで抽出するだけである。これと対照的に、本発明のホットキャリア電池500は、広範なエネルギレベルにわたって、かつ単接合のみを用いて、光励起キャリアを抽出することができる。本発明のホットキャリア太陽電池500は、その光電圧の交番により、抽出エネルギの幅広い範囲にわたって、キャリア冷却速度τ
cと同等の、又はこれよりも速い速度で時間的に広がる太陽電池のように考えることができ、これにより、冷却前だけでなく、そのエネルギレベルと同程度のエネルギレベルにおいても、電池からキャリアを抽出することができる。既に説明したように、本発明のホットキャリア電池500のキャリア抽出エネルギは、ホットキャリア冷却時間τ
c内で広範なエネルギレベルを通って循環するため、電池500のコンタクト間の瞬間的な抽出エネルギの差は、キャリア対冷却時間間隔τ
c内で、ホット電子/正孔対のエネルギレベル分離に適合するので、任意の値の電気化学ポテンシャル(エネルギ分離)で電池のコンタクトに到達するホット電子/正孔対(キャリア対)を、コンタクトで冷却される前に電池500の負荷に運ぶこともできることにも、言及しておく価値がある。これは、サイクルT
bのいずれの所定の瞬間において、電池500の瞬間的な光電圧、従ってコンタクト間の電位分離が、時間間隔T
b≦τ
c内で光励起されるホット電子/正孔対のいくつかのエネルギレベル分離に適合し、これにより、このようなキャリア対を、エネルギレベル分離の減衰の前に、適合したエネルギ分離を有するコンタクトを通して、電池から負荷へと運ぶことができることを意味する。この特徴により、本発明のホットキャリア電池500は、電池からホットキャリアを抽出するための複雑なエネルギ選択性コンタクトを必要としない。これは、電池の光電圧の交番サイクルT
b(これはホットキャリア冷却時間間隔τ
cと同等であるか、又はこれより短い)内の時間のいずれの不連続な瞬間においても、本発明のホットキャリア電池500の交番光電圧が、ホットキャリア冷却時間間隔τ
cより実質的に短い時間間隔だけ続く、電池のコンタクトにおける瞬間的及び時間的に不連続の狭い抽出エネルギ帯を利用可能とし、また、キャリアの冷却時間τ
cと等しい、又はこれより短い時間T
bで周期的に利用可能でもあるようにすることによって可能となる。換言すると、本発明のホットキャリア電池500のコンタクトの抽出エネルギレベルは、電池の光電圧がホットキャリア冷却速度より速い速度で交番するに従って、時間的にエネルギ選択されるようになっている。更に、時間的にエネルギ選択性である以上に、ホットキャリア電池500のコンタクト間の抽出エネルギレベル分離は、電池の禁制帯幅エネルギから、電池の禁制帯幅エネルギより実質的に高い所望のエネルギレベルまでの範囲に及ぶ、幅広いエネルギ帯をカバーするよう、時間的に変化するようにもなっている。本発明のホットキャリア太陽電池500の、これらの固有の特徴は、実際、多接合太陽電池における電池のエネルギ抽出効率の便益を、実質的により低いコストで、単接合太陽電池から得ることを可能とする。
【0033】
図5Aに示すように、コア太陽電池要素530とそれぞれ直列又は並列のバイアス回路510又は520を組み込むことにより、本発明のホットキャリア電池500の光電圧は、
図5Bに示す波形に従って変化するようになっている。バイアス回路510又は520は、一体回路デバイスとして、又は従来のGaAs、CdTe、CIGS又はSiベースの太陽電池と一体化できる別個の構成要素回路基板として、実装することができる。
図5Bに示すように、電池の光電圧を時間的に変化させるために、バイアス回路510又は520は、コア太陽電池530のコンタクトにわたる実効抵抗も、コア太陽電池530のコンタクトにわたる光電圧が
図5Bに示す波形を描くように、時間的に変化するようにする必要がある。残りの議論では、直列バイアス回路510の詳細な説明に焦点を当てているが、並列バイアス回路520の設計は、一連の設計パラメータが異なるとはいえ、実質的に同一であるため、普遍性を欠くことはない。当業者は、ここで提供される直列バイアス回路510に関する詳細な説明を、並列バイアス回路520の設計パラメータを選択するために容易に利用することができる。
【0034】
図5Cは、
図5Cの破線のブロック内に組み込んだ並列バイアス回路510を利用した、本発明のホットキャリア太陽電池500の例示的な詳細なブロック図を示す。
図5Cは、GaAs、CdTe、CIGS又はSiベースのp−n接合太陽電池であってよいコア太陽電池530に直列に接続されたバイアス回路510を示す。
図5Cに示したバイアス回路510は基本的には、発振器550、ダイオード560、並びに
図5Cに描かれた多数の抵抗及びコンデンサからなる、時間的に変化する抵抗R
vである。発振器550の機能は、周波数f
sを有する可変電圧信号v
inを生成することであり、f
sの値は、本発明のホットキャリア太陽電池500の光電圧V
outの所望の交番サイクルT
bの逆数に等しく、即ちf
s=(T
b)
-1である。既に議論した設計例に関して、T
b=2.5という値を選択してGaAs、CdTe、CIGS又は薄膜Siベースの本発明のホットキャリア太陽電池に実装する場合、発振器550が生成する必要のある周波数f
sは、f
s=400MHzである。既に議論した設計例に関して、T
b=1.5という値を選択して、従来のSiベースの電池と合わせた本発明のホットキャリア電池500に実装する場合、発振器550が生成する必要のある周波数f
sは、f
s=66.7MHzである。
【0035】
コア太陽電池530のコンタクトにわたる光電圧V
outの所望の最大値及び最小値をそれぞれ生成するために必要な、可変抵抗R
vの最大値及び最小値を実現するように、ダイオード560の(I、V)特性とともに抵抗及びコンデンサ対の値(R
1、C
1)を選択する。サイクル時間T
bに関するサブインターバルのデューティサイクル(αT
b)を設定する比率αを実現するように、ダイオード560の(I、V)特性とともに抵抗及びコンデンサ対の値(R
2、C
2)を選択する。発振器550が生成する電圧v
inの1回のサイクルの間、電圧v
inの時間変化によって、ダイオード560にわたる実効抵抗は周期的に変化し、これにより、バイアス回路510全体の実効抵抗R
vが、最小値R
vminからR
vmaxまで周期的に変化する。負荷抵抗R
Lも考慮すると、バイアス回路510の実効抵抗のこの周期的な変化によって、本発明のホットキャリア太陽電池500の
図5Cの例示的実装の光電圧V
outも、
図5Bに示す波形を描いて周期的に変化する。当業者にとって、時間的に変化する抵抗を実装することの所望の効果は、上述の方法以外の多くの代替方法で実現可能であり、その最終的な効果は同一であることは既知である。
【0036】
図5Cに示すタイプの直列バイアス回路510は、交番バイアス太陽電池500の実装に必要な周波数範囲内で変調信号をうまく生成するように設計することができる無線応用形態において典型的に使用されるものと同様である。当業者にとって、
図5Bに示すバイアス波形を生成して同等の最終結果を得るために使用することができる、
図5Cに示したもの以外の多くの代替回路設計が存在することは既知である。
【0037】
図6は、本発明のホットキャリア太陽電池500で得られると予測される光電圧及び光電流(I、V)特性の図である。上述の議論で説明したように動的にバイアスを印加する場合、ホットキャリア太陽電池500で達成される光電圧及び光電流は、実際にはコア太陽電池530から得られる光電圧及び光電流であることに留意されたい。従って、
図5Cを参照すると、ホットキャリア太陽電池500で達成される光電圧及び光電流はそれぞれ、負荷抵抗R
Lにわたる電圧及びこれを通る電流である。既に説明したように、本発明のホットキャリア太陽電池500の光電圧V
outを、
図5Bに示す波形を描くように時間的に変化させる場合、E
outで表される、コア太陽電池530のコンタクトにおける実効抽出エネルギも、
図5Bに示す波形を描くように時間的に変化する。
図6は、一群の曲線611、612、613、614、615及び616を示し、これらはそれぞれ、コンタクトにおける抽出エネルギが、1.5eVから2.5eVの範囲のE
outの値である場合に、コア太陽電池530から得られると予測される(I、V)特性を表すものである。本発明のホットキャリア太陽電池500から得られると予測される(I、V)特性を、一群の曲線611、612、613、614、615及び616の包絡線620として
図6に示し、これらは、コア太陽電池530にわたる電圧が、光電圧のV
minからV
maxまでの範囲内の一連の値を通過する場合に、ホットキャリア太陽電池500によって達成されると予測される光電圧及び光電流を表す。
【0038】
図6に示すように、本発明のホットキャリア太陽電池500で得られると予測される(I、V)特性は、広い範囲にわたって広がり、これは電池500のコンタクトにおける抽出エネルギE
outの広範な値によって可能となるが、このE
outの値は、コア太陽電池530の禁制帯幅のわずかに下から、組み込まれたバイアス回路510によって可能となるホットキャリア太陽電池500の最大光電圧V
outに対応するE
outの値まで広がる。例えば、ホットキャリア太陽電池500のコンタクトにおける抽出エネルギE
outは、ホットキャリア冷却速度と同等又はこれより速い速度で変化するようになっているため、本発明のホットキャリア太陽電池500の光電圧変化サイクルT
b内の、電池500のコンタクトの励起エネルギE
outの瞬間的な値が1.7eVである瞬間において、電池500の光電圧V
outは〜1.15Vであり、E
out=1.7eVのエネルギ値で太陽光の光子によって光励起された電池500によって抽出されるキャリアの数を表す光電流の値を有する。同様に、電池500の光電圧V
outが〜1.35Vである瞬間において、ホットキャリア電池500の光電流の値は、E
out=1.9eVのエネルギ値で太陽光の光子によって光励起された電池500によって抽出されるキャリアの数を示す。実際、本発明のホットキャリア太陽電池500の可変バイアスによって、電池は、広範な値のエネルギを有する太陽光の光子によって光励起されたキャリアを、これらの光励起キャリアのエネルギがキャリア冷却効果によって失われる前に抽出することができ、これにより、本発明のホットキャリア電池500から、従来の静的(固定)バイアス値で単独で作動するコア電池530によって得られるものより実質的に高い、包絡線620で表される値の光電圧及び光電流を得ることができる。
【0039】
既に説明したように、本発明のホットキャリア太陽電池500の光電圧及び光電流は、
図5Bに示す波形と実質的に同等のプロファイルで時間的に変化する。ホットキャリア太陽電池500の可変出力を利用するために、この可変出力をDC又はACフォーマットに変換する必要がある。本発明のホットキャリア太陽電池500のDCへの変換は、ホットキャリア太陽電池500の光電圧V
outを、バイアス回路510の出力v
outと混合して、これにより、ラジオが受信した信号を無線周波数(RF)帯域から基底帯域に変換するダウンコンバートと全く同じ方法で、基底帯域にダウンコンバートすることによって達成できる。
図7A−7Dの本発明のホットキャリア電池の全体的構成は、前記ホットキャリア電池700として一般に参照される。
図7Aにおいて、前記ホットキャリア電池は、直列に接続されたバイアス回路510をともなうコア太陽電池530、及びこれらの集合出力に接続されたミキサ540からなる。本発明のホットキャリア電池700の全体的構成は、
図5Aに示すような、コア太陽電池と並列に接続されるバイアス回路520を用いても等しく実装することができることに留意されたい。
【0040】
代替として、本発明のホットキャリア太陽電池700の出力を、
図7Bに示すように、まずバイアス回路510の出力v
outを、所望のACフォーマットと同一の周波数を有する発振器信号と混合し、更に、この混合後の出力v
outを、ホットキャリア太陽電池の光電圧V
outと混合して、ACフォーマットの所望の周波数にダウンコンバートすることにより、ACフォーマットに変換することができる。例えば、本発明のホットキャリア太陽電池700の出力を60HzのACフォーマットにすることを所望する場合、まず、ミキサ750を用いて、バイアス回路510の出力v
outを60Hz発振器745の出力信号と混合し、その結果生まれた信号を、ミキサ540を用いてホットキャリア太陽電池500の出力V
outと更に混合して、ホットキャリア太陽電池700全体からの60HzのACフォーマットの出力を生成する。出力をACフォーマットにもDCフォーマットにも変換できる、ホットキャリア太陽電池700のこの固有の特徴は、ホットキャリア太陽電池500の交番バイアスという面によって可能となっている。ホットキャリア太陽電池700の
図7A及び
図7Bの構成に含まれる、出力をそれぞれDC又はACにするための混合回路間の違いは、その複雑さにおいて大差ないものであるということは、わざわざ言うまでもないことである。このことは、ホットキャリア太陽電池700の
図7A及び
図7BのDC及びAC構成は、実質的に同じコストで作製可能であり、また、実質的に同じ太陽光電力変換効率を達成できるということを暗示している。これは、本発明のホットキャリア太陽電池700を今日慣用の太陽電池と比較した場合の有意な差であり、今日慣用の太陽電池では、典型的には、そのDC出力をAC出力に変換するためのインバータが必要であり、追加のコストがかかる上、電池全体の効率が25%低下する。
【0041】
使用可能な別のバイアス印加スキームを
図7Dに示し、これは、所望の目的及び所望の結果の両方を示している。ここに示すように、コア太陽電池530は、グラウンドと出力回路710との間に接続され、出力回路710は負荷に接続される。出力回路710は高周波数形態のスイッチング調整器740を備え、これはとりわけ(V
min、V
max)電圧値を制御するための電圧制御730を有し、スイッチング調整器740のスイッチングを制御して、コア太陽電池530上に可変非散逸性負荷(通常の回路によるロスを除く)を提供するようにし(コア太陽電池の出力と回路のグラウンドとの間に一時的に連結されるインダクタであって、このインダクタは次に、回路の出力へと切り替えられて、インダクタに一時的に貯蔵される磁性エネルギを回復する)、DC出力を提供する。特に、大半のスイッチング調整器は典型的には、負荷の変化にかかわらず、調整された電圧出力を負荷に与えるようにスイッチングを制御するが、
図7Dのスイッチング調整器740は、その入力における(即ち、コア太陽電池530の出力における)電圧を制御し、コア太陽電池530の出力における電圧がV
minとV
maxとの間で所望の周波数で行き来するようにする。当業者ならば、スイッチングのデューティサイクル、スイッチング周波数又はこれら若しくはその他のパラメータの組み合わせを制御することで、これを達成できる。
【0042】
V
maxへの電圧変化に関して、V
maxは、コア太陽電池の開回路電圧より高い電圧であり、そのため、(V
min、V
max)を制御する電圧制御730は、V
maxをコア太陽電池の開回路電圧より高い電圧に引き上げる能力を有する必要がある。よって、
図7Dでは、(V
min、V
max)を制御する電圧制御730はノード720における電圧を感知するだけでなく、ノード720における電圧を、それ自体で到達し得る電圧を超えて引き上げる能力も有する。コア太陽電池530がなお高い電圧で電流を出力しているため、引き上げのためのノード720におけるインピーダンスは極めて高いことが予想される。これを考慮して、V
maxを、ノード720の電圧を引き上げるために必要な力が、コア太陽電池530から回収される力を超えるような電圧に設定してよく、何らかの理由がなければ、幾分高めの値のV
maxが有益であることがわかっている。また、総合的に考慮すべきなのは、太陽電池システムのいくつかの小さい部分の効率でなく、太陽電池システム全体の効率であるので、V
maxを、ノード720の電圧を引き上げるために必要な力が、コア太陽電池530から回収される力と等しくなるような電圧より若干低い電圧に設定することも可能である。
図7Dに示すように、引き上げのための少量の電力を、負荷への出力から取ってもよい。
【0043】
ノード720における電圧がV
maxまで上昇する際、スイッチング調整器740はどちらかというと作動していない状態であるか、又は場合によっては全く作動しておらず、V
maxへの上昇は、まずはコア太陽電池530の出力、コンデンサC
1の値及びノード720での引き上げによって制御され、次に、スイッチング調整器740がより作動する状態となって、コンデンサC
1からの電荷をスイッチング調整器740を通して負荷に伝送し、電荷より速い出力コンデンサC
2をコア太陽電池530によってコンデンサC
1に加えて、コンデンサC
1の電圧をV
minまで減少させ、その後サイクルが繰り返される。そして、V
maxからV
minへの電圧変化は、スイッチング調整器740の1回のスイッチングサイクルで達成することができ、V
minの所望の精度を維持するために、サイクル毎に調整が行われる。これにより、コンデンサC
1の値によって、V
maxとV
minの間の電圧の波形を少なくとも部分的に制御して、スイッチング調整器の周波数要件を最小化する。
図7Dでは、電圧制御730への入力は、f
s=1/T
bで表される(
図5B及び6を参照)。システムの動作に応じて、実際の電圧変化周波数はf
sであってもよく、又はそれより高くてもよい。また、V
max及びV
minは、朝、昼、夜、晴天、曇天、人工光など、コア太陽電池に入射する光の特性に関して調整するために、プログラム可能であるか、又は自己適応型であってもよい。
【0044】
図7Dでは、スイッチング調整器740はコンデンサC
1の電圧を制御して、所望の周波数のV
min及びV
maxを達成する。従って、負荷のDC電圧はこの回路によっては調整されず、配電システムに連結するための60Hzに負荷のDC電圧を変換するための、この回路に接続されたインバータ等の回路によって効果的に調整される。また、スイッチング調整器740は、必要に応じて、ステップアップ、ステップダウン、又はステップアップ/ステップダウン調整器であってよい。このようなスイッチング回路は、先行技術でよく知られており、ここで更に説明する必要はない。
【0045】
交番バイアスホットキャリア太陽電池の性能:
本発明のホットキャリア太陽電池の実施形態700の性能を分析するために、特定の設計パラメータ及び実装における詳細を考慮に入れる必要がある。このような詳細のうち第一のものは、バイアス回路510又は520及びミキサ回路540を実装するために用いるアプローチ、並びにこれらの回路をホットキャリア太陽電池700のコア太陽電池要素530に一体化する方法である。
図8は、本発明のホットキャリア太陽電池700の例示的実装形態を示し、ここでは、バイアス回路510又は520及びミキサ回路540は、太陽電池モジュールの背面に接着される集積回路(IC)デバイスとして実装されている。ホットキャリア太陽電池700は、コア太陽電池530以外の更なる回路、即ちバイアス回路510又は520及びミキサ回路540を含み、これらは電池が生成する電力のいくらかを消費するため、ホットキャリア太陽電池700の効率は、結果として予測される電力付加効率PAEに関して評価しなければならず(PAEは、RF回路設計から借用された用語であり、これによると、入力から出力への増幅利得を達成するRF回路のPAEは、回路の入力電力と出力電力の間の差を供給電力で除算したものである)、これは以下の式で表され、
PAE=η(IL
M)−(P
LO+P
M)/P
L 等式1
ここで、
ηは、ホットキャリア太陽電池700で達成できる太陽光電力変換効率であり;
IL
Mは、出力電力対入力電力の比で表される、出力ミキサ540の挿入損失であり;
P
LOは、バイアス回路510又は520が消費する電力であり;
P
Mは、ミキサ回路540が消費する電力であり;
P
Lは、ホットキャリア太陽電池700に入射する太陽放射の放射強度である。
【0046】
IL
M及びP
Mの値は、設計アプローチ及びホットキャリア太陽電池700の出力ミキサ540が扱う電力レベルに依存する。等式1で表されるホットキャリア太陽電池700の効率を定量的に分析するために、
図7Aに示すバイアス回路510及びミキサ回路540は、コア太陽電池530の100cm
2のサブ電池領域を駆動するよう設計されたものであると仮定する。
図8に示すサブ電池を複数使用して任意のサイズのホットキャリア太陽電池700を作製することができることに留意されたく、サブ電池はそれぞれ固有の駆動回路を有し、これらの出力を結合して、AC又はDCフォーマットの単一の出力を設ける。想定上のサブ電池サイズに関して、この想定上のサブ電池領域に入射するAM1.5の太陽光束の放射強度はP
L=10Wである。このようなレベルの入射太陽光の放射強度、及びホットキャリア太陽電池700の予想される太陽光電力変換効率η=0.54から、ミキサ540の入力における予想される電力は、5.4Wの範囲となる。理論的に予測されるホットキャリア太陽電池の効率は、1sunにおいて熱力学的限界である68%に到達することができるが、この性能分析例のために、ホットキャリア太陽電池700が達成する効率の予想される値は、実装におけるロスを見込んで、ホットキャリア太陽電池700の効率の予測される理論的限界の80%未満になるよう、従来通り選択することに留意されたい。
【0047】
これらの予想される値に基づいて、0.18ミクロンのCMOS集積回路によるバイアス回路510及びミキサ回路540の実装によって、以下の性能パラメータを従来通り得ることができると推定する:
IL
M=0.95;
P
LO=108mW、
P
M=270mW;及び
P
L=10W。
【0048】
上記の値を等式1で用いると、本発明者の基準設計例で使用するホットキャリア太陽電池700に関して推定される電力付加効率(PAE)は、PAE=0.47であり、これは、ホットキャリア太陽電池700を実装するために用いた典型的な従来のコア太陽電池530の効率の2倍以上である。
【0049】
ホットキャリア太陽電池700の想定した効率η=0.54を考慮すると、この基準設計例は、交番バイアスを生成してホットキャリア太陽電池700の出力をAC又はDCに変換するために使用する追加の回路は、電池の出力電力の約12%を消費することを暗示する。本発明のホットキャリア太陽電池700では、バイアス回路及びミキサ回路によって、上記のパーセンテージの半分未満しか失われないにも関わらず、従来の太陽電池では、その出力において典型的に使用されるDC/ACインバータによって、電池から得られる電力の25%以上が失われ、しかし、固定バイアスで動作するホットキャリア太陽電池700を実装するために使用される従来のコア太陽電池540のDC/ACインバータの前では、2倍以上の粗効率を実現することができることに留意されたい。このことは、AC出力における比較に基づいて考えると、ホットキャリア太陽電池700は、出力にAC/DCインバータを有する従来の太陽電池のおよそ2.7倍の太陽光電力変換効率を全体として達成し得ることを意味する。
【0050】
上述の電力付加効率の推定レベルを用いて、ホットキャリア太陽電池700の自己バイアススキームも実行可能であることに留意されたい。
図7Cに示すこのような自己バイアススキームでは、ホットキャリア太陽電池700は、初期化のためのいかなる追加電力の供給も必要とせず、初め、生成したエネルギのわずかな部分を交番バイアス及びミキサ回路の初期化のために使用する、非交番(固定)バイアスモードで動作する。
図7Cに示すように、ホットキャリア太陽電池700の電力出力は、バイアス回路510及びミキサ回路540に電力供給を提供するために使用され、それらは
図5Cに示されており、前記太陽電池出力電力590から供給を受ける電力供給ライン585と共に破線の囲み580内にまとめて入っている。バイアス回路510及びミキサ回路540が安定状態に達するとすぐに(1ミリ秒未満)、本発明のホットキャリア太陽電池700の交番バイアスモードの動作によって、ホットキャリア太陽電池700を実装するために使用した従来のコア太陽電池530で得られる出力電力の2倍以上が得られると予想される。
【0051】
コストに関する考察:
上記の議論で説明した交番バイアス及びミキサ回路は、0.18ミクロンのCMOS技術を用いて、〜1mm
2のダイ領域を必要とするものと推定される。このような小さいサイズのダイに関連する全体の実装コストを削減するために、
図8に示すサブ電池のうち4つのバイアス及びミキサ回路を4つの(クアッド)サブ電池それぞれの中心の背面に配置される単一のチップ上に容易にまとめることができる。このようなチップは、0.18ミクロンのCMOS技術を用いると、〜4mm
2のダイ領域を有すると推定され、実装前のダイのコストは1つのダイ当たり〜0.19ドルと推定される。クアッドバイアス&ミキサチップの実装コストは、ダイのコストの5倍の範囲内であると従来通り推定され、これにより、クアッドバイアス&ミキサチップ1つ当たり〜1ドルの推定コストとなる。グロブトップ等の低コストの実装技術を用いて、クアッドバイアス&ミキサチップを
図8に示すホットキャリア太陽電池700のサブ電池の背面に直接一体化する場合には特に、この推定は九分通り従来通りのものである。既に説明した設計例に基づくホットキャリア太陽電池700のクアッドサブ電池によって得られる推定出力電力を考慮すると、クアッドバイアス&ミキサチップを追加することにより、ワット当たりコストのオフセットδW
pは〜0.05ドル/Wとなり、これは、追加のコスト〜25ドル/m
2で1平方メートル当たり25個のクアッドバイアス&ミキサチップを使用して、Siベースホットキャリア太陽電池から得られる推定正味出力電力が〜475W/m
2となることを意味する。Si太陽電池の一般的なワット当たりコストはW
p〜3−5ドル/Wの範囲であることを考えると、従来のSi太陽電池をSiベースホットキャリア太陽電池700に変換するための推定コストオフセットは、Si太陽電池のワット当たりコストW
pの現在の値の1%〜1.6%の範囲になると推定され、これはあらゆる実用目的において無視してよいものである。ホットキャリア太陽電池700で実現可能な電力出力の増加を考えると、Si太陽電池をコア要素530として組み込んだホットキャリア太陽電池700の推定ワット当たりコストは、(W
p)〜1−1.7ドル/Wの範囲となり、これは3倍以上のワット当たりコストの削減を表している。この規模のワット当たりコストのオフセットδW
p及び効率上昇において、例えばCdTe、CIGS又は薄膜Si等の薄膜タイプ太陽電池をコア太陽電池530として用いる本発明のホットキャリア太陽電池700は、1ドル/Wより十分低い、場合によってはW
p〜0.3ドル/Wの範囲のワット当たりコストW
pを達成でき、これは、第3世代太陽電池において提唱される範囲内に十分収まるものである。
【0052】
逆バイアスホットキャリア太陽電池:
上記の議論で説明した交番バイアスホットキャリア太陽電池500の実施形態700は、光励起キャリアの輸送速度を瞬間的に上昇させるために、電池の光電圧出力を周期的に下げることによるものである。同等の効果を異なる方法で達成する代替的なアプローチは、十分に短い時間間隔で、電池のコンタクトに外部逆バイアスを断続的に印加することである。短い逆バイアスパルスの断続的な印加は、電池のコンタクトにわたる追加の外部電場ε
extを導入し、これは実際には電池のビルトイン電場を強化するよう作用する。その結果、これらの逆バイアスパルス間隔は、光励起キャリアの輸送速度を電池材料の飽和速度より上まで瞬間的に上昇させ、印加した逆バイアスパルスの振幅に応じて、光励起キャリア輸送速度はバリスティック輸送を超えるレベルに到達することができる。本発明のホットキャリア太陽電池500のこの代替実施形態は、逆バイアスパルスを生成するために並列バイアス回路520を用い、これにより、電池のコンタクトへの光励起キャリア輸送時間を実質的に短くすることができる。更に、本発明のホットキャリア太陽電池500のこの代替実施形態は同時に直列バイアス回路510も用いるが、これは、逆バイアスが印加される時間の間の輸送速度よりは低いものの、高い輸送速度を持続するため、また、実施形態500及び700の文脈で既に説明した、時間的に選択性のエネルギ抽出スキームを実装するためのものである。本発明のホットキャリア太陽電池500のこの代替実施形態の主要な特徴は、本発明のホットキャリア太陽電池500の、キャリア輸送に関する態様とキャリア抽出エネルギに関する態様とを分離することができることである。本発明のホットキャリア太陽電池のこれら2つの態様を分離することで、逆バイアスパルスを断続的に印加するサイクルを適切に選択し、その一方で電池の光電圧の変動サイクルの適切な値を独立して選択することにより、時間的に連続して高い値のキャリア輸送速度を維持することができるようになり、これにより、ホットキャリア太陽電池500及び700の時間的に選択性のエネルギ抽出スキームで、電池のコンタクトにおいて、冷却される前に光励起キャリアを適時抽出することができるようにすることができる。
【0053】
図9Aは、ホットキャリア太陽電池500の代替実施形態(ここでは900で示す)のブロック図を示し、これは、電池900のコンタクトにわたる抵抗を生み、これによって、既に説明した実施形態700におけるものと実質的に同様の方法で、ホットキャリア電池900の光電圧出力値を最小値V
minと最大値V
maxの間で周期的に変化させる、バイアス回路510と同様の直列バイアス回路910に加えて、コンタクトにわたる短い持続時間の逆バイアスパルス流を生成するための並列バイアス回路920を使用する。直列バイアス回路910によって導入される可変バイアスの効果は、ホットキャリア太陽電池900がそのコンタクトにおいて、コア太陽電池要素530の禁制帯幅エネルギのわずかに下から、バイアス回路920で可能な光電圧の最大値によって可能となる最大所望エネルギレベルにまで及ぶ、広い範囲の抽出エネルギE
outで、ホットキャリアを抽出できることである。本発明のホットキャリア太陽電池900の場合、光電圧の波形はもはや、既に説明した2つのサブインターバルαT
b及び(1−α)T
bを含まず、その代わり、電池の光電圧出力の断続的な変化サイクルの時間T
bを、キャリア冷却時間τ
cと同等、又はこれより短い時間とすることのみを必要とする。
【0054】
図9Bは、ホットキャリア太陽電池900の光電圧の波形を示し、この図は、この波形が、例えば上で特定したように選択された最小値V
min及び最大値V
maxを有する、単純な正弦波形となることができることを示す。キャリア輸送の加速に関する態様と、時間的に選択性のキャリアエネルギ抽出に関する態様とを分離することで、ホットキャリア太陽電池900の光電圧の断続的な変化サイクルの時間T
bを、ホットキャリア太陽電池500及び700の場合よりも更に短くすることができる。T
b〜1nsで、ホットキャリア太陽電池900の抽出エネルギE
outは、いくつかの太陽電池の材料系におけるキャリア冷却速度よりも相当速い速度で変化する。T
b〜1nsを実現するために、バイアス回路910が含む発振器の周波数は、f
s〜1GHzである。
【0055】
直列バイアス回路910によって生成される、時間的に変化する光電圧もまた、既に説明したキャリア輸送加速効果を生むが、ホットキャリア太陽電池900におけるキャリア輸送加速効果の大部分は、並列バイアス回路920によって達成されるものである。並列バイアス回路920は、コア太陽電池要素530にわたる、極めて短くかつ周期的な逆バイアスパルスを生成する。並列バイアス回路920が生成してコア太陽電池要素530にわたって印加されるバイアスの波形を、
図9Cに示す。
図9Bに示す波形は、持続時間t
p、パルス反復サイクルT
p、振幅V
pをそれぞれ有する、逆バイアスの基本的に周期的な短いパルス流である。並列バイアス回路920が生成する各パルスをコア太陽電池530のコンタクトに印加すると、外部電場ε
extが発生し、この外部電場ε
extはコア太陽電池530のビルトイン電場ε
biと同一方向であり、従って実際には、電子を電池の負コンタクトに輸送し、正孔を電池の正コンタクトに輸送するビルトイン電場ε
biの効果を増強する。従来の太陽電池の(I、V)特性に呼応する値V
pの可能な範囲を、
図4に符号425で示す。
【0056】
並列バイアス回路920が生成する逆バイアスの持続時間t
pの間、電子をホットキャリア太陽電池900の負コンタクトに、正孔を正コンタクトに輸送するよう同一方向に作用する2つの電場ε
bi及びε
extが組み合わさった恊働効果の下で、キャリアがコア太陽電池530のコンタクトへと輸送される。コア太陽電池530の内部ビルトイン電場ε
biと、並列バイアス回路920が生成する逆バイアスパルスが印加されて発生する外部電場ε
extとの第一の、かつ主要な違いは、この外部電場ε
extは、コンタクトからコンタクトまで、電池の厚さ全体にわたって延在し、その一方で、内部ビルトイン電場ε
biはコア太陽電池530の空乏領域の厚さ内に存在することである。コア太陽電池530の内部ビルトイン電場ε
extと、並列バイアス回路920が生成する逆バイアスパルスが印加されて発生する外部電場ε
extとの第二の違いは、外部電場ε
extの強度は、所望のキャリア加速効果を生成するために必要な適切なレベルに設定することができることである。更に、外部電場ε
extは短い時間間隔で周期的に印加されるため、外部電場ε
extを生成する回路即ち並列バイアス回路920が消費する電力量は極めて少ない。
【0057】
逆バイアスの持続時間t
pの間、内部電場ε
bi及び外部電場ε
extはどちらも同一方向に作用し、どちらも、光励起キャリアをコア太陽電池530のコンタクトに輸送するよう働く。印加する逆バイアスパルスの振幅V
pを適切に選択すると、パルス持続時間t
pの間、キャリア輸送速度が、典型的には10
7cm/sであるバリスティック輸送を超える速度に到達し、そして〜10
7cm/sの飽和速度レベルまで急激に減衰するように、内部電場ε
biと外部電場ε
extを合わせた強度を設定することができる。逆バイアスパルスの振幅V
p、持続時間t
p、及びパルス反復サイクルT
pを適切に選択すると(例えばV
p〜−1V、T
p〜1ns、及びt
p〜0.1T
p)、コア太陽電池530にわたるキャリア輸送速度を、飽和速度10
7cm/sに極めて近い値に連続的に維持することができる。これは、コア太陽電池530のコンタクトへの光励起キャリアの輸送を、1nsで100μm近くに連続的に維持することができることを意味し、これによって、コンタクト間厚さが〜5μmの薄いコア太陽電池530(CdTe、CIGS又は薄いSi等)内で生成される光励起キャリアが、25ps以内に電池のコンタクトに到達でき、これは殆どの太陽電池材料のホットキャリア冷却時間τ
cより十分に短い。ホットキャリア太陽電池900のこれらの特徴の組み合わせにより、典型的なコンタクト間厚さが〜300μmの従来のSi太陽電池への応用も可能となり、この場合、〜1.5nsのキャリア輸送時間が実現され、これもまた、Si材料のホットキャリア冷却時間τ
cより十分に短い。
【0058】
直列バイアス回路910及び並列バイアス回路920がそれぞれ生成するバイアスの集合によって、ホットキャリア太陽電池900は、光励起キャリアを、キャリアが冷却される十分前にコア太陽電池530のコンタクトへ輸送することができ、また、電池のコンタクトでキャリアが冷却される前に、時間的に変化する選択性の抽出エネルギでこれらのキャリアを抽出することができる。ホットキャリア太陽電池900で使用する直列バイアス回路910のブロック図は、
図5Cに示す直列バイアス回路510のブロック図と実質的に同一である。
図9Dは、本発明のホットキャリア太陽電池500の実施形態900と合わせて使用可能な並列バイアス回路520の典型的なブロック図を示す。
図9Dに示すタイプの回路は、超広帯域無線応用例において典型的に使用されるものと同一であり、数ピコ秒未満の持続時間、1ナノ秒より小さい反復時間のパルスを生成するよう設計することができる。このような設計パラメータは、
図9Cに示す逆バイアスは系を生成するために容易に適用することができる。当業者には、
図9Cに示す逆バイアス波形を生成するために使用でき、同等の最終結果をもたらす、
図9Dに示すもの以外の多くの代替回路設計が存在することが知られている。
【0059】
図9Aに示すように、実施形態900の場合には、ミキサ回路540がダウンコンバートを行う前に、印加した逆バイアスの広帯域スペクトルを電池900の出力から除去するためにローパスフィルタ950を追加しなければならないが、その他はホットキャリア太陽電池500と同様にして、直列バイアス回路910の出力を負荷抵抗R
Lにわたる電池の出力と混合することによって、ホットキャリア太陽電池900の最終出力をDC又はACフォーマットのどちらかにダウンコンバートする。
図9AはAC出力を提供するホットキャリア太陽電池900の構成を示すが、
図9Aのブロック図から60Hz発振器745及びミキサ750を削除することにより、ホットキャリア太陽電池900の構成を、DC出力を提供するように容易に実現することができる。
【0060】
太陽電池のロスメカニズムに関する既出の議論を参照すると、本発明のホットキャリア太陽電池500、700及び900は、2つの主要なロスメカニズム;即ちロスメカニズム(2):ホットキャリア冷却と、ロスメカニズム(5):コンタクト抽出効率とを回避することによって、正味効率を達成する。以下の節における議論は、本発明の交番バイアススキームを、QW又はQD等の量子閉じ込め構造を組み込んだコア太陽電池と合わせて実装する場合、結果としてできるホットキャリア太陽電池は、主要なロスメカニズムのうち別の1つ、即ちロスメカニズム(1):E
p<E
gである光子のロスと、ロスメカニズム(3):放射再結合による光励起キャリアのロスとを回避することによって、更に高い正味効率の上昇を達成することができることを示そうとするものである。以下の議論で説明するように、光及び量子閉じ込め構造の両方を組み込んだコア太陽電池530を用いるホットキャリア太陽電池500、700及び900は、多接合太陽電池で達成されるものを上回る正味効率を達成し得るため、モノリシック多接合積層の必要性及びそれと関連する格子のミスマッチの問題(これらはロスメカニズム(4)の主要な原因である)を共に回避することによって、ロスメカニズム(4)を間接的に回避する。
【0061】
カバー範囲が拡張された交番バイアスホットキャリア太陽電池:
コア太陽電池530として、Si、GaAs、CdTe及びCIGS等のp−n接合太陽電池を用いる、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池の複数の実施形態について、以上の議論で説明したが、本節の議論は、電池の禁制帯幅E
g未満のエネルギE
pを有する入射太陽光の光子のエネルギをも回収するために、本発明の交番バイアス太陽電池の能力を拡張することを目的とする。この目的を達成するための方法は、本発明の交番バイアス太陽電池を、QW及びQD等の量子閉じ込め構造を組み込んだIII−V材料太陽電池と合わせて応用することである。これは、本発明の交番バイアス太陽電池の魅力的な応用である。というのは、III−V合金の多彩な材料禁制帯幅選択肢、並びにIII−V合金を本発明の交番バイアススキームと組み合わせた際の直接禁制帯幅及び高いキャリア移動性により、拡張された太陽光スペクトルのカバー範囲を有し、極めて高い正味効率をもたらす単接合太陽電池を生み出すことができるからである。以下の議論はMQWベース太陽電池に限定したものであるが、量子閉じ込めのこれ以外の側面による効果の他、QDベースの交番バイアスホットキャリア太陽電池の背景にある概念も、実質的に同一である。
【0062】
QW及びQD等の量子閉じ込め構造を用いる光電(PV)太陽電池は広く研究されてきたが、このような太陽電池が、太陽光の光子の吸収を本来の電池の禁制帯幅未満にまで拡張することにより、効率の増強を達成できると予測されている(「Quantum Well Solar Cells」K.W.J.Barnhamら著、Physica E14 (2002年)27−36ページ)にも関わらず、バルク材料の太陽電池に比べて広範に利用されるには至っておらず、これは主として、予測される効率の増強と、電池のコストの上昇との間の不均衡が原因である。この不均衡は、量子閉じ込めベースの太陽電池の禁制帯幅拡張の大半が、禁制帯幅の低エネルギ側でのものであり、従って、電池の光子吸収能力は波長が長い方にしか増大しないという事実による。更に、達成される電池の禁制帯幅の拡張幅は、使用する材料系及び組み込む量子構造の禁制帯幅構造に大いに依存する。しかし、既に議論したように、太陽電池に量子構造を組み込むことにより、III−V材料合金系におけるホットキャリアの冷却速度を遅くする(冷却時間τ
cを延長する)ことができる。III−V材料のキャリア冷却時間は典型的には、Si、CdTe又はCIGS材料系のキャリア冷却時間より短いため、量子構造を組み込んだ太陽電池における、このように延長されたキャリア冷却時間τ
cによって、本発明の交番バイアススキームをIII−V材料ベース太陽電池により容易に適用することができるようになる。本発明の交番バイアスホットキャリア抽出スキームを適用することによる、電池材料の禁制帯幅E
gを超えるエネルギの光励起キャリアを抽出することができるという便益は、量子構造を組み込んだIII−V材料ベース太陽電池にも等しく適用される。光励起キャリアエネルギ抽出を電池材料の禁制帯幅E
g未満に拡張する、組み込まれた量子構造による効果と、光励起キャリアエネルギ抽出を電池材料の禁制帯幅E
gを超えて拡張する、本発明の交番バイアスによる効果とを組み合わせた結果、場合によっては太陽光スペクトルのほぼ全部分に及ぶこともできる拡張されたカバー範囲を有する太陽電池を実現できる。例えば、本発明の交番バイアススキームを、QW又はQD等の量子閉じ込め構造を組み込んだGaAsベース太陽電池と合わせて適用する場合、このような本発明のホットキャリア太陽電池の光励起キャリア抽出を、GaAsの禁制帯幅エネルギ値E
g=1.42eVより十分に下及び上に拡張することができる。
【0063】
上記の議論で説明した本発明の交番バイアススキームは、QW又はQD等の量子閉じ込め構造を組み込んだIII−V材料ベース太陽電池をコア太陽電池530とする実施形態500、700又は900の場合と全く同様にして、MQWベース太陽電池と合わせて適用することができる。このようなコア太陽電池530のエネルギ帯構造を
図10Aに示し、この
図10Aは、p−i−n接合太陽電池の固有領域内に組み込まれたMQWを示す(「Quantum Well Solar Cells」K.W.J.Barnhamら著、Physica E14(2002年)27−36ページ)。組み込まれるMQWは、電池のエネルギ抽出能力を、電池材料の禁制帯幅エネルギE
g未満まで拡張するよう設計される。これは、MQWのバンドエネルギが次第に少なくなる(勾配を有する)ようにし、電池の禁制帯幅E
g未満のエネルギ帯の広範なカバー範囲を提供することによって達成できる。勾配を有するMQWが意味するところは
図10Aに示されており、この
図10Aは、共に電池材料の禁制帯幅E
g未満であるE
aからE
bまでの異なる値を有する、組み込まれたQWそれぞれに関する禁制帯幅を示す。E
aからE
bまでのエネルギレベル範囲は、電池の光子エネルギ吸収能力の、固有の禁制帯幅エネルギE
g未満までの拡張と見ることができる。これは、電池の禁制帯幅エネルギE
g未満のE
aからE
bの範囲のエネルギを有する入射太陽光の光子による、キャリアの光励起が可能となることを意味している。実際、このアプローチは、電池の禁制帯幅E
g及びそれ未満のエネルギを有する入射太陽光の光子を電池が変換できるようにすることにより、既に説明した電池効率ロスメカニズム(1)を実質的に克服する。この効果の詳細な説明を、以下の議論において提供する。
【0064】
MQWベースの交番バイアスホットキャリア電池のエネルギ帯構造を、
図10Bに図示する。照明下において、MQWベースの交番バイアスホットキャリア電池のエネルギ帯構造は、少なくとも3つの擬フェルミ準位(QFL)によって表すことができる(「Detailed Balance Efficiency Limits with Quasi−Fermi Level Variations」S.P.Bremner、R.Corkish及びC.B.Honsberg著、IEEE Trans.Electron Devices、vol.46、No.10、1999年10月;A.Luque及びA.Marti著「Ultra−high efficiency solar cells:the path for mass penetration of solar electricity」Electronics Letter、vol.44、No.16、2008年7月):
・電池の価電子帯(VB)における正孔の数を表す、QFL
V;
・勾配を有するMQWによって形成される中間帯(IB)における電子及び正孔(キャリア対)の数を表す。QFL
I;及び
・電池の伝導帯(CB)における電子の数を表す、QFL
C。
【0065】
電池材料の禁制帯幅E
g又はそれ未満のエネルギを有する、
図10AでそれぞれP
1、P
2、P
3で示す複数の太陽光の光子の吸収によって、
図10Bに示すように、勾配を有するMQWによって生成される多重QFL分割の間での、以下の多重キャリア遷移:VB→CB、VB→IB、IB→CBが可能となる。
【0066】
量子閉じ込めベースのコア太陽電池530を組み込んだホットキャリア太陽電池500、700又は900において、交番バイアスを使用する場合、
図10Aに示す、勾配を有するMQWによって吸収される「余分な」低エネルギの光子P
2及びP
3によって生成されるキャリアが抽出され、これは「余分な」電流に寄与する。この余分な電流は、(電池の禁制帯幅に対して)より低いエネルギにおける光子の吸収の拡張に起因し、また、勾配を有するMQWにおける量子閉じ込め効果による、キャリア数の増加にも起因する(「Quantum Well Solar Cells」K.W.J.Barnhamら著、Physica E14(2002年)27−36ページ)。この場合における主たる差異は、本発明のホットキャリア太陽電池500、700及び900の時間的に変化する光電圧も、そのV
minが拡張され、これにより、コア電池530の材料の禁制帯幅エネルギE
g未満のエネルギを有する光励起キャリアの抽出に必要な、コンタクトにおけるより低い抽出エネルギを提供できることであろう。本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池のこの実施形態の更なる利点は、太陽電池の光電圧を、電池材料の禁制帯幅E
g未満のエネルギを有する光励起キャリアの抽出に必要なより低い値に交番させることにより、電池が周期的に、より低い光電圧値で動作できるようにもなり、ひいてはキャリア輸送電場値を周期的に上昇させることができ、これによって電池のキャリア輸送能力を増強することができることである。これは、電池の光電圧を低下させて本発明のホットキャリア太陽電池500、700及び900のキャリア輸送能力を増強している時間の間、値が低下した光電圧は、本発明のホットキャリア太陽電池のコア太陽電池内に組み込んだ量子構造によって可能となる、電池材料の禁制帯幅エネルギ未満のエネルギを有する光励起キャリアの抽出に必要な、より低い値の電池のコンタクトにおける抽出エネルギを提供するために活用されることを意味する。
【0067】
光閉じ込め交番バイアスホットキャリア太陽電池:
既に説明したように、ホットキャリア太陽電池の実施形態500、700及び900に使用するコア太陽電池530のコンタクト間厚さは、キャリア輸送時間に大いに影響し、従って、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池の性能に大いに影響する。例えば、Siのキャリア寿命特性は典型的にはIII−V材料より相当長いにも関わらず、既に説明したように、シリコンベースのコア太陽電池530に関して、ホットキャリア太陽電池900及び500によって、〜1.5nsから〜15nsの範囲のキャリア輸送時間を達成できる。これらの値は、
図2に示すキャリア寿命のキャリア冷却段階の上端である。結果として、本発明の交番バイアスホットキャリア抽出スキームの便益は、従来のSi太陽電池のような、コンタクト間厚さが厚い太陽電池では十分に実現できない。しかし、コスト削減を理由として、Siベース太陽電池の厚さを削減することを目的とする徹底した努力が続けられており;この動向のおかげで、本発明の交番バイアスホットキャリア抽出スキームの便益をこのような電池で完全に実現することもできるようになるであろう。例えば、電池の上面に質感加工を施し、更に、Siベース太陽電池の背面に反射性表面を配置することにより、電池の吸収体に入射する複数の光の反射を引き起こし、電池に入射する太陽光の光子を、極めて薄い電池の吸収体で吸収することができるようになる。この単純な光トラップ手段によって、厚さ20μmのSi太陽電池が、400μmのSi太陽電池よりも相当に良好な光吸収性能を有することができるようになる(「Physics of Solar Cells」P.Wurfel著、173−177ページ)。
【0068】
上で参照したものと同様の光トラップに関する態様と埋め込みコンタクトとを活用する光閉じ込め太陽電池構造(「The Physics of Solar Cells」J.Nelson著、188−191ページ)を、
図11Aに示す。
図11Aに示すように、このような電池構造には反射性の垂直な側壁が組み込まれ、これらの側壁は電池全体を、典型的にはそれぞれが数十ミクロン程度の幅L
Cを有する複数のサブ電池に分割する。これらの側壁は、複数の役割を果たす。第一に、側壁を用いて、電池全体にわたる複数の光学微小キャビティを作製する。これらの微小キャビティは、初めに通過する際にはキャリアの光励起を引き起こさない入射太陽光の光子の光閉じ込め、及び、光励起キャリアの放射再結合によって電池構造内で発生する光子の光閉じ込めを提供する。第二に、
図11Aに示すように、側壁は埋め込みコンタクトの横木の役割も果たし、電池の上面の微小メッシュと相互連結される。
図11Aに示すように、微小メッシュは数ミクロン程度の直交するピッチを有し、サブ電池の上側表面全体に広がり、印加したバイアスの均一な分散と、電池の上面の光の入射を大きく阻止することなく電池の電力出力を抽出するための均一なコンタクトとを提供する。
【0069】
図11Aに示す微小キャビティの、反射性微小キャビティサブ電池の側壁、背面及び質感加工した上面によって達成される光閉じ込めの結果、サブ電池に入る光は4〜6回反射し、その後、微小キャビティサブ電池の側壁及び背面での吸収によって減衰する。微小キャビティサブ電池の側壁間の距離がL
C〜50μmである場合、
図11に示す、生成される微小キャビティサブ電池構造の光閉じ込め能力により、
図11Aに示す光閉じ込め微小キャビティを組み込んだSiベース太陽電池において、〜5μmのコンタクト間厚さを達成することができる。既に説明したように、このコンタクト間厚さにより、〜0.25nsのキャリア抽出時間が可能となり、これは十分に、シリコン電池の予想されるキャリア冷却時間内である。
図11Aに示す光閉じ込め電池構造を、本発明のホットキャリア太陽電池の構成500、700及び900のコア電池530の構造として使用すると、これらの電池をより短いキャリア輸送時間で動作させることができる。更に、これによって、光励起キャリアの放射再結合によって生成される光子によるキャリアの光励起を促進することもできるが、典型的な太陽電池では、これらの光子はこのような電池構造内に閉じ込められないため、既に説明した効率ロスメカニズム(3)によって失われてしまうものである。
【0070】
図11Aの光閉じ込め微小キャビティを組み込んだ電池構造によって提供される光閉じ込めと、
図10Aの電池材料構造によって提供されるキャリア量子閉じ込めとの組み合わせを、交番バイアス太陽電池500、700及び900のコア太陽電池530の文脈で
図11Bに示すように一体として使用すると、初めに通過する際にはキャリアの励起を引き起こさない光子によるキャリア励起の蓋然性を高める役割を果たすことにも言及しておく価値がある。放射再結合によって生成される光子が後に1つ又は複数のキャリアの励起を引き起こす可能性を、サブ電池微小キャビティの光閉じ込め及びMQWのキャリア閉じ込め効果による、生成された光子の寿命の延長によって、大きく増大することができる。よって、光子閉じ込めに関する態様とキャリア閉じ込めに関する態様との
図11Bに示す組み合わせにより、実際に、1つの太陽光の光子が複数のキャリアの励起を引き起こす見込みが増大し、これは、既に議論したSQモデルにより確立された効率の限界の主たる前提、即ち、入射太陽光の光子が1つの電子−正孔対のみを生成するという前提を回避する効果である。
【0071】
太陽電池のロスメカニズムに関する既出の議論を参照すると、本発明のホットキャリア太陽電池は、以下のロスメカニズムを回避することにより、正味効率の上昇を達成できる:(1)E
p<E
gの光子のロス、(2)ホットキャリアの緩和によるロス、(3)放射再結合による光励起キャリアのロス、及び(5)コンタクト抽出効率によるロス。更に、本発明のホットキャリア太陽電池は、モノリシック多接合電池の効率と同等の効率を単接合電池構造によって達成することができ、従ってロスメカニズムを誘発する格子のミスマッチに関する問題を回避できるため、ロスメカニズム(4)も一緒に回避する。
【0072】
以上の議論に基づいて、QW又はQD等の量子閉じ込め構造及び光子閉じ込め微小キャビティサブ電池を組み込んだ、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池は、以下のことが可能である:
1.電池材料の禁制帯幅E
gの、及びそれを超える、及びそれ未満のエネルギを有する入射太陽光の光子のエネルギを電力に変換する;
2.光励起キャリアの放射再結合による内部光放出に関わるエネルギを、失われることになるはずの放出された光子をリサイクルすることによって利用する;
3.入射太陽光の単一の光子によって、複数のキャリア対の励起を達成する;
4.多重QFL分割を組み込んだ電池構造から、光励起キャリアを抽出できるようにする;並びに
5.AC/DCインバータのロスを削減する交番出力モードで動作する。
【0073】
材料系の候補:
既に説明したように、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池は、Si、CdTe、CIGS等の従来のバルク材料太陽電池、バルクGaAs等のIII−V材料、並びにQW及びQD等の量子閉じ込めを組み込んだ太陽電池と合わせて実装することができる。
図12(「Third Generation Photovoltaics」Gregory F.Brown及びJunqiao Wu著、Laser & Photon Rev.、1−12(2009年)、オンライン出版、2009年2月2日から翻案)は、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池と合わせて使用可能な太陽電池材料系の複数の候補の禁制帯幅エネルギを、太陽光スペクトルのエネルギ分布と関連させて示す。
図12に示すように、Si、InP及びGaAsベースの電池を含む、今日において最も高効率の単接合電池は、1.1eV〜1.4eVの禁制帯幅エネルギを有し、典型的には、大陽エネルギスペクトルの比較的狭い帯域の太陽光の光子しかエネルギに変換できない。大陽エネルギスペクトルのこの狭いカバー範囲が、今日の単接合光電太陽電池の効率を1sunにおいて30%未満に根本的に制限するものである。実際問題として、正味効率は、大部分はDC/ACインバータによる25%のロスである、実装におけるロスによって更に低下し、これにより、典型的な単接合太陽電池モジュールの正味効率は20%を優に下回る。実際問題として、単接合Si電池の最高効率は、DC/ACインバータのロスを計上しなくても24%未満の効率であり、もしこれを考慮に入れれば、電池から得られる正味効率は18%となる。これに比べて、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池は、0.65eV〜3.15eVに及ぶ太陽光の光子エネルギカバー範囲を有することができ、従って、太陽光スペクトルの大部分をカバーすることができ、18%より何倍も高いレベルの正味効率を得ることができる。
【0074】
交番バイアスホットキャリア太陽電池の2つの候補の大陽エネルギスペクトルカバー範囲を、
図12に示す。第一の候補は、
図12ではSi−ABCとして示すSiベースのものであり、従来のSi太陽電池、又は
図11Aで説明した、光閉じ込め微小キャビティを組み込んだ薄いSi太陽電池を用いる。第二の候補は、勾配を有するMQWを組み込んだIn
xGa
1-xN材料系ベースのものであり、
図12ではInGaN MQW−ABCとして示す。本発明の交番バイアスホットキャリア抽出スキームによって、Siベース太陽電池のスペクトルカバー範囲を、Si禁制帯幅エネルギである1.1eVからからほぼ3eVにまで及ぶように拡張することができ、従って、全体の電力変換効率を、従来のSi電池の2.5倍以上とすることができる。今日の高効率Siベース太陽電池で得られる電力の典型的な小売価格は0.35ドル/kWhであり(「Solar Photovoltaics:Expanding Electric Generation Options」Electric Power Research Institute(EPRI)、2007年12月)、本発明の交番バイアススキームの実装のために追加する構成要素によるコストの上昇を考慮すると、Siベース交番バイアス太陽電池で達成することができる効率上昇により、0.15ドル/kWhの太陽光電力の小売価格が得られ、これは今日のSi電池で達成される電力小売価格の半分未満であり、今日の慣用の電力小売価格範囲内に十分収まっている。
【0075】
インジウムガリウムニトリド(In
xGa
1-xN)材料系は、0.65eVから3.4eVに及ぶ禁制帯幅エネルギを有し、これにより、この材料は太陽光スペクトルにほぼ完全に適合する。この材料系の太陽光スペクトルカバー範囲の全能力は、既に記載したMQWベースIn
xGa
1-xN交番バイアスホットキャリア太陽電池によって達成することができる。
図10Aの勾配を有するMQWは、多重量子井戸にわたるインジウムの取り込みの値「x」を小さい値から大きい値に変化させ、窒化ガリウム(GaN)の禁制帯幅にわたって広がる禁制帯幅を有する多数の量子井戸を生成することにより、(In
xGa
1-xN)材料を用いることと合わせて実現することができる。MQWベースIn
xGa
1-xN材料の中間帯の適切な設計により、In
xGa
1-xN材料は、ほぼ0.65eVから3.4eVまで広がる禁制帯幅を実現することができるようになる。このタイプの材料系は、本発明の交番バイアススキームと合わせて使用すると、太陽光スペクトルのほぼ全範囲のカバー範囲を達成することができ、これにより、特に太陽光集光装置と合わせて使用した場合、単接合太陽電池から超高効率を達成することができるようになる。既に説明したように、このような電池の出力電力は既に交流電流であり、達成できる効率の殆どを利用すると、その他の実装に関するロスを考慮した上でも、70%以上の正味効率を達成する能力を提供することができる。このレベルの正味効率及び2.25ドル/Wの推定コストW
pにより、100倍太陽光集光装置と共に動作するIn
xGa
1-xN MQW交番バイアスホットキャリア太陽電池は、0.10ドル/kWhの太陽光電力の小売価格を達成する能力を有し、これは今日の最も高効率な慣用の太陽電池で得られる電力の小売価格の1/3未満であり、今日の慣用の電力小売価格範囲内に十分収まっている。
【0076】
以上で説明したように、本開示に記載した、バルクSi電池及びMQWベースIII−V太陽電池における交番バイアススキームの適用の2つの例から、電池が生成する電力の小売価格の何倍もの削減が予測され、これは、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池が、第3世代(3G)太陽電池のコスト目標に到達することができることを示している。
【0077】
性能比較:
表1は、今日最も使用されている太陽電池で得られる効率と、上で議論した交番バイアスホットキャリア太陽電池の2つの応用例;即ち1sunで動作するSiベース電池、及び100倍太陽光集光装置(100sun)と共に動作するIn
xGa
1-xN MQWベース電池で得られると予測される正味効率(又は電力付加効率PAE)とを合わせて表にしたものである。表1の比較を釣合の取れたものとするために、列挙した現行の太陽電池で得られる効率は、その出力に必要なDC/ACコンバータによる推定25%のロスを反映していないことに留意されたい。その一方で、交番バイアスホットキャリア太陽電池の出力はACであるため、表1に列挙した2つの交番バイアス電池の予測される効率性能は、実装において発生し得るロスを加味した、システムレベルでの正味効率である。従って、意義のある一対一比較のために、現行の太陽電池の効率性能値は、25%だけ減少させるべきである。
【0078】
表1では、上述した本発明の交番バイアススキームを用いて実装した太陽電池が、現行の単接合電池で得られる効率の何倍もの向上を達成できるという、本開示全体に及ぶ主題を浮き彫りにしている。更に、表1はまた、選択する材料に応じて、QW又はQDの量子閉じ込め構造ベースの太陽電池は、多接合太陽電池と同等又は場合によってはそれより高い正味効率を達成する能力を有することも強調している。これが実現されれば、このレベルの正味効率を達成する省コスト性の便益は、太陽電池産業を、設定した3G目標の達成へと進めることができる可能性が極めて高い。
【0079】
【表1】
表1
本発明の交番バイアスホットキャリア電池の予測される効率と、従来の太陽電池の効率との比較
【0080】
結論:
本開示は、太陽電池において極めて高い効率を達成するための新規の設計アプローチを記載するものである。第一に、新規の交番バイアススキームについて記載し、これは、ホットキャリアの抽出を可能にすることにより、光電圧抽出能力を、電池の禁制帯幅を超えて増強するものである。バルク材料の単接合太陽電池と合わせて適用すると、記載した交番バイアスホットキャリア電池は、そのコア電池の正味効率の2倍以上の能力を有する。第二に、交番バイアススキームを量子井戸(QW)又は量子ドット(QD)ベースの太陽電池と合わせて適用すると、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池は、そのコア太陽電池の電力抽出カバー範囲を、太陽光スペクトル全体にまで拡張する能力を有し、従って、前例のないレベルの太陽光電力抽出効率の達成を可能とする。第三に、交番バイアススキームを、量子閉じ込めと光閉じ込めの両方を組み込んだコア太陽電池と合わせて適用すると、そのような太陽電池は、今日の太陽電池の効率を制限するロスメカニズムのほぼ全てを潜在的に回避することができる。これは、記載した交番バイアススキームのホットキャリア抽出能力を、電池の光電圧電力抽出能力を電池の禁制帯幅未満まで拡張するために、勾配を有するMQWを組み込み、また、放射再結合によって生成されたキャリアを利用して、吸収した単一の光子当たり複数のキャリアの生成を可能にするために、サブ電池の光子閉じ込め微小キャビティを組み込んだ、新規の電池設計と組み合わせて、更に電池の効率を増進することによって達成される。
【0081】
従って、本発明は複数の態様を有し、これらの態様は必要に応じて単独で、又は様々な組み合わせ若しくは部分的組み合わせで実施してよい。ここでは、限定目的ではなく説明を目的として、本発明の好ましい実施形態を開示及び記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に関する様々な変更を行ってよいことが、当業者には理解されるであろう。
【0082】
以上の詳細な説明において、本発明をその特定の実施形態を参照して説明した。しかしながら、本発明のより広範な精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更を行うことができることは明らかであろう。従って、設計の詳細及び図面は、限定を意味するものではなく説明を意味するものであると理解すべきである。本発明の一部を、好ましい実施形態に関する上述の実装と異なる形で実装してよいことは、当業者には理解されるであろう。例えば、本発明の交番バイアスホットキャリア太陽電池の直列及び並列バイアス回路を、多数の変形例によって実装することができること、並びにこれらのバイアス回路の特定の設計パラメータによって、交番バイアスの特性、ひいては結果として作製される太陽電池の性能を実質的に変更することができることは、当業者には理解されるであろう。更に、本発明の上述の実施形態の詳細に対して、その背景にある原理及び教示から逸脱することなく、多くの変更を行うことが可能であることも、当業者には理解されるであろう。従って、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ定義されるべきである。