特許第5795419号(P5795419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5795419-ヒ素を含まないガラス 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795419
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ヒ素を含まないガラス
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20150928BHJP
   C03B 5/225 20060101ALI20150928BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20150928BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C03B17/06
   C03B5/225
   C03C3/091
   C03C3/095
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-206592(P2014-206592)
(22)【出願日】2014年10月7日
(62)【分割の表示】特願2009-28193(P2009-28193)の分割
【原出願日】1997年7月14日
(65)【公開番号】特開2015-24959(P2015-24959A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】60/022,193
(32)【優先日】1996年7月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】08/742,610
(32)【優先日】1996年10月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ シー バンジ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ジー ドーフェルド
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ シー ヘイズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ シー ラップ
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−263473(JP,A)
【文献】 特開平05−306140(JP,A)
【文献】 Ing.Zdenek et al.,STUDIUM CHOVANI ROZPUSTENE VODY VE SKLEVE VZTAHU K TVORENI SEKUNDARNICH BUBLIN V TAZNE PECI,Sklar a Keramik,1970年,VOL.20 NO.6,p144-148
【文献】 material information,Corning Incorporated,1996年 6月
【文献】 日刊工業新聞,1995年 6月22日,P.20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/225,17/00〜17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属酸化物を実質的に含まず、Asが0.02モルパーセント未満のケイ酸塩ガラスを清澄する方法であって、
少なくとも1つの清澄剤を使用するダウンドロー法を用いて前記ケイ酸塩ガラスを製造すること、
前記ケイ酸塩ガラスのβ−OH値を測定すること、
前記ケイ酸塩ガラスの製造中、該ケイ酸塩ガラス中の水分量を、測定したβ−OH値が0.41/mm以下となるように、すること
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記ケイ酸塩ガラス中の水分量を、測定したβ−OH値が0.35/mm未満となるように、することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ケイ酸塩ガラスの製造中における溶融または形成プロセス中にガラスを白金または白金合金と接触させることを含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ダウンドロー法がフュージョン法であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
Sb、CeO、SnO、Fe、およびそれらの混合物からなる群より選択される清澄剤を用いることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ケイ酸塩ガラスが0.02から1モルパーセントのSbを有するようになる量で、アンチモン含有材料を用いることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ケイ酸塩ガラスが、酸化物基準のモルパーセントで表して、60−73%のSiO、8−14%のAl、5−17%のB、0−5%のTiO、0−5%のTa、0−5%のMgO、1−13%のCaO、0−8%のSrO、および0−14%のBaOを有するアルミノホウケイ酸塩ガラスからなることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ケイ酸塩ガラスが、630℃よりも高い歪み点、および0℃−300℃の温度範囲に亘り32−46×10−7/℃の線熱膨張係数を有することを特徴とする請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素を含まないガラス組成物、およびヒ素含有材料を使用する必要なく、フラットパネル表示装置の基板として使用するのに適したそのようなガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、照明の外部光源に依存する受光型フラットパネルディスプレイである。これらのディスプレイは、セグメント型ディスプレイとして、または二つの基本形体のうちの一つで製造される。二種類のマトリクスの必要性は(透明であり、ディスプレイの加工中に露出される化学条件に耐えられること以外に)異なる。第一の種類は、液晶材料のしきい値特性に応じて、固有マトリクスが駆動される。第二の種類は、外部マトリクスまたはアクティブマトリクス(AM)が駆動され、ここで、ダイオード、金属−絶縁物−金属(MIM)素子、または薄膜トランジスタ(TFT)のアレイにより、各々のピクセルに電子スイッチが提供される。両方の場合において、二枚のガラスシートがディスプレイの構造を形成する。二枚のシート間の距離は、約5-10μmの臨界間隔寸法である。
【0003】
固有に駆動されるLCDは、典型的に350℃以下の温度での金属付着技術を用い、その後、標準的な金属エッチング方法により製造される。その結果、その基板の必要条件はしばしば、セグメント型ディスプレイのものと同じになる。バリア層を備えたソーダ石灰シリカガラスが、ほとんどの必要性にとって適切であることが立証された。固有に駆動されるLCDの高性能バージョンである超ねじれネマティック(STN)型では、間隔寸法を均一に保持する目的のために、平坦度が非常に精密であるという必要条件が加わった。その必要条件のために、フロートガラス製造法を用いて製造されたソーダ石灰シリカガラスは研磨しなければならない。そのような研磨工程には、費用と時間がかかり、ガラスシートのその後の加工に悪影響を与える可能性のある多量のガラス粒子が生じてしまう。あるいは、研磨を必要としない方法、例えば、フュージョンダウンドロー法(fusion downdraw)を用いてガラスを形成することができる。
【0004】
外部駆動LCDを、各々の光学素子(サブピクセル)に位置する電子スイッチの性質に応じて、さらに細分しても差し支えない。外部(またはアクティブマトリクス、AMLCD)駆動されるLCDの最も普及しているタイプのうちの二つは、非晶質(a−Si)または多結晶(poly−Si)いずれかのケイ素薄膜トランジスタに基づいている。
【0005】
米国特許第4,824,808号(ダンボウ、ジュニア:Dumbaugh,Jr.)には、外部駆動されるLCDの基板の必要性を完全に満たすために、ガラスが有すべき以下の四つの望ましい特性が列記されている:
第一に、ガラスは、意図的に加えられるアルカリ金属酸化物が実質的になく、TFTがアルカリ金属で汚染される可能性を避けなければならない;
第二に、ガラス基板が、TFTの製造中に用いられる試薬に耐えられるほど十分に化学的に耐久性がなければならない;
第三に、TFT中に存在するケイ素とガラスとの間の膨脹の不一致が、基板の加工温度が上昇するにつれてさえも、比較的低いレベルに維持されなければならない;
第四に、ガラスは、低コストで高品質の薄いシート形状に製造できなければならない;すなわち、必要な表面仕上げを保証するのに広範囲に亘る研磨および研削を必要としてはならない。
【0006】
この最後の必要条件は、実質的に仕上がったガラスシートを製造できるシートガラス製造方法が要求されているために、達成するのが最も困難である。この必要条件を満たすことのできる方法が、オーバーフローダウンドロー(overflow downdraw)またはフュージョンシート製造法として知られている特定のダウンドロー法である。このオーバーフローダウンドロー法は、例えば、米国特許第3,338,696号(ドカーティ:Dockerty)および同第3,682,609号(ドカーティ)に記載されている。フュージョン法で形成されたガラスシートは、フロート法でのガラスシートとは異なり、形成後に研磨する必要がないほど十分に平らである。上述した必要条件を満たす二種類のガラス、すなわち、コーニング社のコード7059および1737のシートガラスが、外部駆動LCDの基板として現在用いられている。これらのガラスは、オーバーフローダウンドロー法を用いて製造されており、それゆえ、形成後に研磨の必要がない。
【0007】
外部駆動LCDの解像度が最近改良されたことによって、ガラスの第五の必要条件、すなわち、ガラスの歪み点が高いことが発生した。この特性は、ガラスの熱収縮の指標として用いられる。認識されているように、歪み点が低いほど、この熱収縮が大きくなる。連続フォトリソグラフ工程中の精密なアライメントおよびTFT加工中の他のパターン形成工程にとって、低熱収縮が望ましい。その結果、外部駆動LCD、特に、poly−Si TFT技術を用いたものにとって、歪み点のより高いガラスが一般的に好ましい。このように、装置の加工中に熱収縮が最小限となるように高い歪み点を有するガラスを開発する研究がさかんに行われている。AMLCDの基板の業界において最高の歪み点(666℃)を有するコーニング社のコード1737のガラスが、急速に業界標準となってきている。それらの高い歪み点と同時に、これらのガラスはしばしば、例えば、約1550-1650℃の高い溶融温度を有する。
【0008】
「チップオンガラス(chip-on-glass:COG)」と称される別の技術によって、基板ガラスが熱膨張でケイ素に密接に一致する必要性がさらに重要視された。このように、初期のLCD装置には、基板ガラスにドライバチップが取り付けられていなかった。その代わりに、シリコンチップが離れて取り付けられ、従順なすなわち柔軟な電気配線によりLCD基板回路に接続されていた。LCD装置の技術が改良され、それらの装置が大型化され、より微細な解像度が要求されたので、これらの柔軟な取付けは、費用と不確かな信頼性のために許容されなくなった。この状況のために、シリコンチップのテープ自動接合(Tape Automatic Bonding:TAB)に至った。この方法において、シリコンチップおよびこのチップへの電気接続部がキャリアテープに取り付けられ、そのサブアッセンブリがLCD基板に直接取り付けられ、その後、LCD回路への接続を完了していた。TABは、信頼性を改良し、導体の許容密度を約200μmのピッチまで増大させながらコストを低下させた。これらは全て重要な要因である。しかしながら、COGは、これら三つの要因に関して、TABよりも優れた改良を提供する。LCD装置のサイズおよび品質の必要条件が増大しているので、集積回路のシリコンチップの使用に依存するこれら装置には、COGが要求されている。この理由のために、基板ガラスは、好ましくは、ケイ素の線熱膨張係数と密接に一致する線熱膨張係数、すなわち、約32-46×10−7/℃の間、最も好ましくは、32-40×10−7/℃の間の線熱膨張係数を有する。
【0009】
フラットパネルディスプレイ用途に製造されるほとんどのガラス、特に、ダウンドロー法(例えば、フュージョンまたはスロットドロー法)により形成されるガラスは、特に工程の清澄および状態調節部分において、耐火性金属、例えば、白金または白金合金からなる製造設備を用いて溶融または形成される。ここで、耐火性金属は、ガラスと酸化物の耐火性材料との接触により生じる気体状混入物および均質性における組成物の形成を最小限にするために用いられている。さらに、これらの製造工程の多くに、清澄剤としてヒ素が用いられている。これは、ヒ素が知られている最高温度の清澄剤の中の一つであるからである。このことは、ヒ素が溶融ガラス浴に加えられたときに、高溶融温度(例えば、1450℃より高い)でさえもガラス溶融物からOを放出できることを意味する。この高温でのOの放出は(ガラス製造の溶融および清澄段階最中の気体の除去を補助する)、より低い状態調節温度でのO吸収の強い傾向(ガラス中の残留気体状混入物の崩壊を補助する)と組み合わさって、気体状混入物を実質的に含まないガラス製品が得られる。さらに、このヒ素の清澄パッケージの酸化性質のために、混入金属が減少した結果として汚染を防ぐことにより、白金ベースの金属システムを保護することができる。他の清澄剤は典型的に、溶融温度の高いガラスに清澄剤として加えられたときに溶融し、酸素を早すぎる時期に放出し、状態調節工程中の遅すぎる時期にOを再吸収し、それによって、清澄能力を果たすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,824,808号明細書
【特許文献2】米国特許第3,338,696号明細書
【特許文献3】米国特許第3,682,609号明細書
【特許文献4】米国特許第5,374,595号明細書
【特許文献5】米国特許出願第08/736,848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
環境の観点から、清澄剤としてヒ素を使用する必要なく、融点および歪み点の高いそのようなガラスを製造する別の方法を見つけることが望ましい。ダウンドロー法(特にフュージョン法のような)によりそのようなガラスを製造する方法を見つけることが特に望ましい。残念ながら、そのようにする以前の努力は、ガラス中に許容できない量の気泡が発生することにより妨げられていた。このことは、溶融ガラスの供給システムに白金または白金含有合金のような耐火性金属を用いたガラスについて特に問題となっている。これは、白金により、ガラスの白金接触領域上またはその付近に気泡が形成される(通常、ふくれ(blistering)と称する)こととなる、ガラスとの電気化学反応が生じることがあるためである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ガラス形成工程の最中にガラス中の水分量を低く維持することにより、通常、高溶融温度(溶融温度はここでは、ガラスが200ポアズの粘度を有する温度として定義される)でそれほど効率的ではない他の清澄成分、例えば、Sb、CeO、SnO、Fe、およびそれらの混合物を、Asの代わりに必要であれば使用して、そのガラスをうまく清澄することができることが分かった。このように、ガラス中の水分量を低く維持することにより、本質的にまたは実質的にヒ素を含まない、融点の高いガラス(すなわち、粘度が200ポアズに対応する温度が約1500℃よりも高いガラス)を形成することができる。実質的にヒ素を含まないとは、そのようなガラスが、0.02モルパーセント未満のAsを有することを意味する(このような量は、原料の不純物の結果として通常存在する)。また、本発明により、製造工程の溶融または形成段階の最中にガラスと接触する白金または白金含有合金を用いた製造システムを用いて、そのような融点の高いガラスを形成することができる。これらの方法は、例えば、コーニング社のコード1737のガラスのような、ダウンドロー法を用いて形成されるガラスの形成に特に適している。
【0013】
ガラス中の水分を測定する方法の一つに、ベータ−OH(β−OH)を測定するものがある。ここで用いられているβ−OHは、IR分光分析法により測定されるガラス中のヒドロキシル含有量の尺度であり、この材料に関しては、約2809nmで生じる、基本ヒドロキシル吸収を用いて測定される。このβ−OHは、2809nmでの材料の線吸収係数(吸光度/mm厚さ)である。以下の方程式が、β−OHが、試料のIR透過率スペクトルからどのようにして計算されるかを示している。
β−OH = (1/X)LOG10(T/T
ここで、Xはミリメートルで表した試料の厚さであり、Tは参照波長(2600nm)での試料の透過率であり、Tはヒドロキシル吸収波長(2809nm)での試料の最小透過率である。この参照波長は、試料における表面反射、散乱、および屈折による信号損失を補い、吸収の生じない領域から、関心のある吸収波長にできるだけ近く選択される。
【0014】
ダウンドローシート形成工程によりヒ素をわずかしか含有しないガラスを形成する本発明の好ましい実施の形態において、バッチ成分は、形成されるガラスが、β−OHレベルにより示されるように、0.5未満、好ましくは、0.45未満、より好ましくは、0.4未満、そして最も好ましくは、0.35未満である水分をその内部に有するように選択される。
【0015】
本発明により形成されるガラスは、好ましくは、0.1モルパーセント未満のAsを用いて形成され、最も好ましくは、Asを実質的に含まない。得られた形成ガラス中にそのようなβ−OH値となるように配合されたケイ酸塩ガラス(特にアルミノケイ酸塩およびホウケイ酸塩ガラス)は、得られたガラス中に存在するAsの量で表して、0.02モルパーセント未満のAsを用いて清澄させられることが分かった。白金ベースの金属供給システムを使用したダウンドロー法を用いて形成した場合でさえも、多量の電気化学的ふくれを生じずに、そのようなガラスを形成することができる。最も好ましい実施の形態において、これらのガラスの清澄を促進させるために、Sb、CeO、SnO、Fe、およびそれらの混合物を単体または組合せで約0.02-2モルパーセントの間の量でそのようなガラスに加える。好ましい実施の形態において、Sbを約0.2-0.5モルパーセントの間の量で加える。
【0016】
ガラスの水分量またはβ−OH値は、様々な方法で減少させることができる。例えば、単にバッチ材料を適切に選択することにより、ガラス中の水分をある程度調節することができる。さらに、ハロゲン化物材料のような乾燥剤を加えることにより、水分を減少させても差し支えない。例えば、ハロゲン化物含有材料を、約0.1-4モルパーセントの間のハロゲン化物、より好ましくは、0.1-2モルパーセントの間のハロゲン化物、そして最も好ましくは約0.1モルパーセントのハロゲン化物の組成を有する最終ガラスが得られる量で加えてもよい。実施例に開示されたガラス組成物を形成する好ましい実施の形態において、例えば、CaClのような4モルパーセントの塩素をバッチに配合して、形成されたガラス中のClを約0.15-0.19モルパーセントとする。
【0017】
さらに、全ての溶解した揮発性気体の分圧の合計を1気圧未満に保持することが望ましい。この結果を促進させる方法の一つに、バッチ材料を適切に選択することにより、得られるガラス中の硫黄の量を制限することがある。好ましくは、バッチ材料は、SOとして表される得られた形成ガラス中の硫黄が、できるだけ少なく、好ましくは、100ppm未満、より好ましくは、50ppm未満、そして最も好ましくは、25ppm未満であるように選択すべきである。
【0018】
本発明による方法は、多量のAlおよびBを含有するケイ酸塩、例えば、60-77モルパーセントのSiO、8-14モルパーセントのAl、および5-17モルパーセントのBを有するガラスを形成するのに有用である。
【0019】
本発明による方法は、例えば、酸化物基準モルパーセントで表して、60-73%のSiO、8-14%のAl、5-17%のB、0-5%のTiO、0-5%のTa、0-5%のMgO、1-13%のCaO、0-8%のSrO、および0-14%のBaOを含む組成を有するガラスのような、歪み点の高いアルミノホウケイ酸塩ガラスを形成するのに特に有用である。
【0020】
より好ましくは、基礎ガラスは、酸化物基準のモルパーセントで表して、64-70%のSiO、9.5-14%のAl、5-12%のB、0-5%のTiO、0-5%のTa、0-5%のMgO、3-13%のCaO、0-5.5%のSrO、および2-8%のBaOを含み、MgO+CaO+SrO+BaOの合計が10-20%である組成を有する。
【0021】
低水分ということを除いて、この好ましい組成範囲内のガラスが、例えば、米国特許第5,374,595号に開示されている。その明細書をここに引用する。本発明により形成された好ましいガラスは、0℃-300℃の温度範囲に亘る32-46×10−7/℃、より好ましくは32-40×10−7/℃の間の線熱膨張係数;630℃より高い、より好ましくは、640℃より高い、そして最も好ましくは650℃より高い歪み点;1125℃未満の液相線温度;ダウンドロー製造法により形成できるように十分な、好ましくは、400,000ポアズより大きい、より好ましくは600,000ポアズ(60,000Pa・s)より大きい液相線粘度;95℃で5重量%のHCl水溶液中への24時間に亘る浸漬後の2mg/cm未満の重量損失;溶融温度および形成温度での失透に対する長期安定性;および1675℃未満での約200ポアズ(20Pa・s)の溶融粘度を有する。本発明の方法を、例えば、米国特許第5,374,595号の実施例として列記したガラスのような、上述した境界に含まれる組成を有するガラスに用いてもよく、それによって、そのようなガラスを、ヒ素を使用する必要なく、清澄し、形成できる。
【0022】
最も好ましいガラスにおいて、低水分に加え、Alのレベルは、Bのレベルより多く、最も好ましいガラスにおいて、その組成は、モルパーセントで表して、65-69%のSiO、10-12%のAl、7-10%のB、0-3%のTiO、0-3%のTa、1-5%のMgO、3-9%のCaO、1-3%のSrO、および2-5%のBaOから実質的になり、MgO+CaO+SrO+BaOの合計が11-15%である。好ましくは、そのようなガラス中のAl:Bの比率は1より大きい。
【0023】
このように本発明により、融点が高い(1500℃より高い)ケイ酸塩シートガラスを形成することができ、それらの形成領域においてモリブデンおよび白金のような耐火性金属を用いた製造工程を用いたケイ酸塩シートガラスを形成することができる。形成領域とは、ここに用いているように、ガラスの最終形状がそのガラスに与えられる前の製造工程の部分を言い、製造工程の溶融、状態調節、および清澄の部分を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明にしたがって使用する湿度制御外囲容器を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、ケイ酸塩ガラス組成物、およびほとんどまたは全くヒ素を用いずにそのようなケイ酸塩ガラス組成物を製造する方法に関するものである。好ましいガラスは、アルミノケイ酸塩またはホウケイ酸塩ガラスである。そのようなガラスの好ましい製造方法は、ダウンドローシート製造法によるものである。ここに用いられているように、ダウンドローシート製造法とは、ガラスシートが、下方に移送されながら形成される、いかなる形態のガラスシート製造法をも意味する。フュージョンまたはオーバーフローダウンドロー形成法において、溶融ガラスが、トラフに流れ込み、次いで、あふれ、パイプの両側から流れ落ちて、ルートとして知られている所(パイプの端部およびガラスの二つのあふれ部分が再結合する場所)で互いに融着し、冷却されるまで下方に延伸される。このようなオーバーフローダウンドローシート製造法が、例えば、米国特許第3,338,696号(ドカーティ)および同第3,682,609(ドカーティ)に記載されている。フュージョン形成法の利点の一つには、ガラス表面をどの耐火性形成表面にも接触させずに、ガラスシートを形成できることがある。このことにより、滑らかで、異物を含まない表面が得られる。さらに、この技術により、非常に平らで、薄いシートを非常に高い許容差まで形成できる。その結果、フュージョン法で形成されたガラスシートには、フロート法によるガラスシートとは異なり、TFTおよびSTN LCD用途のために、費用のかかる研磨工程が必要ない。
【0026】
他の形態のダウンドローシート形成技術としては、スロットドロー(slot draw)およびリドロー(redraw)形成技術が挙げられる。スロットドロー技術において、溶融ガラスが、底部にスロットが機械加工により形成されたトラフ中に流れ込む。ガラスシートは、このスロットを通して引き下げられる。このガラスの品質は明らかに、機械加工により形成されたスロットの精度に依存する。リドロー法は一般的に、ガラス組成物をある形状のブロックに予備成形し、次いで、再加熱し、このガラスをより薄いシート製品へと、下方に延伸する工程を含んでいる。
【0027】
本発明のガラスは、好ましくは、0.2モルパーセント未満のAs、より好ましくは、0.1モルパーセント未満のAs、そして最も好ましくは、0.02モルパーセント未満のAs(この量は、原料の不純物の結果として通常存在する)を有する。
【0028】
ここに記載されている方法は、幅広い様々なガラス、特に、それらの形成領域に白金を用いたダウンドロー製造法により形成されたガラスに適用できる。本発明をコーニング社のコード1737のガラスに適用する例が、下記の表Iを参照して、以下に示されている。これらのガラスは、この種の製品の商業的製造に典型的に使用されているオーバーフローダウンドロー溶融装置と同様の研究所規模の連続溶融装置内で調製した。この実験溶融装置では、白金/ロジウム合金耐火性金属供給システムが用いられ、ここでは、溶融ガラスが白金合金と接触する。表Iの実施例4は、市販されているコーニング社のコード1737のガラスに密接に対応し、得られたガラス中に約0.4モルパーセントが存在するような量のヒ素を用いて清澄した。実施例1、2、および3は、減少した水分量がこれらの条件に与える影響を示している。ガラスのβ−OH値が減少するにつれ、ガラス中の気体状混在物(混在物/ポンド)も減少する。これらの実施例において、気体状の混在物は、主に、溶融ガラスを供給する白金合金のパイプにより生じる電気化学的ふくれの結果であり、そのために、白金のような金属を用いた製造方法を正確に擬態している。気体状混在物は、二、三日の期間に亘りポンド当たりを基準として測定した。実施例により示したように、ポンド当たりの混在物は、β−OH値が各々減少するにつれ、著しく低下した。このことを、清澄剤としてAsを使用する必要なく行ったという事実は、大変重要なことである。
【0029】
表Iは、本発明を説明する、酸化物基準重量部で表した、β−OHレベルが変更された類似のガラス組成物を列記している。個々の成分の合計がほぼ100であるので、全ての実際的な目的のために、列記した値が重量パーセントを表すものと考えてもよい。表IAは、酸化物基準のモルパーセントで表した同一のガラス組成を列記している。実際のバッチ成分は、他のバッチ成分と互いに溶融したときに、適切な比率で所望の酸化物に転化される、酸化物または他の化合物のいずれの材料からなっていてもよい。例えば、SrCOおよびCaCOを、それぞれ、SrOおよびCaOの供給源とすることができる。実施例3において、Clを、バッチの量を超過して0.2重量パーセントのレベルでCaClとして加え、得られたガラス中で約0.087重量パーセントのClを維持した。実施例1および4に、バッチを超過した約2.7重量パーセントの水を加えた。
【0030】
表Iはまた、ガラス業界において慣習的な技術によりガラスについて求められるいくつかの化学的および物理的特性の測定値を列記している。すなわち、×10−7/℃で表された、0℃-300℃の温度範囲に亘る線熱膨張係数(CTE)、並びに℃で表された、軟化点、アニール点および歪み点を、ファイバの伸びにより測定した。HCl中の耐久性は、95℃で5重量%のHCl水浴中に24時間に亘り浸漬した後の重量損失(mg/cm)を測定することにより求めた。
【0031】
ガラスの液相線温度を標準的な液相法を用いて測定した。この方法は、破砕したガラス粒子を白金製のボート形容器中に配置し、この容器を傾斜温度の領域がある炉内に配置し、この容器を適切な温度領域内で24時間に亘り加熱し、顕微鏡試験により、ガラス内部に結晶が現れる最高温度を求める各工程を含んでいる。溶解温度(℃で表される)(ガラス溶融物が200ポアズ[20Pa・s]の粘度を示す温度として定義されている)を、高温粘度データに対してファルチャー方程式を用いて計算した。液相線粘度もまた、ファルチャー方程式の係数を用いて計算し、×1,000,000ポアズ(100,000Pa・s)で表されている。SnOを、製造の溶融条件を再現するのに適切な量で実施例1−3に加えた。ここで、ガラスを溶融するのに用いたスズ電極のために、得られたガラス中に酸化スズが残留する。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
これらの実施例は、上述した組成範囲内に含まれるガラスのようなアルミノホウケイ酸塩ガラスが、ダウンドロー製造法を用いて製造できることを示している。これら実施例は、説明を意図するものであって、制限を意図するものではない。
【0035】
本発明の好ましい実施の形態において、ガラスと接触するところに白金、モリブデン、パラジウム、ロジウムまたはそれらの合金を用い、ガラス中またはこの製造容器の内側の水素の蒸気分圧に対する、製造システムのこの部分の外側の水素の蒸気分圧を用いた、製造システム内でガラスを形成する。この容器の外側の水素の分圧は、例えば、容器の一部を外囲容器内に包囲し、所望のように、この外囲容器内の水素の分圧、または露点を変更することにより制御することができる。ガラス製造システムの白金またはモリブデン含有部分の外側に対する内側の水素の相対分圧をそのように制御することにより、白金またはモリブデンを用いたそのようなガラス製造システム内の、これまで問題であった表面のふくれの量を制御し、そして所望の場合には、減少させることができる。このシステムの内側と外側の蒸気分圧は、例えば、システムの内側と外側の水の蒸気分圧を制御することにより制御することができる。形成容器の外側に対する内側の所望の相対分圧は、この形成容器が、ガラス接触材料として白金またはモリブデン(またはパラジウムまたはロジウム)を含有するか否かに依存する。
【0036】
例えば、白金は、主にその不活性特性のために、ガラス形成容器に使用するのに望ましい。しかしながら、白金のために、水素がガラス溶融物からその白金に移行してしまい、それによって、表面ふくれが生じることとなる、ガラス/白金界面で酸素が豊富な層が形成される。その結果、白金製のガラス製造容器に関して、水素の内側と外側の相対分圧を実質的に等しく維持して、そのガラス製造容器への、またはその容器からのいずれかの水素の移行が生じないようにすることが最も望ましい。しかしながら、いずれかの移行が生じてしまった場合、外側から内側に移行することが望ましく、したがって、別の実施の形態においては、白金またはモリブデン製の製造容器の外側の水素の分圧を、その容器の内側の分圧よりも高いレベルに維持する。
【0037】
一方で、モリブデンは、酸化物の溶融物に対する還元剤として機能する。したがって、モリブデン含有形成容器の内側の水素の分圧よりも低いこの形成容器の外側の水素の分圧を維持して、ガラス成分の還元の結果として形成されるふくれの量を減少させることが望ましい(例えば、溶解したSOの還元の結果としてのSO気泡の形成)。
【0038】
別の好ましい形態において、測定装置を用いて、製造容器の外側に対する内側の水素の相対分圧を測定し、次いで、それに応じて、容器の外側の湿度または露点を制御する。そのような測定装置の好ましい例が図1に示されている。白金容器10には、溶融ガラス13がそこを通って流動する白金壁12が設けられている。容器10の白金壁12は、いかなる形状(例えば、断面で円形または長方形)を有していても差し支えなく、容器10を通る溶融ガラスの流動方向は重要ではない。白金フラグ電極14が溶融ガラス中に浸漬されている。白金フラグは、白金製のフラグシートであり、白金の両側が溶融ガラスに接触し、したがって、このフラグは水素を浸透することがない。また、溶融ガラス13中には白金管20が浸漬されており、その内部は、白金容器10の外側の雰囲気と接触している。フラグ電極14および白金管20の両方は、絶縁材料24を介して白金製造容器10から隔てられている。次いで、これらフラグ電極14および白金管20は、図1に示したように接続される。コントローラ15を用いて、電極14および20の間の目標電位を維持するのに必要な可変直流電源16からの電圧を調節する。次いで、この電圧を維持するのに必要な電流を、白金壁20並びに白金壁12を通る水素の流動の指標として電流計17から読み取る。例えば、電流の上昇は、ガラスの外側から、Pt装置の外側の雰囲気中への水素の移行率の正味の減少を示す。反対に、電流の減少は、ガラスの外側から、その雰囲気中への水素の移行率の正味の増加を示す。
【0039】
図1に示した装置は、外囲容器30(略図として示されている)により囲まれており、それによって、白金容器10を囲む水素の分圧を制御することができる。このように、上述した測定装置が目的電位からの変化を示す場合には、外囲容器30の内側の湿度を調節してこの変化を補正することができる。本発明の範囲内の他の変更例が当業者には明らかである。例えば、フラグ14および白金管20の間の電位を、電圧調整器、および測定した電圧に対して発せられた信号により単にモニタしても差し支えない。次いで、この信号は、信号に応答して、外囲容器内の湿度または露点を増加または減少させることのできる制御装置に送られる。さらに、図1においては容器10の一部のみが囲まれているけれども、好ましい実施の形態においては、白金容器を用いた製造工程の全部分が囲まれている。明らかに水素の分圧が直接的に変更される場合には、同様の制御装置を変更しても差し支えない。
【0040】
水素の相対分圧のそのような制御、並びに上述した測定装置が、米国特許出願第08/736,848号に詳細に説明されており、その明細書をここに引用する。
【0041】
説明を目的として、本発明を詳細に説明してきたけれども、そのような詳細は、その目的のためのみであり、以下の請求の範囲により定義されている本発明の精神および範囲を逸脱せずに、当業者は変更を行っても差し支えないことが理解されよう。
図1