(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795430
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】熱伝導ガスの噴射による熱処理
(51)【国際特許分類】
H01L 21/324 20060101AFI20150928BHJP
H01L 51/48 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
H01L21/324 J
H01L31/04 186
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-509791(P2014-509791)
(86)(22)【出願日】2012年5月3日
(65)【公表番号】特表2014-519701(P2014-519701A)
(43)【公表日】2014年8月14日
(86)【国際出願番号】FR2012050994
(87)【国際公開番号】WO2012153046
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2013年12月4日
(31)【優先権主張番号】1154015
(32)【優先日】2011年5月10日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504462489
【氏名又は名称】エレクトリシテ・ドゥ・フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】500174661
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・レシェルシュ・サイエンティフィーク−セ・エン・エール・エス−
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・サヴィダン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・リンコ
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−001560(JP,A)
【文献】
特開2006−024896(JP,A)
【文献】
特開2007−269589(JP,A)
【文献】
特表2010−526439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−制御された温度で熱伝導ガスを予熱する又は予冷する段階と、
−前駆体上に予熱された又は予冷されたガスを噴出する段階と、を含む、温度で反応する前駆体の熱処理方法であって、
−毎秒数十℃のオーダーで、ガスを受ける前駆体の表面で温度上昇を引き起こすために高温ガスを噴出する一以上の段階と、
−実質的に一定の温度で前駆体を保持する一以上の段階と、
−毎秒数十℃のオーダーで、ガスを受ける前駆体の表面で温度低下を引き起こすために冷却ガスを噴出する一以上の段階と、を含み、
前記加熱段階又は冷却段階が、前駆体のために選択された熱処理シーケンスに関して、ガスを受ける前駆体の表面に適用される温度の経時変化のためのプロファイルを定義する、あらかじめ定められた連続的なものとして、次々とやってくることを特徴とする方法。
【請求項2】
熱伝導ガスの温度に加えて、前記ガスが前駆体上に噴出されたときに、ガスの流量(D)も制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
熱伝導ガスの温度に加えて、前駆体と、前駆体上にガスを噴射するための排気口(5)との間の距離(x)が制御される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
熱伝導ガスが、水素、アルゴン、及び窒素の内の少なくとも一つの元素を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
ガスの予熱が、1000℃のオーダーでのガス温度の上昇を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
ガスの噴射が、毎分数リットルのオーダーで噴出されたガスの流量に関して、ガスを受ける前駆体の表面上で毎秒数十℃のオーダーでの温度上昇を引き起こす、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前駆体の、その表面での温度上昇が、数十秒で少なくとも400℃に達し、前駆体と前駆体上にガスを噴出するための排気口(5)との距離(x)が5センチメートル未満である、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
冷却ガスの噴射を含み、数秒で100℃のオーダーで、冷却ガスを受ける前駆体の表面の冷却を引き起こす、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
光起電力特性を有するI−III−VI2合金の薄膜を、熱処理の後で、基板上に得るために、前駆体が、元素の周期分類の、列1及び3、並びに場合によってはVIからの原子種を含む、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
I2−II−IV−VI4合金の薄膜を、熱処理の後で、基板上に得るために、前駆体が、元素の周期分類の、列I、II、及びIV、並びに場合によってはVIからの原子種を含む、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
II−IV−V合金の薄膜を、熱処理の後で、基板上に得るために、前駆体が、元素の周期分類の列II、及びIV、並びに場合によってはVからの原子種を含む、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の方法を実行するための熱処理装置であって、
−ガス加熱手段(12、14)及びガス冷却手段(22、24)を含むガス分配回路(1、3)と、
−前記回路を終了する、前駆体上にガスを噴射するための噴射装置(5)と、を含むことを特徴とし、
温度で反応する所与の前駆体に関して、前記ガス分配回路及び前記噴射装置が、
−毎秒数十℃のオーダーで、ガスを受ける前駆体の表面で温度上昇を引き起こすために高温ガスを噴出する一以上の段階と、
−実質的に一定の温度で前駆体を保持する一以上の段階と、
−毎秒数十℃のオーダーで、ガスを受ける前駆体の表面で温度低下を引き起こすために冷却ガスを噴出する一以上の段階と、を実行するように構成され、
前記加熱段階又は冷却段階が、前駆体のために選択された熱処理シーケンスに関して、ガスを受ける前駆体の表面に適用される温度の経時変化のためのプロファイルを定義する、あらかじめ定められた連続的なものとして、次々とやってくることを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
加熱手段が、抵抗器を流れる電流によって熱を解放することが可能な熱抵抗器(14)を含み、加熱手段が、抵抗器の加熱温度を調節するために、前記電流の強度を制御するためのポテンショメーター(12)をさらに含む、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
冷却装置が、ペルチェ効果モジュール及び/又は冷却回路(24)、並びにガスの冷却温度を調整するためのポテンショメーター(22)を含む、請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
ガス分配回路が、ガスを止めるための、及び/又は噴射されたガスの流量を調節するための、少なくとも一つのバルブ(V1,V2)を含む、請求項12から14の何れか一項に記載の装置。
【請求項16】
噴射装置と前駆体との間の距離(x)を調節するために、前駆体に対して、少なくとも高さにおいて、噴射装置を動かすための手段を含む、請求項12から15の何れか一項に記載の装置。
【請求項17】
噴射装置から放出するガスの噴射の軸に対して垂直な方向に進むベルト(51)上で、噴射装置(3)に対して、前駆体を動かすための手段を含む、請求項12から16の何れか一項に記載の装置。
【請求項18】
前駆体は、フレキシブル基板上に堆積された薄膜であり、装置は、基板が巻きかけられている二つの電動ローラー(R1、R2)をふくみ、ローラーの動きは、一つのローラーの周りで基板を巻き、他のローラーからほどき、噴射装置(3)に対して、噴射装置(3)から放出するガスの噴射の軸に対して垂直な方向に、前駆体を進める、請求項12から16の何れか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料のための熱処理の分野に関するものであり、特に薄膜材料、及びより具体的には急速加熱処理として知られる材料の熱処理に関するものである。これらの方法は典型的には、略1分の時間で少なくとも700℃の上昇が達成可能である。
【0002】
この技術は、基板上に堆積された薄膜を有する半導体をアニーリングすることに関して特に有利である。
【背景技術】
【0003】
熱処理が適用される炉の慣性は、このタイプの技術において継続的な問題である。温度上昇(及び、特に急冷効果だけではないが、冷却)を制御することは困難である。
【0004】
加えて、温度センサーは、可能な限り正確に温度を決定するために、慣例的に及び必然的に、発熱体の近くに、且つ基板の近くに配される。そのため、このタイプの方法を、大きな寸法の基板へと、工業的に適用することは多大なコストを発生させる。
【0005】
複数のタイプの技術に基づいた急速加熱処理方法が現在知られている。
−赤外線アニーリング:用いられる波長は、短い赤外線(0.76μmから2μm)、又は中くらいの赤外線(2μmから4μm);基板の(及び基板上の層の)温度は、赤外線エミッタによって放射される出力によって制御され、非常に速い上昇を受け、例えば1分未満で700℃に達することが可能である;
−ホットチャンバー内での前進によるアニーリング:基板が、場合によっては中間温度でバッファーチャンバーを介して、クールチャンバーからホットチャンバーへと進み、温度上昇は前進の速度によって制御される;
−誘導アニーリング:基板が、磁性基板ホルダー上に配され、磁場が印加され、基板ホルダー内に誘導電流が生成され、そのためジュール効果によって基板ホルダーが加熱され、基板が加熱される。
【0006】
しかしながら、第一のタイプの方法は、特定の不利な点を有する。
−それは、光を用いて達成される、間接的なアニーリングプロセスに関する;
−さらに、反応チャンバーの熱挙動は、基板の光学特性に依存する;
−加えて、温度上昇を制御可能であるが、急冷効果は制御可能ではない。
【0007】
これらの要因は、温度制御を困難にする。
【0008】
第二のタイプの方法は、ホットチャンバーを用いることにより、固定された温度を維持するという不利な点を有する。チャンバーは、基板の表面積に適応した寸法を有していなければならず、エネルギー消費を増大し、それ故、産業上の利用のコストを増大を増大させる。
【0009】
第三のタイプの方法の明確な利点は、温度上昇の速度(毎秒数百度)である。しかしながら、特定の用途では、基板はガラスから作製され、そのため、(基板ホルダーに接触する)その下面で、その上面よりも非常に急速に熱くなり、ガラスの厚さにわたって温度勾配が生成される。結果として熱応力はしばしばガラスを破壊する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した全ての方法では、試料の実際の温度を測定することは困難であるか、不可能でさえある。温度測定は、常に(基板ホルダー上で、炉の壁上で、又は他の配置であり)間接的である。
【0011】
本発明の目的は、この状況を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、温度で反応する前駆体の熱処理のための方法は、制御された温度まで熱伝導ガスを予熱又は予冷する段階と、前駆体上に予熱された又は予冷されたガスを噴出する段階とを含む。
【0013】
高温ガスの噴射による熱処理は、基板の、及びそれが支持する薄膜の温度を調整することを可能にする。高い熱容量を備えるガスが好ましくは選択される。例えば、アルゴンは良い候補である。なぜなら、不活性ガスであり(且つそれ故、薄膜と望ましくない反応をしない)、高い熱容量であるからである。従って、ガスの温度は、急速に上昇し、そのため基板の表面に直接的に熱を供給する。
【0014】
もはや基板の近くに温度センサーを配する必要はなくなる。ガス噴射は連続的である。加熱(及び冷却)中の温度の制御は、有利には安価に実施される技術を用いて達せいされる。温度の上昇及び減少を管理するツールは、基板の加熱及び冷却の両方を合わせて制御することを可能にする。基板の表面でのガスの噴射は、適用される実際の温度を制御することを可能にする。
【0015】
熱伝導ガスの温度に加えて、前駆体上に噴射された際のガスの流量もまた制御される。
図4(a)及び
図4(b)を参照すると、このパラメータはガス噴射を受ける前駆体の表面温度に影響を有する。
【0016】
熱伝導ガスの温度に加えて、前駆体と、前駆体上にガスを噴射するための排気口との間の距離もまた制御される。再び以下で説明される
図4(a)及び
図4(b)を参照すると、このパラメータもまたガス噴射を受ける前駆体の表面温度に影響を有する。
【0017】
熱伝導ガスは、水素、アルゴン、及び窒素の内の少なくとも一つの元素を含み得、これらのガスはそれらの熱輸送能力のために有利である。
【0018】
ガスの予熱は、以下で説明される具体的な実施形態では、1000℃のオーダーのガス温度の上昇を含む。
【0019】
これらの状況下において、ガスの噴射は、毎分数リットル(例えば毎分3リットルと6リットルとの間)のオーダーで噴射されたガスの流量に関して、ガスを受ける前駆体の表面で毎秒数十℃のオーダーでの温度上昇を生成する。
【0020】
その表面での前駆体の温度上昇は、前駆体と前駆体上に噴射するガスのための排気口との間の距離が5センチメートル未満で、数十秒で少なくとも400℃に達することが可能である。
【0021】
冷却に関して、本方法は、例えば急冷効果を生成するためのアニーリングの後で、冷却ガスの噴射を追加的に含み得る。有利には、冷却ガスを受ける前駆体の表面は、数秒で100℃付近の速度で冷却され得る。
【0022】
上述されたこのような実施形態は、熱処理の後で、光起電力特性を有するI−III−VI
2合金の薄膜を基板上に得るために、特に限定するものではないが、元素の周期分類の列I、及びIII、場合によってはVIからの原子種を含む前駆体に関して有利である。また、I
2−II−IV−VI
4合金を形成するために、列I、II、IV、VI(好ましくは、Cu,Zn,Sn,S,又はSe)からの元素も考慮され得る。また、リン等の、列Vからの元素が、特にII−IV−V合金(例えばZnSnP)の生成のために考慮され得る。
【0023】
また、本発明は、上述した方法を実行するための熱処理装置に関するものであり、ガス加熱手段、及び/又はガス冷却手段を含むガス分配回路と、回路を閉じる、前駆体上にガスを噴射するための噴射装置とを含む。
【0024】
以下の詳細で説明される実施例の実施形態では、噴射装置は単純に、前駆体上にガスを噴射するための管(3)の(
図8(a)又は
図8(b)における参照番号5が付された)口の形状であり得る。
【0025】
一つの可能性のある実施形態では、加熱手段は、抵抗器に流れる電流によって熱を解放することが可能な熱抵抗器を含む。従って、加熱手段は、抵抗器の加熱温度を、それゆえ噴射されたガスの温度を調節するために、電流の強度を制御するための回路を追加的に含み得る。
【0026】
冷却手段は、ペルチェ効果モジュール及び/又は冷却回路を、並びにガスの冷却温度を調節するための制御回路を含み得る。
【0027】
ガス分配回路に少なくとも一つの(以下の説明で見られることになるであろう二つの操作を有する噴射のための)ガス停止バルブを備えることは有利である。このバルブは、噴射されたガスの流量を調節するためにも用いられ得る。
【0028】
有利には、装置は、噴射装置と前駆体との間の距離を(それ故
図4(a)及び
図4(b)を参照して以下で説明されるような前駆体の表面での温度を)調節するために、少なくとも高さで(場合によっては垂直配置において)、前駆体に対して噴射装置を動かすための手段を含む。
【0029】
また、装置は、噴射装置から放射されたガスの噴射の軸に対して垂直な方向に進むベルト上で、噴射装置に対して前駆体を動かすための手段を含み得る。“バッチ”タイプの方法を実施するためのこのタイプの装置の一実施例は、
図8(a)を参照にして以下で説明されるであろう。このタイプの方法は、柔軟性の無い基板、例えばガラス基板上に堆積された前駆体に関して特に有利である。
【0030】
前駆体がフレキシブルな基板上に堆積された薄膜である場合、装置は、“ロールトゥーロール”タイプの方法によって動作するように設計され得る。この目的のために、装置は、基板が巻かれる二つの電動ローラーを含み、ローラーは一つのローラーの周りで基板を巻くように、且つ他のローラーからほぐすように動作し、噴射装置から放射するガスの噴射の軸に対して垂直な方向に、噴射装置に対して相対的に前駆体を進ませることになる(ローラーがR1、R2で示される図((b))。
【0031】
もちろん、本発明の他の特徴及び優位点は、以下で示される、いくつかの可能な実施例の実施形態の詳細な説明と、添付の図面とから明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明を実施するための装置を概略的に示す。
【
図2】本発明の方法を実行することによってアニールされる前駆体の領域を具体的に示す。
【
図3】熱特性評価のために用いられる装置を概略的に示す。
【
図4a】流量Dが毎分3リットルとして、噴出管におけるガスの流量D、及びこの管の排気口と前駆体との間の距離x等のガス噴射パラメーターの関数として、反応温度Trの経時変化を示す。
【
図4b】流量Dが毎分6リットルとして、噴出管におけるガスの流量D、及びこの管の排気口と前駆体との間の距離x等のガス噴射パラメーターの関数として、反応温度Trの経時変化を示す。
【
図5】ガス温度の上昇及び減少速度を制御するための発熱体の並列の組み合わせを示す。
【
図6】ガス温度の上昇及び減少の速度を制御するための発熱体の直列の組み合わせを示す。
【
図7】
図5又は
図6において示された装置を用いることで可能な熱処理温度変化の実施例を示す。
【
図8a】バッチタイプの実装で、工業規模の生産ラインに統合された装置の実施例を概略的に示す。
【
図8b】ロールトゥーロールタイプの実装で、工業規模の生産ラインに統合された装置の実施例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下は、光起電力特性を備えカルコパイライト結晶構造を有するI−III−VI
2合金の生産に対する本発明の方法の用途の非限定的な説明である。目的は、反応性雰囲気において制御された圧力で(薄膜型である)前駆体の反応を引き起こすことである。“I”(及び“III”及び“VI”)は、銅(それぞれ、インジウム及び/又はガリウム及び/又はアルミニウム、並びに、セレン及び/又は硫黄)等の、元素周期分類の列I(それぞれIII及びVI)からの元素を意味する。従来の実施形態では、前駆体は、群I及びIIIの元素を含み、(以下で“還元性アニーリング”(reductive annealing)と定義される)第一アニーリングの後でI−III合金の形状で得られる。群I及びIIIの元素が、この第一アニーリングの後で得られる合金として組み合わされると、VI元素の存在下で、それらがI−III合金へと組み合わせるために、且つ最終的なカルコパイライトI−III−VI
2合金の結晶化を達成するために、反応性アニーリングが実施される。この反応は、本願明細書中では“セレン化”及び/又は“硫化”と呼ばれる。
【0034】
もちろん、他の一つの実施形態では、群VIの元素が初めから前駆体層に存在していてもよく、本発明の方法は、前駆体をアニールするために高温ガスを噴射し、I−III−VI
2の化学量論でその結晶体を得るものである。
【0035】
以下で与えられる説明では、以下の用語が用いられる。
−前駆体:一以上の以下の元素:Cu,In,Ga,Al,だけでなく場合によってはSe,S,Zn、Sn,O、から成る、基板上の堆積物;
−還元性アニーリング:少なくとも一つの以下の構成要素:アルコール、アミン、水素(H
2)を含むガスによる前駆体のアニーリング;
−反応性アニーリング:事前の還元性アニーリングを受け得る、又は受けないことがあり得る前駆体を、反応性元素と反応させることから成る結晶化反応;
−D:前駆体上に噴射されたガスの流量;
−x:基板と、前駆体上にガスを噴出するための管の口との間の距離;
−T:構成要素を加熱するためのガスの温度;
−Tr:前駆体表面でのアニーリング温度。
【0036】
図1を参照すると、ガスの流入流1は、電力2が供給される発熱体4を含む管3を含むサーマルチャンバー内で、例えば温度上昇の、温度変化を受ける。管3からの排気口5では、ガスは、管3におけるその流量D及び発熱体4の温度T
0の関数である温度T(0、D、T
0)を有する。
図1の参照番号6は、Cu,In、Ga,Zn,Sn,Al,Se及び/又はSに基づく前駆体を表し、温度Tr(x、D、T
0)で熱処理(以下の説明ではアニーリング)を受ける。このアニーリング温度Trは、ここで再度、流量D及び発熱体の温度T
0に依存するだけでなく、前駆体6を、管3の口5から離す距離xに依存する。加えて、有利には、ガス回収回路7があり得る。より具体的には、噴出されたガスは、続く再加熱及び前駆体上への再噴出のために回収されることがあり、閉じられた回路を形成し得、これはコストの側面から有利である。
【0037】
図2に示されるように、高温ガスの推進によるアニーリングの利点は、基板B上の前駆体の表面Aのみがアニーリングされるという事実を含む。実際、ガスの推進は、前駆体の表面に直接作用し、(領域Aを)局所的にアニーリングすることを可能にすることが観察されている。他の部分(部分B)は、異なって加熱される(より小さい程度に、且つより重要には遅い速度で加熱される)。
【0038】
この特性は、熱変動を含む状況下で基板が機械的に脆弱である場合に特に有利である。例えば、慣例的に太陽パネルの製造に用いられる、しばしば中間モリブデン層を備えI−III−VI
2光起電力層が堆積されるガラス基板に関しても当てはまる。
【0039】
そのため、前駆体の表面上でのこのような局所的なアニーリングの第一の利点は、ガラス基板の破損を避けることである。
【0040】
管3の排気口5の平面への距離xと、ガスの流量Dとの関数である、チャンバーから排出されるアルゴン流の温度の測定が得られる。
【0041】
この実施例の実施形態では、用いられるガスは、装置の入り口1で1バールの圧力Pであるアルゴンであり、室温(略20℃)である。
【0042】
排気口5でのガスの温度を測定するための装置の構成要素は、
図3で示される。温度設定点T
0(例えばT
0=1000℃)が発熱体に対して与えられる(例えば、ポテンショメーター等の可変抵抗器を含む制御回路を用いることで、例えば抵抗ヒーター等の発熱体4の終端での強度を調整する)。ガスの流量Dは、注入口1から上流のバルブ(
図3に図示されない)が開かれる度合いによって管理され得、設定点の値D=D
0を有し得る。しかしながら、ここでは、特にチャンバーからの排気口5での(例えば定規メス(MES)によってセンチメートルで与えられる)距離xの関数としての温度T
rを測定することが目的である。
【0043】
異なる測定距離xに関する、時間に伴う温度Trの変化が、毎分3リットルのガス流量D(アルゴン)に関して
図4(a)で示される。時間に伴う同様の変化が、毎分6リットルの流量Dに関して、
図4(b)で示される。x軸上での時間“0”は、チャンバー1内へガスを噴射するバルブが開かれる瞬間に対応する。
【0044】
そのため、
−排気口5からの距離が大きい程(距離xが増加すること)、到達する温度Trの減少が大きい;
−流量Dの増加(decrease)が大きい程、温度Trは速く増加し、且つ到達する温度Trが距離に依存しない、ことを観測することが可能である。
【0045】
従って、本発明の第二の利点は、ガスの流量D、及び排気口5に対する基板の配置xを制御することによって、前駆体上に噴射されるガスの温度Trを厳密に制御することが可能なことから成る。
【0046】
図5及び
図6に、低い熱慣性の加熱/冷却素子の組み合わせを用いる装置を示す。
図5は、加熱素子と冷却素子の並列の組み合わせを示す。流入ガス1は、三方向バルブV1を用いて、二つの回路(温度設定点Tcを備える熱い回路、及び温度設定点Tfを備える冷たい回路)へ向かう。ガスが(調整可能な電源12によって制御される抵抗ヒーター14を含む)熱い回路を通り抜ける場合、その温度は(例えばポテンショメーターを含む、)例えば供給電圧12を設定する制御回路によって制御される。その後、ガスはその進路に従い、三方向バルブV2を介して、管5を出て、前駆体の表面を加熱する。バルブV1によって(例えば制御可能な電源22によって制御される冷却回路24を含む)冷たい回路に向かう場合は、ガスは冷却され、その冷却温度は、(例えばポテンショメーターを含む、)例えば供給電圧22を設定する制御回路によって制御される。
【0047】
電源12及び22が制御可能な場合、二つの独立した(一つが熱く、一つが冷たい)管を提供する必要はなく、
図6を参照すると、有利には、加熱素子と冷却素子との直列の組み合わせの使用し得る。冷却素子24の冷却温度Tfは、その供給電圧22によって制御され、供給電圧12を備える発熱体14についても同様である。加えて、冷却ガスに発熱体14を通り抜けさせて、その冷却を加速するために、冷却素子24の冷却を使用することが可能である。
【0048】
図7は、固定された距離xでの前駆体配置に関して、流量Dの変化を
図6における構成要素からの熱と組み合わせることによって適用された、セレン化に有利な実施例の温度増加/減少プロファイルを示す。
【0049】
ガスの温度は、1分で、室温(例えば25℃)から600℃へと昇温される。発熱体の温度は上昇する。600℃で1分間安定状態を維持するために一定に保たれる。その後、冷却素子が関与し、この場合1分以内に400℃までガスを冷却する。二つの加熱素子及び冷却素子の供給電圧は一定に保たれ、ガス流量は400℃で1分間の安定状態を維持するために安定して保持される。最後に、ガスは、例えば急冷効果を引き起こすために、2分で400℃からー10℃へ冷却される。この間、発熱体は止められ、冷却素子が動作する。
【0050】
そのため、本発明の方法は、有利には、
−毎秒数十℃のオーダーで、ガスを受ける前駆体の表面で温度上昇を引き起こすために高温ガスを噴出する一以上の段階と、
−実質的に一定の温度で前駆体を保持する一以上の段階と、
−毎秒数十℃のオーダーで、ガスを受ける前駆体の表面で温度減少を引き起こすために冷却ガスを噴出する一以上の段階と、を含むことが理解される。
【0051】
場合によっては、これらの段階は、
図7に示されるように、加熱する期間、温度を保持する期間、又は冷却する期間と定義される連続的な期間になるように交換され得る。
【0052】
特に、加熱する段階、温度を保持する段階、又は冷却する段階というこれらの段階は、前駆体のために選択された熱処理のシーケンスに関して、
図7に示された実施例のプロファイルのような、ガスを受ける前駆体の表面に適用される温度の経時変化に関するプロファイルを定義する予め定められた連続的なものとして、次々とやってくる。
【0053】
以下は、噴出されたガスの温度を制御するための装置に関して、可能性がある選択の実施例である。
【0054】
例えば、鉄、クロム、ニッケル、及びアルミニウムの合金から成り、1400℃まで昇温可能な(線状又はワイヤー状の)抵抗ヒーターは、発熱体14のために用いられ得る。これらは市販されている(例えばスウェーデンの会社Kanthalによって提供される)。
【0055】
冷却素子に関して、ペルチェ効果モジュール、又は、パイプコイルを通り抜ける冷却ガスの回路が用いられ得る。ペルチェ効果モジュールは、以下のように機能する熱電冷却システムである:モジュールに印加されたポテンシャル差が、室温未満の18℃まで冷却し得る。さらなる温度降下のために、0℃未満の値に到達可能な蒸気圧縮システムとして知られるものがある。市販されるガス冷却器があり、これらの製品のいくつかは、www.directindustry.frのサイトで見つけることができる。
【0056】
本発明を適用することによって、高温ガスの推進を用いて、試料の表面上で1分の半分未満で500℃のオーダーで、超急速の温度変化を達成することが可能であり、熱慣性なしで同様のことが可能である。工業規模の太陽パネル生産ラインに本発明の方法を統合することは、非常に短い温度保持時間(例えば、前駆体における元素VIの空アニーリングに関して1分から5分)を要求する高速アニーリングによって、特に有利である。
【0057】
図8(a)を参照すると、“バッチ”方法によってアニールされる試料は、ラインに沿って1列になって進む。試料52は、コンベアーベルト51上に1列で到着し、ベルトは熱処理のためのガス噴出管3(矢印54)の下に、それぞれの前駆体を持ってくる。ベルトは、前駆体を処理するのに必要な時間止まる。処理期間が終わるとすぐに、ベルトは前の方向53に進むことによって次の試料を持ってきて、シーケンスが繰り返される。このような方法は、基板が固くて曲がらない、例えばガラス基板のときに特に適切である。
【0058】
これから我々は、
図8(b)を参照して、基板6がフレキシブルな場合(例えば、“ロールトゥーロール”工程においてローラーR1、R2の間に巻かれている金属又はポリマーの帯)の方法を説明する。この場合、前駆体を運ぶ基板6は、糸巻から巻き戻され、処理はその基板上で直接適用される(矢印54)。
【0059】
前述の実施形態(
図8(a))と同様の方法で、前駆体は、ローラーR1、R2の動作によって徐々に巻き戻される。処理される部分は、噴出管3の下に持ってこられる。その後、巻き戻しは止められる。処理の後、前駆体の他の一つの(未処理の)部分は、ローラーR1、R2を動作させることによって置換され、工程が繰り返される。
【0060】
本発明は、管3に対する(及び/又は管3から上流の)注入口での単純な電磁弁が、高温(又は冷却)ガスの通り抜けを可能にするので、完全に自動化された方法で実施されることができる。このような電磁弁の機能におけるオンーオフ設計は、そのプロセス時間に対して正確な関係で前駆体のための前進時間を決定することが可能である。
【0061】
そして、前駆体の前進と、その熱処理とを同期することが可能である。特に、前駆体に対する処理を適用すること、及び前駆体を進めることにおいて、二つの二値状態(高温ガスを噴射する、又は噴射しない)を考慮することができる。そして、状態“1”は、前駆体に熱処理を適用することに対応し、状態“0”は、熱処理をしないことに対応する。そうであるとしても、前駆体上の温度が、以下の要素の関数として厳密に調節され得ることを心にとめておくべきである。
−噴射されたガスの流量D、
−管3を出る温度、及び
−管3の開口と処理される前駆体との間の距離x。
【0062】
口を垂直に動かすことによって、前駆体の所望される温度を調整するために、管3の排気口の高さを変えることが可能であることに注意するであろう。
【0063】
また、連続的に局所的な熱処理を実施し、それゆえ管3に垂直な二つの軸に沿った動きによって基板表面を完全にアニールするために、(基板の前進に対して垂直な方向における)口の横方向の移動を厳密に制御することが可能である。このように、基板の表面を完全にアニールすることが可能であり、又は局所的な熱処理を適用することが可能である。
【0064】
以前の製造段階に由来し、多様な技術(電気分解、スパッタリング、スクリーン印刷)を介して得られる前駆体を、場合によっては反応型エージェントの存在下で、アニールすることが可能である。
【0065】
その後、非常に広い温度範囲(―50℃から1000℃)内で、超急速熱処理が基板の表面に適用され得、一方で(ガス流量、ガス温度、及び基板の位置によって)温度の上昇及び減少の速度を厳密に制御する。
【0066】
本発明の他の一つの優位点では、前駆体上のガスの噴出は大気圧下で実施され得、それ故、真空又は低圧下で密閉チャンバー内で噴射を実施する必要がなくなる。噴射は、屋外で実施され得る。
【符号の説明】
【0067】
1 流入ガス
2 電力
3 管
4 発熱体
5 排気口
6 前駆体
7 ガス回収回路
12、22 電源
14 発熱体
24 冷却素子
51 ベルトコンベアー
52 試料
53 方向
54 矢印
D 流量
R1、R2 ローラー
V1、V2 バルブ
x 距離