特許第5795433号(P5795433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5795433
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】柱構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/24 20060101AFI20150928BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   E04B1/24 R
   E04B1/58 511F
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-513830(P2014-513830)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(86)【国際出願番号】JP2014057083
【審査請求日】2014年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233239
【氏名又は名称】日立機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀宣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
【審査官】 仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−280787(JP,A)
【文献】 特開2001−288815(JP,A)
【文献】 特開平4−153427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの幅方向両側にフランジが一体に設けられた柱部材と、
前記柱部材が上側に結合されるベース部材と、
基礎に下端側が固定されると共に、前記ベース部材の上端側が固定されるアンカー部材と、
前記基礎と前記ベース部材との間に設けられた固定部材と、
前記ベース部材の厚さよりも下方向へ前記ウェブの下端を延設させて少なくとも前記固定部材の内部まで達して設けられ、少なくとも前記固定部材に対する前記柱部材の剪断抵抗を増加させる剪断抵抗部材と、
を備えた柱構造。
【請求項2】
前記剪断抵抗部材は、前記ウェブの幅方向を長手方向として当該ウェブの下部に一体に形成されている請求項1に記載の柱構造。
【請求項3】
前記剪断抵抗部材は、前記ウェブの下部に接合され、かつ少なくとも前記固定部材の内部に埋設された部材により形成されている請求項1に記載の柱構造。
【請求項4】
前記剪断抵抗部材は、前記ウェブの下部に接合され、フランジの幅方向を長手方向とするプレートにより形成されている請求項1に記載の柱構造。
【請求項5】
前記ベース部材は、一方の前記フランジが上側に接合される第1ベース部材と、他方の前記フランジが上側に接合されると共に前記第1ベース部材と離間されて配設された第2ベース部材とにより構成され、
前記剪断抵抗部材は、前記第1ベース部材と前記第2ベース部材との間に配設されている請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の柱構造。
【請求項6】
前記剪断抵抗部材は、前記固定部材の内部にのみ埋設されている請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の柱構造。
【請求項7】
前記剪断抵抗部材は、前記固定部材の内部及び前記基礎の内部に埋設されている請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の柱構造。
【請求項8】
前記基礎の上面部に凹凸部が設けられ、前記固定部材は前記基礎の上面部の凹凸部を埋込んで設けられている請求項6又は請求項7に記載の柱構造。
【請求項9】
前記ベース部材の前記ウェブが設けられる部位に表面から裏面に貫通する貫通部が配設され、前記剪断抵抗部材は前記貫通部を貫通して少なくとも前記固定部材の内部に達して設けられている請求項1に記載の柱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎に固定されたベース部材の上側に柱部材が接合される柱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2002−322737号公報には、柱脚構法が開示されている。この柱脚構法では、基礎面上にモルタルを介して設置板(ベースプレート)が設けられ、設置板が基礎に埋設されたアンカーボルトに固定されている。設置板上には柱が溶接により接合されている。柱はウェブの幅方向両側にフランジを設けたH形鋼材により形成されている。
【0003】
上記柱脚構造では、設置板がモルタルを介在してアンカーボルトにより基礎に固定されているものの、柱脚から基礎へ伝達される剪断応力は設置板とモルタルとの界面に作用する摩擦力により受ける構造とされている。このため、柱脚構造の剪断強度に関して、改善の余地があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮し、剪断強度を向上させることができる柱構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様の柱構造は、ウェブの幅方向両側にフランジが一体に設けられた柱部材と、柱部材が上側に結合されるベース部材と、基礎に下端側が固定されると共に、ベース部材の上端側が固定されるアンカー部材と、基礎とベース部材との間に設けられた固定部材と、ベース部材の厚さよりも下方向へウェブの下端を延設させて少なくとも固定部材の内部まで達して設けられ、少なくとも固定部材に対する柱部材の剪断抵抗を増加させる剪断抵抗部材と、を備えている。
【0006】
本発明の第2態様の柱構造では、第1態様の柱構造において、剪断抵抗部材は、ウェブの幅方向を長手方向としてウェブの下部に一体に形成されている。
【0007】
本発明の第3態様の柱構造では、第1態様の柱構造において、剪断抵抗部材は、ウェブの下部に接合され、かつ少なくとも固定部材の内部に埋設された部材により形成されている。
【0008】
本発明の第4態様の柱構造では、第1態様の柱構造において、剪断抵抗部材は、ウェブの下部に接合され、フランジの幅方向を長手方向とするプレートにより形成されている。
【0009】
本発明の第5態様の柱構造では、第1態様〜第4態様のいずれか1つの柱構造において、ベース部材は、一方のフランジが上側に接合される第1ベース部材と、他方のフランジが上側に接合されると共に第1ベース部材と離間されて配設された第2ベース部材とにより構成され、剪断抵抗部材は、第1ベース部材と第2ベース部材との間に配設されている。
【0010】
本発明の第6態様の柱構造では、第1態様〜第4態様のいずれか1つの柱構造において、剪断抵抗部材は、固定部材の内部にのみ埋設されている。
【0011】
本発明の第7態様の柱構造では、第1態様〜第4態様のいずれか1つの柱構造において、剪断抵抗部材は、固定部材の内部及び基礎の内部に埋設されている。
【0012】
本発明の第8態様の柱構造では、第6態様又は第7態様の柱構造において、基礎の上面部に凹凸部が設けられ、固定部材は基礎の上面部の凹凸部を埋込んで設けられている。
【0013】
本発明の第9態様の柱構造では、第1態様の柱構造において、ベース部材のウェブが設けられる部位に表面から裏面に貫通された貫通部が配設され、剪断抵抗部材は貫通部を貫通して少なくとも固定部材の内部に達して設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1態様の柱構造では、ウェブの幅方向両側にフランジが一体に設けられた柱部材がベース部材の上側に結合される。ベース部材は、下端側を基礎に固定したアンカーボルトの上端側に固定される。基礎とベース部材との間には固定部材が設けられる。
【0015】
ここで、柱部材のウェブの下部に、ベース部材の厚さよりも下方向へウェブの下端を延設させて剪断抵抗部材が設けられている。剪断抵抗部材は、少なくとも固定部材の内部まで達し、固定部材に対する柱部材の剪断抵抗を増加させる。このため、剪断抵抗部材が簡単に形成可能であり、柱部材からベース部材及び固定部材を介して基礎へ伝達される剪断応力が効果的に抑制されるので、柱構造の剪断強度を向上させることができる。
【0016】
本発明の第2態様の柱構造によれば、剪断抵抗部材がウェブの下部に一体に形成され、剪断抵抗部材はウェブの幅方向を長手方向としている。このため、ウェブの幅方向よりもウェブの幅方向と交差するフランジの幅方向において、固定部材に対する柱部材の剪断抵抗が増加される。従って、柱構造のフランジの幅方向における剪断強度を向上させることができる。
【0017】
本発明の第3態様の柱構造によれば、剪断抵抗部材がウェブの下部に接合され、かつ少なくとも固定部材の内部に埋設された部材により形成される。このため、固定部材に埋設される部材をウェブの下部に接合するという簡易な構成により、柱構造の剪断強度を向上させることができる。
【0018】
本発明の第4態様の柱構造によれば、剪断抵抗部材がウェブの下部に接合されたプレートにより形成される。プレートはフランジの幅方向を長手方向として設けられる。このため、フランジの幅方向と交差するウェブの幅方向において、固定部材に対する柱部材の剪断抵抗が増加される。従って、柱構造のウェブの幅方向における剪断強度を向上させることができる。
【0019】
本発明の第5態様の柱構造によれば、ベース部材が一方のフランジが接合される第1ベース部材と他方のフランジが接合される第2ベース部材とにより構成される。第1ベース部材及び第2ベース部材は離間されているので、この離間部分を通して簡易に剪断抵抗部材を少なくとも固定部材の内部まで達して設けることができる。また、ベース部材の離間部分に相当する材料が削減される。
【0020】
本発明の第6態様の柱構造によれば、剪断抵抗部材が固定部材の内部にのみ埋設されているので、基礎とベース部材との間に固定部材を設けるだけで、固定部材の内部に剪断抵抗部材を簡単に埋設することができる。
【0021】
本発明の第7態様の柱構造によれば、剪断抵抗部材が基礎の内部まで埋設されているので、基礎及び固定部材に対する柱部材の剪断抵抗が更に増加されて、剪断強度をより一層向上させることができる。
【0022】
本発明の第8態様の柱構造によれば、基礎の上面部に凹凸部が設けられ、固定部材が凹凸部に埋込まれているので、基礎と固定部材との界面に発生する剪断応力が効果的に抑制される。このため、柱構造の剪断強度をより一層向上させることができる。
【0023】
本発明の第9態様の柱構造によれば、ベース部材に貫通部が設けられ、この貫通部を貫通して簡易に剪断抵抗部材を少なくとも固定部材の内部まで達して設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る柱構造をフランジの幅方向から見た(図2に示されるA−A線に沿って切った)断面図である。
図2】第1実施形態に係る柱構造の平面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る柱構造の図1に対応する(図4に示されるB−B線に沿って切った)断面図である。
図4】第2実施形態に係る柱構造の平面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る柱構造の図1に対応する(図6に示されるC−C線に沿って切った)断面図である。
図6】第3実施形態に係る柱構造の平面図である。
図7】本発明の第4実施形態に係る柱構造の図1に対応する断面図である。
図8】本発明の第5実施形態に係る柱構造の図1に対応する断面図である。
図9】本発明の第6実施形態に係る柱構造の図2に対応する平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[第1実施形態]
図1及び図2を用いて、本発明の第1実施形態に係る柱構造を説明する。なお、本実施形態では柱部材にH形鉄骨柱(H形鋼柱)が使用されており、図中に適宜示される矢印WH方向は柱部材のウェブの幅方向を示し、矢印FH方向は柱部材のフランジの幅方向を示している。また、矢印UP方向は上方向を示している。
【0026】
(柱構造の構成)
図1に示されるように、本実施形態に係る柱構造10は基礎12に設置されている。基礎12は例えばコンクリートであり、基礎12の上面は水平かつ平面状とされている。コンクリートは、例えばセメント、砂及び砂利を主成分して形成されている。基礎12の強度を必要とする場合、基礎12の内部には図示を省略した基礎梁の配筋が設けられている。基礎12は、後述するモルタル14よりも高い強度を備えている。
【0027】
基礎12の上面には固定部材としてのモルタル14が設けられている。モルタル14は平面視において例えば矩形状とされている。モルタル14は、例えばセメント及び砂を主成分として形成されている。
【0028】
図1及び図2に示されるように、モルタル14の上面にはベース部材16が固定されている。ベース部材16はベース本体としてのベースプレート16Aを備えている。ベースプレート16Aの下側全体にモルタル14が設けられている。詳しく説明すると、本実施形態におけるベース部材16は、2分割されており、第1ベース部材としての第1ベースプレート16Bと、第2ベース部材としての第2ベースプレート16Cとを備えている。図1中及び図2中、左側に示される第1ベースプレート16Bは、矢印FH方向を長手方向とし、かつ矢印WH方向を短手方向とした矩形平板状により構成されている。右側に示される第2ベースプレート16Cは、同一の矩形平板状により構成されている。第1ベースプレート16Bと第2ベースプレート16Cとの間は水平方向に離間されている。離間された部分は領域16Dとして示されている。第1ベースプレート16B及び第2ベースプレート16Cは、例えば日本工業規格(JIS規格)G3136により規定される建築構造用圧延鋼材SN490B、鋳鋼等の金属材料により形成されている。
【0029】
図1中及び図2中、左側の第1ベースプレート16Bの矢印WH方向の外側となる一端部には、矢印FH方向に沿って、第1固定部としての2個の第1固定孔18A及び第1固定孔18Bが設けられている。第1固定孔18A、第1固定孔18Bは、平面視において同一径を有する円形状の貫通孔により形成されている。
【0030】
右側の第2ベースプレート16Cの矢印WH方向の外側となる一端部には、矢印FH方向に沿って、第2固定部としての2個の第2固定孔18C及び第2固定孔18Dが設けられている。第2固定孔18C、第2固定孔18Dは、平面視において同一径を有する円形状の貫通孔により形成されており、第1固定孔18A及び第1固定孔18Bと同一径とされている。
【0031】
ここで、第1固定孔18Aの中心軸の位置及び第1固定孔18Bの中心軸の位置は矢印FH方向において一致されている。第2固定孔18Cの中心軸の位置及び第2固定孔18Dの中心軸の位置は矢印FH方向において一致されている。加えて、第1固定孔18Aの中心軸の位置及び第2固定孔18Cの中心軸の位置は矢印WH方向において一致されている。第1固定孔18Bの中心軸の位置及び第2固定孔18Dの中心軸の位置は矢印WH方向において一致されている。
【0032】
従って、第1ベースプレート16Bは2個の第1固定孔18A及び第1固定孔18Bを有し、第2ベースプレート16Cは2個の第2固定孔18C及び第2固定孔18Dを有しているので、ベースプレート16Aは合計4個の固定孔を備えている。
【0033】
図1及び図2に示されるように、第1固定孔18A等の4個のすべての固定孔の各々の周囲において、第1ベースプレート16B及び第2ベースプレート16Cの下面に凹部22が形成されている。凹部22の水平方向の上面(凹部22の底面)は平面状とされている。凹部22は、第1ベースプレート16B又は第2ベースプレート16Cの外周側へ向って徐々に広がり、かつ第1ベースプレート16B又は第2ベースプレート16Cの外周外側へ開放されており、平面視において略三角形状により形成されている。凹部22の垂直方向の周面において、第1ベースプレート16Bの中央側の一部は、第1固定孔18A、第1固定孔18Bの内面と面一により構成されている。同様に、凹部22の垂直方向の周面において、第2ベースプレート16Cの中央側の一部は、第2固定孔18C、第2固定孔18Dの内面と面一により構成されている。凹部22の全体にはモルタル14が充填されて、モルタル14により第1ベースプレート16B、第2ベースプレート16Cが固定されている。
【0034】
ベース部材16の第1固定部において基礎12には第1アンカー部材が固定されると共に、第2固定部において基礎12には第2アンカー部材が固定されている。第1アンカー部材は第1アンカーボルト(アンカーロック)24を備え、第2アンカー部材は第2アンカーボルト(アンカーロック)24を備えている。
【0035】
第1アンカーボルト24、第2アンカーボルト24はいずれも円柱状のアンカー本体24Aを備えており、アンカー本体24Aの軸方向は上下方向とされている。アンカー本体24Aの上端部24C以外の下端部24Bを含む大部分はモルタル14を貫通して基礎12に埋込まれ、かつ固定されている。アンカー本体24Aの下端部24Bには雄ねじが設けられており、この雄ねじに上下方向に設けられた2つのナット24D及びナット24Eが蝶合されている。ナット24Dとナット24Eとの間には、アンカー部を構成すると共に、アンカー本体24Aの軸径よりも外側に突出された円環平板状の定着板24Fが介在されている。定着板24Fはナット24D及びナット24Eにより締付けられて固定されている。ナット24D、ナット24E及び定着板24Fは、基礎12に埋込まれ、第1アンカーボルト24、第2アンカーボルト24の抜けを防止する構成とされている。
【0036】
第1アンカーボルト24において、アンカー本体24Aの上端部24Cは第1ベースプレート16Bの第1固定孔18A、第1固定孔18Bを貫通して突出する構成とされている。上端部24Cには雄ねじが設けられており、雄ねじに第1ベースプレート16Bを固定するナット24Gが蝶合されている。第1ベースプレート16Bとナット24Gとの間には円環平板状のワッシャ24Hが介在されている。
【0037】
第2アンカーボルト24において、アンカー本体24Aの上端部24Cは第2ベースプレート16Cの第2固定孔18C、第2固定孔18Dを貫通して突出する構成とされている。上端部24Cには雄ねじが設けられており、雄ねじに第2ベースプレート16Cを固定するナット24Gが蝶合されている。第2ベースプレート16Cとナット24Gとの間には円環平板状のワッシャ24Hが介在されている。
【0038】
本実施形態では、第1アンカーボルト24及び第2アンカーボルト24は同一径かつ同一軸方向長さとされている。詳しく説明すると、第1アンカーボルト24、第2アンカーボルト24としては、例えばJIS規格G3138に規定される引張強さが400N/mm、490N/mm等を有する炭素鋼材により形成されたアンカーボルトが使用されている。また、JIS規格G4321に規定される引張強さが520N/mmを有するステンレス鋼材により形成されたアンカーボルトが使用されている。
【0039】
ベースプレート16Aの上面の中央部分、表現を代えれば、第1ベースプレート16B及び第2ベースプレート16Cの上面には、上下方向を長手方向として延設された柱部材としての鉄骨柱30が設けられている。鉄骨柱30の下端は、一部を除いて、第1ベースプレート16Bの上面及び第2ベースプレート16Cの上面に例えばアーク溶接により結合されている。
【0040】
鉄骨柱30は、本実施形態において、ウェブ30Aと、ウェブ30Aの幅方向両端に一体に設けられた一対のフランジ30Bとを有するH形鋼材により形成されている。ここでは、鉄骨柱30のウェブ30Aは、矢印WH方向を幅方向とし、矢印UP方向を長手方向とする長尺矩形平板状により形成されている。一対のフランジ30Bは、いずれも、矢印FH方向を幅方向とし、矢印UP方向を長手方向とする長尺矩形平板状により形成されている。ウェブ30Aの両端はフランジ30Bの幅方向中央部分において一体に結合されている。
【0041】
ここで、第1ベースプレート16Bの上面には、鉄骨柱30の一方のフランジ30Bの下端及びこの一方のフランジ30Bに一体に結合された側のウェブ30Aの下端の一部が接合されている。また、第2ベースプレート16Cの上面には、鉄骨柱30の他方のフランジ30Bの下端及びこの他方のフランジ30Bに一体に結合された側のウェブ30Aの下端の一部が接合されている。鉄骨柱30としては、例えばJIS規格G3136に規定される建築構造用圧延鋼材、JIS規格G3106に規定される溶接構造用圧延鋼材、JIS規格G3101に規定される一般構造用圧延鋼材等により形成されている。
【0042】
本実施形態に係る柱構造10は、ウェブ30Aの下部にモルタル14の内部まで達して設けられた剪断抵抗部材30Cを備えている。詳しく説明すると、剪断抵抗部材30Cは、第1ベースプレート16Bと第2ベースプレート16Cとの間(領域16D)において、ウェブ30Aの下部中央部に一体に形成されている。ここでは、ウェブ30Aの下端中央部が下方向へ延設(延長)されて剪断抵抗部材30Cが構成されている。剪断抵抗部材30Cは、ウェブ30Aの幅方向(矢印WH方向)を長手方向とし、かつ上下方向(矢印UP方向)を短手方向とする側面視において矩形平板状のプレートにより形成されている。例えば、ウェブ30Aの下部の両端部及びフランジ30Bの下部を溶断により取除くことにより、簡単に剪断抵抗部材30Cが形成可能である。
【0043】
剪断抵抗部材30Cは、基本的にモルタル14の内部に埋込まれていれば、モルタル14の厚さの途中までであっても、又基礎12の上面に接していてもよい。例えば、モルタル14の厚さが30mm以上50mm以下に設定される場合、剪断抵抗部材30Cの矢印UP方向の長さは、モルタル14の厚さにベース部材16の厚さを加算した範囲内の長さに設定される。剪断抵抗部材30Cが基礎12の上面に接する場合には、鉄骨柱30の一部が、直接、基礎12の上面に支持される。
【0044】
なお、通常、柱構造10は建物に複数設けられている。図示を省略したが、隣設される柱構造10の鉄骨柱30の下端部間には、基礎梁が掛け渡されて、基礎梁主筋が配筋されている。
【0045】
(第1実施形態の作用効果)
本実施形態に係る柱構造10では、図1及び図2に示されるように、ウェブ30Aの幅方向両側にフランジ30Bが一体に設けられた鉄骨柱30がベース部材16の上側に結合される。ベース部材16は、下端側を基礎12に固定した第1アンカーボルト24、第2アンカーボルト24の上端側に固定される。基礎12とベース部材16との間には固定部材としてのモルタル14が設けられる。
【0046】
ここで、鉄骨柱30のウェブ30Aの下部に剪断抵抗部材30Cが設けられている。剪断抵抗部材30Cは、モルタル14の内部まで達し、特に水平方向においてモルタル14により保持される(剪断抵抗部材30Cがモルタル14に引掛かりを持つ)ので、モルタル14に対する鉄骨柱30の剪断抵抗を増加させる。このため、鉄骨柱30からベース部材16及びモルタル14を介して基礎12へ伝達される剪断応力が効果的に抑制されるので、柱構造10の剪断強度を向上させることができる。表現を代えれば、柱構造10の剪断耐力を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る柱構造10では、図1に示されるように、剪断抵抗部材30Cがウェブ30Aの下部に一体に形成され、剪断抵抗部材30Cはウェブ30Aの幅方向を長手方向として設けられる。このため、ウェブ30Aの幅方向よりもウェブ30Aの幅方向と交差するフランジ30Bの幅方向において、モルタル14に対する鉄骨柱30の剪断抵抗が増加される。従って、柱構造10のフランジ30Bの幅方向における剪断強度を向上させることができる。
【0048】
更に、本実施形態に係る柱構造10では、図1及び図2に示されるように、ベース部材16が第1ベース部材及び第2ベース部材により構成される。第1ベース部材は一方のフランジ30Bが接合される第1ベースプレート16Bである。第2ベース部材は他方のフランジ30Bが接合される第2ベースプレート16Cである。第1ベースプレート16B及び第2ベースプレート16Cは、領域16D分、離間されて配設されているので、この離間部分を通して簡易に剪断抵抗部材30Cをモルタル14の内部まで達して設けることができる。また、ベース部材16の離間部分(領域16Dの部分)に相当する材料が削減される。
【0049】
また、本実施形態に係る柱構造10では、図1及び図2に示されるように、剪断抵抗部材30Cがモルタル14の内部にのみ埋設されている。施工手順としては、まず基礎12に固定された第1アンカーボルト24の上端部に第1ベースプレート16Bを固定すると共に、同様に基礎12に固定された第2アンカーボルト24に第2ベースプレート16Cが固定される。第1ベースプレート16B及び第2ベースプレート16Cの上側には鉄骨柱30が接合されている。ここで、基礎12の上面と第1ベースプレート16B及び第2ベースプレート16Cとの間にはモルタル14を形成するための隙間が形成されている。この隙間にはウェブ30Aの下部に設けられた剪断抵抗部材30Cが配置される。隙間にモルタル14が流込まれ、モルタル14が固まると、柱構造10が完成する。このため、基礎12とベース部材16との間にモルタル14を設けるだけで、モルタル14の内部に剪断抵抗部材30Cを簡単に埋設することができる。
【0050】
なお、上記剪断抵抗部材30Cは側面視において矩形状とされているが、本実施形態はこの形状に限定されない。例えば、剪断抵抗部材30Cは、側面視において、台形状(逆台形状が含まれる)、ウェブ30Aの下端から下方向へ突出させた部位をウェブ30Aの幅方向へ複数配列した櫛形状等により形成してもよい。すなわち、剪断抵抗部材30Cとしては、水平方向に作用する剪断応力が抑制可能な形状であれば、すべての形状が含まれる。
【0051】
[第2実施形態]
図3及び図4を用いて、本発明の第2実施形態に係る柱構造を説明する。なお、本実施形態並びに後述する他の実施形態において、第1実施形態に係る柱構造10の構成と同一の構成には同一符号を付し、この構成の説明は重複するので省略する。
【0052】
(柱構造の構成)
図3及び図4に示されるように、本実施形態に係る柱構造10は、第1実施形態に係る柱構造10における剪断抵抗部材30Cに比べて、少し下方向への長さが短い剪断抵抗部材30Cと、この剪断抵抗部材30Cに設けられた剪断抵抗部材32とを備えている。
【0053】
詳しく説明すると、本実施形態において、剪断抵抗部材32は上下方向を軸方向とするスタッドボルトにより形成されている。スタッドボルトの上側の一端部は剪断抵抗部材30Cの側面、又は剪断抵抗部材32Cからウェブ30Aに渡って溶接により接合されている。スタッドボルトの下側の他端部には雄ねじが設けられており、この他端部に符号を省略したナットが蝶合されている。スタッドボルトの他端部及びナットはモルタル14の内部に埋込まれ、ナットはモルタル14からの抜け防止の機能を持っている。本実施形態において、スタッドボルトは、剪断抵抗部材30Cのフランジ30Bの幅方向の一方の表面にウェブ30Aの幅方向へ一定間隔において3本配列され、他方の表面に同様に3本配列されている。なお、スタッドボルトの配列本数や配列間隔は特に限定されない。また、スタッドボルトの他端部はボルト頭であってもよい。
【0054】
(第2実施形態の作用及び効果)
本実施形態に係る柱構造10では、図3及び図4に示されるように、剪断抵抗部材32がウェブ30Aの下部に接合され、かつ少なくともモルタル14の内部に埋設された部材により形成されている。このため、モルタル14に埋設される部材をウェブ30Aの下部に接合するという簡易な構成により、柱構造10の剪断強度を向上させるこができる。加えて、本実施形態に係る柱構造10では、剪断抵抗部材32はウェブ30Aの下部に接合されたスタッドボルトにより形成される。スタッドボルトは円柱状であるため、ウェブ30Aの幅方向及びフランジ30Bの幅方向を含む水平方向のすべてにおいて、モルタル14に対する鉄骨柱30の剪断抵抗が増加される。従って、柱構造10のウェブ30Aの幅方向及びフランジ30Bの幅方向における剪断強度を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る柱構造10では、ウェブ30Aの下部に一体に形成された剪断抵抗部材30C及びスタッドボルトにより形成された剪断抵抗部材32の双方が設けられているので、剪断強度をより一層向上させることができる。
【0056】
更に、本実施形態に係る柱構造10では、剪断抵抗部材32に既存のスタッドボルトが使用可能であるため、簡易な構成により剪断強度を向上させることができる。
【0057】
なお、本実施形態に係る柱構造10は、ウェブ30Aの下部に一体に形成された剪断抵抗部材30Cを設けずに、ウェブ30Aの下部に直接スタッドボルトを接合してこのスタッドボルトにより形成された剪断抵抗部材32のみを備えてもよい。また、剪断抵抗部材32は、スタッドボルトに限定されるものではなく、丸棒、角棒、鉄筋、矢印UP方向を長手方向とするプレート、矢印WH方向を長手方向とするプレート等により形成されてもよい。これらは、ウェブ30Aの下部に接合される。
【0058】
[第3実施形態]
図5及び図6を用いて、本発明の第3実施形態に係る柱構造を説明する。
【0059】
(柱構造の構成)
図5及び図6に示されるように、本実施形態に係る柱構造10は、第1実施形態に係る柱構造10における剪断抵抗部材30Cと、この剪断抵抗部材30Cに設けられた剪断抵抗部材34とを備えている。
【0060】
詳しく説明すると、本実施形態において、剪断抵抗部材34は、フランジ30Bの幅方向を長手方向とし、かつ上下方向を短手方向として設けられた矩形平板状のプレートにより形成されている。このプレートは、剪断抵抗部材30Cのウェブ30Aの幅方向中央部において、剪断抵抗部材30Cのフランジ30Bの幅方向の一方の表面と他方の表面とにそれぞれ溶接により接合されている。剪断抵抗部材34は剪断抵抗部材30Cと共にモルタル14の内部に埋込まれる。剪断抵抗部材34は例えば剪断抵抗部材30Cと同一材料により形成されている。また、剪断抵抗部材34の形状は、矩形状に限定されるものではなく、剪断抵抗部材30Cと同様に種々変更可能である。更に、剪断抵抗部材34は、短手方向を水平方向又は垂直方向に対して傾斜させてもよい。傾斜させた剪断抵抗部材34は例えばベース部材16の表面に対して傾斜させた鉄骨柱30の下部に設けられる。
【0061】
(第3実施形態の作用及び効果)
本実施形態に係る柱構造10では、図5及び図6に示されるように、剪断抵抗部材34がウェブ30Aの下部に接合されたプレートにより形成される。プレートはフランジ30Bの幅方向を長手方向として設けられる。このため、フランジ30Bの幅方向と交差するウェブ30Aの幅方向において、モルタル14に対する鉄骨柱30の剪断抵抗が増加される。従って、柱構造10のウェブ30Aの幅方向における剪断強度を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る柱構造10では、ウェブ30Aの下部に一体に形成された剪断抵抗部材30C及びプレートにより形成された剪断抵抗部材34の双方が設けられているので、剪断強度をより一層向上させることができる。
【0063】
更に、本実施形態に係る柱構造10では、剪断抵抗部材34に簡易な構造のプレートが使用されるので、簡易な構成により剪断強度を向上させることができる。
【0064】
なお、本実施形態に係る柱構造10では、剪断抵抗部材34が、フランジ30Bの幅方向を長手方向とする丸棒、角棒、鉄筋等により形成されてもよい。丸棒等は、ウェブ30Aの下部に接合される。
【0065】
[第4実施形態]
図7を用いて、本発明の第4実施形態に係る柱構造を説明する。
【0066】
(柱構造の構成)
図7に示されるように、本実施形態に係る柱構造10では、第1実施形態に係る柱構造10における剪断抵抗部材30Cを更に下方向側へ延設させた剪断抵抗部材30Dが設けられている。剪断抵抗部材30Dは、モルタル14を貫通して基礎12の内部まで達して設けられており、結果的にモルタル14の内部及び基礎12の内部に埋込まれている。
【0067】
(第4実施形態の作用及び効果)
本実施形態に係る柱構造10では、剪断抵抗部材30Dが基礎12の内部まで埋設されているので、基礎12及びモルタル14に対する鉄骨柱30の剪断抵抗が更に増加されて、剪断強度をより一層向上させることができる。特に、モルタル14よりも基礎12の強度は高いので、基礎12の内部に剪断抵抗部材30Dが設けられることにより、剪断強度は飛躍的に向上される。
【0068】
[第5実施形態]
図8を用いて、本発明の第5実施形態に係る柱構造を説明する。
【0069】
(柱構造の構成)
図8に示されるように、本実施形態に係る柱構造10では、第1実施形態に係る柱構造10の基礎12の上面に凹部12Aと凸部12Bとを有する凹凸部が設けられ、この凹凸部を埋込んでモルタル14が設けられている。凹部12Aは所定間隔において水平方向に複数配置され、凸部12Bは凹部12A間に配置されている。平面図を省略しているが、凹部12Aは行列状や市松模様状に配列され、凹部12Aの輪郭箇所に凸部12Bが設けられる。逆に、凸部12Bが行列状や市松模様状に配列され、凸部12Bの輪郭箇所に凹部12Aが設けられてもよい。また、特定方向、例えばウェブ30Aの幅方向における剪断強度を向上させる場合、凹部12A及び凸部12Bは、フランジ30Bの幅方向を長手方向とするストライプ形状により形成してもよい。
【0070】
(第5実施形態の作用及び効果)
本実施形態に係る柱構造10では、基礎12の上面部に凹凸部が設けられ、モルタル14は基礎12の上面部の凹凸部を埋込んで設けられているので、基礎12とモルタル14との界面に発生する剪断応力が効果的に抑制される。このため、柱構造10の剪断強度をより一層向上させることができる。
【0071】
[第6実施形態]
図9を用いて、本発明の第6実施形態に係る柱構造を説明する。
【0072】
(柱構造の構成)
図9に示されるように、本実施形態に係る柱構造10では、ベース部材16が第1ベース部材と第2ベース部材とに分割されてなく、ベース部材16は1枚のベース本体としてのベースプレート16Aにより形成されている。ベースプレート16Aのウェブ30Aが設けられる部位に表面から裏面に貫通する貫通部16Eが配設されている。貫通部16Eは、平面視において、ウェブ30Aの幅方向を長手方向とし、かつフランジ30Bの幅方向を短手方向とする矩形スリット状とされている。そして、ウェブ30Aの下部に設けられた剪断抵抗部材30Cは貫通部16Eを貫通させてモルタル14の内部に埋設されている。
【0073】
なお、剪断抵抗部材30Cは上記図7に示される剪断抵抗部材30Dとして、剪断抵抗部材30Dはモルタル14の内部及び基礎12の内部に埋設されてもよい。
【0074】
(第6実施形態の作用及び効果)
本実施形態に係る柱構造10では、ベース部材16に貫通部16Eが設けられ、この貫通部16Eを貫通して簡易に剪断抵抗部材30C(又は剪断抵抗部材30D)を少なくともモルタル14の内部まで達して設けることができる。
【0075】
[その他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、ベース部材としてのベースプレートにおいてフランジのウェブ側とは反対側に2つの固定部並びに2つのアンカー部が設けられている。本発明は、固定部並びにアンカー部の配置数に限定されるものではなく、例えば3以上の固定部並びに3以上のアンカー部を設けてもよい。また、本発明は、ベースプレートにおいて、フランジのウェブ側にも固定部並びにアンカー部を設けてもよい。
【0076】
また、本発明は、柱部材としてI形鋼材からなる鉄骨柱をベース部材の上側に接合した柱構造としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 柱構造
12 基礎
12A 凹部
12B 凸部
14 モルタル(固定部材)
16 ベース部材
16A ベースプレート(ベース本体)
16B 第1ベースプレート(第1ベース部材)
16C 第2ベースプレート(第2ベース部材)
18A、18B 第1固定孔(第1固定部)
18C、18D 第2固定孔(第2固定部)
22 凹部
24 第1アンカーボルト(第1アンカー部材)
24 第2アンカーボルト(第2アンカー部材)
30 鉄骨柱(柱部材)
30A ウェブ
30B フランジ
32C、30D、32、34 剪断抵抗部材
【要約】
柱構造(10)では、基礎(12)上に固定部材としてのモルタル(14)を介してベース部材(16)が固定されている。ベース部材(16)の固定にはアンカー部材としての第1、第2アンカーボルト(24)が使用されている。ベース部材(16)の上側にはウェブ(30A)の幅方向両端にフランジ(30B)が一体に形成された柱部材としての鉄骨柱(30)が接合されている。ウェブ(30A)の下部には少なくともモルタル(14)の内部に埋設された剪断抵抗部材(30C)が設けられている。剪断抵抗部材(30C)により、柱部材(10)の剪断強度が向上される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9