【文献】
J. Protein Chem. (1997) vol.16, no.7, p.701-712
【文献】
J. Protein Chem. (1994) vol.13, no.1, p.49-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エピトープがタンパク質分解的にプロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされたボツリヌス神経毒素A型(BoNT/A)ポリペプチドに含まれることを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
前記KLHが、リンカーN-[γ-マレイミドブチリルオキシ]スクシンイミドエステル(GMBS)を介して配列番号25を有するペプチドに連結している、請求項5に記載の方法。
プロセシングされた神経毒素ポリペプチドBoNT/Aから、部分的にプロセシングされたおよび/もしくはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドBoNT/Aを除去するための、請求項1、2、9〜11のいずれか1項に記載の抗体の使用。
サンプル中の部分的にプロセシングされたおよび/もしくはプロセシングされていないBoNT/Aを検出するための、請求項1、2、9〜11のいずれか1項に記載の抗体の使用。
請求項14に記載の方法のステップ、およびプロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドBoNT/Aを含まない、プロセシングされた神経毒素ポリペプチドBoNT/Aを含有する前記溶液を医薬として製剤化する更なるステップを含む、医薬の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、配列番号1〜16のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有するペプチドからなるエピトープと特異的に結合する抗体に関する。
【0011】
「抗体」という用語は、本明細書において用いられる場合、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト、ヒト化、霊長類化、もしくはキメラ化抗体、二重特異性抗体、合成抗体、化学的もしくは酵素的に修飾された誘導体、上記の抗体のいずれかの断片または天然に存在するおよび/もしくは化学的に修飾された核酸からなるアプタマーを包含する。上記の抗体の断片は、F(ab’)
2、F(ab) 、FvもしくはscFv断片、またはこれらの断片のいずれかの化学的もしくは酵素的に修飾された誘導体を包含する。本発明の抗体は、上記のペプチドが部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドに含まれるならば、上記のペプチドからなるエピトープと特異的に結合するであろう。
【0012】
「エピトープ」という用語は、本発明に従った場合、本発明の抗体によって認識される抗原決定基に関する。それは、配列番号1〜16のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を有するペプチドからなる。上記のエピトープは、本発明の一態様において、両側に神経毒素プロセシング酵素の切断部位が隣接するペプチドまたは切断部位を含むペプチドに相当する(下記の表1および2を参照せよ)。このエピトープは、本発明の一態様において、タンパク質分解的にプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドまたは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドに含まれる。部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドは、配列番号1〜8のいずれか1つに示されるペプチド配列によって伸長された神経毒素ポリペプチドの軽鎖、または配列番号1〜8のいずれか1つに示されるペプチド配列によって伸長された神経毒素ポリペプチドの重鎖のいずれかでありうる。このエピトープの存在のために、プロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドは、抗体によって特異的に結合され得る。
【表1】
【表2】
【0013】
「特異的に結合する」という用語は、本発明の抗体が、部分的にプロセシングされた、もしくはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチド上の、または他の一般的なポリペプチド上の他のエピトープと有意な程度まで交差反応しないことを意味する。本発明の一態様では、本発明の抗体は、活性のある完全にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと交差反応しない。エピトープ特異性は、本発明の抗体の重要な特性である。プロセシングされた神経毒素と比較した、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素に対する抗体の特異性は、ある態様では、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%でなくてはならない。特異的結合は、例えば、競合試験を含む様々な周知の技術によって試験され得る。他の重要な特性は、抗体の感度である。感度は、本発明の1つの態様では、サンプルに含まれるプロセシングされた神経毒素の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が結合するほどでなくてはならない。感度は周知の技術によって試験され得る。当業者は、通常の実験を用いることによって、それぞれの測定のために有効かつ最適なアッセイ条件を決定することができるであろう。結合試験のための従来の技術は、ラジオイムノアッセイ、ELISA、平衡透析、等温マイクロ熱量測定、BIACORE(登録商標)アッセイ(表面プラズモン共鳴、SPR)または他の表面吸着法を含む。BIACORE(登録商標)SPRシステムは、抗体‐抗原相互作用を測定する。SPR反応は、アナライトが結合または解離する際の、検出器表面での質量濃度の変化を反映する。SPRに基づいて、リアルタイムBIACORE(登録商標)測定は、相互作用が起こる際、それらを直接測定する(BIAapplications Handbook, version AB(1998年に再版)、BIACORE(登録商標)コード番号: BR-1001-86; BIAtechnology Handbook, version AB(1998年に再版)、BIACORE(登録商標)コード番号: BR-1001-84を参照せよ)。本発明の抗体の感度などの結合特性は、原理的には、センサー表面上にある固定化された抗原(リガンド)を用いた結合試験によって測定されうる。試験されるべき抗体(アナライト)は、移動相、すなわち溶液中に供給されるであろう。ある場合には、抗原は、捕捉分子と呼ばれる別の固定化分子への結合を介して間接的に表面に付着する。抗体が固定化された抗原を有する表面を横切る不連続なパルスで注入される場合、基本的に3つの段階に分類され得る。すなわち:(i)サンプル注入の間の抗体の抗原との結合;(ii)抗体結合速度と抗体‐抗原複合体からの解離が釣り合っている、サンプル注入の間の平衡状態または定常状態;(iii)バッファーが流れる間の抗体の表面からの解離。このようなアッセイは、あるいは、調べられるべき固定化された抗体、および移動相として抗原を含有する溶液を用いて実施され得ることが理解されるであろう。結合段階および解離段階は、アナライト-リガンド相互作用の反応速度論に関する情報(k
aおよびk
d、複合体形成速度および解離速度、k
d/k
a=K
D)を提供する。平衡段階は、アナライト‐リガンド相互作用の親和性に関する情報(K
D)を提供する。本発明の一態様では、本発明の抗体は0.5μM未満、ある態様では、0.05μM未満、別の態様では0.02μM未満のKDを有する。
【0014】
本発明において言及されるような抗体は、例えば、HarlowおよびLane “Antibodies, A Laboratory Manual”, CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載された方法を用いることによって製造され得る。モノクローナル抗体は、もともとKohler 1975, Nature 256, 495、およびGalfre 1981, Meth Enzymol 73, 3に記載された技術によって調製され得る。その技術は、免疫された哺乳動物に由来する脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞との融合を含む。抗体は、当技術分野において周知の技術によって更に改良され得る。例えば、BIACORE(登録商標)システムに用いられるような表面プラズモン共鳴は、タンパク質分解的にプロセシングされていない神経毒素ポリペプチド中の上記のエピトープと結合するファージ抗体の効率を増加させるために使用され得る(Schier 1996, Human Antibodies Hybridomas 7, 97; Malmborg 1995, J. Immunol Methods 183, 7を参照せよ)。
【0015】
本発明の一態様では、本発明の抗体は、上記のエピトープを含むオリゴペプチドを用いることによって作製される。このようなオリゴペプチドは、合成的にまたは組換え発現によって産生され得る。あるいは、本発明の抗体は、天然のプロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを用いることによって作製され得る。後者の場合、結果として生じた抗体は更に、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドに対する特異性について試験されなければならないことが理解されるべきである。本発明の更なる態様では、本発明のモノクローナル抗体は、免疫学的に利用可能なエピトープにするために、界面活性剤によって処理され得る部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドを用いることによって作製される。しかし、抗体が立体構造エピトープに対して向けられなければならない場合、このような界面活性剤処理は行われてはならないことが理解されるであろう。更なる態様では、このような過程において、特に合成オリゴペプチドを用いる場合、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)のような免疫刺激剤もまた利用されうる。
【0016】
本発明において言及される抗体は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、免疫沈降、ならびに部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの免疫学的局在決定のため、ならびにサンプル中または組換え生物中のそのポリペプチドの存在の観察のために使用され得る。
【0017】
本発明の一態様では、部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドは、クロストリジウム属(Clostridium spp.)由来である。本発明の他の一態様では、それは、ボツリヌス菌ATCC 3502、ボツリヌス菌ATCC 3502‐Hall株の群より選択されるボツリヌス菌由来である。ボツリヌス菌に由来するプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの一次構造は、Krieglstein 1994, J Protein Chem 13, 49に開示されている。
【0018】
本明細書において言及されるクロストリジウム属は、ファーミキューテス門(Firmicutes)に属する、グラム陽性内生胞子形成偏性嫌気性菌の属である。クロストリジウム神経毒素は、ボツリヌス菌、酪酸菌(Clostridium butyricum)、バラチ菌(Clostridium barati)、および破傷風菌の種に属する、表現型および遺伝的に異なるクロストリジウム属によって産生されうる。本明細書において用いられるボツリヌス菌は、神経毒素の他に、楕円形の亜端在性胞芽(subterminal endospores)を産生し、土壌中に通常見られる、グラム陽性偏性嫌気性桿菌の種である。
【0019】
更に、本発明の抗体の更なる態様では、抗体はポリペプチド担体と結合する。本発明の抗体の一態様では、そのポリペプチド担体は、FC結合タンパク質、プロテインAおよびプロテインGならびに本発明の抗体と特異的に結合する抗体からなる群より選択される。これは例えば、ある態様では、種特異的な抗体でありうる。このような抗体は、本発明の抗体のFC部分またはF(ab)と特異的に結合する。本発明の抗体の別の一態様では、ポリペプチド担体は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインAである。ポリペプチド担体は、本発明のある態様では、本発明の抗体を単離するために使用され得る。
【0020】
更に、本発明の抗体の更なる態様では、抗体はマトリックスに結合する。ある態様では、マトリックスは固形マトリックスである。
【0021】
「結合する」という用語は、本明細書において用いられる場合、その結合が原則的に抗体と部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドとの結合を妨げない限り、抗体とマトリックスとの間の任意の種類の結合に関する。その結合は、間接的もしくは直接的な結合、非可逆的もしくは可逆的な結合、物理的および化学的な結合、静電結合、および/または共有結合を含む相互作用によって作られうる。ある態様では、抗体は、直接またはリンカー分子を介して、マトリックスに共有結合する。
【0022】
「マトリックス」という用語は、本発明に従って用いられる場合、抗原または抗体を結合することができる三次元構造または空間的配置を指す。周知のマトリックスは、ポリペプチド、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ(amylases)、天然および変性セルロース、ポリアクリルアミド、斑れい岩(gabbros)、ならびにマグネタイトを含む。固形マトリックスは、本発明のある態様では、セファロース、セファデックス;アガロース、セファセル、マイクロセルロース、およびアルギン酸ビーズからなる群より選択される多糖マトリックスである。別の一態様では、固形マトリックスは、ガラスビーズおよび/またはポリペプチドマトリックスで構成され得る。
【0023】
抗体は、小分子化合物、ペプチドリンカー分子およびビーズを含むリンカーを介してマトリックスに結合されうる。マトリックスは、結合する抗体がその抗原と結合できる限り、事実上考えられるあらゆる構造配置または配列を有し得る。従って、マトリックスは、ビーズのような球状、または試験管の内面もしくは棒の外面のような円筒状でありうる。あるいは、表面は、シート、試験紙などのように、不規則または平面であってもよい。ある態様では、その支持体はポリスチレンビーズを含む。
【0024】
上記のマトリックスは、本発明の一態様では、本発明の抗体に対する少なくとも1つの結合部位を有する。本発明の更なる態様では、マトリックスは、他のエピトープを認識する更なる抗体に対する更なる結合部位を有する。ある態様では、そのエピトープは、部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの特異的結合を可能にする他のエピトープである。マトリックス上に固定化される更なる抗体はまた、神経毒素ポリペプチド以外の細菌ポリペプチドを認識する抗体をも包含する。マトリックスに含まれるこのような更なる抗体は、更なる望ましくないポリペプチドを除去するため、従って、神経毒素製剤の更なる精製目的のために使用されうる。しかし、更なる態様では、プロセシングされた神経毒素は、マトリックス上に固定化された抗体によって特異的に結合されてはならないことが理解されるべきである。
【0025】
本発明の上記の抗体は、それが上記で特徴づけられたエピトープと特異的に結合し、従って、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの結合を可能にし、それを活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドから更に分離することを可能にするので、プロセシングされた神経毒素ポリペプチドの製造に適している。望ましくない部分的にプロセシングされたおよびプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドを結合し、除去することができる抗体は、本発明の一態様では、その生物学的活性を保持する、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドとの相互作用を回避する。本発明の結果、神経毒素の精製が可能であり、それによって、目的とする活性のあるポリペプチドは本質的にその活性に影響を受けないままである。当業者は、プロセシングされていない前駆体がいくらかの生物学的機能を発揮できるとしても、「活性」は、プロセシングされていない前駆体神経毒素ポリペプチドのタンパク質分解的切断後にのみ得られることを知っている。従って、「タンパク質分解的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチド」は、本発明の一態様では、生物学的に活性のある神経毒素ポリペプチドである。「生物学的に活性のある」という用語は、本発明において用いられる場合、神経毒素ポリペプチドの、その後の受容体結合、内在化、エンドソーム膜から細胞質ゾル内への移行、および/またはシナプス小胞膜融合に関与する1つ以上のタンパク質の細胞内タンパク質分解的切断の能力に関する。
【0026】
上記で行われた用語の定義および説明は、他に指示のない限り、下記の本明細書に記載されるすべての態様に準用する(apply mutatis mutandis)ことが理解されるべきである。
【0027】
本発明の別の態様では、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する抗体の製造方法が提供され、その方法は、以下のステップ:すなわち、
a)配列番号25に示されるアミノ酸配列を含むペプチド免疫原を用いて免疫された非ヒト動物由来のポリクローナル抗血清を、
配列番号25を有するペプチドと、
上記のペプチドと、プロセシングされていないもしくは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する抗体とを含む複合体の形成を可能にする条件下で接触させるステップ;
b)抗血清からステップa)で形成された複合体を取り出すステップ;ならびに
c)プロセシングされていないもしくは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する抗体を複合体から放出させるステップ
を含んでいる。
【0028】
「ペプチド免疫原」という用語は、上記で用いられる場合、非ヒト動物において免疫応答の誘導を可能にするような方法で与えられる、配列番号25に示されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを指す。ある態様では、その免疫原は更にKLHを含み、また更なる態様では、そのKLHは、システインを介して、ある態様ではC末端システインを介して、配列番号25を有するペプチドと、リンカーN- [γ-マレイミドブチリルオキシ] スクシンイミドエステル(GMBS)を介して結合される。KLHをGMBSなどのリンカー分子によってペプチドと結合させる方法は、当技術分野において周知であり、または下記の付随する実施例に記載される。別の態様では、非ヒト動物は哺乳動物であり、ある態様ではラット、マウス、ウサギ、ヒツジまたはヤギである。本発明の方法を実施する前に、ポリクローナル抗血清源となるべき非ヒト動物は、上記のペプチド免疫原を用いて免疫されるであろう。非ヒト動物を免疫する方法は、当技術分野において周知であり、下記の付随する実施例に記載される。免疫付与の結果として、非ヒト動物は、ペプチド免疫原に対するポリクローナル抗体を産生するであろう。
【0029】
ポリクローナル抗血清は、非ヒト動物から様々な方法によって採取され得る。ある態様では、それは、血液、血清または血漿から、当技術分野において周知の、また下記の付随する実施例に記載される標準的な技術によって得られる。「ポリクローナル抗血清」という用語は、従って、動物から精製および部分精製された血清を包含する。このようなポリクローナル抗血清は、上記の方法のための出発物質である。プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する望ましい抗体(1種もしくは複数種)に加えて、ポリクローナル抗血清は、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合しない更なる抗体を含有しうる。これらの抗体は、ポリクローナル抗血清を、また配列番号25に示されるアミノ酸配列を有するペプチドと接触させることによって、望ましい特異的抗体から分離される。ある態様では、そのペプチドは、本明細書の他の部分で詳細に記載されるように担体上に固定化される。接触の結果として、ペプチドおよび特異的抗体の複合体が形成され、それはその後ポリクローナル血清から除去され得る。特異的抗体はその後、取り出された複合体から放出され得る。このような複合体から抗体を放出させるための適切な方法は、本明細書の他の部分に記載される。
【0030】
別の態様では、本方法は更に、ステップa)の前に、
i)配列番号25に示されるアミノ酸配列を含むペプチド免疫原を用いて免疫された非ヒト動物由来のポリクローナル抗血清を、
以下の捕捉ペプチドSLD、LDK、およびYNKと、
ポリクローナル抗血清に含まれる非特異的抗体および捕捉ペプチドを含む捕捉複合体の形成を可能にする条件下で接触させるステップ;ならびに
ii)ポリクローナル抗血清から捕捉複合体を除去するステップ
を含む。
【0031】
本発明の基礎にある研究では、ポリクローナル血清は、ヤギにおいて、免疫原としてKLHと結合したリンカーペプチドを用いて、プロセシングされていないボツリヌス神経毒素A型(BoNT/A)に対して作製された(抗リンカーペプチドscBoNT/A血清)。アフィニティー精製後も、この血清は、ウェスタンブロットにおいてプロセシングされたBoNT/Aに対する交差反応性を示した。交差反応性は、リンカーペプチドならびにプロセシングされたBoNT/Aの軽鎖および重鎖に存在するトリペプチド(SLD、LDKおよびYNK)の認識に依存することが実証された。ヤギ免疫血清の第二のバッチは、二段階のアフィニティークロマトグラフィーによって精製され、交差反応性のトリペプチド抗体が除去された。第二の抗リンカーペプチドscBoNT/A血清は、ウェスタンブロットにおいてプロセシングされたBoNT/Aに対する交差反応性を示さなかった。トリペプチドは、ある態様では、配列番号26〜28のいずれか1つに示される誘導体の形でアフィニティー精製に使用され得る。
【0032】
本方法のある態様では、ステップa)〜c)は、アフィニティークロマトグラフィーによって行われる。
【0033】
アフィニティークロマトグラフィーは、本発明において用いられる場合、移動相中の分子を、クロマトグラフィーで使用される固定相に対するそれらの異なる親和性に基づいて分離する技術を指す。ある態様では、その技術は、選択的吸着およびそれに続く化合物の固定化リガンドからの回収を指す。別の態様では、その技術は、標的化合物を結合するためのビーズ状の多孔質マトリックス上の適切な選択的リガンドを用いた、タンパク質および関連化合物の非常に特異的で効率的な精製のために設計されており、標的化合物はその後、穏やかな条件下で回収され得る。この技術は、抗原と抗体、酵素と基質、または受容体とリガンドとの間のような、非常に特異的な相互作用に基づく。別の態様では、アフィニティークロマトグラフィーはカラムクロマトグラフィーとして行われる。上記で詳細に特徴づけられたようなアフィニティークロマトグラフィーは、ある態様では、免疫吸収体(immunoabsorber)クロマトグラフィーおよび、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、逆相クロマトグラフィーであり、別の態様では、結合物質を利用したイムノアフィニティークロマトグラフィーであり、また更なる態様では、その結合物質は本発明の抗体である。本明細書において言及される固定相は、ある態様では、固形マトリックスとして上記の物質で構成される。その物質は、ある態様では、固形マトリックスに結合したポリペプチド担体と結合し、別の態様では、固形マトリックスに結合したプロテインAと結合する。
【0034】
上記の方法の更なる態様では、ステップi)およびii)は、アフィニティークロマトグラフィーによって行われる。
【0035】
本発明はまた、以下のステップ、すなわち:
a)抗体が、配列番号25に示されるアミノ酸配列を有するペプチドと結合するかどうかを決定するステップ;および
b)抗体が、次のアミノ酸配列SLD、LDK、およびYNKを有するペプチドと結合するかどうかを決定するステップ
を含んでいる、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する抗体を同定する方法に関連し、ここで、配列番号25に示されるアミノ酸配列を有するペプチドと結合するが、次のアミノ酸配列SLD、LDK、およびYNKを有するペプチドとは結合しない抗体が、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する抗体として同定される。
【0036】
「決定する」という用語は、抗体を同定する方法に従って用いられる場合、免疫ブロッティング法(ウェスタンまたはドットブロット法)、アフィニティークロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴(plasma surface resonance)技術(BIACORE(登録商標)アッセイ)などの、所定のペプチドへの抗体結合を決定するためによく確立された技術を包含する。ある態様では、抗体のペプチドへの上記の結合は、特異的結合(すなわち、交差反応のない結合)であることが理解されるであろう。
【0037】
ある態様では、抗体を同定するための上記の方法は、モノクローナル抗体に対して実施される。ある態様では、本方法は、ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、その後、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するために使用される。別の態様では、本方法は、プロセシングされていないおよび/または部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合するポリクローナル抗体、例えば、ペプチド抗体のスクリーニングに適用され得る。ある態様では、本方法は、本明細書の他の部分で言及される本発明の方法によって製造された抗体の特異性の確認のために適用され得る。
【0038】
本発明はまた、上記の方法によって得られる抗体に関する。ある態様では、抗体はポリクローナル抗体である。更なる態様では、抗体は固相支持体と結合している。
【0039】
本発明の抗体は、ある態様では、高い感度および特異性で、ある態様では50〜80 pg/mlの検出限界、ある態様では69 pg/mlの検出限界で、部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの検出を可能にする。
【0040】
原理的に、上記の抗体は、プロセシングされた神経毒素ポリペプチドからの、部分的にプロセシングされたおよび/もしくはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの除去のために、またはサンプル中の部分的にプロセシングされたおよび/もしくはプロセシングされていないBoNT/Aの検出のために使用され得る。
【0041】
加えて、本発明は、以下のステップ、すなわち:
a)タンパク質分解的にプロセシングされた神経毒素、部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの混合物を含有する溶液を、プロセシングされていないもしくは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合するが、プロセシングされた神経毒素ポリペプチドとは結合しない物質と、その物質がプロセシングされていないもしくは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと結合することを可能にし、それによって物質‐複合体が形成される条件下で接触させるステップ、ならびに
b)ステップa)で形成された物質‐複合体を除去し、それによってプロセシングされていないもしくは部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを含まない、プロセシングされた神経毒素ポリペプチドを含有する溶液を得るステップ
を含む、神経毒素ポリペプチドの製造方法に関する。
【0042】
「接触させる」という用語は、本明細書において用いられる場合、少なくとも2種の異なる化合物を、その化合物の物理的および/または化学的相互作用が可能になるように物理的に近接させることを指す。本発明の方法によれば、その2種の異なる化合物は、ある態様では、溶液に含まれる部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する物質である。本明細書が意味するような接触は、その物質と部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドとの相互作用を可能にするために十分な時間および条件下で実施される。その相互作用は、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドのその物質への結合を引き起こし、それによって抗原‐物質複合体が形成される。本明細書の他の部分に記載されるように、その相互作用は、間接的および直接的な、非可逆的および可逆的な方法などの、様々な種類の結合を含む。物質および溶液の特異的な相互作用を可能にする適切な条件。これは当業者にとって周知であり、その条件は、本方法に適用されるべき物質および溶液に依存して、難なく決定され得る。更に、相互作用を可能にするのに十分な時間もまた、当業者によって難なく決定され得る。物質としての抗体のための条件は、下記の付随する実施例に開示される。
【0043】
溶液は、本明細書において用いられる場合、神経毒素ポリペプチドならびにその部分的にプロセシングされたおよび/またはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドを含有する任意の溶媒系を指す。溶媒系は更に溶媒を含む。含まれる溶媒は、本発明の様々な態様において、水、水性バッファー系、有機溶媒、およびイオン性液体である。本発明のある態様では、それは水性溶媒系である。更に、溶媒系は、神経毒素ポリペプチドおよび溶媒に加えて、更に細菌性ポリペプチドを含む更なる分子をも含有しうる。
【0044】
「物質(agent)」という用語は、本明細書において用いられる場合、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドと特異的に結合できる化合物を指す。適切な化合物は、ポリペプチド、ペプチド、抗体、および有機化学分子を包含する。本発明のある態様では、物質は、本明細書の他の部分で規定されるようなポリペプチド、ペプチドまたは抗体である。その物質は、本発明の更なる態様では、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドに対して少なくとも1つの結合部位を有する。本発明の別の態様では、その物質は、その物質と特異的に結合できる更なる抗体に対する更なる結合部位を有する。本発明の更に別の態様では、物質は、上記に規定されたような本発明の抗体である。加えて、更なる態様では、物質は、本発明の異なる抗体を含み得る。例えば、本発明の意味での物質として、部分的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する本発明の抗体は、プロセシングされていない神経毒素ポリペプチドと特異的に結合する本発明の抗体と組み合わせて使用されることが考えられる。あるいは、本発明の意味での物質は、それぞれの抗体が部分的にプロセシングされたおよびプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドに存在する異なるエピトープと特異的に結合する、2種以上の異なる本発明の抗体を含みうる。
【0045】
本発明の方法のある態様では、物質は、本明細書の他の部分に記載されるようなマトリックスに固定化される。更なる態様では、固定化は、物質のマトリックスとの共有結合性の直接的または間接的な結合によって実現される。
【0046】
「特異的結合」という用語は、本明細書において用いられる場合、他の神経毒素、宿主細胞タンパク質、または更に他のペプチド、ポリペプチド、もしくは他の化合物とのいかなる交差反応も示さない、部分的にプロセシングされたおよび/もしくはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドと物質との結合を指す。特異的結合は、様々な周知の技術によって試験され得る。この点については、準用される本発明の抗体に関して上記で行われた定義で言及される。
【0047】
「物質‐複合体」という用語は、本発明において用いられる場合、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドと結合した物質を指す。しかし、複合体は、加えて更なる分子を含みうる。本発明のある態様では、複合体は、複合体を安定化する分子、または、例えば、更なる分子を用いて複合体の相互作用を可能にすることによって精製を容易にする分子、または複合体の沈殿を促進する分子を含み得る。複合体に含まれる更なる分子は、本発明のある態様では、物質または複合体そのものと特異的に結合する二次抗体を含む。その二次抗体もまた、その後、間接的もしくは直接的に、更なる抗体またはポリペプチド担体のような相互作用分子に結合されうる。複合体はまた、更なる細菌性ポリペプチド、または溶液に含まれる他の分子をも含み得ることが理解されるべきである。
【0048】
抗原‐物質複合体の「除去」という用語は、本発明において用いられる場合、活性のあるプロセシングされた神経毒素を含有する溶液からの、部分的にプロセシングされたおよびプロセシングされていない複合体化された神経毒素ポリペプチドの分離を指す。本発明の1つの態様では、その除去は、アフィニティークロマトグラフィーを用いて、例えば、イムノビーズを用いることによって、または免疫沈降によって行われる。
【0049】
部分的にプロセシングされたおよびプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドの除去の結果として、本発明の方法は、ある態様では、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを高純度の形態で提供する。「高純度の形態」という用語は、本明細書において用いられる場合、1つの態様では、検出可能な量のその部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドを含まない、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを指し、別の態様では、検出可能な量の他の不純物を同様に含まない、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを指す。ある態様では、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素の検出可能な量は、2.5%未満、1%未満であり、または別の態様では、0.1%未満である。本発明の更なる態様では、本明細書において言及される活性のあるプロセシングされた神経毒素A型ポリペプチドは、例えばSDS-PAGEによって分析された場合、還元条件下で、検出可能な100 kDaの単一バンドおよび検出可能な50 kDaの単一バンドを示すが、部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素A型ポリペプチドが通常生じる150 kDaのバンドを示さない。他のポリペプチド不純物が同様にSDS-PAGEによって測定され得るということは、理解されるべきである。更に、他の血清型の活性のあるプロセシングされた神経毒素がそれぞれ分析され得ることが、理解されるべきである。
【0050】
神経毒素ポリペプチドが、
a)神経毒素ポリペプチドBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT、および
b)a)の神経毒素ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも40%同一のアミノ酸配列を有する神経毒素ポリペプチド
からなる群より選択される、本発明の方法。
【0051】
「神経毒素」という用語は、本発明において用いられる場合、抗原性の異なるボツリヌス神経毒素の血清型、すなわちBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、および破傷風神経毒素(TeNT)を指す。ある態様では、BoNT/Aは配列番号17に示されるアミノ酸配列を有し、BoNT/Bは配列番号18に示されるアミノ酸配列を有し、BoNT/C1は配列番号19に示されるアミノ酸配列を有し、BoNT/Dは配列番号20に示されるアミノ酸配列を有し、BoNT/Eは配列番号21に示されるアミノ酸配列を有し、BoNT/Fは配列番号22に示されるアミノ酸配列を有し、BoNT/Gは配列番号23に示されるアミノ酸配列を有し、TeNTは配列番号24に示されるアミノ酸配列を有する。
【0052】
本発明の方法の更なる態様では、神経毒素ポリペプチドは、配列番号17〜24のいずれか1つに対して少なくとも1つのアミノ酸置換、付加および/または欠失を含む配列を有する、上記の神経毒素ポリペプチドのいずれか1つの変異型である。別の態様では、その変異型神経毒素ポリペプチドは、BoNT/A(配列番号17)、BoNT/B(配列番号18)、BoNT/C1(配列番号19)、BoNT/D(配列番号20)、BoNT/E(配列番号21)、BoNT/F(配列番号22)、BoNT/G(配列番号23)、またはTeNT(配列番号24)のアミノ酸配列と少なくとも40%同一の配列であるアミノ酸配列を有する。本発明の別の態様では、神経毒素ポリペプチドは、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNTのアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一の配列であるアミノ酸配列を有する。「同一の」という用語は、本明細書において用いられる場合、最高の整列一致(order match)が得られるように配列が整列され、例えば、BLASTP、BLASTN、FASTA、Altschul 1990, J Mol Biol 215, 403などのコンピュータープログラムとして体系化された公開されている技術または方法を用いて計算され得る、アミノ酸配列の同一性の決定として特徴づけられる配列同一性を指す。パーセント同一性の値は、1つの態様では、アミノ酸配列全体にわたって計算される。様々なアルゴリズムに基づく一連のプログラムは、当業者が異なる配列を比較するために利用可能である。この場合、NeedlemanおよびWunschまたはSmithおよびWatermanのアルゴリズムは、特に信頼できる結果を与える。配列アラインメントを行うために、GCGソフトウェアパケット(Genetics Computer Group 1991, 575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711)の一部である、プログラムPileUp(1987, J Mol Evolution 25, 351; Higgins 1989 CABIOS 5, 151)またはプログラムGapおよびBestFit (NeedlemanおよびWunsch 1970, J Mol Biol 48; 443; SmithおよびWaterman 1981, Adv Appl Math 2, 482)が使用される。パーセント(%)で上記に列挙された配列同一性の値は、本発明の1つの態様では、配列領域全体にわたってプログラムGAPを用い、下記の設定:Gap Weight: 50、Length Weight: 3、Average Match: 10.000およびAverage Mismatch: 0.000を用いて決定され、それは、他に指定されない限り、常に配列アラインメントのための標準設定として使用されるべきである。
【0053】
上記の変異型は、本発明の一態様では、神経毒素の生物学的特性を保持することが理解されるであろう。当業者は、プロセシングされていない前駆体がいくらかの生物学的機能を発揮できる、または部分的に活性であり得ることが考えられるとしても、完全な生物学的活性はタンパク質分解的活性化の後のみに得られることを認識するであろう。「生物学的特性」は、本明細書において用いられる場合、(a)受容体結合、(b)内在化、(c)エンドソーム膜を超えて細胞質ゾル内への移行、および/または(d)シナプス小胞膜融合に関与するタンパク質の細胞内タンパク質分解的切断を指す。生物学的活性を評価するためのin vivoアッセイとしては、Pearce LB, Borodic GE, First ER, MacCallum RD(1994)(Measurement of botulinum toxin activity: evaluation of the lethality assay. Toxicol Appl Pharmacol 128: 69-77)およびDressler D, Lange M, Bigalke H(2005)(The mouse diaphragm assay for detection of antibodies against botulinum toxin type B. Mov Disord 20:1617-1619)に記載されるような、マウスLD50アッセイおよびex vivoマウス片側横隔膜アッセイが挙げられる。生物学的活性は、通常マウス単位(MU)で表される。本明細書において用いられる場合、1 MUは、腹腔内注射後、特定のマウス個体群の50%を殺す、すなわちマウスi.p. LD50(SchantzおよびKauter, 1978)の量の神経毒素成分である。更なる態様では、変異型は、改良されたまたは改変された生物学的特性を有する神経毒素であり得、例えば、それらは酵素認識について改善された切断部位を有していてもよく、または受容体結合もしくは上記に規定された任意の他の特性について改善されていてもよい。本発明の概念は、神経毒素ポリペプチドの軽鎖と重鎖との間の
1つ、2つまたはそれ以上の切断部位の存在に依存しているが、その物質が部分的にプロセシングされたまたはプロセシングされていない神経毒素ポリペプチドに対して特異的である限り、切断部位の性質およびそれらの間の特定のアミノ酸配列は関係ないと考えられる。従って、プロテアーゼ認識部位および神経毒素ポリペプチドの重鎖と軽鎖との間のリンカーペプチドまたは(単一切断部位の場合)切断部位の周囲の隣接配列を置換することは、別の態様である。
【0054】
別の態様では、本発明の方法の神経毒素ポリペプチドはキメラ分子でありうる。このようなキメラ分子は、ある態様では、置換された単一ドメインを有しうる。従って、別の態様では、神経毒素重鎖の一部は、抗体のFCドメインの一部によって置換される。
【0055】
ある態様では、本発明の方法に従って産生される神経毒素ポリペプチドは、ELISA、ELISAのための抗原、および対照標準を含む分析ツールに使用されうる。
【0056】
他の不純物を同様に含まない神経毒素製剤を得るために、当技術分野において周知の更なる精製ステップが本発明の上記の方法に追加され得、下記に説明される。
【0057】
上記から理解されるように、本発明の方法の1つの態様では、その方法はアフィニティークロマトグラフィーを用いて行われる。
【0058】
本発明の別の態様では、イムノアフィニティークロマトグラフィーのために特異的な免疫吸収体を下記のように調製する。すなわち、
−プロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた前駆体ポリペプチドの特異的オリゴペプチド(配列番号1〜16または25のいずれか1つによって表される)の合成、特に合成オリゴペプチドの調製;
−ペプチドの免疫付与に適した担体(ヘモシアニン、BSA、リポ多糖類、およびその他を含む)へのコンジュゲーション、具体的にはオリゴペプチドのポリペプチド担体への結合;
−ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を産生するための動物の免疫付与、特に、ポリクローナル抗体を産生するためのウサギ
もしくはヤギの免疫付与、およびモノクローナル抗体を産生するためのマウスの免疫付与(アフィン抗体(affine antibody)を得るために、少なくとも10匹の動物が免疫される必要がある);
−モノクローナル抗体を産生するために、ハイブリドーマ細胞株が作製される;
−標準的なクロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィーによる抗体の精製(後者ではオリゴペプチドは担体に結合される)、具体的には、抗体は、例えばプロテインAもしくはGを用いて、および/または担体に結合されたオリゴペプチドによって(後者は免疫付与に使用された)、あるいは非特異的抗体を除去するためのペプチドアフィニティークロマトグラフィーとそれに続くアフィニティークロマトグラフィーによって精製される;
−特異的抗体のFab断片への切断、特に、特異的抗体は、各Fab断片を得るためにパパインのようなプロテアーゼで処理される;
−Fab断片は、更なる適用の前にそれらの結合特性について解析される;
−抗体は、活性化セファロースなどのカラムマトリックスに結合され、特に、特異的Fab断片は、担体物質の活性連結基と結合される;
−(カラム中の)免疫吸収体(immuno-absorber)は、適切なバッファー系を用いて洗浄され、平衡化される;
−プロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた前駆体神経毒素ポリペプチドは免疫吸収体に特異的に結合するが、一方、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドは、変化せずに(結合することなく)カラムを通過し、回収される。
【0059】
本発明の方法の別の態様では、サイズ排除クロマトグラフィーが更に行われる。本発明において用いられるサイズ排除クロマトグラフィーによって、粒子は、それらのサイズ、すなわちそれらの流体力学的容積に基づいて分離される。移動相は、サンプルを輸送するために用いられる水溶液(ゲルろ過クロマトグラフィー)、または有機溶媒(ゲル浸透クロマトグラフィー)のいずれかである。固定相は、低圧下ではゲル媒体(ポリアクリルアミド、デキストランまたはアガロース)およびフィルター、または高圧化ではシリカもしくは架橋ポリスチレン媒体のいずれかである。更に別の態様では、サイズ排除クロマトグラフィーはカラムクロマトグラフィーとして行われる。本発明の方法の更なる態様では、サイズ排除クロマトグラフィーは、活性炭、シリカゲル、ゼオライトなどの異なる細孔径を有する分子篩を用いて行われる。
【0060】
本発明の方法は、別の態様では、更にイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【0061】
本発明において用いられるイオン交換クロマトグラフィーは、タンパク質および関連化合物の全体的な電荷の違いに基づいて分子を分離する。それは、タンパク質精製、オリゴヌクレオチド、ペプチド、または他の荷電分子の精製のために使用される。このような分子は、精製方法に適用されるべき溶液中に混入物として存在しうる。目的とするタンパク質または関連化合物、本発明の場合神経毒素は、結合するために、樹脂に結合している官能基のそれと反対の電荷を持たなければならない。この相互作用はイオン性であるため、結合は低イオン条件下で行われなければならない。溶出は、イオン強度を上昇させてイオン相互作用を壊すことによって、またはタンパク質のpHを変えることによって行われる。本発明の方法のある態様では、交換クロマトグラフィーはカラムクロマトグラフィーとして行われる。
【0062】
1つの態様では、本発明に従って用いられる交換クロマトグラフィーは、イオン交換クロマトグラフィーである。
【0063】
本発明において用いられるイオン交換クロマトグラフィーは、更なる態様では、陽イオンおよび/または陰イオンクロマトグラフィーによって行われる。本明細書において用いられるような陰イオン交換クロマトグラフィーでは、結合する溶質(タンパク質、ペプチド、核酸、内毒素)の表面電荷は、正味マイナスであり、従って特定のタンパク質を結合させるために、そのタンパク質のpI付近またそれ以上でなくてはならない。一般的に使用される陰イオン交換樹脂は、Q-樹脂(Qセファロース)、第四級アミン;およびDEAE(ジエチルアミノエタン)樹脂である。通常、イオン交換樹脂は、人工ゼオライトとして使用される、荷電表面を有する小ビーズの不溶性マトリックスである。様々な種類の樹脂は、それらの官能基に基づいて区別でき、それは、強酸性樹脂(スルホン酸基、例えば、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムまたはpolyAMPS)、強塩基性樹脂(第四級アミノ基、例えば、トリメチルアンモニウム基、例えばpolyAPTAC)、弱酸性樹脂(大部分はカルボン酸基)、弱塩基性樹脂(第一級、第二級、および/または第三級アミノ基、例えば、ポリエチレンアミン)を含む。更に区別され得る特殊化した種類の樹脂もあり、それはキレート樹脂(イミノ二酢酸、チオ尿素)を含む。
【0064】
本明細書において用いられる陽イオン交換クロマトグラフィーでは、結合する溶質(タンパク質、ペプチド、核酸、内毒素)の表面電荷は、正味プラスであり、従って特定のタンパク質を結合させるために、そのタンパク質のpI付近またそれ以下でなくてはならない。一般的に使用される陽イオン交換樹脂は、S-樹脂、硫酸塩誘導体;およびCM樹脂、カルボン酸塩由来のイオンである。
【0065】
本発明の方法のある態様では、イオン交換クロマトグラフィーは、アフィニティークロマトグラフィーの前および/または後に行われる。本発明の方法の別の態様では、本明細書において用いられるようなイオン交換クロマトグラフィーは、本発明のアフィニティークロマトグラフィーの前に行われる。
【0066】
この処置によって、アフィニティークロマトグラフィーの間の潜在的な交差反応または非特異的結合の危険性は、更に避けられ、減少され得る。
【0067】
本発明の方法は、プロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた前駆体ポリペプチドを含まない、活性のあるプロセシングされた神経毒素の製造を可能にし、従って、より大量の活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを得ることを可能にする。
【0068】
本発明は、原則として、活性のあるプロセシングされた神経毒素を、そのプロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた前駆体ポリペプチドから分離するための、本発明の抗体の使用に言及する。1つの態様では、本発明の抗体は、そのポリペプチドの混合物を含有する溶液中で、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドから、プロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた前駆体神経毒素ポリペプチドを分離するため、従って、本明細書のほかの部分で詳述されるように、プロセシングされていないまたは部分的にプロセシングされた前駆体神経毒素ポリペプチドを含まない、活性のあるプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを得るために使用される。
【0069】
本発明はまた、上記の方法のステップおよびタンパク質分解的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを医薬として製剤化する更なるステップを含む、医薬の製造方法に関する。
【0070】
「医薬」という用語は、本明細書において用いられる場合、1つの態様では、生物学的に活性のある(タンパク質分解的にプロセシングされた)神経毒素ポリペプチドを薬剤活性のある化合物として含有する医薬組成物を指し、この医薬組成物は、治療上有効な用量で様々な疾患もしくは障害のヒトまたは非ヒトでの治療に使用されうる。
【0071】
本明細書において用いられる医薬組成物は、生物学的に活性のある(タンパク質分解的にプロセシングされた)本発明の神経毒素ポリペプチド、およびある態様では、1種以上の製薬上許容される担体を含有する。活性のある神経毒素は、液体または凍結乾燥された形で存在し得る。ある態様では、化合物は、グリセロール、タンパク質安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン(HAS))または非タンパク質安定剤とともに存在し得る。
【0072】
医薬組成物は、1つの態様では、局所的に投与される。従来用いられる薬物投与は、筋内、(腺に近い)皮下に投与される。しかし、化合物の性質および作用機序に応じて、医薬組成物は、同様に他の経路で投与されうる。
【0073】
化合物、すなわち生物学的に活性のある(タンパク質分解的にプロセシングされた)神経毒素ポリペプチドは組成物の活性成分であり、ある態様では、従来の方法に従って薬物を標準的な医薬担体と組み合わせることによって調製される従来の投薬形態で投与される。これらの方法は、目的とする製剤に応じて適切に成分を混合し、粒状にし、圧縮し、または溶解することを含みうる。製薬上許容される担体または希釈剤の形態および特徴は、組み合わされるべき活性成分の量、投与経路、および他の周知の可変要素によって決定されることが理解されるであろう。
【0074】
担体は、製剤の他の成分と適合するという意味において、およびその受容者にとって有害でないという意味において、許容されるものでなければならない。用いられる医薬担体は、固体、ゲル、または液体を含みうる。典型的な固体担体は、乳糖、白土(terra alba)、ショ糖、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシアゴム(acacia)、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などである。典型的な液体担体は、リン酸緩衝生理食塩水、シロップ、油、水、エマルション、様々な種類の湿潤剤などである。同様に、担体または希釈剤は、単独でもしくはワックスとともに、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの当技術分野において周知の時間遅延物質を含みうる。適切な担体は、上述のものおよび他の当技術分野において周知のものを包含する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvaniaを参照せよ)。
【0075】
希釈剤は、組み合わせの生物学的活性に影響を及ぼさないように選択される。このような希釈剤の例は、蒸留水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。加えて、医薬組成物または製剤はまた、他の担体、アジュバント、または毒性のない、非治療的、非免疫原性の安定剤なども含有しうる。
【0076】
治療上有効な用量は、本明細書において言及される疾患または状態に伴う症状を予防、改善、または治療する、本発明の医薬組成物において使用される化合物の量を指す。化合物の治療効果および毒性は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手段、例えば、ED50(集団の50%に治療効果のある用量)およびLD50(集団の50%に致死的な用量)によって決定され得る。治療効果と毒性作用との間の用量比は、治療指数であり、それはLD50/ED50の比率として表され得る。
【0077】
投薬計画は、主治医および他の臨床学的因子によって決定される。医学分野では周知のように、任意のある患者への投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与時期および経路、全般的健康状態、ならびに同時に投与されている他の薬物を含む多くの要因に依存する。経過は定期的な評価によって観察され得る。
【0078】
本明細書において言及される医薬組成物および製剤は、本明細書において列挙される疾患または状態を治療または改善または予防するために、少なくとも1回投与される。しかし、医薬組成物は、2回以上投与されうる。
【0079】
特定の医薬組成物は、製剤分野において周知の方法で調製され、製薬上許容される担体または希釈剤と混合または他の方法で関連付けられて、本明細書の上記に言及された少なくとも1種の活性化合物を含有する。それらの特定の医薬組成物を製造するために、活性化合物は通常、担体または希釈剤と混合される。結果として得られる製剤は、投与方法に適合しているべきである。推奨投与量は、検討される受容者に応じた用量調節を見込むために、処方者または使用者のための取扱説明書に示されなければならない。
【0080】
本発明の医薬は、本発明の更なる態様では、生物学的に活性のある(タンパク質分解的にプロセシングされた)神経毒素ポリペプチドに加えて、その製剤化の間に医薬組成物に加えられる薬物を含有しうる。最後に、医薬組成物の製剤は、医薬の品質、薬学的安全性、および有効性を確保するために、GMPに標準化された条件下などで行われることが理解される。
【0081】
本発明は、一般的に、本発明の方法によって得られるタンパク質分解的にプロセシングされた神経毒素ポリペプチドを含有する組成物を企図する。
【0082】
「組成物」という用語は、固体、液体、エアロゾル(または気体)の形態で製剤化された任意の組成物を指す。組成物は、任意選択で、希釈剤もしくは担体などの適切な補助化合物または更なる成分とともに、本発明の化合物を含有する。この文脈で、補助化合物、すなわち、組成物の適用時にその望ましい目的のために本発明の化合物によって引き起こされる効果に寄与しない化合物と、更なる成分、すなわち、更なる効果に寄与する、または本発明の化合物の効果を調節する化合物は、本発明において区別される。適切な希釈剤および/または担体は、組成物が使用される目的および他の成分に左右される。当業者は、このような適切な希釈剤および/または担体を難なく決定することができる。適切な担体および/または希釈剤の例は、本明細書の他の部分に開示される。
【0083】
本発明の更なる態様では、上記の組成物は、明細書の他の部分でより詳細に規定されるような医薬である。1つの態様では、医薬は、少なくとも1つの下記の疾患および障害の予防および/または治療のために使用され得る:随意筋の力(voluntary muscle strength)、頸部、頭部ジストニアを含む限局性筋失調症、および良性本態性眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、および限局性痙縮、胃腸障害、多汗症、および美容しわ取り、更なる態様ではまた、眼瞼痙攣、顎口腔ジストニア、開口型(ジストニア)(jaw opening type)、閉口型(ジストニア)(jaw closing type)、歯ぎしり、メージュ症候群、舌ジストニア、開眼失行、頸部ジストニア(apraxia of eyelid, opening cervical dystonia)、頸前屈(antecollis)、頸後屈(retrocollis)、頸側屈(laterocollis)、斜頸、咽頭ジストニア、喉頭ジストニア、痙攣性発声障害/内転型、痙攣性発声障害/外転型、痙攣性呼吸困難、肢ジストニア、上肢ジストニア、作業特異的ジストニア、書痙、音楽家痙攣、ゴルファー痙攣、下肢ジストニア、大腿部の内転、大腿部の外転、膝の屈曲、膝の伸展、足首の屈曲、足首の伸展、内反尖足、変形足ジストニア、母指の過伸展(striatal toe)、足指の屈曲、足指の伸展、軸性ジストニア、ピサ症候群、ベリーダンサージストニア、分節性ジストニア、片側性ジストニア、全身性ジストニア、lubag病におけるジストニア、大脳皮質基底核変性症におけるジストニア、lubag病におけるジストニア、遅発性ジストニア、脊髄小脳失調症におけるジストニア、パーキンソン病におけるジストニア、ハンチントン病におけるジストニア、ハレルフォルデン・スパッツ病におけるジストニア、ドーパ誘発性ジスキネジア/ドーパ誘発性ジストニア、遅発性ジスキネジア/遅発性ジストニア、発作性ジスキネジア/ジストニア、運動誘発性・非運動誘発性・動作誘発性口蓋ミオクローヌス、ミオクローヌス、ミオキミア、硬直、良性筋痙攣、遺伝性の顎の振戦、奇異性顎筋活動、片側咀嚼筋痙攣、肥大性鰓弓筋疾患、咬筋肥大、前脛骨筋肥大、眼振、動揺視、核上性注視麻痺、持続性部分てんかん、痙性斜頸手術計画、声帯外転筋麻痺、難治性変異性発声障害、上部食道括約筋機能障害、声帯肉芽腫、吃音、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、中耳ミオクローヌス、防御性喉頭閉鎖、咽頭切除後言語障害、防御性眼瞼下垂症、眼瞼内反(entropion)、オディ括約筋機能障害、偽性アカラシア(pseudoachalasia)、非アカラシア食道運動障害、膣痙、術後固定振戦、膀胱機能障害、排尿筋・括約筋協調不全、膀胱括約筋痙攣、片側顔面痙攣、神経再生によるジスキネジア、美容用途、目尻の小じわ、渋面、顔面非対称、オトガイのくぼみ、スティッフパーソン症候群、強縮、前立腺肥大、脂肪過多症治療、脳性小児麻痺、斜視、混合型(斜視)、麻痺性(斜視)、共同(斜視)、網膜剥離手術後(の斜視)、白内障手術後(の斜視)、無水晶体眼における(斜視)、筋炎性斜視、筋障害性斜視、交代性上斜位、斜視手術に伴う(斜視)、内斜視、外斜視、アカラシア、裂肛、外分泌腺活動亢進、フレイ症候群、ワニの涙症候群、多汗症、脇(の多汗症)、手掌(の多汗症)、足底(の多汗症)、鼻漏、脳卒中、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症における関連唾液過多症、脳炎および脊髄炎、自己免疫過程、多発性硬化症、横断性脊髄炎、デビック症候群、ウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染、真菌感染における、遺伝性痙性対麻痺、脳卒中後の症候群、大脳半球梗塞、脳幹梗塞、脊髄梗塞、中枢神経系外傷、大脳半球損傷、脳幹損傷、脊髄損傷における、中枢神経系出血、脳内出血、くも膜下出血、硬膜下出血、髄腔内出血における、新生物、大脳半球腫瘍、脳幹腫瘍、脊髄腫瘍における痙攣状態。詳細および症状については、例えば、Jost 2007, Drugs 67(5), 669またはDressier 2000 in Botulinum Toxin Therapy, Thieme Verlag, Stuttgart, New Yorkを参照せよ。
【0084】
本発明の別の態様では、組成物は、上記で医薬組成物のために記載されたように製剤化され得る化粧品組成物である。化粧品組成物についても同様に、本発明の化合物は、ある態様では、実質的に純粋な形で用いられることが想定される。化粧品組成物は、更なる態様では、筋肉内に適用されるべきである。本発明のまた更なる態様では、神経毒素を含有する化粧品組成物は、しわ取り液として製剤化され得る。
【0085】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、それらの開示内容全体および特に本明細書に記載される開示内容について、参照により本明細書に組み入れられる。
【0086】
下記の実施例は本発明を説明するものであり、その範囲を一切制限するものではない。
【実施例1】
【0087】
免疫原および抗体の作製
免疫原の作製
1. リンカーペプチド‐免疫原I:NH
2-TKSLDKGYNK-C-COOHの配列を有するペプチドを外部の提供業者に作製させ、その後、リンカーGMBSによって担体タンパク質KLHと結合させた。
【0088】
2.リンカーペプチド‐免疫原II:a)オボアルブミンの活性化;2.18 mgのスルホ-smcc(スルホスクシンイミジル-4(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート)を50μl DMSOに溶解した。その後、7.5 mg/mlオボアルブミンを含有する2.5 mlのオボアルブミン溶液(バッファー:5mMリン酸ナトリウム;0.9% NaCl)を加え、溶液を室温で1時間、回転させながらインキュベートした。PD10カラムを用いてバッファー交換を行い、10 mM リン酸ナトリウム;0.9% NaClを含有する3.5 mlのバッファーに活性化オボアルブミンを溶出した。b)ペプチドのオボアルブミンへの結合;8 mgのペプチドAc-DKGYNC-OHを250μl H
2Oおよび2.5μl 500 mM TCEP HCL(トリス[2-カルボキシエチル]ホスフィン HCL)に溶解し、その後、1 mM NaOHで中和した。最後に、活性化されたオボアルブミンを加え、反応混合物を室温で4.4時間、回転させながらインキュベートした。10 mMシステイン溶液の添加によって、残存している反応性残基を1時間、回転させながらインキュベートすることによりブロッキングした。10 mM リン酸ナトリウム;0.9% NaClを用いて透析を行った。
【0089】
免疫付与
免疫付与により抗血清を得た。
【0090】
1.)抗リンカーペプチドscBoNT/A血清I:免疫原として、リンカーGMBSにより担体タンパク質KLHに結合されたリンカーペプチド免疫原Iを用いた。2頭のヤギの皮下に、それぞれ最初はFreud’schemアジュバント中300μgのデカペプチド免疫原を用いて免疫付与し、最終的には2週間周期で4回、不完全Freud’schemアジュバント中100μgの免疫原を用いて免疫付与した。49、63、77および84日後に抗血清を採取した。84日目の最後の採血から回収した血清を用いて、アフィニティークロマトグラフィーを行った。
【0091】
2.)抗リンカーペプチドscBoNT/A血清II:免疫原として、リンカーSMCCにより担体タンパク質オボアルブミンに結合されたリンカーペプチド免疫原IIを用いた。2羽のウサギの皮内に、それぞれ最初はFreud’schemアジュバント中300μgのリンカーペプチド免疫原IIを用いて免疫付与し、最終的には2週間周期で5回、Montanide ISA 206中150μgのリンカーペプチド免疫原IIを用いて免疫付与した。60または110日目の採血からそれぞれ回収した血清を用いて、アフィニティークロマトグラフィーを行った。
【0092】
血清の二段階アフィニティークロマトグラフィー
1.マトリックスの作製:二段階アフィニティークロマトグラフィーのために、異なるペプチドを含有している2つの異なるultra linkヨードアセチルマトリックスを作製した。
【0093】
一方では、交差反応性ペプチドSLD、LDKおよびYNKは、下記のペプチド、Ac-E
LDKYN-C-COOH(配列番号26)、NH
2-NI
SLDL-C-COOH(配列番号27)およびNH
2-Y
YNKF-C-COOH(配列番号28)の形で提供され、下記に示される概要を用いてマトリックスに結合された。他方では、リンカーペプチド(配列番号25)は、下記の誘導体:Ac-TKSLDKGYNKA-C-COOHの形で下記に示される概要を用いてマトリックスに結合された。
【0094】
概要:
カップリングバッファー:50 mM Tris、5 mM EDTA-Na、pH 8.5。使用されるUltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルの20倍容に相当する量のバッファーを調製する。
L-システインHCL;洗浄液:1 mM塩化ナトリウム(NaCl)。
上部と下部の両方に蓋をしうる空の重力流カラムまたはスピンカラム。
【0095】
ペプチドまたはタンパク質サンプルを調製する。
ペプチドをカップリングバッファーに溶解する。
【0096】
UltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルへの結合:
1. 重力流カラムの下部に蓋をして、目的とする量のUltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルスラリーを加え、ゲルを15分間安定させる。
2. 充填したカラムから液を流出させ、ゲルベッドの5倍容量のカップリングバッファーを用いて、バッファーをゲルベッドの上部に添加し、カラムを通して流出させることによって、UltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルを洗浄/平衡化する。ゲルベッドを干上がらせてはならない。
3. 下部の蓋をして、用意したスルフヒドリル含有サンプルを添加する。1 mlのUltraLink(登録商標)ヨードアシルゲルあたり、約1 mlのサンプル溶液が使用できる。
4. 上部の蓋をして、カラムを室温で15分間混合する。
5. カラムを直立させ、室温で30分間混合せずにインキュベートする。
6. 続いて上部と下部のカラムの蓋を取り、液を流出させる。
7. ゲルベッドの3倍容量のカップリングバッファーを用いて、カラムを洗浄する。
【0097】
ゲル上の非特異的結合部位のブロッキング:
1. カラムの下部に蓋をする。
2. カップリングバッファー中50 mM L-システイン HCLの溶液を調製し、ゲル1 mlに対して1 mlのこの溶液をカラムに加える。
3. 上部の蓋をして、室温で15分間混合し、その後、混合せずに更に30分間室温でその反応をインキュベートする。
【0098】
2. 二段階アフィニティークロマトグラフィー:
精製されるべき血清を、まず血液から分離する。
【0099】
未精製の血清を、交差反応性トリペプチドを含有する第一カラムに加える。交差反応性抗体はトリペプチドに結合し、未精製の血清から分離される。この第一カラムのろ液を、固定化されたリンカーペプチドを含有する第二カラムに加える。リンカーペプチド特異的抗体はリンカーペプチドに結合する。低親和性抗リンカーペプチドscBoNT/A抗体を、PBSバッファー(0.5 M NaCl)を用いた高ストリンジェンシー洗浄によってカラムから除去する。その後、結合した高親和性抗リンカーペプチドscBoNT/A抗体を溶出し、濃縮する。この濃縮物が、使用される抗リンカーペプチドscBoNT/A血清に相当する。
【実施例2】
【0100】
抗体特異性の試験および検証
1. ELISA試薬:
コーティングバッファー:0.005 M〜1M Tris;0.9 % NaCl、好ましくは0.01 M〜0.2 M Tris;0.9% NaCl、pH=8.5。
捕捉抗体:抗リンカーペプチドscBoNT/A血清。
ブロッキングおよび抗体希釈バッファー:0.01 Mリン酸ナトリウム中0.5%〜5% BSA;0.9% NaCl、pH=7.4。
サンプルバッファー:0.005 M〜1 Mリン酸ナトリウム中0.5%〜5% BSA;0.1〜0.5 M NaCl;0.01%〜1% Tween 20、好ましくは0.005〜0.1 Mリン酸ナトリウム中1%〜3% BSA;0.15 M〜0.4 M NaCl;0.05%〜0.5% Tween 20、pH=7.4。
洗浄バッファー:0.01 Mリン酸ナトリウム;0.9% NaCl;0.05% Tween 20、pH=7.4。
検出抗体:BoNT/Aに対するモノクローナル抗体。
二次抗体:ペルオキシダーゼとコンジュゲートしたポリクローナル抗マウスIgG(HおよびL)抗体。
基質:市販のTMB。
【0101】
2. ウェスタンブロット試薬:
市販の変性サンプルバッファー。
市販のSDSゲル。
MES泳動バッファー(SDS PAGE):市販。
PVDF膜:市販。
転写バッファー(ウェスタンブロット):市販。
サンプル:二本鎖BoNT/AおよびscBoNT/Aを含むボツリヌス神経毒素A。
一次抗体:抗リンカーペプチドscBoNT/A血清。
二次抗体:アルカリホスファターゼとコンジュゲートしたポリクローナルロバ抗ヤギ抗体IgG(H&L)。
ブロッキングおよび抗体希釈バッファー:0.01 M〜0.1 M Tris中0.5%〜5% BSA;0.9% NaCl;0.05%〜5% Tween 20、pH=7.4。
洗浄バッファー:0.01 M〜0.1 M Tris;0.9% NaCl;0.05%〜5% Tween 20、pH=7.4。
Trisバッファー:0.025 M Tris、pH=8.0。
基質:市販のBCIP/NBT。
【0102】
a)BoNT/BおよびBoNT/Eに対する抗血清の特異性:BoNT/BおよびBoNT/Eに対する抗血清の特異性を決定するために、物質の回収率をELISAで分析した。0.5μg抗リンカーペプチドscBoNT/A血清/mlを含有する100μl/ウェルのコーティングバッファーを含むマイクロタイタープレートを、室温で16時間インキュベートし、その後、洗浄バッファーで3回洗浄する。200μl/ウェルのブロッキング溶液をマイクロタイタープレートに加え、室温で1時間インキュベートする。校正標準として抗原scBoNT/A(サンプルバッファーでの希釈系列;pg/ml濃度)を用い、100μl/ウェルの校正標準を含むマイクロタイタープレートをインキュベートする。BoNT/BまたはBoNT/Eをそれぞれサンプルバッファーで希釈し、100μl/ウェルの容量でマイクロタイタープレートに加える。両物質は過剰に加えられ、200 ng/mlの希釈物が用いられる。サンプルおよび標準を37℃で2時間インキュベートする。マイクロタイタープレートを洗浄バッファーで3回洗浄する。100 μlの検出バッファー/ウェルを加え、室温で1時間インキュベートする。その後、マイクロタイタープレートを洗浄バッファーで3回洗浄する。次に、100 μl/ウェルの二次抗体と共に室温で1時間のインキュベーションを行う。その後、マイクロタイタープレートを洗浄バッファーで3回洗浄する。
【0103】
100μl基質/ウェルの添加によって検出反応を開始する。室温で30分間のインキュベーション後、50μl 2 M H
2SO
4/ウェルの添加によって反応を停止させ、450 nmでの吸光度を測定する。特異性の決定のために、BoNT/bおよびBoNT/Eの濃度を標準化によって計算する。回収率を計算することによって、血清型BおよびEに対する抗リンカーペプチドscBoNT/Aの特異性が決定できる。回収率が低い程、交差反応性はより低く、scBoNT/Aに対する血清の特異性はより良好である。
【0104】
b)二本鎖BoNT/Aに対する抗リンカーペプチドscBoNT/Aの特異性:活性化された二本鎖BoNT/Aに対する抗血清の特異性を決定するために、ウェスタンブロッティングによる免疫組織学的検出を行う。NTサンプル(少なくとも50 ngのscBoNT/A、使用されるサンプルによる二本鎖BoNT/A)を、還元条件下でSDS-PAGEによって、それらの分子量に従ってscBoNT/A、LCおよびHC(二本鎖BoNT/A)に分離する。タンパク質をその後、PVDF膜上にブロッティングする。その膜を20 mlのブロッキングバッファーを用いて室温で1時間ブロッキングする。ブロッキングバッファーを除去し、0.005μg/mlの抗リンカーペプチドscBoNT/A血清を含有する20 mlの一次抗体溶液を加える。一次抗体を4℃で一晩インキュベートする。抗体含有溶液を除去し、膜を37℃で30分間、20 mlの洗浄バッファーで3回洗浄する。その後、膜を0.4μg/mlの濃度の20 mlの二次抗体と共に、室温で3時間インキュベートする。二次抗体溶液を除去し、膜を37℃で30分間、20 mlの洗浄バッファーで3回洗浄する。更に、膜を室温で5分間、20 mlの25 mM TRISバッファーで1回洗浄する。
【0105】
検出反応は、基質の添加によって行われる。基質を15分間インキュベートし、水の添加によって呈色反応を停止させる。特異性は、150 kDaのscBoNT/Aバンドの染色によって決定される。150 kDaの特異的バンドのみが検出され、100 kDa(HC)および50 kDa(LC)の二本鎖BoNT/Aに特異的なバンドが検出されなかった場合に、抗リンカーペプチドの特異性が決定された。
図3は、レーン3においてBoNT/A製剤(NTサンプル、上記参照)の150 kDa scBoNT/Aに対する特異性を示す。100 kDaまたは50 kDaでのバンドは明白ではなく、scBoNT/Aだけが認められる。比較のために、レーン4では、部分的にプロセシングされたおよびプロセシングされていないscBoNT/Aの混合物が示され、レーン5は非切断scBoNT/A対照を示す。バッファー対照はレーン2に示される。