特許第5795633号(P5795633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンブセッティ,アントニオの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795633
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】同所性人工膀胱装具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/04 20130101AFI20150928BHJP
【FI】
   A61F2/04
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-515781(P2013-515781)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公表番号】特表2013-533017(P2013-533017A)
(43)【公表日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2011056785
(87)【国際公開番号】WO2011160875
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年3月31日
(31)【優先権主張番号】MI2010A001164
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】508101395
【氏名又は名称】サンブセッティ,アントニオ
【氏名又は名称原語表記】SAMBUSSETI,Antonio
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】サンブセッティ,アントニオ
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/077047(WO,A1)
【文献】 特表2005−534374(JP,A)
【文献】 特表2010−535073(JP,A)
【文献】 特表2010−524649(JP,A)
【文献】 特表2011−520527(JP,A)
【文献】 特表2009−512515(JP,A)
【文献】 特開昭61−159963(JP,A)
【文献】 特表平11−503045(JP,A)
【文献】 特許第4694575(JP,B2)
【文献】 特開昭58−073352(JP,A)
【文献】 特表2003−530916(JP,A)
【文献】 特許第4852033(JP,B2)
【文献】 国際公開第2007/039159(WO,A1)
【文献】 特開昭63−158052(JP,A)
【文献】 実公昭41−003999(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同所性人口膀胱装具(1)であって、
熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって被覆された外面(601)および内面(604)を有するシリコーン多層膜(2)で形成された、萎ませることができるバルーン(600)を含み、該バルーン(600)は、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって内側および外側を被覆された、2つの管状部材(10)であって、外側に延伸し、強制的に嵌合させることによって、尿管(6,6’)を上記装具(1)に連結するために適応されている2つの管状部材(10)と、
上記装具に尿管(8)を連結するのに好適な円錐台(602)と、
を備え、
上記円錐台(602)は、メッシュで補強されたシリコーン(5)で形成されており、
上記管状部材(10)は、内側に、該管状部材(10)の内側に向いて突き出た複数の突起部(16)を含んでおり、該突起部(16)は、上記尿管(6,6’)を強制的に嵌合した後に上記尿管(6,6’)を止めておくのに用いられ、
上記の各管状部材(10)は、中空の単一部材からなる円錐部材(300)の一部であり、
上記円錐部材(300)は、上記バルーン(600)と一体化するように、上記バルーン(600)の内面に接着されるよう適応されている幅広の基部(13)を備えていることを特徴とする装具。
【請求項2】
上記中空の円錐部材(300)は、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって内部および外部を被覆されたシリコーンで形成されており、各管状部材(10)は、上記幅広の基部(13)によって、上記中空の円錐部材(300)の円錐台部分(14)と連結していることを特徴とする請求項1に記載の装具。
【請求項3】
放射線不透過性の添加物が、上記膜(2)のシリコーンに添加されており、該放射線不透過性の添加物は、好ましくは、硫酸バリウム、二酸化チタンなどから成る集合から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の装具。
【請求項4】
少なくとも2つの穴部(9,9’)をさらに備えており、
上記2つの穴部(9,9’)は、それぞれ、上記バルーンの上にある各ストッパーカバー(603)の上に形成されており、
上記2つの穴部(9,9’)は、それぞれ、上記中空部材(300)の上記管状部分(10)の挿入が可能となるように適応されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の装具。
【請求項5】
上記多層膜(2)は、その厚さが約600ミクロンであり、かつ20層のシリコーン層で形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の装具。
【請求項6】
上記円錐台(602)の補強用メッシュは、デクロン(Dacron)(登録商標)で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の装具。
【請求項7】
熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンは、外側の層(3)および内側の層(4)の形状であって、
上記の各層は、約0.2から0.3ミクロンの厚さを有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の装具。
【請求項8】
上記管状部材(10)、および上記管状部材(10)に対応する上記中空円錐部材(300)は、シリコーンで形成されており、該シリコーンは、好ましくは、硬度50ショアー(Shore)の放射線不透過性シリコーンであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の装具。
【請求項9】
上記突起部(16)は、水平断面において、上記尿管(6,6’)を締め付けるように
、上記尿管(6,6’)の径よりも小さい径の円周を規定するように突出しており、
上記突起部は、好ましくは、幅1Ch、高さ1Chであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の装具。
【請求項10】
上記装具の表面のうち、外側を向いた面は、熱分解性乱層構造カーボンによって被覆されており、内側を向いた面は、ダイヤモンド様カーボンによって被覆され、
あるいは、外側を向いた面は、ダイヤモンド様カーボンによって被覆されており、内側を向いた面は、熱分解性乱層構造カーボンによって被覆されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の装具。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の装具を製造するための方法であって、
外面(601)および内面(604)を有し、かつ柔らかいシリコーンの膜(2)で構成されているバルーン(600)の形を有する装具を取得する工程と、
上記バルーン(600)の上に開口部および3つの円形の穴部(603’)を取得し、各穴部(603’)をストッパータイプのカバー(603)でふさぐ工程と、
上記カバー(603)の1つに、内側が中空で、かつ上記バルーン(600)の外面(601)の方向を向いている、シリコーン製の円形円錐台(602)を接着する工程と、
上記開口部の縁を保護した後、上記バルーン(600)の上記外面(601)の上と、上記円錐台(602)の表面の上とに、乱層構造カーボンを堆積するステップと、
第1の加硫を行う工程と、
上記外面(601)を上記バルーン(600)の内側に移動させ、上記内面(604)を上記バルーンの外側に移動させるように、加硫されたバルーン(600)を、上記開口部を介して裏返す工程と、
上記カバー(603)の表面(605)および上記開口部の縁を適切に保護した後、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンの適用によって、上記面(604)を被覆する工程と、
第2の加硫を行い、上記保護を除去する工程と、
上記円錐台(602)のない上記ストッパー(603)の上記面(605)に、貫通孔(9,9’)を形成し、該貫通孔(9,9’)に、予め乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって被覆された上記中空部材(300)の上記管状部分(10)を挿入し、上記ストッパー(603)の被覆されていない面(605)に、上記幅広の面(13)を接着する工程と、
続いて、上記バルーン(600)の内外を裏返すことによって、上記円錐台(602)および上記中空部材(300)の上記管状部分(10)を外側に向かせて、続いて、内外を裏返すための開口部の縁を互いに接着する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、尿管および尿道へ連結するための部材を備える、改良された同所性人工膀胱装具に関する。
【0002】
患者の膀胱が膀胱に固有の機能を損なう重篤な難病を患った際には、その膀胱を人工膀胱装具と置き換えることが望ましいことが知られている。
【0003】
このような問題を解決するために開発された各種解決方法の1つが、本来の膀胱を、国際特許出願第2007/039159号明細書に記載された、加圧に耐えることのできる膀胱であって、下腹部を加圧するだけで空になる、柔軟な多層シリコーン製の膀胱に、置き換えることである。
【0004】
このタイプの装具は、尿管および尿道と前記人工膀胱との間を縫合によって連結する。しかしながら、縫合での取付は、例えば尿管および/または尿道が先天的または病理学的な理由で衰弱および/または薄化している場合のように、常に可能なわけではない。さらに、縫合を行うには熟練度の高い技能が要求され、その上、置換手術に時間がかかる。
【0005】
本発明の目的は、本来の膀胱を置換することができ、患者の生活の質の大幅な向上を可能にする同所性人工膀胱装具を提供することによって、先行技術のこれらの短所を解消することにある。
【0006】
本発明のもう1つの目的は、縫合を行わなくても尿管および/または尿道を人工膀胱に取付けでき、該膀胱から該尿管および/または尿道が分離する危険がなく、これらの最適な取付を確実に実施することができる同所性人工膀胱装具を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、製造が容易で、生体親和性が改善され、拒絶反応が抑制された同所性人工膀胱装具を提供することにある。
【0008】
これらの目的は、添付の独立請求項1に列挙する特性を備える本発明に従う人工膀胱によって達成される。
【0009】
本発明の好適な実施形態は従属請求項から明らかである。
【0010】
本発明に係る同所性人工膀胱装具は、柔軟性および弾性を有する合成素材の多層膜で形成される、袋形状またはバルーン形状のケーシングを含み、特殊な素材の内側被覆および外側被覆によって生体親和性を有している。
【0011】
特に本装具は、X線板、超音波スキャンおよび電波を用いる他の分析システムで観察されるのに好適な、放射線不透過性の素材で製造されている。さらに、本装具の内面は、尿で劣化しないように採用された素材で被覆され、一方、外面は、周囲の組織への本装具の融着を防止するように設計された素材で被覆されている。
【0012】
本同所性装具は、尿管の連結のための少なくとも2つの穴をさらに備え、該穴の数と同数の中空の管状部材によって、該尿管の連結が行われている。各部材は、基部と、上記尿管の直径に実質的に同じ内径を有する管状部分とによって形成されており、該管状部分は、本装具に存在する上記穴を通過するのに好適である。各尿管は、本装具に設けられた各中空部材の上記管状部分の内側に強制的に嵌合される。
【0013】
従って、各管状部材は、中空円錐形部材の一部に相当する。上記中空円錐形部材を上記バルーンに一体化させるように、上記バルーンの内面に接着されるのに好適な幅広の基部を有する円錐台部分へ、上記管状部材が連結されている。
【0014】
上記中空円錐形部材はさらに、高い生体親和性を有し、内側に1つまたは複数の突起を備えている。この1つまたは複数の突起は、上記尿管が上記中空部材へ嵌合された後にピンと張った状態となることで、上記尿管が離脱および分離してしまうという可能性を避けるのに用いられる。
【0015】
同様に高い生体親和性を有する各中空円錐台部材によって、本装具へ上記尿道を連結するための第3の穴がさらに設けられており、該中空円錐台部材は補強用メッシュを備え、該補強用メッシュは、同様の部材においては発生する破損の可能性がない、より効率的で安全な方法によって、該中空円錐台部材における上記尿道の切替を可能とする。
【0016】
実際、本装具は主として、上記円錐台がメッシュによって補強されたシリコーンであること、および、縫合を必要とせずに上記尿管を強制的に嵌合してから上記尿管を制御するのに好適な複数の突起を上記管状部材が内部に含むこと、において特徴づけられる。
【0017】
本発明の別の特徴は、単に一例であって、したがって非限定的な本発明の実施形態に関する以下の詳細な説明によって、明らかになる。なお、実施形態では以下の添付図面を参照する。
【0018】
図1aは、本発明の一実施形態に係る多層同所性人工膀胱装具の前駆体の正面図である。
【0019】
図1bは、図1aの線B−Bに沿った断面図である。
【0020】
図1c、図1d、図1eは、各々、図1bのC、D、Eの詳細を示す断面図である。
【0021】
図1fは、接着される前の、図1eの円錐台の拡大断面図である。
【0022】
図1gおよび図1hは、図1fの円錐台の透視図である。
【0023】
図2は、人工膀胱の、図1の前駆体の一部の拡大断面図である。
【0024】
図3は、中空円錐形部材およびスリーブによる、尿管と本装具との間の組立てを示す、引延し断面が分かるようにした透視図である。
【0025】
図4は、本発明に係る人工装具に取付けられた後の上記尿管の中央部分の拡大図である。
【0026】
図5aは、上記中空円錐形部材の一実施形態の上面図である。
【0027】
図5bは、上記中空円錐形部材の、図5aの線A−Aに沿って、鉛直方向に中央で切断した際の断面図である。
【0028】
図5cは、図5bおいてBで示される部分の詳細を拡大して示す、中央部分の断面図である。
【0029】
図5dは、上記中空円錐形部材を図5bの線D−Dに沿って水平に切断した際の、部分断面図である。
【0030】
図6aおよび図6bは各々、図3に示され、図5aから図5dの中空円錐形部材へと結合されるスリーブの上面図および部分断面図である。
【0031】
図7は、同所性人工膀胱装具の透視図であって、該人工膀胱に連結されている上記尿管および上記尿道が示されている。
【0032】
図1aは、バルーン600の形態における装具の前駆体を示している。バルーン600は萎ませることができ、萎ませることができることに由来する充満の仕組みと空になる仕組みとは、本装具の内側の空気と外側の空気との間の圧力差の効果によって機能する。本装具の容量は500から900cmの間である。
【0033】
バルーン600は、柔軟なシリコーン製で厚さ約600μmの多層膜2(図2)から形成されており、上記のように、加圧に耐え、凹むことができ、または萎ませることができる。好ましくは、バルーン600の膜は、20層のシリコーンからなり、各層の厚さは約30μmである。好ましくは、膜2は国際特許出願第2007/039159号に記載の方法で製造され、この特許出願文献全体を参照によってここに引用する。
【0034】
より詳細には、多層膜2は、浸せき法として知られている製造方法によって、原材料としてのシリコーンから得られる。浸せき装置として実際に知られている機械によって、バルーンまたは袋は、単一層のシリコーンから、必要な厚み(例えば約600μm)が得られるまで、各層の上に他の層を重ね合せることによって、創作される。
【0035】
上記多層浸せき技術は、第1の層を形成し、10分間シクロヘキサンを蒸発させ、第2の層を重ね合せ、再度10分間シクロヘキサンを蒸発させ、最後の層まで同様に処理することにある。この時点でシリコーンの積層膜2は半流動状態にあり、その後、約150℃で、生成される本装具のサイズに応じて30分から1時間の幅をもって、加硫のための炉に置かれる。上記加硫工程の後、シリコーンの多層膜2は、柔らかさおよび弾力性について、その最適な硬さになり、もはや半流動状態ではない。
【0036】
使用されるシリコーンは、例えば、シリカで補強された、ジメチルとメチルビニルシロキサンとの共重合体からなっていてもよい。好ましくは、例えば、Nusil Technology社が販売している、コード番号MED 4735(登録商標)で知られているような、医療用シリコーンが使用される。
【0037】
好ましくはさらに、本装具をX線、超音波スキャン等の一般的に用いられている技術で見つけることが可能となるよう、硫酸バリウム、二酸化チタンなどのような放射線不透過性添加物が上記シリコーンに添加されている。好適な実施形態において、バルーン600は、厚さ約0.6mmで、直径は約72mmから74mmの間である。
【0038】
バルーン600に、縦の開口部(図示しない)と、3つの円形の穴603’(図1d)とが形成され、この3つの円形の穴603’は、それぞれにストッパーカバー603(図1aおよび図1c)が設けられる、3つの実質的に平坦な領域を特定する。好適な実施形態において、各穴603’の直径は約22mm、各ストッパー603の外径は約26mmである。
【0039】
バルーン600を準備した後に、内側が中空で、バルーン600の外面601に対向する、円形の円錐台602(図1a)を、3つのストッパー603のうちの1つに接着する。好適な実施形態において、円錐台602は、高さが約15mm、基底部の直径が約24mm、穴の内径が約6mm、厚さが約1mmである。
【0040】
上記の円形の円錐台602は、補強されたシリコーン5で形成されており、以下に記載するように、手術の際には尿道の挿入のための案内部として作用する。
【0041】
円錐台602の補強されたシリコーン5は、内側に、デクロン製のメッシュまたはネットを備えることによって補強されており、該メッシュまたはネットは、シリコーン5の厚みの間に挿入され、該メッシュがシリコーン層に組み込まれることを可能とする、例えば、成型、浸せきまたは類似の技術といった、周知の技術によって準備される。
【0042】
上記メッシュは、尿道(図示しない)が裂ける可能性を回避しつつ、尿道が円錐台602の側面へより好く縫合されることを可能とする。縫合糸のサイズは4シャリエール(Charrier)から0シャリエールであるため、上記に定義したように単体では1mmの厚みのシリコーン製の円錐体に比べてより強固である。メッシュの存在はさらに、バルーン600から得られる上記人工装具へ尿道を縫合するための、より多くの取付点を提供する。
【0043】
2つのストッパー603における、円錐台602を備えていない、残りの2つの平坦化された円形の領域は、代わりに、以下に詳細を記載する各単一部材300(図3)によって、バルーン600から得られる上記人工膀胱へと尿管6(図7)を連結するのに役立つ。
【0044】
円錐台602およびストッパー603を有するシリコーン製の多層バルーン600が準備されると、その後、高い生体親和性を有する生体適合材料の、マイクロフィルムまたは層3(図2)の適用が、最も外部の面601上に、以下に詳細を記載する方法に従って、実施される。上記生体適合材料は、例えば、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンであり、上記層の厚みは、例えば、約0.2から0.3μmであってもよい。
【0045】
上記のようにして、被覆されていないシリコーンに関して尿の働きによってもたらされる、本装具への上記繊維性カプセルの付着、および本装具の内部腐食という危険性が回避される。
【0046】
非結晶ダイヤモンド様カーボンは、ダイヤモンドに類似の層状構造を備える、白または透明のカーボン被膜(実際それは、「ダイヤモンドライクカーボン(Diamond−Like Carbon、DLC)」と呼ばれる)であって、皮膚への優れた耐性に加え、硬度といった表面抵抗、および摩耗への耐性という顕著な特性を備える。
【0047】
上記非結晶材料は、滑らかな面の形成に加え、高い生体親和性材料であって尿への耐性を備えることが知られている。
【0048】
特に、上記生体適合材料は、残滓物が実質的にない、尿の滑らかな移動を確実なものとする程度の疎水性を有することが知られている。さらに、上記非結晶ダイヤモンド様カーボンは、細胞および微生物に接触する場合に中性であることが知られている。これにより、細胞の高速な生成と、移植される装置の同化の加速とがもたらされる。同時に、周辺組織の付着が、被覆された面と該組織の細胞との間の相互作用が減少することによって、減少する。
【0049】
撥水性を向上させる、または低下させるための様々な化合物を適宜ドープする場合にも、非結晶ダイヤモンド様カーボンを使用することが可能である。
【0050】
熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンが、周知の技術に従って、外面601上に堆積され、上述の開口部の縁のみを保護した後、バルーン600の1回目の加硫を実施する。
【0051】
このようにして、円錐台602の上記側面と同様に熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンで被覆されている外面601を有する円錐台602を備えるバルーン600が得られる。その後、バルーン600の内外を開口部(図示せず)を介して裏返し(1回目)、面601および円錐台602をバルーン600の外側から内側に移動させる。
【0052】
この時点で、面601の反対側の内面604(図1b)は、外側へ移動する。既に外側に向けられているストッパー603の表面、および、裏返すための上記開口部の縁を好適に保護した後、さらに、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンの層4の適用によって、面604の被覆が行われる。
【0053】
本発明に従って、本装具の外面が熱分解性乱層構造カーボンで被覆され、内面はダイヤモンド様カーボンで被覆されてもよく、逆に、外面がダイヤモンド様カーボンで被覆され、内面は熱分解性乱層構造カーボンで被覆されてもよい。
【0054】
その後、2回目の加硫が実施され、その後、ストッパー603(図1c)の表面の保護を除去する。
【0055】
この時点で、好ましくは、ステンレス鋼製の脳外科用スタイレットまたは穿孔器を用いて、貫通孔9(または9’)(図3)が、円錐台602を有しないストッパー603の一方または両方の面に設けられる。
【0056】
穴9は、サイズが一般に5Ch〜15Chであり、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンで被覆された後、各中空部材300の管状部分10の挿入、および強制的な通過が可能となる。
【0057】
実際、単一中空部材300もまた、上記バルーン600に実施したように、内面および外面の両方が、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって被覆され、面13と、事前に形成された長軸方向の切り口の縁とを保護し、長軸方向に切開され開かれた中空部材300の両方の面に、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンを適用し、加硫し、続いて切り口の各縁の保護を除去することによって、この2つの保護された縁を互いに接着できるようになり、部材300の最初の形が復元される。
【0058】
その後、中空部材300の円錐台14の面13が、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって被覆されないストッパー603の面605(図4)に接着される。
【0059】
接着が完了すると、各部材300は、その円錐台部14がバルーン600の外側を向き、管状部10が内側を向いている。
【0060】
この時点で、1つのまたは2つの部材300をバルーン式人工膀胱600に接続した後に、バルーン600の内外を再度裏返し、こうして、各部材300の面601、円錐台602、および管状部10が外側を向き、その一方で、部材300の円錐台部14、上記バルーンの面604、およびストッパー603の面605が回転してバルーン600の内側を向いている、図1aおよび図4に示す状態に戻す。
【0061】
この時点で、閉じたバルーン600を得ることで、閉じた膀胱を得るために、内外を裏返すための開口部の縁を、互いに接着してもよい。上述の接着作業は、好ましくは、シリコーン接着剤を用いて実施される。
【0062】
図5aから図5dに、管状部材300の詳細が図示されている。部材300は単一部材であって、尿管6が強制的に嵌合される管状部分10(図3図4)と、部材300を上記人工膀胱の内面に接着することを可能にする機能を有する円形面13(図5b)によって管状部分10に連結されている円錐台部分14とを有する。部材300は、好ましくは、放射線不透過性で、硬度が約50ショア(Shore)の、シリコーンで形成されている。
【0063】
部材300の好適な実施形態において、管状部材10は内径が約7mm、外径が約8mm、全長が約40mmであり、円形面13の直径は約16mmであり、管状部10の長さは30mmである。管状部分10は通常、平らな基部13に対し垂直である。
【0064】
中空円錐部材300の内側に、管状部分10および円錐台部分14の位置に、尿管6(図4)の上記部材300からの離脱を防ぐための、複数の突起部ないし歯16がある。手術中に尿管6は、中空円錐部材300の管状体の内側へと挿入できるように、上記膀胱の方へ引っ張られるので、手術が済んだ後に、尿管6が最初の位置に戻り、腎臓の方へ移動し、尿管6、6’(図7)が上記部材300から離脱するかもしれない。
【0065】
歯16の2つのペアは、縦方向には約10mm間隔で配置され(図5b)、水平方向の断面においては径方向で互いに対向し合うように配置されている(図5b)。水平方向の断面において、歯16は円周を規定するように突き出ており、該円周の直径は、抵抗のある状態で結合される(つまり強制的に嵌合される)ように、尿管6、6’の直径に比べて、小さい。
【0066】
このようにして、中空部材300の管状部分10は、その弾力性によって、尿管6、6’の管の周囲を多少しっかりと締め付けるであろう。先行技術においては、尿管6、6’を人工膀胱の膜部分へと取り付けるのに縫合によって取り付けていたが、このようにして、尿管6、6’を人工膀胱の膜部分へと取り付けるのに、もはや縫合は必要ない。
【0067】
好適な実施形態において、各歯16は、高さ1Ch,幅1Chである。
【0068】
歯16の総数は、本発明の目的を制限するものではないとしても、少なくとも4つである。
【0069】
前述までのプロセスにおいて、内面および外面の両方が熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって被覆され、単一部材300の円錐台602および管状部10が外側を向いた、人工膀胱600の同所性装具1が得られ、この装具1はこの状態で患者にインプラントされる準備が整っている。
【0070】
手術中に、円錐台602の下に位置するストッパー603を貫通するように、穿孔器またはステンレス鋼製の脳外科用スタレットを用いて、円錐台602に穴を開けて、各尿管6および6’を管状部10の中へ押し込みつつ、尿道8(図7)が上記人工膀胱へと入ることができるようにする。
【0071】
単一部材300の管状部分10に挿入された尿管6および6’をさらに保護し、管状部分10の強剛性を増すためには、図3に示すように、尿管6、6’を挿入した後に、上記部材300の管状部分10の外部に取り付けるスリーブ700(図3および図6)を用いることも好適である。
【0072】
したがって、前述までのプロセスによれば、本発明に係る装具1のもう1つの実施形態が得られる。このもう1つの実施形態では、人工膀胱1は、内面および外面が熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって被覆されている放射線不透過性のシリコーン製の、バルーン600から製造される。人工膀胱1は、装具1を尿道8に連結するのに好適な、補強されたシリコーン製の、円錐台602をさらに備えている。また、バルーンは、熱分解性乱層構造カーボンまたはダイヤモンド様カーボンによって内面および外面が被覆された単一中空部材300によって、尿管6および6’の取付を規定する。この単一中空部材300は、上記バルーンの膜603’中に形成されている貫通孔9および9’を貫通するように挿入される管状部分10に連結される幅広の基部13とともに、円錐台部分14によって形成されている。また一方で、上記部材300の幅広の基部13は、上記膜2の内面605に接触する。
【0073】
添付の請求項に記載する本発明の技術的範囲から逸脱することなく、本発明の本実施形態に対して、当業者が考え付く細部における種々の変更および改良を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1a】本発明の一実施形態に係る多層同所性人工膀胱装具の前駆体の正面図である。
図1b図1aの線B−Bに沿った断面図である。
図1c図1bのCの詳細を示す断面図である。
図1d図1bのDの詳細を示す断面図である。
図1e図1bのEの詳細を示す断面図である。
図1f】接着される前の、図1eの円錐台の拡大断面図である。
図1g図1fの円錐台の透視図である。
図1h図1fの円錐台の透視図である。
図2】人工膀胱の、図1の前駆体の一部の拡大断面図である。
図3】中空円錐形部材およびスリーブによる、尿管と本装具との間の組立てを示す、引延し断面が分かるようにした透視図である。
図4】本発明に係る人工装具に取付けられた後の上記尿管の中央部分の拡大図である。
図5a】上記中空円錐形部材の一実施形態の上面図である。
図5b】上記中空円錐形部材の、図5aの線A−Aに沿って、鉛直方向に中央で切断した際の断面図である。
図5c図5bおいてBで示される部分の詳細を拡大して示す、中央部分の断面図である。
図5d】上記中空円錐形部材を図5bの線D−Dに沿って水平に切断した際の、部分断面図である。
図6a図3に示され、図5aから図5dの中空円錐形部材へと結合されるスリーブの上面図である。
図6b図3に示され、図5aから図5dの中空円錐形部材へと結合されるスリーブの部分断面図である。
図7】は、同所性人工膀胱装具の透視図であって、該人工膀胱に連結されている上記尿管および上記尿道が示されている。
図1a)】
図1b)】
図1c)】
図1d)】
図1e)】
図1f
図1g
図1h
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図7