特許第5795634号(P5795634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5795634POF3またはPF5からのLiPO2F2の製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795634
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】POF3またはPF5からのLiPO2F2の製造
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/455 20060101AFI20150928BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20150928BHJP
【FI】
   C01B25/455
   H01M10/0567
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-522214(P2013-522214)
(86)(22)【出願日】2011年7月29日
(65)【公表番号】特表2013-534205(P2013-534205A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】EP2011063106
(87)【国際公開番号】WO2012016924
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年6月6日
(31)【優先権主張番号】10188108.4
(32)【優先日】2010年10月19日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10171881.5
(32)【優先日】2010年8月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】アルフ・シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】プラシド・ガルシア−ファン
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−143572(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/043538(WO,A1)
【文献】 特開2008−222484(JP,A)
【文献】 特開2008−140767(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111367(WO,A1)
【文献】 特開2007−035617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 − 25/46
H01M 10/0567
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiPOと、POF、PF、およびそれらの混合物からなる群から選択されるP−F結合を有する化合物とを反応させ、それによってLiPOを含む反応混合物を形成することによる、LiPOの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2010年8月4日に出願された欧州特許出願第10171881.5号明細書、および2010年10月19日に出願された欧州特許出願第10188108.4号明細書(その内容全体があらゆる目的で本明細書に援用される)の優先権の利益を主張する。本発明は、LiPOの製造方法に関し、特に、P−F結合を有し、五フッ化リン(PF)、フッ化ホスホリル(POF)、およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物を、オルトリン酸リチウム(LiPO)と反応させるステップを含むLiPOの製造方法に関する。本発明は、LiPOの製造におけるPOFの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ジフルオロリン酸リチウムLiPOは、リチウムイオン電池用の電解質塩を含む電解質組成物の電解質塩または添加剤として有用である。たとえば、(特許文献1)には、フッ化物以外のハロゲン化物、LiPF、および水から、LiPFおよびLiPOの混合物を製造する方法が開示されている。得られた塩混合物を非プロトン性溶媒中に溶解させたものが、リチウムイオン電池の電解質溶液として使用される。(特許文献2)には、その時点での最新技術として、PおよびLi化合物からのLiPOの製造が記載されており、発明として、LiPFおよびSi−O−Si結合を有する化合物、たとえばシロキサン類からのLiPOの製造が記載されている。(特許文献3)および(特許文献4)には、LiPFおよびカーボネート化合物からのLiPOの製造が開示されており;(特許文献4)によると、PFの形成下でLiPFは50℃以上で分解し;他の刊行物によると、PFはLiPFの融点(約190℃)以上でのみ形成される。(特許文献5)には、フッ化物以外のハロゲン化物、LiPF、および水から、LiPFおよびLiPOの混合物を製造する方法が開示されている。得られた塩混合物を非プロトン性溶媒中に溶解させたものが、リチウムイオン電池の電解質溶液として使用される。
【0003】
しかし、上記方法は、技術的に困難であり、工業的には関心がもたれないLiFなどの副生成物がより多い量で生成し、したがって、廃棄物処理のためのさらなるコストが生じる。さらに、出発物質のLiPFは高価であり、したがってその使用によって製造コストが増加する。したがって、上記欠点を回避可能できる新規な方法の開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/111367号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第A−2 061 115号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008−305402号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/102376号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第A−2 065 339号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、技術的に実施可能であり経済的である方法でLiPOを提供することである。この目的およびその他の目的は、特許請求の範囲において概略が示される本発明によって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によると、LiPOは、LiPOと、POF、PF、およびそれらの混合物からなる群から選択されるP−F結合を有する化合物との反応によって製造される。それによって得られる反応混合物はLiPOを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一実施形態によると、LiPOは、PFおよびLiPOから製造される。どちらも安価な出発物質である。PFおよびLiPOのモル比に依存して、反応混合物は、反応式
PF+LiPO→2LiPO+LiF (I)
2PF+LiPO→2LiPO+LiPF (II)
によりLiFおよび/またはLiPFを含むことができる。
【0008】
特に、式(II)による反応は、生成されるLiPF自体が有用な生成物であるため有利である。
【0009】
本発明の別の一実施形態によると、LiPOは、フッ化ホスホリル(POF)とオルトリン酸リチウム(LiPO)との反応によって製造される。
2POF+LiPO→3LiPO (III)
【0010】
この反応では理想的には副生成物が全く生成しないので、反応混合物がLiFなどの少なくとも1種類の副生成物を含有する従来技術の方法と比較して、精製を行わない場合でさえもLiPOの純度は非常に高い。
【0011】
フッ化ホスホリル(POF)は、たとえばABCR GmbH & Co.KGから商業的に入手することも、当技術分野において周知の方法によって調製することもできる。たとえば、POFは、HFおよび/または他のフッ素化剤、たとえばZnFを用いた塩化ホスホリルのフッ素化によって調製することができる。あるいは、HPO/P、HF/HO、およびSO/HSOの反応によって調製することもできる。場合によっては、得られたPOFは不純物としてPFを含有することがあり、またはその逆で、PFが不純物としてPOFを含む場合もある。本発明の方法の利点は、このような混合物でさえも、収率に影響を与えることなく使用できることである。
【0012】
PFは、たとえばPraxairから商業的に入手することも、PClおよびHFから調製することも、欧州特許出願公開第A−0 0816287号明細書に記載されるように、たとえばPCl、Cl、およびHFから調製することもできる。
【0013】
LiPOは、たとえばStrem Chemicals,Inc,Newburyport,USA、またはChemetall GmbH,Germanyより市販されている。これは1000℃よりもはるかに高い融点を有する固体である。
【0014】
したがって、本発明の反応は、気固反応であるか、あるいはPOFまたはPFのそれぞれの溶媒が使用される場合は気液固反応または液固反応である。
【0015】
好ましくは、PFとLiPOとの間の反応、POFとLiPOとの間の反応、ならびにPOFおよびPFのそれぞれの混合物とLiPOとの間の反応は、水および水分の非存在下で行われる。したがって、反応は、少なくともその期間の一部は不活性ガスの存在下で行うことができ;乾燥窒素が非常に好適であるが、他の乾燥不活性ガスを使用することもできる。反応はオートクレーブ型容器中または他の反応器中で行うことができる。腐食に対して抵抗性である鋼鉄またはその他の材料でできた装置中、たとえばモネルメタルでできた反応器またはモネルメタルで被覆された反応器の中で反応を行うことが好ましい。
【0016】
LiPOは、好ましくは小さな粒子の形態、たとえば粉末の形態で使用される。所望により、これはPOF、PF、およびその混合物との反応に導入する前に乾燥させることができる。
【0017】
反応物POFまたはPFのそれぞれは、気体の形態、または好適な非プロトン性有機溶媒中の溶液の形態で反応に導入することができる。好適な溶媒は、たとえば、エーテル化合物、たとえばジエチルエーテル、およびリチウムイオン電池中に溶媒として有用な有機溶媒であり;そのような溶媒の多くの例、たとえば、特に有機カーボネート類、そしてさらにはラクトン類、ホルムアミド類、ピロリジノン類、オキサゾリジノン類、ニトロアルカン類、N,N−置換ウレタン類、スルホラン、ジアルキルスルホキシド類、ジアルキルスルフィット類、アセテート類、ニトリル類、アセトアミド類、グリコールエーテル類、ジオキソラン類、ジアルキルオキシエタン類、トリフルオロアセトアミド類が、以下に示されている。
【0018】
別の実施形態においては、POFは、錯体の形態、特にPOF−アミン錯体類などのドナー−アクセプター錯体の形態で反応器中に導入される。このような錯体としては、POF−ピリジン、POF−トリエチルアミン(trietylamine)、POF−トリブチルアミン、POF−DMAP(4−(ジメチルアミノ)ピリジン)、POF−DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン)、POF−DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)、およびPOF−メチルイミダゾールが挙げられる。特定の実施形態においては、POFを反応容器に供給するために別の容器を使用することができる。PFも、そのような方法で反応器中に導入することができる。
【0019】
POF、PF、および任意のその混合物は、好ましくは気体の形態、または非プロトン性有機溶媒中の溶液に形態で反応器中に導入される。POF、PF、および任意のその混合物は、より好ましくは気体の形態で反応器中に導入される。
【0020】
好ましくは、HFは反応混合物に加えられない。好ましくは、ジフルオロリン酸は反応混合物に加えられない。生成するLiPO中にP含有率の、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは100%が、式(I)、(II)、および(III)による反応に導入されるPFまたはPOFおよびLiPOに起因し、生成するLiPO中のP含有率の20%未満、好ましくは5%未満が、加えられたLiPFに起因し;最も好ましくは、LiPFは全く加えられない。
【0021】
反応時間は、所望の転化率が得られるように選択される。多くの場合、1秒〜5時間の反応時間で、POF、PF、およびそれらの任意の混合物とLiPOとの間の反応で良好な結果が得られる。POFとLiPOとの間の反応の場合、0.5〜2時間の好ましい反応時間、最も好ましくは約1時間の反応時間で良好な結果が得られる。PFまたはPFおよびPOFの混合物とLiPOとの間の反応の場合も、0.5〜2時間の好ましい反応時間、最も好ましくは約1時間の反応時間で良好な結果が得られる。反応速度は非常に速い。
【0022】
反応温度は好ましくは0℃以上である。好ましくは反応温度は100℃以下である。
【0023】
PFおよびLiPOを反応させる場合の反応温度は、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは50℃以下である。さらにより好ましくは50℃未満、特に好ましくは45℃未満である。有利には、PFとLiPOとの反応は15〜35℃の温度、好ましくは20〜30℃の温度、最も好ましくは周囲温度で行われる。
【0024】
POFおよびLiPOを反応させる場合、反応温度は、好ましくは周囲温度(25℃)以上であり、より好ましくは50℃以上である。反応温度は好ましくは100℃以下であり、より好ましくは90℃以下である。好ましい温度範囲は50〜90℃である。
【0025】
所望により、反応器は、内部の加熱または冷却手段、あるいは外部の加熱または冷却手段とともに使用することができる。反応器は、たとえば、水などの熱伝導剤を有するラインまたはパイプを有することができる。
【0026】
POF、PF、またはそれらの混合物とLiPOとの間の反応は、周囲圧力(絶対圧で1bar)で行うことができる。好ましくは、POF、PF、またはそれらの混合物とLiPOとの反応は、1bar(絶対圧)を超える圧力、より好ましくは3bar(絶対圧)を超える圧力、最も好ましくは5bar(絶対圧)を超える圧力で行われる。反応が進行すると、POFおよびPFのそれぞれが消費され、その結果として、たとえばオートクレーブ中の圧力が低下しうる。反応中の圧力の上限は重要ではない。多くの場合、実用的な理由で、圧力は30bar(絶対圧)以下である。
【0027】
POFおよびPF、またはそれらの混合物とLiPOとの反応は、バッチ方式で、たとえばオートクレーブ中で行うことができる。反応器は、たとえば撹拌装置などの内部手段を有することができ、それによって、LiPOの固体粒子の表面に機械的インパクト(impakt)を与えて、表面から反応生成物を除去し、未反応の新しい表面を得ることができる。反応器自体を振盪したり回転させたりすることも可能である。
【0028】
あるいは、たとえば、流通反応器中で、反応を連続的に行うことができる。たとえば、床を形成するためにLiPOを提供することができ;反応の終了を示すPOFまたはPFの「破過点」が観察されるまで、POF、PF、またはそれらの混合物をこの床に通すことができる。所望により、反応を行う前に酸素、水分、またはその両方を除去するために、窒素または希ガスなどの乾燥不活性ガスをLiPO床に通すことができる。
【0029】
反応が連続的に行われる場合、たとえば、LiPOを、たとえば流動床として流通反応器中の床の形態に維持することができ、POFまたはPF、またはそれらの混合物は床に連続的に通される。連続的に、POFおよび/またはPFおよび未反応のLiPOを反応器に導入することができ、連続的に反応生成物を反応器から取り出すことができる。固体粒子の表面上に機械的衝撃を与えることで、それらの表面から反応生成物を除去して未反応のLiPOを得る手段、たとえば可動部品、たとえば撹拌装置の反応器中での使用を見越すことができる。
【0030】
所望により、反応は溶媒中、たとえば有機極性非プロトン性溶媒中で行うことができる。好ましくは、LiPOがその中に分散される。多量のLiPOがそのような溶媒中に溶解することは期待されないが、少なくとも溶媒は、LiFまたはLiPFなどの反応生成物を溶解させ、それによってLiPOの単離をより容易にする機能を果たすことができる。所望により、POFおよびPFまたはそれらの混合物のそれぞれを、非プロトン性極性溶媒、たとえば、エーテル、たとえばジアルキルエーテル、たとえばジエチルエーテル、またはその他の溶媒、特に後述するリチウムイオン電池用の溶媒の1つの中に溶解させて反応中に導入することができる。LiPFはこれらの溶媒に対する溶解性がLiPOよりもはるかに高いため、POFまたはPFとLiPOとの間の反応およびその後の形成されたLiPFの除去を、一種の「1ポット法」で同じ反応器中で行うことができる。これは、POFとLiPOとの間の反応が行われる場合に特に好ましく、その理由は理想的には副生成物が形成されないからであり、PFとLiPOとの間の反応の場合も特に好ましく、その理由は、副生成物としてのLiFの形成が抑制され、副生成物としてのLiPFの形成が増加するように(PF:LiPOのモル比を比較的高くする、たとえば2〜4にすることによって)、この反応を行うことができるからであり;これについては以下に説明する。
【0031】
所望により、反応終了後、溶媒または残留するPOFまたはPFを除去するために、真空を使用したり、窒素または希ガスなどの乾燥不活性ガスをLiPO床に流したりすることができる。
【0032】
溶媒が使用されない場合は、得られる反応混合物は固体の形態で存在する。その固体の成分を溶解させることを意図する場合には、所望により、接触面を大きくするために固体を細かくする、たとえば粉砕することができる。
【0033】
所望により、形成されたLiPOは、LiFおよび/またはLiPFを含みうる得られた反応混合物から単離することができる。
【0034】
以下に、PFおよびLiPOの反応をより詳細に説明する。
【0035】
PF対LiPOのモル比は、好ましくは0.9:1以上である。このモル比は、より好ましくは1:1以上である。
【0036】
好ましい副生成物としてのLiFまたはLiPFの形成を考慮して、PFおよびLiPOのモル比に依存して、LiPOとの反応に影響を与えることができる。
【0037】
一実施形態によると、PF対LiPOのモル比は2:1以下であり、より好ましくは2:1未満である。PFおよびLiPOのモル比が0.9:1、好ましくは1:1と2:1との間である場合、LiFおよびLiPFが形成されて反応混合物中に存在すると予想される。PFおよびLiPOの比が2:1に近づくほど、より多くのLiPFが形成されると予想される。反応生成物としてのLiPFの存在は、以下に示すように、多くの有機溶媒に対する溶解性がLiPOの溶解性よりもはるかに高いため、LiPOからの分離が非常に容易となり得るという利点を有する。欠点は、LiPFの水分に対する感受性がLiFよりもはるかに高いことである。LiPOをLiFから分離するためには、以下に説明するようにLiPO用の溶媒を使用することが好ましい。得られた反応混合物を加熱してLiPFを分解させてLiFおよびPFを形成することが可能であり、ある実施形態においては好ましい。たとえば、LiFおよびLiPFの両方が不純物として存在する場合、LiFが唯一の不純物として得られ、したがってワークアップがより容易になる。
【0038】
別の一実施形態によると、PF対LiPOのモル比は2:1以上である。モル比は好ましくは4以下、より好ましくは4未満、さらにより好ましくは3以下である。この実施形態においては、LiPOは、LiPFを副生成物として含有して形成される。前述したように、溶媒で抽出することによってLiPFはLiPOから容易に除去することができる。
【0039】
POF対LiPOのモル比は、一般に1.8:1以上である。より好ましくは2:1以上である。好ましくは5:1以下である。一実施形態によると、POF対LiPOのモル比は4:1以下である。好ましくは、POF対LiPOのモル比は2以上および4以下である。
【0040】
所望により、任意の所望の比率でLiPOおよびLiPFを含む混合物を生成することができる。この場合、LiPOおよびLiFおよび十分なPFが反応に導入される。PFと導入されたLiFとによってLiPFが形成され、PFと反応に導入されたLiPOとによって、LiPO(およびある程度のLiPF)が形成される。
【0041】
まとめると、
a)リラクション(reraction)スキーム(I)によるLiPOとPFとの反応によって、LiPOおよびLiFから本質的になる反応生成物が得られ
b)リラクション(reraction)スキーム(II)によるLiPOとPFとの反応によって、LiPOおよびLiPFから本質的になる反応生成物が得られ
c)リラクション(reraction)スキーム(III)によるLiPOとPOFとの反応によって、LiPOと多くても少量の不純物、たとえばLiFとから本質的になる反応生成物が得られる。
d)LiPOおよびLiFを含む出発物質とPFとの反応によって、任意の所望の比率のLiPOおよびLiPFの混合物が得られる。
【0042】
a)およびb)による主要な副生成物はそれぞれLiFおよびLiPFであり;LiFおよびLiPFの一方のみ、または両方が存在することができる。前述の概略のように、反応条件、特に出発化合物のモル比(POFおよびPFのそれぞれの、LiPOに対するモル比)を適切に選択することによって、副生成物としてのLiFおよびLiPFの存在に影響を与えることができる。ある実施形態においては、LiFまたはLiPFの存在が望ましい場合がある。このような一実施形態においては、さらなる精製が不要となりうる。別の実施形態においては、LiFおよびLiPFを含有しない精製されたLiPOを得ることが望ましい場合がある。
【0043】
所望により、精製されたLiPOを得るために反応混合物を処理することができ;精製されたLiPOを得るためには、2つの実施形態が好ましい。
【0044】
一実施形態によると、LiPOは、反応生成物を溶媒で抽出するステップなどで精製することができる。LiPOは、好ましくはLiPOを溶解させる溶媒または溶媒混合物を使用して単離することができる。これは、a)およびc)で前述した反応で得られる場合などの、不純物としてLiPOおよびLiFを含有する混合物からLiPOを分離するための好ましい方法である。溶解したLiPOは、溶媒を除去することによって、たとえば溶媒を蒸発させることによって、溶媒から回収することができる。任意選択的に、好適な溶媒中のLiPOの溶液は、Liイオン電池の電解質の製造に直接使用することができる。
【0045】
別の一実施形態によると、不純物を優先的に溶解させる溶媒または溶媒混合物を使用することによって、LiPOが不純物から精製される。これは、LiPOおよびLiPFを分離するための好ましい方法であり、たとえば両方を含む反応混合物がb)で前述した反応で得られる場合の好ましい方法である。好ましい一実施形態においては、形成されたLiPFは、リチウムイオン電池中に使用できる溶媒を用いて抽出される。以下では、LiPOを優先的に溶解させることによってLiPOおよびLiFを分離するために好ましくは使用されるある種の溶媒について説明する。
【0046】
反応混合物が本質的にLiPOおよびLiFのみを含む場合、LiPOを優先的に溶解させる溶媒を反応混合物と接触させることによって、最良の分離が実現される。非プロトン性およびプロトン性の有機溶媒および無機溶媒が好適であり、特に極性溶媒が好適である。好ましい無機溶媒は水である。有機プロトン性または非プロトン性の溶媒も抽出に使用することができる。
【0047】
好適なプロトン性有機溶媒はアルコール類である。分子中に1、2、または3個のヒドロキシ基を有するアルコール類が好ましい。メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、グリコール、およびグリセリンが好ましいアルコール類である。グリコールアルキルエーテル類、たとえばジグリコールメチルエーテルも好適なである。その互変異性型であるアセトンも、プロトン性溶媒と見なすことができる。
【0048】
非プロトン性極性溶媒も、反応混合物からLiPOを抽出するのに非常に好適である。好ましくは、非プロトン性有機溶媒は、ジアルキルカーボネート類(線状である)およびアルキレンカーボネート類(環状である)(ここで用語「アルキル」は、好ましくはC1〜C4アルキルを意味し、用語「アルキレン」は、好ましくはビニリデン基などのC2〜C7アルキレン基を意味し、アルキレン基は好ましくは、−O−C(O)−O−基の酸素原子間に2つの炭素原子の架橋を含む);ケトン類、ニトリル類、およびホルムアミド類の群から選択される。ジメチルホルムアミド、カルボン酸アミド類、たとえば、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN,N−ジエチルアセトアミド、アセトン、アセトニトリル、線状ジアルキルカーボネート類、たとえばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、環状アルキレンカーボネート類、たとえばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、およびビニリデンカーボネートが好適な溶媒である。
【0049】
水と1種類以上の有機プロトン性または非プロトン性溶媒とを含有する混合物を使用することもできる。反応中に形成されたLiPOの抽出に使用される水、および水を含有する有機溶媒のpHは、LiPOの望ましくない加水分解が防止されるように選択されることが好ましい。特に、加水分解を防止するため、pHは7以下である。LiPOと、水、または水および1種類以上の有機溶媒の混合物との接触中に、pHを7以下の値に維持することが好ましい。
【0050】
水とプロトン性溶媒との混合物を、LiPOの単離に使用することができ、たとえば、水と、1、2、または3個のヒドロキシ基を有するアルコール類との混合物、たとえば、水と、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、グリコール、グリセリン、またはジグリコールとの混合物を使用することができる。
【0051】
水と、非プロトン性有機溶媒、特に、極性非プロトン性溶媒との混合物を使用することもでき、たとえば、水と、前述の溶媒の1つ、たとえばエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートとの混合物を使用することができる。
【0052】
当然ながら、水、1種類以上のプロトン性有機溶媒、および1種類以上の非プロトン性有機溶媒を含む混合物を使用することもできる。たとえば、水、メタノール、エタノール、またはi−プロパノールなどのアルコール、およびニトリル、たとえば、アセトニトリル、またはプロピレンカーボネートを含有する混合物を使用することができる。これらの混合物中の水の含有率は、好ましくは1〜99重量%の間である。
【0053】
たとえば、LiPOがPFおよびLiPOから調製される場合に、水性またはプロトン性の溶媒を使用することができる。
【0054】
ジメチルカーボネートおよびプロピレンカーボネートは、LiPOおよびLiFから本質的になる反応混合物に好ましい溶媒であるが、その理由は、LiPOは、これらの溶媒に対して少なくとも程度に溶解性であり、一方LiFは本質的に不溶性であるためである。POF、PF、またはそれらの混合物とLiPOとの反応によって得られた主要な不純物としてLiFを含む反応混合物からLiPOを抽出するための他の非常に好適な溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、酢酸エチル、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートとプロピレンカーボネート(PC)との混合物、アセトニトリル、ジメトキシエタン、およびアセトンである。周囲温度におけるこれらの溶媒に対するLiPOの溶解性を以下の表1にまとめている。
【0055】
【表1】
【0056】
アセトニトリル、および特にジメトキシエタンおよびアセトンに対するLiPO溶解性が非常に高い。アセトンはLiイオン電池の溶媒としてはあまり適していないが、LiPOの溶解性が非常に高く、LiFの溶解性が非常に低いため、LiPOの精製には有利に使用することができる。したがって、LiFおよびLiPOを含む混合物は、LiPOをアセトン中に溶解させ、固体のLiFを濾過により除去することによって容易に分離することができ、LiPOは、そのアセトン中の溶液から、たとえばアセトンを蒸発させることによって回収することができる。
【0057】
LiPOのジメトキシエタンに対する溶解性は、アセトンに対する溶解性よりもさらに高い。ジメトキシエタンは、Liイオン電池の溶媒または溶媒添加剤と見なされていた。したがって、最大で無視できる量のLiFも溶解させるジメトキシエタンは、アセトンの使用を考慮して前述したようにLiPOの精製に使用することができ、Liイオン電池の溶媒に対するLiPOの溶解性を高めるために使用することさえできる。
【0058】
最大で無視できる量のLiFを溶解させるジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、およびそれらの混合物中のLiPOの溶液は、電池の電解質の製造に特に好適である。
【0059】
LiPOをLiFまたはLiPFから単離する場合、特に、反応混合物がLiPOと主要不純物としてのLiPFとを含有する場合は、水を含有しない溶媒が好ましくは使用される。
【0060】
LiPOとPOF、PF、またはそれらの混合物との間の反応で得られる反応混合物のワークアップのために本質的に水を含有しない溶媒を使用するこの好ましい実施形態について、これより詳細に説明する。
【0061】
反応混合物がLiPOおよびLiFのみを本質的に含有する場合、LiPOを優先的に溶解させる溶媒を使用することが好ましい。
【0062】
反応混合物がLiPOおよびLiPFのみを本質的に含有する場合、LiPFを優先的に溶解させる溶媒を使用することが好ましい。
【0063】
驚くべきことに、ある種の溶媒は、両方の目的にうまく使用できることが見いだされ;すなわちLiFが主要不純物として存在する場合にはLiPOを溶解させ、LiPFがLiPOを主要生成物として含む反応混合物中に含まれる主要不純物である場合には、LiPFを優先的に溶解させることが見いだされた。非プロトン性有機溶媒に対して、LiFは非常に低い溶解性を示し、LiPFは比較的良好な溶解性を示し、LiPOの溶解性はその中間であることが分かった。
【0064】
一般に非プロトン性極性有機溶媒である両方の目的のための溶媒は周知である。リチウムイオン電池中の電解質溶媒として有用な溶媒を使用することができる。これらは、電池の電解質に対して有害な影響を示さず、またはさらには電池の電解質を得るためにも使用できるため、好ましい。このような溶媒は一般に周知である。好ましくは、リチウムイオン電池中の電解質溶媒として好適な溶媒がLiPFの抽出に使用される。
【0065】
以下に、反応混合物のワークアップに好ましい有機非プロトン性溶媒を詳細に示す。
【0066】
有機カーボネート類、特にジアルキルカーボネート類、たとえばジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、アルキレンカーボネート、たとえばエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネート、フッ素化溶媒、たとえばモノ−、ジ−、トリ−および/またはテトラフルオロエチレンカーボネートが非常に好適である。このかわりに、またはこれに加えて、LiFとの混合物からのLiPOの抽出、またはLiPOを含む混合物からのLiPFの抽出のぞれぞれは、他の溶媒、たとえば、M.Ueらの刊行物のJ.Electrochem.Soc.Vol.141(1994),2989〜2996頁に記載されているようなラクトン類、ホルムアミド類、ピロリジノン類、オキサゾリジノン類、ニトロアルカン類、N,N−置換ウレタン類、スルホラン、ジアルキルスルホキシド類、ジアルキルスルフィット類、あるいは独国特許出願公開第A 10016816号明細書に記載されるようなトリアルキルホスフェート類またはアルコキシエステル類を使用して行うことができる。
【0067】
LiFを含む混合物中のLiPOを優先的に溶解させるため、およびLiPOを含む混合物中のLiPFを溶解させるためのそれぞれについて、線状および分岐のアルキル基を有するアルキルカーボネート類およびアルキレンカーボネート類が特に好適なであり、たとえば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、およびプロピレンカーボネート(PC)が挙げられ、欧州特許出願公開第A−0 643 433号明細書を参照されたい。ピロカーボネート類も有用であり、米国特許第5,427,874号明細書を参照されたい。酢酸アルキル類、たとえば、酢酸エチル、N,N−二置換アセトアミド類、スルホキシド類、ニトリル類、グリコールエーテル類、およびエーテル類も有用であり、欧州特許出願公開第A−0 662 729号明細書を参照されたい。多くの場合、これらの溶媒の混合物が使用される。ジオキソランは有用な溶媒の1つであり、欧州特許出願公開第A−0 385 724号明細書を参照されたい。ビス−(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムの場合、1,2−ビス−(トリフルオラセトキシ)エタンおよびN,N−ジメチルトリフルオロアセトアミド(ITE Battery Letters Vol.1(1999),105〜109頁を参照されたい)が溶媒として利用可能である。以上において、用語「アルキル」は、好ましくは飽和線状または分岐C1〜C4アルキル基を意味し;用語「アルキレン」は、好ましくはC2〜C7アルキレン基、たとえばビニリデン基を意味し、ここでアルキレン基は、好ましくは、−O−C(O)−O−基の酸素原子間に2つの炭素原子の架橋を含み、それによって5員環を形成する。
【0068】
フルオロ置換化合物、たとえば、フルオロ置換エチレンカーボネート類、フルオロ置換ジメチルカーボネート類、フルオロ置換エチルメチルカーボネート類、およびフルオロ置換ジエチルカーボネート類の群から選択されるフッ素化炭酸エステル類も、LiPOまたはLiPFのそれぞれを溶解させる好適な溶媒である。これらは、非フッ素化溶媒との混合物の形態で使用できる。たとえば、前述の非フッ素化有機カーボネート類が非常に好適である。
【0069】
好ましいフルオロ置換カーボネート類は、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、および4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート;ジメチルカーボネート誘導体類、たとえばフルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、およびビス(トリフルオロ)メチルカーボネート;エチルメチルカーボネート誘導体類、たとえば2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、およびエチルトリフルオロメチルカーボネート;ならびにジエチルカーボネート誘導体類、たとえばエチル(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、およびビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートである。
【0070】
不飽和結合とフッ素原子との両方を有する炭酸エステル類(以降、「フッ素化不飽和炭酸エステル」と略記する)は、LiPFとLiPOとの混合物からLiPFを除去するための溶媒として、または不純物、たとえばLiFなどの不純物からLiPOを分離するためにLiPOを溶解させるための溶媒として使用することもできる。フッ素化不飽和炭酸エステル類としては、本発明の利点を大きく損なうことがない任意のフッ素化不飽和炭酸エステル類が挙げられる。
【0071】
フッ素化不飽和炭酸エステル類の例としては、フルオロ置換ビニレンカーボネート誘導体類、芳香環または炭素−炭素不飽和結合を有する置換基によって置換されたフルオロ置換エチレンカーボネート誘導体類、およびフルオロ置換アリルカーボネート類が挙げられる。
【0072】
ビニレンカーボネート誘導体類の例としては、フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、および4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネートが挙げられる。
【0073】
芳香環または炭素−炭素不飽和結合を有する置換基によって置換されたエチレンカーボネート誘導体類の例としては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、および4,5−ジフルオロ−4,5−ジフェニルエチレンカーボネートが挙げられる。
【0074】
フルオロ置換フェニルカーボネート類の例としては、フルオロメチルフェニルカーボネート、2−フルオロエチルフェニルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフェニルカーボネート、および2,2,2−トリフルオロエチルフェニルカーボネートが挙げられる。
【0075】
フルオロ置換ビニルカーボネート類の例としては、フルオロメチルビニルカーボネート、2−フルオロエチルビニルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルビニルカーボネート、および2,2,2−トリフルオロエチルビニルカーボネートが挙げられる。
【0076】
フルオロ置換アリルカーボネート類の例としては、フルオロメチルアリルカーボネート、2−フルオロエチルアリルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルアリルカーボネート、および2,2,2−トリフルオロエチルアリルカーボネートが挙げられる。
【0077】
LiFを不純物として含有する混合物からのLiPOの抽出、および同様にLiPOを含有する混合物からの不純物としてのLiPFの抽出のそれぞれは、周知の方法、たとえば、反応器中で反応混合物と溶媒(抽出剤)との直接撹拌することによって、または好適な容器中、たとえばソックスレー容器中で反応混合物を反応器から取り出した後に、任意選択的に圧壊または粉砕することによって行うことができる。抽出液体はLi塩を含有し、さらなる処理を行うことができる。
【0078】
分離プロセスがLiPFをLiPOから除去する機能を果たす場合、溶媒中に溶解したLiPFを含有する液相を、溶解していないLiPOから周知の方法で分離することができる。たとえば、溶液をフィルターに通すことも、デカンテーションすることも、分離を遠心分離によって行うこともできる。所望により、LiPFは、溶媒を除去することによって、たとえば蒸発によって回収することができる。
【0079】
溶解せずに残留するLiPOは保管することも、さらなる精製処理を行って純粋な固体LiPOを得ることもできる。これは周知の方法で行うことができる。たとえば、付着する溶媒は、蒸発によって除去することができ、好ましくは付着する1種類以上の溶媒の沸点に依存して真空中で行うことができる。
【0080】
分離プロセスがLiPOを溶解させる機能を果たす場合、抽出後に残留する固相は、溶解したLiPOを含有する抽出溶媒から周知の方法で分離することができる。たとえば、LiPOを含有する溶液をフィルターに通すことも、デカンテーションすることも、分離を遠心分離によって行うこともできる。溶解していない残留物は、本質的にすべてのLiFを含有し、これはたとえば再結晶によって純粋な形態で回収することができる。
【0081】
溶解したLiPOは、溶媒を蒸発させることによって溶液から回収して、純粋な固体のLiPOを得ることができる。これは周知の方法によって行うことができる。たとえば、付着する溶媒は、蒸発によって除去することができ、好ましくは付着する1種類以上の溶媒の沸点に依存して真空中で行うことができる。
【0082】
反応混合物がLiPOと、かなりの量のLiFおよびLiPFの両方とを含有する場合、最初にLiPFを優先的に溶解させる溶媒でLiPFを除去し、次にLiFよりもLiPOを優先的に溶解させる溶媒を使用することが好ましい。同じ溶媒を使用して、段階的な精製を行うことが可能である。第1のステップにおいては、好ましくは前述の溶媒の1つである溶媒で反応混合物を処理することによって、LiPFを溶解させる。LiPFの良好な溶解性のため、LiPFが最初に溶解し、したがって反応混合物から除去することができる。次に、第1の処理ステップから回収した反応混合物を、好ましくは前述の溶媒の1つである溶媒で再び処理する。今回は、LiPOが優先的に溶解する。LiFは固体のまま残る。次に溶解したLiPOは、前述のように溶液から回収することができる。単離したLiPOは、リチウムイオン電池を製造するための添加剤として使用することができる。Li−硫黄電池、ならびにLi−酸素電池またはLi−空気電池の添加剤としても使用することができる。
【0083】
単離した固体のLiPOは、任意の好適な溶媒または溶媒混合物中に再溶解させることができる。アセトンおよびジメトキシエタンなどの前述の溶媒が非常に好適である。その主要な用途が、リチウムイオン電池の分野における電解質塩または塩添加剤としてであるので、リチウムイオン電池の電解質溶液の製造に使用される水を含有しない溶媒中に溶解させることが好ましい場合がある。そのような溶媒は前述している。
【0084】
たとえばプロピレンカーボネート中のLiPOの溶液は、標準条件(25℃、1Bara)下で、溶液の全重量に対して最大約3重量%のLiPOを含有する。別の溶媒または溶媒混合物においては、特定の温度において溶解するLiPOの量は変動するが、単純な試験によって容易に求めることができる。
【0085】
LiPOに対して高い溶解力を有する他の非常に好適な溶媒(たとえばジメトキシエタンおよびアセトニトリル)は前述している。
【0086】
本発明の方法の利点は、周囲温度においてさえも反応速度が非常に速いことである。純粋な結晶LiPOは、たとえばLiPOおよびLiFを含有する反応混合物を溶媒としてのジメチルカーボネートまたはプロピレンカーボネートで抽出し、続いてたとえば真空中で溶媒を除去する場合に、安価な出発物質から得ることができる。
【0087】
POFを使用することの利点の1つは、これは、塩素−フッ素交換反応中でさえもHClを本質的含まずに調製可能なことである。POFの沸点(b.p.)である−40℃は、HClの沸点(HClのb.p.は−85.1℃である)よりも高く、PF(その沸点は−84.4℃であり、HClの沸点に近い)とは対照的であるので、加圧下での単純な蒸留または濃縮技術をPOF中間生成物の精製に使用することができ、そのため本発明の方法がより経済的となる。
【0088】
本発明の別の一態様は、LiPOを製造するためのPOFの使用である。
【0089】
参照により本明細書に援用される特許、特許出願、および刊行物のいずれかの開示が、用語が不明確となりうる程度に本明細書の説明と矛盾する場合、本明細書の説明を優先するものとする。
【0090】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0091】
実施例1:P−F結合を有する化合物としてPFを使用したLiPOの合成および単離
5gのLiPOをオートクレーブ中に入れた。気体PFを反応器中に導入した。直ちに圧力低下が観察され、これはLiPOとの反応においてPFが消費されてLiPOおよびLiFが形成されたことによるものであった。圧力が約3〜4bar(絶対圧)に維持されて、さらなる反応が起こらないことが示されるまで、さらにPFをオートクレーブ中に導入した。気相を除去した後、残留した固体は重量が12gであり、そのXRDによる分析を行った。LiPO、LiF、およびLiPFの特性信号を同定した。LiPOを単離するために、固体を約200℃まで加熱してLiPFを分解させることでLiFおよびPFを形成することができ;PFを除去した後は、残留する固体はLiPOおよびLiFから本質的になる。この固体はソックスレー容器中に入れて、ジメチルカーボネートで抽出する。1つにまとめた溶液から、ロータリーエバポレーター中で蒸発させることによって溶媒を除去し、得られた固体についてXRD、F−NMR、およびP−NMRによる分析を行う。
【0092】
LiPOの分析データ:
・XRD:2θ値:21.5(強);22.0;23.5;27.0(強);34.2;43.2
19F−NMR(470.94MHz;D−アセトン中の溶液):−84.25ppm(二重線、−83.3ppmおよび−85.2ppmにおける2本線、結合定数926Hz)
31P−NMR(202.61MHz;D−アセトン中の溶液):−19.6ppm(三重線、−12.3ppm、−16.9ppm、および−21.5ppmにおける3本線;結合定数926Hz)。
【0093】
実施例2:リチウムイオン電池、リチウム−硫黄電池、およびリチウム−酸素電池用の電解質溶液
23gのLiPO、117gのLiPF、50gのモノフルオロエチレンカーボネート(「F1EC」)、およびプロピレンカーボネート(「PP」)を、全体積が1リットルとなる量で混合する。得られる溶液は0.77molのLiPFおよび0.23molのLiPOを含有する。したがってリチウム化合物の量は約1mol/リットルであり、これは電池、特にリチウムイオン電池に一般に使用されるリチウム塩濃度に相当する。
【0094】
実施例3:P−F結合を有する化合物としてPOFを使用したLiPOの合成および単離
3.5gのLiPOをオートクレーブ中に入れる。気体POFを反応器中に導入した。直ちに圧力低下が観察され、これはLiPOとの反応においてPOFが消費されてLiPOが形成されたことによるものであった。約6atmの最終圧力で別の金属容器からさらにPOFを導入し、この圧力は連続的に低下した。容器の温度を1時間の間80℃まで上昇させ、次にガス接続を遮断し、反応混合物を室温まで冷却しながら、過剰の気相を排出した。
【0095】
気相を除去した後、残留する白色固体は重量が5.7gであり、そのXRDによる分析を行った。LiPOのみの特性信号を同定した。固体をソックスレー容器に入れ、ジメチルカーボネートで抽出する。1つにまとめた溶液から、ロータリーエバポレーター中で蒸発させることによって溶媒を除去し、得られた固体についてXRD、F−NMR、およびP−NMRによる分析を行う。
【0096】
実施例3で得たLiPOの分析データは、実施例1で得られたLiPOのデータに相当する。
【0097】
実施例4:リチウムイオン電池、リチウム−硫黄電池、およびリチウム−酸素電池用の電解質溶液
117gのLiPF、実施例3と同様にして得られた23gのLiPO、50gのモノフルオロエチレンカーボネート(「F1EC」)、およびプロピレンカーボネート(「PP」)を、全体積が1リットルとなる量で混合する。得られる溶液は0.77molのLiPFおよび0.23molのLiPOを含有する。その結果リチウム化合物の量は約1mol/リットルであり、したがって電池、特にリチウムイオン電池に一般に使用されるリチウム塩濃度に相当する。