(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795733
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ポット型の円筒形ワークに長手方向歯形体を形成するためのロール成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 17/04 20060101AFI20150928BHJP
B21D 53/28 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
B21D17/04
B21D53/28
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-512927(P2011-512927)
(86)(22)【出願日】2009年5月27日
(65)【公表番号】特表2011-522705(P2011-522705A)
(43)【公表日】2011年8月4日
(86)【国際出願番号】EP2009056453
(87)【国際公開番号】WO2009150053
(87)【国際公開日】20091217
【審査請求日】2012年5月1日
【審判番号】不服2014-16615(P2014-16615/J1)
【審判請求日】2014年8月21日
(31)【優先権主張番号】102008002297.7
(32)【優先日】2008年6月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500045121
【氏名又は名称】ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
(73)【特許権者】
【識別番号】511205493
【氏名又は名称】アルガイヤー、ベルケ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ALLGAIER WERKE GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】ペーター、ヘーネ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン、マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス、エッスル
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、フィッシャー
【合議体】
【審判長】
平岩 正一
【審判官】
三澤 哲也
【審判官】
刈間 宏信
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−174125(JP,A)
【文献】
特開2002−361331(JP,A)
【文献】
特開平11−320011(JP,A)
【文献】
特開2001−129630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D17/04
B21D53/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポット型の円筒形ワークに長手方向歯形体を形成するためのロール成形方法であって、
ポット型の円筒形ワーク(1)が、第一ロール工程(A)において、最初に底部(3)が走行処理され、これによって前記ワーク(1)の材料が該ワーク(1)の開口の方向に流れ、
第一ロール工程(A)の後で、前記ワーク(1)が、更なるロール工程(B、C)の少なくとも一つにおいて、最初にその開口端が走行処理され、これによって前記ワーク(1)の材料が該ワーク(1)の底部の方向に流れる
ことを特徴とするロール成形方法。
【請求項2】
第一ロール工程(A)において、歯形が、所定のサイズにロール成形される
ことを特徴とする請求項1に記載のロール成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念部分に従う、ポット型の円筒形ワークに長手方向歯形体を形成するためのロール成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形状の基本構造体を有する歯形体を製造する際、例えば、シフト要素のディスクキャリヤや同類のワークを製造する際、達成可能な精度ないし表面品質が極めて重要である。
【0003】
本件出願人のDE2017709A1から、滑らかな外形を有する素材からプレスによってワークを製造するような、ロール工具が用いられる歯形体の製造方法が提供されている。各々のプレスハブが、素材からワークを成形する。各プレスハブにおいて、ロール工程(Walzvorgang)が実施される。この場合、加工すべきワークの外周に沿って、均等且つ互いに均一な角度で配置された所望の外形の外形ロール(成形ロール)が、ワークの外周面を押圧(プレス)する。当該方法によって各外形ロールによって製造される溝は、互いに同一であり、不連続部のない外形が達成される。
【0004】
不利なことに、前記公知の方法では、外形ロールの回転すなわちローリングが、成形時にワークと外形ロールとの間に作用する力のみによって生じる。これにより、ワークに対する外形ロールの規定できないスリップが生じる。これは、長手方向に不均一に形成された外形の場合、寸法の低精度を引き起こしてしまう。更に、外形ロールの材料内部への沈み込み(Einfahren)の際、歯面が完全には形成されない領域が生じてしまう。
【0005】
DE19506391A1には、以下のような外形体の製造方法が開示されている。当該方法では、変形領域の周速度がワークの速度と一致する、というように外形ロールが駆動される。これにより、外形ロールとワークとの間のスリップが、かなり回避される。しかしながら、不利なことに、当該方法の実施のためには、高価な構造体が必要である。
【0006】
一般には、ロール成形方法は、プレス段階において、ポット型の円筒形ワークのポット底において開始される。当該方法のタイプに従って、材料が、ヘッド部から歯面や歯流(Zahnfluss)に流れる。これにより、ポット底の領域において、不十分な歯形成形が生じてしまう。
【0007】
上記問題を解決するために、WO2006/066525A1には、前置のプレ成形方法を有する、ロール成形方法を利用して円筒形状ワークの長手方向溝を製造する方法が提案されている。プレ成形方法によって、材料の塊が、素材の端部領域において出現(実現)可能である。これにより、材料は、素材の当該位置で、塊となる(集められる)。当該位置において、本質的なロール成形の際、成形ロールが材料内に沈み込む。これにより、ロール成形方法のための最適な外形部とパネル厚みとが、達成され得る。プレ成形方法としては、パンチング(Praegeverfahren)及び/またはプレッシング(Stauchverfahren)が実施され得る。しかしながら、ロール成形方法の終了後において、プレッシングやパンチの戻りが、歯形における寸法問題を引き起こし得る。
【0008】
更に、EP0728540A1から、シート素材からの成形部に歯形外形または波形外形を設けるための、シート材成形用の工具、特にはプレス加工用の工具、が知られている。公知の工具は、工具下部と工具上部とを有しており、両者は成形部の成形のために協働するようになっている。成形は、一つのプロセスステップで行われ、歯形外形または波形外形を成形するために、(複数の)成形ロールが設けられている。成形ロールは、成形部に向けられて、周上に配置される。この場合、成形ロールは、成形部との摩擦を補うべく、駆動装置が設けられている。当該駆動装置は、成形ロールを、それ自身の軸周りに駆動する。
【0009】
DE102006025034A1からは、円筒形状のワークに長手方向溝を製造する方法が知られている。当該方法では、同心に配置された成形用セグメントディスクによって、ワークの周の外形が生成される。この場合、成形用セグメントディスクは、成形工程の各時点において、駆動部によって移動される。駆動部は、成形用セグメントディスクのワーク上での転がり運動(ローリング)から独立である。
【0010】
従来技術において、延伸された円筒状シート材から歯付きのディスクキャリヤを連続的に製造(大量生産)する場合、ワークは、ロール工程によって、閉塞面すなわち円筒形状の底部で走行処理される(gefahren)。自由回転する成形ロールが、材料を、ロールパンチ部(Rollstempel)に押圧する。これにより、材料は、所望の歯形を得る。最終的な外形を得るためには、少なくとも二つのロール段階が必要である。なぜなら、そうでなければ、材料は、当該成形工程に耐えられずに裂けてしまう。一般的に、このようなロール成形方法は、三つのロール段階を有している。
【0011】
この場合、以下のような欠点が生じる。すなわち、底部から歯先への移行部において、多くの材料が、開放端部の方向に侵入してしまう(流れてしまう)。このことは、歯先において材料集積が生じてしまうことを意味する。このような状況が、前記タイプの成形方法において、一般に見られる。
【0012】
従って、利用可能な外形、すなわち、成形される歯形は、底部の領域ではなく、底部の上方数mmの位置で始まる。このことは、以下のことに帰結する。すなわち、ディスクキャリヤが、要求数のディスクを噛み合い式に保持可能とするために、対応してより長く形成されなければならないのである。更に、このことは、変速機の構造長さや変速機の重量の不所望の増大にも帰結する。
【発明の概要】
【0013】
本発明の課題は、その実施によって長手方向歯形体の利用可能な外形が最大化されるような、ポット型の円筒形ワークに長手方向歯形体を形成するためのロール成形方法を提供することである。とりわけ、ワークの底部の領域での歯形形成が最適化されて、歯先における前述の不利な材料集積が顕著に低減されるべきである。
【0014】
この課題は、特許請求の範囲の請求項1の特徴によって解決される。本発明の更なる実施形態が、下位請求項から明らかである。
【0015】
本発明によれば、ポット型の円筒形ワークが、従来技術に従う第一ロール段階において、最初に底部が走行処理される(gefahren)。好適には、当該第一ロール工程において、歯先が所定の小さい寸法にロール成形される。これにより、ワークは略円筒状の形状を維持する。
【0016】
当該ロール成形工程により、当該方法の実施の間のワークの「めくり返り」(Austulpen)が回避される。
【0017】
ポット型の円筒形ワークは、続いて、少なくとも一つの更なるロール段階によって、最初にその開口端が走行処理される。好ましくは、一般には薄肉ポット型に形成されたワークが、二つの(二回の)更なるロール工程によって走行処理される。この処理により、材料が底部の方向に流れ、そこで歯形部を最適に形成する。この工程により、例えば、ディスクキャリヤは、底部領域において、最適な歯形部を有することができ、ディスク内に収容され得る。
【0018】
本発明による概念によれば、保持(キャリー)用外形部が、ポット型の円筒形のシートパネル部材の底部において始まり、従来技術と同数のロール段階が必要とされるのみである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明が、添付の図面に基いて詳述される。
【0021】
図1の上段部位には、各ロール工程A、B、Cにおける、ポット型の円筒形のシートパネル部材1の構成が示されている。矢印2は、シートパネル部材1が対応するロール段階によって走行処理される方向を示している。
図1の中段部位には、各ロール段階すなわち各ロール工程における、シートパネル部材1の長手方向軸に垂直な断面が示されている。
図1の下段部位には、各ロール段階における、円4で示された領域の詳細図が示されている。ロール成形方法の開始前に、シートパネル部材は、従来技術に従って、抽出(Ziehen)、アイロン(Abstrecken)、及び/または、パンチ(Lochen)によって処理される。
【0022】
本発明によれば、
図1の左上部にも示されるように、ロール成形方法の開始時には、ロール工程Aによって、シートパネル部材1が底部3におい
て最初に走行処理される。本発明の更なる実施の形態では、この第1のロール工程の際に、歯先が所定のサイズ(寸法)にロール成形される。これにより、シートパネル部材1は略円筒状の形状を維持する。
【0023】
シートパネル部材1は、続いて、ロール工程Bにおいて
、最初にその開口端が走行処理される。この様子が、
図1の中央上部に示されている。この工程により、材料がシートパネル部材1の底部の方向に流れ、そこで歯形部を最適に形成する。
【0024】
次の工程、すなわち、第三のロール工程Cにおいて、シートパネル部材1は
、最初にその開口端が再び走行処理される。この様子が、
図1の右上部から明らかである。これにより、シートパネル部材の最適な成形が達成され得る。
【符号の説明】
【0025】
1 シートパネル部材
2 シートパネル部材1が、ロール段階において、処理(走行)される方向
3 シートパネル部材の底部
4 シートパネル部材1の、拡大されて図示された領域
A ロール工程
B ロール工程
C ロール工程