特許第5795768号(P5795768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795768
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】車両の空調ループの動作を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   B60H1/00 101C
   B60H1/00 101D
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-534640(P2012-534640)
(86)(22)【出願日】2010年10月15日
(65)【公表番号】特表2013-508211(P2013-508211A)
(43)【公表日】2013年3月7日
(86)【国際出願番号】EP2010065556
(87)【国際公開番号】WO2011051119
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2013年10月4日
(31)【優先権主張番号】0905146
(32)【優先日】2009年10月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505113632
【氏名又は名称】ヴァレオ システム テルミク
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100086726
【弁理士】
【氏名又は名称】森 浩之
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ミン リュー
【審査官】 小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−203887(JP,A)
【文献】 特開2005−219576(JP,A)
【文献】 特開2003−247766(JP,A)
【文献】 特開2003−002048(JP,A)
【文献】 特開2009−006921(JP,A)
【文献】 特開2003−074996(JP,A)
【文献】 特開2004−286437(JP,A)
【文献】 特開2003−013863(JP,A)
【文献】 特開2005−009794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の空調ループの中に一体化されている圧縮機(CP)の出口における温度(TRCPO)の制御方法であって、
前記空調ループの中には未臨界の冷却流体が循環し、
前記空調ループは、少なくとも、1つの凝縮器(CD)と、1つの膨張弁(EXV)と、1つの蒸発器(EV)とを含み、
前記制御方法は、
前記凝縮器出口における圧力(PRCDO_M)と、前記圧縮機入口における圧力推定値(PRCPI_E)と、前記圧縮機速度(NCP_M)と、前記凝縮器入口における所定の上限温度(TRCDI_L)とを捕捉するステップと、
前記圧縮機入口における前記圧力推定値(PRCPI_E)と、前記圧縮機速度(NCP_M)と、前記凝縮器入口における前記所定の上限温度(TRCDI_L)とに基づいて、前記圧縮機入口における上限温度(TRCPI_L)を算出するステップと、
前記圧縮機入口における温度(TRCPI_E)を推定するステップと、
前記圧縮機入口における前記温度推定値(TRCPI_E)が、前記圧縮機入口のところで算出された前記上限温度(TRCPI_L)以上になったときに、前記圧縮機の制御信号(PWMCP)または蒸発温度の設定値(SP_TEV)を調整するステップとを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
前記空調ループは、内部熱交換器(IHX)を含み、前記凝縮器(CD)と前記膨張弁(EXV)との間を循環する前記流体と、前記蒸発器(EV)と前記圧縮機(CP)との間を循環する前記流体との間で熱交換を実行することを特徴とする、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記冷却流体の質量流量(MF)に基づいて前記内部熱交換器(IHX)の効率パラメータ(EF_IHX)を求めるステップと、前記質量流量(MF)を、車両速度(V)と、外部温度(T)と、前記凝縮器出口における圧力測定値(PRCDO_M)とにより求めるステップを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記制御方法は、前記圧縮機の制御弁の制御電流の強度(I_M)を捕捉するステップを含み、
前記圧縮機入口における前記圧力(PRCPI_E)を推定する前記ステップは、前記圧縮機の前記制御弁の前記制御電流の強度(I_M)に基づいて実行されることを特徴とする、請求項に記載の制御方法。
【請求項5】
前記蒸発器出口における圧力推定値(PREVO_E)を、前記圧縮機入口における前記圧力推定値(PRCPI_E)と前記冷却流体の前記質量流量(MF)とに基づいて推定するステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の制御方法。
【請求項6】
前記蒸発器(EV)出口と前記圧縮機(CP)入口との間における圧力降下(ΔPEV_CP)を、前記冷却流体の前記質量流量(MF)に基づいて推定するステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の制御方法。
【請求項7】
前記蒸発器出口における前記圧力(PREVO_E)を推定する前記ステップは、前記圧力降下(ΔPEV_CP)と、前記圧縮機入口における前記圧力推定値(PRCPI_E)とに基づいて実行されることを特徴とする、請求項に記載の制御方法。
【請求項8】
過熱特性(SH_E)を、前記蒸発器出口における前記圧力推定値(PREVO_E)に基づいて求めるステップを含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項9】
前記蒸発器出口における前記温度(TREVO_E)を、過熱特性(SH_E)と前記蒸発器出口における前記圧力推定値(PREVO_E)とに基づいて推定するステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の制御方法。
【請求項10】
前記蒸発器出口における上限温度(TREVO_L)を、前記熱交換器の前記効率パラメータ(EF_IHX)と、前記圧縮機入口における前記上限温度(TRCPI_L)と、前記凝縮器入口における前記圧力に対応した飽和温度(Tsat(PRCDI_M))とに基づいて算出するステップと、
前記蒸発器出口における上限圧力(PREVO_L)を、前記蒸発器出口における前記上限温度(TREVO_L)と前記過熱特性(SH_E)とに基づいて算出するステップと、
前記圧縮機入口における上限圧力(PRCPI_L)を、前記蒸発器出口における前記上限圧力(PREVO_L)と前記圧力推定値の降下(ΔPEV_CP)に基づいて算出するステップと、
前記圧縮機の前記制御弁の前記制御電流の前記強度の上限値(I_L)を、前記圧縮機入口における前記上限圧力(PRCPI_L)に基づいて算出するステップとを含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項11】
前記蒸発器出口における前記温度(TREVO_E)を、前記蒸発器出口における前記圧力推定値に対応した飽和温度(Tsat(PREVI_E))と前記過熱特性(SH_E)とに基づいて推定するステップと、
前記凝縮器出口における上限温度(TRCDO_L)を、前記効率パラメータ(EF_IHX)と、前記蒸発器出口における前記温度推定値(TREVO_E)と、前記圧縮機入口における前記上限温度(TRCPI_L)とに基づいて推定するステップと、
前記凝縮器出口における上限圧力(PRCDO_L)を、前記凝縮器出口における前記上限温度(TRCDO_L)に基づいて推定するステップとを含むことを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項12】
調整する前記ステップは、前記圧縮機の前記制御弁の前記制御電流の前記強度(I_M)が、前記圧縮機の前記制御弁の前記制御電流の前記強度上限値(I_L)よりも常に低くなるように、前記圧縮機の前記制御弁に対する前記制御信号を調整することを特徴とする請求項10に記載の制御方法。
【請求項13】
調整する前記ステップは、前記凝縮器出口における前記圧力(PRCDO_M)が前記凝縮器出口における前記上限圧力(PRCDO_L)以上になったときに、前記圧縮機の前記制御信号(PWMCP)または前記蒸発温度の前記設定値(SP_TEV)を調整することを特徴とする請求項11に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義では、車両の空調ループの動作を制御する方法に関する。空調ループは、その中で未臨界の冷却流体が循環し、冷却流体の循環の方向に、圧縮機、凝縮器、膨張弁、および蒸発器を備えている。
【背景技術】
【0002】
このような空調ループでは、圧縮機は、一般的に、圧縮機の入口における圧力が、制御弁の制御電流の強度に関係づけられる関係式によって外部から制御される。
【0003】
本発明はまた、内部熱交換器を備える空調ループにも関し、内部熱交換器は、凝縮器と膨張弁との間を循環する流体と、蒸発器と圧縮機との間を循環する流体との間の熱交換を行う。
【0004】
このような構成によって、空調ループの消費電力を低減させることができる。このような消費電力の低減によって、空調ループの動作により生ずる公害を有利に低減することができる。更に、内部熱交換器が存在することにより、空調ループの冷却能力が高められる。
【0005】
しかしながら、このような構造は、圧縮機出口のところで、空調ループの中を循環する冷却流体の加熱を引き起こす可能性があるという事実が、これまでに観測されている。この現象は、空調ループの動作のある条件の中で、内部熱交換器の効率が高くなったときに生ずる。また、このような場合には、凝縮器入口または圧縮機出口における温度を制御することが必要である。
【0006】
この目的として、圧縮機の排気の温度、または凝縮器入口における温度を制御するために、実際には2つの解決策がある。
【0007】
第1の方法は、蒸発器出口における過熱が殆どゼロになるように膨張弁の開口を設定することである。この解決策は、簡単ではあるが、危険を伴う。これは、この解決策が、圧縮機の排気温度は、制御を行わなくとも満足がいく状態であるという仮定に基づいているからである。
【0008】
第2の方法は、圧縮機出口のところで温度センサを使用し、温度センサによって測定した値を使用することによって、圧縮機の排気温度を制限する方法である。この解決策は、更なるセンサを備えた空調ループの装置が必要になるという欠点があり、無視できない費用がかかる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の主たる目的は、圧縮機出口における温度を制御する方法を提案することにより、公知の解決策の欠点を克服することである。この圧縮機は、自動車の空調ループの中に一体化されており、空調ループは、その中に未臨界の冷却流体が循環し、少なくとも、圧縮機、凝縮器、膨張バルブ、および蒸発器を含んでいる。
【0010】
別の実施形態においては、空調ループは内部熱交換器を含み、内部熱交換器は、凝縮器と膨張バルブとの間を循環する流体と、蒸発器と圧縮機との間を循環する流体との間の熱交換を実行する。
【0011】
本発明の制御方法は、次に示すステップを含み、これらを連続して、同時に、または交互に行う。これらのステップは、
−圧縮機入口における上限温度を算出するステップ、
−圧縮機入口における温度を推定するステップ、
−車両速度、外部温度、および凝縮器出口における圧力の測定値を捕捉するステップ、
−凝縮器を横切る空気流を生成するモーターファンユニットの電圧を捕捉するステップ、
−凝縮器出口における圧力、圧縮機入口における圧力の推定値、圧縮機速度、および凝縮器入口または圧縮機出口における所定の上限温度を捕捉するステップ、
−圧縮機の制御弁の制御電流の強度を捕捉するステップ、および圧縮機の制御弁の制御電流の強度に基づいて圧縮機入口における圧力を推定するステップ、
−内部熱交換器の効率パラメータを、好ましくは、冷却流体の質量流量の関数として求めるステップ、
−質量流量を、車両速度、外部温度、および凝縮器出口における圧力の測定値の関数として求めるステップ、
−圧縮機入口における圧力の推定値および冷却流体の質量流量から、蒸発器出口における圧力を推定するするステップ、
−蒸発器出口と圧縮機入口との間の圧力降下を冷却流体の質量流量から推定するステップ、
−過熱特性を蒸発器出口における圧力の推定値の関数として求めるステップ、
−蒸発器出口における温度を、過熱特性および蒸発器出口における圧力の推定値から推定するステップ、
−圧縮機の制御信号または蒸発温度の設定値を調整するステップである。
【0012】
本発明においては、圧縮機入口における上限温度を算出するステップは、圧縮機入口における圧力の推定値、圧縮機速度、および凝縮器入口または圧縮機出口における所定の上限温度に基づいて実行される。
【0013】
更に、本制御方法は、圧縮機入口における圧力降下と圧力の推定値に基づいて、蒸発器出口における圧力を推定するステップを含んでいる。
【0014】
第1の実施形態においては、本発明はまた、制御方法を提供するもので、この本制御方法は、次に示すステップを含んでいる。
−蒸発器出口における温度を、蒸発器出口における圧力推定値に対応した飽和温度および過熱特性から推定するステップ。
−圧縮機入口における上限温度を、熱交換器の効率パラメータ、凝縮器入口または圧縮機出口における圧力に対応した飽和温度、および蒸発器出口における温度推定値から推定するステップ。
−凝縮器出口における上限圧力を、凝縮器出口における上限温度から推定するステップ。
【0015】
この第1の実施形態においては、調整するステップでは、圧縮機入口における温度推定値が、圧縮機入口における上限温度の計算値以上になった時に、圧縮機の制御信号または蒸発温度の設定値を調整する。
【0016】
第2の実施形態においては、本制御方法はまた、次に示すステップを含んでいる。
−蒸発器出口における上限温度を、熱交換器の効率パラメータ、圧縮機入口における上限温度、および凝縮器入口または圧縮機出口における圧力に対応した飽和温度から算出するステップ。
−蒸発器出口における上限圧力を、蒸発器出口における上限温度、および過熱特性から算出するステップ。
−圧縮機入口における上限圧力を、蒸発器出口における上限圧力、および圧力降下の推定値から算出するステップ。
−圧縮機の制御弁の制御電流の強度の上限値を、圧縮機入口における上限圧力の関数として算出するステップ。
【0017】
調整するステップでは、圧縮機の制御弁に対する制御信号は、圧縮機の制御弁の制御電流の強度が、圧縮機の制御弁の制御電流の強度の上限値よりも常に低くなるように調整する。強度の測定値が圧縮機の制御弁の制御電流の強度の上限値より高くなった場合には、この制御方法は、強度の測定値が圧縮機の制御弁の制御電流の強度の上限値よりも低くなるように、圧縮機の制御弁に対する制御信号を低減する。
【0018】
第3の実施形態においては、本発明はまた、制御方法を提供し、この本制御方法は、次のステップを含んでいる。
−蒸発器出口における温度を、蒸発器出口における圧力推定値に対応した飽和温度、および過熱特性から推定するステップ。
−凝縮器出口における上限温度を、効率パラメータ、蒸発器出口における温度推定値、および圧縮機入口における上限温度から推定するステップ。
−凝縮器出口における上限圧力を、凝縮器出口における上限温度から推定するステップ。
【0019】
この第3の実施形態においては、調整するステップでは、凝縮器出口における圧力が、凝縮器出口における上限圧力以上になったときに、圧縮機の制御信号または蒸発温度の設定値を調整する。
【0020】
また、本発明における制御方法は、次のステップを含むことができる。
−凝縮器入口、または圧縮機出口における圧力、および蒸発器の中の空気の温度を捕捉するステップ。
−圧縮機入口における上限温度を、凝縮器入口または圧縮機出口における温度の所定の上限値、凝縮器出口における圧力、圧縮機入口における圧力推定値、および圧縮機速度に基づいて算出するステップ。
【0021】
従って、本発明は、凝縮器入口のところで、または圧縮機出口のところで温度センサを使用するか否かに拘わらず、圧縮機の排気の温度を制御する方法を提案する。これによって、内部熱交換器を含む空調ループは、このような内部熱交換器を含まない空調ループと、正確に同じセンサを使用して制御することが可能になる。従って、使用するセンサは、凝縮器出口における圧力センサとなり、これは、蒸発器の中の空気の温度、および圧縮機の制御弁の制御電流値の指標になるものである。
【0022】
従って本発明は、圧縮機の制御信号または蒸発温度の設定値を調整するステップを提供する。この調整は、凝縮器入口における温度センサが存在するか否かに拘わらず、捕捉したデータに基づいて算出した、凝縮器入口における温度に関係する量が、捕捉したデータに基づいて算出した量の上限を超えたときに、相当分を減ずることにより行う。
【0023】
本発明の原理によれば、圧縮機の制御信号または蒸発温度の設定値は、圧縮機出口または凝縮器入口における温度を表す、ある1つの量の推定値とその量の上限値とを比較することに基づいて調整される。
【0024】
本発明においては、流体の質量流量を決定するステップは、使用する凝縮器のモデルに基づいて実行される。このモデルでは、特に、車両速度の測定値、外部温度の測定値、凝縮器を横切る空気流を生成するモーターファンユニットの電圧の測定値、および圧縮機入口における圧力を使用して、質量流量を決定する。この特徴によって、車両および空調ループの動作に関するデータを集中して備えるマイクロプロセッサによる既知のパラメータから容易に質量流量を判定することができる。
【0025】
添付図面を参照しつつ、以下に示す記述を精読することによって、本発明の他の特徴および利点は明らかになると思う。これらの図面は、限定的でない実施例を示すものであり、これらの実施例は、本発明とその実施形態の開示の理解を補完するばかりでなく、更には、必要に応じて、発明の画定に寄与しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明における空調ループを示す図である。
図2】本発明の図1における空調ループの中に一体化した圧縮機を制御する方法を示すフローチャートである。
図3】本発明における、内部熱交換器の効率パラメータの変化を質量流量の関数として表した曲線である。
図4】本発明における方法を適用した結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、空調ループを示し、本発明は、この空調ループを制御することができる。空調ループの中には冷却流体が循環し、この冷却流体は、空調ループの中に組み込まれた種々の要素を介して規定される熱力学サイクルを経験する。図1においては、空調ループは、冷却流体の循環の方向に、圧縮機CP、凝縮器CD、膨張弁EXV、および蒸発器EVを含んでいる。
【0028】
空調ループはまた、オプションとして、内部熱交換器IHXを含ことができる。内部熱交換器IHXによって、蒸発器EVと圧縮機CPとの間を循環する冷却流体と、凝縮器CDと膨張弁EXVとの間を循環する冷却流体との間の熱交換が可能になる。内部熱交換器IHXは、空調ループの動作性能を改善する。
【0029】
空調ループは、モーターファンユニット(図示せず)と関連し、モーターファンユニットは凝縮器CDを横切る空気流を生成し、それにより、凝縮器CDを通して流れる冷却流体と凝縮器CDを横切る空気流との間の熱交換を行い、生成された熱を放出させる。
【0030】
図2は、本発明の第1の実施形態における、空調ループの中の圧縮機CP入口における温度を制御する方法を示すフローチャートである。
【0031】
本発明の制御方法は、次に示すいくつかのパラメータを捕捉するステップを含んでいる。
・圧縮機の制御弁の制御電流の強度IV_M。
・圧縮機速度NCP_M。
・凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_M、または圧縮機出口における圧力測定値PRCPO_M。
【0032】
さらに、本制御方法は、凝縮器入口における圧力PRCDI_Mを捕捉するステップを更に含むことができる。
【0033】
また、圧縮機出口における上限温度TRCDO_Lは事前に定められている。圧縮機出口における上限温度TRCDO_Lは130℃に設定されることが望ましい。
【0034】
本制御方法は、圧縮機入口における圧力PRCPI_Eを、圧縮機CPの制御特性に従って、
・圧縮機の制御弁の制御電流の強度IV_M
の関数として推定するステップE0を含んでいる。
【0035】
次に本方法は、ステップE1を含む。ステップE1は、圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lを、凝縮器入口における所定の上限温度TRCDI_L、凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_M、ステップE0で得られた、圧縮機入口における圧力推定値PRCPI_E、および圧縮機速度NCP_Mに基づいて算出するステップである。
【0036】
圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lは、次に示す式で表わされる。
【数1】
ここで、
PRCPI_Mは、圧縮機入口における圧力測定値、
λは、定数、
f1は、
・圧縮機速度NCP_M、
・凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_M、
・圧縮機入口における圧力推定値PRCPI_E
によって決まる関数である。
【0037】
凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_Mは、凝縮器入口における圧力測定値PRCDI_Mに等しい。
【0038】
本発明における方法はまた、冷却流体の質量流量MFを、凝縮器CDの動作モデルから求めるステップE2を含んでいる。ステップE2は、ステップE0および/またはE1の、以前に、同時に、またはその後に実行することができる。
【0039】
図2に示すように、凝縮器CDのこの動作モデルによって、冷却流体の質量流量MFを、車両速度VV、外部温度TE、および凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_Mから推定することができ、これは有利なことである。上記でリストしたパラメータに加えて、凝縮器CDのこの動作モデルによって、冷却流体の質量流量MFを、凝縮器CDを横切る空気流を生成する、モーターファンユニットの電圧UGMVからも推定することができる。
【0040】
ステップE2に続いて、本発明は、ステップE3を提供する。ステップE3は、ステップE0で得られた、圧縮機入口における圧力推定値PRCPI_Eと、蒸発器EV出口と圧縮機CP入口との間の圧力降下ΔPEV_CPとから、蒸発器出口における圧力を推定して推定値PREVO_Eを得るステップである。
【0041】
圧力降下ΔPEV_CPは、ステップE2で求められた質量流量MFから推定される。従って、蒸発器出口における圧力推定値PREVO_Eは、次に示す関係で与えられる。
PREVO_E=PRCPI_E+ΔPEV_CP
【0042】
ステップE4において、蒸発器出口における圧力推定値PREVO_Eと、膨張弁EXVの動作点における特性とを使用して、静的過熱特性SH_Eが求められる。静的過熱特性SH_Eは、静的過熱SHと過熱の偏差ΔSH(例えば、0°Kおよび10°Kの間にある)を含む。従って、静的過熱SH_Eは、次の関係式によって与えられる。
SH_E=SH+ΔSH
【0043】
ステップE2で得られた質量流量MFはまた、ステップE5で使用して、内部熱交換器IHXの効率のパラメータEF_IHXを求めることができる。内部熱交換器IHXの効率パラメータEF_IHXは、図3を使用して求めることができる。図3は、内部熱交換器IHXの効率EF_IHXの変化を、質量流量MFの関数として表した曲線を示している。
【0044】
本発明はまた、ステップE6を含んでいる。ステップE6は、ステップE5の以前に、同時にまたはその後に行い、ステップE6では、蒸発器出口における温度TREVO_Eを、ステップE4で求められた過熱特性SH_Eと、ステップE3で推定した、蒸発器出口における圧力推定値PREVO_Eとから推定する。
【0045】
蒸発器出口における圧力推定値PREVO_Eによって、蒸発器出口における圧力推定値PREVO_Eに対応した飽和温度Tsatを規定することが可能になる。蒸発器出口における温度推定値TREVO_Eは、次の関係式で得ることが有利である。
TREVO_E=Tsat(PREVO_E)+SH+ΔSH
【0046】
従って、本方法はステップE7を含んでいる。ステップE7では、圧縮機入口における温度TRCPI_Eを、内部熱交換器IHXの効率パラメータEF_IHXと、ステップE6で推定した、蒸発器出口における温度推定値TREVO_Eと、凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_Mに対応した飽和温度Tsatとに基づいて推定する。
【0047】
ステップE8では、ステップE7で推定した、圧縮機入口における温度推定値TRCPI_Eを、ステップE1で算出した、圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lと比較する。
【0048】
ステップE8では、圧縮機入口における温度TRCPI_Eが、圧縮機入口における上限温度TRCPI_L以上であるか否かを判定する。
【0049】
否定である場合には、すなわち、圧縮機入口における温度TRCPI_Eが、圧縮機入口における上限温度TRCPI_L以上でない場合(図2におけるステップE8のNの場合)には、本方法は、デフォルトとして、圧縮機CPを制御するステップE9を含む。ステップE9は、蒸発器を横切った後の空気の温度TEVに基づいて実行される。ステップE9に続いて、圧縮機の制御信号PWMCP(k)が生成され、圧縮機CPを制御する。特に、圧縮機CPの容量を制御する。更に詳細には、圧縮機の制御信号PWMCP(k)は、蒸発器を横切った後の空気の温度TEVの関数である。従って、次の式が成り立つ。
PWMCP(k)=PWMCP(TEV
【0050】
肯定である場合には、すなわち、圧縮機入口における温度TRCPI_Eが、圧縮機入口における上限温度TRCPI_L以上である場合(図2におけるステップE8のOの場合)には、本方法は、圧縮機CPを制御するステップE10を含む。
【0051】
ステップE10において、圧縮機入口における温度TRCPI_Eが圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lに等しい場合には、圧縮機の制御信号は一定の値に保持される。従って次の関係式が得られる。
PWMCP(k)=PWMCP(k−1)
【0052】
圧縮機入口における温度TRCPI_Eが圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lより高い場合には、本発明における方法は、同じ原理に基づいた2つの解決策により、圧縮機CPの制御を実行する。
【0053】
第1の解決策では、圧縮機入口における温度推定値TRCPI_Eと圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lとの間の差分に対応した値を圧縮機の制御信号PWMCPから差し引くことにより、圧縮機の制御信号PWMCPの直接制御を行う。従って、次の関係式が得られる。
PWMCP(k)=PWMCP(k−1)−K1*(TRCPI_E−TRCPI_L)
ここで、K1は係数である。
【0054】
第2の解決策では、圧縮機入口における温度推定値TRCPI_Eと圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lとの差(これはここでは負になる)を使用して、蒸発温度の設定値SP_TEVの直接制御を行う。従って、次の関係式が得られる。
SP_TEV(k)=SP_TEV(k−1)+K2*(TRCPI_E−TRCPI_L)
ここで、K2は係数である。
【0055】
本発明の実施形態によって、特に、図4の表に示す結果を得ることができた。ここで、
・PRCDO_Mは、凝縮器出口における圧力測定値、
・TRCDI_Mは、凝縮器入口における温度測定値、
・PRCPI_Mは、圧縮機入口における圧力測定値、
・TRCPI_Mは、圧縮機入口における温度測定値
である。
【0056】
図4に示す表は、上限値130℃の場合の、凝縮器入口における温度TRCDI、または圧縮機出口における温度TRCPOを制御して得られた1組の測定値を与えている。温度推定値は、直接制御から得られたものであり、実際に測定された値に非常に近いということが分かる。いずれの場合も、圧縮機入口における温度TRCPI_Eは、測定値に非常に近く、圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lよりも低い値に保たれていることが観測される。このように、本方法によって、凝縮器入口における温度TRCDIの値が上限値130℃よりも低いか否かを知ることができる。
【0057】
本発明の第2の実施形態においては、蒸発器出口における上限温度TREVO_Lを算出するステップを含んでいる。このステップでは、蒸発器出口における上限温度TREVO_Lを、熱交換器の効率パラメータEF_IHX、圧縮機入口における上限温度TRCPI_L、および凝縮器入口における圧力に対応した飽和温度から算出する。この算出は、ステップ6における場合と同様の様式で行う。従って、次に示す関係式が得られる。
TREVO_L=TSAT(PREVO_L)+SH+ΔSH
【0058】
次に、これまでに得られた式に基づいて、圧縮機入口における上限圧力PRCPI_Lを、蒸発器出口における上限圧力PREVO_Lおよび圧力降下の推定値から算出するステップを実行する。
PRCPI_L=PREVO_L−ΔΡΕV_CP
【0059】
最後に、圧縮機の制御弁の制御電流の上限強度IV_Lを算出するステップで、圧縮機入口における上限圧力PRCPI_Lの関数として、次式からIV_Lを算出する。
V_L=f(PRCPI_L)
【0060】
この実施形態における空調ループの制御では、圧縮機CPの制御弁の制御電流の強度測定値が、圧縮機CPの制御弁の制御電流の上限強度を超えないように、圧縮機弁の制御信号を調整する。
【0061】
第3の実施形態においては、本方法は、蒸発器出口における温度TREVO_Eを推定するステップを含んでいる。このステップでは、蒸発器出口における温度TREVO_Eを、蒸発器出口における圧力推定値に対応した飽和温度Tsat(PREVO_E)および過熱特性から推定する。
TREVO_E=Tsat(PREVO_E)+SH+ΔSH
【0062】
次に、凝縮器出口における上限温度TRCDO_Lを推定するステップが実行される。このステップでは、凝縮器出口における上限温度TRCDO_Lを、内部熱交換器IHXの効率パラメータEF_IHX、蒸発器出口における温度推定値TREVO_E、および圧縮機入口における上限温度TRCPI_Lから推定する。
【0063】
その後に、凝縮器出口における上限圧力PRCDO_Lを、凝縮器出口における上限温度TRCDO_Lから推定するステップへ続く。
【0064】
従って、圧縮機の動作を調整するステップでは、凝縮器出口における圧力測定値PRCDO_Mが凝縮器出口における上限圧力PRCDO_Lを超えたときに、圧縮機の制御信号または蒸発温度の設定値を減少させるように調整する。
【0065】
従って、圧縮機の動作の調整は、次の式で行うことができる。
PWMCP(k)=PWMCP(k−1)−K3*(PRCDO_M−PRCDO_L)
または
SP_TEV(k)=SP_TEV(k−1)+K4*(PRCDO_M−PRCDO_L)
ここで、K3およびK4は係数である。
【0066】
反対の場合には、デフォルトとして、蒸発温度に基づいた従来の制御方法が使用される。
【0067】
本発明は、上記で記述した実施形態に限定されるものではなく、上記は単に実施例として提供したものである。本発明の原理に基づいて、種々の実施形態を実行することが可能である。本発明は、種々の変更、代替の形、および他の変形を含み、これらは、本発明の技術分野における当業者には理解しうると思う。また、本発明は、上記で記述した種々の異なる実施形態の全ての組み合わせを含むものである。
図1
図2
図3
図4