特許第5795785号(P5795785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795785
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ピストンロッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 7/00 20060101AFI20150928BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20150928BHJP
   B23P 15/10 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   F16J7/00
   B23K20/12 G
   B23P15/10
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-174759(P2013-174759)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-42891(P2015-42891A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2015年6月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000155609
【氏名又は名称】KYB−YS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 信行
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−056531(JP,A)
【文献】 特開2010−194711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 7/00
B23K 20/12
B23P 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実のロッド本体と負荷に連結される環状のクレビス及び中実の胴部を有するロッドヘッドとを接合してピストンロッドを製造するピストンロッドの製造方法であって、
前記ロッド本体の端面と前記ロッドヘッドの前記胴部の端面とを摩擦圧接にて接合する第1工程と、
前記ロッドヘッド側から、前記クレビス及び前記胴部にわたって前記ロッド本体と前記ロッドヘッドとの接合面を貫通するように軸心部に穴加工を施す第2工程と、を備え
前記第1工程の後に前記第2工程が行われることを特徴とするピストンロッドの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において形成される穴の開口部を封止部材によって封止する第3工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のピストンロッドの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程と前記第2工程との間に行われ、前記ロッド本体と前記ロッドヘッドとの摩擦圧接部に対して非破壊試験による品質検査を行う工程をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のピストンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ロッド本体及びロッドヘッドは、連続鋳造にて製造される鉄鋼材料を加工することによって製造される。連続鋳造にて製造される鉄鋼材料の中心部には、中心偏析による不純物が存在する。そのため、ロッド本体とロッドヘッドを摩擦圧接にて接合すると、中心偏析部分で遅れ破壊が発生するおそれがあった。
【0003】
特許文献1には、ロッド本体及びロッドヘッドの軸心部を端面からくり抜き、中心偏析による不純物を除去する工程と、ロッド本体とロッドヘッドとの互いの端面を摩擦圧接にて接合する工程と、を備えるピストンロッドの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されるピストンロッドの製造方法によれば、軸心部に存在する不純物を除去した後、互いの端面を摩擦圧接にて接合することによって一体化するため、接合面に不純物のないピストンロッドを製造することができ、ロッド本体とロッドヘッドとの接合強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−56531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるピストンロッドの製造方法では、摩擦圧接前に、ロッド本体及びロッドヘッドの端面をくり抜いているため、摩擦圧接によって接合面の内周側にビードが発生する。摩擦圧接後に内周側に形成されるビードは、除去することができないため、ビード根元部に応力が集中し、接合体が接合面から破壊するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、接合体の耐久性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、中実のロッド本体と負荷に連結される環状のクレビス及び中実の胴部を有するロッドヘッドとを接合してピストンロッドを製造するピストンロッドの製造方法であって、ロッド本体の端面とロッドヘッドの胴部の端面とを摩擦圧接にて接合する第1工程と、ロッドヘッド側から、クレビス及び胴部にわたってロッド本体とロッドヘッドとの接合面を貫通するように軸心部に穴加工を施す第2工程と、を備え、第1工程の後に第2工程が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロッド本体とロッドヘッドとの端面が摩擦圧接により接合された後に、ロッドヘッド側から接合面を貫通するように軸心部に穴加工を施す。このため、中心偏析による不純物を除去することができる。また、ピストンロッドの穴の内部にビードが存在しないため、穴の内周側に応力が集中することもない。したがって、接合体の耐久性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ピストンロッドの製造工程前のロッド本体及びロッドヘッドを示す平面図であり、一部断面にて示す。
図2】本発明の実施の形態に係るピストンロッドの製造方法の第1工程を示す平面図であり、一部断面にて示す。
図3】本発明の実施の形態に係るピストンロッドの製造方法の第2工程を示す図であり、一部断面にて示す。
図4】本発明の実施の形態に係るピストンロッドの製造方法によって製造されたピストンロッドを示す図であり、ピストンロッドの外周のバリを切除しない場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
本実施形態に係るピストンロッドの製造方法は、ロッド本体2とロッドヘッド3とを摩擦圧接にて接合してピストンロッド1を製造するものである。本実施形態では、ピストンロッド1は、アクチュエータ(図示せず)として用いられる流体圧シリンダのシリンダ本体に進退自在に挿入されるものである。
【0013】
ロッド本体2及びロッドヘッド3は、連続鋳造にて製造される中実の炭素鋼を加工することによって製造される。炭素鋼としては、例えば炭素量0.45%の鋼が用いられる。
【0014】
図1を参照して、ロッド本体2及びロッドヘッド3について説明する。図1は、ピストンロッド1の製造工程前(摩擦圧接前)のロッド本体2及びロッドヘッド3を示す平面図である。
【0015】
ロッド本体2は、中実であって、シリンダ本体内を摺動するピストン(図示せず)が連結される小径部2aと、小径部2aよりも大径の大径部2bと、からなる。ロッド本体2の大径部2bには、平面状の端面2cが形成される。
【0016】
ロッドヘッド3は、中実であって、負荷に連結される環状のクレビス3aと、ロッド本体2の大径部2bと同径の胴部3bと、からなる。胴部3bには平面状の端面3cが形成される。
【0017】
ピストンロッド1は、ロッド本体2の大径部2bの端面2cと、ロッドヘッド3の胴部3bの端面3cとを摩擦圧接にて接合して一体化することによって製造される。
【0018】
ロッド本体2及びロッドヘッド3は、連続鋳造にて製造される中実の鉄鋼材料を加工することによって製造されるものである。溶鋼中の不純物は、固体よりも液体に残る傾向があるため、連続鋳造では、最後に凝固する軸心部に不純物が集積し易い。このため、連続鋳造にて製造される鉄鋼材料の軸心部には、中心偏析による不純物が存在する。したがって、ロッド本体2の軸心部及びロッドヘッド3の胴部3bの軸心部には、中心偏析による不純物が存在する。図1図3において、不純物10は点線にて模式的に示す。
【0019】
次に、図2及び図3を参照して、ピストンロッド1の製造工程について説明する。
【0020】
まず、第1工程では、ロッド本体2とロッドヘッド3との互いの端面2c,3cを摩擦圧接にて接合する。以下に、第1工程である摩擦圧接の手順を具体的に説明する。
【0021】
(1)図1に示すように、ロッド本体2とロッドヘッド3とを互いの端面2c,3cが対向するように同軸的に配置する。
【0022】
(2)次に、図2に示すように、ロッドヘッド3を軸中心に回転させた状態で、ロッド本体2をロッドヘッド3に向けて移動させてロッド本体2の端面2cをロッドヘッド3の端面3cに押し付け、接合面11にて摩擦熱を発生させる。摩擦熱によって接合面11近傍が軟化する。
【0023】
(3)押し付けによるロッド本体2の移動が予め定められた所定変位に達した時点でロッドヘッド3の回転を停止させる。
【0024】
(4)ロッド本体2を大きな荷重でさらにロッドヘッド3側に押し付け、接合面11近傍の高温部を、図2に示すように、外周側に塑性流動させてバリ12として排出する。このように、接合面11近傍の高温部は、外周側にバリ12として排出されるため、仮に、接合面11に不純物が存在していたとしても、不純物を排出する効果が高く、接合面11は清浄となる。なお、バリ12の排出は、ロッド本体2のバリ12aとロッドヘッド3のバリ12bとの境界点12cが、図2に示すように、ロッド本体2及びロッドヘッド3の外周面の外側となるまで行われる。
【0025】
(5)最後に、上記(4)の押し付け状態を所定時間保持することによって、接合面11におけるロッド本体2とロッドヘッド3との相互拡散を促進させ、両者の接合が完了する。以上のようにして、摩擦圧接によるロッド本体2とロッドヘッド3との接合が行われる。
【0026】
ピストンロッド1の外周側のバリ12は、図3に示すように、接合完了後に切除され、ロッド本体2とロッドヘッド3との外周は滑らかに連続した状態に加工される。ピストンロッド1の外周側のバリ12は、第1工程の完了後に切除してもよいし、後述する第2工程の完了後に切除してもよい。また、図4に示すように、バリ12の切除を行わず、ピストンロッド1の外周側にバリ12が残っていてもよい。
【0027】
第1工程の完了後には、ロッド本体2とロッドヘッド3との摩擦圧接部に対して、超音波探傷などの非破壊試験による品質検査が行われる。このような品質検査によって、摩擦圧接部における接合の不具合などを検出することができる。
【0028】
次に、第2工程では、図3に示すように、ロッドヘッド3側から、ロッド本体2とロッドヘッド3との接合面11を貫通するような穴13を軸心部に形成する穴加工が行われる。
【0029】
第2工程である穴加工は、ドリル等の切削工具をロッドヘッド3側から、ロッドヘッド3及びロッド本体2の軸心部を通るように挿入することにより行われる。切削工具は、図3における左側からロッドヘッド3のクレビス3a、胴部3bに渡ってロッドヘッド3の軸心部を通るように挿入される。切削工具がロッド本体2とロッドヘッド3との接合面11に達すると、そのまま接合面11を貫通し、ロッド本体2の軸心部を通り所定の深さに達するまで挿入する。このように、第2工程では、ロッド本体2とロッドヘッド3との接合面11を貫通するように切削工具を挿入して穴加工を行う。
【0030】
接合面11を貫通した後の切削工具の挿入深さは、第1工程で形成されるロッド本体2とロッドヘッド3との接合体に対して、試験や検査を行うことで決定する。具体的には、第1工程で形成される接合体のいくつかをサンプル品として試験や検査を行い、不純物10が集積した中心偏析部のうち除去が必要となる部分の深さを決定する。また、穴加工により形成される穴13の穴径についても、深さと同様に接合体に対する試験や検査の結果によって最適な径が選定される。
【0031】
このように穴加工を行うことにより、遅れ破壊の原因となる軸心部の中心偏析部分を除去することができる。また、ロッド本体2とロッドヘッド3との接合面11を貫通するように穴加工が行われるため、接合面11での遅れ破壊に起因した分離破壊の発生を防止することができる。
【0032】
また、ロッド本体2とロッドヘッド3とを摩擦圧接により接合する第1工程の後に、中心偏析を除去する穴加工である第2工程が行われるため、ピストンロッド1の穴13の内周にビードが存在することがない。このため、穴13の内周側に応力集中することもない。
【0033】
さらに、本実施形態では、第1工程で形成されたロッド本体2とロッドヘッド3との接合体に対する試験や検査に基づいて、穴13の深さ及び径を決定している。このため、材料ロットの違いなどによってロッド本体2及びロッドヘッド3の除去が必要な中央偏析部の深さや径が異なっても、確実に軸心部の中心偏析部を除去することができる。
【0034】
なお、第2工程で形成される穴13は、プラグなどを用いて開口部を封止してもよい。このようにすることで、ピストンロッド1が錆の発生しやすい場所で使用される場合に、穴13内部での錆の発生を防止することができる。
【0035】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0036】
本実施形態におけるピストンロッド1の製造方法では、ロッド本体2とロッドヘッド3との端面2c,3cが摩擦圧接により接合された後に、ロッドヘッド3側から接合面11を貫通するように軸心部に穴加工を施す。このため、中心偏析による不純物10を除去することができる。また、ピストンロッド1の穴13の内部にビードが存在しないため、穴13の内周側に応力が集中することもない。したがって、接合体の耐久性の低下を抑制することができる。
【0037】
また、ロッド本体2とロッドヘッド3との接合体に穴加工を施すことにより、中心偏析による不純物10を除去することができるため、中心偏析による不純物10が多く、比較的品質が良くない材料を用いてピストンロッド1を製造することができる。つまり、本実施形態によれば、比較的品質が良くなく安価な材料を用いてピストンロッド1を製造することができるため、製造コストを低減することができる。
【0038】
また、あらかじめロッド本体2とロッドヘッド3の軸心部を端面からくり抜き、その後に摩擦圧接を行うピストンロッドの製造方法の場合には、得られる接合体の内部にすでに空洞が存在するため、摩擦圧接部に対して非破壊試験による品質検査を行うと空洞を欠陥として検出してしまう。これに対し、本実施形態では、摩擦圧接による接合の後に、軸心部に穴加工を施すため、穴13が形成される前に摩擦圧接部に対して非破壊試験による品質検査を実施することができる。したがって、本実施形態によれば、摩擦圧接部に対する非破壊試験による品質検査において、内部の空洞を欠陥として検出するような事態は起こらず、確実に欠陥品のみを検出することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0040】
1 ピストンロッド
2 ロッド本体
2a 小径部
2b 大径部
2c 端面
3 ロッドヘッド
3a クレビス
3b 胴部
3c 端面
10 不純物
11 接合面
12 バリ
13 穴
図1
図2
図3
図4