特許第5795791号(P5795791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5795791グラフトポリマー並びに関連する方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795791
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】グラフトポリマー並びに関連する方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/00 20060101AFI20150928BHJP
   C08F 255/08 20060101ALI20150928BHJP
   C08G 79/00 20060101ALI20150928BHJP
   C10M 143/08 20060101ALI20150928BHJP
   C10M 149/10 20060101ALI20150928BHJP
   C10M 155/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08F255/00
   C08F255/08
   C08G79/00
   C10M143/08
   C10M149/10
   C10M155/00
【請求項の数】23
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-503800(P2013-503800)
(86)(22)【出願日】2011年4月1日
(65)【公表番号】特表2013-523973(P2013-523973A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】US2011030914
(87)【国際公開番号】WO2011126939
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】61/321,659
(32)【優先日】2010年4月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593136890
【氏名又は名称】カストロール・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CASTROL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】サウアー,リチャード・ピー
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−535947(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0205611(US,A1)
【文献】 特表2008−539325(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0293600(US,A1)
【文献】 特開2005−200446(JP,A)
【文献】 特開昭60−020913(JP,A)
【文献】 特開2013−082933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F255/00
C08G 79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(b)1−ビニルイミダゾール、C−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、3−メチル−1−ビニルピラゾール及びこれらの組合せから選ばれるグラフト可能なモノマー;及び(c)有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物;のグラフトポリマー。
【請求項2】
(a)1以上の工程で、(i)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(ii)1−ビニルイミダゾール、C−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、3−メチル−1−ビニルピラゾール及びこれらの組合せから選ばれるグラフト可能なモノマーグラフト可能なモノマー;及び(iii)フリーラジカル基開始剤;を、開始剤の開始温度を超える温度において接触させ;(b)工程(a)の生成物、並びに有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物を、開始剤の開始温度を超える温度において開始剤と接触させる;工程を含む、請求項1に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項3】
ポリ−α−オレフィン1モルあたり0.5〜5.0モルのグラフト可能なモノマーを含む、請求項1に記載のグラフトポリマー。
【請求項4】
ポリ−α−オレフィン1モルあたり1.0〜5.0モルの有機モリブデン化合物を含む、請求項1又は3に記載のグラフトポリマー。
【請求項5】
ポリ−α−オレフィンが10000未満の重量平均分子量を有する、請求項1、3、又は4のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項6】
ポリ−α−オレフィンが2000〜6000の範囲の重量平均分子量を有する、請求項1、3、4、又は5のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項7】
ポリ−α−オレフィンが1.4〜3.0の多分散度を有する、請求項1、3、4、5、又は6のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項8】
ポリ−α−オレフィンが、C10オレフィンのホモポリマー、又はC10及びC12オレフィンのホモポリマーである、請求項1、又は3〜7のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項9】
ポリ−α−オレフィンが1−デセンのホモポリマーである、請求項1、又は3〜8のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項10】
グラフト可能なモノマーが1−ビニルイミダゾールである、請求項1、又は3〜9のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項11】
有機金属化合物が有機モリブデン化合物である、請求項1、又は3〜10のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項12】
有機金属化合物が有機チタン化合物である、請求項1、又は3〜11のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項13】
多量の基油、及び少量の請求項1、又は3〜12のいずれかに記載のグラフトポリマーを含む、潤滑油組成物。
【請求項14】
グラフトポリマーが0.2重量%〜5重量%の量(グラフトポリマーの製造から繰り越される基油は含まない)で潤滑油組成物中に存在する、請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
前記有機モリブデン化合物が、モリブデンボロネオデカノエート、モリブデン2−エチルヘキサノエート4−ノニルオキシベンゾエート、モリブデン(イソステアレート)(4−ノニルオキシベンゾエート)、モリブデンドデシルベンゼンスルホネート、モリブデンC18分岐−線状カルボキシレート、モリブデンC36線状カルボキシレート、モリブデンC36+−C18分岐−線状カルボキシレート、モリブデンC36分岐−線状カルボキシレート、モリブデンC36/C36+線状カルボキシレート、モリブデンC36+分岐アルキルカルボキシレート/t−ブチルベンゾエート、モリブデンC18分岐アルキルカルボキシレート/t−ブチルベンゾエート、モリブデンオレエート、モリブデンC18線状アルキルカルボキシレート/t−ブチルベンゾエート、モリブデンアセチルアセトナート、モリブデンオクトエート、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項11に記載のグラフトポリマー。
【請求項16】
前記有機モリブデン化合物がモリブデンアセチルアセトナートである、請求項15に記載のグラフトポリマー。
【請求項17】
前記有機モリブデン化合物がモリブデンオクトエートである、請求項15に記載のグラフトポリマー。
【請求項18】
前記有機モリブデン化合物がモリブデンボロネオデカノエートである、請求項15に記載のグラフトポリマー。
【請求項19】
前記有機チタン化合物が、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)、チタン(IV)2−エチルヘキソキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタン(IV)プロポキシド、チタン(IV)tert−ブトキシド、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項12に記載のグラフトポリマー。
【請求項20】
前記有機チタン化合物が、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)である、請求項19に記載のグラフトポリマー。
【請求項21】
有機金属化合物が有機マンガン化合物である、請求項1、又は3〜10のいずれかに記載のグラフトポリマー。
【請求項22】
前記有機マンガン化合物が、オレイン酸マンガン、リノール酸マンガン、オクタン酸マンガン、酢酸マンガン、ステアリン酸マンガン、マンガン(II)2,4−ペンタンジオエート、及びマンガン(III)2,4−ペンタンジオエート、及びこれらの組合せからなる群より選択される、請求項21に記載のグラフトポリマー。
【請求項23】
前記有機マンガン化合物がオレイン酸マンガンである、請求項22に記載のグラフトポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年4月7日出願の米国仮特許出願61/321,659(その全部を参照として明確に本明細書中に包含する)からの優先権の利益を主張する。
本発明はグラフトポリマーに関する。本発明は更に、かかるグラフトポリマーの製造方法に関する。本発明は更に、かかる新規なグラフトポリマーを添加剤として含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンを潤滑するために用いる潤滑油組成物は、潤滑粘度の基油又は複数のかかる油の混合物、並びに油の性能特性を向上させるために用いる添加剤を含む。例えば、添加剤は、洗浄性を向上させ、エンジンの摩耗を減少させ、熱及び酸化に対する安定性を与え、油の消費を減少させ、腐食を抑制し、分散剤として作用させ、及び/又は摩擦損失を減少させるために用いることができる。かかる添加剤は、1より多い性能特性、例えば分散性/粘度調節性に寄与する。幾つかの添加剤は潤滑油の1つの特性を向上させるが、他の特性に対して悪影響を与える可能性がある。それぞれの添加剤は潤滑油組成物の全体的なコストを増加させるので、潤滑油の1つより多い性能特性に寄与する多機能添加剤を用いることが有益である。
【0003】
WO−2006/099250は、ポリオレフィン、2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族モノマー、及びかかるポリオレフィンと反応することができる有機金属化合物のグラフトポリマーを含む多機能ポリマーに関する。この多機能グラフトポリマーは、酸化防止特性に対して悪影響を与えることなく、分散剤粘度指数向上剤及び耐摩耗添加剤として作用すると記載されている。WO−2006/099250の発明の一形態においては、このポリオレフィンは約20000〜約500000の重量平均分子量及び約1〜約15の多分散度を有すると記載されている。WO−2006/099250の発明の幾つかの形態においては、有機金属化合物はモリブデン化合物である。
【0004】
かかる多機能グラフトポリマーを潤滑油における添加剤として用いると、油に対して粘度指数向上効果を与えることができるが、グラフトポリマーのポリオレフィンが高い分子量を有する場合には、かかる使用はまた潤滑油の低温特性に対して悪影響を与える可能性もあり、例えば低温において油の増粘を引き起こす可能性がある。内燃エンジン用潤滑剤として用いる場合には、これは寒冷時におけるエンジンの始動を妨げる可能性があり、及び/又は油のポンプ移送性及び/又は流動性を妨げる可能性があり、これによって例えば不十分な潤滑の結果として生じるエンジンの損傷を引き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/099250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して、潤滑油における添加剤として用いるための代わりのグラフトポリマーに関する必要性が未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態によれば、(a)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(b)2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマー;及び(c)有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物;のグラフトポリマーが提供される。
【0008】
本発明の第2の形態によれば、(a)1以上の工程で、(i)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(ii)2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマー;及び(iii)フリーラジカル開始剤;を、開始剤の開始温度を超える温度において接触させ;(b)工程(a)の生成物、並びに有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物を、開始剤の開始温度を超える温度において開始剤と接触させる;工程を含む、上記に記載のグラフトポリマーの製造方法が提供される。
【0009】
本発明は、低分子量のポリ−α−オレフィンを使用することによって上記に規定する問題を解決する。ここで、グラフトポリマーにおいて低分子量のポリ−α−オレフィンを用いることによって、良好な低温特性を達成することができることが見出された。
【0010】
更に、予期しなかったことに、本発明のグラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いると、高分子量のポリオレフィン主鎖を有するグラフトポリマーと比べて向上した耐摩耗性、酸化安定性、及び剪断安定性能の特性が与えられることが見出された。
【0011】
15000未満の重量平均分子量を有するポリ−α−オレフィンは、グラフトポリマーにおいてグラフトするための主鎖を与える。
2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマーは、グラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いた際に、ポリマーに対して例えばスラッジ及びワニス処理のための分散性能特性を与えることができる。
【0012】
有機金属化合物は、グラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いた際に、ポリマーに対して耐摩耗性能特性を与えることができる。
グラフトポリマーには、ポリ−α−オレフィン1モルあたり約0.50〜約5.0モルのグラフト可能なモノマーを含ませることができる。
【0013】
グラフトポリマーには、ポリ−α−オレフィン1モルあたり約1.0〜約5.0モルの有機金属化合物を含ませることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ポリ−α−オレフィン:
グラフトポリマーのポリ−α−オレフィンは、15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有する。好適なポリ−α−オレフィンは当該技術において公知である。
【0015】
ポリ−α−オレフィンは、好ましくは、10000未満、より好ましくは8000未満、例えば2000〜6000の範囲の重量平均分子量を有する。
ポリ−α−オレフィンは、好ましくは約1.4〜約3.0の多分散度を有する。ポリ−α−オレフィンの多分散度は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって求めることができる。
【0016】
好適なポリ−α−オレフィンとしては、エチレン及び/又はプロピレンのポリ−α−オレフィン、及びC10〜C12オレフィンのホモポリマー、例えばC10オレフィンのホモポリマー、又はC10及びC12オレフィンのホモポリマーが挙げられる。好ましいポリ−α−オレフィンは、C10オレフィンのホモポリマー、例えば1−デセンのホモポリマーである。
【0017】
特に好ましいポリ−α−オレフィンとしては、Chemtura Corporationから入手できるSynton 40及びSynton 100、Mitsui Petrochemicalから入手できるLucant HC-40及びLucant HC-100、並びにIneosから入手できるDurasyn 174(PAO 40)及びDurasyn 180(PAO 100)が挙げられる。
【0018】
グラフト可能なモノマー:
本発明において用いるのに好適な窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマーとしては、N−ビニルイミダゾール(1−ビニルイミダゾールとしても知られる)、1−ビニル−2−ピロリジノン、C−ビニルイミダゾール、N−アリルイミダゾール、1−ビニルピロリジノン、2−ビニルピリジン、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、ジアリルホルムアミド、N−メチル−N−アリルホルムアミド、N−エチル−N−アリルホルムアミド、N−シクロヘキシル−N−アリルホルムアミド、4−メチル−5−ビニルチアゾール;N−アリルジイソオクチルフェノチアジン;2−メチル−1−ビニルイミダゾール、3−メチル−1−ビニルピラゾール、N−ビニルプリン、N−ビニルピペラジン、ビニルピペリジン、ビニルモルホリン、並びにこれらの材料又は他の同様の材料の組合せ:が挙げられる。
【0019】
グラフト可能なモノマーは、好ましくはN−ビニルイミダゾールである。
有機金属化合物:
本発明において用いるのに好適な有機モリブデン化合物としては、モリブデンボロネオデカノエート、モリブデン2−エチルヘキサノエート4−ノニルオキシベンゾエート、モリブデン(イソステアレート)(4−ノニルオキシベンゾエート)、モリブデンドデシルベンゼンスルホネート、モリブデンC18分岐−線状カルボキシレート、モリブデンC36線状カルボキシレート、モリブデンC36+−C18分岐−線状カルボキシレート、モリブデンC36分岐−線状カルボキシレート、モリブデンC36/C36+線状カルボキシレート、モリブデンC36+分岐アルキルカルボキシレート/t−ブチルベンゾエート、モリブデンC18分岐アルキルカルボキシレート/t−ブチルベンゾエート、モリブデンオレエート、モリブデンC18線状アルキルカルボキシレート/t−ブチルベンゾエートが挙げられる。好適な有機モリブデン化合物は、Shepherd Chemical Company, 4900 Beech Street, Norwood, Ohio 45212-2398から得ることができる。
【0020】
本発明において用いるのに好適な有機チタン化合物としては、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)、チタン(IV)2−エチルヘキソキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタン(IV)プロポキシド、チタン(IV)tert−ブトキシドが挙げられる。
【0021】
本発明において用いるのに好適な有機マンガン化合物としては、オレイン酸マンガン、リノール酸マンガン、オクタン酸マンガン、酢酸マンガン、ステアリン酸マンガン、マンガン(II)2,4−ペンタンジオエート、及びマンガン(III)2,4−ペンタンジオエートが挙げられる。
【0022】
有機金属化合物が有機モリブデン化合物である場合には、有機モリブデン化合物は、好ましくはモリブデンアセチルアセトナート、モリブデンボロネオデカノエート、モリブデンオクトエート、及びこれらの混合物から選択される。
【0023】
有機金属化合物が有機チタン化合物である場合には、有機チタン化合物は、好ましくはチタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)である。
有機金属化合物が有機マンガン化合物である場合には、有機マンガン化合物は、好ましくはオレイン酸マンガンである。
【0024】
フリーラジカル開始剤:
好適な開始剤としては、「ペルオキシ」開始剤、例えばアルキル、ジアルキル、及びアリールペルオキシド、例えばジ−t−ブチルペルオキシド(ここでは「DTBP」と略称する)、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3;ペルオキシエステル及びペルオキシケタール開始剤、例えばt−ブチルペルオキシベンゾエート、t−アミルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルジペルオキシフタレート、及びt−ブチルペルオキシイソブチレート;ヒドロペルオキシド開始剤、例えばクメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、及び過酸化水素;アゾ開始剤、例えば2−t−ブチルアゾ−2−シアノプロパン、2−t−ブチルアゾ−1−シアノシクロヘキサン、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、及びアゾイソブチロニトリル(AIBN);ジアシルペルオキシド、ケトンペルオキシド、及びペルオキシジカーボネートのような他の同様の材料;が挙げられる。異なるタイプの複数の開始剤の組合せなどの1より多い開始剤の組合せを用いることができる。
【0025】
好ましくは、用いるフリーラジカル開始剤はジ−t−ブチルペルオキシドである。
フリーラジカル開始剤は、通常は、その温度以上で反応を速やかに開始させ、その温度以下では開始はよりゆっくりと進行するか又は全く進行しない特有の最低温度を有する。この温度は開始温度と定義される。したがって、最低反応温度は、通常はフリーラジカル開始剤の最低開始温度によって決定される。
【0026】
溶媒反応条件:
本発明方法の工程(a)及び(b)は、溶媒中で行うことができる。
例えば、ポリ−α−オレフィンを、潤滑組成物用の炭化水素基油又は他の好適な溶媒であってよい溶媒中に溶解して溶液を形成することができる。かくして形成される溶液を、樹脂ケトルのような好適な反応器内に配置して、反応混合物の表面上にCOをパージし、溶液を用いる開始剤の開始温度を超える温度(反応温度)に加熱することができる。例えば、開始剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP)を用いる場合には、反応温度は、約165℃より高く、或いは約170℃より高く、或いは175℃より高くなければならない。異なる開始剤は、所定の反応温度に関して異なる速度で作用する。したがって、特定の開始剤を選択すると反応温度又は時間を調節する必要がある可能性がある。
【0027】
グラフト可能なモノマーをポリ−α−オレフィン溶液に加えて溶解することができる。グラフト可能なモノマーとポリ−α−オレフィンとの意図される割合は、有効な割合がポリ−α−オレフィン主鎖上に直接グラフトされるように選択することができる。
【0028】
グラフト可能なモノマーを、全部を一度か、何度かに分けて充填するか、又は長時間にわたって一定の速度で溶液中に導入することができる。溶液へのグラフト可能なモノマーの所望の最小添加速度は、1分あたりにグラフト可能なモノマーの必要な全量の少なくとも約0.1%であり、最大添加速度は100%である。
【0029】
開始剤は、グラフト可能なモノマーの前か、それと一緒か、又はその後に溶液に加えることができる。開始剤は、別々に充填するか又は全部を一度に加えることができる。一態様においては、開始剤は、1時間かけてグラフト可能なモノマーと共に加えることができる。溶液への開始剤の所望の添加速度は、1分あたりに開始剤の必要な全量の少なくとも約0.1%、或いは少なくとも約5%、或いは少なくとも約20%であってよい。
【0030】
開始剤はニートで加えることができるが、好ましくは溶媒又は分散媒体で希釈して、反応器に導入する際に開始剤が非常に局所的に濃縮されるのを回避する。好ましい態様においては、それは、実質的にポリ−α−オレフィンを溶解するのに用いるものと同じ溶媒で希釈する。開始剤は、好適な溶媒又は分散媒体によって、その重量又は体積の少なくとも5倍、或いは少なくとも約10倍、或いは少なくとも約20倍に希釈することができる。
【0031】
溶液への開始剤及びグラフト可能なモノマーの添加が完了した後、好ましくは反応混合物を加熱しながら更に2〜120分間混合して反応を完了させる。反応の完了に必要な時間は、実験によって、溶液中の窒素又はグラフト可能なモノマーの割合が予め定めた最小値か又はそれに近い値に達した時点、或いは粘度がほぼ一定の値に近付いた時点を求めることによって定めることができる。窒素の割合を求めるために用いることができる試験法は、US−5,523,008の11欄35行〜12欄67行(その内容を参照として本明細書中に包含する)において見ることができる。
【0032】
次に、反応温度を維持しながら有機金属化合物を溶液中に導入することができる。有機金属化合物とグラフト可能なモノマーとの意図される割合は、有効な割合が工程(a)の生成物と配位結合又は反応するように選択される。有機金属化合物は、全部を一度か、何度かに分けて充填するか、或いは長時間にわたって一定の速度で溶液中に導入することができる。反応混合物への有機金属化合物の所望の最小添加速度は、1分あたりに有機金属化合物の必要な全量の少なくとも約0.1%であり、最大添加速度は100%である。
【0033】
溶液を十分に混合して有機金属化合物を含ませることができる。有機金属化合物の添加が完了した後、好ましくは反応混合物を加熱及びCOパージしながら更に2〜120分間混合して反応を完了させる。
【0034】
或いは、有機金属化合物の前か、それと共にか、或いはその後に更なる開始剤を加えることができる。開始剤を、何度かに分けて充填するか又は全部を一度に加えることができる。一態様においては、開始剤は、有機モリブデン化合物を反応混合物と十分に混合した後に1時間かけて加える。
【0035】
潤滑油組成物:
本発明の第3の形態によれば、多量の基油、及び少量のここに記載するか又はここに記載する方法にしたがって製造される1種類以上のグラフトポリマーを含む潤滑油組成物が提供される。潤滑油組成物は、内燃エンジン、例えば火花点火燃焼エンジン又は圧縮点火内燃エンジンを潤滑するために用いることができる。
【0036】
基油:
任意の無機、石油、合成、又は半合成基油、或いはこれらの混合物を、本発明の潤滑油組成物において基油として用いることができる。好適な基油としては、例えば、Exxon Mobilから入手できるEHC-45及びEHC-60、Petrocanadaから入手できるP1003、P2305、及びP5300、並びにFlint Hills Refineryから入手できるFHR 100、FHR 230、及びFHR 600が挙げられる。
【0037】
基油は、約75重量%〜約90重量%、例えば約85重量%の量(グラフトポリマーの製造から繰り越される基油を含む)で潤滑油組成物中に存在させることができる。
グラフトポリマー:
1種類以上のグラフトポリマーは、約0.2重量%〜約5重量%の量(グラフトポリマーの製造から繰り越される基油は含まない)で潤滑油組成物中に存在させることができる。
【0038】
有機金属化合物が有機モリブデン化合物である場合には、グラフトポリマーは、約0.2重量%〜約2重量%、好ましくは約0.5重量%〜約1重量%、例えば約0.7重量%の量で潤滑油組成物中に存在させることができる。
【0039】
有機金属化合物が有機チタン化合物である場合には、グラフトポリマーは、約1重量%〜約2重量%、好ましくは約1重量%〜約1.5重量%、例えば約1.4重量%の量で潤滑油組成物中に存在させることができる。
【0040】
有機金属化合物が有機マンガン化合物である場合には、グラフトポリマーは、約0.2重量%〜約2重量%、例えば約0.7重量%の量で潤滑油組成物中に存在させることができる。
【0041】
本発明の潤滑油組成物には、多機能グラフトコポリマーに加えて1種類以上の他の添加剤を更に含ませることができる。特に、潤滑油組成物に、粘度指数向上剤、分散剤、洗浄剤、耐摩耗添加剤、酸化防止剤、及び流動点降下剤の1以上を更に含ませることができる。
【0042】
本発明のグラフトポリマーは、潤滑油組成物において従来用いられている公知の粘度指数向上ポリオレフィンの一部又は全部に代えて用いることもできる。
粘度指数向上剤:
長鎖ポリオレフィンのような粘度指数向上ポリオレフィンを、本発明による潤滑油組成物において用いることができる。好適なポリオレフィンとしては、ポリイソブテン、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン、ブタジエン及びスチレンの部分水素化ポリマー、エチレン及びプロピレンのアモルファスポリオレフィン、エチレン−プロピレンジエンポリマー、ポリイソプレン、及びスチレン−イソプレンが挙げられる。
【0043】
潤滑油組成物には、約0.2重量%〜約1.2重量%、例えば約0.6重量%のグラフトポリマー以外の1種類以上の粘度指数向上剤を含ませることができる。
分散剤:
分散剤は、不溶性の潤滑油酸化生成物の懸濁を助けて、スラッジの凝集及び/又は金属部品上への微粒子の沈殿又は堆積を抑止又は減少させる。本発明の潤滑油組成物において用いるのに好適な分散剤としては、高分子量アルキルスクシンイミド、並びに油溶性ポリイソブチレン無水コハク酸と、テトラエチレンペンタミンのようなエチレンアミン及びそのホウ酸塩との反応生成物が挙げられる。例えば、スクシンイミドカルボニルのα−位の炭素上においてイソブテン又はプロピレンのポリオレフィンでアルキル化されているスクシンイミド又はコハク酸エステルを用いることができる。これらの添加剤は、エンジン又は他の機械の清浄性を保持するのに有用である。
【0044】
潤滑油組成物には、約1重量%〜約8重量%、例えば約2.5重量%の多機能グラフトポリマー以外の1種類以上の分散剤を含ませることができる。
洗浄剤:
潤滑されているシステム(例えば内燃エンジン)のエンジン清浄性の保持に寄与することができる洗浄剤を、潤滑油組成物において用いることができる。これらの材料としては、スルホン酸、アルキルフェノール、硫化アルキルフェノール、アルキルサリチレート、ナフテネート、及び他の可溶性モノ及びジカルボン酸の金属塩が挙げられる。塩基性(vis、過塩基性)金属塩、例えば塩基性アルカリ土類金属スルホネート(特にカルシウム及びマグネシウム塩)が、洗浄剤としてしばしば用いられる。かかる洗浄剤は、不溶性の粒子状材料をエンジン又は他の機械内に懸濁状態で保持するのを助けるために特に有用である。他の好適な洗浄剤としては、多価金属のスルホン酸塩、フェネート、又は有機ホスフェートが挙げられる。
【0045】
潤滑油組成物は、好ましくは約2重量%の1種類以上の洗浄剤を含む。
耐摩耗添加剤:
耐摩耗添加剤は、潤滑油組成物によって潤滑される表面(例えば金属部品)の摩耗を減少させることができる。亜鉛ジアルキルジチオホスフェート及び亜鉛ジアリールジチオホスフェート、並びにモリブデンジアルキルジチオカルバメートが、通常の耐摩耗剤の代表例であるが、これらは自動車排ガス触媒を被毒する可能性があるイオウ及びリン成分を含んでいる。公知の耐摩耗剤の使用は、本発明のグラフトポリマーを用いることによって減少又は排除することができる。
【0046】
潤滑油組成物には、0.5重量%〜2重量%、例えば約1.2重量%の多機能グラフトポリマー以外の1種類以上の耐摩耗添加剤を含ませることができる。
酸化防止剤:
酸化抑制剤又は酸化防止剤は、潤滑油が使用中に劣化する傾向を減少させることができる。この劣化は、油粘度の増加、及び潤滑される表面、例えば金属表面上のスラッジ及びワニス状の堆積物のような酸化の生成物によって示される可能性がある。かかる酸化抑制剤としては、好ましくはC〜C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、例えばカルシウムノニルフェノールスルフィド、ジオクチルフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ホスホ硫化又は硫化炭化水素、及び有機モリブデン化合物、例えばモリブデンジアルキルジチオカルバメートが挙げられる。
【0047】
潤滑油組成物には、0.2重量%〜2重量%、例えば約1.2重量%の1種類以上の酸化防止剤を含ませることができる。
流動点降下剤:
潤滑油流動性向上剤としても知られる流動点降下剤は、流体が流れるか又は注ぐことができる温度を低下させることができる。これらは潤滑油組成物中に存在させることができる。かかる添加剤は公知である。潤滑剤の低温流動性を与える通常の流動点降下剤としては、C〜C18ジアルキルフマレートビニルアセテートコポリマー、及びポリメタクリレートが挙げられる。
【0048】
潤滑油組成物には、0.1重量%〜1重量%、例えば約0.35重量%の1種類以上の流動点降下剤を含ませることができる。
潤滑油組成物には、錆抑制剤、極圧添加剤、摩擦調節剤、消泡剤、及び染料のような他の添加剤を更に含ませることができる。
【実施例】
【0049】
ここで、例示のみの目的で以下の実施例を参照して本発明を示す。
多機能グラフトポリマーの製造方法:
実施例1:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100の商品名でChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCOをパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、2.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び1.00重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0050】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た4.90重量%のモリブデンボロドデシルベンゼンスルホネートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCOパージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0051】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例2:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100としてChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCOをパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.5重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0052】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た4.90重量%のモリブデンボロドデシルベンゼンスルホネートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCOパージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0053】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例3:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100としてChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCOをパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.6重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0054】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た4.00重量%のモリブデンボロネオデカノエートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCOパージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0055】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例4:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100としてChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCOをパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、0.50重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.30重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0056】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た2.00重量%のモリブデンボロネオデカノエートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCOパージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0057】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例5:
実施例5のグラフトポリマーは、4.00重量%の代わりに8.00重量%のモリブデンボロネオデカノエートを第1の反応生成物に加えた他は実施例3と同じようにして製造した。
【0058】
実施例6:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Chemtura Corporationによって供給されたものであり、Synton 100の商品名で販売されている。次に、その表面上にCOをパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.60重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0059】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、DuPont Chemical Companyから得た4.00重量%のチタンアセチルアセトナート(Tyzor AA)を1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。次に、Aldrich Chemical Companyから得た0.30重量%のジ−t−ブチルペルオキシドを60分間かけて反応混合物に加えた。次に、加熱及びCOパージを行いながら、反応混合物を更に30分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0060】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例7:
約2500の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 40)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 40は、Chemtura Corporationによって供給されたものであり、Synton 40の商品名で販売されている。次に、その表面上にCOをパージしながら、PAO 40を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.60重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 40に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0061】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、DuPont Chemical Companyから得た4.00重量%のチタンアセチルアセトナート(Tyzor AA)を1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。次に、Aldrich Chemical Companyから得た0.30重量%のジ−t−ブチルペルオキシドを60分間かけて反応混合物に加えた。次に、加熱及びCOパージを行いながら、反応混合物を更に30分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0062】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
多機能グラフトポリマーを含む潤滑油組成物の試験:
幾つかの完全配合潤滑油組成物について以下の試験を行った。
【0063】
油1〜4はそれぞれ、(a)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(b)2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマー;及び(c)有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物;のグラフトポリマーを含んでいた。而して、油1〜4は本発明による潤滑油組成物である。
【0064】
対照油A〜Cは、(a)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(b)2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマー;及び(c)有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物;のグラフトポリマーを含んでいなかった。而して、油A〜Cは本発明による潤滑油組成物ではない。
【0065】
剪断安定性:
ASTM−D6022−06にしたがって、油1及びAの永久剪断安定性指数(PSSI)を求めた。
【0066】
油1は、3重量%の実施例3のグラフトポリマーを含んでいた。
油Aは、約150000の重量平均分子量を有するポリ−α−オレフィン、2〜50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和のグラフト可能なモノマー、及び有機金属化合物のグラフトポリマー6重量%を含んでいた。
【0067】
潤滑油組成物の永久剪断安定性指数(PSSI)は、特定の添加剤によって与えられる剪断による粘度の損失の指標である。向上した剪断安定性指数は、潤滑油組成物がより長時間の間粘度の変化に抵抗し、それによって向上したエンジン潤滑を与えることを意味する。
【0068】
剪断安定性試験の結果は、油1のPSSIが対照油AのPSSIと比べて46%向上することを示す。
これらの結果は、本発明のグラフトポリマーを添加剤として含む潤滑油が、より長時間の間粘度の変化に抵抗し、それによってより高いレベルの潤滑を与えることを示す。
【0069】
低温特性:
ASTM−D4684−02aの方法にしたがって、小型回転粘度計(MRV)を用いて−35℃において油1及びAの粘度を測定した。
【0070】
−35℃において40000cP以上のMRV測定粘度を有する油は、エンジンを低温において用いる際に油のポンプ移送性の欠如によってエンジンの障害を引き起こす可能性がある油であると考えられる。
【0071】
更に、国際標準規格ASTM−D5133−01にしたがって、走査Brookfield法を用いて油1及びAのゲル化指数(GI)を測定した。
油のゲル化指数は、低温において油がゲル化構造を形成する傾向を示す。12以上のゲル化指数を有する油は、エンジンを低温において用いる際に不十分な潤滑によってエンジンの障害を引き起こす可能性がある油であると考えられる。
【0072】
更に、更に0.2重量%の流動点降下剤(ppd)をそれぞれの油中にブレンドして、油1及びAに関するMRV粘度及びゲル化指数(GI)の両方の測定を繰り返した。
更なる流動点降下剤を加えた場合及び加えない場合の油1及びAのMRV及びSB粘度を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から、更なる流動点降下剤を加えないと、対照油AのMRV粘度は40000cPの限界値(この値においては、油は、低温においてエンジン内で用いる際に油のポンプ移送性の欠如によってエンジンの障害を引き起こす可能性がある)に非常に近接し、これに対して、油1のMRV粘度は40000cPよりも非常に低いことが分かる。更なる流動点降下剤を存在させた場合においてのみ、対照油Aは許容できるMRV粘度を有する。
【0075】
また表1から、更なる流動点降下剤を加えないと、対照油Aのゲル化指数は不合格限界値を超え、これに対して油1のゲル化指数は不合格限界値より低いことも分かる。更なる流動点降下剤を存在させた場合においてのみ、対照油Aは許容できるゲル化指数を有する。
【0076】
而して、表1に示す結果は、本発明のグラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いることによって、改良された低温特性を達成することができることを示す。
高温高剪断粘度:
ASTM−D4741の方法にしたがって、油1及びAの高温高剪断(HTHS)粘度を測定した。
【0077】
潤滑油組成物の高温高剪断(HTHS)粘度は、内燃エンジンが遭遇する可能性がある厳しい温度及び剪断条件下での油の粘度の指標である。より高いHTHS粘度は、厳しい運転条件下において油膜厚さがより良好に維持されることを示す。
【0078】
油1及びAのHTHS粘度を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2から、油1のHTHS粘度は対照油AのHTHS粘度よりも非常に高いことが分かる。
而して、表2に示す結果は、本発明のグラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いることによって、向上した高温高剪断特性を達成することができることを示す。
【0081】
シーケンスIVAバルブトレイン摩耗評価:
3種類の完全配合5W−30潤滑油組成物:油2、油3、及び対照油BについてシーケンスIVA試験を行った。
【0082】
油2は、0.5重量%の実施例5のグラフトポリマーを含んでいた。
油3は、1.4重量%の実施例7のグラフトポリマーを含んでいた。
油Bは、本発明のグラフトポリマーを含んでいなかった。
【0083】
シーケンスIVAエンジンバルブトレイン摩耗試験は、カムシャフトローブの摩耗を減少させる試験潤滑剤の能力を評価する運転エンジン動力計潤滑剤試験である。この試験法は、100時間の全運転時間を用いる低温サイクル試験である。
【0084】
1994年の日産モデルのKA24E水冷4サイクルインラインシリンダー2.389(2.4)Lエンジンを、試験装置として用いる。エンジンは、シングルオーバーヘッドカム(SOHC)、シリンダーあたり3つのバルブ(2つのインテーク、1つの排気)、及びスライディングフォロアバルブトレインデザインを含む。エンジンのショートブロックは16回の試験について用い、シリンダーヘッドアセンブリは8回の試験について用い、重要な試験部品(カムシャフト、ロッカーアーム、ロッカーシャフト)は試験毎に取り替える。ロングブロック又はシリンダーヘッドを交換する際(試験1及び9の前)には常に、95分間の慣らし運転を行う。
【0085】
シーケンスIVA試験はフラッシュアンドランタイプの潤滑剤試験である。それぞれの個々の試験は、2回の20分間フラッシュとその後の100時間のサイクル試験から構成される。サイクル試験は100時間のサイクルを含む。それぞれのサイクルは2つの段階から構成される。アイドリング速度の段階1の時間は50分間であり、1500r/分の段階2を10分間運転する。試験サイクルの段階は、表3に示す条件に設定する。
【0086】
【表3】
【0087】
試験が完了したら、カムシャフトをエンジンから取り外し、7つの所定の位置(ノーズ;ノーズの前後の14°;ノーズの前後の10°;ノーズの前後の4°)における個々のローブ摩耗に関して測定した。それぞれのローブに関して、7つの位置を合計してローブ摩耗を求める。次に、12のローブを平均して最終試験結果を算出する。試験の結果を下表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示す結果は、本発明のグラフトポリマーによって、100時間後の、カム、ローブ、排気及びノーズの摩耗が減少し、且つ、油中に見られる鉄のppmが減少することを示す。而して、多機能グラフトポリマーは潤滑油組成物において耐摩耗性能特性を与える添加剤として用いることができる。
【0090】
熱酸化エンジンオイルシミュレーション試験(TEOST33C):
油4及び対照油CについてTEOST33c試験を行った。
油4は、1.4重量%の実施例7のグラフトポリマーを含んでいた。
【0091】
油Cは、本発明のグラフトポリマーを含んでいなかった。
TEOST33C試験は、熱酸化エンジンオイルシミュレーション試験(TEOST)を用いて、自動車エンジンオイルによって形成される堆積物の量(mg)を測定するものである。この試験は、ASTM−D6335にしたがって行った。TEOST試験の結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5における結果は、本発明のグラフトポリマーを内燃エンジンにおける潤滑油組成物中において添加剤として用いると、形成される堆積物の量が大きく減少することを示す。而して、本発明のグラフトポリマーは向上した酸化安定性性能特性を与える。