【実施例】
【0049】
ここで、例示のみの目的で以下の実施例を参照して本発明を示す。
多機能グラフトポリマーの製造方法:
実施例1:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100の商品名でChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCO
2をパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、2.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び1.00重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0050】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た4.90重量%のモリブデンボロドデシルベンゼンスルホネートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCO
2パージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0051】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例2:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100としてChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCO
2をパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.5重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0052】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た4.90重量%のモリブデンボロドデシルベンゼンスルホネートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCO
2パージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0053】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例3:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100としてChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCO
2をパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.6重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0054】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た4.00重量%のモリブデンボロネオデカノエートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCO
2パージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0055】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例4:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Synton 100としてChemtura Corporationによって供給された。次に、その表面上にCO
2をパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、0.50重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.30重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0056】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、Shepherd Chemical Companyから得た2.00重量%のモリブデンボロネオデカノエートを1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。加熱及びCO
2パージを行いながら、反応混合物を更に60分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0057】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例5:
実施例5のグラフトポリマーは、4.00重量%の代わりに8.00重量%のモリブデンボロネオデカノエートを第1の反応生成物に加えた他は実施例3と同じようにして製造した。
【0058】
実施例6:
約5600の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 100)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 100は、Chemtura Corporationによって供給されたものであり、Synton 100の商品名で販売されている。次に、その表面上にCO
2をパージしながら、PAO 100を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.60重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 100に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0059】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、DuPont Chemical Companyから得た4.00重量%のチタンアセチルアセトナート(Tyzor AA)を1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。次に、Aldrich Chemical Companyから得た0.30重量%のジ−t−ブチルペルオキシドを60分間かけて反応混合物に加えた。次に、加熱及びCO
2パージを行いながら、反応混合物を更に30分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0060】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
実施例7:
約2500の重量平均分子量及び1.60の多分散度を有するポリ−α−オレフィン(PAO 40)の500gの試料をガラス反応器に充填した。PAO 40は、Chemtura Corporationによって供給されたものであり、Synton 40の商品名で販売されている。次に、その表面上にCO
2をパージしながら、PAO 40を170℃に加熱した。次に、1.00重量%の1−ビニルイミダゾール(VIMA BASF Corp.)及び0.60重量%のジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP Aldrich Chemical #16,8521-1)を、60分間かけてPAO 40に同時に加えた。次に、得られた反応混合物を更に30分間混合して第1の反応生成物を形成した。この反応の後に第2の反応を行った。
【0061】
第2の反応は、第1の反応生成物を170℃に加熱し、及び/又はその温度に維持することによって開始した。次に、DuPont Chemical Companyから得た4.00重量%のチタンアセチルアセトナート(Tyzor AA)を1分間かけて第1の反応生成物に加え、得られた反応混合物を十分に混合した。次に、Aldrich Chemical Companyから得た0.30重量%のジ−t−ブチルペルオキシドを60分間かけて反応混合物に加えた。次に、加熱及びCO
2パージを行いながら、反応混合物を更に30分間継続して混合して第2の反応生成物を形成した。
【0062】
第2の反応生成物は、本発明によるグラフトポリマーを含んでいた。
多機能グラフトポリマーを含む潤滑油組成物の試験:
幾つかの完全配合潤滑油組成物について以下の試験を行った。
【0063】
油1〜4はそれぞれ、(a)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(b)2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマー;及び(c)有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物;のグラフトポリマーを含んでいた。而して、油1〜4は本発明による潤滑油組成物である。
【0064】
対照油A〜Cは、(a)15000未満の重量平均分子量及び1.1〜10の多分散度を有するポリ−α−オレフィン;(b)2〜約50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和の脂肪族又は芳香族のグラフト可能なモノマー;及び(c)有機モリブデン、有機チタン、有機マンガン化合物、及びこれらの混合物から選択される有機金属化合物;のグラフトポリマーを含んでいなかった。而して、油A〜Cは本発明による潤滑油組成物ではない。
【0065】
剪断安定性:
ASTM−D6022−06にしたがって、油1及びAの永久剪断安定性指数(PSSI)を求めた。
【0066】
油1は、3重量%の実施例3のグラフトポリマーを含んでいた。
油Aは、約150000の重量平均分子量を有するポリ−α−オレフィン、2〜50個の炭素原子を有する窒素含有エチレン性不飽和のグラフト可能なモノマー、及び有機金属化合物のグラフトポリマー6重量%を含んでいた。
【0067】
潤滑油組成物の永久剪断安定性指数(PSSI)は、特定の添加剤によって与えられる剪断による粘度の損失の指標である。向上した剪断安定性指数は、潤滑油組成物がより長時間の間粘度の変化に抵抗し、それによって向上したエンジン潤滑を与えることを意味する。
【0068】
剪断安定性試験の結果は、油1のPSSIが対照油AのPSSIと比べて46%向上することを示す。
これらの結果は、本発明のグラフトポリマーを添加剤として含む潤滑油が、より長時間の間粘度の変化に抵抗し、それによってより高いレベルの潤滑を与えることを示す。
【0069】
低温特性:
ASTM−D4684−02aの方法にしたがって、小型回転粘度計(MRV)を用いて−35℃において油1及びAの粘度を測定した。
【0070】
−35℃において40000cP以上のMRV測定粘度を有する油は、エンジンを低温において用いる際に油のポンプ移送性の欠如によってエンジンの障害を引き起こす可能性がある油であると考えられる。
【0071】
更に、国際標準規格ASTM−D5133−01にしたがって、走査Brookfield法を用いて油1及びAのゲル化指数(GI)を測定した。
油のゲル化指数は、低温において油がゲル化構造を形成する傾向を示す。12以上のゲル化指数を有する油は、エンジンを低温において用いる際に不十分な潤滑によってエンジンの障害を引き起こす可能性がある油であると考えられる。
【0072】
更に、更に0.2重量%の流動点降下剤(ppd)をそれぞれの油中にブレンドして、油1及びAに関するMRV粘度及びゲル化指数(GI)の両方の測定を繰り返した。
更なる流動点降下剤を加えた場合及び加えない場合の油1及びAのMRV及びSB粘度を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から、更なる流動点降下剤を加えないと、対照油AのMRV粘度は40000cPの限界値(この値においては、油は、低温においてエンジン内で用いる際に油のポンプ移送性の欠如によってエンジンの障害を引き起こす可能性がある)に非常に近接し、これに対して、油1のMRV粘度は40000cPよりも非常に低いことが分かる。更なる流動点降下剤を存在させた場合においてのみ、対照油Aは許容できるMRV粘度を有する。
【0075】
また表1から、更なる流動点降下剤を加えないと、対照油Aのゲル化指数は不合格限界値を超え、これに対して油1のゲル化指数は不合格限界値より低いことも分かる。更なる流動点降下剤を存在させた場合においてのみ、対照油Aは許容できるゲル化指数を有する。
【0076】
而して、表1に示す結果は、本発明のグラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いることによって、改良された低温特性を達成することができることを示す。
高温高剪断粘度:
ASTM−D4741の方法にしたがって、油1及びAの高温高剪断(HTHS)粘度を測定した。
【0077】
潤滑油組成物の高温高剪断(HTHS)粘度は、内燃エンジンが遭遇する可能性がある厳しい温度及び剪断条件下での油の粘度の指標である。より高いHTHS粘度は、厳しい運転条件下において油膜厚さがより良好に維持されることを示す。
【0078】
油1及びAのHTHS粘度を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2から、油1のHTHS粘度は対照油AのHTHS粘度よりも非常に高いことが分かる。
而して、表2に示す結果は、本発明のグラフトポリマーを潤滑油組成物において添加剤として用いることによって、向上した高温高剪断特性を達成することができることを示す。
【0081】
シーケンスIVAバルブトレイン摩耗評価:
3種類の完全配合5W−30潤滑油組成物:油2、油3、及び対照油BについてシーケンスIVA試験を行った。
【0082】
油2は、0.5重量%の実施例5のグラフトポリマーを含んでいた。
油3は、1.4重量%の実施例7のグラフトポリマーを含んでいた。
油Bは、本発明のグラフトポリマーを含んでいなかった。
【0083】
シーケンスIVAエンジンバルブトレイン摩耗試験は、カムシャフトローブの摩耗を減少させる試験潤滑剤の能力を評価する運転エンジン動力計潤滑剤試験である。この試験法は、100時間の全運転時間を用いる低温サイクル試験である。
【0084】
1994年の日産モデルのKA24E水冷4サイクルインラインシリンダー2.389(2.4)Lエンジンを、試験装置として用いる。エンジンは、シングルオーバーヘッドカム(SOHC)、シリンダーあたり3つのバルブ(2つのインテーク、1つの排気)、及びスライディングフォロアバルブトレインデザインを含む。エンジンのショートブロックは16回の試験について用い、シリンダーヘッドアセンブリは8回の試験について用い、重要な試験部品(カムシャフト、ロッカーアーム、ロッカーシャフト)は試験毎に取り替える。ロングブロック又はシリンダーヘッドを交換する際(試験1及び9の前)には常に、95分間の慣らし運転を行う。
【0085】
シーケンスIVA試験はフラッシュアンドランタイプの潤滑剤試験である。それぞれの個々の試験は、2回の20分間フラッシュとその後の100時間のサイクル試験から構成される。サイクル試験は100時間のサイクルを含む。それぞれのサイクルは2つの段階から構成される。アイドリング速度の段階1の時間は50分間であり、1500r/分の段階2を10分間運転する。試験サイクルの段階は、表3に示す条件に設定する。
【0086】
【表3】
【0087】
試験が完了したら、カムシャフトをエンジンから取り外し、7つの所定の位置(ノーズ;ノーズの前後の14°;ノーズの前後の10°;ノーズの前後の4°)における個々のローブ摩耗に関して測定した。それぞれのローブに関して、7つの位置を合計してローブ摩耗を求める。次に、12のローブを平均して最終試験結果を算出する。試験の結果を下表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示す結果は、本発明のグラフトポリマーによって、100時間後の、カム、ローブ、排気及びノーズの摩耗が減少し、且つ、油中に見られる鉄のppmが減少することを示す。而して、多機能グラフトポリマーは潤滑油組成物において耐摩耗性能特性を与える添加剤として用いることができる。
【0090】
熱酸化エンジンオイルシミュレーション試験(TEOST33C):
油4及び対照油CについてTEOST33c試験を行った。
油4は、1.4重量%の実施例7のグラフトポリマーを含んでいた。
【0091】
油Cは、本発明のグラフトポリマーを含んでいなかった。
TEOST33C試験は、熱酸化エンジンオイルシミュレーション試験(TEOST)を用いて、自動車エンジンオイルによって形成される堆積物の量(mg)を測定するものである。この試験は、ASTM−D6335にしたがって行った。TEOST試験の結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5における結果は、本発明のグラフトポリマーを内燃エンジンにおける潤滑油組成物中において添加剤として用いると、形成される堆積物の量が大きく減少することを示す。而して、本発明のグラフトポリマーは向上した酸化安定性性能特性を与える。