(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795795
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】版胴
(51)【国際特許分類】
B41F 13/10 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
B41F13/10
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-509027(P2013-509027)
(86)(22)【出願日】2011年4月29日
(65)【公表番号】特表2013-528513(P2013-528513A)
(43)【公表日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】SE2011050530
(87)【国際公開番号】WO2011139215
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】1000470-3
(32)【優先日】2010年5月7日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】593205554
【氏名又は名称】テトラ・ラヴァル・ホールディングス・アンド・ファイナンス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】TETRA LAVAL HOLDINGS & FINANCE S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】イングヴァル・アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】トマス・ペッテション
(72)【発明者】
【氏名】オラ・レンストローム
(72)【発明者】
【氏名】ペッテル・エーマン
【審査官】
藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−001774(JP,A)
【文献】
特開平10−034873(JP,A)
【文献】
実開昭57−016348(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 13/10−13/16
B41N 7/00− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴(4,100)であって、回転シャフト(110)を備え、この回転シャフト(110)は、少なくとも一つの印刷版(130)を前記シャフト(110)に対して取り付けるための手段を有しており、前記回転シャフト(110)は、第1の素材からなる内側円筒体(112)と、第2の素材からなる中間スリーブ(114)と、第3の素材からなる外側スリーブ(116)と、を有し、
前記第1および第3の素材のヤング率は50000N/mm2よりも高く、かつ、前記第2の素材のヤング率は10000N/mm2よりも低いことを特徴とする版胴。
【請求項2】
前記第1の素材は前記第3の素材と同一であることを特徴とする請求項1に記載の版胴。
【請求項3】
前記中間スリーブ(114)は前記回転シャフト(110)の全長にわたって延在していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の版胴。
【請求項4】
前記中間スリーブ(114)と前記回転シャフト(110)の外面との間の距離は、前記中間スリーブ(114)と前記回転シャフト(110)の回転軸線(R)との間の距離よりも短いことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の版胴。
【請求項5】
前記印刷版(130)はフレキソ印刷版であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の版胴。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の少なくとも一つの版胴を備える印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷業で使用されるローラーの分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキソ印刷機用の版胴に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、多数のさまざまな印刷用途のために使用される。この技術は、印刷されるべきイメージの鏡映に対応するトポグラフィーパターンを有する印刷版を使用し、そしてこの印刷版は版胴の上に設けられる。インクが印刷版に対して供給され、そしてインクは、版胴および圧胴によって形成されるプレスニップを経て供給されている連続ウェブに対して、続いて移着される。フレキソ印刷機は1000m/minまでの速度で稼働し得る。
【0003】
一般的な形態では、多数の印刷版が版胴上にセグメントとして設けられる。たとえば、版胴の全面積をカバーするために、10個のセグメントが食い違い様式で配置されることがある。これは、印刷版が圧力胴に周期的な衝撃力を引き起こすことを意味する。
【0004】
完全な印刷機は、多くの相互連結された可動部品の複雑な構造物である。最も機械的なシステムのように、振動がシステム内に生じ、その中で伝播する。印刷機の共振周波数付近のそうした振動が導入されるとき、振動の振幅は増大させられ、システムの可動部品の損耗だけでなく、印刷されたイメージに欠陥を引き起こすことがある。この作用は以下ではバウンシングと呼ぶが、これは、パターン化された印刷版によって生じる周期的な圧力だけでなく、胴の回転速度などのシステムの全ての周波数の総和に依存する。
【0005】
版胴のバウンシングは、二つの様式のいずれか一方で、すなわち、版胴がアニロックス胴すなわち版胴に対してインクを供給する胴との接触を失うという事実によって、あるいは、版胴は印刷されるウェブとの接触を失うという事実によって、印刷イメージに欠陥を引き起こし得る。
【0006】
印刷プロセスは、圧胴への印刷版のトポグラフィー突起の周期的衝撃に依存するので、システムの加速あるいは減速の間の特定の時点で、バウンシングが生じる大きな可能性が存在する。これは、印刷版のトポグラフィー突起からの衝撃力の周波数がライン速度によって増大する、という事実に起因する。したがって、衝撃力の周波数がマンドレル応答周波数に等しいとき、バウンシングが生じる。
【0007】
印刷版は版胴に対して使い捨て接着テープを用いて取り付けられるが、これは、三つの機能(すなわち、印刷版を確実に取り付けること、印刷版の内在的厚み変動を保証すること、そして圧胴への衝撃を減衰すること)を有する。
【0008】
注文印刷された素材の典型的な量は、25,000ないし30,000mである。600m/minの運転速度は1時間毎の印刷版の交換を必要とする。したがって、大量の接着テープが、周期的衝撃を減衰させるために使用されることになり、しかも、衝撃の減衰を改善する努力は、高いコストを伴うテープ厚みの増大に、そして印刷版の交換時の甚大な作業量につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は上記問題を解決するか軽減することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、バウンシングを低減するか、あるいはそれどころか、それを排除することによって、フレキソ印刷機の印刷品質を向上させるための版胴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、版胴が提供される。この版胴は回転シャフトを備え、この回転シャフトは、少なくとも一つの印刷版を当該シャフトに対して取り付けるための手段を有しており、この回転シャフトは、第1の素材からなる内側円筒体と、第2の素材からなる中間スリーブと、第3の素材からなる外側スリーブとを有し、第2の素材のヤング率は、第1および第3の素材のヤング率よりも実質的に低い。
【0012】
第1の素材は第3の素材と同一であってもよく、これは、版胴を、少ない数の原料を伴う複雑ではないプロセスによって製造できるので、有利である。
【0013】
第1および第3のヤング率は50000N/mm
2よりも高くてもよく、かつ、第2の素材のヤング率は10000N/mm
2よりも低くてもよい。したがって、版胴は十分な外側剛性を有し、その一方で、依然として、バウンシングの低減、あるいは、それどころか、その排除を可能とする。
【0014】
中間スリーブは回転シャフトの全長にわたって延在していてもよく、これは、版胴の長さに沿って全ての印刷版に関して低減されたバウンシングの効果が実現されるので、有利である。
【0015】
中間スリーブと回転シャフトの外面との間の距離は、中間スリーブと回転シャフトの回転軸線との間の距離よりも短くてもよい。したがって、中間スリーブの厚みは、低減されたバウンシングを依然として実現しながら、より薄くすることができる。
【0016】
印刷版はフレキソ印刷版であってもよい。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に基づく、少なくとも一つの版胴を備える印刷機が提供される。
【0018】
本発明の上記ならびに付加的な目的、特徴および利点は、図面を参照した、本発明の好ましい実施形態に関する以下の例証的でかつ非限定的な詳細な説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】印刷機における版胴配置を示す概略図である。
【
図2】印刷速度の関数としてバウンシングを示すグラフである。
【
図4B】
図4aの印刷版の配列物を含む版胴の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照すると、フレキソ印刷機のインク供給ステーションが大まかに示されている。ペーパー素材のウェブ2、たとえばカートンウェブが、インプレッションローラー6と向き合って回転する版胴4によって形成されるプレスニップを経て供給される。インクは、アニロックス胴8を介してインク供給ユニット12から版胴4に対して供給されるが、アニロックス胴8は版胴4と向き合って回転する。(印刷されるべきイメージに対応するトポグラフィーパターンを有する)印刷版10が、インクが専ら印刷版10の突起部分に付着するように版胴4の外面上に配置される。印刷版10がウェブ2と接触するとき、インクは、イメージが形成されるように、ウェブ2に対して移着される。
【0021】
フレキソ印刷機は、通常、複数のインク供給ステーションを有し、各インク供給部は所与の色の責を負う。たとえば、フレキソ印刷機は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのための四つのインク供給ステーションを有していてもよい。既に存在している色を混ぜることでは正確に生み出せない特殊な色のインクを提供するために、さらなるステーションを設けることも可能である。
【0022】
印刷機が稼働しているとき、振動が引き起こされ、印刷機を経て伝播する。ローラーの回転速度ならびに印刷版のトポグラフィーパターンは全て、版胴の回転速度の関数として
図2に大まかに示す全体的周波数分布の一因である。
【0023】
運転開始時に速度が増大するとき、印刷機内には振動が引き起こされる。特定の印刷速度において共振が生じ、振動の振幅がバウンシングを生み出すように増大させられる。速度がさらに増大するとき、共振は起きなくなり、そしてバウンシングは消滅する。だが、共振中にプレスニップを経て供給されるウェブは、低い印刷品質を呈し、液状フードパッケージ用のパッケージングラミネートなどの最終製品を形成するためには使用できない。
【0024】
バウンシングの影響を低減するかあるいはそれを排除するよう構成された版胴100が
図3に示されている。版胴100は、
図1に示す版胴4と置き換え可能である。
【0025】
版胴100は、回転軸線Rを有する回転シャフト110を備えるが、それを中心として、運転中、回転シャフトが回転する。回転シャフト110は、第1の素材からなる内側円筒体112と、この内側円筒体112を包囲しかつ取り囲む中間スリーブ114を有する。中間スリーブ114は第2の素材からなる。第3の素材からなる外側スリーブ116が、外側スリーブ116が中間スリーブ114を取り囲みかつ包囲するように中間スリーブ114の外側に配置される。
【0026】
さらなるスリーブ120が回転シャフト110の上に配置され、かつ、印刷版130は接着テープ140によってスリーブ120に対して取り付けられる。スリーブ120は、回転シャフト110の外面に対して緊密に嵌め込まれる。スリーブ120の簡単な取り付けおよび取り外しを実現するために、外側スリーブ116の外面は、加圧空気を供給するための複数の孔を備える。したがって、スリーブ120が少ない摩擦を伴って回転シャフト110上でスライドできるように、スリーブ120が取り付けられるか取り外されるときに、加圧空気が供給される。代替実施形態では、スリーブ120および/または印刷版130は適当な接着剤を備えてもよい。
【0027】
内側円筒体112の素材は、外側スリーブ116の素材と同一であってもよい。ある実施形態では、内側スリーブ112および外側スリーブ116の素材は、約210000N/mm
2のヤング率を有するスチールであってもよい。別な実施形態では、内側スリーブ112および外側スリーブ116の素材は、約150000N/mm
2のヤング率を有するカーボンファイバーであってもよい。
【0028】
第2の素材、すなわち中間スリーブ114の素材は、1000N/mm
2のヤング率を有する弾性素材であってもよい。そうした素材は、たとえば、ラバーあるいはそれ自体公知のポリマー材素材であってもよい。好ましい実施形態では、中間スリーブ114の素材は複合構造物であり、これは、35ないし100kg/m
3の公称密度と、室温で、0.4ないし100MPaの圧縮強度、40ないし150MPaの圧縮弾性率、1ないし3.5MPaの引っ張り強度、50ないし130MPaの引っ張り弾性率、0.4ないし1.6MPaの剪断強度、10ないし35の剪断弾性率、そして10ないし40%の剪断ひずみを有する。
【0029】
中間スリーブ114は、好ましくは、中間スリーブ114と回転シャフトの外面との間の距離が、実質的に、中間スリーブ114と回転シャフト110の中心との間の距離よりも小さなものであるよう、回転シャフト110の外面に近接して配置される。外面116は剛体面を提供し、その上に、さらなるスリーブ120および印刷版130を取り付けることができる。中間スリーブ114は、それが回転シャフト110の外面に近接して配置されるので、より薄くすることができる。これは、弾性寄与率が外側スリーブ116の剛性によって低減されるという事実に起因する。
【0030】
印刷版130および接着テープ140は使い捨て消耗品であり、これは一度だけ使用される。回転シャフト110は印刷機の永久部品であってもよい。
【0031】
印刷版の配置は
図4aおよび
図4bに示されており、ここでは、10個の印刷版130が食い違いパターンで配置されている。二つの隣接する印刷版130の長さは、版胴の直径に対応し、隣接する印刷版の幅は版胴100の長さに対応する。食い違い配置はバウンシングへの寄与に影響を与える。
【0032】
版胴100がフレキソ印刷機内に配置される場合、弾性素材の中間スリーブ114は、圧胴に対する印刷版の周期的パターンの衝突の振幅を低減する。したがって、バウンシングが回避されるように、共振を著しく低減することができる。
【0033】
ここまで、いくつかの実施形態を参照して、主として、本発明について説明してきた。だが、当業者にとっては自明であるように、上述したもの以外の実施形態も、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で同様に可能である。
【符号の説明】
【0034】
2 ウェブ
4 版胴
6 インプレッションローラー
8 アニロックス胴
10 印刷版
12 インク供給ユニット
100 版胴
110 回転シャフト
112 内側円筒体
114 中間スリーブ
116 外側スリーブ
120 スリーブ
130 印刷版
140 接着テープ