(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795839
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】汚染に耐性を有する自動車排気ガス処理触媒、および自動車の排気ガスを処理する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20150928BHJP
B01D 53/34 20060101ALI20150928BHJP
B01J 23/58 20060101ALI20150928BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20150928BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20150928BHJP
F01N 3/021 20060101ALI20150928BHJP
F01N 3/02 20060101ALI20150928BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
B01J37/02 301L
B01D53/34
B01J23/58 A
B01J35/04 301L
B01J35/10 301F
F01N3/02 301B
F01N3/02 301E
F01N3/28 301P
F01N3/28 LZAB
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2009-524773(P2009-524773)
(86)(22)【出願日】2007年8月14日
(65)【公表番号】特表2010-500922(P2010-500922A)
(43)【公表日】2010年1月14日
(86)【国際出願番号】US2007075942
(87)【国際公開番号】WO2008022160
(87)【国際公開日】20080221
【審査請求日】2010年8月11日
【審判番号】不服2014-11226(P2014-11226/J1)
【審判請求日】2014年6月13日
(31)【優先権主張番号】11/504,247
(32)【優先日】2006年8月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シャオ−リン,フランクリン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァサーマン,クヌート
(72)【発明者】
【氏名】榊原 仁
【合議体】
【審判長】
大橋 賢一
【審判官】
中澤 登
【審判官】
河原 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−535277(JP,A)
【文献】
特開昭63−252550(JP,A)
【文献】
特開昭61−274746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00-38/74
F01N 3/00- 3/02, 3/04- 3/38, 9/00
B01D53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種またはそれ以上の貴金属成分を含有する少なくとも2つのウォッシュコート層で被覆された基材と、
(b)多孔質耐火性酸化物と、1種またはそれ以上の卑金属酸化物とを含む上塗層と、を有する自動車排気ガス処理触媒であって、
前記(a)の基材の少なくとも1つのウォッシュコート層は、任意に酸素貯蔵成分を含み、
前記卑金属酸化物が、酸化ランタンである場合、前記酸化ランタンは0.2g/in3(0.0122g/cm3)以下の量で存在し、及び
前記上塗層が貴金属成分を含有せず、及び任意に酸素貯蔵成分を含み、そして
i)前記1種またはそれ以上の貴金属成分を含有する少なくとも2つのウォッシュコート層が相互に接しており、且つ前記上塗層で被覆されており、前記上塗層は、前記触媒の上流端から始まって前記触媒の上流部分上に被覆され、これにより有害物質捕獲領域が形成され、前記有害物質捕獲領域は、前記上流端から前記触媒の長さの10〜60%の範囲の長さを含むか、或いは
ii)前記上塗層が、1種またはそれ以上の貴金属成分を含有する、少なくとも2つの、一対となったウォッシュコート層の間に設けられ、その一対のウォッシュコート層が下部ウォッシュコート層及び上部ウォッシュコート層を含み、前記上塗層は下部ウォッシュコート層の上に被覆されており、前記上部ウォッシュコート層は、前記基材の下流部分の上に被覆され、これにより前記上部ウォッシュコート層により被覆されていない上流の有害物質捕獲領域が形成される、
ことを特徴とする自動車排気ガス処理触媒。
【請求項2】
前記上塗層は、前記触媒の上流端から始まって前記触媒の上流部分上に被覆され、これにより有害物質捕獲領域が形成され、前記有害物質捕獲領域は、前記上流端から前記触媒の長さの1〜5インチの範囲の長さを含む、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項3】
前記基材はハニカムモノリスである、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項4】
前記多孔質耐火性酸化物はアルミナである、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項5】
前記ウォッシュコート層の少なくとも1つは、さらに酸素貯蔵成分を有する、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項6】
前記上塗層の厚さは、10ミクロン〜120ミクロンである、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項7】
前記多孔質耐火性酸化物は、粒子内および/または粒子間に孔を有し、前記孔の半径は、10〜500オングストロームの範囲である、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項8】
前記上塗層は、さらに酸素貯蔵成分を有する請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項9】
前記上塗層は、さらに、イットリウム、ニオブ、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ジスプロジウムおよびイッテルビウムを含有する化合物からなる群から選択されるさらなる成分を有する、請求項8に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項10】
排気ガス流を自動車排気ガス処理触媒に接触させる工程を有する自動車排気ガス処理方法であって、
前記触媒は、オイルおよび/または燃料由来の添加剤の汚染に対する耐性が強化され、
前記触媒は、前記排気ガスと最初に接触する上流端と、下流端とを備えた基材を有し、且つ前記触媒は、
(a)前記基材上に被覆された、1種またはそれ以上の貴金属成分を含有する少なくとも2つのウォッシュコート層と、
(b)多孔質耐火性酸化物と、1種またはそれ以上の卑金属酸化物とを含む上塗層を有し、
前記(a)の基材の少なくとも1つのウォッシュコート層は、任意に酸素貯蔵成分を含み、
前記卑金属酸化物が、酸化ランタンである場合、前記酸化ランタンは0.2g/in3(0.0122g/cm3)以下の量で存在し、及び
前記上塗層が貴金属成分を含有せず、及び任意に酸素貯蔵成分を含み、そして
i)前記1種またはそれ以上の貴金属成分を含有する少なくとも2つのウォッシュコート層が相互に接しており、且つ前記上塗層で被覆されており、前記上塗層は、前記触媒の上流端から始まって前記触媒の上流部分上に被覆され、これにより有害物質捕獲領域が形成され、前記有害物質捕獲領域は、前記上流端から前記触媒の長さの10〜60%の範囲の長さを含むか、或いは
ii)前記上塗層が、1種またはそれ以上の貴金属成分を含有する、少なくとも2つの、一対となったウォッシュコート層の間に設けられ、その一対のウォッシュコート層が下部ウォッシュコート層及び上部ウォッシュコート層を含み、前記上塗層は下部ウォッシュコート層の上に被覆されており、前記上部ウォッシュコート層は、前記基材の下流部分の上に被覆され、これにより前記上部ウォッシュコート層により被覆されていない上流の有害物質捕獲領域が形成され、
さらに
(c)前記排気ガスが前記触媒を上流端から下流端に通過することを特徴とする自動車排気ガス処理方法。
【請求項11】
前記基材は、ハニカムモノリスである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ウォッシュコート層の少なくとも1つの層は、さらに、セリア、セリウムおよびジルコニウムの混合酸化物、ならびに、セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ネオジムおよび/またはランタンまたはイットリウムなどの安定剤の混合酸化物からなる群から選択された酸素貯蔵成分を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔質耐火性酸化物はアルミナである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記上塗層が更に、酸素貯蔵成分を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記卑金属酸化物は、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、遷移金属酸化物および希土類金属酸化物からなる群から選択される、請求項1に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項16】
前記アルカリ土類金属酸化物は、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化マグネシウム、及び酸化カルシウムから成る群から選ばれることを特徴とする請求項15に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【請求項17】
前記アルカリ土類金属酸化物が、酸化バリウム及び酸化ストロンチウムから成る群から選ばれることを特徴とする請求項16に記載の自動車排気ガス処理触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般として、自動車排気ガス処理システムにおいて、オイル由来および/またはガソリン添加剤化合物の悪影響を最小限にするためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排出制御は、成熟した産業である。自動車メーカーおよび下請け業者は、1965年のアメリカ合衆国排ガス規正法およびこれに続く他国の法律により、自動車の排気ガス排出の制御および低減をするために挑戦を続けてきた。さらに、カリフォルニア州、ニューヨーク州およびマサチューセッツ州で販売される車は、カリフォルニア大気資源委員会(CARB)により制定され、他の2州で採用されているより厳しい排出基準にも合わせねばならない。CARBは、新しい自動車に対する将来的な基準も設定している。これは、例えば、極超低公害車(SULEV)およびゼロ排気ガスとして部分換算される自動車(PZEV)である。
【0003】
触媒コンバーターを利用することにより、排気ガス限度の定期的な低下に対する準拠が可能となったので、制御された排出生成分の基本的なエンジン排出は、この30年で著しく減少している。触媒コンバーターは、通常、1種またはそれ以上の触媒成分を含有し、これが炭化水素(HC),一酸化炭素(CO)および/または窒素酸化物(NO
X)を低減する。ディーゼルエンジンから粒状物質を低減するよう設計された触媒システムもある。
【0004】
個々の触媒は、粒子フィルターとして作用する、セラミックまたは金属製の、球または金属スクリーン上に被覆されうる。しかし、ほとんどの場合、活性触媒成分は、「モノリス」と呼ばれるセラミック製または金属製のハニカム部材上に被覆される。この部類には、ディーゼル粒子フィルター(DPF)として適用されるモノリスも含まれる。活性触媒成分は、モノリス上に直接置かれてもよいが、大概「ウォッシュコート」の成分として与えられる。このウォッシュコートは、活性触媒成分を含浸した、金属酸化物などの粒子担体の水溶性のスラリーである。塗布されたウォッシュコートは、金属酸化物により担持された触媒が焼成された後に、モノリス上に焼成され、または沈殿させることができる。触媒コンバーターは1つまたは複数用いられうる。特定の応用に応じて、4つまたは5つまでのモノリスを、排出流中に連続して並べることができる。
【0005】
排出に対する要求は、ますます厳しくなり、新しい触媒と、触媒充填量の増加との双方の開発が必要となっている。絶対的な排出基準に加えて、排出制御システムの寿命、すなわち「耐久性」に対する要求も増大している。このように、長い期間に渡っての作動要求を維持することは、触媒開発における課題ともなり、さらなる触媒性能レベルの上昇が必要となっている。特に、触媒の充填レベル、とりわけ、貴金属充填レベルが、触媒コンバーターのコストを左右する。全ての要求を満たし、かつ貴金属充填が最小限ですむコンバーターが、触媒メーカーにとって最重要の課題の1つである。
【0006】
炭化水素燃料の燃焼時には、さまざまな温度および燃料/空気の化学量論的環境に応じて、多数の反応が起こりえ、このような反応の生成物が、触媒の耐久性を制限しうる。例えば、過去に、燃料中にオクタン価向上剤用のテトラエチル鉛として含まれていた鉛は、触媒にとって重大な有害物質であることが非常に早期の段階でわかった。したがって、現在の燃料からは、鉛のオクタン価向上剤は除かれている。
【0007】
無鉛燃料に加えられたその他のオクタン価向上剤、例えばメチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル(MMT)などによっても、排気ガスにマンガンが含まれることがあり、これが過剰な量になれば、触媒層を被覆し、汚し、あるいはこれ以外の形で汚染しうる。したがって、多くの微量元素が、現在も自動車排気ガス触媒と接触し、その中で回避不可能なものもある、その中には触媒の耐久性を減少させると知られているものもある。これらの毒性微量元素の全てが、燃料由来のものではない。
【0008】
例えば、亜鉛ジアルキルジチオフォスフェート(ZDDP)は、長らく酸化防止剤および/または高圧潤滑添加剤として、エンジンオイル中に用いられてきた。とりわけ、現代の高速エンジンにおいては、ピストン/壁の隙間および密閉性の低下により、オイルが燃焼室に入ることが多くなり、オイル添加剤または燃焼によるこれらの副生成物が、排出気体流中に順次流れ込む。このような触媒汚染のメカニズムが、低排出触媒システムの耐久性に対する主要な障害の1つとなっている。微量の亜鉛、リン、カルシウムおよびこれ以外の元素が、エンジンオイル中に耐磨耗添加剤として含まれている。このような添加剤の目的は、エンジンの金属部品がエンジンオイルにより被覆されていない時に、始動時にエンジン部品を過度の磨耗から保護することである。しかし、エンジンがオイルを燃やすので、亜鉛およびリンが、触媒コンバーターを通って排出され、これが、排出触媒の活性の劣化を加速させうる。耐磨耗添加剤をオイルから除くことも可能であるが、これによりエンジンの長期の耐久性に悪影響がある。
【0009】
リンや亜鉛などのエンジン耐磨耗添加剤の使用は、多くの文献に記載されている。これらの添加剤は、ZDDP(これはジチオリン酸亜鉛(ZDTP)とも呼ばれる)や、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZDTC)を含有している。オイルに添加されるこれ以外の公開された亜鉛およびリン添加剤は、極圧添加剤として含まれている金属洗浄剤を含有する。特許文献1および特許文献2を参照されたい。リンおよび亜鉛は、自動車排気ガス処理触媒の機能を低下させる有害物質として開示されている。
【0010】
ZDDPなどの自動車オイルの添加剤は、エンジン部品上に耐摩耗性の被覆を形成し、オイル中の酸化防止剤として作用する。エンジンから、燃焼室を通って、排気システムへ向かうエンジンオイルの量を最低限にするようにエンジン設計はされているが、少量のエンジンオイルが、このメカニズムにより放出されることは否めない。触媒内の活性部位に妨害をすることにより、エンジンオイルのZDDP添加剤が、触媒コンバーターに悪影響を与える。このリン含有物質は、触媒表面に沈殿する可能性があり、これにより触媒表面を汚し、または酸化アルミニウムおよび酸化セリウムなどのウォッシュコート成分と反応し、安定した相互作用化合物を形成し、そこに永久に留まる。この現象は、一般に「リン汚染」と呼ばれる。リン汚染により、ウォッシュコート表面面積が失われ、貴金属分散により触媒が汚れる。ZDDP添加剤のリン種は、酸素貯蔵成分とも反応し、酸素貯蔵能力も低下させる。
【0011】
リン汚染のメカニズムは、非常に複雑で、作動温度、エンジンのオイル消費およびオイル消費源にきわめて依存する。例えば、特許文献3に記載されているように、オイル漏れがピストンリングを越えて燃焼室に入ると、オイルは燃焼プロセスを通過する。これにより、リンおよび/または亜鉛化合物のある種のものが(他の汚染物質と共に)発生する。特定の化合物は、作動条件に応じて、触媒コンバーターに対して、特定の非活性化効果を及ぼす。他方、排気弁ガイドおよびステムを通過したオイル漏れは、燃焼プロセスを通過しないかもしれないが、異なる種類の触媒コンバーター汚染を引き起こす。すなわち、触媒層を覆うグレーズ層を形成する。
【0012】
エンジンオイル中のZDDPを0にするまたは減少させる方策に関して、研究が行われている。ZDDPの代替物で、ZDDPに類似した酸化防止特性および耐磨耗特性を提供する物質が製造されている。しかし、ZDDPの代替物は、桁違いにコスト高である。エンジンオイルは、ZDDPの量をより少なくして調合することができるが、エンジン磨耗およびオイル酸化が増加し、前者によりエンジン寿命が制限され、後者によりエンジンオイルの寿命が短くなってしまう。
【0013】
内燃機関の排気ガスなどの気体流を処理するために、触媒組成物を利用することは、当技術分野で周知である。さらに、酸化硫黄(SO
X)および酸化リン(PO
X)が汚染をする、すなわち、このような処理に用いられる多くの触媒を非活性化することも周知である。SO
Xは、ガソリンおよびディーゼル燃料中に頻繁に見られる硫黄化合物の不純物が酸化された結果生じるので、特に問題である。PO
Xは、エンジン潤滑オイル中のリン化合物からしばしば発生する。当技術分野では(例えば、特許文献4を参照)、保護部(例えば、アルミナ)またはフィルターを触媒の前に置いて、SO
Xおよび/またはPO
Xから触媒を保護する試みが公知である。しかしながら、自動車の下の空間は、これ以外の装置または保護部またはフィルターを置こうとしても制限され、有害物質の一部のみは捕捉しても、他の物質を通過させ、触媒層上に沈殿させてしまうという問題が発生する。
【0014】
特許文献5および特許文献6には、アルミナを含有するリントラップを、オイル再循環システム中に挿入し、再循環されるオイルから疑わしい成分を除去し、これにより排気触媒を保護することが提案されている。しかし、このようなシステムは、保護の程度が非効率的であり、早急にオイルを汚し、オイルから望ましい酸化防止剤を除去してしまうことがありうる。
【0015】
吸着剤と触媒とを組み合わせて、触媒汚染を低減させることは、当技術分野で公知である。例えば、非特許文献1に、このことが示されている。この論文には、希薄NO
X気体中でNO
Xを軽減することが書かれ、貴金属(主に、白金)、様々なアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物(主に、酸化バリウム)、および希土類金属酸化物を有する材料をアルミナなどの担体上に載せることが書かれている。この論文の47頁には、NO
X貯蔵化合物と触媒成分とを、共通の担体材料上に分散させるという概念が開示されている。
【0016】
特許文献7及び非特許文献2では、耐火性担体を有し、この上にパラジウムおよびロジウム触媒金属成分を含有する活性層を沈殿させ、これがアルミナ、セリウム化合物、ストロンチウム化合物およびジルコニウム化合物上に分散されているという触媒組成が開示されている。
【0017】
特許文献8、特許文献9および特許文献10では、多量の酸化セリウム(セリア)のバルクを用いて、ロジウム以外の白金族金属用の耐火性酸化物担体を提供することが開示されている。セリア粒子に小さい白金の結晶を多く分散させて、アルミニウム化合物溶液に含浸させて安定化し、続いて焼成を行う。
【0018】
特許文献11は、無機基材とこの基材表面上に堆積している耐熱性の貴金属の触媒とからなる第1の多孔質の担持体層、および、前記多孔質の担持体層の表面上に支持された、耐熱性の貴金属触媒を有する第2の非多孔質の担持体層を有する触媒を開示している。
【0019】
特許文献12は、ハニカム担持体と、排気ガスを浄化する触媒作用を行う貴金属とを有する排気ガス浄化用触媒を開示している。この担持体は、異なる種類のアルミナ粉末を含有する2つのスラリーにより被覆される。続いて、このアルミナ被覆されたハニカムは、貴金属溶液中に浸される。
【0020】
特許文献13は、自動車用の層状の触媒を開示し、ここで、下層は、希土類酸化物を含有するアルミナ担体上に、分散された白金、または、白金およびロジウムを有し、上塗層は、アルミナ、ジルコニアおよび希土類酸化物を有する担体上に、分散されたパラジウムおよびロジウムを有する。
【0021】
特許文献14は、自動車用の層状の触媒を開示し、この触媒は第1層および第2層を有し、第1層は、アルミナ、ランタナおよび他の希土類酸化物を含有する担体上に、分散されたパラジウムを有し、第2層は、アルミナ、ジルコニア、ランタナおよび希土類酸化物を有する担体上に分散されたロジウムを有する。
【0022】
特許文献15は、排気ガスを浄化するためのモノリス三元触媒を製造する方法を開示している。酸化セリウムを含有する活性アルミナ粉末がセリア粉末と共に分散された被覆スリップで、担持体を処理し、その後処理された担持体を焼くことにより、混合酸化物の被覆が、モノリス担持体上に塗布される。次に、白金、ロジウムおよび/またはパラジウムが、熱分解により被覆された酸化物上に堆積する。選択的に、ジルコニア粉末を、被覆スリップ上に加えてもよい。
【0023】
特許文献16は、排気ガス処理用の触媒組成物を開示しているが、この組成物は、第1担体を有し、この第1担体上には、少なくとも1つの酸素貯蔵成分と少なくとも1つの貴金属成分とが分散され、このすぐ上に酸化ランタンを有する上部層が分散されている。この組成物は、選択的に第2担体を有することもできる。触媒層は、酸化ランタンから分離されている。貴金属は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムを含みうる。酸素貯蔵成分は、鉄、ニッケル、コバルトおよび希土類からなる群の金属の酸化物を含みうる。この希土類の一例は、セリウム、ランタン、ネオジム、プラセオジムなどである。
【0024】
エンジン技術および排気ガス処理技術により、エンジンを通過し排気ガス処理触媒に入るリン化合物および亜鉛化合物を含む潤滑油のレベルは低減し、様々な政府の規制に従って、排気ガスを処理する触媒は十分な活性を有する。しかし、エンジンの性能は、増強し続け、環境規制はより厳しくなり続けているので、排気ガス触媒の活性は、より増強されねばならず、例えば150,000マイル
(1マイル=10609.344m)というエンジンのより長い寿命に合うように保守されねばならない。マイルが伸びるにつれ(例えば、100、000マイルを超えると)、エンジンが消費するオイルの量が増えるということも、一般的である。これにより、エンジンから排出処理触媒に進む化合物、特にリン化合物および/または亜鉛化合物などが多いに増加してしまう。低排出自動車は、エンジンオイルまたは燃料添加物の有害物質に許容を有する排気ガス後処理システムにより有利になる。
【0025】
エンジン性能が上がり、エンジンの寿命が延びているので、毒性耐性触媒がその機能を維持することが望まれている。低下した触媒活性を補償するために、触媒中の貴金属触媒の充填を増やさずに、排出触媒の耐久性を低下させる触媒に対する有害物質を効果的に除去し、あるいはこれに十分耐性がある手段を提供することが望ましい。
【0026】
【特許文献1】米国特許4,674,447号
【特許文献2】米国特許5,696,065号
【特許文献3】米国特許6,727,097号
【特許文献4】米国特許出願2003/0188526号
【特許文献5】日本特許出願55 151109号
【特許文献6】日本特許出願56 044411号
【特許文献7】米国特許5,202,300号
【特許文献8】米国特許4,714,694号
【特許文献9】米国特許4,727,052号
【特許文献10】米国特許4,708,946号
【特許文献11】日本公開特許52530/1984号
【特許文献12】日本公開特許31828/1985号
【特許文献13】日本特許J−63−205141−A号
【特許文献14】日本特許J−63−077544−A号
【特許文献15】米国特許4,587,231号
【特許文献16】米国特許4,923,842号
【非特許文献1】Environmental Catalysis For A Better World and Lifeの第1回世界大会(1995年5月1日〜5日、イタリア、ピサ開催)論文集(イタリア、ローマのSociete Chemica Italiana発行)45〜48頁、Takahashi他による論文、”The New Concept 3−Way Catalyst For Automotive Lean−Burn Engine Storage and Reduction Catalyst“
【非特許文献2】“Catalyst For Purification of Exhaust Gas”、M.Funabiki他、1993年4月13日発行
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0027】
内燃機関用の排気ガス処理システムであって、触媒部材に対する有害汚染を軽減するシステムが開示されている。本発明のこの触媒部材は、1種またはそれ以上の触媒を含有する少なくとも1つのウォッシュコート層で被覆された基材を有する。この触媒は、汚染物質、特に窒素酸化物(NO
X)、炭化水素(HC),一酸化炭素(CO)を軽減する。この触媒部材は、さらに、上塗層を有するが、これは、リン、亜鉛、カルシウムおよびマンガン誘導体(例えば、MMT)などの、触媒に対して入ってくる有害物質を捕獲し、捕捉し、これと反応し、および/またはこれらを保持し、これにより触媒ウォッシュコート層の汚れまたは汚染を回避するおよび/または低減させる。従来の触媒汚染による妨害をなくして、全般的な触媒活性およびしたがって貴金属成分の長期間にわたる耐久性が増強される。逆にいうと、老化した触媒活性および耐久性を上げるにより、触媒システム内で高価な貴金属の必要量を低減することができる。
【0028】
1つの実施形態では、非常に多孔質な耐火性酸化物、および、選択的に1種またはそれ以上の卑金属酸化物を含有する薄い層が、触媒被覆された基材上に被覆され、ガソリンまたはエンジンオイル添加剤に由来する、P、Zn、Ca,Mn、硫黄などの入ってくる有害物質を捕捉することにより、熱移動後の汚れおよび/または好ましくない相互作用から、触媒層を保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
自動車排気ガス触媒組成物は、概して、適切な耐熱性および化学耐性のある基材上に被覆されている。スラリーあるいは液体状で基材上に塗布されるこの触媒被覆組成物は、ウォッシュコートと呼ばれる。このような自動車の触媒は、潤滑油添加剤または燃料添加剤に由来するリン、亜鉛、カルシウム、マンガン、硫黄およびこれ以外の化合物による汚染の影響を受けやすい。この有害物質は、ウォッシュコート表面上に蓄積し、物理的な拡散障壁になり、あるいは、ウォッシュコート内の触媒材料と相互作用して、触媒活性をなくしてしまう可能性がある。毒性レベルおよび毒性の種類は、エンジンの設計および触媒の作用条件および位置に応じて様々でありうる。
【0030】
本発明は、触媒部材または触媒コンバーターを有する排気ガス処理システムを提供する。この触媒部材または触媒コンバーターは基材を有し、この基材上に、汚染物質、特にNO
X、HCおよびCOを軽減するために、それぞれ1種またはそれ以上の触媒を含有する、1つまたは複数のウォッシュコート層が被覆されている。ここで「ウォッシュコート」という用語は、基材となる担持体材料上に塗付する形で、触媒材料または他の材料を、薄く接着被覆する技術における、通常の意味を有する。この基材担持体材料は、処理される気体流を通過させるのに十分な孔を有するハニカムタイプの担持体部材である。触媒部材は、さらに、リン、亜鉛、カルシウムおよびマンガン誘導体(例えば、MMT)などの入ってくる触媒に対する有害物質を捕獲、捕捉し、これと反応しおよび/またはこれを保持する、薄い、軸上に置かれる上塗層で被覆されている。本発明の触媒ウォッシュコートおよび保護膜は、モノリス基材などの適切な担持体または基材上で担持されるが、これは、すなわち、耐火性セラミックまたは金属ハニカム構造、または、球などの耐火性粒子または適切な耐火性材料の短い押し出し成型部分である。
【0031】
本発明の上塗層は、その下にある触媒に対する有害汚染を軽減するために、触媒で被覆された基材上に被覆されうる。好ましくは、本発明の上塗層は、1種またはそれ以上の触媒と選択的に酸素貯蔵成分とを含有する1つまたは複数のウォッシュコート層上に被覆される。しかしながら、上塗層を、1つまたは複数の触媒含有ウォッシュコート層の間に設けても良い。
【0032】
より具体的には、本発明の上塗層は、非常に多孔質な耐火性酸化物、および1種またはそれ以上の卑金属酸化物を含有する薄い層を有する。この上塗層は、いずれの貴金属をも含まないことが好ましい。しかし、この上塗層は、1種またはそれ以上の貴金属を低量含有しても良い。ここで用いられる、1種またはそれ以上の貴金属を「低量」含有するとは、上塗層が含有しうる貴金属の全充填が、20g/ft
3未満
(7.06×10−4g/cm3未満)、5g/ft
3未満
(1.77×10−4g/cm3未満)、3g/ft
3(1.26×10−4g/cm3未満)未満または1g/ft
3(3.53×10−5g/cm3未満)未満であることを意味する。上塗層の非常に多孔質な耐火性酸化物は、触媒に対する有害物質を捕捉するために、多孔質のマトリックスを提供する。この多孔質のマトリックスは、排気ガスを下にある触媒に透過させつつ、卑金属酸化物の基材ともなる。一般に、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアまたはシリカ−アルミナなどのいずれの非常に多孔質な耐火性酸化物を用いることができ、これは、約10〜約500オングストロームの大きさの粒子内および/または粒子間の孔半径を有し、粒子間距離は、100〜500オングストロームである。孔半径は、約20〜約300オングストローム、または、約30〜約250オングストロームの例もある。上塗層は、アルミナまたは安定化したアルミナを含有することが好ましい。上塗層の卑金属酸化物は、強い安定した錯体を形成することにより、リン、亜鉛、カルシウムおよびマンガン誘導体(例えば、MMT)などの、入ってくる触媒に対する有害物質を捕獲し、捕捉し、これと反応し、および/またはこれらを保持し、これにより、高温条件におけるこれらの有害物質の熱移動を低下させ、その結果これらの有害物質と下にある触媒成分との接触を最低限にする。一般に、この卑金属酸化物は、いずれの卑金属酸化物の元素または合成物でであっても良い。好適なアルカリ土類金属酸化物(例えば、BaOおよびSrO)などの卑金属酸化物を選ぶと、酸の有害物質(P、Sなど)と最もよく反応し、安定した化合物(例えば、BaまたはSrのリン酸塩および/または硫酸塩)を作り、これにより、高温稼動時に、これらの有害物質が、下にある触媒層に移るのを遅延させる。有害物質と卑金属酸化物との間で形成される化合物の相対的な安定性は、この化合物用に形成されるデルタG形成を計算することにより予測されうる。
図5は、様々な温度において、様々な有害物質と卑金属酸化物化合物との間で形成されるフォーメーションのデルタG(ギブズの自由エネルギー)を示す。例えば、Baは、300℃〜1000℃の間で、リンと共に非常に安定した化合物(Ba
3(PO
4)
2)を形成する(例えば、
図5参照)。デルタGが負であることは反応が自発的であることを意味し、負のデルタGの値が大きいということは、反応生成物が熱力学的に安定し、好ましいことを意味する。有用な卑金属酸化物は、限定されるわけではないが、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属、第1族、第2族、第3族および第4族系列の遷移金属、Mn、Znなどのアルカリ金属、およびCe、Pr、Ndなどの希土類金属の酸化物があり、例としてSr、Baなどアルカリ土類金属酸化物が好ましい。
【0033】
上塗層は、下にある触媒層へ排気ガスを浸透させるために有意な拡散障壁ができるのを回避するのに十分なほど薄く、十分な孔を有すべきである。さらに、上塗層は、不都合な熱量を導入せず、触媒部材の前部ライトオフ部分の加熱速度を遅くするのに十分なほど薄く、十分な孔を有すべきである。本発明の上塗層の厚さは、通常少なくとも10ミクロンで120ミクロン以下である。また、約10ミクロン〜約60ミクロン、および、約20ミクロン〜約40ミクロンの上塗層深さの上塗層も例として挙げられる。厚さが少なくとも20ミクロン、少なくとも30ミクロン、少なくとも40ミクロン、少なくとも50ミクロン、少なくとも60ミクロンおよび80ミクロンまでの保護層も例として挙げられる。ウォッシュコートの充填が0.1〜4.0g/in
3(0.0061〜0.244g/cm3)である上塗層が好ましいが、0.2〜2.0g/in
3(0.0122〜0.122g/cm3)、0.2〜1.0g/in
3(0.0122〜0.0610g/cm3)、0.4〜0.6g/in
3(0.0244〜0.0366g/cm3)である上塗層も例として挙げられる。上塗層は、0.01〜0.4g/in
3(0.0061〜0.244g/cm3)の卑金属の充填を含有する。0.02〜0.2g/in
3(0.00122〜0.0122g/cm3)、0.05〜0.2g/in
3(0.00305〜0.0122g/cm3)である卑金属酸化物の充填も例として挙げられる。上塗層中に含有される卑金属酸化物の量は、全ウォッシュコート充填に対して、2〜40重量%または10〜25重量%であると表すことができる。
【0034】
全体として、本発明の触媒部材は、汚染物質を軽減するために基材上に塗付または被覆された、貴金属を含有する少なくとも1つのウォッシュコート層と、P、Zn、Ca、Mn、Sなどの有害種を軽減し、したがって触媒ウォッシュコート層の汚れまたは汚染を避けるための上塗層とを有する。
【0035】
本発明の触媒部材は、図面を参照すると、より理解されるであろう。図面は、単に例示的な意味合いを有し、本発明またはその応用またはその使用を制限することは意図しない。特に
図1に、本発明の1実施形態に基づく排気ガス処理システムの触媒部材2の構成を示す。触媒部材2は、通常はハニカムモノリス基材である基材4を有し、この基材は、1種またはそれ以上の貴金属触媒を含有する第1ないし下部ウォッシュコート層6と、これも貴金属(PM)触媒を1つまたは複数および選択的に酸素貯蔵成分(OSC)を含有する第2ないし中間ウォッシュコート層8とで被覆されている。本発明の実施で用いられる貴金属触媒と酸素貯蔵成分とに関しては、以下により詳細に説明する。
【0036】
触媒部材2は、さらに上塗層(OC)10を有し、これは、下にある触媒に対する有害汚染を軽減するために、中間ウォッシュコート層上に塗付または被覆されている。この上塗層10は、非常に多孔質な耐火性酸化物(例えばアルミナ)と、卑金属酸化物(例えば、SrOまたはBaO)を有する薄い層であり、P、Zn、Ca、Mn、硫黄などの入ってくる有害物質による汚れから触媒層を保護するために、触媒が被覆された基材4上に被覆可能である。本発明のこの実施形態によれば、下部のウォッシュコート層6と、中間ウォッシュコート層8と、上塗層とは、基材4の全軸上長さに渡って被覆される。貴金属およびOSC含有層は、2〜500g/ft
3の貴金属充填を有する。10〜100g/ft
3(3.53×10−4〜3.53×10−3g/cm3:1ft=30.480cmとして計算)、および、30〜60g/ft
3(0.00105〜0.00212g/cm3)の貴金属の充填の例も挙げられる。OSC充填レベルは、概して、0〜4g/in
3(0〜0.244g/cm3)であり、0.2〜1.0g/in
3(0.0120〜0.0610g/cm3:1in=2.54cmとして計算)の例も挙げられる。
【0037】
選択的に、上塗層が中間被覆層の一部分上のみ上に塗布されるように被覆プロセスを操作することも可能である。この実施形態では、基材の上流部分にのみ、上塗層が塗布または被覆可能である。これにより、上流部分の有害物質捕獲領域を作ることとなる。この部分および従属請求項で用いられている、「上流」および「下流」という用語は、エンジン排気ガス流における相対的な方向を示す。有害な沈殿物は、通常、上流の有害物質捕獲領域内で蓄積する。有害物質捕獲領域に関しては、2005年7月15日に出願され、本出願中に関連性があるとして挙げられている、本出願と同一出願人による、同時係属出願である米国特許出願番号11/182,462号で扱われている。
【0038】
図2で示されているように、上塗層(OC)20は、基材の上流部分でのみ、被覆がされ、これにより、有害物質捕獲領域21を作っている。この上塗層20は、非常に多孔質な耐火性酸化物(例えばアルミナ)と、卑金属酸化物(例えば、SrOまたはBaO)を1つまたは複数有する薄い層を有する。通常、この被覆部分ないし有害物質捕獲領域21の長さは、触媒部材12の上流端19から、少なくとも0.5インチ
(1.27cm)であり、約5.0インチ
(12.7cm)までである。被覆部分ないし有害物質捕獲領域21が、触媒部材12の上流端19から、少なくとも1インチ
(2.54cm)、2インチ
(5.08cm)、3インチ
(7.62cm)または4インチ
(10.16cm)までの例も挙げられる。この実施形態では、下部のウォッシュコート層16と、中間ウォッシュコート層18とが、基材14の全軸上長さに渡って被覆される。下部層は通常、例えばNOx、HCおよびCOなどの汚染物資を軽減するために、1種またはそれ以上の貴金属(PM)触媒を含有する。中間ウォッシュコート層18は、大概1種またはそれ以上の貴金属(PM)触媒と、選択的に酸素貯蔵成分(OSC)とを高レベルで含有する。本発明のこの実施形態で実施される貴金属と酸素貯蔵成分とのレベルは、
図1に関連して記載したレベルと同じである。
【0039】
有害物質捕獲領域21は、無機有害物質をより効果的に捕捉することができるように多孔質であることが好ましい。有害物質捕獲領域の長さが、触媒部材12の上流端から、約1.0〜約3.5インチ
(約2.54〜約8.89cm)、および約1.5〜約2.5インチ
(約3.81〜約6.35cm)である例も挙げられる。触媒部材へ気体が入ることにより、触媒部材の上流領域において乱流領域を作るが、これは大概、最初の1.5インチ
(3.81cm)、例えば、セルの断面面積をセルの周囲により除すことにより定義される水力直径Dhの関数値である。触媒に対する有害物質(P、Mn、Zn、Caなど)の大部分は、触媒部材の最初の2.5インチ
(6.35cm)内に沈殿する。有害物質捕獲領域21の存在により、このように沈殿した有害物質のいずれも、有害物質捕獲領域21を形成する上塗層20中に、捕捉され、あるいは他の方法で保持される。その結果触媒の耐久性と寿命とを延ばすことができる。これゆえに、長期老化後の有害物質での汚れに対応するために、高価な触媒材料の量の過度に使用することが回避可能となる。
【0040】
有害物質捕獲領域21、すなわち上塗層により被覆されている触媒部材の部分の長さは、触媒部材の上流端から下流端までの長さの割合として表すこともできる。概ね、有害物質捕獲領域21は、触媒部材の長さの約3%〜約70%である。触媒部材の上流からの軸上長さの約10%〜約60%、および、約20%〜約50%の有害物質捕獲領域も例として挙げられる。触媒部材の長さの約30%までの有害物質捕獲領域も例として挙げられる。
【0041】
図3に示す本発明の別の実施形態は、本発明の触媒部材の上述に代わる構成を示す。本発明のこの実施形態では、触媒部材22は、ハニカムモノリスとしての基材24と、この上に被覆された3層とを有する。第1層ないし下部ウォッシュコート層26は、基材24の全体にわたって被覆され、通常、1種またはそれ以上の貴金属(PM)触媒を有する。第2層ないしこの場合上塗層28は、非常に多孔質な耐火性金属酸化物(例えば、非常に多孔質なアルミナ)および1種またはそれ以上の卑金属酸化物(例えば、SrOまたはBaO)を含有する薄い層を有する。この薄い層は、触媒が被覆された基材24の全軸上長さに渡って被覆され、P、Pb、Zn、Ca、Mn、硫黄などの入ってくる有害物質に対して影響を受けうる下にある触媒層を保護する。この実施形態では、第3の層ないし上部ウォッシュコート層30が、1種またはそれ以上の貴金属(PM)触媒と、選択的に酸素貯蔵成分(OSC)とを有する。上部のウォッシュコート層30は、ウォッシュコートされた基材の全軸上長さに渡って被覆されている。この実施形態の実施において用いられる貴金属触媒と、酸素貯蔵成分とに関しては、以下に、より詳細に説明する。この実施形態の実施においては、汚染に対してより影響を受けにくい、例えばPtおよび/またはRhなどの貴金属触媒を用いることが好ましい。本発明のこの実施形態で実施される貴金属と酸素貯蔵成分とのレベルは、概して
図1に関して記載したものと同じである。
【0042】
さらに別の実施形態によれば、選択的に、貴金属を含有する上部のウォッシュコート層を、上塗層の下流部分の一部のみの上にウォッシュコートとして塗布して、これにより、上流部分の有害物質捕獲領域を除外するように、ウォッシュコート被覆プロセスを操作することも可能である。
図4で示すように、上部のウォッシュコート層40は、基材の下流部分42の上にのみ被覆がされ、これにより、上流に非被覆部分ないし有害物質捕獲領域41を作っている。この触媒部材32は、第1ないし下部のウォッシュコート層36と上塗層38とを有し、これらの両方が、基材34の全軸上長さに渡って塗布され、または被覆している。この上塗層(OC)は、非常に多孔質な耐火性酸化物(例えば,非常に多孔質なアルミナ)と、1種またはそれ以上の卑金属酸化物(例えば、SrOまたはBaO)とを含有する薄い層を備え、触媒をうがP、Zn、Ca、Mnおよび硫黄などの入ってくる有毒物質により汚れないように保護している。通常、非被覆部分ないし有害物質捕獲領域41の長さは、触媒部材32の上流端39から、約0.5インチ〜約5.0インチ
(約1.27〜約12.7cm)までである。非被覆部分ないし有害物質捕獲領域41が、触媒部材32の上流端39から、少なくとも1インチ
(2.54cm)、2インチ
(5.08cm)、3インチ
(7.62cm)または4インチ
(10.16cm)までの例も挙げられる。この実施形態における有害物質捕獲領域は、さらに、上述のように定義されうる。本発明のこの実施形態で実施される貴金属と酸素貯蔵成分とのレベルは、
図1に関して記載したものと概ね同じである。
【0043】
本発明の下部、中間および/または上部触媒ウォッシュコート層は、下部被覆領域でこれらの有害物質を捕捉しかつ保持するために、有害種(P、Zn、Ca、Ma、Sなど)と作用する成分を含有することも可能である。この成分の一例は、アルミナ、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウムおよび/またはセリウムの酸化物である。
【0044】
本発明の貴金属成分とは、金、銀および白金族金属からなる群から選択された1種またはそれ以上の貴金属を有する。ここでは、「白金族金属」とは、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウムおよびオスミウムである。本発明の貴金属成分は、金、銀または白金族金属の、化合物または錯体なども含みうるが、これらは、触媒を焼成または使用する際に、分解し、またはこれ以外の方法で触媒活性形態に変化する、すなわち通常は金属または金属酸化物に変化する。本発明の触媒は、炭化水素,一酸化炭素を酸化し、かつ窒素酸化物を低減させる触媒活性を有意に高める組成を提供するのに十分な量の少なくとも1つの貴金属成分を有している。貴金属含有層は、一般に、充填された貴金属を約2〜約500g/ft
3(約7.06×10−5〜約0.0717g/cm3)含有する。10〜100g/ft
3(3.53×10−4〜3.53×10−3g/cm3)、および、30〜60g/ft
3(0.00105〜0.00212g/cm3)の貴金属の充填の例も挙げられる。
【0045】
白金族金属などの貴金属触媒成分は、担体、例えば、耐火性酸化物の担体、好ましくは活性アルミナおよび/またはセリア−ジルコニア合成物担体粒子などの担体上に触媒成分を分散させるために適切な、いずれの白金族金属の化合物および/または錯体でありうる。担体粒子上に触媒金属化合物を含浸または沈殿させるのに用いられる液体が、触媒金属、またはその化合物または錯体、またはスラリーのほかの成分に対して悪影響を与えない限り、また加熱および/または真空により、蒸発または分解して、触媒から除去することが可能であれば、いずれの1種またはそれ以上の白金族金属成分の水可溶性化合物、または水分散性化合物または錯体も使用可能である。触媒を使用に付し、操作中に高温に接して初めて液体の除去が完了する場合もある。
【0046】
一般に、経済面および環境面の両面から鑑みると、白金族金属の可溶性化合物または錯体の水溶液が最も好ましい。例えば、適切な化合物は、塩化白金酸、白金のアミン可溶化水酸化物錯体、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、ヘキサアミン塩化ロジウム、硝酸パラジウムまたは塩化パラジウムなどである。焼成工程中、または少なくとも触媒使用の初期の段階で、これらの化合物は、白金族金属または白金族金属化合物の触媒活性形態、すなわち通常は酸化物に変化し、基材上に固定される。
【0047】
貴金属成分を固定させる方法は、耐火性酸化物基材上に、貴金属成分を化学的に固定させる工程を有しうるが、これに代えて、固定工程として、貴金属成分を熱処理する工程を有しうる。固定工程は、耐火性酸化物の基材上に貴金属成分を焼成する工程を有する。焼成工程は、180℃好ましくは200℃から、900℃で、0.2〜10時間行われうる。各層を熱固定する工程は、被覆後であって、次の層を被覆する前の段階で行われうる。
【0048】
通常、1種またはそれ以上の貴金属成分を含有するウォッシュコート層および/または上塗層は、1種またはそれ以上の酸素貯蔵成分(OSC)を含有してもよい。この酸素貯蔵成分は、1種またはそれ以上の希土類金属の還元性酸化物を1つまたは複数有しうる。適切な酸素貯蔵成分の好ましい例には、セリア、セリウムとジルコニウムとの混合酸化物、および、セリウム、ジルコニウム、プラセオジム、ランタンおよび/またはネオジムの混合酸化物がある。酸素貯蔵成分は、合成物またはバルク形態を有するのが好ましい。合成物またはバルク形態とは、酸素貯蔵成分が、支持貴金属と共に溶液中に溶解しているのではなく、離散はしているが、0.01〜15マイクロメートル以下の小さい直径を有する均一の結晶粒子として存在するということを意味する。酸化セリウム(セリア)のバルクは、ロジウム以外の白金族金属に対して、卓越した耐火性酸化物担体となり、セリア粒子上に多分散した小さな白金結晶が得られることが、またセリアのバルクはアンモニア化合物の溶液に含浸させ、続いて焼成させることにより安定化可能であることが開示されている。C.Z.Wan他による米国特許4,714,694号には、選択的に活性アルミナと組み合わされた、アルミニウムにより安定化されたセリアバルクが、その上に含浸される白金族金属成分のための耐火性酸化物担体として機能することが開示されている。ロジウム以外の白金族金属触媒用の触媒担体として、セリアバルクを用いることは、C.Z.Wan他による米国特許4,727,052号およびOhata他による米国特許4,708,946号にも開示されている。
【0049】
選択的にではあるが、酸素貯蔵組成物はさらにこれ以外の成分も有することができ、この成分は、イットリウム、ニオブ、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ジスプロジウムおよびイッテルビウムを含有する化合物からなる群から選択される成分である。いずれの理論にも拘束されたくはないが、これらの成分は、構造的な安定性および/または化学活性を促進すると考えられている。酸化ランタンは、安定剤の一例である。さらに、Pr、SmおよびNdも、酸素貯蔵成分として作用しうる。これゆえに、酸素貯蔵組成物は、550℃〜1100℃という高温環境で用いられると、非活性化に対して安定化させられる。
【0050】
特定の組成における好ましい酸素貯蔵組成物は、セリア−ジルコニア合成物を有し、これに加えて、ネオジミア、プラセオジア、ランタナおよびその他の希土類酸化物を1つまたは複数さらに含有する。上述の希土類合成物のジルコニウムは、セリア、ネオジミア、プラセオジアおよびジルコニアを互いに近接して存在させることができる粒子形態である。これらの成分を含む粒子は、互いの相互作用により利点があると考えられている。これらの成分が互いに近接にあり続ける限り、この組成物はいずれの形態であっても、好ましくは合成物またはバルク(粒子)形態であるが、触媒組成物に加えることが可能である。OSC含有層は、通常、含有酸素貯蔵成分のレベルが、0〜4g/in
3(0〜0.244g/cm3)、0.2〜1.0g/in
3(0.0122〜0.061g/cm3)が例として挙げられる。
【0051】
これ以外の層や、これ以外の層構成の追加も、十分本発明の範囲および精神内にある。貴金属を含むいずれの層も、上述の有害物質捕獲領域を提供することができる。明瞭に開示する実験に基づく実施例は、本発明の可能な多くの実施形態中のほんの数例に過ぎない。
【実施例1】
【0052】
対照ウォッシュコートの調合
この実施例では、本発明の一実施形態に基づく、排気ガス処理に有用な2層被覆調合の例を示す。この2層調合は、基材担持体上に被覆された3元コンバージョン触媒被覆である。この担持体は、円筒状のコージライトのモノリシック・ハニカムであり、直径は、3.66インチ
(9.14cm)、長さ5.81インチ
(14.75cm)、セル密度は600cpsi(平方インチ当りのセル数)、セル壁厚さは約3.5ミルである。全体体積は1リットルまたは61立方インチである。〜40%の固形分を有する水溶性の媒体形態の第1層を、基材の表面に塗付した。第1層の水溶性媒体は、硝酸パラジウム溶液として、プラネタリミキサーで1157gの10%バリア安定化γアルミナ、109gのストロンチア、109gのランタニア、101gのネオジミアおよび33.6gのジルコニア結合剤中に含浸させた14.1gのパラジウムを含有した。被覆された担持体は、次に530℃で2時間焼成され、約108gの乾燥ウォッシュコートが得られた。
【0053】
〜32%の固形分を有する水溶性媒体形態の第2層を、第1層の表面に塗付した。第2層の水溶性媒体は、硝酸ロジウム溶液として、プラネタリミキサーにより、30%のセリアを有する1091gのセリア/ジルコニア合成物、プラス20%のセリアを有する303gのセリア/ジルコニア合成物(これら2つの材料へのロジウム分布は80%〜20%である)、94gのアルミナ結合剤、および、47gのジルコニア結合剤中に含浸させた3.85gのロジウムを含有した。結果として生じる担持体は、次に430℃で2時間焼成され、約79gの乾燥ウォッシュコートが得られた。
【実施例2】
【0054】
保護膜PHOSGARD層を有するウォッシュコート調合
この実施例では、本発明の一実施形態に基づく、排気ガス処理に有用な、汚染に対して耐性を有する3層被覆調合の例を示す。この3層調合は、実施例1の第1触媒層と第2触媒層とを用い、加えて第3層を実施例1の第2層上に被覆した。〜20%の固形分を有する水溶性の媒体形態の第3層を、第2層の表面の全軸上長さに渡って塗付した。第3層の水溶性媒体は、634gのバリアドープされたγアルミナを、約10重量%のバリア、111gのストロンチア、50gのアルミナ結合剤、および25gのジルコニア結合剤と共に有する。被覆された担持体は、次に430℃で2時間焼成され、約40gの乾燥ウォッシュコートが得られた。
【実施例3】
【0055】
実施例1および2で得られた触媒を、公開されたMVEG(エンジン自動車排出グループ)試験サイクルを用いて、2.0Lエンジンを備えた自動車で試験した。このテストサイクルは、ECE(都市部走行サイクル)とEUDC(都市部外走行サイクル)とからなる。ECEサイクルは、都市部での代表的な運転条件を考慮した都市部運転サイクルであって、低速で、エンジン負荷も低く、排気ガスの温度も低いことが特徴である。EUDCサイクルは、高速道路での代表的な運転条件を考察した試験であり、高速で、排気ガスの温度は高く、排気ガスの容積は多い。触媒は、全て最高約900℃の床温で100時間老化させたエンジンであり、ZDDPとして12mg/Lのリンを有するガソリン燃料が加えられる。排出物を収集し、試験毎に測定し、結果は、1km走行毎に放出された気体をミリグラム単位で、一覧にした。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
低温始動のECEサイクルでは、触媒の前方部分が活性にとってより重要であるので、実施例2のウォッシュコート調合中に含まれる第3層が、前方部分を汚染より保護し、したがって、NO
XとHCとの排出が低減した。しかし、第3層で全長を被覆することにより、EUDCサイクル中の高温での性能に不都合な効果を示した。EUDCでの排出に関する結果の劣化は、保護層により拡散障壁が作られた結果であると考えられ、これにより反応ガスが下にある触媒層へ拡散するのが制限され、特に流動速度が速く、高温条件で滞留時間が短い場合に、この結果が生じた。前方の有害物質捕獲領域の利点を維持しつつ、後方領域の触媒層でのさらなる拡散制限を生じさせないために、次の実施例(実施例4〜6)を実施した。
【実施例4】
【0058】
対照ウォッシュコート調合
この実施形態は、実施例1の第1層と同じ第1層を有する2層被覆調合の一例を示す。〜32%の固形分を有する水溶性媒体形態の第2層を、第1層の表面に塗付した。第2層の水溶性媒体は、硝酸ロジウム溶液として、プラネタリミキサーにより、30%のセリアを有する637gのセリア/ジルコニア合成物、プラス5%のセリアを有する212gのセリア/ジルコニア合成物、45gのアルミナ結合剤、および、27.5gのジルコニア結合剤中に含浸させた3.85gのロジウムを含有した。結果として生じた担持体は、次に430℃で2時間焼成され、約70gの乾燥ウォッシュコートが得られた。
【実施例5】
【0059】
入口にPHOSGARD層を備えたウォッシュコート調合
この実施例では、本発明の一実施形態に基づく、排気ガス処理に有用で、汚染に耐性を有する3層被覆調合の例を示す。この調合は、実施例
4で仕上げられた二重触媒層を用い、第3層を実施例
4の第2層上に追加して被覆した。第3層は、実施例2で記載した第3層と同一である。全長にわたって被覆した後に、触媒を各々同じ長さ、約2.9インチの長さに切断した。この3重層の触媒の1つの部分は、前方領域として用い、第
4実施例からの2.9インチの他の部分触媒は後方領域として用いた。同じ効果を得る類似の方法として、第2層上の入口部分の軸上長さの約50%のみの長さで第3層を被覆する方法がある。前方領域中または触媒全体として、第3層のウォッシュコートの増加は約20gである。
【実施例6】
【0060】
実施例3をベースとして、更なる触媒、すなわち実施例4および5の触媒を調製した。ヨーロッパ標準のMVEG試験サイクル、および、周知の米国標準排出試験(FTPまたはEPA−75)(連邦規制法、タイトル40、第86条参照)を用いて試験を行った。FTP試験は、3段階の排出試験を含み、これは、第1の低温段階ないし始動段階と、移行段階と、高温スタート段階とからなる。一般的に、この3段階では、エンジン作動を様々なモード、すなわちアイドル状態、加速状態および減速状態にして、特定の期間にわたって排出を測定する。両触媒は、最高約900℃の床温で100時間老化させ、ZDDPとして12mg/Lのリンを有するガソリン燃料を加えた。
【0061】
実施例5では、上流ないし入口の50%(〜2.8インチ)部分のみにおいて、下にある貴金属含有ウォッシュコート層上に、非貴金属を含有する保護膜のウォッシュコート層(有害物質保護層)がある。結果を以下の表2および3に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表2および表3より、基材担持体の上流ないし入口の50%のみの上に、非金属含有上塗層を用いた結果、触媒効率が上昇することがわかる。軸上長さの後方50%は、上塗層により被覆されていないので、RhおよびOSCの上部層の効果は、MVEGのEUDCおよびFTPサイクルの段階2および段階3の間のような高温性能要件に対しても堅持された。
【実施例7】
【0065】
軸上長さに渡るリンの沈殿を解明するために、および有害物質捕獲領域の長さを最適化するために、4つの異なるウォッシュコートサンプルを作り、各サンプルウォッシュコートについて、12mg/LP添加燃料を加えて、34時間エンジン老化(触媒の最高床温は〜1000℃)させた後に、軸上のリンを測定した。
【0066】
サンプル7−1は、全ウォッシュコート充填として3.16g/in
3(0.192g/cm3)および60g/ft
3(0.00212g/cm3)の貴金属を含有する2層被覆調合とした。第1ウォッシュコート層は、〜41%の固形分を有する水溶性の媒体を、基材の表面に塗付することにより形成した。この水溶性媒体は、硝酸パラジウム溶液として、プラネタリミキサーで1207.6gのγアルミナ、161gのランタニア、74.1gの酸化ニッケルおよび32.2gのジルコニア結合剤中に含浸させた25.2gのパラジウムを含有した。被覆された基材を、次に530℃で2時間焼成した。第2層は、〜37%の固形分を有する水溶性媒体形態を、第1層の表面に塗付することにより形成した。この〜37%の水溶性媒体は、硝酸ロジウム溶液として、プラネタリミキサーにより、532.9gのランタニア安定化γアルミナ、30%のセリアを有する1370.4gのセリア/ジルコニア合成物、および、91.4gのジルコニア結合剤中に含浸させた5.3gのロジウムを含有した。この2層被覆された基材を、次に430℃で2時間焼成した。
【0067】
サンプル7−2は、全ウォッシュコート充填として3.63g/in
3(0.0222g/cm3)および30g/ft
3(0.00106g/cm3)の貴金属を含有する2層被覆調合とした。第1層は、〜38%の固形分を有する水溶性媒体を、基材の表面に塗付することにより形成した。この水溶性媒体は、硝酸パラジウム溶液として、プラネタリミキサーで235.6gのγアルミナ、および20%のセリアを有する392.6gのセリア/ジルコニア合成物中に含浸させた18.2gのパラジウムを含有した。この水溶性媒体は、104.7gのセリア、145.4gのネオジミア、145.4gのランタニア、53.5gの酸化ニッケルおよび104.7gのジルコニア結合剤も含有した。被覆された基材を、次に530℃で2時間焼成した。焼成後、第2層を、〜37%の固形分を有する水溶性媒体を、第1層の表面に塗付することにより形成した。この〜37%の水溶性媒体は、硝酸ロジウム溶液として、プラネタリミキサーにより、383.7gのランタニア安定化γアルミナ、30%のセリアを有する575.5gのセリア/ジルコニア合成物、および、38.4gのジルコニア結合剤中に含浸させた2.2gのロジウムを含有した。この2層被覆された基材を、次に430℃で2時間焼成した。
【0068】
サンプル7−3は、全ウォッシュコート充填として4.59g/in
3(0.280g/cm3)および30g/ft
3(0.00106g/cm3)の貴金属を含有する3層被覆調合とした。第1層のウォッシュコート層は、〜35%の固形分を有する水溶性媒体を、基材の表面に塗付することにより形成した。この水溶性媒体は、121.8gのγアルミナ、35%のセリアを有する234.5gのセリア/ジルコニア合成物、37.3gの酸化ニッケルおよび24.4gのジルコニア結合剤を含有した。この第1層は、次に、サンプル2の2層ウォッシュコート調合により被覆され、基材は430℃で2時間焼成した。
【0069】
サンプル7−4は、全ウォッシュコート充填として2.38g/in
3および30g/ft
3の貴金属を含有する単一層被覆調合とした。この単一のウォッシュコート層は、〜42%の固形分を有する水溶性媒体を、基材の表面に塗付することにより形成した。この水溶性媒体は、個別に、硝酸塩溶液として、プラネタリミキサーで210gのランタニア安定化γアルミナ、および20%のセリアを有する288.6gのセリア/ジルコニア合成物、52.5gのランタニア、24.1gの酸化ニッケルおよび15.5gのジルコニア結合剤中に含浸させた8.21gのパラジウムと0.92gのロジウムとを含有した。この被覆基材を、次に530℃で2時間焼成した。
【0070】
サンプル1、2、3および4の、軸上長さにわたってのリンの沈殿を測定し、その結果を下の表4に示した。
ここで、表中“in”はインチで、1インチ=2,54cmである。
【0071】
【表4】
【0072】
リンは、概ね入口から2.5インチのところにある触媒上に沈殿することが観察された。入口から1.5インチの軸上長さのところで、約〜400mg/in
3(約〜24.4mg/cm3)から約80mg/in
3(約4.88mg/cm3)まで(入口から20%)のリンの傾斜が検出された。また、貴金属充填またはウォッシュコート充填として、ウォッシュコート層を1重、2重または3重層にしたか否かに関わらず、基材上流ないし入口部分でのリンの高い分布が見られた。
【実施例8】
【実施例8】
【0073】
ウォッシュコートへのリンの沈殿の深さをさらに理解するために、貴金属のウォッシュコートが、2.38g/in
3(0.145g/cm3)および30g/ft
3(0.00106g/cm3)含有する単一ウォッシュコート層を準備した。
【0074】
この単一ウォッシュコート層は、〜42%の固形分を有する水溶性の媒体形態を、基材の表面に塗付することにより形成した。この水溶性媒体は、個別に、硝酸塩溶液として、プラネタリミキサーで210gのγアルミナ、30%のセリアを含有する341.1gのセリア/ジルコニア合成物161g、24.1gの酸化ニッケルおよび15.7gのジルコニア結合剤中に含浸させた8.21gのパラジウムおよび0.92gのロジウムを含有した。被覆された基材を、次に530℃で2時間焼成した。
【0075】
リンの沈殿に関して、各サンプルウォッシュコートについて12mg/LP添加燃料を加えて、34時間エンジン老化(触媒の最高床温は〜1000℃)させた後に、ウォッシュコートの様々な深さにおけるリンを測定した。リンの分析(Pの%として)結果を下記表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5より、沈殿したリンの大部分は、ウォッシュコート層中の深さ40μm未満のところで検出されたことが判明した。これゆえに、実施例7と実施例8との観察結果を組み合わせると、有害物質から触媒層を守り、かつ質量移動を遅らせ、その結果暖機を遅らせる拡散障壁を過剰に作らないように、十分な長さ(入口からの軸上長さ)を有し、十分な深さ(ウォッシュコートの放射状方向の厚さ)を有する有害物質捕獲層を有用に設計することができる。
【実施例9】
【0078】
エンジン老化を100時間まで延ばし、ZDDPとして12mg/Lのリンをドープしたガソリン燃料を加えた後に、実施例5の前方領域の有害物質捕獲効率を分析した。EPMA(電子線マイクロプローブ)により、第3層被覆は、約42μmであり、これがPの約74%、Caの約83%、Znの約76%を入口領域で捕獲したことが確認された(表6参照)。これゆえに、Rh/OSC(セリア)を含有する第2層は、大部分の有害物質から保護される。84μmの深さでは、Pの約95%、Caの約84%、Znの約83%が捕獲されたことがわかった(表6参照)。約102μmの深さでは、Pの約99%、Caの約84%、Znの約92%が捕獲されたことがわかった(表6参照)。
【0079】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】
図1は、本発明の1実施形態による、汚染に耐性を有する排気ガス処理システムの触媒部材上の層構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の1実施形態による、汚染に耐性を有する触媒部材上の別の層構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の1実施形態による、汚染に耐性を有する触媒部材上の別の層構成を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の1実施形態による、汚染に耐性を有する触媒部材上の別の層構成を示す概略図である。
【
図5】
図5は、300℃〜1000℃の温度で、リンと卑金属酸化物との間で形成される様々な化合物の計算されたデルタG形成をグラフで示した図である。