(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
上階の居室に隣接して屋外側にバルコニーを形成するに当り、上階の居室用の梁を屋外側に一直線状に突出し、この屋外側に突出した部分をバルコニー梁部とするものが特許文献1により知られている。
【0003】
この特許文献1においては、上階の居室用の梁の屋内部分が床梁部となり、この床梁部上に居室床が形成される。また、梁の屋外側に突出した部分であるバルコニー梁部の上にバルコニー床が形成される。床梁部とバルコニー梁部とが一直線状に連続しているため、その上に形成する居室床とバルコニー床との境界には防水上の観点から立上り部が形成される。
【0004】
バルコニー床は水勾配を有する防水床部を備えており、防水床部の上面の屋内側の端部から立上り部の上端までは防水のため120mm以上の段差が必要であり、このため居室床の上面から立上り部の上端までの立上り寸法は例えば200mm以上取らねばならない。
【0005】
このように、特許文献1に示される従来例は、居室床とバルコニー床とが立上り部により分断される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される従来例は、上記のように、居室床とバルコニー床とが立上り部により分断されるので、居室とバルコニーは空間として一体感がなく、空間が狭く感じられる。
【0008】
また、立上り部の跨ぎ高さが高くなるため、居室床とバルコニー床との間の行き来がし難く、立上り部につまずき易いという問題がある。
【0009】
本発明の目的とするところは、バルコニー床の防水床のレベルを下げて防水のための段差寸法を確保しつつ居室床とバルコニー床との間の立上り部を低く又は無くすことが可能となる段差梁及び段差梁を用いた居室床とバルコニー床の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の段差梁は、上階の居室用の床梁部と、この床梁部の屋外側端部から、前記床梁部よりも下方に位置するように段差を介して一体に突設するバルコニー梁部を備え
、前記床梁部の主体を構成する第1のH形鋼よりなる床梁材の屋外側の端部が、第2のH形鋼よりなる段差ブロックの屋内側のフランジの上部に一体に固着され、前記バルコニー梁部の主体を構成する第3のH形鋼よりなるバルコニー梁材の屋内側の端部が、前記段差ブロックの屋外側のフランジの下部に一体に固着されていることを特徴とする。
【0011】
また、前
記床梁材と前記バルコニー梁材の少なくとも上下面
、及び
前記段差
ブロックの屋内側の面に
、木質の板材が固着してあることが好ましい。
【0013】
また、前記第1のH形鋼の
上下のフランジが前記床梁材の上下面となり、前記第3のH形鋼の
上下のフランジが前記バルコニー梁材の上下面となり、前記第2のH形鋼の
屋内側及び屋外側のフランジが前記段差ブロックの屋内側及び屋外側の面となり、前記段差ブロックのウェッブの両面に、前記段差ブロックの
前記屋内側のフランジを介して、前記床梁材の前記下のフランジと連続するように第1のスチフナーが固着され、前記段差ブロックのウェッブの両面に、前記段差ブロックの
前記屋外側のフランジを介して、前記バルコニー梁材の前記上のフランジと連続するように第2のスチフナーが固着され、前記第1のスチフナーと前記第2のスチフナーが上下方向にずれて設けられると共に、前記第1のスチフナーが、前記段差ブロックの前記ウェッブの両面の屋内側の半部に設けられ、且つ、前記第2のスチフナーが、前記段差ブロックの前記ウェッブの両面の屋外側の半部に設けられることも好ましい。
【0014】
また、本発明の段差梁を用いた居室床とバルコニー床の構造は、段差梁の床梁部上に上階の居室床が形成され、バルコニー梁部の上にバルコニー床が形成され、前記バルコニー床が、防水性を有する防水床部と、この防水床部上に載置され且つ上面の水を防水床部に排水するための排水部を備えたバルコニーデッキとで構成され、前記居室床の上面と、前記バルコニーデッキ上面とがほぼ同レベルとされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、バルコニーの防水床部のレベルを下げて防水に必要な段差寸法を確保しつつ立上り部を低く又は無くすことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0018】
図1、
図2には段差梁3の一実施形態を示している。段差梁3は、上階の居室用の床梁部1の屋外側端部から、前記床梁部1よりも下方に位置するように段差を介してバルコニー梁部2を一体に突設することで構成される。
【0019】
段差梁3の主体を構成する段差梁本体4は鋼材により形成される。床梁部1の主体を構成する第1のH形鋼60よりなる床梁材6と、バルコニー梁部2の主体を構成する第3のH形鋼80よりなるバルコニー梁材8が、第2のH形鋼70よりなる段差ブロック7を介して一体に固着される。
【0020】
第1のH形鋼60、第3のH形鋼80は同じ断面をしたH形鋼により構成される。
【0021】
床梁材6の上下面は、第1のH形鋼60のフランジ61により構成され、バルコニー梁材8の上下面は、第3のH形鋼80のフランジ81により構成される。また、段差ブロック7の屋内側及び屋外側の面は、第2のH形鋼70のフランジ71により構成され、第2のH形鋼70の上端面及び下端面には鋼材よりなる上板24、下板25が溶接により固着される。
【0022】
そして、床梁材6を構成する第1のH形鋼60のフランジ61及びウェッブ62の屋外側端部が、段差ブロック7を構成する第2のH形鋼70の屋内側の面であるフランジ71(71a)の上部に溶接により固着される。また、バルコニー梁材8を構成する第3のH形鋼80のフランジ81及びウェッブ82の屋内側の端部が、段差ブロック7を構成する第2のH形鋼70の屋外側の面であるフランジ71(71b)の下部に溶接により固着される。
【0023】
このように、段差梁本体4は、第1のH形鋼60と、第2のH形鋼70と、第3のH形鋼80を溶接により固着することで形成される。
【0024】
ここで、段差ブロック7を構成する第2のH形鋼70の上部、下部には、それぞれ、
図4の斜線で示す領域である第1のH形鋼60と接続一体化する上部接続領域A、第3のH形鋼80と接続一体化する下部接続領域Bが確保される。
【0025】
この上部接続領域A、下部接続領域Bは、伝達される曲げモーメントを十分に負担できるような強度としてあって、段差梁本体4が、通常の同一断面形状のH形鋼よりなる直線状の梁材と曲げ耐力が変わらない仕様としている。
【0026】
このように、第1のH形鋼60、第3のH形鋼80と接続する部分である上部接続領域A、下部接続領域Bを確保するため、第2のH形鋼70の上下方向の寸法は、(第1のH形鋼60の上下方向の寸法)+(第3のH形鋼80の上下方向の寸法)の寸法以上となっている。
【0027】
したがって、第2のH形鋼70の上下方向の最小寸法は、(第1のH形鋼60の上下方向の寸法)+(第3のH形鋼80の上下方向の寸法)の寸法であり、現場に応じてこれ以上の長さに設定される。例えば、第2のH形鋼70の上下高さを選択することで、
図1、
図4のように、段差寸法tを任意の長さ、例えば、
図1の段差寸法t=245mm、
図5の段差寸法t=295mmに設定する。
【0028】
段差ブロック7を構成する第2のH形鋼70のウェッブ72の両面には、
図1、
図2に示すように、段差ブロック7の屋内側のフランジ71を介して、床梁材6の下のフランジ61と連続するように第1のスチフナー11が固着される。
【0029】
また、段差ブロック7のウェッブ72の両面に、段差ブロック7の屋外側のフランジ71を介して、バルコニー梁材8の上のフランジ81と連続するように第2のスチフナー12が固着される。
【0030】
ここで、第1のスチフナー11は第2のスチフナー12と同じレベルか又は上方にずれて設けられる。
【0031】
第1のスチフナー11が、第2のスチフナー12より上方向にずれて設けられる場合、第1のスチフナー11は段差ブロック7のウェッブ72の屋内側の半部に設けられ、且つ、第2のスチフナー12は段差ブロック7のウェッブ72の屋外側の半部に設けられる。
【0032】
このように構成することで、段差ブロック7に対して第1のスチフナー11を先に溶接した後で第2のスチフナー12を溶接する場合、第1のスチフナー11に邪魔されることなく第2のスチフナー12を溶接できる。
【0033】
また、段差ブロック7に対して第2のスチフナー12を先に溶接した後で第1のスチフナー11を溶接する場合は、第2のスチフナー12に邪魔されることなく第1のスチフナー11を溶接できる。
【0034】
なお、第2のH形鋼70の上下方向の寸法が、(第1のH形鋼60の上下方向の寸法)+(第3のH形鋼80の上下方向の寸法)の寸法の場合は、第1のスチフナー11と第2のスチフナー12が一直線状に連続する単一のスチフナーとして形成される。
【0035】
このように段差ブロック7に第1のスチフナー11、第2のスチフナー12を設けることで、段差梁本体4に荷重が加わり、段差ブロック7に集中荷重が加わっても、スチフナーによりその荷重に耐えうる曲げ強度を確保でき、曲げ変形を抑制することが可能となる。
【0036】
段差梁本体4は、少なくとも上下面及び段差の屋内側の面に木質の板材5を固着することで、床梁部1とバルコニー梁部2が段差ブロック7を介して一体化された段差梁3が構成される。
【0037】
すなわち、
図1、
図2に示すように、第1のH形鋼60の上下のフランジ61に木質の板材5を固着することで、床梁部1が構成される。また、第3のH形鋼80の上下のフランジ81に木質の板材5を固着することで、バルコニー梁部2が構成される。また、第2のH形鋼70よりなる段差ブロック7の上端面、下端面、第2のH形鋼70の屋内側のフランジ70の下部に木質の板材5が固着される。
【0038】
ここで、第1のH形鋼60の上のフランジ61、段差ブロック7の上端面に固着される木質の板材5は一体物を固着してもよく、又、別部材をそれぞれ固着してもよい。また、第3のH形鋼80の下のフランジ81、段差ブロック7の下端面に固着される木質の板材5は一体物を固着してもよく、又、別部材をそれぞれ固着してもよい。
【0039】
前記の構成の段差梁3は、上階の居室床13とバルコニー床14とを形成する際の梁として用いられる。
【0040】
図6には段差梁3を用いて上階の居室床13とバルコニー床14とを形成した一例を示している。段差梁3の床梁部1の上に上階の居室床13が形成される。段差梁3のバルコニー梁部2は、上階の居室40から屋外側に突出し、このバルコニー梁部2の上にバルコニー床14が形成される。
図6においてバルコニー床14は、防水性を有する防水床部15と、この防水床部15上に支持脚19、受け棧20を介して載設されるバルコニーデッキ17とで構成される。
【0041】
バルコニーデッキ17にはデッキ材間に排水部16となる隙間が形成してあって、バルコニーデッキ17上面の水を排水部16から下方の防水床部15に排水できるようになっている。
【0042】
防水床部15の上面はバルコニーの排水部(図示せず)側に向けて下り傾斜した傾斜面となっている。
【0043】
上階の居室床13の屋外側の端部には下レール21が形成され、この下レール21に建具22が走行自在となっている。
【0044】
本実施形態では上階の居室床13の上面とバルコニーデッキ17の上面とが下レール21を介してほぼ段差なく連続しており、上階の居室40からバルコニー41への出入りがバリアフリーとなる。
【0045】
なお、
図6、
図7においてバルコニー梁部2の屋外側端部上にはバルコニー桁梁32が載設固着され、バルコニー桁梁32上にバルコニー用手摺壁35が載設固着される。
【0046】
上記実施形態では、バルコニー床14が、防水床部15とバルコニーデッキ17との二重床構造となっている例を示したが、
図7のようにバルコニー床14が防水床部15のみの一重床構造であってもよい。
【0047】
ところで、バルコニーは
図8(a)(b)(c)に示すようなタイプに分類される。
【0048】
図8(a)は、下階の外壁26の上に段差梁3の段差ブロック7が位置し、バルコニー41がキャンチとなっている例を示している。
【0049】
また、
図8(b)の実施形態は、バルコニー41が下階の外壁26よりセットバックしている例を示している。
【0050】
また、
図8(c)の実施形態は、バルコニー41の略片側が下階の外壁26から突出してキャンチとなり、且つ、バルコニー41の他の片側が下階の外壁26からセットバックしている例を示している。
【0051】
段差梁3は前記いずれのタイプのバルコニー形状にも対応することができる。
【0052】
ここで、床梁部1、バルコニー梁部2が木質材であると、床梁部1の前部下面にバルコニー梁部2後部上面を重ねてボルトなどで固着しなければ木質段差梁を形成することはできない。しかし、この木質段差梁は、床梁部1の前部下面にバルコニー梁部2の後部上面が重っている部分が下階の居室42に存在するので、この部分においては天井高さが低くなってしまうという問題がある。
【0053】
したがって、バルコニー41がキャンチの場合は、床梁部1の前部下面にバルコニー梁部2の後部上面が重っている部分における下階の居室42の天井高さが低くなる。また、バルコニー41をセットバックしたタイプの場合は、セットバックした部分における下階の居室42の天井高さが低くなるだけでなく、床梁部1の前部下面にバルコニー梁部2の後部上面が重っている部分における下階の居室42の天井高さも低くなる。
【0054】
これに対し、本実施形態の段差梁3は、上階の居室用の床梁部1の屋外側端部から段差を介して一体に突設するバルコニー梁部2を一体に突出しているので、床梁部1とバルコニー梁部2とが重複する部分がなく、重複によって天井高さが低くなることがない。
【0055】
したがって、バルコニー41がキャンチの場合は下階の居室42における天井高さが低くならない。また、また、バルコニー41をセットバックしたタイプの場合は、セットバックした部分だけ下階の居室42の天井高さが低くなるだけである。
【0056】
しかも、段差梁3の主体を構成する段差梁本体4が鋼材により形成されているので、強度が高い。
【0057】
また、段差梁本体4の少なくとも上下面及び段差の屋内側の面に木質の板材5が固着してあるので、居室床13、バルコニー床14、下階の天井29、軒天30等を形成する際、これらの床材や天井釣木36等の木質部材を釘打、ビス固定等で板材5に簡単に固着できる。
【0058】
特に、第2のH形鋼70の屋内側のフランジ70の下部に木質の板材5を取付ているので、この板材5を利用して
図6、
図7のように下階の天井29の端材を取付けることができる。
【0059】
なお、バルコニーを形成するに当って、
図9のように、バルコニーの内側の梁のみを段差梁3としてもよく、あるいは、
図10のように、バルコニーの全体の梁を段差梁としてもよく、これによりバルコニー41のプランの多様化が可能となる。
【0060】
図9、
図10において、31は直線梁、32はバルコニー桁梁、33は小梁、34はバルコニー小梁を示す。