特許第5795872号(P5795872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795872
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体の検査方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   G11B5/84 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-102390(P2011-102390)
(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公開番号】特開2012-234597(P2012-234597A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】呂 福功
【審査官】 深沢 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−116930(JP,A)
【文献】 特開平09−203630(JP,A)
【文献】 特開平10−010097(JP,A)
【文献】 米国特許第06088176(US,A)
【文献】 特開平08−220003(JP,A)
【文献】 特開2010−236985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
G11B 5/09
G11B 5/783
G01N 21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも非磁性基板の上に磁性層を有する磁気記録媒体の表面を検査する磁気記録媒体の検査方法であって、
検査対象となる磁気記録媒体の面上において、感熱素子を有する検査ヘッドを第1の高さで走査しながら、前記感熱素子から出力される信号のうち、欠陥部分として特定した箇所の前記感熱素子から出力される第1の信号を抽出するステップと、
この後に、前記検査ヘッドを前記第1の高さとは異なる第2の高さで走査しながら、前記特定した箇所の前記感熱素子から出力される第2の信号を抽出するステップと、
前記第1の高さに対して前記第2の高さを変化させたときの前記第1の信号に対する前記第2の信号の変化が、規則性を有する場合に、前記欠陥部分が前記磁気記録媒体の表面において凹形状を有すると判定する一方、不規則性を有する場合に、前記欠陥部分が前記磁気記録媒体の表面において凸形状を有すると判定するステップとを含むことを特徴とする磁気記録媒体の検査方法。
【請求項2】
前記磁気記録媒体を回転させながら、前記検査ヘッドを前記磁気記録媒体の内外周に亘って走査することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の検査方法。
【請求項3】
前記感熱素子として、磁気抵抗素子を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体の検査方法。
【請求項4】
少なくとも非磁性基板の上に磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
請求項1〜の何れか一項に記載の検査方法を用いて、磁気記録媒体の表面を検査する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の検査方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)に代表される磁気記録再生装置は、コンピュータなどの情報処理装置の外部記憶装置として広く用いられ、近年は動画像の録画装置等としても利用されている。
【0003】
HDDは、中央に開口部のある円盤状(ドーナッツ形状)の磁気記録媒体と、これを1枚又は複数枚積層して同心円で回転させる(複数枚の場合は、同期回転させる)シャフトと、シャフトにベアリングを介して回転自在に支持された磁気記録媒体を回転駆動させるモータと、磁気記録媒体の両面において記録及び/又は再生を行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドが取り付けられた支持アームと、支持アームを複数本以上重ねて(これを、ヘッドスタックアセンブリと呼ぶ。)同期して半径方向に可動させ、磁気ヘッドを磁気記録媒体上の任意の位置に移動させるヘッドスタック機構と、ヘッドスタック機構を駆動するボイスコイルモータ(VCM)と、磁気ヘッドからの信号や、磁気ヘッド及びVCMへの信号を処理する信号処理系とから構成される。
【0004】
HDDでは、その内部に組み込んだ磁気記録媒体をモータにより数千rpm以上で高速回転させ、磁気記録媒体上を流れる空気流により磁気ヘッドが搭載されたヘッドスライダを微小浮上させる。磁気記録媒体には、サーボ信号(位置情報信号等)が磁気的に書き込まれており、この信号を磁気ヘッドが検出し、この信号に基づいて磁気記録媒体上における磁気ヘッドの位置を判別し、磁気記録媒体の特定位置に対して磁気ヘッドが磁気情報の読み書きを行う。
【0005】
HDDに搭載される磁気記録媒体は、一般的にはアルミニウム合金やガラス基板等からなる基板の表面に、下地層、磁性層、保護層、潤滑層などを順次形成して作製されている。そして、製造された磁気記録媒体に対する評価工程として、グライド検査とサーティファイ検査とが行われる。
【0006】
グライド検査とは、磁気記録媒体の表面における突起物の有無を検査する工程である。すなわち、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体を記録再生する際に、磁気記録媒体の表面に浮上量(媒体と磁気ヘッドの間隔)以上の高さの突起物があると、磁気ヘッドが突起物に衝突して磁気ヘッドが損傷したり、磁気記録媒体に欠陥が発生したりする原因となる。そこで、本工程では、磁気記録媒体の表面にそのような高い突起物が無いかを検査し、そのような突起が存在する磁気記録媒体は不良品として製造工程から排除する(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
グライド検査に合格した磁気記録媒体については、サーティファイ検査を実施する。サーティファイ検査とは、磁気記録媒体に対して、通常のHDDにおける記録再生と同様に、磁気ヘッドを用いて所定の信号を記録した後、その信号を再生し、得られた再生信号から、磁気記録媒体の電磁変換特性の欠陥や品質を確かめる工程である(例えば、特許文献2を参照。)。そして、サーティファイ検査に合格した磁気記録媒体については、サーボライターと呼ばれる装置を用いてサーボ情報等を書き込んだ後、HDDに搭載されることになる。
【0008】
ところで、HDDでは、磁気記録媒体の高記録密度化に伴って、再生時に磁気信号を読み込む素子として、磁気抵抗(MR)効果を利用したMR素子や、巨大磁気抵抗(GMR)効果を利用したGMR素子、トンネル磁気抵抗(TuMR)効果を利用したTuMR素子等を備えた磁気ヘッドが用いられている。しかしながら、このような読み込み素子を用いたHDDでは、磁気記録媒体の再生時に、磁気記録媒体の表面にある突起物に読み込み素子が衝突することによって摩擦熱が発生し、読み込み素子の温度上昇に伴う抵抗値の変動により、再生される磁気信号が変動してしまう現象、すなわちサーマル・アスペリティ(Thermal Asperity)現象の発生が問題となっている。
【0009】
サーマル・アスペリティ現象とは、一般的には、磁気ヘッドに設けられた読み込み素子と磁気記録媒体の表面にある突起物とが接触した場合に、その接触熱によって読み込み素子に急激な温度上昇が生じて、この読み込み素子の電気抵抗値が変動する現象を言う。
【0010】
このサーマル・アスペリティ現象は、磁気記録媒体の高記録密度化に伴う磁気ヘッドの浮上量の低下により、更に顕著なものなっている。また、磁気ヘッドが磁気記録媒体の表面に不可避的に存在する欠陥である微小突起物に衝突することによって、磁気ヘッドの摩耗が促進され、出力低下や特性劣化などのヘッド劣化障害も発生している。
【0011】
これらの原因となる欠陥のサイズは微小であるため、磁気記録媒体の製造時における検査精度を高める必要がある。そこで、感熱素子(MR素子)を有する検査ヘッドと、磁気記録媒体の表面に発生した突起物との接触によるサーマル・アスペリティ現象に起因した信号を用いて、磁気記録媒体の表面特性を評価する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
また、磁気記録媒体の表面を、感熱素子(MR素子)を用いて走査し、この感熱素子から出力される信号から、磁気記録媒体表面の波長40μm以上の長周期のうねりに起因した信号を分離し、この分離後の信号から磁気記録媒体表面の突起物を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−260014号公報
【特許文献2】特開2003−257016号公報
【特許文献3】特開平10−105908号公報
【特許文献4】特開2008−146803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、磁気記録媒体の表面に異常突起がある場合、この異常突起と検査ヘッドが衝突してサーマル・アスペリティ現象が発生するため、このサーマル・アスペリティ現象に起因した信号を検出することで、磁気記録媒体の表面における突起物の有無を判別することができる。
【0015】
しかしながら、従来の検査方法では、上記特許文献4に開示されるように、突起形状の欠陥だけでなく凹み形状を含む長周期のうねりも検出してしまうため、サーマル・アスペリティ現象を引き起こす突起欠陥を正確に特定できていないといった問題があった。
【0016】
このため、実際のサーティファイ検査では、上述した凹み形状を含む欠陥による出力信号が発生した場合においても、その磁気記録媒体を不良品と判断してしまい、製品歩留まりの著しい低下を招くことになる。
【0017】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、磁気記録媒体に対する検査精度を向上させた磁気記録媒体の検査方法、並びに、この検査方法を用いることによって、製品歩留まりの更なる向上を可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 少なくとも非磁性基板の上に磁性層を有する磁気記録媒体の表面を検査する磁気記録媒体の検査方法であって、
検査対象となる磁気記録媒体の面上において、感熱素子を有する検査ヘッドを第1の高さで走査しながら、前記感熱素子から出力される信号のうち、欠陥部分として特定した箇所の前記感熱素子から出力される第1の信号を抽出するステップと、
この後に、前記検査ヘッドを前記第1の高さとは異なる第2の高さで走査しながら、前記特定した箇所の前記感熱素子から出力される第2の信号を抽出するステップと、
前記第1の高さに対して前記第2の高さを変化させたときの前記第1の信号に対する前記第2の信号の変化が、規則性を有する場合に、前記欠陥部分が前記磁気記録媒体の表面において凹形状を有すると判定する一方、不規則性を有する場合に、前記欠陥部分が前記磁気記録媒体の表面において凸形状を有すると判定することを特徴とする磁気記録媒体の検査方法。
) 前記磁気記録媒体を回転させながら、前記検査ヘッドを前記磁気記録媒体の内外周に亘って走査することを特徴とする前項(1)に記載の磁気記録媒体の検査方法。
) 前記感熱素子として、磁気抵抗素子を用いることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体の検査方法。
) 少なくとも非磁性基板の上に磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前項(1)〜()の何れか一項に記載の検査方法を用いて、磁気記録媒体の表面を検査する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、磁気記録媒体の表面にある欠陥部分が凹形状又は凸形状を有するかを判別できるため、サーマル・アスペリティ現象や磁気ヘッドの摩耗等の原因となる凸形状の欠陥(突起物)の検出精度を大幅に高めることが可能である。
【0020】
そして、本発明によれば、この検査方法を用いることによって、製品歩留まりの更なる向上を可能とした磁気記録媒体の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の検査対象となる磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
図2】本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法において用いられる検査装置の一例を示す斜視図である。
図3】(a)は、凸形状の欠陥を示すAFM画像であり、(b)は、この凸形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号の波形図である。
図4】(a)は、凹形状の欠陥を示すAFM画像であり、(b)は、この凹形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号の波形図である。
図5】凹形状の欠陥上を検査ヘッドが走査したときの感熱素子から出力される電位(信号強度)を測定した結果を示すグラフである。
図6】凸形状の欠陥上を検査ヘッドが走査したときの感熱素子から出力される電位(信号強度)を測定した結果を示すグラフである。
図7】磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法及び製造方法、並びに磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を重ねた結果、上述した検査ヘッドが有する感熱素子(MRヘッド)と磁気記録媒体の表面にある突起物(凸形状の欠陥)との接触により発生するサーマル・アスペリティ現象とは別に、磁気記録媒体の表面に形成された波長40μm以上の長周期のうねり(凹形状の欠陥の幅としては20μm以上)に加え、幅10μm以下程度の凹形状の欠陥によっても、サーマル・アスペリティ現象が発生することを見出した。
【0024】
この場合、検査ヘッドと磁気記録媒体の表面とが接触することなくサーマル・アスペリティ現象が発生することになる。また、この幅10μm以下程度の凹形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号と、同程度の大きさの凸形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号とは酷似しており、従来の磁気記録媒体の検査方法によって両者を識別することは困難である。このため、従来の磁気記録媒体の検査方法では、凹形状の欠陥を有する磁気記録媒体についても、凸形状の欠陥を有する磁気記録媒体として誤った判断がなされていた。また、このような誤った判断は、感熱素子から出力される信号が微弱になるほど、その確率が上昇することになる。
【0025】
そこで、本発明者は、感熱素子から出力される信号が、磁気記録媒体の表面にある幅10μm以下程度の凸形状の欠陥によるものか、又は、同程度の大きさの凹形状の欠陥によるものかを判別する方法について、更に検討を行った。その結果、検査対象となる磁気記録媒体の面上において、感熱素子を有する検査ヘッドを走査しながら、この検査ヘッドの高さ(磁気記録媒体との距離)を変化させたときに、凹形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号の変化と、凸形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号の変化に違いが生じることを見出し、この違いによって磁気記録媒体の表面にある欠陥が凸形状又は凹形状を有するかを判別できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0026】
すなわち、本発明は、少なくとも非磁性基板の上に磁性層を有する磁気記録媒体の表面を検査する磁気記録媒体の検査方法であって、検査対象となる磁気記録媒体の面上において、感熱素子を有する検査ヘッドを第1の高さで走査しながら、感熱素子から出力される信号のうち、欠陥部分として特定した箇所の感熱素子から出力される第1の信号を抽出するステップと、この後に、検査ヘッドを第1の高さとは異なる第2の高さで走査しながら、特定した箇所の感熱素子から出力される第2の信号を抽出するステップと、第1の信号と第2の信号とを比較することによって、欠陥部分が磁気記録媒体の表面において凹形状又は凸形状を有するかを判別するステップとを含むことを特徴とする。
【0027】
(磁気記録媒体)
具体的に、図1は、本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法を用いて検査される磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
この検査対象となる磁気記録媒体は、中心孔を有する円盤状の非磁性基板1の両主面に、非磁性下地層2と、磁性層3と、保護層4と、液体潤滑層5とが順次積層されたものからなる。また、検査対象となる磁気記録媒体としては、図1に示す両面タイプのものの他に、非磁性基板1の一方の主面に、非磁性下地層2と、磁性層3と、保護層4と、液体潤滑層5とが順次積層されてなる片面タイプのものであってもよい。また、検査対象となる磁気記録媒体としては、面内磁気記録媒体であっても垂直磁気記録媒体であってもよい。すなわち、本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法は、少なくとも非磁性基板の上に磁性層を有する磁気記録媒体に対して幅広く適用することが可能であり、その積層される各層の種類や数等については適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
(検査装置)
図2は、本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法において用いられる検査装置の一例を示す斜視図である。
この検査装置は、検査対象となる磁気記録媒体Mを所定の回転数で回転させるスピンドルモータ21と、磁気記録媒体Mの表面に対する検査を行う検査ヘッド22と、検査ヘッド22が先端部に取り付けられた支持アーム23と、支持アーム23を磁気記録媒体Mの半径方向に移動させながら、検査ヘッド22を磁気記録媒体Mの面上に位置決めするボイスコイルモータ24と、検査ヘッド22が磁気記録媒体Mの表面を検査する際の信号処理を行う信号処理回路25とを備えて概略構成されている。
【0029】
この評価装置では、同時に3枚の磁気記録媒体Mを検査することが可能であり、3枚の磁気記録媒体Mは、スピンドルモータ21によって同軸中心で同期回転されるようになっている。また、この評価装置は、複数の支持アーム23がピボット23aを中心として同軸回転するように構成されたヘッドスタックアセンブリ23Aを備えている。このヘッドスタックアセンブリ23Aの駆動は、ボイスコイルモータ24によって行われ、ボイスコイルモータ24は、信号処理回路25によってその駆動が制御される。
【0030】
各支持アーム23の先端部に取り付けられた検査ヘッド22には、温度上昇に伴い、抵抗値等の物性値が変化する感熱素子(図示せず。)が設けられている。この感熱素子としては、磁気抵抗(MR)効果を利用したMR素子や、巨大磁気抵抗(GMR)効果を利用したGMR素子、トンネル磁気抵抗(TuMR)効果を利用したTMR素子等(以下、まとめて磁気抵抗素子という。)を用いることができる。
【0031】
また、検査ヘッド22は、磁気記録媒体の表面に対する感熱素子の高さを、磁気記録媒体の回転数(移動速度)を変更することによって、調整することが可能となっている。或いは、感熱素子の近くに配置されたヒーターの発熱により感熱素子付近を膨張又は収縮させることによっても、高さを調整することが可能である。
【0032】
信号処理回路25は、フレキシブルプリント基板26によって、各検査ヘッド22と電気的に接続されており、各検査ヘッド22は、この信号処理回路25によって個々に制御可能となっている。
【0033】
また、この検査装置には、磁気記録媒体Mの交換時に各支持アーム23の先端部に取り付けられた検査ヘッド22を退避させておくための退避エリア27が設けられている。なお、この退避エリア27は、わずかに磁気記録媒体Mと緩衝しているので、磁気記録媒体Mを交換する際には、退避エリア27を各検査ヘッド22と共に移動し、磁気記録媒体Mと退避エリアとを離間させる必要がある。
【0034】
以上のような構造を有する検査装置を用いて、磁気記録媒体Mの表面を検査するサーティファイ検査を行う際は、磁気記録媒体Mをスピンドルモータ21により所定の回転数で回転させると共に、ボイスコイルモータ24によりヘッドスタックアセンブリ23Aをピボット23aを中心に回転制御しながら、各支持アーム23の先端部に取り付けられた検査ヘッド22を磁気記録媒体Mの面上で内外周に亘って走査する。そして、この検査ヘッド22の感熱素子から出力される信号から、磁気記録媒体Mの表面にある欠陥部分を特定し、この特定した箇所において感熱素子から出力される信号が、磁気記録媒体Mの表面にある凸形状の欠陥によるものか、又は、凹形状の欠陥によるものかの判別を、本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法を用いて行う。
【0035】
なお、上記検査装置では、複数枚(本例では3枚)の磁気記録媒体Mを同時に検査する場合を例に挙げて説明したが、磁気記録媒体Mの検査を1枚毎に行うことも可能である。
【0036】
(磁気記録媒体の検査方法)
本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法では、先ず、検査対象となる磁気記録媒体Mの面上において、感熱素子を有する検査ヘッド22を第1の高さ(磁気記録媒体の表面から感熱素子までの第1の高さ)で走査しながら、感熱素子から出力される信号のうち、欠陥部分として特定した箇所の感熱素子から出力される第1の信号を抽出する。
【0037】
ここで、磁気記録媒体の表面にある凸形状の欠陥(幅0.6μm、高さ34nm)のAFM画像を図3(a)に示し、この凸形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号の波形図を図3(b)に示す。
【0038】
この図3(b)に示す感熱素子から出力される信号は、図3(a)に示す磁気記録媒体の表面にある凸形状の欠陥に感熱素子が接触した際のサーマル・アスペリティ現象によるものである。
【0039】
これに対して、磁気記録媒体の表面にある凹形状の欠陥(幅2.9μm、深さ94nm)のAFM画像を図4(a)に示し、この凹形状の欠陥によって感熱素子から出力される信号の波形図を図4(b)に示す。
【0040】
この図4(b)に示す感熱素子から出力信号は、磁気記録媒体Mと検査ヘッド22との間の空気層を通じた感熱素子の放熱によるもので、このような信号は、磁気記録媒体Mの表面と検査ヘッド22との距離が小さくなるほど生じ易くなる。
【0041】
すなわち、従来では、磁気記録媒体の表面にある凹形状の欠陥と感熱素子との衝突はあり得ないため、接触熱による感熱素子の温度上昇、及びこれに起因した信号出力の変化は生じ得ないと考えられていた。これについて本発明者が検討した結果、感熱素子には抵抗変化を検出するための電流が流されているため、それ自体が発熱し、その温度は磁気記録媒体より高くなっている。そして、この感熱素子からの熱は、磁気記録媒体Mと検査ヘッド22との間の空気層を通じて磁気記録媒体に放熱されることになる。このとき、磁気記録媒体Mの表面にある凹形状の欠陥では、磁気記録媒体Mの表面と感熱素子の距離が離れるため、その欠陥の大きさが幅10μm以下程度の微小なものであっても、その放熱が阻害される。これにより、瞬間的に感熱素子の温度が高まり、これが感熱素子のサーマル・アスペリティ現象を生じさせ、その結果、上記図4(b)に示すような信号が出力されることがわかった。
【0042】
次に、検査ヘッド22を上記第1の高さとは異なる第2の高さ(磁気記録媒体の表面から感熱素子までの第2の高さ)で走査しながら、特定した箇所の感熱素子から出力される第2の信号を抽出する。
【0043】
ここで、磁気記録媒体Mの表面にある凹形状の欠陥(凹1番〜凹10番)と、凸形状の欠陥(凸1番〜凸10番)について、その幅及び高さをAFMを用いて測定した結果を表1にまとめて示す。
【0044】
【表1】
【0045】
また、磁気記録媒体Mの表面に対する検査ヘッド22の距離(高さ)[nm]を1〜12nmの範囲で1nm毎に変化させながら、表1に示す凹形状の欠陥(凹1番〜凹10番)上を検査ヘッド22が走査したときの感熱素子から出力される電位(信号強度)[mV]を測定した結果を図5に示す。同様に、表1に示す凸形状の欠陥(凸1番〜凸10番)上を検査ヘッド22が走査したときの感熱素子から出力される信号の電位(信号強度)[mV]を測定した結果を図6に示す。なお、磁気記録媒体の表面は、その表面を平滑とした場合(凹形状及び凸形状の欠陥が存在しない場合)を基準にしている。
【0046】
次に、第1の信号と第2の信号とを比較することによって、欠陥部分が磁気記録媒体Mの表面において凹形状又は凸形状を有するかを判別する。具体的には、第1の高さに対して第2の高さを変化させたときの第1の信号に対する第2の信号の変化が、規則性を有する場合に、欠陥部分が磁気記録媒体の表面において凹形状を有すると判定する一方、不規則性を有する場合に、欠陥部分が磁気記録媒体の表面において凸形状を有すると判定する。
【0047】
すなわち、図5に示すグラフのように、磁気記録媒体Mの表面に凹形状の欠陥(凹1番〜凹10番)が存在する場合、感熱素子から出力される信号は、何れもなだらかな減衰曲線を描いていることがわかる。これは、感熱素子からの熱が磁気記録媒体Mに放熱される際に、その放熱量が磁気記録媒体Mの表面と検査ヘッド22との間の空気層の厚さによって変化し、その変化量が均一となるためと考えられる。
【0048】
これに対して、図6に示すグラフのように、磁気記録媒体Mの表面に凸形状の欠陥(凸1番〜凸10番)が存在する場合、感熱素子から出力される信号は、何れも不均一な曲線を描いていることがわかる。これは、感熱素子から出力される信号は、この感熱素子と凸形状の欠陥との衝突によるため、磁気記録媒体Mの表面に対する検査ヘッド22の距離(高さ)が変化しても、凸形状の欠陥に感熱素子が接触した場合は、サーマル・アスペリティ現象に起因した信号が出力されるためと考えられる。
【0049】
ここで、第1の信号に対する第2の信号の変化が規則性を有するか否かの判断は、上述した信号の変化が、なだらかな減衰曲線となるか否かで行うが、この判断を数値化して行う場合は、第1の信号に対する第2の信号の変化を最小二乗法により曲線に近似し、この近似した曲線と実測値との差を数値化することによって行うことができる。
【0050】
以上のようにして、本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法では、磁気記録媒体Mの表面にある欠陥部分が凹形状又は凸形状を有するかを判別できるため、サーマル・アスペリティ現象や磁気ヘッドの摩耗等の原因となる凸形状の欠陥(突起物)の検出精度を大幅に高めることが可能である。
【0051】
(磁気記録媒体の製造方法)
本発明を適用した磁気記録媒体の製造方法は、上記本発明の検査方法を用いて、磁気記録媒体の表面を検査する工程を含むことを特徴とする。
すなわち、本発明の検査工程では、上述した本発明を適用した磁気記録媒体の検査方法を用いることによって、磁気記録媒体Mの表面にある欠陥部分が凹形状又は凸形状を有するかの判別を行うことができる。そして、この欠陥部分が凸形状の欠陥と判断された場合には、この磁気記録媒体を不合格品と判断する。
【0052】
これにより、上述したサーマル・アスペリティ現象や磁気ヘッドの摩耗等の原因となる凸形状の欠陥(突起物)の検出精度を高めて、製品歩留まりの更なる向上を図ることが可能である。
【0053】
(磁気記録再生装置)
図7は、磁気記録再生装置(HDD)の一例を示す斜視図である。
この磁気記録再生装置は、上記本発明の製造方法を用いて製造された磁気記録媒体30と、この磁気記録媒体を回転駆動する回転駆動部(磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部)31と、磁気記録媒体30に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド32と、磁気ヘッド32を磁気記録媒体30の径方向に移動させるヘッド駆動部(磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動手段)33と、磁気ヘッド32への信号入力と磁気ヘッド32から出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系(記録再生信号処理手段)34とを備えている。
【0054】
この磁気記録再生装置では、上記本発明の検査工程において合格と判断された磁気記録媒体30を用いることによって、更なる信頼性の向上を図ることが可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0056】
本実施例では、上記図1に示す場合と同様の外径2.5インチの磁気記録媒体を製造し、この磁気記録媒体の表面に対して、感熱素子を有する検査ヘッドを用いた検査を行った。
【0057】
また、この検査を行う前に、圧電素子付きヘッドを備えたグライドテスターを用いて、ヘッドのグライド高さ(ヘッドと、表面に欠陥が無いとした場合の磁気記録媒体の表面との距離)を30nmとし、表面に大きな突起物を有する磁気記録媒体を除外するグライド検査を行った。
【0058】
そして、このグライド検査で合格した磁気記録媒体を100枚用意し、各磁気記録媒体に対して、感熱素子を有する検査ヘッドを用いたサーティファイ検査を行った。具体的に、このサーティファイ検査では、グライド高さ(磁気記録媒体の表面から感熱素子までの高さ)を4nmとし、検査ヘッドの感熱素子から出力される信号が500mV以上の欠陥箇所を検知する。そして、この欠陥箇所でグライド高さを1nm単位で10nmまで変化させながら、各高さで感熱素子から出力される信号を測定した。
【0059】
その後、感熱素子から出力された信号、すなわちグライド高さ4nm〜10nmの範囲で感熱素子から出力された信号を、最小二乗法により減衰曲線として近似した。そして、この近似した減衰曲線と実測値との差が5%以下の場合を凹形状の欠陥、5%より高い場合を凸形状の欠陥と判断した。
【0060】
そして、このサーティファイ検査で検出された磁気記録媒体の欠陥箇所をAFMで観察したところ、凹形状の欠陥と判断された6箇所と、凸形状の欠陥と判断された5箇所は、何れも欠陥の形状が上記判断と一致しており、本発明によるサーティファイ検査が正確であることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
1…非磁性基板 2…非磁性下地層 3…磁性層 5…保護層 6…液体潤滑層
M…磁気記録媒体 21…スピンドルモータ 22…検査ヘッド、23A…ヘッドスタックアッセンブリ 23…支持アーム 23a…ピボット 24…ボイスコイルモータ 25…信号処理回路
30…磁気記録媒体 31…媒体駆動部 32…磁気ヘッド 33…ヘッド駆動部 34…記録再生信号処理系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7