特許第5795890号(P5795890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5795890-押出成型用口金及び板状体の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795890
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】押出成型用口金及び板状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 3/26 20060101AFI20150928BHJP
   B29C 47/86 20060101ALI20150928BHJP
   B29C 47/92 20060101ALI20150928BHJP
   B29C 47/14 20060101ALI20150928BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   B28B3/26 Z
   B29C47/86
   B29C47/92
   B29C47/14
   B29L7:00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-143492(P2011-143492)
(22)【出願日】2011年6月28日
(65)【公開番号】特開2013-10220(P2013-10220A)
(43)【公開日】2013年1月17日
【審査請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋介
(72)【発明者】
【氏名】樫田 雅弘
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−137186(JP,A)
【文献】 特開平06−134731(JP,A)
【文献】 特開2002−079509(JP,A)
【文献】 特開平08−217515(JP,A)
【文献】 特開平09−254116(JP,A)
【文献】 特開昭56−129112(JP,A)
【文献】 特開平09−277234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 3/00−5/12
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状体の押出成型に使用される押出成型用口金であって、
前記板状体の厚み方向に温度差を形成させるため、少なくとも一部が厚み方向に温度差を形成させることができる温度調節手段と、
前記板状体の厚み方向に設けられた上型部材および下型部材と、を備え、
前記上型部材と、前記下型部材との間に断熱手段が介在されていることを特徴とする押出成型用口金。
【請求項2】
押出方向へ次第に幅広となるように形成された口金後部材と、前記口金後部材の最大幅と略同一で一定幅に形成された口金前部材とを備え、
前記口金前部材がその厚み方向に温度差を形成させることができるように前記温度調節手段を備えて成ることを特徴とする請求項1に記載の押出成型用口金。
【請求項3】
前記上型部材および前記下型部材に、前記温度調節手段がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の押出成型用口金。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の押出成型用口金で押出成型される板状体の製造方法であって、
前記板状体の厚み方向に温度差を形成させながら押出成型することを特徴とする板状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業系材料等の板状体を成型する際に使用される押出成型用口金並びに板状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築部材等に使用される窯業系材料は、押出成型機により幅広の板状体10に形成されるものであるが、押出成型においては、窯業系材料の硬化速度を適切に調節し、機械的強度を損なわないようにするための方法が種々検討されている。例えば、押出成型させる材料を押出成型機に予熱混練させ、次いで、これを押出金型に導入した後、高周波誘電加熱手段によって誘電加熱することにより、材料を硬化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。このように、押出成型により得られる材料特性が損なわれないようにするために、押出成型機における温度を適宜コントロールすることが一般的に行われているのである。
【0003】
図3は、従来から行われている押出成型を示す一例を示しており、押出成型機に投入された材料が混練されて口金50先端より吐出されて板状体10が得られるものである。尚、図3では、口金50より後方に設置されている押出成型機は省略してある。口金50の上流側(押出方向と反対側)略半分には、ジャケット体3が口金50の周辺を覆うように設けられている(図示のドット部分)。このジャケット体3内には蒸気や冷水を供給できるようになっており、材料流路内を流れる材料の温度を加熱したり冷却したりできるようにしている。そして、このように押出成型時に加熱することで材料の硬化を促進させることができたり、冷却によって成型体の損傷を防いだりしているのである。
【0004】
また、口金50の下流側(出口側)付近の上方には、気流配管31を通じて、熱風もしくは冷風を吹きつけることができる気流ボックス30も設置されている。この気流ボックス30から、口金50より吐出してシート状に形成された板状体10に熱風を吹きつければ(矢印方向)、水分揮発を促進させることができるし、また、冷風を吹きつければ、機械的強度等の材料特性も制御できるのである。さらに、気流ボックス30下部周辺には、材料含有物の作業環境への飛散を防止するためのカバー体35を配置させたり、吸引ホース32を設けたりするなどして、周囲環境への対策も行われているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−197519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図3に示す押出成型における口金50の場合、口金50内の材料流路中を流れる材料の全面が加熱または冷却されるものであった。そのため、例えば、材料流路中を流れる材料の全面が冷却された場合では、吐出した板状体10の裏面側が柔らかくなり過ぎてしまい、変形したりプレス成型金型に材料の付着が発生したりすることがあった。逆に、材料流路中を流れる材料の全面が加熱された場合では、板状体10のポットライフ(使用可能期間)が短くなってしまい、品質面に悪影響を与えることがあった。
【0007】
このように、従来の口金50では、その中を流れる材料の裏面表層部を加熱、それ以外の部分を冷却するといったように、部分的な温度制御ができなかったので、板状体10が変形を起こしてしまったり、その成型時に成型金型に付着したりする問題があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、押出成型させる材料を部位別に温度制御することができ、得られる板状体の変形及び板状体を成型する際の金型への材料付着を抑制することができると共に板状体の品質を向上させることができる押出成型用口金並びに板状体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る押出成型用口金は、板状体の押出成型に使用される押出成型用口金であって、前記板状体の厚み方向に温度差を形成させるため、少なくとも一部が厚み方向に温度差を形成させることができる温度調節手段と、前記板状体の厚み方向に設けられた上型部材および下型部材と、を備え、前記上型部材と、前記下型部材との間に断熱手段が介在されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記押出成型用口金は、押出方向へ次第に幅広となるように形成された口金後部材と、前記口金後部材の最大幅と略同一で一定幅に形成された口金前部材とを備え、前記口金前部材がその厚み方向に温度差を形成させることができるように前記温度調節手段を備えて成ることが好ましい。
【0011】
また、上記押出成型用口金は、前記上型部材および前記下型部材に、前記温度調節手段がそれぞれ設けられていることが好ましい。
【0012】
本発明に係る板状体の製造方法は、上記押出成型用口金で押出成型される板状体の製造方法であって、前記板状体の厚み方向に温度差を形成させながら押出成型することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の押出成型用口金によれば、押出成型させる材料を部位別に温度制御することができ、得られる板状体の変形及び板状体を成型する際の金型への材料付着を抑制することができると共に板状体の品質を向上させることができる。
【0014】
また、上記押出成型用口金で押出成型される板状体の製造方法によれば、押出成型後の変形や成型金型への材料付着を抑制することができ、板状体の品質や生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態の一例を示し、(a)は押出成型用口金の概略図、(b)は押出成型用口金の正面図である。
図2】本発明の他の実施の形態の一例を示す概略図である。
図3】従来例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の押出成型用口金Aの実施の形態の一例を示し、(a)はその概略図を示している。押出成型用口金Aは、押出成型機に取り付けられるものである。押出成型機に投入された材料は、押出成型用口金Aの内部に到達し、押出成型用口金Aの開口部から材料が吐出して、材料が板状等の形状に成型されることになる。尚、図1では押出成型機は省略してある。
【0018】
本発明の押出成型用口金Aは、口金本体1と、その口金本体1の周囲を覆うジャケット体3とで構成されるものである。尚、口金本体1には、押出材料が流入するための入口及び吐出させるための吐出口2aとが形成されているが、この入口及び吐出口2aはジャケット体3で覆われておらず、これら以外の部分がジャケット体3で覆われている。そして、口金本体1には、その内部に材料流路2が形成されており、この材料流路2は、押出成型機に投入された押出成型用の材料が通るための流路の役割を果たす。
【0019】
この実施の形態では、押出成型用口金Aは、口金前部材6aと、口金後部材6bとが連結されて一体的に構成されたものであるが、押出成型用口金Aはこのような構成に限らず、一部材のみで構成されるものであってもよい。押出成型用口金Aが口金前部材6aと、口金後部材6bとが連結されて一体的に構成される場合は、口金前部材6aは、押出方向側(材料の流れにおける下流側)に位置し、口金後部材6bは口金前部材6aの後方(材料の流れにおける上流側)に位置するものである。口金後部材6bは、押出方向へ次第に幅広となるように形成されており、平面視略台形状若しくは平面視略三角形状となっている。従って、口金後部材6bの上流側先端(下流側)が、口金後部材6bの最大幅となっている。そして、口金前部材6aは、口金後部材6bの上流側先端に連結されており、口金後部材6bの最大幅と略同一の幅を保ちながら平面視略矩形状に形成されている。
【0020】
図1(b)は、押出方向側(材料の流れにおける下流側)からの押出成型用口金Aの正面図を示している。この図のように、押出成型用口金Aは断面略矩形状に形成されている。そして、材料流路2の先端(押出方向側)には略矩形状の開口面が吐出口2a(上記の出口に相当)として形成されている。
【0021】
一方、ジャケット体3には、押出成型用口金Aの温度を調節するための温度調節手段5が形成されている。温度調節手段5としては、例えば、ジャケット体3の内部にボックス部4を埋設するように設けることで形成されるものである。具体的には、ボックス部4は、その内部に空洞41を有しており、この空洞41には、温水、冷水、蒸気等が供給可能に形成されている。そのため、押出成型用口金Aを加熱したり、冷却したりすることができ、温度調節手段5としての役割を果たすものとなる。尚、図示は省略してあるが、ボックス部4には、配管やホースなどが外部と連結されており、これによって空洞41に温水、冷水、蒸気等を供給したり、排出したりといったように循環させることが可能となっている。
【0022】
ボックス部4は、ジャケット体3の内部に複数設けるものであり、具体的には、図1(b)に示すように、少なくともジャケット体3の上部及び下部に一体ずつ、それぞれが独立に設けられている。また、ボックス部4は、ジャケット体3の両側端部に設けてもよく、この場合も各ボックス部4はそれぞれが独立に設けられている。
【0023】
ジャケット体3の上部及び下部に設けられたボックス部4は、ジャケット体3の上面及び下面の略全面に亘って設けられてもよいし、少なくともジャケット体3の上面及び下面の略半面に亘って設けられていてもよい。ボックス部4をジャケット体3の上面及び下面の略半面に亘ってそれぞれ設ける場合、特に、押出成型用口金Aの下流側、すなわち、吐出口2aに近い側に設けられていることが好ましい。吐出口2aに近い側に温度調節手段5が設けられることで、吐出口2aから吐出した材料の温度がより調整しやすくなるものとなる。
【0024】
温度調節手段5としては、上記のようにジャケット体3の内部にボックス部4を設けるようにする他、電熱ヒーター等の電熱加熱装置をジャケット体3と連結させて、押出成型用口金Aを加熱できるようにしてもよい。また、電熱加熱装置とボックス部4との組み合わせでもよく、例えば、ジャケット体3の上部にのみボックス部4を設け、ジャケット体3の下部には電熱加熱装置を備え付けるようなものであってもよい。
【0025】
また、図1の実施の形態のように、押出成型用口金Aは、口金前部材6aと、口金後部材6bとが連結されて一体的に構成されるものである場合、温度調節手段5は、上記と同様の理由により、吐出口2aに近い側である口金前部材6aに設けられていることが好ましい。勿論、口金後部材6bの上部及び下部にも同様の構成で温度調節手段5が形成されていてもよい。
【0026】
本実施の形態では、図1(b)に示すように、押出成型用口金Aは、温度調節手段5を備えた上型部材11と、同じく温度調節手段5を備えた下型部材21とが上下に連結されて構成されているものであり、両者は分離可能に形成されている。この場合、口金本体1は、上型部材11又は下型部材21のいずれか一方に嵌めこまれて連結固定されている。勿論、本発明の押出成型用口金Aは、このような上型部材11と下型部材21とで形成される構成に限定されるものではなく、一つの部材のみから構成されていてもよい。
【0027】
そして、上記のように、押出成型用口金Aは、上型部材11と、下型部材21とが連結されて構成される場合、上型部材11と下型部材21との連結部(境界部分に)には、断熱手段8が配設されていることが好ましい。この場合、後述するように、上型部材11と下型部材21との間での熱移動を抑制することができ、エネルギーロスを小さくすることができるのである。
【0028】
断熱手段8としては、熱伝導率の低いパッキン材等を使用することが好ましく、例えば、EPDM、SBR、シリコーンゴム等で構成されるものが挙げられる。
【0029】
上記のように構成される押出成型用口金Aを備え付けた押出成型機において、押出機の原料供給口に成型用材料を投入し、押出成型用口金Aから吐出されて押出成型され、図1に示すように板状体10が得られる。
【0030】
本発明の押出成型用口金Aを押出成型で得られる板状体10としては、押出成形に用いることのできる材料からなるものであれば特に制限されないが、主に窯業系材料であって、特にセメント系成形材料を用いることができる。勿論、各種樹脂等の材料でも押出成型することが可能である。
【0031】
上記セメント系成形材料としては適宜の組成のものを用いることができる。例えば、セメントに必要に応じて骨材、繊維、着色剤等を配合して水と混練することによって調製されるものであり、セメントとしては普通ポルトランドセメント、スラグセメント、アルミナセメント、早強セメントなど任意のものを用いることができる。また、骨材としては、シリカ、珪石粉、珪砂、フライアッシュ、スラグ、砕石等を用いることができる。繊維としてはポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、パルプ、カーボン繊維、綿、麻、金属繊維等を用いることができる。さらに、着色剤としては鉄黒、カーボンブラック、酸化クロム等を用いることができる。
【0032】
また、特にセメント系成形材料として、油性物質を含有すると共に更に必要に応じて非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等の乳化剤(逆乳化剤)を含有させた逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成するものを用いることも好ましい。
【0033】
上記油性物質としては、水と逆エマルジョンを形成しうるものであれば、特に制限はなく、通常疎水性の液状物質が利用され、例えば、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。このうち、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル系重合製単量体)を使用する場合は、基材の硬化成形の際に油性物質の重合反応を促進するために、有機過酸化物や過硫酸塩等の重合開始剤や、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の架橋剤を併用することもできる。
【0034】
上記のように、押出成型用口金Aには、少なくともジャケット体3の上部及び下部に温度調節手段5が設けられているので、押出成型用口金Aの厚み方向(板状体10平面と直交する方向)に温度差を形成させることができるものとなる。具体的に説明すると、例えば、ジャケット体3の上部に設けられたボックス部4には冷水を循環させ、下部に設けられたボックス部4には温水若しくは蒸気を循環させると、ジャケット体3上部は冷却され、ジャケット体3下部は加熱されるものとなる(図1(a)では、加熱部位を斜線、冷却部位をドットで示している)。
【0035】
そして、上記のように押出成型用口金Aの厚み方向に温度差が形成された状態で押出成型を行う場合、押出成型用口金Aの内部において、板状体10の表面は冷却、裏面は加熱されることになり、板状体10の厚み方向でも温度差が形成されるものとなる。そのため、押出成型された板状体10の変形を抑制できると共に成型金型への付着を抑制することができるものとなるのである。特に、押出成型する材料が上述のようにセメント等の無機系の材料である場合、その効果はより顕著なものとなる。すなわち、板状体10の下面側(裏面側)が加熱されることによって、逆乳化の破壊や水分揮発が促進されて材料の硬化が進み、板状体10の下面側の硬さが向上し、押出搬送中に変形してしまうのが抑制される。加えて、材料の搬送スピード(吐出スピード)も高めることが可能となり、生産性を高められるのである。また、押出成型された板状体10を所定の形状に成型する際においても、板状体10が充分硬化されているので、成型機の金型への材料付着を低減することができるものとなる。一方、板状体10の上面側(表面側)は、冷却されることによって、板状体10の過乾燥による材料硬化阻害が防止されて、板状体10のひび割れが抑制されたり、吐出時の変形の際の材料分離が抑制されたりするので、板状体10のポットライフが向上する。このように、押出成型用口金Aでは、板状体10の部位別に同時に別の温度制御を行う事が可能になり、品質及び生産性を同時に高められるものとなる。
【0036】
以上のように、本発明の押出成型用口金Aでは、セメント等の窯業系材料からなる板状体10の製造において、特に有用なものとなるのである。セメント等の窯業系材料のように、加熱によって材料硬化が促進される材料の場合、押出成型用口金Aを使用すると、冷却しながら材料同士を接着、変形をさせることができるので、接着、変形部の分離、ひび割れを抑制できる。特に、押出成型用口金A内部では、材料の接着、分離、変形が生じているので、上記のように冷却することで、得られる板状体10の品質悪化を防ぐことができる。その一方で、冷却面と逆の面は加熱することができるので、押出成型用口金Aから吐出された板状体10の硬化が促進され、搬送が円滑に行われ、上述のように金型への材料付着も抑えられるのである。従って、押出成型用口金Aを用いて上記のように、板状体10の厚み方向に温度差を形成させながら押出成型して板状体10を製造すれば、品質が良好なものを得ることができ、生産性という観点からも優れているのである。
【0037】
上記窯業系材料を押出成型用口金Aで押出成型する場合、例えば、温度調節手段で加熱する温度は30〜40℃が好ましく、温度調節手段で冷却する温度は5〜10℃で行うことができる。加熱、冷却温度がこれらの範囲であれば、得られる板状体10の品質低下を損なうおそれが小さくなる。
【0038】
また、押出成型用口金A内で加熱や冷却が行われるので、従来使用されていたように、吐出直後に図3に示したような気流ボックス30等を設置する必要もなくなるのである。そして、押出成型用口金A内の密閉状態で加熱、冷却されることで、材料からの揮発成分(例えば、スチレン等)の飛散や拡散を防止することも可能となる。また、押出成型用口金A内で加熱体や冷却体を密着させながら加熱、冷却が行えるので、エネルギーロス低減や加熱冷却時間の短縮も可能となる。さらに、上記理由により気流ボックス30が不要になるので、生産投資コストの削減や生産ラインのコンパクト化を行うこともできるものとなる。
【0039】
また、押出成型用口金Aが図1の実施の形態のように、口金前部材6aと、口金後部材6bとで構成される場合、例えば、口金前部材6aの下部(図示では下型部材21)を加熱し、口金前部材6aの上部(図示では上型部材11)を冷却することに加えて、口金後部材6bの上部及び下部を冷却することもできる。このように、材料が口金前部材6aに到達する前にあらかじめ口金後部材6bにおいて冷却を加えることで、押出成型された板状体10のひび割れ、変形等をさらに抑制できるものとなり、品質がさらに向上するという利点がある。
【0040】
上述のように、押出成型用口金Aは、上型部材11と、下型部材21とが連結されて構成される場合、上型部材11と下型部材21との連結部に断熱手段8が介在されれば、型部材11と下型部材21との間での熱移動が抑制される。そのため、押出成型用口金Aのエネルギーロスが低減され、さらに、押出成型用口金Aの上部、下部の温度がより安定するので、押出成型で得られる板状体10の品質が一層向上するものとなる。
【0041】
上記の例では、板状体10の上面を冷却し、下面を加熱するようにしてあるが、図2に示すように、板状体10の上面は加熱し、下面は冷却するといったようにしてもよい。この場合は、板状体10の表面表層部が加熱されて硬化が促進し、押出成型された板状体10を所定の形状に成形する際、成型金型への材料付着を防止できる。また、表面以外は冷却されることでより板状体10のポットライフを伸ばすことができ、成型時の応力を緩和させ、板状体10の生産性、品質を向上させることが可能となる。
【0042】
このように、本発明の押出成型用口金Aでは、必要に応じて板状体10の上面を加熱、下面を冷却、あるいはその逆、さらには両面とも加熱したり、冷却したりできるものであるが、材料の種類や用途等、目的に応じて適宜変更することが可能である。
【0043】
本発明の押出成型用口金Aを用いて板状体10を押出成型する場合、図1(a)のように、押出成型用口金Aの直後(押出方向側)に、吸引機構15を設置させておくことが好ましい。この場合、板状体10から揮発する成分を吸引することができ、吸引機構15に連結されている吸引管16を通じて回収することができ、衛生環境に優れるものとなる。しかも、上述のように、本発明の押出成型用口金Aを使用する押出成型では、気流ボックス30が不要であるので、大型のフードや能力の高い吸引機構15を設置する必要性が小さくなるのである。すなわち、気流ボックス30からの気流がある場合には、気流による揮発分の拡散を考慮して比較的能力の高い吸引機構15が必要であったが、押出成型用口金Aを使用する押出成型では、気流の影響がないので揮発分の拡散を考慮しなくてもよい。そのため、板状体10から揮発するための最小限のフードと吸引能力を有する吸引機構15を備えるだけで充分であり、投資コストの削減や生産設備のコンパクト化が可能になり、また、材料ロスも少なくすることができる。
【実施例】
【0044】
本発明の押出成型用口金Aを用いて板状体10を押出成型を実施した一例を具体的に説明する。
【0045】
成型材料としては以下の材料を使用した。
・セメント(30質量部)
・骨材(62質量部)
・ポリプロピレン繊維(2質量部)
・オレイン酸系乳化剤(1質量部)
・スチレンモノマー(5質量部)
・t-ヘキシルパーオキシー2−エチルヘキサノエート(0.1質量部)
・トリメチロールプロパントリメタクリレート(0.05質量部)
また、押出成型用口金Aとしては、図1に示すものと同様の押出成型用口金Aを使用した。そして、押出成型用口金Aの上部の温度調節手段5により、板状体10の上面は冷却されるようにし、下部の温度調節手段5により、板状体10の下面は加熱されるようにした。具体的には、ジャケット体3の上面(上型部材11の上面)の表面温度は7℃、ジャケット体3の下面(下型部材21の下面)の表面温度は35℃であった。
【0046】
上記条件で得られた板状体10を20分間放置した後の板状体10の表面及び裏面の温度を計測したところ、それぞれ10℃、30℃であり、このときの硬度をアスカーC型硬度計で測定したところ、それぞれ60、70であった。このことから、加熱した側である裏面側の方が冷却した表面側よりも硬いものであることがわかった。また、板状体10にはひび割れや変形等は見られず、表面、裏面共に硬さに問題はなく、優れた品質のものであった。
【0047】
さらに、板状体10を成型機にて所定の形状に成型したところ、成型金型への材料の付着は見られなかった。
【0048】
従って、板状体10は、押出成型用口金Aによって、板状体10の厚み方向に温度差を形成させながら押出成型されたものであるので、変形や成型金型への材料付着が抑制されたものであり、品質に優れるものであった。
【符号の説明】
【0049】
A 押出成型用口金
5 温度調節手段
6a 口金前部材
6b 口金後部材
8 断熱手段
10 板状体
11 上型部材
21 下型部材
図1
図2
図3