(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る最適化装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0025】
<第1の実施形態>
≪構成≫
図1は、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置が適用された熱間圧延システムの構成を示した構成図である。
【0026】
図1に示すように、熱間圧延システム300は、第1の実施形態に係る最適化装置1と、熱間で圧延材を圧延する熱間圧延装置100と、熱間圧延装置100を制御する制御装置200とを備えており、最適化装置1は、制御装置200に接続されている。
図1中の矢印は、熱間圧延装置(熱間圧延ライン)において圧延される圧延材150が搬送される搬送方向を示している。一般的に、圧延材150は、熱間圧延装置において圧延される過程において、スラブ、バー、コイルとも呼ばれるが、ここでは、圧延材150という呼称で統一するものとする。
【0027】
図1に示すように、熱間圧延装置100は、加熱炉101と、プライマリデスケーラ103と、粗エッジャ105と、粗圧延機107と、粗出側板幅計109と、バーヒータ110と、粗出側温度計111と、仕上入側温度計113と、クロップシャー115と、セカンダリデスケーラ117と、仕上圧延機119と、仕上出側板厚計121と、マルチゲージ123と、仕上出側温度計125と、平坦度計127と、ランアウトテーブル129と、コイラ入側温度計131と、コイラ入側板幅計133と、コイラ135とを備える。
【0028】
加熱炉101は、圧延材150を加熱するための炉である。
【0029】
プライマリデスケーラ103は、加熱炉101の加熱により圧延材150表面に形成された酸化膜を、圧延材150の上下方向から高圧水を噴射することにより除去する。
【0030】
粗エッジャ105は、熱間圧延ライン上面方向から見て、圧延材150の幅方向の圧延を行う。
【0031】
粗圧延機107は、単数又は複数スタンドを備え、圧延材150の上下方向の圧延を行う。また、粗圧延機107は、温度低下防止等の観点から、ライン長を短くする必要があり、さらに複数パス(搬送方向に対する往復運動)による圧延が必要であることから、可逆式圧延機を含んで構成される場合が多い。また、粗圧延機107は、半製品である圧延材150に高圧水を噴射し、表面の酸化膜を除去するためのデスケーラを備えている。圧延は、高温で行われるため、酸化膜が形成されやすく、このような酸化膜を除去するための装置を適宜用いる必要がある。
【0032】
粗出側板幅計109は、圧延中の半製品である圧延材150の板幅を測定する。
【0033】
バーヒータ110は、粗圧延機107により圧延された圧延材150を加温する。
【0034】
粗出側温度計111は、圧延中の半製品である圧延材150の表面温度を測定する。
【0035】
仕上入側温度計113は、粗圧延機107と仕上圧延機119の間の距離が長いため、仕上圧延機119の入口における圧延材150の表面温度を測定する。
【0036】
クロップシャー115は、圧延材150の先尾端部を切断する。
【0037】
セカンダリデスケーラ117は、粗圧延機107と仕上圧延機119の間の距離が長いため、仕上圧延機119の入口に設けられ、仕上圧延後の圧延材150の表面性状を良くするため、粗圧延された圧延材150表面に形成される酸化膜を、圧延材150の上下方向から高圧水を噴射することにより除去する。
【0038】
仕上圧延機119は、スタンドと呼ばれる圧延ロールが複数列設置されたタンデム式が採用されており、複数の圧延ロールで上下方向に圧延することにより、目標板厚の圧延材150を得ることができる。この仕上圧延機119のスタンドおよびスタンド間には、酸化膜形成を抑制するため、及び温度制御を行うために、スプレーが備えられている。
【0039】
仕上出側板厚計121は、仕上圧延機119により圧延された圧延材150の板厚を測定する。
【0040】
X線測定器の一種であるマルチゲージ( Multi-Channel Gauge)123は、X線の検出器を圧延材150の幅方向に並べた形態をしており、幅方向における板厚分布が測定できることから、板厚、クラウン、板幅など複数の種類のプロセス値を1台で測定できる複合型測定器である。
【0041】
仕上出側温度計125は、仕上圧延機119による圧延後の圧延材150の表面温度を測定する。圧延材150の温度は、製品の金属組織の形成や材質と密接に関連しており、適切な温度に管理される必要がある。
【0042】
平坦度計127は、仕上圧延機119による圧延後の圧延材150の平坦度を測定する。また、平坦度計127は、複数のCCDカメラを備えており、圧延材150の板幅を測定することも可能である。
【0043】
ランアウトテーブル129は、圧延材150の温度を制御するために、冷却水により圧延材150を冷却する装置である。これらには、通常のランアウトテーブル冷却装置に加えて、前後に強制冷却装置が備えられることもある。
【0044】
コイラ入側温度計131は、ランアウトテーブル129により冷却された圧延材150の表面温度を測定する。圧延材150の温度は、圧延製品の金属組織の形成や材質と密接に関連しており、適切な温度に管理される必要がある。
【0045】
コイラ入側板幅計133は、ランアウトテーブル129により冷却された圧延材150の板幅を測定する。通常の圧延では、オーステナイト域まで加熱された圧延材150は、ランアウトテーブル129においてフェライトやパーライトなどの組織に変態するため変態後の板幅を測定する。また、仕上圧延機119出側で約860℃前後、コイラ135入側で約600℃前後であることから、より室温に近い状態で測定することにより、線膨張による室温との誤差がより少ない状態で板幅を測定することができる。
【0046】
コイラ135は、圧延材150を搬送するために巻き取る。
【0047】
制御装置200は、製品である圧延材150の品質を確保するための品質制御として、圧延材150の寸法制御と温度制御を行う。
【0048】
制御装置200は、寸法制御として、圧延材150の幅方向中央部の板厚を制御する板厚制御、板幅を制御する板幅制御、幅方向板厚分布を制御する板クラウン制御、圧延材150の幅方向の伸びを制御する平坦度制御を行う。
【0049】
また、制御装置200は、温度制御として、仕上圧延機119出口の温度を制御する仕上出口温度制御と、コイラ135前の温度を制御する巻取温度制御とを行う。
【0050】
圧延材150の製品品質を決定する際に重要なのが、制御設定値を算出する設定計算や品質制御である。設定計算では、例えば、粗圧延機107及び仕上圧延機119に圧延材150が噛み込まれる前に、予め圧延ロールのロールギャップ、ロール速度が初期計算で算出され、これにより安定な通板が確保される。仕上圧延機119の冷却水の初期設定及び巻き取り温度制御の初期設定は、予め適切に行われる必要がある。
【0051】
例えば、板幅制御において、板厚精度の向上を阻害する外乱としては、圧延材150の温度変動がある。加熱炉101で加熱される圧延材150は、加熱炉101の構造上スキッドマークという低温部分ができる場合がある。この低温部分は硬くなるので、板厚は厚くなり、また板幅も変化する。
【0052】
ここで、圧延材150の温度と品質の関係について説明する。加熱炉101において圧延材150を十分加熱していないと、スキッドマークが顕著に現れ、圧延材150の搬送方向に板厚偏差がスキッドマークの周期で現れる。
【0053】
特に、圧延材150の材質としてマイクロアロイ鋼が用いられる場合、加熱炉101からの抽出温度の変化によって、期待したマイクロアロイの効果が得られないことが懸念される。マイクロアロイ鋼は、ニオブやバナジウムに代表されるマイクロアロイを添加し、組織を微細化した鋼である。船舶やパイプラインをはじめとする用途で使用される厚板および熱間圧延鋼材は、高い強度、靭性、溶接性、加工性が要求される。
【0054】
この強度と低温靭性の両立には組織の微細化が有効であり、熱間圧延の条件を適正化しオーステナイト状態を調整し(制御圧延)、制御圧延後にオーステナイト−フェライト変態温度領域で急冷することで(制御冷却)、フェライト組織を微細化するTMCP(Thermo-Mechanical Control Process)を用いることも有効である。
【0055】
ニオブやバナジウムに代表されるマイクロアロイは、TMCPの効果を大きくする。その効果として、例えば、加熱炉101等の加熱工程においては、析出物のピンニング(pinning)効果により結晶粒の成長が抑制される。また、粗圧延機107や仕上圧延機119等の圧延工程においては、固溶元素によるソリュートドラッグ(solute drag)効果、加工による析出物のピンニング効果によって回復および再結晶が抑制されるため、フェライトの粒内析出が促進され、フェライト粒が微細化される。さらに、ランアウトテーブル129等の冷却工程においては、析出物による析出強化によって、最終製品の強度が向上されること、などが知られている。
【0056】
このように、マイクロアロイ鋼は広く用いられているが、十分加熱されない場合、マイクロアロイの固溶量が十分得られず、固溶マイクロアロイによるソリュートドラッグ効果が減少することや、抽出後、圧延中および冷却中の析出量が減少し、析出物によるピンニング効果が減少することが懸念される。
【0057】
また、低温の圧延材150を圧延する場合、硬い材料を圧延することになるので、粗圧延機107及び仕上圧延機119の圧延動力がより多く必要となり、粗圧延機107及び仕上圧延機119を駆動する駆動装置の消費エネルギーが増加する。
【0058】
さらに、近年、圧延材150の圧延製品に対して顧客が要求する仕様は厳しくなる一方であり、とりわけ圧延製品の寸法形状に加え、強度及び延性などの機械的性質を許容範囲内に収めることが重要となっている。鉄鋼をはじめとする金属材料において、強度(降伏応力、耐力、硬さなど)、靱性(脆性遷移温度など)、成形性(r値など)などの機械的性質は、その合金組成だけでなく、加熱条件、加工条件、及び、冷却条件によっても変化する。合金組成の調整は、成分元素の添加量を制御することで行うが、成分調整時にはたとえば100トン前後の溶鋼を保持できる成分調整炉を用いるなど、1つのロット単位が大きく、15トン前後になる個々の製品ごとに添加量を変更することは非常に困難である。したがって、所望の材質の製品を製造するためには、加熱条件、加工条件、及び、冷却条件を適正にし、材質を造り込むこと、すなわち目標とする機械的性質などの材質を達成することが重要である。
【0059】
一方、昨今の世界的な環境問題への取り組みや関心への高まりを受けて、二酸化炭素(CO
2と記す)に代表される温暖化ガスを低減することも重要である。
【0060】
上述したように、省エネルギーの実際の方策としては、たとえば粗圧延機107や仕上圧延機119で圧延していない時間、いわゆるアイドル(idle)時間に、ロール回転速度を落とし、電気エネルギーを省エネルギー化する方法がある。また粗圧延機107や仕上圧延機119では大量の冷却水、油圧系の油、ブロアの空気を使用するので、粗圧延機107や仕上圧延機119に水、油、空気を供給するポンプの台数制御や起動・停止制御において、省エネルギー化を図ることも考えられる。
【0061】
また、熱間圧延装置100で使用されるエネルギーは、燃料エネルギーが約60%を占め、電気エネルギーの34%と比較して大きい。そのため、燃料エネルギーの省エネルギー化を行うことが、熱間圧延装置100で消費される総エネルギーの省エネルギー化にとって、効果的である。燃料エネルギーは、主として加熱炉101において消費される。そのため、加熱炉101における燃料エネルギーの省エネルギー化を図るため、加熱炉101に着目した制御を行うことが効果が大きい。
【0062】
そこで、第1の実施形態に係る最適化装置1は、熱間圧延装置100を制御する制御装置200に接続され、熱間圧延装置100により圧延された圧延材150の製品品質を確保しつつ、加熱炉101を中心に熱間圧延装置100における使用エネルギーが最小になるように、制御装置200による熱間圧延装置100の制御を最適化する。
【0063】
図1に示すように、最適化装置1は、CPU11と、ROM12と、RAM13と、入力部14と、表示部15と、ハードディスク16とを備えており、それぞれは、バス20を介して接続されている。
【0064】
ROM12は、不揮発性半導体等で構成され、CPU11が実行するオペレーションシステム及び最適化プログラムを記憶している。
【0065】
RAM13は、揮発性半導体等で構成され、CPU11が各種処理を実行する上で必要なデータを一時的に記憶する。
【0066】
ハードディスク16は、CPU11が最適化プログラムを実行する上で必要な情報を記憶している。
【0067】
CPU11は、最適化装置1の中枢的な制御を行う。
【0068】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるCPU11の構成を示した構成図である。
【0069】
図2に示すように、CPU11は、最適化プログラムを実行することにより、その機能上、設定計算部31と、材質予測計算部32と、エネルギー量計算部33と、最適化部34とを備える。
【0070】
設定計算部31は、安定かつ高精度に圧延材150を圧延するための制御設定値、即ち加熱炉条件や加熱炉抽出後の圧延操業パラメータなどの計算を行う。
【0071】
例えば、設定計算部31は、常温での圧延材150の寸法や重量が外部から入力され、これを加熱炉101に装入して所望の抽出温度まで上昇させる場合、何度の雰囲気温度の中を何時間在炉すればよいかを計算する加熱炉設定計算を実行する。
【0072】
また、設定計算部31は、設定計算を実行する。例えば、設定計算部31は、加熱炉101から抽出された圧延材150の寸法や温度に基づき、圧延荷重、変形抵抗、圧延トルク、圧延パワーなどについて数式を用いた圧延モデルを使用して予測し、安定圧延のための制御設定値である仕上出側圧延速度設定値、ロールギャップ設定値などを計算する。
【0073】
さらに、設定計算部31は、圧延材材長や圧延材150の加減速の計算値に基づき、各時刻における仮想圧延材の位置を加熱炉101からコイラ135での巻き取り完了まで予測する。そして、設定計算部31は、圧延材150の熱収支を周辺雰囲気への輻射、空気対流、冷却水対流、変態、加工による発熱、ロールへの伝熱などを考慮した温度モデルを使用して、加熱炉抽出温度や仕上出側目標温度や巻き取り目標温度に基づき、プライマリデスケーラ103、セカンダリデスケーラ117、仕上圧延機119、及びランアウトテーブル129のスプレーの設定および各地点での圧延材150の温度を計算する。
【0074】
材質予測計算部32は、設定計算部31により計算された制御設定値で圧延を行った場合の、巻き取り後の降伏応力や引張強さなどの機械的性質などの圧延材150の材質を予測する。例えば、材質予測計算部32は、金属組織情報および化学成分に基づいて、降伏応力や引張強さなどの機械的性質などに代表される材質を予測する。一例として、第173・174回西山記念技術講座「熱延鋼材の組織変化および材質の予測」((社)日本鉄鋼協会刊)のP125に掲載されている。
【0075】
巻き取り後の金属組織には、フェライト粒径、フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトなどの各相体積率、中間データとしてオーステナイト粒径などがある。そこで、材質予測計算部32は、圧延材の化学成分や、設定計算部31により算出された圧延時の温度、荷重などの予測値に基づき、冶金現象を数式化したモデルを使用し、金属組織の変化を予測する。
【0076】
この冶金現象を数式化したモデルには、様々なものが提案されており、静的回復、静的再結晶、動的回復、動的再結晶、粒成長などを表す数式群からなるものが広く知られている。一例として、塑性加工技術シリーズ7板圧延(コロナ社)P198〜229に一例が掲載されている。これらにより粒径やフェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトの体積率などを把握することができる。
【0077】
エネルギー量計算部33は、設定計算部31の計算結果に基づき、計算対象の圧延材150を圧延する上で必要なエネルギー量を計算する。
【0078】
図3は、圧延材150が消費するエネルギーの一例を説明した図である。
【0079】
図3に示すように、圧延材150の消費するエネルギー201は、熱エネルギー202、加工エネルギー203、搬送エネルギー204、噴射エネルギー205に分けられる。
【0080】
熱エネルギー202は、加熱炉101によって圧延材150が加熱される際に消費する加熱消費エネルギー206と、プライマリデスケーラ103、セカンダリデスケーラ117、仕上圧延機119、及びランアウトテーブル129において、圧延材150が空冷、及びスプレーにより水冷される際に消費する冷却消費エネルギー207がある。圧延材150の圧延中および冷却中に圧延材150の内部で変態が生じる場合のエネルギーも熱エネルギー202に含められる。また、圧延ラインの途中でバーヒータ110等により圧延材150が加熱される場合のエネルギーも、熱エネルギー202に含められる。
【0081】
加工エネルギー203は、粗エッジャ105、粗圧延機107、仕上圧延機119において、圧延材150が変形される時に消費するエネルギーである。
【0082】
搬送エネルギー204は、圧延材150が搬送テーブルで圧延ライン上で搬送される時に消費するエネルギーである。
【0083】
噴射エネルギー205は、プライマリデスケーラ103、セカンダリデスケーラ117等のデスケーラにおける水噴射でスケールが除去される際に消費するエネルギーである。
【0084】
図4は、設備毎に消費するエネルギーの区分の一例を示した図である。
【0085】
図4では、圧延ラインにおいて圧延に直接関わる設備が消費するエネルギーと、この設備を駆動する駆動装置が消費するエネルギーとを区分して示している。
【0086】
図4に示すように、加熱炉101では、重油や天然ガスなどの化石燃料を燃やすことが多く、燃料エネルギー310が消費される。バーヒータ110では、誘導加熱で加熱され、電気エネルギー311が消費される。ランアウトテーブル129では、空冷およびヘッドタンクから供給される冷却水による水冷が行われる。冷却水には循環水を用いられることが多く、冷却に使用された水は、ピットにて回収され、ろ過および冷却の過程を経て、再び冷却に用いられる。ヘッドタンクには、冷却水タンクからポンプを用いて揚水される。そのため、ランアウトテーブル129、仕上圧延機119等のスプレー、プライマリデスケーラ103、セカンダリデスケーラ117等のデスケーラには、ポンプ駆動用電動機301が備えられており、ポンプ駆動用電動機301によるポンプ駆動のための電気エネルギーが消費される。
【0087】
粗圧延機107及び仕上圧延機119では、ロールが圧延機駆動用電動機302によって駆動されるので、電気エネルギーが消費される。
【0088】
圧延材150の搬送にも電力が必要であり、搬送用テーブルを駆動するテーブル駆動用電動機303において、電気エネルギーが消費される。
【0089】
エネルギー量計算部33は、圧延に必要なエネルギーの計算を以下のように行う。
【0090】
まず、圧延材が加熱炉101で消費するエネルギー量を以下のように計算する。たとえば、重量15tonの圧延材150が常温(30℃)から1230℃まで昇温されたとすると、鋼鉄の比熱を0.5kJ/kg/Kとすると、その圧延材150は9,000,000kJ(=0.5X1、200X15、000)の熱エネルギーを受けたことになる。
【0091】
エネルギー量計算部33は、比熱、初期温度、最終温度、重量に基づいて、圧延材150の昇温に直接的に必要なエネルギー量を計算する。加熱炉101内の圧延材150を加熱する場合は、雰囲気温度も上昇させなければならず、また壁を伝って熱が逃げる等の効率の低下があるので、圧延材150の昇温に直接的に消費されるエネルギーのほか、間接的に必要なエネルギーがある。加熱炉101には複数本の圧延材150があり、間接的に必要なエネルギーはそれら全てに係わるエネルギーである。
【0092】
そのため、エネルギー量計算部33は、ある計算対象の圧延材150の1本あたりに間接的に必要なエネルギー量を在炉本数、圧延材150のスラブサイズ、在炉時間を考慮して計算する。加熱炉101において必要なエネルギー量は、上記の圧延材150の昇温に直接的に必要な燃料エネルギーと、圧延材150の1本あたりに間接的に必要な燃料エネルギーとを加算したエネルギー量である。
【0093】
エネルギー量計算部33は、加熱炉101で消費する熱エネルギーと同様に、比熱、初期温度、最終温度、重量に基づいて、圧延材150がバーヒータ110で消費するエネルギー量を計算する。電気エネルギーから熱エネルギーへの変換効率を考慮した電気エネルギーの消費量が、バーヒータ110における誘導加熱に必要なエネルギー量である。
【0094】
次に、エネルギー量計算部33は、ランアウトテーブル129における冷却に必要なエネルギー量を、たとえば以下のように計算する。
【0095】
ランアウトテーブル129での冷却は、一旦ヘッドタンクに蓄えられた水を用いることにより行われる。このヘッドタンクは圧延ラインが設置されている位置よりも上方に設置され、この位置の差を利用して各スプレーに水を供給する。このため、ポンプなどを使って一旦水をヘッドタンクに揚げなければならない。
【0096】
エネルギー量計算部33は、設定計算部31で計算される各時刻でオン状態に設定されたスプレー数[本]をC、各スプレーが放出する冷却水流量[m
3/H]をFSとすると、CとFSとに基づいて、下記の(数式1)を用いて、ランアウトテーブル129で用いられる冷却水の総量FT[m
3]を算出する。
【0097】
FT=∫(C×FS) dt (数式1)
そして、エネルギー量計算部33は、算出した冷却水の総量FT[m
3]と、計算対象の圧延材150と、直前に搬送された前材である圧延材150との冷却間隔T[H]と、前材の冷却終了時にタンクで余剰している水量[m
3]とに基づいて、ポンプの揚水速度[m
3/s]を算出する。その際に電動機で消費される電気エネルギー量は、ポンプおよび電動機の特性から計算でき、これがすなわちランアウトテーブル129における冷却に必要なエネルギー量となる。
【0098】
エネルギー量計算部33は、たとえば、噴射時のポンプ運転とアイドル時のポンプ運転のそれぞれの場合に、電動機で消費される電気エネルギー量を計算し、それらを加算することにより、デスケーラやスプレーで必要なエネルギー量を計算する。
【0099】
次に、エネルギー量計算部33は、圧延材150の加工に必要なエネルギー量を計算する。圧延材150の加工や変形に必要なエネルギーは、主に圧延スタンドで消費される。圧延スタンドでの現象は、設定計算部31における圧延モデル式で記述される。すなわち、エネルギー量計算部33は、圧延材150の特性や材料温度に従って、変形抵抗を計算し、変形抵抗に基づいて圧延荷重を計算し、圧延荷重に基づいて材料の変形に必要な圧延トルクを計算する。電動機が出力すべきトルクは、圧延トルクにロストルクと加速トルクを加えた値になる。
【0100】
エネルギー量計算部33は、電動機が必要とする電力量E[J]を下記の(数式2)及び(数式3)を用いて算出する。ここで、電力をP[W]、トルクをT[N・m]、回転速度をV[rad/s]、時間をt[H]とする。
【0101】
P=T×V (数式2)
E=P×t (数式3)
さらに、エネルギー量計算部33は、圧延材150の圧延に必要なトルクを予測し、仕上出側圧延速度を決定し、圧延材150の搬送方向における長さから圧延時間を算出する。そして、エネルギー量計算部33は、算出した電力量E[J]と圧延時間とに基づいて、圧延材150の圧延に必要な電気エネルギー量[kJ = kW時]を、圧延材150の加工に必要なエネルギー量として算出する。
【0102】
次に、エネルギー量計算部33は、圧延材150の搬送に必要な電気エネルギー量を算出する。圧延材150は複数台の電動機で分担して搬送されるので、エネルギー量計算部33は、1台の電動機について、分担する圧延材150の重量からトルクを算出し、圧延材150の長さと搬送速度とに基づいて搬送時間を算出する。そして、エネルギー量計算部33は、このトルクと搬送時間とに基づいて、上述した(数式2)及び(数式3)とを用いて、圧延材150の搬送に必要な電気エネルギー量[kJ]を算出する。なお、圧延材150の搬送に必要な電気エネルギー量には、加熱炉101内において圧延材150を搬送するために必要な電気エネルギー量も加算される。
【0103】
そして、エネルギー量計算部33は、圧延材150の圧延に必要な総エネルギー量として、上記の各設備で必要な燃料エネルギーに電気エネルギーを加算したエネルギー量として算出する。
【0104】
最適化部34は、加熱炉条件および加熱炉抽出後の圧延操業パラメータを最適化し、最終材質を確保しつつ、消費エネルギーを低減する。具体的には、最適化部34は、材質予測計算部32により予測された材質が外部入力された要求材質を満たす範囲内で、エネルギー量計算部33により算出された圧延材150の圧延に必要な総エネルギー量を最小にする熱間圧延装置100の制御設定値を設定計算部31に算出させる。
【0105】
≪作用≫
本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1の作用について説明する。
【0106】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1による処理のフローを示すフローチャートである。
【0107】
図5に示すように、まず、設定計算部31は、加熱炉条件と圧延操業パラメータとの初期値が外部から供給されたか否かを判定する(ステップS101)。ここでは、一例として、加熱炉条件として加熱炉抽出温度が供給され、加熱炉抽出後の圧延操業パラメータとして仕上出側圧延速度が供給された場合を例に挙げて説明する。なお、抽出温度および仕上出側圧延速度の初期値は、たとえば鋼種や仕上目標板厚などで区分されるテーブルを予めROM12に記憶しておき、設定計算部31が、ROM12に基づいて、外部から供給された鋼種や仕上目標板厚に対応する加熱炉抽出温度及び仕上出側圧延速度を抽出するようにしてもよい。
【0108】
次に、設定計算部31は、加熱炉設定計算を実行する(ステップS102)。具体的には、設定計算部31は、常温における圧延材150の寸法及び重量に基づいて、圧延材150を加熱炉抽出温度まで加熱するために、加熱炉101内で何時間在炉させればよいのかを算出する。
【0109】
そして、設定計算部31は、設定計算を実行する(ステップS103)。具体的には、設定計算部31は、供給された加熱炉抽出温度及び仕上出側圧延速度の初期値で圧延する場合に、圧延材150の目標とする厚み、幅、仕上出側温度、及び巻き取り機前温度を達成するように、安定に圧延されるロールギャップ設定値などのその他の圧延条件を算出する。また、設定計算部31は、圧延材材長や圧延材の加減速の計算値に基づき、各時刻における仮想圧延材の位置を加熱炉101からコイラ135での巻き取り完了まで予測し、圧延材150の熱収支を周辺雰囲気への輻射、空気対流、冷却水対流、変態、加工による発熱、ロールへの伝熱などを考慮した温度モデルを使用して、加熱炉抽出温度や仕上出側目標温度や巻き取り目標温度に基づき、プライマリデスケーラ103、セカンダリデスケーラ117、仕上圧延機119、及びランアウトテーブル129のスプレーの設定および各地点での圧延材150の温度を計算する。
【0110】
次に、材質予測計算部32は、材質予測計算を実行する(ステップS105)。具体的には、材質予測計算部32は、設定計算部31により計算された制御設定値で圧延を行った場合の、巻き取り後の降伏応力や引張強さなどの機械的性質などの圧延材150の材質を予測する。ここでは、材質として、巻き取り後の引張強さ(TS
cal)を予測する例を挙げて説明する。
【0111】
最適化部34は、材質が要求材質を満たすか否かを判定する(ステップS107)具体的には、最適化部34は、算出された引張強さの予測値(TS
cal)が、予め定められた要求材質(TS
th)以上であるか否かを判定する。
【0112】
ステップS107において、要求材質を満たさないと判定された場合(NOの場合)、最適化部34は、繰返計算制限回数以内か否かを判定する(ステップS109)。この繰返計算制限回数には、予め任意の数として設定されている。
【0113】
ステップS109において、繰返計算制限回数以内であると判定された場合(YESの場合)、最適化部34は、圧延操業パラメータである仕上出側圧延速度をΔV m/sだけ変更する(ステップS111)。
【0114】
一方、ステップS109において、繰返計算制限回数を超えたと判定された場合(NOの場合)、最適化部34は、加熱炉条件である加熱炉抽出温度をΔT℃だけ変更する(ステップS113)。
【0115】
このようにして、設定計算部31と、材質予測計算部32と、最適化部34とが、ΔVおよびΔTを変更しながら、繰り返し計算を行うことにより、加熱炉条件である加熱炉抽出温度と、圧延操業パラメータである仕上出側圧延速度とを仮決定する。
【0116】
一方、ステップS107において、材質が要求材質を満たすと判定された場合(YESの場合)、エネルギー量計算部33は、加熱炉目標抽出温度、仕上出側圧延速度、及び設定計算部31で計算した圧延条件に基づいて、熱間圧延装置100で消費される総エネルギー量を算出する(ステップS115)。
【0117】
次に、最適化部34は、エネルギー量計算部33により算出された総エネルギー量の減少量が十分小さいか否かを判定する(ステップS117)。具体的には、必要エネルギー前回計算結果[kJ]をEn-1、必要エネルギー今回計算結果[kJ]をEn、閾値εとして、下記の(数式4)を満たすか否かを判定する。ここで、閾値εは、例えば、0.01というように、予め設定されている。
【0118】
|En-1 − En|/En < 閾値ε (数式4)
ステップS117において、エネルギー量計算部33により算出された総エネルギー量の減少量が十分小さくないと判定された場合(NOの場合)、最適化部34は、繰返計算制限回数以内か否かを判定する(ステップS119)。
【0119】
ステップS119において、繰返計算制限回数以内であると判定された場合(YESの場合)、最適化部34は、圧延操業パラメータである仕上出側圧延速度をΔV m/sだけ変更する(ステップS121)。
【0120】
一方、ステップS117において、エネルギー量計算部33により算出された総エネルギー量の減少量が十分小さいと判定された場合(YESの場合)、最適化部34は、さらに、エネルギー量計算部33により算出された総エネルギー量の減少量が十分小さいか否かを判定し(ステップS123)、エネルギー量計算部33により算出された総エネルギー量の減少量が十分小さくないと判定された場合(NOの場合)、最適化部34は、繰返計算制限回数以内か否かを判定する(ステップS125)。
【0121】
ステップS125において、繰返計算制限回数以内であると判定された場合(YESの場合)、最適化部34は、加熱炉条件である加熱炉抽出温度をΔT℃だけ変更する(ステップS127)。
【0122】
一方、ステップS125において、繰返計算制限回数を超えたと判定された場合(NOの場合)、最適化部34は、要求材料を満たし、かつ最もエネルギー消費量が小さい加熱炉条件と圧延操業パラメータとを選択する(ステップS129)。
【0123】
以上のようにして、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1によれば、設定計算部31と、材質予測計算部32と、エネルギー量計算部33と、最適化部34とが、ΔVおよびΔTを変更しながら、繰り返し計算を行うことにより、材質予測計算部32により予測された材質が外部入力された要求材質を満たす範囲内で、エネルギー量計算部33により算出された総エネルギー量を最小にする制御設定値を設定計算部31に算出させるので、圧延材150の要求材質を担保しながら、消費する総エネルギー量を最小化する圧延条件を決定することができる。
【0124】
なお、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1によれば、加熱炉条件として加熱炉抽出温度、及び圧延操業パラメータである仕上出側圧延速度に関して、要求材質を満たす範囲内で、総エネルギー量が最小となるように制御設定値を算出したが、これに限らない。
【0125】
例えば、加熱炉条件としてバーヒータ110の加熱温度としてもよいし、圧延操業パラメータとして、ランアウトテーブル129の冷却条件、粗圧延機107又は仕上圧延機119の圧延パス数、各パスの荷重配分、及び圧延材150の板厚のうち、少なくともいずれか1つとしてもよい。
【0126】
また、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1によれば、満たすべき要求材質として引っ張り強さを挙げたが、これに限らず、降伏応力、脆性遷移温度、r値、穴拡げ率、などや、それらの組み合わせでもよい。
【0127】
なお、第1の実施形態では、熱間圧延装置100を備える熱間圧延システム300を例に挙げて説明したが、これに限らず、熱間薄板圧延設備、厚板圧延設備、冷間圧延設備、鉄鋼の形鋼圧延設備、棒鋼,線材の圧延設備、又はアルミ,銅の圧延設備を備える圧延システムにも適用可能である。
【0128】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、圧延材150の材質が要求材質を満たし、かつ圧延に必要なエネルギー量を最適化する指標である最適化指標とし、この最適化指標が最小となるように、制御設定値を算出する最適化装置1を例に挙げて説明した。
【0129】
しかしながら、最適化指標はエネルギー量に限らずプラントや、操業日時、鋼種などで異なる。そこで、圧延に必要な総エネルギー量の代わりに、例えば、燃料エネルギー量、電気エネルギー量、エネルギー原単位、コスト、コスト原単位、圧延で排出されるCO
2量、圧延時のピーク電力を最適化指標として用いてもよい。
【0130】
第2の実施形態では、最適化指標を選択し、圧延材150の材質が要求材質を満たし、かつ選択された最適化指標の最適化量を最適化するように、制御設定値を算出する最適化装置を例に挙げて説明する。
【0131】
第2の実施形態に係る最適化装置1Aは、
図1に示した第1の実施形態に係る最適化装置1と同様に、熱間圧延装置100を制御する制御装置200に接続されている。
【0132】
また、第2の実施形態に係る最適化装置1Aは、CPU11Aと、ROM12と、RAM13と、入力部14と、表示部15と、ハードディスク16とを備えている。このうち、ROM12と、RAM13と、表示部15と、ハードディスク16とは、第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるそれぞれ同一符号が付された構成と同一であるので、説明を省略する。
【0133】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る最適化装置1Aが備えるCPU11Aの構成を示した構成図である。
【0134】
図6に示すように、CPU11Aは、その機能上、設定計算部31と、材質予測計算部32と、最適化部34と、最適化指標選択部35と、最適化指標量計算部36とを備えている。このうち、設定計算部31と、材質予測計算部32と、最適化部34とは、第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるそれぞれ同一符号が付された構成と同一であるので、説明を省略する。
【0135】
最適化指標選択部35は、最適化指標である総エネルギー量、燃料エネルギー量、電気エネルギー量、エネルギー原単位、コスト、コスト原単位、圧延で排出されるCO
2排出量、圧延時のピーク電力のうち、いずれか任意の1つを選択する。
【0136】
最適化指標量計算部36は、設定計算部31により算出された制御設定値に基づいて、最適化指標選択部35により選択された最適化指標の量を最適化指標量として算出する。
【0137】
≪作用≫
本発明の第2の実施形態に係る最適化装置1Aの作用について説明する。
【0138】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る最適化装置1Aによる処理のフローを示すフローチャートである。なお、
図7に示すフローチャートの処理ステップのうち、
図5に示したフローチャートにおける処理ステップと同一ステップ番号が付された処理は、それぞれ同一処理であるので、説明を省略する。
【0139】
ステップS201において、最適化指標選択部35は、最適化指標である総エネルギー量、燃料エネルギー量、電気エネルギー量、エネルギー原単位、コスト、コスト原単位、圧延で排出されるCO
2排出量、圧延時のピーク電力のうち、いずれか任意の1つを選択する。
【0140】
ステップS215において、最適化指標量計算部36は、最適化指標の量のうち、いずれか1つを計算する。なお、圧延に必要な総エネルギー量、燃料エネルギー、電気エネルギーについては、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるエネルギー量計算部33による総エネルギー量、燃料エネルギー、電気エネルギーの算出方法と同一であるので、説明を省略する。
【0141】
最適化指標量計算部36は、エネルギー原単位を算出する場合、まず、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるエネルギー量計算部33と同様に、燃料エネルギー使用量と電気エネルギー使用量とを算出し、下記の(数式5)を用いてエネルギー原単位を算出する。ここで、エネルギー原単位をEs[kJ/ton]、燃料エネルギー使用量をEf[kJ]、電気エネルギー使用量をEe[kJ]、生産量をS[ton]とする。
【0142】
Es=(Ef+Ee)/S (数式5)
また、最適化指標量計算部36は、CO
2排出量を算出する場合、二酸化炭素排出係数を用いて算出する。ここで、二酸化炭素排出係数は、燃料や電力を消費したときにどれだけ二酸化炭素を排出するかを計算するための係数である。たとえば、天然ガスについては、0.5526 kg-C/kg(天然ガス1kgを燃焼させたとき,0.5526 kgの炭素を排出する)または、2.025 kg-CO
2/kg(天然ガス1kgを燃焼させたとき、2.025 kgの二酸化炭素を排出する)と決められている。電気1 kWh を使うと二酸化炭素は、0.555 kg-CO
2/kWhと規定されている。
【0143】
そこで、最適化指標量計算部36は、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるエネルギー量計算部33と同様に、燃料エネルギー使用量Efと電気エネルギー使用量Eeとを算出し、下記の(数式6)を用いてCO
2排出量を算出する。ここで、CO
2排出量Mg[kg]、燃料に対する排出係数Kf[kg-CO
2/kg]、電気に対する排出係数Ke[kg-CO
2/kWh]とする。
【0144】
Mg=Ef×Kf+Ee×Ke (数式6)
また、最適化指標量計算部36は、コストを算出する場合、まず、本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1が備えるエネルギー量計算部33と同様に、燃料エネルギー使用量Efと電気エネルギー使用量Eeとを算出し、下記の(数式7)を用いてコストを算出する。ここで、コストをC[円]、燃料代原単位をFg[円/kg]、電気代原単位をEg[円/kWh]とする。
【0145】
C=Ef×Fg+Ee×Eg (数式7)
また、最適化指標量計算部36は、コスト原単位を算出する場合、(数式7)を用いて算出したコストCを生産量をS[ton]で除算することにより、コスト原単位Cgを算出する。
【0146】
また、最適化指標量計算部36は、ピーク電力を算出する場合、設定計算部31が圧延材材長や圧延材150の加減速の計算値に基づき予測した、各時刻における圧延材150の位置と、エネルギー量計算部33により算出された各設備の使用電力に基づいて、下記の(数式8)を用いて、ある時刻tに圧延ラインで使用する電力を算出する。
【0147】
そして、最適化指標量計算部36は、監視対象期間(たとえば、ある圧延材が加熱炉から抽出されて巻き取りが終了するまでや、1キャンペーン中など)を設け、その期間中に(数式8)で計算される圧延ラインが使用している各刻の電力を監視し、使用電力が最も大きくなる時刻の電力Ep(t)をピーク電力とする。ここで、ある時刻tに圧延ラインで使用する電力Ep(t)[kWh]、ある時刻tにある設備で使用している電力をEu(t) [kWh]とする。
【数8】
【0148】
ステップS217及びステップS223において、最適化部34は、最適化指標量計算部36により算出された最適化指標の量が最適化されたか否かを判定する。
【0149】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る最適化装置1Aにおけるそれぞれの最適化指標を選択した場合の、最適化のための繰返計算の終了判定の一例を示した図である。
【0150】
最適化部34は、要求材質を満たし、かつ最適化指標量が最良となるような圧延条件を、繰返計算によって計算する。たとえば、最適化指標としてCO
2排出量が選択された場合、最適化部34は、CO
2排出量が最小となるような圧延条件を、繰返計算によって計算する。
【0151】
そこで、最適化部34は、
図8に示すように、選択された最適化指標量が、最適化繰返計算終了基準に達するまで繰返計算を実行する。
【0152】
繰返計算の終了条件は、計算時間の観点で繰返回数に制限を設けるほか、該当回の繰返計算と前回の繰返計算において最適化指標量計算部36により算出された最適化指標量を比較し、最適化指標量が最良に収束したかを判定する。
【0153】
たとえば、最適化指標としてCO
2排出量が選択された場合は、CO
2排出量の前回計算結果からの減少幅が十分小さいかで判定する。
【0154】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る最適化装置1Aによれば、材質予測計算部32により予測された材質が外部入力された要求材質を満たす範囲内で、最適化指標量計算部36により算出された最適化指標量である総エネルギー量、燃料エネルギー量、電気エネルギー量、エネルギー原単位、コスト、コスト原単位、圧延で排出されるCO
2排出量、圧延時のピーク電力のうち、いずれか1つを最小にする制御設定値を設定計算部31に算出させるので、圧延材150の要求材質を担保しながら、様々な最適化指標の中から所望の最適化指標を選択し、この選択された最適化指標量を最小化する圧延条件を決定することができる。
【0155】
なお、本発明の第2の実施形態では、CPU11Aが、各圧延材について
図7に示した処理を実行したが、これに限らず、例えば、圧延機のロールチェンジからロールチェンジまでの1ロールキャンペーン中など、より長い期間において実行してもよい。
【0156】
また、本発明の第2の実施形態では、最適化指標選択部35が、最適化指標の選択を予め行い、その最適化指標が最良となるような最適化計算を行ったが、これに限らず、複数の最適化指標に対してそれぞれが最良となるように、それぞれの最適化指標に対する最適化計算を行い、全ての最適化計算が終了した後に、最適化指標を選択し、圧延条件を決定してもよい。
【0157】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bについて説明する。
【0158】
本発明の第1の実施形態では、圧延材150の材質が要求材質を満たし、かつ圧延に必要なエネルギー量を最適化する指標である最適化指標とし、この最適化指標が最小となるように、制御設定値を算出する最適化装置1を例に挙げて説明した。
【0159】
本発明の第3の実施形態では、粗圧延機107又は仕上圧延機119のロールチェンジからロールチェンジまでの1ロールキャンペーン中(例えば、ロールチェンジ中のタイミングで言えば、今回のロールチェンジから次回のロールキャンペーンまで)のすべての圧延材150において、材質要求およびスループット(単位時間あたりの生産量)要求を満たし、かつキャンペーン中の圧延に必要なエネルギーの総量が最小となるように、制御設定値を算出する最適化装置1Bを例に挙げて説明する。
【0160】
本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bは、
図1に示した第1の実施形態に係る最適化装置1と同様に、熱間圧延装置100を制御する制御装置200に接続されている。
【0161】
また、本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bは、
図2に示した第1の実施形態に係る最適化装置1と同一の構成を備えるので、説明を省略する。
【0162】
≪作用≫
本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bの作用について説明する。
【0163】
図9は、本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bによる処理フローを示すフローチャートである。
【0164】
図9に示すように、CPU11の設定計算部31は、粗圧延機107又は仕上圧延機119のキャンペーンにおける圧延材150の最適化計算を実行する(ステップS301)。具体的には、CPU11は、計算対象のロールキャンペーン中に圧延される全ての圧延材150に対して、
図5に示した本発明の第1の実施形態に係る最適化装置1による処理と同一の処理を実行することにより、最適化計算の方法を用いて、計算対象の圧延材150が材質要求を満たし、かつ対象の圧延材150の1本あたりの圧延に必要なエネルギーが最小となるような、加熱炉抽出温度および仕上出側圧延速度を加熱炉装入前にそれぞれ計算する。
【0165】
次に、CPU11の設定計算部31は、抽出ピッチ設定計算を実行する(ステップS303)。具体的には、ステップS301において、計算対象のロールキャンペーン中の各圧延材に対して最適な圧延操業パラメータが既に計算されている。そのため、圧延材150が加熱炉101から抽出された後の圧延ライン上でどのように移動するかが既知である。そこで、設定計算部31は、この情報によって圧延材150と先行する圧延材150が圧延ライン上で衝突しない抽出ピッチτ
iを計算する。ここで抽出ピッチτ
iは、圧延材150と先行する圧延材150との加熱炉抽出時間間隔とする。
【0166】
そして、設定計算部31は、計算した抽出ピッチτ
iが要求スループットを満たしているか否かを判定する(ステップS305)。具体的には、設定計算部31は、下記の(数式9)を満たしているか否かを判定する。
【数9】
【0167】
ここでT
MAXは、要求スループットの観点で計算対象のロールキャンペーンの全ての圧延材150の圧延に費やすことができる最大時間である。抽出ピッチτ
iの初期値は、たとえば、圧延材150の衝突が生じない最も短い抽出間隔が短いピッチを選択する。
【0168】
ステップS303及びS305の処理ステップにより、設定計算部31は、要求スループットを満たし、かつ、圧延ライン上で圧延材150同士が衝突しないような抽出ピッチを計算することができる。
【0169】
次に、設定計算部31は、各圧延材150の抽出目標温度及び抽出ピッチτ
iに基づき、炉温設定計算を実行する(ステップS307)。加熱炉101の炉温の計算方法は、たとえば、文献 鉄鋼業における制御 高橋亮一著 コロナ社 (2002年出版)に示されている。
【0170】
そして、設定計算部31は、ロールキャンペーンの全ての圧延材150について目標抽出温度が達成できるか否かを判定する(ステップS309)。
【0171】
ステップS309において、目標抽出温度が達成できないと判定された場合(NOの場合)、設定計算部31は、目標抽出温度を達成できない圧延材150の抽出ピッチを、先行する圧延材150と干渉しない範囲で変更して、ステップS307と同様に、炉温設定計算を実行する(ステップS311)。
【0172】
そして、設定計算部31は、ロールキャンペーンの全ての圧延材150について目標抽出温度が達成できるか否かを判定する(ステップS313)。
【0173】
ステップS313において、目標抽出温度が達成できないと判定された場合(NOの場合)、設定計算部31は、繰返計算制限回数以内か否かを判定する(ステップS315)。
【0174】
ステップS315において、繰返計算制限回数を超えたと判定された場合(NOの場合)、設定計算部31は、目標抽出温度を達成できない圧延材150の目標抽出温度を変更する(ステップS317)。目標抽出温度の変更は、圧延材150の1本あたりの計算過程で得られる、必要エネルギーが最小エネルギーに近く、要求材質を満たすような、炉温制御のみで達成できるような目標抽出温度を選択する。もしくは、目標抽出温度を達成できない圧延材150に対し、ステップS301における最適化計算を再び実行することにより、材質要求を満たし、必要エネルギーが小さく、炉温制御のみで達成できるような目標抽出温度を計算する。
【0175】
一方、ステップS313において、目標抽出温度が達成できると判定された場合(YESの場合)、即ち、ある抽出ピッチにおいて、全ての圧延材150のが目標抽出温度を達成できるような炉温設定が可能な場合は、エネルギー量計算部33は、該当キャンペーンの圧延に必要な全エネルギー量を計算する(ステップS319)。たとえば、エネルギー量計算部33は、加熱炉で消費される燃料エネルギーと、その他の設備で消費される電気エネルギーとそれぞれ計算した後に加算することにより、該当キャンペーンの圧延に必要な全エネルギー量を算出する。
【0176】
また、設定計算部31が炉温設定計算を行う際に、キャンペーン中での炉温パターンを算出しているので、エネルギー量計算部33は、この炉温パターンに基づいて、雰囲気温度の上昇に必要なエネルギー、壁を伝って熱が逃げる等の効率の低下、圧延材の昇温に必要なエネルギーを計算し、さらにそれらから燃料エネルギーの消費量を算出する。
【0177】
電気エネルギーは、上記の圧延材150の1本あたりの圧延に必要なエネルギー量が加算されることにより計算される。また、アイドルに必要なエネルギーも含める。
【0178】
次に、最適化部34は、該当キャンペーンの圧延に必要な全エネルギー量の減少量が十分小さいか否かを判定する(ステップS321)。
【0179】
ステップS321において、該当キャンペーンの圧延に必要な全エネルギー量の減少量が十分小さくないと判定された場合(YESの場合)、最適化部34は、最適化部34は、繰返計算制限回数以内か否かを判定する(ステップS323)。
【0180】
ステップS323において、繰返計算制限回数以内であると判定された場合(YESの場合)、処理をステップS303へ移行し、繰返計算制限回数を超えたと判定された場合(NOの場合)、処理を終了する。
【0181】
このようにして、材質要求およびスループット要求を満たし、かつエネルギー量が最小となるような抽出ピッチを得るために抽出ピッチを変更し、上記計算を、指定繰返回数を超えるまで、もしくは、エネルギー減少幅が指定値以下となるまで行うことができる。
【0182】
以上のように、本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bによれば、最適化部34が、圧延材150の処理量が外部入力された要求処理量を満たし、かつ材質予測計算部32により予測された処理量分全ての圧延材150の材質が外部入力された要求材質を満たす範囲内で、エネルギー量計算部33により算出された処理量分の圧延材150を圧延するために必要な最適化指標量を最小にする制御設定値を設定計算部31に算出させるので、例えば、粗圧延機107又は仕上圧延機119のロールチェンジからロールチェンジまでの1ロールキャンペーン中のすべての圧延材150においても、圧延材150の製品品質を確保しつつ、最適化したい最適化指標量が最小になるように、圧延設備の制御を最適化することができる。
【0183】
なお、本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bでは、1ロールキャンペーン中に圧延される各圧延材の、抽出ピッチ、加熱炉抽出温度、仕上出側圧延速度に関して、材質要求およびスループット要求を満たし、エネルギーが最小となるような方法について説明したが、抽出ピッチや抽出温度、仕上出側圧延速度に限らず、ランアウトテーブルでの冷却条件や、圧延パス数、各パスの荷重配分、バーヒータの加熱条件などを変更した場合に関しても、上記と同様に、設定計算部31における加熱炉条件および圧延条件を変更し、その条件化で、材質予測計算部32による材質予測計算と、エネルギー量計算部33による設定計算部31で計算した圧延条件で圧延した場合のエネルギー計算を繰り返し行い、最適化部34で材質要求を満たし、かつエネルギーが最小となる圧延条件を決定することができる。
【0184】
また、本発明の第3の実施形態に係る最適化装置1Bでは、圧延に必要な総エネルギーを最小化する場合について説明したが、本発明の第2の実施形態に係る最適化装置1Aと同様に、最適化指標選択部35及び最適化指標量計算部36とを備え、
図8に示した燃料エネルギーや電気エネルギー量、エネルギー原単位、CO
2排出量、コスト、コスト原単位、ピーク電力などの最適化指標が最良となるように、圧延ラインを最適化することができる。
【0185】
また、上述した実施形態を、コンピュータにインストールした最適化プログラムを実行させることにより実現することもできる。すなわち、この最適化プログラムは、例えば、最適化プログラムが記憶された記録媒体から読み出され、CPUで実行されることにより最適化装置1〜1Bのいずれか1つを構成するようにしてもよいし、通信ネットワークを介して伝送されてインストールされ、CPUで実行されることにより最適化装置1〜1Bのいずれか1つを構成するようにしてもよい。
【0186】
本発明は、熱間圧延装置を制御する制御装置を設定する最適化装置に適用できる。