(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高所での作業時に使用する安全帯は、主として胴ベルト型安全帯が使用されていた。この胴ベルト型安全帯は、両腰部に設けたリングの一方にランヤードのロープ長さ調節金具を取り付け、ランヤードを構造物に回して、ランヤード先端のフックをもう一方のリングに掛けてU字吊り状態を保持する使い方と、ランヤード先端のフックを構造物に掛けて一本吊り状態を保持する使い方ができるものである。作業者はこの胴ベルト型安全帯を装着することで、U字吊り状態を保持して作業姿勢を保ったり、一本吊り状態を保持して墜落を防止するものである。
【0003】
しかしながら、胴ベルト型安全帯を緩めに装着すると、作業時や落下阻止時、上方の構築物に取り付けたランヤードにより腰部に装着した胴ベルト型安全帯が引かれ、胸の方にずれ上がる現象が発生する。このような事態を防ぐための肩掛けベルトと腿ベルトからなるハーネス型安全帯は、四肢をそれぞれ巻き、各ベルトの位置移動を束縛したものである。
胴ベルト型安全帯においても、左右の腰部から股部を回して再び同じ腰部に戻る腿ベルトを取り付けて、胴ベルト型安全帯が胸の方に移動しない構造とすることにより、同様の効果がある。
【0004】
この腿ベルト付き胴ベルト型安全帯は、万一の落下阻止時、衝撃荷重を腰と両足の大腿部で分散させる効果がある。又、この腿ベルト付きの胴ベルト型安全帯は、例えば足場のない送電線上の宙乗り作業や高所ビルの窓ふき作業等において、ブランコに乗るような腰掛け姿勢で作業が行えるので、作業員の腰への負担を軽減できるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1(実用新案登録第3077509号)は腿掛けベルト(本願では腿ベルトと記載)がついた胴締めベルトが示されており、腿掛けベルトと胴締めベルトは、装着時に腿掛けベルトと胴締めベルトが水平状態で平行になり、腿掛けベルトと胴ベルトが作業員の前部と背部(尻部)で連結ベルトにより連結されている。この連結ベルトは延伸するベルトを使用しているので、腰を曲げた時などは、体の線に沿うように延伸することで突っ張り感がなくなった。しかし、この延伸するベルトは、破断するまで伸び続けるので、落下阻止時において、胴締めベルトが胸の方にずれ上がってしまうという欠点もあった。
【0007】
又、腿掛けベルトは、腿の内側で連結する構造となっているので、移動時等は腿の内側で両足の連結具が互いに接触しあい、不快な思いをすることがあった。
更に、左右の腿掛けベルトは同一形状、同一色彩なので、正規とは逆の腿に装着してしまうことがあった。
【0008】
本願では、作業時や落下阻止時、上方の構造物に取付けたランヤードにより腰部に装着した胴ベルト型安全帯が引かれても胸の方にずれ上がらないで、腿巻きベルトを腿に巻き連結する連結具は巻き付ける腿の内側でなく外側になるように配置し、左右の腿巻きベルトの色は同一色彩でなく色を変えた腿ベルト付き墜落防止用安全帯の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成する為に、本願では、胴ベルト型安全帯の左右端部、つまり装着した時の両腰部に配置する吊りベルトと、中央部、つまり装着した時の背部に配置する背部ベルトと腿巻きベルトから構成された腿ベルト付き墜落防止用安全帯によって課題の解決を図るものである。
前記左右の吊りベルトは、一端に輪状の胴ベルト挿通環を形成し、他端にはリングを備えている。
前記左右の腿巻きベルトは、腿巻きベルト用ベルトの一端に連結具を設け、他端に挿入部材を設けて左右対称的に構成し、両者を連結した際、前記吊りベルトのリングに対応する位置に吊りベルト掛け金具を設けることにより、前記吊りベルトと吊りベルト掛け金具、及び連結具と挿入部材は腿部外側に位置するものである。
【0010】
背部ベルトは一端に輪状の胴ベルト挿通環を形成し、他端には前記腿巻きベルト中間部分を配置するものであるが、背部ベルトの連結ベルトには所定間隔で蛇行させて突出部を形成し、それぞれの突出部底を添接した延伸ベルトで縫着結合して設けて一対の腿ベルトを形成することにより、延伸ベルトの伸びが作業者の動きに追従して延伸し、連結ベルトによって墜落阻止時の衝撃荷重に対応するものである。
又、左右の吊りベルトと、背部ベルトと腿巻きベルトから構成された左右の腿ベルトの色を、左右それぞれの全部又は一部が異なった色とする。
前記吊りベルトの胴ベルト挿通環と、前記腿ベルトを構成する背部ベルトの胴ベルト挿通環を胴ベルト型安全帯に挿通して、吊りベルトを胴ベルト型安全帯の左右端部に、一対の腿ベルトを中央部にそれぞれ配置した上記の課題を解決する腿ベルト付き墜落防止用安全帯を形成するものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明は、背部ベルトの連結ベルト中央部を所定間隔で蛇行して突出部を設けてその突出部底を延伸ベルトで縫着結合したことにより、落下阻止時等において胴ベルト型安全帯が上方に引かれる荷重が作用した時、延伸ベルトの伸びに追従して連結ベルトの蛇行した突出部は伸び、連結ベルトが伸びきった時に延伸ベルトの伸びは停止するので、胴ベルト型安全帯が胸の方まで移動することがなくなる。同時に、延伸ベルトの作用により、作業員が屈伸したり、腰を曲げたりした時などは、背部ベルトは体の変化に合わせて延伸するので突っ張り感はない。
【0012】
又、胴ベルト型安全帯の左右端部に吊りベルトを配置するので、胴ベルト型安全帯を装着した時、吊りベルトは両腰部付近に位置する。腿巻きベルトは、この吊りベルトに対応する位置に、吊りベルト掛け金具と腿巻きベルトを腿に巻き連結する連結具を設けたので、腿巻きベルトを腿に巻き付けると連結具は両腿の外側となり、歩行時等に連結具が内腿部に接触しないので、不快感はない。
又、腿巻きベルト用ベルトと背部ベルトからなる腿ベルトと、吊りベルトの色を左右それぞれ全部又は一部を異なった色にしているので、右腿用の連結具と挿入部材と左腿用の連結具と挿入部材の識別ができ、例えば、右腿用の連結具と左腿用の挿入部材を嵌装してしまうという装着ミスをすることがなくなり、装着性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本願発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本願発明の腿ベルト付き墜落防止用安全帯Aの平面図であり、
図2は本願発明の腿ベルト付き墜落防止用安全帯Aの立体図であり、
図3(a)、(b)は背部ベルト3の左側面図と正面図である。
図1に示すように、本願は、胴ベルト型安全帯5の左右端部すなわち装着した時の両腰部に配置する吊りベルト4,4’と、中央部つまり背部に配置する背部ベルト3,3’と腿巻きベルト2,2’から構成された一対の腿ベルト1,1’とを組み付けた腿ベルト付き墜落防止用安全帯Aである。
尚、
図1の右腿用腿巻きベルト2’に取り付ける背部ベルト3’は、a,aで切断したように図示しているが、連続したものである。
以下、構造について詳細に記載する。
【0015】
図1に示すように、左の吊りベルト4は、細幅ベルト41と尾錠43とリング44とから構成される。細幅ベルト41の一端を略日字形状の尾錠43のベルト挿通孔431、432に通し、胴ベルト型安全帯5に挿通できる大きさの輪状にし、再度、尾錠43のベルト挿通孔431、432に通すことで胴ベルト挿通環42を形成し、他端はリング44を縫製して設けられている。前記リング44の掛止孔441は、腿巻きベルト2の吊りベルト掛け金具24を掛けることができる大きさである。
又、右の吊りベルト4’は、細幅ベルト41’と尾錠43’とリング44’とからなり、左の吊りベルト4と同じ構成である。
【0016】
左腿用の腿ベルト1は腿巻きベルト2と背部ベルト3とから構成され、右腿用の腿ベルト1’は腿巻きベルト2’と背部ベルト3’から構成される。
図1及び
図3(背部ベルトの正面図と右側面図)に示すように、左の背部ベルト3は、連結ベルト31と延伸ベルト32と尾錠33から構成される。連結ベルト31の一端を吊りベルト4の一端と同様に、尾錠33のベルト挿通孔331、332に通し、胴ベルト型安全帯5に挿通できる大きさの輪状にし、再度、尾錠33のベルト挿通孔331、332に通すことで胴ベルト挿通環34を形成する。
又、前記吊りベルト4,4’の尾錠43,43’と、前記背部ベルト3,3’の尾錠33,33’を調節することにより、腿巻きベルト2,2’の取付け高さを変えることができる。
【0017】
背部ベルト3の中間部分は、連結ベルト31を所定間隔で5カ所程度、蛇行させて突出部を形成し、それぞれの突出部底に伸縮自在の延伸ベルト32を縫着して添設する。背部ベルト3に荷重が作用して、連結ベルト31の蛇行分が真直ぐになっても、この延伸ベルト32は延伸力を保持した状態である。
又、右の背部ベルト3’は、連結ベルト31’と延伸ベルト32’と尾錠33’からなり、左の背部ベルト3と同じ構成である。
この連結ベルト31,31’は、ナイロン原糸を使って製織した細幅のベルトであり、必要強度を確保している。又、延伸ベルト32,32’は、細幅織りベルトにゴム糸を織り込んだものであり、衣料用のサスペンダーなどに用いられているもので、伸縮自在なものである。これらの材質は一例を示したもので、特定するものではない。
【0018】
図1に示すように、左腿用の腿巻きベルト2は、腿巻きベルト用ベルト21の右側一端部近傍、つまり胴ベルト型安全帯を装着した時の左側腰部に位置する吊りベルト3に対応するよう、吊りベルト掛け金具24をかぎ部が上向きなるよう、直交させて縫着する。更に、腿巻きベルト用ベルト21の右側一端に連結具22を、左側一端に挿入部材23を設ける。
右腿用の腿巻きベルト2’は、腿巻きベルト用ベルト21’の左側一端部近傍、つまり胴ベルト型安全帯を装着した時の右側腰部に位置する吊りベルト3’に対応するよう、吊りベルト掛け金具24’をかぎ部が上向きなるよう、直交させて縫着する。更に、腿巻きベルト用ベルト21’の左側一端に連結具22’を、右側一端に挿入部材23’を設けることで、腿巻きベルト2’は、腿巻きベルト2と左右対称的に構成する。
尚、図示しないが、吊りベルト掛け金具24,24’は、腿巻きベルト用ベルト21,21’と直交するようにして、連結具22,22’あるいは挿入部材23,23’と一体構造にしてもよい。
【0019】
尚、図示しないが、腿巻きベルト2の連結具22と挿入部材23は左右逆にもうけてもよい。又、腿巻きベルト2’の連結具22’と挿入部材23’も、左右逆に設けてもよい。
具体的に記載すると、左腿用の腿巻きベルト2では、連結具22を腿巻きベルト用ベルト21の左側一端に、挿入部材23を右側一端への取り付けとなり、右腿用の腿巻きベルト2’では、連結具22’を腿巻きベルト用ベルト21’の右側一端に、挿入部材23’を左側一端に設ける。しかしながら、吊りベルト掛け金具24,24’の取付位置は変更しないで、左腿用の腿巻きベルト2では腿巻きベルト用ベルト21の右側一端部近傍に、右腿用の腿巻きベルト2’では腿巻きベルト用ベルト21’の左側一端部近傍に設ける。これは、吊りベルト掛け金具24を、腿巻きベルト2では腿巻きベルト用ベルト21の左側一端部近傍に、腿巻きベルト2’では腿巻きベルト用ベルト21’の右側一端部近傍に設けると腿巻きベルト2,2’の連結具22,22’は腿の内側となってしまうからである。
【0020】
図1に示すように、左腿用の腿ベルト1は、腿巻きベルト2と背部ベルト3とから構成され、右腿用の腿ベルト1’は、腿巻きベルト2’と背部ベルト3’から構成される。
一端に輪状の胴ベルト挿通環34を形成した背部ベルト3の他端に、腿巻きベルト2の腿巻きベルト用ベルト21の中間部分を配置することにより、左腿用の腿ベルト1を形成する。
本願では、
図3に示すように、背部ベルト3の連結ベルト31の一端は、腿巻きベルト2が挿通できる大きさの腿巻きベルト挿通環35を形成して、腿巻きベルト2を腿巻きベルト挿通環35に挿通することで腿巻きベルト2と背部ベルト3を連結することができる。
又、図示しないが、背部ベルト3の連結ベルト31一端に腿巻きベルト2を直接縫製することで連結してもよい。
右腿用の腿ベルト1’も左腿用の腿ベルト1と同様の構成である。
【0021】
左腿用の腿ベルト1の胴ベルト型安全帯Aへの取付位置は、
図4に示すように、左腿に腿巻きベルト2を巻き付け(
図4(a))、吊りベルト掛け金具24を吊りベルト4のリング44に掛止した時に(
図4(b))、背部ベルト3が装着者の後ろ(尻部)側(
図4(c))となる位置である。同様に、右腿用の腿ベルト1’の胴ベルト型安全帯Aへの取付位置は、右腿に腿巻きベルト2’を巻き付け(
図4(a))、吊りベルト掛け金具24’を吊りベルト4’のリング44’に掛止した時に、背部ベルト3’が装着者の後ろ(尻部)側(
図4(c))となる位置である。
【0022】
又、左腿用の腿ベルト1(腿巻きベルト4と背部ベルト3)と、右腿用の腿ベルト1’(腿巻きベルト4’と背部ベルト3’)をそれぞれ共通色とし、左腿用の腿ベルト1と右腿用腿ベルト1’は異なった色とする。例えば、左腿用の腿ベルト1をオレンジ色、右腿用の腿ベルト1’を黒色とすることで、左右の腿への装着を間違いないものとすることができる。
更に、腿巻きベルト2,2’の腿ベルト用ベルト41,41’の色のみを変えても、右腿用と左腿用の区別ができているので、左右の腿への装着を間違いないものとすることができる。
又、左腿用の吊りベルト2を腿ベルト1と同じ色にし、右腿用の吊りベルト2’を腿ベルト1’と同じ色にする。このように、左腿用と右腿用の色は違う色にすると、左腿用の吊りベルトと腿ベルト、及び右腿用の吊りベルトと腿ベルトが区別できるので、より確実に左右の腿への装着を行うことができる。
【0023】
次に、一対の腿ベルト1,1’と吊りベルト4,4’を胴ベルト型安全帯5に組み付ける方法であるが、吊りベルト4の胴ベルト挿通環42、背部ベルト3の胴ベルト挿通環34、背部ベルト3’の胴ベルト挿通環34’、吊りベルト4’の胴ベルト挿通環42’を胴ベルト型安全帯5に挿通することにより、組み付けることができる。
【0024】
以上で、腿ベルト付き墜落防止用安全帯Aが完成する。
図4(a)に示すように、胴ベルト型安全帯5は、人体の背中部(後ろ側)から腹側にかけて胴ベルト型安全帯5を沿わせ、腹側でスライドバックル52に胴ベルト51の先端を通して長さを調節することで人体に装着できる。
次に、
図4(b)に示すように、左腿用の腿巻きベルト2を左腿に添わせて巻き付け、挿入部材23を連結具22に嵌挿することで装着できる。同様に、右腿用の腿巻きベルト2’を右腿に添わせて巻き付け、挿入部材23’を連結具22’に嵌挿することで装着する。
次に、腿巻きベルト2の吊りベルト掛け金具24を左腰付近の吊りベルト4のリング44に掛け、腿巻きベルト2’の吊りベルト掛け金具24’を右腰付近の吊りベルト4’のリング44’にそれぞれ掛けることにより、腿ベルト付き墜落防止用安全帯Aは、人体に装着できるものである。
【0025】
このように、本願発明の腿ベルト付き胴ベルト型安全帯Aは、左腿を緊縛する腿ベルト1と、右腿を緊縛する腿ベルト1’との色を変えているので、左右の識別が容易になって迅速に腿部に装着でき、同時に、作業者の動きに追従して延伸し、墜落阻止時の衝撃荷重に対応する背部ベルト3,3’は人体の後ろ(尻部)側に、又、歩行時に両足の互いに接触しないように連結具22,22’は腿の外側に位置するものである。
【0026】
本願発明は、左右の腿ベルト1,1’(腿巻きベルト2,2’と背部ベルト3,3’)と左右の吊りベルト4,4’とから構成されたものであり、吊りベルト4,4’の吊りベルト4,4’の胴ベルト挿通環42,42’と背部ベルト3,3’の胴ベルト挿通環34,34’に胴ベルト型安全帯5を挿通して組み付けることができるので、腿ベルト1,1’と吊りベルト4,4’を準備するだけで、ユーザがすでに保有している胴ベルト型安全帯に組み付けて、腿ベルト付き墜落防止用安全帯Aとすることができる。