特許第5795976号(P5795976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5795976被コーティング物の表面に高圧電率の圧電性樹脂膜を形成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795976
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】被コーティング物の表面に高圧電率の圧電性樹脂膜を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20150928BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B05D7/00 H
   B05D7/24 302L
   B05D7/24 303E
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-55746(P2012-55746)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-188667(P2013-188667A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年10月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591061769
【氏名又は名称】ムネカタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067091
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 弘
(72)【発明者】
【氏名】海野 雄士
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−182994(JP,A)
【文献】 特開平01−112786(JP,A)
【文献】 特開2008−266563(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/088924(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00〜 7/26
C09D 1/00〜 10/00
101/00〜201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとフッ化エチレンの共重合体の1つ又は2
つの混合体から成る圧電性樹脂を溶媒にて溶解し、この溶解液に前記圧電性樹脂との反応性基と、被コーティング物との反応性加水分解性基とを有するシラン系カップリング剤を添加して圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液を作成する工程と、
b.前記コーティング溶液を被コーティング物の表面にスプレーすることにより圧電性樹
脂膜を形成する工程と、
c.前記圧電性樹脂膜を乾燥したのち、この圧電性樹脂膜に高電圧を印加して分極処理を行うことにより圧電性樹脂膜の圧電率を高める工程と、
d.からなる被コーティング物の表面に高圧電率の圧電性樹脂膜を形成する方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のシラン系カップリング剤は、被コーティング物との反応性の基が、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アセトキシ基、ハロゲン基の加水分解性基の1種を圧電性樹脂を溶解した溶液の存在下で添加することを特徴とする被コーティング物の表面に高圧電率の圧電性樹脂膜を形成する方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランからなる群より選択された少なくとも1種が用いられることを特徴とする被コーティング物の表面に高圧電率の圧電性樹脂膜を形成する方法。
【請求項4】
前記請求項1に記載のスプレー法として静電スプレー法が用いられることを特徴とする被コーティング物の表面に圧電性樹脂膜を形成する方法。
【請求項5】
前記請求項1に記載のシラン系カップリング剤が溶液に対して0.001〜1質量%添加されていることを特徴とする被コーティング物の表面に圧電性樹脂膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被コーティング物の表面に高圧電率の圧電性樹脂膜を形成する方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
圧電性樹脂には、β型、α型、γ型等の複数の結晶構造が存在することが知られている。この中で、α型は、TGTG’構造の分子鎖の双極子が反平行にパッキングした無極性結晶であり、最も安定な構造である。これに対し、β型は、TT構造の分子鎖の全双極子が平行にパッキングした極性結晶であり、圧電性を示す(圧電率d31が1pC/N以上
)。
【0003】
一般に、溶液キャスト法により得られた圧電性樹脂膜は、α型の結晶構造を形成するため、圧電性を示さない(圧電率d31が1pC/Nよりも低い)。そのため、圧電性樹脂
膜に圧電性を付与するために、α型の結晶構造をβ型の結晶構造に変換する様々な試みがなされてきた。
【0004】
例えば、最も一般的な方法としては、あらかじめ製造したα型の結晶構造を有する圧電性樹脂膜に延伸処理を行い、分子鎖を引き伸ばすことにより、TGTG’構造をTT構造に変換する方法が知られている(特許文献1,特開昭55−157801)。しかしながら、この方法では、延伸といった煩雑な処理が必要であった。
【0005】
延伸処理を行わず圧電性樹脂膜の圧電率を著しく向上させる方法として、例えば、圧電性キャストフィルム及びその製造方法(特許文献2,特開2010−64284)、ベータ相非多孔性フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)フィルム及びその処理方法(特許文献3,特表2009−501826)がある。これらの方法は、β型の結晶構造を得る為に、誘電率の高い適切な溶媒を選択する、もしくは適切なキャスト温度を選択して行なう方法であるが、この方法であると溶媒の揮発の仕方によって、構造状態が容易に変化してしまう為、コーティングする温度・湿度などコーティング環境条件を一定管理が必須の為、条件出しが難しく、且つ量産性として乏しい。
【0006】
また、圧電率を著しく向上させる為に溶液キャスト後に得た圧電性樹脂膜に分極処理のみで膜内の結晶構造の向きを強制的に一方向に揃える方法がある。例えば、強誘電体フィルム及びその製造方法(特許文献4,特開2006−241195)があるが、この分極処理は電極と圧電性樹脂膜の間の空間に大きな電流が流れるため、容易にスパーク現象が生じる。これにより、圧電性樹脂膜に微細な貫通穴が形成され、圧電性樹脂膜の性能を消失する問題があった。
【0007】
延伸処理と分極処理によって圧電率を著しく向上させる方法として、例えば、PVDF/PMMA ブレンドの熱処理によるPVDF結晶構造の変化(公知文献1,日本化学会誌2000, No.2)があるが、この方法では、長時間の熱処理が必要であり、実用性に乏しい。
【0008】
また、圧電性樹脂溶液に対して、密着性向上のためにシラン系カップリング剤を添加する例として、変性ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物及び変性ポリフッ化ビニリデン系樹脂の製造方法(特許文献5,特開平6−93025)、有機圧電材料、超音波振動子および超音波深触子(特許文献6,特開2010−182994)が提案されているが、いずれの方法も金属基板に対しての密着性を考慮した樹脂溶液設計となっており、圧電率を著しく向上させるための提案ではない。
【0009】
圧電率を著しく向上させる方法として、圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合する方法がある。圧電性セラミック粉末は樹脂系と比較すると圧電率が高い為、圧電性樹脂の性能を上げる最も効率の良い方法として一般的に良く利用される。例えば、圧電性を有する複合材料として、特許文献7,特開昭61−219188がある。この発明によれば圧電性セラミック粉末の添加量は30〜50質量%であるが、圧電率は向上するものの、セラミック粉末が混合された事により圧電膜の物性強度が低下し、引張りや曲げなどの応力に対して、脆くなり、割れ易くなるという弱点も併せ持つ。従って、圧電膜の物性強度を保持するには圧電性セラミック粉末の添加量を30%未満にする必要性があり、圧電性セラミック粉末を混合する方法としては更なる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭55−157801号公報
【特許文献2】特開2010−64284号公報
【特許文献3】特表2009−501826号公報
【特許文献4】特開2006−241195号公報
【特許文献5】特開平6−93025号公報
【特許文献6】特開2010−182994号公報
【公知文献1】
【0011】
PVDF/PMMA ブレンドの熱処理によるPVDF結晶構造の変化
【0012】
(公知文献1,日本化学会誌2000, No.2)
【特許文献7】特開昭61−219188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点を全て解消し、煩雑な延伸処理や大掛かりな設備を有する高電圧処理を必要とせず、被コーティング対象たる導電性基材の表面に圧電率が著しく向上した圧電性樹脂膜を形成することができると共に圧電性樹脂膜の密着性を上げるために多工程となっていたプライマー処理や表面研磨処理を必要としないコーティング方法を提供することを目的とする。
【問題を解決する為の手段】
【0014】
前記目的を達成する為、請求項1記載の発明においては、a.ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとフッ化エチレンの共重合体の1つ又は2つの混合体から成る圧電性樹脂を溶媒にて溶解し、この溶解液に前記圧電性樹脂との反応性基と、被コーティング物との反応性加水分解性基とを有するシラン系カップリング剤を添加して圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液を作成する工程と、b.前記コーティング溶液を被コーティング物の表面にスプレーすることにより圧電性樹脂膜を形成する工程と、c.前記圧電性樹脂膜を乾燥したのち、この圧電性樹脂膜に高電圧を印加して分極処理を行うことにより圧電性樹脂膜の圧電率を高める工程と、からなる事を特徴とするものである。
【0015】
請求項2記載の発明においては、前記請求項1に記載のシラン系カップリング剤は、被コーティング物との反応性の基が、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アセトキシ基、ハロゲン基の加水分解性基の1種を圧電性樹脂を溶解した溶液の存在下で添加することを特徴とするものである。
【0016】
請求項3記載の発明においては、前記請求項1に記載の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド及びN,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランからなる群より選択された少なくとも1種が用いられることを特徴とするものである。
【0017】
請求項4記載の発明においては、前記請求項1に記載のスプレー法として静電スプレー法が用いられることを特徴とするものである。
【0018】
請求項5記載の発明においては、前記請求項1に記載のシラン系カップリング剤が溶液に対して0.001〜1質量%添加されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜5に記載の発明によると、導電性基材の表面への圧電性樹脂膜の形成において、大掛かりな設備を必要とする延伸処理を必要としない方法で、導電性基材の表面に圧電率が著しく向上した圧電性樹脂膜を形成する事ができる。
【0020】
更には、導電性基材の表面に対して、密着性も得られる事から密着性を上げるための前工程にプライマー処理や表面研磨処理などを必要としない為、大幅に工程を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】圧電性樹脂膜の圧電率測定用試料の説明図。
図2】圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜の圧電率測定用試料の説明図。
図3】実施例1におけるシラン系カップリング剤添加量と圧電率との相関を示すグラフ。
【発明を実施する為の形態】
【0022】
本発明のコーティング用樹脂溶液によって得られる圧電性樹脂膜の形成は、下記の工程を含む。
a.圧電性樹脂を溶媒にて溶解し、この溶解液にシラン系カップリング剤を添加して圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液を作成する工程と、b.前記コーティング溶液を用いて被コーティング物の表面に圧電性樹脂膜を形成する工程と、c.前記圧電性樹脂膜を乾燥したのち、この圧電性樹脂膜に高電圧を印加して分極処理を行うことにより圧電性樹脂膜の圧電率を高める工程を含む。
【0023】
本発明による工程aにより圧電性樹脂を粉末にしたものを溶解可能な溶媒に添加し、常温下で攪拌して圧電性樹脂溶液を得る。
【0024】
工程bでは工程aにより得られた圧電性樹脂溶液に圧電性樹脂との反応基であるアミノ基又はエポキシ基、メルカプト基、ウレイド基、ビニル基、メタクリル基又はアミノ基とエポキシ基とメルカプト基、ウレイド基、ビニル基、メタクリル基のいずれか2種を複合したもの且つ被コーティング物との反応性の加水分解性基とを有するシラン系カップリング剤を0.001〜1質量%、圧電性樹脂溶液に添加し、常温下で攪拌・混合してシラン系カップリング剤を添加した圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液を得る。
【0025】
工程cでは、工程bで作成したシラン系カップリング剤を添加した圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液をスプレー方法で導電性基材の表面にコーティングする。
【0026】
工程dでは、導電性基材の表面にコーティングされたシラン系カップリング剤を添加した圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液を熱風、遠赤外線ヒーター、ハロゲンランプ等の選択されたいずれかの方法で圧電性樹脂を溶解する溶媒を揮発させ、乾燥した圧電性樹脂膜を形成する。この乾燥工程において、圧電性樹脂とシラン系カップリング剤とが架橋反応を起こす。
【0027】
この架橋反応は、圧電性樹脂の持つ分子鎖の双極子がシラン系カップリング剤の圧電性樹脂との反応基であるアミノ基又はエポキシ基、メルカプト基又はアミノ基とエポキシ基とメルカプト基のいずれか2種を複合したものとが結合し、規則性を持って配列するようになり、更に被コーティング物と反応性を持つ加水分解基が被コーティング物と結合し、前記配列と同一の方向性を持って配列する事から圧電性樹脂膜と被コーティング物との層間において、圧電性樹脂の持つ分子鎖の全双極子が被コーティング物に対して垂直に配向することになり、その配向に伴って圧電性を示すβ型結晶構造が形成され、且つ膜全体中でβ型結晶構造の占める割合が何も添加していないものと比べて増加し、シラン系カップリング剤の添加により圧電率が著しく向上するものである。
【0028】
工程eでは、工程dにおいて、圧電性樹脂膜内のβ型結晶構造の中でも完全に配向しきれていなかったβ型結晶構造体を高電圧印加による電界の力で一方向に揃える処理がなされる。これにより、工程dでの圧電率よりも更に圧電率を向上させる事ができる。
【0029】
本発明に使用されるシラン系カップリング剤は圧電性樹脂と反応性の基と加水分解性基を有することが必要である。
【0030】
圧電性樹脂と反応性の基としては、好ましくはアミノ基、エポキシ基、メルカプト基又はウレイド基、ビニル基、メタクリル基あるいはこれら基を複合した複合基があり、例えばβ−アミノエチル基、γ−アミノプロピル基、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−ウレイドプロピル基等が挙げられる。又、イソシアネート基の如く、系内あるいは大気中の水分と反応してアミノ基を生成するような、潜在的に圧電性樹脂と反応し得る能力を有する、前記反応性基の前駆体基も、本発明においては同様な効果をもたらす。
【0031】
加水分解性基としては、アミノ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アセトキシ基、ハロゲン基等が挙げられる。
【0032】
本発明に使用するシラン系カップリング剤の好ましい具体例としては、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプトシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン等のアミノチタネート等が挙げられる。特にポリフッ化ビニリデン系樹脂との反応性の高いアミノ基とエポキシ基、メルカプト基を有するカップリング剤が好ましい。
【0033】
本発明におけるシラン系カップリング剤の圧電性樹脂および圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂溶液に添加する量は、溶液に対して0.001〜1質量%が好ましく、0.001質量%以下であると圧電率が著しく向上せず、1質量%以上であると、溶液コストが高くなると共に、圧電性性能が低下しやすい他、導電性基材に対して密着しないなどの不具合が発生する事から好ましくない。
【0034】
圧電性樹脂として有機系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン(VDF)と3フッ化エチレン(TrFE)の共重合体(P(VDF−TrFE))または、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET,PETE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ABS樹脂(ABS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)など相溶する物質同士をブレンドしたものを用いても構わない。
【0035】
圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂を溶解する溶媒としてはエタノール、ポリエチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセチアミド、アセトン、メチルメチルケトン(MEK)、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン、フルフラール、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、トルエン、イソプロピルアルコール(IPA)等の1種又は2種以上の混合溶媒を用いても構わない。
【0036】
圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂と溶媒との混合比は実用的には1:99〜20:80が好ましい。これ以上圧電性樹脂が多いと溶液コストが高くなる他、圧電性樹脂溶液の粘性が高まる為、コーティングする際に安定したコーティング条件が出せないため好ましくない。
【0037】
また、圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂で用いる圧電性セラミック粉末として無機系のチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム又はチタン酸ジルコン酸鉛等のセラミック系粒子を用いても構わない。
【0038】
圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合する質量%は0.1〜30質量%の範囲が好ましく、0.1質量%よりも少ないと圧電性セラミック粉末を混合しても圧電率が上がらない。また、30%質量%より多く混合すると溶液コストが高くなるうえに、圧電性樹脂溶液がスラリー状となってしまい、安定したコーティング条件が出ない。
【0039】
なお、この圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液の作成は常温下で攪拌し混合を行う。
【0040】
圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液をコーティングする方法としては、スプレーまたは静電スプレー法等が挙げられ、被コーティング物の形状に応じて適宜選択する事ができる。
【0041】
本発明における被コーティング物は有機系高分子体であって、この有機系高分子体にコーティングする際は、あらかじめ、圧電性を付与したい箇所に導電性の高い金属電極を付着又はコーティングしておき、アースをとる事が分極処理を行う上で好ましい。
【0042】
被コーティング物の形状としては、平板、R状、凹凸、円柱、円錐形、自由曲面状等のいずれの形状を用いても構わない。
【0043】
導電性基材にコーティングした圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜形成用のコーティング溶液を乾燥させる温度は、圧電性樹脂を溶解する溶媒を完全に除去できる温度であれば、特に限定されない。乾燥方法としては熱風、ハロゲンランプ、遠赤外線ヒーター等による加熱が挙げられる。乾燥時間は溶媒が蒸発して分極膜が硬化すれば良いため特に限定されず、乾燥方法と乾燥温度に応じて適宜選択する事ができる。
【0044】
本発明の圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜の分極処理における分極処理方法としては、従来公知の直流電圧印加処理、交流電圧印加処理又はコロナ放電処理等の方法が適用される。
【0045】
例えば、コロナ放電処理法による場合には、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電
極からなる装置を使用して処理することができる。
【0046】
分極処理後の電極加工には、公知の方法を利用する事ができる。例えば、スパッタ法、蒸着法、ペースト塗布、シルク印刷、パット印刷法等により、圧電性樹脂膜の片面または両面に導電性の高い金属電極を形成する事が出来る。
【0047】
圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜が圧電性を有するか否かは、分極処理工程を経た圧電性樹脂膜の表面に導電性の高い金属電極を形成した後、その圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜に加えた曲げ・圧縮・引っ張りなどの外部応力と、そのひずみにより発生する電圧の波形から確認する事ができる。圧電性を有する場合、外部応力を与えるとプラスもしくはマイナスの電圧を示し、ひずみを緩和させた場合その逆の電圧が発生する。
【0048】
本発明の圧電性樹脂膜は、この特性を生かした圧電素子、マイクロ・ナノマシン用アクチュエーター,スピーカーといったエレクトロニクス材料、ペースメーカーや触感センサー等の医療部品あるいはビル、橋梁、ダム、航空機、宇宙機器などの歪センサーとしても応用する事ができる。
【0049】
本発明の圧電性樹脂および圧電性樹脂に圧電性セラミック粉末を混合してなる圧電性樹脂膜の膜厚はその用途によって適宜選択されるが、通常5〜100μmmである。好ましくは10〜20μmmの範囲である。膜厚が100μmmを超えると分極処理工程において長時間の高電圧処理が必要となる為、実用性に乏しい。
【0050】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0051】
《圧電性樹脂溶液Aの作成》
a. 圧電性樹脂であるフッ化ビニリデンと3フッ化エチレンの共重合体の粉末を減圧オーブンにて50℃で14時間乾燥した。
b. 次に、この粉末と溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)を1:99の割合で混合し、圧電性粉末1質量%の圧電性樹脂溶液を得た。
c. 次に、圧電性樹脂溶液に対して、シラン系カップリング剤(ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシランを0、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0質量%で添加しシラン系カップリング剤の質量%を変えた6種の圧電性樹脂溶液を作成した。これらの溶液を本実施例では「溶液A」と称す。
【0052】
《圧電性セラミック粉末を混合した圧電性樹脂溶液Bの作成》
d. 前記工程bで得た圧電性樹脂溶液に圧電性セラミック粉末であるチタン酸バリウム粉末を5質量%添加し、混合攪拌して圧電性セラミック粉末を混合した圧電性樹脂溶液を得た。
e. 次に、前記工程dで得た圧電性セラミック粉末を混合した圧電性樹脂溶液に対して、前記工程cと同様にしてシラン系カップリング剤の質量%を変えた6種の圧電性セラミック粉末を混合した圧電性樹脂溶液を作成した。これらの溶液を本実施例では「溶液B」と称す。
【0053】
《溶液Aおよび溶液Bからなる圧電性樹脂膜A,Bの作成》
導電性基材1としてアルミニウム板を用いて、この導電性基材1表面に、スプレーガン(アネスト岩田製WA−100)を用いて、溶液Aをスプレーコーティングした。その後、熱風100℃にて溶媒を乾燥させ、厚さ約30μmの圧電性樹脂膜Aを得た。これを本実施例では「樹脂膜A」と称す。また、溶液Bからなる圧電性樹脂膜Bにおいても同様の方法を用いて厚さ約30μmの膜厚を得た。これを本実施例では「樹脂膜B」と称す。
【0054】
前記樹脂膜Aおよび樹脂膜Bの上面に表面抵抗が1Ω以下になるように銀ペーストをスクリーン印刷にて上部電極4付の圧電率測定用試料を得た。下部電極には導電性基材1を用いた。
【0055】
図1、2に樹脂膜Aと樹脂膜Bの圧電率測定用試料を示す。
【0056】
つづいて、室温にて、前記電極側を高電圧発生器6の負極、導電性基材1側を高電圧発生器6の正極に各々リード線5をつなぎ、直流電圧を印加して分極処理を行った。分極処理は0V/μmから行い、徐々に1V/μmづつ電場を上げ、最終的に電極間電場が30V/μmになるまで行った。
【0057】
なお、テストとしての電極間電場は、40、50V/μmまで実施したが、スパーク現象が発生した為、スパーク現象の発生しない安定した実用範囲として最高電圧を30V/μmとした。
【0058】
《圧電率評価 図3
圧電率はレオログラフソリッドS-1(東洋精機製)を用いて測定を行った。樹脂膜A
および樹脂膜Bの各シラン系カップリング剤添加量における圧電率の測定結果を図3に示す。シラン系カップリング剤を添加していない添加量0質量%における樹脂膜Aにおいては圧電率d31が4pC/N、樹脂膜Bにおいては圧電率d31が10pC/Nと双方ともにシラン系カップリング剤添加量0.1質量%の時よりも低い圧電率であった。この事からもシラン系カップリング剤を溶液Aおよび溶液Bに添加する事により、圧電率が著しく向上できる事が確認された。また、樹脂膜Aおよび樹脂膜Bの双方とも、シラン系カップリング剤添加量1.0質量%の時が最も圧電率d31が高く、樹脂膜Aでd31が12pC/N、圧電性セラミック粉末を添加した樹脂膜Bでd31が16pC/Nであった。しかしながら、1.5、2.0質量%と添加量の増加に伴って、圧電率が低下する傾向があった。これはシラン系カップリング剤の量が増加した事により、樹脂膜Aおよび樹脂膜Bと過剰な架橋反応を起こし、樹脂膜内部でのβ型結晶構造の配向が乱れた為と考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1 導電性基材
2 圧電性樹脂膜
3 圧電性セラミック粉末を混合した圧電性樹脂膜
4 上部電極
5 リード線
6 高電圧発生器
図1
図2
図3