(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂及び着色剤を含有する混合物を加熱混練して得られた混練物を、押出機を用いて押し出した後、圧延冷却ロールを用いて冷却下に圧延して、シート厚さ7mm以下のシート状混練物を得る工程と、得られた前記シート状混練物を粉砕する工程とを備え、
前記押出機が、押出先端に向かって次第に細くなるテーパードスクリューと、前記押出先端に着脱可能に配設される温度調節可能な口金とを有し、
下記式(1)及び(2)の条件を満たすように、前記混練物を前記押出機で押し出す樹脂着色用マスターバッチの製造方法。
Tg−30<Tz≦Tg ・・・(1)
Tr−20≦Tk≦Tr+50 ・・・(2)
Tg:前記樹脂のガラス転移点(℃)
Tz:前記テーパードスクリューの設定温度(℃)
Tk:前記口金の設定温度(℃)
Tr:ダイス穴径2mm及びダイス穴長さ10mmのフローテスターを使用し、荷重5kg及び昇温速度5℃/minの条件で測定される前記樹脂の流出開始温度(℃)
【背景技術】
【0002】
樹脂を着色する場合、顔料や染料などの着色剤と金属石鹸類とを混合したドライカラーや、樹脂ペレットに着色剤を最終着色濃度で付着させたものを押出機で混練したカラードペレットなどが一般的に用いられている。また、近年では着色剤を樹脂中に均一に存在させるべく、着色樹脂組成物を主として構成する樹脂と同種又は異種の樹脂或いは樹脂混合物中に、最終着色濃度よりも高濃度に着色剤を分散させたマスターバッチが用いられている。
【0003】
電子写真法や静電記録法などに用いられる電子写真現像剤(電子写真現像剤粒子)の製造方法としては、いわゆる粉砕法や重合法などが知られている。粉砕法は、電子写真現像剤粒子の原材料を混合し、混練機などを用いて加熱、溶融、及び分散させて均一な組成物を得た後、得られた組成物を冷却、粉砕、及び分級して電子写真現像剤粒子を製造する方法である。また、重合法は、電子写真現像剤粒子の原材料を溶解及び分散させて着色粒子分散液を得た後、得られた着色粒子分散液から着色粒子を分離及び乾燥して電子写真現像剤粒子を製造する方法である。なお、これらの粉砕法や重合法においても、電子写真現像剤粒子の原材料の一部をマスターバッチ化して製造する場合があるのは公知である。
【0004】
電子写真現像剤の製造に用いられるマスターバッチ(電子写真現像剤用マスターバッチ)の製造方法としては、例えば、粉末又は含水ケーキ状の着色剤、樹脂、及び必要に応じて用いられる分散剤等の添加剤を、密閉又は開放式のバッチ式混練機を用いて混合、加熱、及び溶融した後に混練する、いわゆるバッチ式のマスターバッチ製造方法が開示されている。また、原材料を混合した後に、単軸又は多軸押出機や、開放型の2本又は3本ロール等を用いて加熱及び溶融しながら混練する、いわゆる連続式のマスターバッチ製造方法が開示されている(以上、特許文献1〜4参照)。
【0005】
バッチ式混練機を用いた製造方法では、顔料や添加剤などの粒子を所望の大きさで分散させることが可能なせん断応力を混練物に与えることができる。しかしながら、バッチ式混練機から排出される混練物は塊のままであることが多いので、目的の形状(例えば粉状)に加工する際には加工可能な温度まで塊のまま冷却させる必要がある。このため、冷却に要する時間がかかり、生産性が低下してしまうといった問題がある。一方、連続式混練機を用いた製造方法では、混練から冷却、その後の目的の形状への加工が連続的に行われるため、生産性は向上する。しかしながら、連続式混練機を使用して顔料や添加剤などの粒子を所望の大きさに分散させるには、せん断応力が不足する場合がある。このため、目的とする分散状態のマスターバッチを得ることが困難である。また、投入する原材料の形態が限定される、或いは顔料を高濃度に添加することが困難である、といった問題もある。
【0006】
これに対して、バッチ式混練機から塊のまま排出された混練物を2軸のテーパードスクリューを有する押出機によって押し出した後、2本のロールによってシート状に圧延する樹脂混練物の製造方法が知られている(特許文献5〜7参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
<樹脂着色用マスターバッチの製造方法>
本発明の樹脂着色用マスターバッチ(以下、単に「マスターバッチ」とも記す)の製造方法は、樹脂及び着色剤を含有する混合物を加熱混練して得られた混練物を、押出機を用いて押し出した後、圧延冷却ロールを用いて冷却下に圧延してシート状混練物を得る工程(以下、「シート化工程」とも記す)と、得られたシート状混練物を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」とも記す)とを備える。また、本発明のマスターバッチの製造方法は、シート化工程で用いる混練物を得る工程として、樹脂及び着色剤を含有する混合物を加熱混練して混練物を得る工程(予備混練工程)をさらに備えていてもよい。以下、各工程の詳細について説明する。
【0017】
(予備混練工程)
本発明のマスターバッチの製造方法は、シート化工程で用いる混練物を得る工程として、樹脂及び着色剤を含有する混合物を加熱混練して混練物を得る工程(予備混練工程)をさらに備えていてもよい。予備混練工程では、例えば、バッチ式混練機を使用し、樹脂と着色剤を含むマスターバッチ用の原材料を混合、加熱、及び溶融混練する。バッチ式混練機としては、加圧可能な密閉式混練機を使用することが好ましい。加圧可能な密閉式混練機の具体例としては、ワンダーニーダー、加圧式ニーダー、バンバリーミキサー等を挙げることができる。なかでも、加圧ニーダーを使用することが、着色剤の粗大粒子を実質的に存在させることなく、樹脂中に着色剤を均一に分散させることができるために好ましい。加圧ニーダーを使用して混練することにより、溶融した混練物とニーダー槽の壁面との間、又は混練物どうしの間に強力なせん断応力を与えることができる。このため、着色剤の粗大粒子が実質的に存在しない均一な分散状態とすることが可能である。また、加圧することにより原材料を強力に押し付けて練り込むことができるので、樹脂と着色剤の結合状態が良好となり、着色剤を高濃度に充填することが可能となる。
【0018】
樹脂としては、電子写真現像剤に用いられる従来公知の結着樹脂を用いることができる。樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体樹脂、熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のα−オレフィン樹脂)、ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、テルペンフェノール樹脂、ポリ乳酸樹脂、水添ロジン、環化ゴム、シクロオレフィン共重合体樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、電子写真現像剤の画質特性、耐久性、及び生産性などの要求をバランスよく満たすことができるという観点から、ポリエステル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体樹脂が好ましい。
【0019】
着色剤としては、顔料と染料の少なくともいずれかを用いることができる。マゼンタ用着色剤としては、C.I.ピグメントレッド1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38,39,40,41,48,49,50,51,52,53,54,55,57,58,60,63,64,68,81,83,87,88,89,90,112,114,122,123,150,163,202,206,207,209、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.バットレッド1,2,10,13,15,23,29,35等のマゼンタ用顔料;
C.I.ソルベントレッド1,3,8,23,24,25,27,30,49,2,881,83,84,100,109,121、C.I.ディスパースレッド9、C.I.ソルベントバイオレット8,13,14,21,27、C.I.ディスパースバイオレット1等の油溶染料;
C.I.ベーシックレッド1,2,9,12,13,14,15,17,18,22,23,24,27,29,32,34,35,36,37,38,39,40、C.I.ベーシックバイオレット1,3,7,10,14,15,21,25,26,27,28等の塩基性染料を挙げることができる。
【0020】
シアン用着色剤としては、C.I.ピグメントブルー2,3,15:2,15:3,15:4,16,17、C.I.バットブルー6、C.I.アシッドブルー45、フタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1〜5個置換した銅フタロシアニン顔料等のシアン用顔料;
C.I.ソルベントブルー70等のシアン用染料を挙げることができる。
【0021】
イエロー用着色剤としては、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,14,15,16,17,23,62,65,73,74,83,93,94,95,97,109,110,111,120,127,128,129,147,151,154,155,168,174,175,176,180,181,185、C.I.バットイエロー1,3,20等のイエロー用顔料;
C.I.アシッドイエロー1等のニトロ系染料;
C.I.ソルベントイエロー2,6,14,15,19,21,162等の油溶性染料等のイエロー用染料を挙げることができる。
【0022】
黒色着色剤としては、カーボンブラック、酸化鉄、及び上記のマゼンタ用着色剤、並びにシアン用着色剤、及びイエロー用着色剤を適宜組み合わせて黒色に調色されたもの等を用いることができる。これらの着色剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、同色系のものを二種以上用いてもよいし、異色系のものを二種以上用いてもよい。
【0023】
着色剤は、乾燥状態(乾燥粉体)と含水ケーキ状のいずれであっても用いることができる。ただし、着色剤の分散状態がより良好なマスターバッチを得るには、その固形分が、好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは20〜40質量%の含水ケーキ状の着色剤を用いる。なお、含水ケーキ状の着色剤は、水中で合成された着色剤(顔料)の一次粒子を粉末化させる前の状態のものである。含水ケーキ状の着色剤が入手困難である場合には、着色剤の乾燥粉体(顔料又は染料)100質量部に対して、10〜200質量部、さらに好ましくは20〜50質量部の水を予備混練時に添加すると、着色剤(顔料又は染料)を乾燥状態で使用する場合に比して、着色剤の分散状態がより良好なマスターバッチを製造することができる。なお、樹脂100質量部に対する着色剤の量は、5〜400質量部とすることが好ましく、40〜150質量部とすることがさらに好ましい。
【0024】
樹脂及び着色剤を含有する混合物には、各種の添加剤を必要に応じて含有させることもできる。添加剤としては、例えば、分散剤、電子写真現像剤の原材料の一部である離型剤及び荷電制御剤等を挙げることができる。
【0025】
分散剤の具体例としては、高級脂肪酸アルカリ塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニウム、第四級アンモニウム塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、アミノ酸等の界面活性剤;オレフィン系炭化水素、ロジン誘導体、ワニス類、高分子分散剤等の公知の着色剤用の分散剤等を挙げることができる。
【0026】
離型剤の具体例としては、カルナウバワックス等の天然ワックス類、合成ワックス類、シリコーン系重合体、高級脂肪酸、ポリオレフィン系重合体、低分子重合体等を挙げることができる。
【0027】
荷電制御剤としては、黒トナー若しくはカラートナー用の公知の負帯電又は正帯電トナー用の荷電制御剤を使用することができる。負帯電トナー用の荷電制御剤の具体例としては、サリチル酸又はその誘導体のクロム、亜鉛、ジルコニウム錯体若しくは塩化合物、アゾ錯体染料、長鎖アルキルカルボン酸塩等の界面活性剤等を挙げることができる。正帯電トナー用の荷電制御剤の具体例としては、ニグロシン染料又はその誘導体、四級アンモニウム塩、グアニジン塩等を挙げることができる。
【0028】
混練時の温度(混練温度)は、樹脂、着色剤、及び必要に応じて用いる各種添加剤の種類、分子量、及び配合量等に応じて適宜設定することができる。ただし、混練温度は40〜200℃とすることが好ましく、60〜160℃とすることがさらに好ましい。混練温度が40℃未満であると、混練物の粘度が高くなり過ぎてしまい、混練が困難になる場合がある。一方、混練温度が200℃超であると、樹脂や着色剤が熱劣化して分解する場合がある。さらには、混練物の粘度が低下して流動性が高くなり過ぎてしまい、せん断応力が低くなって着色剤の分散性が低下する場合がある。なお、本明細書における「混練温度」とは、混練機の設定温度ではなく、混練時の混練物の温度である。
【0029】
(シート化工程)
シート化工程では、上述の予備混練工程により得られた混練物を、押出機を用いて押し出した後、圧延冷却ロールを用いて冷却下に圧延してシート状混練物を得る。なお、本発明のマスターバッチの製造方法においては、通常、上述の予備混練工程により得られた混練物を長時間冷却させることなく、そのまま(排出された直後の塊の状態のまま)押出機を用いて押し出す。このため、連続的に押し出し及びシート化が可能であるので、マスターバッチの生産性を向上させることができる。
【0030】
押出機としては、
図1に示すような圧延冷却ロール付き押出機10を使用することができる。
図1に示す圧延冷却ロール付き押出機10は、押出機2(押出部分)と、上下一対に配置された圧延冷却ロール4a,4bとを備える。押出機2は、材料投入口15を有する材料供給部20と、材料供給部20の下方に配置された材料貯留部25と、材料貯留部25の押出方向の先端側に配置された押出先端35と、押出先端35に配設された口金40と、材料貯留部25及び押出先端35にまたがって設置された、相互に異方向に回転可能な二軸のテーパードスクリュー30とを備える。なお、
図1においては、便宜上、一軸のテーパードスクリュー30のみを図示しており、もう一軸のテーパードスクリューについては図示を省略している。
【0031】
材料投入口15は、バッチ式混練機等から取り出された混練物を、冷却することなく一塊のまま材料供給部20内へと投入可能なサイズに構成されている。材料投入口15に投入された混練物は材料貯留部25へと移動する。押出機2(材料貯留部25)は、その押出方向が下方へと傾斜している。また、テーパードスクリュー30は、押出先端35に向かって次第に細くなるように構成されている。このため、材料貯留部25内の混練物はテーパードスクリュー30によってさらに混練されるとともに、押出先端35へと排出される。そして、押出先端35へと排出された混練物は、押出先端35に着脱可能に配設された温度調節可能な口金40を通過し、上下に配置された一組の上側ロール4aと下側ロール4bからなる圧延冷却ロール4によって冷却下に圧延されてシート状に成形される。これにより、シート状混練物45を得ることができる。
【0032】
圧延冷却ロール4を構成する上側ロール4aと下側ロール4bは、温度調節された水又はオイル等の媒体をその内部に循環させることが可能なようにそれぞれ構成されている。また、上側ロール4aと下側ロール4bの間のクリアランスは、任意に設定することができる。このため、得られるシート状混練物45を所望の厚さにすることができる。
【0033】
二軸のテーパードスクリュー30は、押出先端35に向かって次第に細くなるように構成されている。テーパードスクリュー30を回転させることにより、混練物を練り過ぎることなく、適度な押出圧力を混練物に負荷して押し出すことができる。テーパードスクリュー30と、材料供給部20及び材料貯留部25を区画形成する槽壁は、温度調節された水、オイル、又は蒸気等の媒体をそれぞれの内部に循環可能なように構成されている。これにより、混練物を加温又は冷却しながら押し出すことが可能である。
【0034】
本発明のマスターバッチの製造方法においては、例えば
図1及び2に示すような構成を有する圧延冷却ロール付き押出機を使用して、下記式(1)の条件を満たすように混練物を押し出す。
Tg−30<Tz≦Tg ・・・(1)
Tg:樹脂のガラス転移点(℃)
Tz:テーパードスクリューの設定温度(℃)
【0035】
テーパードスクリューの設定温度Tzが、樹脂のガラス転移点Tg超であると、混練物の粘度が低くなり過ぎてしまい、混練物がテーパードスクリューに過剰に巻き付いて押出力が低下する、或いは製造歩留まりが低下する等の問題が生ずる。一方、テーパードスクリューの設定温度Tzが、樹脂のガラス転移点Tg−30℃以下であると、混練物の粘度が高くなり過ぎてしまい、混練物を上手く押し出せない、或いはテーパードスクリューへの負荷が過大になって装置が停止する等の問題が生ずる。
【0036】
テーパードスクリューによって押出先端へと押された混練物は、一定の押出圧力が負荷されているため、口金から徐々に外部へと排出される。本発明においては、
図1及び2に示すように、口金40の開口高さhが50mm以下であり、口金40の上流側端部から下側ロール4bの回転中心7までの長さL1(mm)と、開口高さh(mm)とが、下記式(3)の条件を満たすことが好ましい。また、口金40の下流側端部から下側ロール4bの回転中心7までの長さL2(mm)と、開口高さh(mm)とが、下記式(4)の条件を満たすことが好ましい。
6.0≦L1/h≦8.0 ・・・(3)
3.0≦L2/h<5.0 ・・・(4)
【0037】
このような口金を使用することにより、高粘度から低粘度まで、幅広い粘度の混練物を外部(圧延冷却ロールの方向)へと均一に押し出すことができる。なお、電子写真現像剤用の樹脂(結着樹脂)は、電子写真現像剤の生産性や定着性等を考慮されて設計されていることが多い。具体的には、電子写真現像剤用の樹脂は、ガラス転移点Tgが低い、シャープメルトである、固化すると割れやすい等の特徴を有する。
【0038】
テーパードスクリューによって材料貯留部から押出先端に向かって押し出される混練物は、テーパードスクリューの回転により生ずる摩擦熱の影響で徐々に温度が上昇する。このため、前記式(3)の条件を満たさない口金を用いて電子写真現像剤用の樹脂を含有する混練物を押し出そうとすると、混練物の粘度が低くなり過ぎて上下の圧延冷却ロール間に食い込みにくくなる、或いは圧延冷却ロールに貼り付いてしまう等の問題が生ずる場合がある。一方、装置に冷却水を通水して混練物を冷却しながら押し出す方法も想定される。しかしながら、温度が下がり過ぎて混練物の粘度が高くなってしまい、圧延冷却ロールへの食い込み不良が発生する、混練が困難になる、或いは過負荷で装置が停止する等の問題が生ずる場合がある。
【0039】
さらに、装置の運転を一定時間停止したような場合には、完全に押し出されなかった混練物(残存物)が内部で固化することが想定される。一度固化した混練物を押し出し可能なまでに溶融させるには、テーパードスクリューの設定温度Tzを樹脂のガラス転移点Tgよりも高くする必要がある。このため、押し出し可能な温度にまで混練物を再加熱した場合には、テーパードスクリューへの巻き付きが発生しやすくなるといった問題が生ずることがある。
【0040】
このような問題を解消するには、装置自体の温度を厳密に制御して混練物の溶融粘度を一定の範囲内に制御する方法が考えられる。しかしながら、装置自体の温度を厳密に制御するには、装置全体の構造を考慮すると、材料貯留部、テーパードスクリュー及び押出先端にそれぞれ温度調節機構を設ける必要がある。このため、装置の複雑化や設備費用の増大等の面で困難である。また、装置内部における混練物の固化を防止するには、前記式(1)の条件を満たした状態でテーパードスクリューを継続的に回転させておく必要があるので、消費電力の無駄に繋がるという問題が生ずる。
【0041】
これに対して、温度調節可能な口金を用いれば、装置の運転停止中も口金を一定温度以上に制御しておくだけでよい。また、開口高さhが50mm以下の口金を用いるとともに、口金の上流側端部から下側ロールの回転中心までの長さL1(mm)と開口高さh(mm)とが前記式(3)の条件を満たし、かつ、口金の下流側端部から下側ロールの回転中心までの長さL2と、開口高さh(mm)とが前記式(4)の条件を満たす圧延冷却ロール付き押出機を使用することで、口金から押し出される混練物の厚さを圧延冷却ロールに食い込みやすい厚さと粘度に予め調整しておくことが可能である。なお、口金の開口高さhが50mm超であると、押し出される混練物が厚過ぎてしまい、所望のシート厚さになるようにロール間隔を狭くした場合に、冷却ロールにうまく食い込まないことがある。また、L1/hの値が6.0未満及び/又はL2/hの値が3.0未満であると、混練物が圧延冷却ロールにうまく食い込まない、或いは圧延冷却ロールへの巻き付きが発生する場合がある。一方、L1/hの値が8.0超及び/又はL2/hの値が5.0以上であると、混練物が圧延冷却ロールに食い込む前に固化しやすくなり、樹脂の割れやすさから圧延冷却ロールへの食い込み不良が生ずる傾向にある。
【0042】
また、本発明においては、例えば
図1に示すような構成を有する圧延冷却ロール付き押出機を使用して、下記式(2)の条件を満たすように混練物を押し出す。
Tr−20≦Tk≦Tr+50 ・・・(2)
Tk:前記口金の設定温度(℃)
Tr:前記樹脂の流出開始温度(℃)
【0043】
口金の設定温度Tkが、樹脂の流出開始温度Tr+50℃超であると、押し出される混練物の粘度が低くなり過ぎてしまい、混練物が圧延冷却ロールに巻き付いてしまってシート化が困難になる、或いは混練物に使用している樹脂や着色剤が熱劣化して分解してしまう場合がある。一方、口金の設定温度Tkが、樹脂の流出開始温度Tr−20℃未満であると、混練物の粘度が高くなり過ぎてしまい、混練物が圧延冷却ロールにうまく食い込まない。また、装置の運転を一旦停止させたような場合には混練物が固化してしまい、装置の運転を再開する際に押し出しが困難になる場合がある。なお、本発明のマスターバッチの製造方法において使用する口金は着脱可能であるため、口金内の残存物を取り除きやすい。さらには、口金が故障した場合であっても交換が容易である。
【0044】
本発明においては、シート状混練物の厚さ(シート厚さ)が7mm以下、好ましくは5mm以下となるように、圧延冷却ロールを用いて混練物を圧延する。シート状混練物の厚さを7mm以下とすることによって、その後の粉砕工程において、シート状混練物の冷却不足による粉砕機での詰まりや固着を防止することができる。なお、シート状混練物の厚さを7mm超とした場合であっても、チラー水などを使用して圧延冷却ロールや冷却ベルトを冷却する、或いは冷却ベルトを長くする等の方法により、シート状混練物を十分に冷却することは可能である。しかしながら、冷却温度が露点よりも低くなった場合には、圧延冷却ロールや冷却ベルトの表面が結露してしまい、シート状混練物が濡れてしまうことがある。また、冷却ベルトを長くすると、設備の設置スペースをさらに余分に確保する必要がある。このため、シート状混練物の厚さを7mm以下とすることが、得られるマスターバッチの品質面及び設備面において特に有効である。
【0045】
(粉砕工程)
粉砕工程では、上述のシート化工程により得られたシート状混練物を粉砕する。具体的には、
図1に示すように、得られたシート状混練物45は冷却ベルト50上で冷却された後、粉砕機55を用いて粉砕される。これにより、樹脂着色用マスターバッチを得ることができる。
【0046】
<樹脂着色用マスターバッチ>
本発明の樹脂着色用マスターバッチは、上述の本発明のマスターバッチの製造方法によって製造されたものである。すなわち、上述の製造方法によって製造された本発明の樹脂着色用マスターバッチは、連続式混練機を用いて製造したマスターバッチに比して、顔料、染料、又はカーボンブラック等の着色剤の分散性に優れている。このため、本発明の樹脂着色用マスターバッチは、カラー電子写真現像剤や黒色電子写真現像剤を製造するためのマスターバッチ(電子写真現像剤用マスターバッチ)として好適である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0048】
(流出開始温度Trの測定方法)
高架式フローテスター(商品名「CFT−100D」(島津製作所社製))を使用し、以下に示す条件で試料(樹脂)を溶融流出させて流出開始温度Trを測定した。
ダイス穴径:2mm
ダイス穴長さ:10mm
荷重:5kg
昇温速度:5℃/min
【0049】
(製造例1:予備混練物(1)の製造)
ビスフェノール型のポリエステル系樹脂(Tg:約60℃、Tr:90℃、重量平均分子量:約13,000)の微粉末100部、及び銅フタロシアニンブルー顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)を含有する水性プレスケーキ(固形分:40%)166.8部を、加圧ニーダー型混練機を使用して5分間混合した。徐々に加熱及び加圧しながら混練したところ、約100℃で溶融樹脂相への顔料移行が始まった。100℃で20分間混練を継続し、水相と着色樹脂相とが明瞭に分離した後に、混練槽を傾斜させて分離した水分を除去した。120℃で混練して残留した水分を蒸発させて脱水乾燥した後、120〜130℃で10分間さらに混練した。これにより、銅フタロシアニンブルー顔料(青色顔料)を40%含有する予備混練物(1)を得た。
【0050】
(実施例1)
二軸のテーパードスクリューを有するとともに、温度調節及び着脱可能な口金(h≦50mm)をその押出先端に取り付けた圧延冷却ロール付き押出機を使用し、予備混練物(1)を押し出した後にシート化して、厚さ4mmのシート状混練物を得た。なお、使用した圧延冷却ロール付き押出機の、口金の開口高さh(mm)に対する、口金の上流側端部から下側ロールの回転中心までの長さL1(mm)の比(L1/h)は、6.0であった。さらに、口金の開口高さh(mm)に対する、口金の下流側端部から下側ロールの回転中心までの長さL2(mm)との比(L2/h)は4.0であった。また、材料貯留部及びテーパードスクリューの設定温度Tzは50℃とし、口金の設定温度Tkは90℃とした。得られたシート状混練物を冷却ベルト上で冷却した後、粉砕して、青色電子写真現像剤用マスターバッチを得た。
【0051】
シート化の状況及び粉砕状況はいずれも良好であった。また、バッチ間で圧延冷却ロール付き押出機の運転と停止を複数回繰り返しても、シート化の状況及び粉砕状況はいずれも良好であった。さらに、得られた青色電子写真現像剤用マスターバッチをスライドグラスに乗せて加熱溶融させ、光学顕微鏡を用いて観察したところ、顔料粒子は全て微細に分散しており、粗大粒子は認められなかった。
【0052】
(比較例1)
口金を取り付けていない圧延冷却ロール付き押出機を使用したこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に予備混練物(1)を押し出した後にシート化して、厚さ4mmのシート状混練物を得た。しかしながら、バッチ間で圧延冷却ロール付き押出機の運転と停止を複数回繰り返したところ、材料貯留部の残留物が阻害して圧延冷却ロールへの食い込み不良が発生してしまい、連続的にシート化することが不可能であった。
【0053】
(比較例2)
シート状混練物の厚さを8mmとしたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に予備混練物(1)を押し出した後にシート化してシート状混練物を得た。得られたシート状混練物を冷却ベルト上で冷却した後、粉砕したところ、シート状混練物の冷却不足により粉砕機で固着が発生してしまい、長時間粉砕することが不可能であった。また、固着を解消すべく、チラー水(温度:15℃)を用いて冷却ベルトを冷却した。しかしながら、冷却ベルト上で結露が発生してしまい、冷却シートに水滴が付着してマスターバッチを得ることができなかった。
【0054】
(比較例3)
テーパードスクリューの設定温度Tzを90℃としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に予備混練物(1)を押し出した後にシート化して、厚さ4mmのシート状混練物を得た。しかしながら、材料供給部及びテーパードスクリューに溶融した混練物が付着、或いは過剰に巻き付いたため、押し出しが不安定になった。また、圧延冷却ロールへの貼り付きも発生した。その結果、長時間シート化することが不可能であった。
【0055】
(比較例4)
テーパードスクリューの設定温度Tzを30℃としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に予備混練物(1)を押し出した後にシート化して、厚さ4mmのシート状混練物を得た。しかしながら、バッチ間で圧延冷却ロール付き押出機の停止した後に再度運転したところ、材料供給部及びテーパードスクリューに付着した溶融物が固着してテーパードスクリューが過負荷となり、連続的にシート化することが不可能であった。
【0056】
(比較例5)
口金の設定温度Tkを50℃としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に予備混練物(1)を押し出した。その後にシート化しようとしたところ、口金における混練物の温度が低下して溶融粘度が高くなったために排出不良が発生した。その結果、圧延冷却ロールへの食い込みがうまくいかずにシート化が不可能であった。
【0057】
(比較例6)
口金の設定温度Tkを150℃としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様に予備混練物(1)を押し出した。しかしながら、圧延冷却ロールへの貼り付きが顕著となり、シート化することが不可能であった。
【0058】
(比較例7)
圧延冷却ロール付き押出機を使用することなく一昼夜放冷した予備混練物(1)を粗砕及び粉砕することにより、青色電子写真現像剤用マスターバッチを得た。得られた青色電子写真現像剤用マスターバッチをスライドグラスに乗せて加熱溶融させ、光学顕微鏡を用いて観察したところ、顔料粒子は全て微細に分散しており、粗大粒子は認められなかった。また、実施例1で得た青色電子写真現像剤用マスターバッチと比較しても、分顔料粒子の散状態に違いは認められなかったが、実施例1の場合に比して生産性は劣っていた。
【0059】
(製造例2:予備混練物(2)の製造)
ビスフェノール型のポリエステル系樹脂(Tg:約60℃、Tr:90℃、重量平均分子量:約13,000)の微粉末60部、カーミン6Bの乾燥粉末顔料(C.I.ピグメントレッド57:1)40部、及び水32部を、ヘンシェルミキサーを使用して5分間混合し、湿潤した混合物を得た。得られた混合物を加圧ニーダー型混練機に入れて徐々に加熱したところ、約90〜110℃で樹脂が溶融した。水が混在した状態で90〜110℃で水を蒸発させながら混練した。次いで、120℃で混練して残留した水分を蒸発させて脱水乾燥した。これにより、カーミン6Bの乾燥粉末顔料(マゼンタ色顔料)を40%含有する予備混練物(2)を得た。
【0060】
(実施例2)
予備混練物(2)を用いたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様にして、厚さ4mmのシート状混練物を得た。そして、得られたシート状混練物を冷却ベルト上で冷却した後、粉砕して、マゼンタ色電子写真現像剤用マスターバッチを得た。
【0061】
シート化の状況及び粉砕状況はいずれも良好であった。また、バッチ間で圧延冷却ロール付き押出機の運転と停止を複数回繰り返しても、シート化の状況及び粉砕状況はいずれも良好であった。さらに、得られた青色電子写真現像剤用マスターバッチをスライドグラスに乗せて加熱溶融させ、光学顕微鏡を用いて観察したところ、顔料粒子は全て微細に分散しており、粗大粒子は認められなかった。
【0062】
(比較例8)
予備混練物(2)を用いたこと以外は、前述の比較例1の場合と同様にして、厚さ4mmのシート状混練物を得た。しかしながら、バッチ間で圧延冷却ロール付き押出機の運転と停止を複数回繰り返したところ、材料貯留部の残留物が阻害して圧延冷却ロールへの食い込み不良が発生してしまい、連続的にシート化することが不可能であった。
【0063】
(比較例9)
予備混練物(2)を用いたこと以外は、前述の比較例3の場合と同様にして、厚さ4mmのシート状混練物を得た。しかしながら、材料供給部及びテーパードスクリューに溶融した混練物が付着したり、巻き付いたりして押し出しが不安定になった。また、圧延冷却ロールへの貼り付きも発生した。その結果、長時間シート化することが不可能であった。
【0064】
(比較例10)
予備混練物(2)を用いたこと以外は、前述の比較例4の場合と同様にして、厚さ4mmのシート状混練物を得た。しかしながら、バッチ間で圧延冷却ロール付き押出機の停止した後に再度運転したところ、材料供給部及びテーパードスクリューに付着した溶融物が固着してテーパードスクリューが過負荷となり、連続的にシート化することが不可能であった。
【0065】
(比較例11)
予備混練物(2)を用いたこと以外は、前述の比較例5の場合と同様に押し出しを行った。その後にシート化しようとしたところ、口金における混練物の温度が低下して溶融粘度が高くなったために排出不良が発生した。その結果、圧延冷却ロールへの食い込みがうまくいかずにシート化が不可能であった。
【0066】
(比較例12)
予備混練物(2)を用いたこと以外は、前述の比較例6の場合と同様に押し出しを行った。しかしながら、圧延冷却ロールへの貼り付きが顕著となり、シート化することが不可能であった。
【0067】
(比較例13)
圧延冷却ロール付き押出機を使用することなく一昼夜放冷した予備混練物(2)を粗砕及び粉砕することにより、マゼンタ色電子写真現像剤用マスターバッチを得た。得られたマゼンタ色電子写真現像剤用マスターバッチをスライドグラスに乗せて加熱溶融させ、光学顕微鏡を用いて観察したところ、顔料粒子は全て微細に分散しており、粗大粒子は認められなかった。また、実施例2で得たマゼンタ色電子写真現像剤用マスターバッチと比較しても、分顔料粒子の散状態に違いは認められなかったが、実施例2の場合に比して生産性は劣っていた。
【0068】
実施例1及び2並びに比較例1〜13の実施条件等及び生産性の評価結果を表1に示す。また、生産性の評価基準を以下に示す。
【0069】
<生産性>
○:マスターバッチを得るまでの工程の途中及びバッチ間において、工程上の不具合が認められなかった。
△:マスターバッチを得ることは可能だが、工程の途中若しくはバッチ間において何らかの不具合が認められた、又はマスターバッチ化に時間がかかった。
×:マスターバッチの製造が不可能であった。
【0070】