(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796031
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】内燃エンジンにおける燃料燃焼効率を高める装置及び方法
(51)【国際特許分類】
F02B 23/00 20060101AFI20151001BHJP
F02F 3/28 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
F02B23/00 S
F02F3/28 B
F02B23/00 Y
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-41490(P2013-41490)
(22)【出願日】2013年3月4日
(62)【分割の表示】特願2008-529158(P2008-529158)の分割
【原出願日】2006年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-137029(P2013-137029A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2013年3月27日
(31)【優先権主張番号】60/712,840
(32)【優先日】2005年9月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】11/498,766
(32)【優先日】2006年8月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508064687
【氏名又は名称】レーマン, ハリー, ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100092679
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 盛之助
(72)【発明者】
【氏名】レーマン,ハリー, ブイ.
【審査官】
安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−008965(JP,A)
【文献】
特開平11−117748(JP,A)
【文献】
特公平05−080566(JP,B2)
【文献】
米国特許第4357915(US,A)
【文献】
特開平11−257077(JP,A)
【文献】
米国特許第2231392(US,A)
【文献】
米国特許第2269084(US,A)
【文献】
特開2001−349221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/00
F02F 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸素と燃焼可能な燃料とを含む流体混合物を燃焼のために圧縮すること及び(b)燃焼室内の流体混合物の燃焼に応じて駆動力を発生するために、燃焼室内でそれの摺動軸線に沿って往復摺動可能なピストンを備えた内燃エンジンであって、
流体混合物と接触するピストンの表面の最上部が、燃焼室のピストンからほぼ軸線方向にのびかつピストンの中心からピストンの周囲に向かって外方へのびる多数のベーンを備え、
上記ピストンは円筒状であり、上記ベーンの各々が、ピストンの周囲に向かってほぼ外方へのびるように半径に追従し、
上記ベーンの長さが、ピストンの半径より短く、各ベーンの半径方向遠端部がピストンの周縁部から離間され、
上記ベーンの各々の二つの壁を、ピストンからベーンの遠方端部における上記壁を接続する接続面までほぼ軸線方向にのばし、
上記二つの壁における一方の壁のピストンの摺動軸線に対する傾斜を、上記二つの壁における他方の壁の傾斜より大きくして、
上記二つの壁のうち傾斜の少ない方の壁が、ピストン近くに凹状部分を備えているか、又は、上記ピストン近くに凹状部分と上記接続面近くに凸状部分とを備え、
上記二つの壁のうち傾斜の大きい方の壁が弓形部分を備えていることにより、
ピストンが燃焼室内を動く際に、液体混合物と接触するピストン表面の最上部が流体混合物に渦流を生じさせ、ピストンの運動方向に対して流体混合物内に生じた一つ以上の渦流の方向が軸方向よりピストンの運動軸線と直交する方向に多くしたことを特徴とする内燃エンジン。
【請求項2】
上記ベーンの各々が、ピストンの周囲に向かう半径方向で湾曲していることを特徴とする請求項1に記載の内燃エンジン。
【請求項3】
湾曲した各ベーンは、全体が同じ曲率をもつことを特徴とする請求項2に記載の内燃エンジン。
【請求項4】
少なくとも四枚のベーンを備えていることを特徴とする請求項1に記載の内燃エンジン。
【請求項5】
少なくとも六枚のベーンを備えていることを特徴とする請求項1に記載の内燃エンジン。
【請求項6】
少なくとも八枚のベーンを備えていることを特徴とする請求項1に記載の内燃エンジン。
【請求項7】
往復動ピストンエンジンの燃焼室内に往復動可能に装着されたピストンのクラウンに装着する装置であって、
ピストンの往復動中に上記燃焼室に収容された流体と接触するピストン表面の最上部に渦流を生じさせる空力構造体を有し、
上記空力構造体が、中央部分と中央部分から横方向外方へのびる多数のベーンとを備え、
上記ベーンの各々が、ピストンの周囲に向かってほぼ外方へのびるように半径に追従し、
上記ベーンの長さがピストンの半径より短く、各ベーンの半径方向遠端部がクラウンの周縁部から離間され、
上記ベーンの各々の二つの壁を、ピストンからベーンの遠方端部における上記壁を接続する接続面までほぼ軸線方向にのばし、
上記二つの壁における一方の壁のピストンの摺動軸線に対する傾斜を、上記二つの壁における他方の壁の傾斜より大きくして、
傾斜の小さい方の壁が、クラウンの近くに凹状部分を備え、遠端部に凸状部分を備えていることにより
渦流の方向が、ピストンの運動軸線に平行な方向よりピストンの運動軸線と直交する方向に多いことを特徴とする装置。
【請求項8】
傾斜の大きい方の壁の主要部分がほぼ一定の傾斜をもつことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
傾斜の大きい方の壁が弓形部分を備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項10】
上記ベーンの各々が、ピストンの周囲に向かう半径方向で湾曲していることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項11】
湾曲した各ベーンは、全体が同じ曲率をもつことを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
単一形態のベーンを備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項13】
少なくとも四枚のベーンを備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項14】
少なくとも六枚のベーンを備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項15】
少なくとも八枚のベーンを備えていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項16】
上記各ベーンが、クラウンからピストンのほぼ軸線方向にのびる弓形壁と、クラウンからピストンのほぼ軸線方向にのびる第2の壁と、上記第2の壁の遠端部からクランクにほぼ平行にのびる第3の壁と、上記第3の壁から軸線方向にのびる第4の壁とを備え、上記第4の壁の遠端部が上記弓形壁の遠端部に接続されていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項17】
上記各ベーンが、クラウンからピストンのほぼ軸線方向にのび、ほぼ一定の傾斜をもつ第1の壁と、クラウンからピストンのほぼ軸線方向にのびる第2の壁と、上記第1の壁の遠端部からのびる接続面と、上記第2の壁の遠端部からクランクにほぼ平行にのびる第3の壁と、上記第3の壁から軸線方向にのびる第4の壁とを備え、上記第4の壁の遠端部が上記接続面に接続されていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2005年9月1日に出願した米国仮特許出願第60/712,840号、発明の名称“Device to Increase Fuel Burn Efficiency in Gasoline and Diesel Piston Engines(ガソリン及びディーゼルピストンエンジンの燃焼効率を高める装置)”に関するものであり、その出願の優先権を主張し、かかる出願の明細書の記載事項は参照文献として本明細書に組込まれる。
【0002】
本発明は、点火事象の前後に燃料空気混合物における乱流のレベルを高めることによって内燃ピストンエンジンにおける燃焼効率を高めるシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
内燃エンジンは、炭化水素燃料に含まれた化学エネルギー雄から機械的パワーを発生する。内燃エンジンは、燃焼プロセス、亜酸化窒素のような酸化剤を使用できるが一般には空気による燃料の反応に依存している。ところで、燃料から得られるエネルギーすなわちパワーの量は、酸化の度合いの関数であり、従って結果として燃焼中に燃料に作用し得る酸素の量に依存している。今日、一般的な原理として、燃料空気混合物の酸化飽和の度合いが高くなればなるほど、エンジンの効率(例えば自動車の単位燃料当たりの走行距離で表わされる)は高くなり、またエンジンの出力(例えば馬力で表される)は大きくなることが理解される。
【0004】
今日用いられている極普通の燃料は、炭化水素を含んでおり、石油から精製される。これらの燃料には、ディーゼル、ガソリン及び液化石油ガスとして知られた燃料が包含される。ガソリン用に設計された殆どの内燃エンジンは、関連した燃料排出成分を除いて変更なしに天然ガスまたは液化石油ガスで作動できる。エタノールのような液体及び気体バイオ燃料も使用され得る。あるエンジンでは水素で作動できるが、しかし、これは危険であり、炎フロントを含むようにシリンダーブロック、シリンダーヘッド及びヘッドガスケットを変更する必要がある。
【0005】
内燃エンジンにおける炭化水素燃料の燃焼は、窒素の酸化物(NOx);炭素の酸化物(CO、CO2);炭化水素(HC);及び酸化を受けるその他の汚染物質を含む幾つかの主要な汚染物質を生成することが分かっている。二酸化炭素(CO2)は一般に、炭化水素の酸化プロセスの無毒性の必要な副産物と考えられる。一酸化炭素(CO)及び炭化水素の放出に関して、燃焼中に増加する酸化は酸化によってこれらの成分の生成を低減する傾向にあることが理解される。NOxの放出に関しては、これらの生成は、燃焼温度の関数に大きく左右されると理解される。しかし、今日ではまた、燃料と空気との混合を改善するとNOxの生成が低減する傾向があると理解されている。内燃エンジンから直接周囲環境への放出を低減するために、触媒変換装置が使用されてきた。しかし、触媒変換装置は高価であり、それらの効力は時間の経過に連れて弱まり、性能を維持するために点検や交換が必要である。さらに、触媒交換装置の寿命は、変換装置が処理した汚染物質(主として未燃焼炭化水素)の量の関数であると理解される。従って、内燃エンジンの効率及び出力を高めることに加えて、燃焼中に燃料空気混合物の酸化及び飽和の増加も触媒変換装置の寿命を増大する。
【0006】
内燃エンジンは、燃焼を促進させる点火手段を必要としている。殆どのエンジンでは、電気又は圧縮加熱点火システムが用いられている。電気点火システムは一般的に、エンジンのシリンダー内の空燃混合物を点火する高圧電気スパークを発生するために鉛・酸バッテリー及び誘導コイルに依存している。ディーゼルエンジンのような圧縮加熱点火システムは、燃料を点火するためにエンジンのシリンダー内での圧縮によって空気に生じる熱に依存している。一度首尾よく点火及び燃焼すると、燃焼生成物、すなわちホットガスによって、初期の圧縮された燃料空気混合物(高い化学的エネルギーをもつ)より利用可能(有効)なエネルギーが増える。この利用可能なエネルギーは、エンジンによって仕事量に変換され得る高温及び高圧として表される。
【0007】
往復動及びロータリーエンジンは、動力駆動車両に典型的に使用される二種類の容積形エンジンから成っている。一般に容積形内燃エンジンは、燃料空気混合物の流れが燃焼室内の物理的容積変化により圧縮及び膨張するエンジンサイクルを通じて固体シーリング要素によって完全に分離される明確な容積内に区分けされる。二種類のエンジンのうち、往復動エンジンはより普通のものである。
【0008】
往復動エンジンには、エンジンブロックに設けられた室内を前後に走行し、接続ロッド及びクランク機構を介して車両の駆動シャフトに動力を伝達するピストンが組込まれている。一般には室は円筒形であり、しばしばシリンダと呼ばれている。多くの往復動エンジンは、4行程サイクルとして知られた仕方で作動する。すなわち、エンジンの各シリンダは、一つの出力行程をもたらす事象のシーケンスを行うために4行程すなわちクランクシャフトの二回転を必要とする最初の行程は、頂部センタークランク位置におけるピストンで開始され底部センタークランク位置におけるピストンで終端される吸気行程である。ピストンが頂部センタークランク位置から底部センタークランク位置へ動く際に、一般的に空気又は空気と燃料との混合物から成る新しい吸入混合物は、吸込み弁を介してシリンダ内に引き込まれ、吸込み弁は該行程の開始する直前に開き、該行程の終端した直後に閉じる。シリンダ内に吸入した吸入混合物が空気から成るか或いは空気と燃料との混合物から成るかどうかは、エンジンの形式に依存している。例えば、普通のスパーク点火エンジンでは、空気は空気フィルターを通り、そして気化器又は燃料噴射システムを用いたエンジンに入る前に吸入システムにおいて燃料と混合される。燃料と空気の混合物は、吸気行程中に吸入弁を介してシリンダ内に吸入される。比較として、圧縮点火エンジンでは、吸気行程中に空気だけがシリンダ内に導入され、そして燃料は、燃焼直前にエンジンシリンダ内に直接噴射される。
【0009】
図1には、4行程スパーク点火往復動エンジン100の普通のシリンダ10、ピストン20及び弁形態を例示しており、シリンダ10は、吸気行程中底部センタークランク位置に近づいている。吸入混合物32を導入する吸込み弁30(
図1には符号30が落ちています)は通常、弁ステム34と呼ばれる細長いロッドと、弁ヘッド35と呼ばれる一体に接続したほぼディスク型面とから成っている。弁ヘッド35は、通常シリンダ10の頂部に配置したオリフィスすなわちポート38の内縁面と整合するようにされる座部36を備えて製作される。排出混合物を放出する(図示されていない)流出弁40は、通常弁ステム42及び一体に接続したほぼディスク型弁ヘッド45から成っている。さらに、2行程エンジンの場合には、弁システムの代わりに、単に排気流出及び燃料吸込み弁が設けられる。
【0010】
内燃エンジンの燃料の燃焼効率を高めること、すなわちエネルギーへの燃料の変換率を改善することは長年、望ましい目標であった。燃焼室におけるヒストンの走行中に空気と燃料の混合物における乱流を増大させることによって燃焼室内の空気と燃料の混合物を改善する多くの提案がなされてきた。空気と燃料の混合物を改善する典型的な方法は、ピストンの圧縮ヘッドに溝を設けること(例えばSinghの米国特許第6,237,579号及びBarnabyの米国特許第1,745,884号参照)、ピストンヘッドにスキッシュ領域及びベーンを設けること(例えばNakanishiの米国特許第4,280,459号参照)、ピストンのクラウンに案内リブを設けること(例えばWirthの米国特許第6,047,592号参照)、及び放射状通路を備えた中央スキッシュ領域を形成するようにピストンのクラウンに溝を形成すること(例えばEvansの米国特許第5,065,715号、同第5,103,784号及び同第4,572,123号参照)により、燃焼室の乱流を増大することを含んでいる。しかし、上記の例示方法は、ピストンや相応したシリンダすなわちエンジンを大幅に変更して、シリンダの縦軸線すなわちピストンのスラストライン(ピストンのスラストラインは本願では“軸線”
方向と記載する)に向いかつ該軸線に沿って動く円筒状の乱流を形成するようにする必要がある。
【0011】
Showalterの米国特許第4,471,734号に記載されたような別の方法は、対称な円筒状形状の結果として生じる燃料・空気混合物のロールアップの対称性を妨げることによって燃料の燃焼効率を高めている。ピストンのクラウンの周囲境界部に一様でない縁部を設けることによって、Showalterはピストンのスラストライン沿って整列したロールアップ渦流を妨げている。燃料の燃焼効率を高めようとするなお別の試みは、出力行程中にピストンの頂部にわたって炎フロントをほぼ円筒状に広げさせるらせん状にノッチを備えた伸張部をもつ全ピストンクラウンを設けること(例えばHansenの米国特許第5,000,136号参照)、及びスキッシュ領域と案内リブとの両方を備えたピストンクラウンを設けること(例えばSimayの米国特許第4,669,431号参照)を含んでいる。このような例でも、ピストンの形状やエンジンブロック又はヘッドを大幅に変更して、軸線方向に向き軸線方向(すなわちピストンの摺動すなわち往復動軸線)に向いかつ該軸線に沿って動く円筒状の乱流を形成するようにする必要がある。
【0012】
本発明の方法及び装置は、種々の実施形態において、ピストンの幾何学的構成やエンジンブロック又はヘッドを大幅に変更することなしに、点火事象の前及びその間に、燃料・空気混合物における乱流を高める非常に望ましい特性をもたらす。さらに本発明の方法及び装置は、点火事象の前及び点火事象から生じる炎フロント中に、燃焼室に相当な乱流を生じさせることによって燃料・空気混合物の酸化飽和を増大する。ピストンの運動軸線に整列して燃焼室内に渦流発生され得る先行技術と違って、本発明による装置及び方法は、燃焼室内におけるピストンの走行中にピストンの運動軸線に対して軸線方向より横方向により大きく動く渦流を燃料・空気混合物に発生させることによって燃焼室内に乱流を生じさせる。渦流は、空気、炎又は中心軸線に垂直であるが中心軸線と交差しない接線方向速度成分をもつ燃料・空気混合物の回転質量として広義に定義され得、すなわち三次元コラム又は一般的には中心軸線をもつらせん体を形成する。本明細書で用いたように、渦流の方向は一般的には渦流のれ中心軸線(すなわち渦線)の方向であり、用語“渦”を変更するのに伴う方向(例えば“半径方向”)は、渦の中心軸線の一般的な方向を表わす。
【0013】
本発明の一つの特徴において、本発明の方法および装置では、点火事象前に燃料・空気混合物における乱流のレベルを高めることによってピストンエンジンにおける燃料の燃焼効率が高められ、また後点火炎フロントにおける乱流の残留影響によって燃料エネルギーを仕事量に変化する効率が増大される。従って、本発明の実施形態は、燃料の比較的迅速で完全な燃焼、低いエンジン動作温度、及びエンジン動作レンジを通じて高められたトルク及び出力がもたらされ、その結果、放出の低減し、スムースな動作、燃焼圧力の増大、及びエンジン寿命の延伸とった燃料の経済性が改善されることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、公知の内燃エンジンの多くの欠点を解消し、そして酸素及び燃焼可能な燃料を含む流体混合物を圧縮し、燃焼室内における流体混合物の燃焼に応じて駆動出力を発生するように燃焼室内で往復摺動可能なピストンを備え、流体混合物と接触するピストンの表面の最上部が、燃焼室のピストンからほぼ軸線方向にのびかつピストンの中心からピストンの周囲に向かって外方へのびる多数のベーンを備えた新規の内燃エンジンを提供することにある。好ましい実施形態では、各ベーンは、ほぼ軸線方向にのびる二つの壁及びベーンの遠方端部におけるピストンに対する接続面を備え、またこれら二つの壁の一方の壁のピストンの摺動軸線に対する傾斜が他方の壁の傾斜より大きい。流体混合物と接触するピストンの表面には、ピストンがシリンダ内で軸線方向に動く際に流体混合物に渦流が発生され、ピストンの摺動軸線に対して流体混合物内に発生された一つ以上の渦流の方向は軸線方向より横方向(例えば円筒状室の半径方向)に多くなる。
【0015】
本発明の付加的な目的は、往復動ピストンエンジンのピストンのクラウンに装着される新規の装置、一層特に、軸方向にのびる中央部分と中央部分から半径方向外方へのびる多数のベーンとを備え、ベーンの軸方向にのびる壁の一方のピストンの往復動軸線に対する傾斜が他方の壁の傾斜より大きい装置を提供することにある。
【0016】
本発明の目的は、燃焼室内で往復動し、燃焼室内における軸線方向のピストンの動きによって燃焼室内に圧縮流体の渦流を生じさせる新規のピストンを提供することにある。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、ピストンのクラウンに装着するようにされ、クラウンからピストンのほぼ軸線方向に半径方向中心から半径方向周囲へ向ってのびる多数のベーンを備えた新規の半径方向渦流発生装置を提供することにある。
【0018】
本発明のこれら及び多くのその他の目的並びに利点は、特許請求の範囲、添付図面、及び好ましい実施形態の以下の詳細な説明から、本発明の属する技術分野における当業者に容易に明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図2を参照すると、
図1に例示する形式のピストンアセンブリー200のクラウン230には装置220が設けられている。ピストンアセンブリー200は、一般的には、接続ロッド210を備え、この接続ロッド210はピストン本体212にピストンピン214を介して作動可能に取り付けられる。ピストン本体212は一般的にはそれの周辺部に沿ってのびるリング溝216を備え得る。リング溝216の位置、数及び深さは従来通りである。
【0020】
ピストン及びピストンのクラウンで支持された装置は、構造上一体に構成され得、すなわちピストンのクラウンは、装置の構造及びその後ピストンのクラウンへの装着と対照的に、任意の適当な普通の仕方で装置のベーンを備えて構成され得ることが理解されるべきである。
【0021】
また、装置はピストンのクラウンの頂面に埋め込まれ或いはクラウンの頂面から突出し得ることも理解されるべきである。装着は溶着、高強度ボルト或いはその他の適当な普通の手段によって行われ得る。装置はさらに、ピストンアセンブリーに装置を適合させるためにピストンクラウンの近くで装置の下側に配置したキー、牡又は雌コネクタ、或いは当該分野において公知の他の適当な接続手段のような接続手段を備え得る。
【0022】
装置220は、ピストンクラウン230から軸線方向にのびかつ中心位置224からクラウン230の周囲部に向って外方へのびる多数のベーン250を備えている。
図2Aに示すように、ベーン250は、ベーン250が中心位置224からクラウン230の周囲部に向って外方へのびる際に、円形クラウン230の半径に追従し得る。
【0023】
ベーン250はクラウン230の周縁物の手前で終端し、その結果ベーンの遠端部とピストンクラウンの周縁部との間にギャップ259が生じるように例示されているが、本発明の代わりの実施形態では、ベーンは、ピストンアセンブリー200の周縁部の一層近くで終端し及び/又は中心部分224により近くで終端し、それにより種々の寸法のギャップを形成し得る。さらに、隣接ベーン250はまた、クラウン230の周縁部から異なる距離で終端し得、その結果隣接ギャップの寸法が異なるようにできる。一つのかかる実施形態は
図6Aに例示されている。装置220の別の実施形態は、
図2Aに例示した八つのベーンの代わりに、例えば二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、十二個などのような任意の数のベーンを備えることができる。さらに、ベーンの軸線方向高さ及び/又は長さは単一装置におけるベーン毎に変えることができる。
【0024】
クラウン230に装置220を固着したピストンアセンブリー200のシリンダ内の軸線方向運動によって、シリンダ内に圧力差が生じ、それによりシリンダ内に入っている燃料・空気混合物に渦流が生じ、一つ以上の渦流の方向は軸方向より半径方向に多くなる。一つ以上の渦流の方向は、ピストンの運動軸線から90°程度ずれ、すなわちシリンダ内に横方向にのび得る。渦流は、燃料・空気混合物内の乱雑な乱流を増大するように作用し、それにより燃料の燃焼、燃料の経済性、エンジン動作の円滑性、及びエンジンの駆動出力を改善する。
【0025】
図3A及び
図3Bには、本発明のさらに別の実施形態を示し、ピストンアセンブリー300は一般的には接続ロッド310を備え、この接続ロッド310はピストン本体312にピストンピン314を介して作動可能に取り付けられる。ピストン本体312は、それの周辺部に沿ってのびるリング溝316を備え得、また本発明の装置320は、ピストンアセンブリー300のクラウン330に固定され得る。装置320は、多数のベーン350を備え、これらのベーン350はピストンのクラウン330から軸線方向へのびかつ一般的には中心部分324からクラウン330の周囲部へ向って外方へのびている。ベーン350は、クラウン330の周囲部に向って外方へのび際に湾曲又はらせん状にされ得、各ベーンの曲率は中心から周囲部へ向って変動し得、そしてベーン毎に変えてもよく、例えば、各ベーン350は同一曲率でもよく、また隣接したまたは対向したベーンの組合せは同じ又は異なった曲率でもよい。ベーン350は、クラウン330の周縁物の手前で終端し、その結果ベーンの遠端部とピストンクラウンの周縁部との間にギャップ359が生じるように例示されているが、本発明の代わりの実施形態では、ベーン350は、
図2に関して説明したように終端してもよい。
【0026】
図2に例示したピストンアセンブリー200の記載に関連して説明したように、クラウン330に装置320を固着したピストンアセンブリー300のシリンダ内の軸線方向運動によって、シリンダ内に圧力差が生じ、それによりシリンダ内に入っている燃料・空気混合物に渦流が生じ、一つ以上の渦流の方向は軸方向より半径方向に多くなる。ベーンのらせん状外形によって、燃料・空気混合物に付加的な渦流が生じ、それにより圧縮及び出力サイクル中に燃料・空気混合物に誘起した渦流及び乱雑な乱流を増大させ、従って圧縮及びスパーク点火内燃エンジンの両方において性能及び燃料効率を改善する。
【0027】
図4には、
図2A及び
図3Aに示す線X−Xに沿ったベーンの断面を示している。
図4を参照すると、ベーン400は遠端部においてピストン230の頂面410から接続面420まで軸線方向にのびる二つの壁430、440を備えている。ベーン400の壁間の距離はベーン400の遠端部におけるよりピストンの近くの方が大きく、壁430、440は面420で接続されている。
【0028】
ピストンの長手方向軸線405に対する一方の壁430の傾斜は他方の壁440の傾斜より大きくできる。本発明の目的のために、断面で見た際に湾曲した壁の傾斜は、ピストンのクラウンと壁との交点及び壁の遠端部を通る線によって規定される。図示したように、壁440は、ピストンのクラウンの近くに凹状部分442を備え、また接続面420の近くに凸状部分444を備え得る。
【0029】
本発明による装置のベーンは種々の横断面形で実施されることを包含し得る。別の実施形態の幾つかの例を
図5A〜
図5Gに示している。
図5Aを参照すると、ベーンの横断面は、第1の壁530と第2の壁540を備えており、ピストンの長手方向軸線505に対する第1の壁530の傾斜は第2の壁540の傾斜より大きい。
【0030】
図5B〜
図5Gに例示された実施形態を参照すると、ベーンの両方の壁540、530は平坦であり(
図5B及び
図5C参照)、第1の壁530は第2の壁540と交差し(
図5C参照)、第1の壁530は弓形であり、そして平坦な第2の壁540で終端し(
図5D参照)得、又はベーンは連続して湾曲した壁を備え得る(
図5E参照)。
【0031】
図5F及び
図5Gに例示されベーンを参照すると、ベーンの横断面はシェルフ部分560を備え得る。第1の壁530はそれぞれ
図5F及び
図5Gに例示したように弓形又は平坦形であり得る。
【0032】
本発明による装置は、また多数のベーンの種々の構造を含み得る。多数のベーンは任意の適当な仕方でピストンのクラウン上に位置決めされ得る。可能な形態の幾つかの例を
図6A〜
図6Eに例示している。
【0033】
ベーンの軸方向高さは、装置の形成されるエンジンシステムに応じて変えることができ、下向きの弁走行は主要な限定ファクタの一つである。また、ベーンの軸方向高さは、下側のピストンの高さに比例して変化し得る。ベーンの軸方向高さは、圧縮行程の頂部における燃焼室サイズ、弁投入距離、及びピストンの運動の頂点である最小間隔で必要な圧縮容積のファクタを含めてエンジンを設計するように構成され得る。一般的に、必要なベーンの高さは、最大にはエンジンにおける他の構造体と衝突するのを避けるようにされる。ベーンの軸方向高さは、発生した渦流の移動性のために炭素の蓄積による空力学的妥協を最少化するのに、ピストンの頂部からの高さで十分であるべきであり、任意の所与エンジンの実際の範囲に関して比較的小さなベーンでも有益な効果をもたらす。単に例示のためだけに、ピストン高さが4〜5インチである典型的な小型のV−6エンジンでは、軸方向ベーン高さは5/16インチ〜3/4インチの範囲であり得る。各ベーンのピストン頂部までの最短距離とピストン頂部に接触する最長距離(横方向傾斜距離)との比率は1:2〜1:4の範囲であり得、この範囲はさらに、装着される特定のエンジンの寸法及び動的考察に基いて決められる。エンジンサイズはピストンサイズを指定し、またピストンサイズはピストンクラウンの直径を指定する。ピストンクラウンの直径は特に、ベーンの数及びサイズを選択する際に必ず考慮される。ベーンの数及びサイズの変更は、これらのファクタのためにエンジンの異なる毎に生じ得るが、燃料効率、出力効率(発生する単位トルク当たりに消費炭化水素の単位に対する)、及び炭化水素の放出の結果として低減は全ての適用において生じ得る。
【0034】
本発明の特徴では、ピストンの頂面における及びピストンの頂面近くの多数の領域の圧力を変える領域の確立することによって乱流は増大される。これらの圧力の違いは、燃焼室におけるピストンの軸方向の運動中に装置及び特に装置におけるベーンとの相互作用において燃料・空気混合物の相対圧力速度によって生じる。
【0035】
上記で指摘したように、これらので圧力差を発生する半径方向の渦流は、ピストンクラウンに組込んだ、又は固着した、又は埋め込んだ装置によって、或いはピストンクラウンに適当な空力構造体を構成又は形成することによって、生成され得る。
【0036】
また、本発明の特徴では、燃料・空気混合物と燃焼ガスとの相互作用がベーンの異なる側から入ってくるそれぞれの空気の流れ間のすべり流れインターフェースで異なる種々の速度で生じる際に、ベーンの外方縁部にらせん状渦流が誘起される。らせん状渦流は燃料・空気混合物に雑然と伝播し、その結果乱流を増大させ、そして空気における燃料の飽和速度を高めることになる。
【0037】
本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、上記の実施形態は単に例示のためのものであり、本発明の範囲は、本発明の属する技術分野の当業者が普通に行う多くの変形及び変更を含めて等価の全範囲に基いて添付の特許請求の範囲によってのみ規定されるべきであることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】シリンダが吸込み行程中に底部センタークランク位置に近づいている普通の往復動エンジンを示す図。
【
図3A】本発明のピストンの別の実施形態の頂面図。
【
図6A】本発明による装置の別の実施形態の頂面図。
【
図6B】本発明による装置の別の実施形態の頂面図。
【
図6C】本発明による装置の別の実施形態の頂面図。
【
図6D】本発明による装置の別の実施形態の頂面図。
【
図6E】本発明による装置の別の実施形態の頂面図。