(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796077
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】過剰シフト防止機構を有するシフト装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/18 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
F16H63/18
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-528549(P2013-528549)
(86)(22)【出願日】2011年9月13日
(65)【公表番号】特表2013-537288(P2013-537288A)
(43)【公表日】2013年9月30日
(86)【国際出願番号】EP2011004594
(87)【国際公開番号】WO2012038040
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2013年7月11日
(31)【優先権主張番号】102010041118.3
(32)【優先日】2010年9月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】391009671
【氏名又は名称】バイエリッシェ モートーレン ウエルケ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BAYERISCHE MOTOREN WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】ビュヒャール フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ツェットラー ローラント
(72)【発明者】
【氏名】マテルン リオネル
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−85348(JP,A)
【文献】
特開昭60−73158(JP,A)
【文献】
特開2002−120585(JP,A)
【文献】
特開平10−68463(JP,A)
【文献】
特開2005−127392(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第1367018(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動可能なシフト部材を介して段階的に回転されるシフトシャフト(10)を有し、車両用の多段変速機のための過剰シフト防止機構を備えたシフト装置にして、前記シフト部材が鉤形状の爪(2e、2f)を備え、上記爪が、シフト部材の揺動の際に、一段低い変則段又は一段高い変速段にギア入れするためのドライブピン(12a−12f)を介して、シフトシャフト(10)を回転させるシフト装置にして、
前記シフト部材が、揺動運動を導入するための操作要素(1)、及び、シフトシャフト(10)を回転させるためのドライバ要素(2)から構成され、また、両構成部材が共通の長軸(5)に沿って互いに変位可能であり、操作要素(1)及びドライバ要素(2)が、スプリングの力によって互いに初期位置に保持されており、そして、操作要素(1)及びドライバ要素(2)が、上部長手側及び下部長手側を備えまたシフトシャフト(10)が貫通している長穴(14、15)を有しており、前記長穴(14、15)が両者の初期位置において互いに実質的に同じ高さで面を揃えているシフト装置において、
両長穴(14、15)が等しい長さを有していること、及び、それらの丸められ、シフトシャフト(10)の外径に適合された端部部分が、シフト部材を操作する際に、シフトシャフト(10)のためのストッパーとして利用されることを特徴とするシフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシフト装置において、
シフトシャフト(10)が、操作要素(1)の長穴(15)内において、上部長手側及び下部長手側に沿って案内されることを特徴とするシフト装置。
【請求項3】
請求項2に記載のシフト装置において、
ドライバ要素(2)の長穴(14)の下部長手側が、初期位置において、操作要素(1)の長穴(15)の下部長手側と一致していること、及び、ドライバ要素(2)の長穴(14)の上部長手側が、操作要素(1)の長穴(15)の上部長手側と比べて、切妻屋根形状で上方へ拡張された輪郭を有することを特徴とするシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本願の請求項1の前提部分に従う、自動車両用の多段変速機のための過剰シフト防止機構を有するシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシフト装置は、自動二輪車、又は、自動二輪車に類する3つ以上の車輪を有する車両に頻繁に設けられている。それらの装置は逐次的なシフト操作を許すものである、即ち、個々のシフト操作の際には、トランスミッション内では、一段高いギア、又は、一段低いギアにギア入れされる。
【0003】
この種のシフト装置は、引用文献1に開示されている。既に知られている解決法は、例えば足によって操作可能なシフトレバーにより作用を及ぼされる揺動可能なシフトアームを想定している。このシフトアームにはシフト部材がヒンジされており、このシフト部材はシフトアームの揺動時に、シフトシャフトを所定の角度だけ回す。このために、シフト部材は鉤形状の爪を備えており、この爪はシフトシャフトの軸の周りで円状に配設されるドライバピンと噛合する。溝内に保持されたシフトフォークを用いて、シフトドラムが、シフトシャフトに接続されている。シフトシャフトの回転並びにそれに伴うシフトドラムの回動に際し、フォークは、既知の方法で、車両のトランスミッション内のギアを切り替える。
【0004】
シフト部材の他に、既知の実施においては、シフトアームにはロック要素がヒンジされており、このロック要素はシフト部材と同時に移動する。ロック要素に形成される引っ掛け部材は、シフトシャフトのドライバピン用のストッパーとして利用され、その目的は、シフトリクエストの際に、シフトシャフトを想定された角度間隔だけ回転させることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国公開特許公報DE19617988C2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、この種のシフト装置において、シフトリクエストの際の、シフトシャフトの回動を、簡潔な手段で限定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は請求項1の特徴によって解決される。本発明の有利な構成は、下位の請求項から得られる。
【0008】
本発明に従い、シフト部材は二つの部分から構成される。第1の構成部材である操作要素は、シフトレバーと連結されいる、また、当該操作要素は、シフトレバーによって開始されるシフトリクエストを、第2の構成部材である鈎形状の爪を有するドライバ要素に、伝達する。両構成部材は、それらの長軸に沿って、弾性をもって互いに変位可能であり、また、両者は互いに対応する長穴を有している。両方の長穴を、シフトシャフトが貫通する。シフト部材の揺動運動の予め定められた終端にて、シフトシャフト、操作要素、及び、ドライバ要素は、互いにブロックするので、慣性によってもたらされる、シフトシャフトの自力での更なる回転は効果的に防がれる。
【0009】
シフトレバーを放すと、シフト部材はリターンスプリングによって逆回転し、ドライバ要素では長穴の輪郭がブロッキングの開放を可能にする。そのために、この長穴の上部長手側は切妻屋根の形状を有している。開放の際には、ドライバ要素は、シフトシャフトが長穴の屋根斜面に沿って移動する間、その時点においてドライバ要素に割り当てられているドライバピンによって、下方へ押し下げられる。
【0010】
本発明の更なる利点は、図面を参照して、実施例についての以降の記載からもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に従う二つの構成部から構成されるシフト部材の斜視図である。
【
図3】ニュートラル位置にあるシフト部材の前面図である。
【
図4】シフトチェンジ時のシフト部材の状態である。
【0012】
図1及び
図2に従うシフト部材は、2つの互いに当接する平らな金属製の構成部材、つまりは操作要素1及びドライバ要素2から、構成されている。両矢印3が示すように、これらの両構成部材は、互いに変位可能である。より正確に言えば、ドライバ要素2はリターンスプリング4(
図2参照)の力に対して、シフト部材の長軸5(
図3参照)に沿って、操作要素1と向い合って、予め与えられた経路で上下方向へ変位出来る。リターンスプリング4は、コイルスプリングとして、操作要素1の突起1cに取付けられている。変位経路の限定は、2つの、垂直方向、すなわち長軸5の方向に、方向づけられた縦穴6及び縦穴7によって行われ、その際、上方の縦穴6はドライバ要素2に設けられており、また、中央付近に配置される縦穴7は操作要素1に設けられている。「上方」並びに「中央付近」といった位置表現、及び、以降の明細書内におけるその他の位置表現は、再度、シフト部材の長軸5及びその図中に示される取り付け状態に関連する。
【0013】
縦穴6には、操作要素1と固定接続されたボルト8が案内されており、その一方で、縦穴7は別のボルトのステム9を収容する、なおこの別のボルトは、ドライバ要素2にて固定されており、また、縦穴7を突き抜いた反対側でディスク形状のボルトヘッド9aを有している。ボルト8は、その
図1に示される側にて、非図示のギアハウジング内で固定されている。ボルトヘッド9aは縦穴7の幅よりも大きな外径を有しているので、それにより、操作要素1とドライバ要素2の両構成部材は、一つにまとめられている。その際、ボルトステム9の長さは、両構成部材が互いに押し付けあわないように、また、上述の相対移動が可能であるように、定められている。
【0014】
ドライバ要素2は、操作要素1に向かって直角に曲げられたサイドキャッチ2a、2bを有している。これらの曲げ部分によって、キャッチ2a及びキャッチ2bは、操作要素1の外側端面1a、1bに沿って移動する。更に延びたところでは、キャッチ2a、2bは下方へ曲げられ、この曲げ部分でリターンスプリング4の端部を保持する。最後に、操作要素1は、ドライバ要素2と向かい合っていない側の上部に、非図示のシフトアームのジョイント部用収容部13を備えており、それは場合によっては、別の接続部材を介して、通常のシフトレバーによって操作される。シフトレバーがギアシフト(ギアチェンジ)の際に操作される場合、シフト部材はボルト8の周りで右又は左に揺動する、なお、
図4では左側への揺動が例示されている。
【0015】
既に説明したように、図面はシフト部材の取り付け状態を示しており、これを用いて多段変速機は段階的にシフトされる。
図1の描写であれば、部材の具体的な組立状態において、トランスミッション(ギアユニット)は、シフト部材の前方に位置することになる。シフトシャフト10はトランスミッションから通じている。シフトシャフト10は、図面内では、単にスタブシャフト(スタブアクスル)として図示されているに過ぎず、それは、操作要素1並びにドライバ要素2の下部分で略水平に調整された2つの長穴14、15を貫通している。なお、シフトシャフト10は、そのシャフト軸11によってシンボル化されている。トランスミッション内では、シフトシャフト10は通常のシフトドラムに接続されている。
【0016】
両長穴14、15は等しい長さを有しており、また、それらの丸められ、シフトシャフトの外径に適合された端部部分は、シフト部材を操作する際に、シフトシャフト10用のストッパーとして利用される。更に、操作要素1の長穴15は若干上部へ湾曲されている、そして、その長穴15内へはシフトシャフト10が案内される。ドライバ要素2の長穴14の下側が、長穴15の下側と同じ高さで面を揃えている一方で、その上部長手側は上方を指す対称な切妻屋根形状を有している。それはこの輪郭によって操作要素1の長穴15の上部長手側15aを超えて上方に至る。
【0017】
シフトシャフト10と接続され、通常シフトスター(shift star)と呼ばれる、同じく非図示の円形ディスク(セグメント)には、ピッチ円に渡り、6つのドライバピン12a‐12fが互いに等間隔でシャフト軸11の周りに配設されている。ドライバピン12a‐12fはシフト部材によって以下に述べるような方法で作用を受ける。
【0018】
これに関し、ドライバ要素2は、その下側において、前方及び上方、つまりドライバピン12a‐12fの方向へ、曲げられている。この方法によって、ドライバ要素は、U字形状で、上部が開放された部分2cを形成する。ドライバピン12a‐12fを指すU字形状部(U‐Schenkel)は、その中央領域に上部へ開放した凹み2dを有しており、この凹み2dは側面が鉤形状の爪2e、2fで終端している。鉤爪2e、2fの互いの間隔は、二つのドライバピン12a‐12fの、例えば
図3ではドライバピン12a及び12fの、外側の間隔に対応する。鉤爪2e、2fに続いて、U字形状部の上端部は、両側へ、スターティングスロープ2g、2hの形で、外側に向かって下降している。
【0019】
シフト部材は以下のような方法で機能する。
図3は任意にギアを入れられ状態を示している。ドライバピン12a及び12fは、U字形状部の凹部2d内で、鉤爪2e、2f付近に存在する。ここで、ギヤユニットが一段分シフトアップされる場合、シフト部材は、上述のシフトレバー、並びに、収容部13に当接するシフトアームを介して、ボルト8の軸の周りで左へ揺動する。この揺動の際、鉤爪2eはドライバピン12aを同じく左へ押し、ドライバピンは、ドライバピンに接続されたシフトシャフトを、
図3の矢印16が示すように、時計回りに回転させる。
【0020】
シフト部材の揺動運動は、
図4に従い、シフトシャフト10が長穴14、15の丸められた右側端部に当たることで制限される。シフトシャフト10はその際、矢印16に対応して、ドライバピン12bがスターティングスロープ2gの外側端部に接触するほどまで、回転された。操作されるセレクタレバーの強さに応じて、シフトシャフトが、その慣性に基いて、更に回転可能であるとすると、それにより、更に1段高いものとして、ギヤユニットの過剰シフトが引起され得る。この場合、ドライバピン12bは、スタートスロープ2gを「登らなければ」ならない。なお、「登る」とは、実際には、矢印17に対応するように、ドライバ要素2を「下方へ押圧する」ことを意味する。ところがこれは、シフトシャフト10と長穴14の端部分の、相互のブロッキングによって防止される。言い換えれば、長穴14の上側が、この位置において、シフトシャフトの外側に当接しており、それによりそのような動きが阻止されているため、ドライバピン12bはドライバ要素2を下方へ押圧することは出来ない。
【0021】
他方で、シフトレバーが開放される場合、詳細には示されていないリターンスプリングが、シフト部材を初期位置へ戻すように揺動させようとする。この場合、今やシフトシャフト10は、屋根の傾斜のような輪郭に沿って、元の方向へ滑動出来るので、シフトシャフト10とドライバ要素2の間のブロッキングは終了する。ドライバピン12bは、スターティングスロープ2gを介して、リターンスプリング4の力に逆らって、ドライバ要素2を矢印17の方向で下方に押圧する。その際、ルーフスロープ(屋根傾斜)とスターティングスロープが平行に延びていること、つまり、両者が等しいスタート角を有していること、が考慮される。シフト部材は右側へ揺動し、その初期位置へ戻る。この位置にて、ドライバピン12bはスターティングスロープ2gの端部へ到達し、そして、ドライバ要素2を解除する。リターンスプリング4はドライバ要素を上方へと引っ張り、ドライバピン12a及び12bは、鉤爪2e、2fの領域の凹部2d内へ入り込む。それらは、その状態において、新たなシフトリクエストの際にシフトシャフト10を記載の方法で次の角度間隔分だけ回動するための準備が整っている。
【0022】
車両のトランスミッションが1段下げられる場合には、
図3及び
図4から自明であるように、逆方向に向かってプロセスは進行する。この場合、ドライバピン12fは右側、つまり、反時計回りに動かされる。この時、シフトシャフト10はこの時反時計回りに回転し、長穴14、15の左側の丸められた端部部分によって制限される。ブロッキング及びリターン運動は、上述の経過と同じように進行する。