【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、セルロース系エタノール革新的生産システム開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
VTT Publications,2007年,Vol.641,pp.25-29,35-38,43-46,49-74
【文献】
福田明 他,内在性遺伝子を活用したキシロース資化性サッカロマイセス酵母の開発 ,日本農芸化学会大会講演要旨集,2012年 3月 5日,Vol.2012(th),3B03P16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
キシロース還元酵素をコードする遺伝子が、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wからなる群から選択される遺伝子である、請求項1または2に記載の酵母。
キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子が、それぞれGRE3、SOR1およびXKS1である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母。
前記グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が、宿主酵母の染色体上に発現可能に挿入されたものである、請求項5または6に記載の酵母。
GRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を染色体上に挿入した宿主酵母に、GDH2およびSOR1から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された、請求項5〜7のいずれか1項に記載の形質転換酵母。
キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を挿入される酵母が、サッカロマイセス属に属する酵母である、請求項1〜8のいずれか1項記載の酵母。
キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を挿入される酵母が、サッカロマイセス・セレビシアである、請求項1〜9のいずれか1項記載の酵母。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に限定されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で当業者であれば適宜変更し実施することができる。
また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0014】
1.本発明の概要
本発明は、酵母自身に由来するキシロース資化内在性遺伝子の活性を高め、キシロース資化能を付与した宿主酵母にソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)および/またはグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)を過剰発現させた形質転換酵母が、優れたエタノール生産能を有するという知見に基づくものである。
また、本発明において、宿主酵母にGDH2を導入したGDH2過剰発現株では、キシリトールおよびグリセロールといった副生成物の生産量が減少することが見出された。GDH2は、NAD+の還元型であるNADHをNAD+に変換するグルタミン酸脱水素酵素の遺伝子であるため、NAD+が副生成物の生産抑制に関係することが示された。そのため、宿主酵母にSOR1を導入したSOR1過剰発現株をNAD+存在下に培養するか、あるいは、宿主酵母にSOR1とGDH2とを共発現させることによっても、GDH2過剰発現株と同様に副生成物の生産量が減少するといえる。
【0015】
本発明の形質転換酵母は、キシロース資化遺伝子、好ましくは酵母自身のキシロース資化遺伝子を染色体上に導入された宿主酵母を用いて作製することを特徴の一つとするものである。「キシロース資化(性)遺伝子」とは、キシロースの資化に関与するタンパク質をコードする遺伝子である。本発明において宿主酵母に導入されるキシロース資化遺伝子は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の少なくとも3つの遺伝子である。
また、本発明の一の態様において、本発明の形質転換酵母は、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子および/またはグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子、好ましくはソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)および/またはグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)を宿主酵母に導入して作製されることを特徴の一つとするものである。本発明の別の態様において、宿主酵母に導入する遺伝子は宿主酵母に由来する遺伝子である。
また、本発明の別の態様において、本発明の形質転換酵母は、副生成物の生成量が低いという特徴を有するものである。
【0016】
酵母の中には、キシロース資化酵素群が実質的に機能していない、いわゆる休眠状態にあるために、キシロースなどの五炭糖資化能を有さない酵母が存在する。例えば、サッカロマイセス属に属する酵母は、キシロース資化酵素群をコードする遺伝子群を有しているにもかかわらず、キシロースを利用してエタノールを生産することができない。
【0017】
このようなエタノール生産能を有さないとされる酵母に、自身由来のキシロース資化性遺伝子を導入することで、キシロース資化内在性遺伝子の活性を高め、キシロース資化能を付与することができる。したがって、本発明の形質転換酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子(XR)、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(XDH)およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子(XK)が染色体上に挿入された酵母であってもよい。そして、自身由来のキシロース資化性遺伝子を導入した酵母に、さらにソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)および/またはグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)を過剰発現させた形質転換酵母は、驚くべきことに対照株と比較して、キシロースからのエタノールの生産能が向上する。また、所定の培養条件下において副生成物の生成量が減少する。すなわち、本発明により、エタノール生産能を有さないとされる酵母において、キシロースを利用してエタノールを効率よく生産させることができる。さらにまた、前記3種の遺伝子をXRとXDHとの融合遺伝子およびXDHとXKとの融合遺伝子として染色体に導入した本発明の形質転換酵母は、キシロースからのエタノールの生産能が向上する。当該融合遺伝子の形態とすることにより、上記3つの遺伝子の中、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(XDH)の酵母染色体への導入数を増加させることができる。
【0018】
また、本発明は、上記形質転換酵母を培養し、得られる培養物からエタノールを採取することによるエタノールの生産方法も提供する。本発明では、生産させる副生成物の量を従来の方法に比べて格段に少なくすることが可能である。
【0019】
2.本発明の形質転換酵母
本発明の形質転換酵母は、キシロース資化性遺伝子を染色体上に導入した宿主酵母に、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、好ましくはソルビトール脱水素酵素遺伝子1(SOR1)およびグルタミン酸脱水素酵素遺伝子2(GDH2)から選ばれる少なくとも1つの遺伝子をさらに発現可能に導入された酵母である。
また、本発明の形質転換酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子を染色体上に挿入した酵母であってもよい。
【0020】
(1)キシロース資化性遺伝子を染色体上に導入した宿主酵母
本発明において、遺伝子導入または形質転換の対象となる酵母は、キシロースなどの五炭糖の資化能を有していない酵母であることが好ましい。前記酵母は遺伝子導入または形質転換の前に五炭糖資化能を有していないものであればよく、グルコースなどの六炭糖の資化能を有していてもよい。「五炭糖資化能」は、キシロースなどの五炭糖を炭素源として生育する能力をいう。五炭糖資化能を有する酵母は、炭素源として五炭糖のみを添加した培地中で生育可能であるため、五炭糖資化能は、炭素源として五炭糖のみを添加した培地中における酵母の生育程度を600 nmまたは660 nmなどの波長での濁度を測定することで確認することができる。
【0021】
本発明において、五炭糖資化能を有していない酵母は、特に限定されるわけではないが、例えば、サッカロマイセス属に属する酵母などを挙げることができる。サッカロマイセス属に属する酵母としては、CEN.PK2-1C株などのサッカロマイセス・セレビシアを挙げることができる。また、本発明において、遺伝子導入または形質転換の対象となる酵母は1倍体だけでなく2倍体の酵母を使用することができる。2倍体の酵母は実用酵母として優れており、例えば協会7号などの協会系酵母、焼酎酵母S−2株などの焼酎酵母、ワイン酵母、Red Star株、Taiken No.396株などを挙げることができる。
【0022】
また、本発明において、遺伝子導入または形質転換の対象となる酵母は、エタノールへの耐性を備えた醸造用酵母であることが好ましく、そのような酵母としては、特に限定されるわけではないが、サッカロマイセス属に属する酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシア)などを挙げることができる。
【0023】
したがって、本発明において遺伝子導入または形質転換の対象となる酵母は、好ましくはサッカロマイセス属に属する酵母、より好ましくはサッカロマイセス・セレビシアである。
【0024】
本発明において、宿主酵母の染色体上に挿入されるキシロース資化性遺伝子は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子であり、好ましくはGRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)、SOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)およびXKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子)の3つの遺伝子である。本発明において当該キシロース資化性遺伝子は、外来の遺伝子または内在性の遺伝子のいずれも使用できるが、内在性の遺伝子であることが好ましい。「内在性遺伝子」とは、遺伝子挿入対象の酵母の有する遺伝子、遺伝子挿入対象の酵母由来の遺伝子、遺伝子挿入対象の酵母と同種の酵母由来の遺伝子を意味する。したがって、内在性遺伝子を導入された酵母は組換え体に該当しない。
【0025】
酵母のキシロース還元酵素をコードする遺伝子として、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wが知られている。したがって、本発明において、キシロース還元酵素をコードする遺伝子として、GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1またはYDR124wを使用することができる。本明細書ではGRE3をキシロース還元酵素をコードする遺伝子の例に挙げて説明するが、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wは、GRE3に関する本明細書での記載を適用し、本発明において同様に使用することができる。
【0026】
GRE3、YJR096w、YPR1、GCY1、ARA1およびYDR124wの塩基配列情報は、当業者であれば、Genbankなどの公知のデータベースから入手することができる。以下にサッカロマイセス・セレビシアにおける各遺伝子の配列情報についてのアクセッション番号を示す。
GRE3:U00059、YJR096w:Z49596、YPR1:X80642、GCY1:X13228、ARA1:M95580、YDR124w:Z48758。
【0027】
本発明において、GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)は、アルド・ケト還元酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号1で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。GRE3がコードするタンパク質は、酵母においてキシロース還元酵素としても機能することが知られている。
本発明において、GRE3は、例えば、配列番号1で示される塩基配列を基にプライマーを設計し、酵母ライブラリー又はゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術により得ることができる。
【0028】
本発明で使用されるGRE3は、GRE3タンパク質の変異体をコードする遺伝子を含む。GRE3タンパク質の変異体をコードする遺伝子は、例えば、配列番号1で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシロース還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。キシロース還元酵素活性については後述する。
【0029】
GRE3タンパク質の変異体をコードするDNAは、配列番号1で示される塩基配列からなるDNA又はその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーの作製方法については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Press(2012))等を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを用いてもよい。
【0030】
ここで、ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法によって行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 4th ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
【0031】
また、本明細書において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAには、例えば、配列番号1で示される塩基配列と少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、80%以上または85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上または98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに一層好ましくは99.7%以上、特に好ましくは99.9%の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むDNAが含まれる。同一性を示す値は、BLASTなどの公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
【0032】
また、配列番号1で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号1で示される塩基配列において1個又は数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じた塩基配列を含むDNAが挙げられる。このようなDNAとしては、例えば、(i) 配列番号1で示される塩基配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が欠失したDNA、(ii) 配列番号1で示される塩基配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が他の塩基に置換したDNA、(iii) 配列番号1で示される塩基配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が付加したDNAおよび(iv) それらの変異が組み合わされたDNAであって、かつキシロース還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAなどが挙げられる。
【0033】
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0034】
本発明において、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来のGRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものも含まれる。本発明では、サッカロマイセス・セレビシア由来のGRE3タンパク質又はそれらの変異体をコード遺伝子も、GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子3)に含まれる。
【0035】
GRE3タンパク質の変異体は、(i) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシロース還元酵素活性を有するタンパク質などが挙げられる。
【0036】
ここで、「キシロース還元酵素活性」とは、NAD+(またはNADP+)の存在下でキシロースをキシリトールに変換する活性を意味する。本発明において、GRE3タンパク質の変異体は、キシロース還元酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するキシロース還元酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0037】
酵母は、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子として、SOR1、SOR2およびYLR070cを有することが知られている。したがって、本発明において、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子として、SOR1、SOR2またはYLR070cを使用することができる。本明細書ではSOR1をキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の例に挙げて説明するが、SOR2およびYLR070cはSOR1に関する本明細書での記載を適用し、本発明において同様に使用することができる。
【0038】
SOR1、SOR2およびYLR070cの塩基配列情報は、当業者であれば、Genbankなどの公知のデータベースから入手することができる。以下にサッカロマイセス・セレビシアにおける各遺伝子の配列情報についてのアクセッション番号を示す。
SOR1:L11039、SOR2:Z74294、YLR070c:Z73242。
【0039】
本発明において、SOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)は、ソルビトール脱水素酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号3で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。SOR1がコードするタンパク質は、酵母においてキシリトール脱水素酵素としても機能することが知られている。
【0040】
本発明で使用されるSOR1は、SOR1タンパク質の変異体をコードする遺伝子を含む。SOR1タンパク質の変異体をコードする遺伝子は、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号3で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシリトール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
また、本発明で使用されるSOR1は、以下のSOR1タンパク質の変異体をコードする遺伝子であってもよい:(i) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシリトール脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【0041】
ここで「キシリトール脱水素酵素活性」は、キシリトールをキシルロースに脱水素化する活性を意味する。本発明において、SOR1タンパク質の変異体は、キシリトール脱水素酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するキシリトール脱水素酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0042】
上記ハイブリダイズするDNAに含まれるDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、SOR1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0043】
キシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子として、XKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子1)を使用することができる。XKS1の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbankなどの公知のデータベースから入手することができる。例えば、サッカロマイセス・セレビシアのXKS1のアクセッション番号は、Z72979である。
【0044】
本発明において、XKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子1)は、キシルロースリン酸化酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号5で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0045】
本発明で使用されるXKS1は、XKS1タンパク質の変異体をコードする遺伝子を含む。XKS1タンパク質の変異体をコードする遺伝子は、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号5で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシルロースリン酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
また、本発明で使用されるXKS1は、以下のXKS1タンパク質の変異体をコードする遺伝子であってもよい:(i) 配列番号6で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号6で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号6で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつキシルロースリン酸化酵素活性を有するタンパク質。
【0046】
ここで「キシルロースリン酸化酵素活性」は、キシルロースをリン酸化する活性を意味する。本発明において、XKS1タンパク質の変異体は、キシルロースリン酸化酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するキシルロースリン酸化酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0047】
上記ハイブリダイズするDNAに含まれるDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、XKS1は、GRE3に対して記載された方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0048】
本発明において、キシロース資化遺伝子であるGRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を酵母の染色体上に挿入することにより、本発明の宿主酵母を得ることができる。上記キシロース資化内因性遺伝子を酵母の染色体上に挿入することにより、酵母自身のキシロース還元酵素、キシリトール脱水素酵素およびキシルロースリン酸化酵素の活性が遺伝子導入前よりも向上し、当該酵母にキシロース資化能を付与することが可能になる。
【0049】
本発明では、非組換え酵母が宿主酵母として好ましく採用される。非組換え酵母を作製するにあたり、酵母染色体上に導入されるキシロース資化性遺伝子は、当該酵母と同種由来の遺伝子であることが必要である。また、遺伝子を導入される酵母は、当該遺伝子の由来と同種の酵母であることが必要である。
【0050】
本発明において、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子、好ましくはGRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を、好ましくは同種の酵母の染色体上に挿入する。これらの遺伝子は、それぞれの遺伝子を個別に染色体上に挿入してもよいし、またはプロモーターの支配下にタンデムに連結した発現カセットを作製して染色体上に挿入してもよい。タンデムに連結する場合、3つの遺伝子の配置の順番は特に限定されず、考えられる組合せのいずれでも良い。また、GRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を含むプラスミドを用いて酵母の染色体上に遺伝子を導入しても良い。上記3つの遺伝子は、一つのプラスミドに含まれてもよいし、それぞれ別のプラスミドに含まれてもよい。また、挿入されるそれぞれの遺伝子の個数は限定されず、1個または複数である。染色体への遺伝子の導入の順は特に限定されない。
キシロース資化性遺伝子の3遺伝子は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子(XR)とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(XDH)とをタンデムに連結させた遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(XDH)とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子(XK)とをタンデムに連結させた遺伝子として酵母の染色体に挿入してもよい。すなわち、本発明は、前記3種のキシロース資化性遺伝子を、キシロース還元酵素をコードする遺伝子とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子とを連結した遺伝子として染色体上に挿入された、形質転換酵母を含む。例えば、GRE3−SOR1の融合遺伝子を含むプラスミド、およびSOR1−XKS1の融合遺伝子を含むプラスミドを用いて、酵母の染色上にキシロース資化性遺伝子を導入することができる。融合遺伝子内の遺伝子の配置の順は特に限定されず、例えば、XRとXDHとを連結した遺伝子は、XR−XDHまたはXDH−XRのいずれでもよい。同様に、XDHとXKとを連結した遺伝子は、XDH−XKでもよいし、XK−XDHでもよい。上記連結させた遺伝子カセットを用いると、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子(SOR1)の発現量が特に増加する。このような形質転換酵母は、特に優れたキシロース資化能を有し、キシロールからエタノールを効率よく生成することができる。
【0051】
また、遺伝子を挿入する染色体の位置は、酵母内で機能していない部位が好ましく、例えば、XYL2部位(Genbankアクセッション番号Z73242)、HXT13部位、HXT17部位などが挙げられるがこれらに限定されない。遺伝子をコードしていない染色体上の部位に挿入することも可能である。遺伝子をコードしていない染色体上の部位としてTy因子の1つであるδ配列が挙げられる。δ配列は、酵母の染色体上に複数(約100コピー)存在することが知られている。酵母染色体におけるδ配列の位置および配列情報は、公知である(例えば、Science 265, 2077 (1994))。例えばδ配列の途中にキシロース資化性遺伝子を挿入したプラスミドを酵母に導入することで、染色体上の目的の位置に1または複数コピー当該遺伝子を挿入することができる。またδ配列のほかに同じくTy因子であるσ配列、τ配列に挿入することもできる。またNTS2などのリボソーム遺伝子部位に挿入することもできる。
【0052】
遺伝子を染色体上に挿入するためのカセットまたはプラスミドの作製、染色体上での挿入位置の選択、あるいは染色体への挿入(例えば、酢酸リチウム法)は、当業者であれば、公知の方法に基づき適宜実施することができる。本発明は、GRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子をプロモーターの支配下にタンデムに連結した発現カセットまたはプラスミドを含む。このようなプラスミドの例として、プロモーター(例えばPGKプロモーター)の支配下にGRE3とSOR1とを連結したプラスミド、またはプロモーターの支配下にSOR1とXKS1とを連結したプラスミドなどが挙げられる。2つの遺伝子は、染色体に挿入された際にそれぞれの遺伝子が発現可能となるように連結される。2つの遺伝子を連結し、融合遺伝子を作製する際に必要であれば、リンカー配列や制限酵素部位等を適宜付加してもよい。これらの操作は、当分野でよく知られている慣用の遺伝子操作技術を用いて行うことができる。これらのプラスミドを用いることによって、3種のキシロース資化性遺伝子を酵母の染色体上に導入してもよい。
また、本発明で使用されるプラスミドは、酵母の染色体に遺伝子を導入可能なものであれば、特に限定されず、例えばpUC18などの市販のベクターを使用することができる。
五炭糖資化能を有していない酵母は、キシロース還元酵素をコードする遺伝子、キシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子の3つの遺伝子を全て発現しないと、キシロース利用能が付与されない。したがって、上記のように遺伝子導入した酵母をキシロース含有(エタノール不含)培地で培養することにより、形質転換酵母を選択することができる。
【0053】
このように、GRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を酵母の染色体上に導入することで、本発明における宿主酵母を作製することができる。
本発明の宿主酵母は、好ましくは内在性のキシロース資化遺伝子、すなわち、内在性のGRE3、SOR1およびXKS1の3つの遺伝子を染色体上に含むため、GRE3、SOR1およびXKS1の発現が活性化され得る。ここで、「キシロース資化遺伝子の発現が活性化される」とは、宿主酵母内に存在する当該遺伝子が、発現可能な形で活性化され、目的タンパク質を適切に発現できる状態となっていることを意味する。また、本発明の宿主酵母では、キシロース資化遺伝子の発現が活性化され得るため、キシロース資化能を獲得し得る。したがって、本発明の宿主酵母は、キシロース資化能が付与された酵母、好ましくはキシロース資化能が付与された醸造用酵母であり得る。
【0054】
(2)本発明の形質転換酵母
本発明の形質転換酵母は、前述の宿主酵母に、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、好ましくはGDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子2)および前述のSOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)から選ばれる少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入された酵母である。
【0055】
本発明において、グルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子として、GDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子2)を使用することができる。GDH2は補酵素としてNADを利用する酵素である。
【0056】
GDH2の塩基配列情報は、当業者であれば、Genbankなどの公知のデータベースから入手することができる。サッカロマイセス・セレビシアにおけるGDH2のアクセッション番号は、S66436である。
【0057】
本発明において、GDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子2)は、グルタミン酸脱水素酵素をコードする塩基配列を含む遺伝子であり、例えば、例えばサッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号7で示される塩基配列からなるDNA、または配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAである。
【0058】
本発明で使用されるGDH2は、GDH2タンパク質の変異体をコードする遺伝子を含む。GDH2タンパク質の変異体をコードする遺伝子は、例えば、サッカロマイセス・セレビシア由来の配列番号7で示される塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを含む。
また、本発明で使用されるGDH2は、以下のGDH2タンパク質の変異体をコードする遺伝子であってもよい:(i) 配列番号8で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したタンパク質、(ii) 配列番号8で示されるアミノ酸配列中の1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したタンパク質、(iii) 配列番号8で示されるアミノ酸配列中に1〜数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したタンパク質および(iv) それらの変異が組み合わされたタンパク質であって、かつグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。
【0059】
ここで「グルタミン酸脱水素酵素活性」は、グルタミン酸とα-ケトグルタル酸とを相互変換する活性を意味する。本発明において、GDH2タンパク質の変異体は、グルタミン酸脱水素酵素活性を有する限り、その活性の程度に特に限定されないが、例えば配列番号8で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の約10%以上の活性を有していればよい。タンパク質の有するグルタミン酸脱水素酵素活性は、公知の方法で測定することができる。
【0060】
上記ハイブリダイズするDNAに含まれるDNA、およびハイブリダイズの条件等は、前述の説明が同様に適用できる。また、本発明において、GDH2は、上記方法と同様の方法により取得または製造することができる。
【0061】
本発明において、宿主酵母に導入されるSOR1に代えて、キシリトール脱水素酵素活性を有する前述のSOR2またはYLR070cを用いることもできる。SOR2およびYLR070cはSOR1に関する本明細書での記載を適用し、本発明において同様に使用することができる。
【0062】
本発明の宿主細胞に導入される遺伝子は、宿主酵母に内在性の遺伝子配列であることが好ましいが、外来性の遺伝子であってもよい。
【0063】
本発明において、宿主酵母にSOR1が発現可能に導入される。また、本発明において、宿主酵母にGDH2が発現可能に導入される。また、本発明において、SOR1とGDH2の両方が宿主酵母に発現可能に導入される。遺伝子導入は、対象遺伝子を発現可能な形で含有するプラスミドを用いて行うことができる。SOR1とGDH2の両方を宿主酵母に導入する場合、SOR1とGDH2は、一つのプラスミドに含まれてもよいし、それぞれ別のプラスミドに含まれてもよい。本発明はこれら遺伝子を含有するプラスミドを含む。
【0064】
本発明で使用されるプラスミドは、酵母発現用のベクターに上記遺伝子を発現可能に挿入することで作製することができる。ベクターへの遺伝子の挿入は、リガーゼ反応、トポイソメラーゼ反応などを利用することができる。例えば、精製したDNAを適当な制限酵素で切断し、得られたDNA断片を、ベクター中の適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイトなどに挿入することでベクターに連結する方法などを採用することができる。
【0065】
本発明で使用されるプラスミドは、その基本となるベクターの由来には特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどを使用することができる。例えば、pGADT7、pAUR135などの市販のベクターを使用することもできる。
【0066】
本発明のプラスミドは、目的遺伝子を発現させ得る限り、マルチクローニングサイト、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選択マーカーカセットなどを含んでもよい。また、DNAを挿入する際に必要であれば、適宜リンカーや制限酵素部位を付加してもよい。これらの操作は、当分野でよく知られている慣用の遺伝子操作技術を用いて行うことができる。
【0067】
プロモーターは、目的遺伝子の上流に組み込むことができる。プロモーターは、形質転換体において目的タンパク質を適切に発現できるものであれば、特に限定されないが、PGKプロモーター、ADHプロモーター、TDHプロモーター、ENOプロモーターなどを使用することができる。
ターミネーターは、目的遺伝子の下流に組み込むことができる。
本発明において、酵母で目的遺伝子を効率よく発現させるために、PGKプロモーター及び/又はPGKターミネーターを用いることが好ましい。
【0068】
選択マーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ロイシン合成酵素遺伝子、ウラシル合成酵素遺伝子などを挙げることができる。
ベクターにロイシン、ヒスチジン、トリプトファンなどのアミノ酸合成遺伝子カセット又はウラシル合成遺伝子カセットが含まれる場合は、当該アミノ酸又はウラシルを含まない培地で酵母を培養することにより、形質転換酵母を選択することができる。
【0069】
本発明のプラスミドを遺伝子導入対象の本発明の宿主酵母に導入することで、形質転換酵母を作製することができる。
【0070】
宿主酵母に本発明のプラスミドを導入する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法などの公知の方法が挙げられる。これらの方法により、本発明の形質転換酵母が提供される。
【0071】
また、本発明は、相同組換えによりGDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子2)およびSOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子1)が宿主酵母の染色体上に組み込まれた形質転換酵母もその範囲に含む。宿主酵母の染色体上に遺伝子が挿入される場合、挿入部位は特に限定はされない。また、GDH2およびSOR1を宿主酵母の染色体上に発現可能に挿入する方法としては、限定はされず、公知の遺伝子組換え技術を利用した方法等を用いることができる。
【0072】
さらに、本発明の形質転換酵母としては、宿主細胞の有するGDH2またはSOR1の発現が活性化されたものであってもよい。すなわち、本発明は、宿主酵母の染色体上にもともと存在するGDH2の発現量が増大した酵母、または宿主酵母の染色体上にもともと存在するSOR1もしくは宿主酵母に導入したSOR1の発現量が増大した酵母も含むものである。GDH2またはSOR1は、外部からプロモーターを導入すること、又は当該遺伝子自身の持つプロモーターをより強力なプロモーターに置換すること等によって、発現可能な形で活性化され、目的タンパク質を適切に発現し得る。
【0073】
このように内在性遺伝子の発現を活性化させる方法としては、限定はされないが、目的タンパク質を適切に発現できるプロモーターを、公知の遺伝子組換え技術を用いて、染色体上に遺伝子置換により組み込む方法等が挙げられる。遺伝子置換の方法としては、Akada et al. Yeast 23: 399-405 (2006)(非特許文献)の方法を用いることができる。置換するプロモーターとしては、PGKプロモーター、ADHプロモーター、TDHプロモーター、ENOプロモーター等の公知のプロモーターを使用することができる。
【0074】
3.エタノールの生産方法
本発明の形質転換酵母は、キシロース資化能を付与された宿主酵母にグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子から選ばれる少なくとも1つの遺伝子、例えばSOR1および/またはGDH2を導入したものであるため、本発明の形質転換酵母はキシロースの資化能を有する。また、本発明の形質転換酵母は、キシロースからエタノールを生産することが可能である。
また、本発明の宿主酵母は、キシロース資化能を付与された酵母であるため、キシロースからエタノールを生産することが可能である。特に、キシロース還元酵素をコードする遺伝子とキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とを連結させた遺伝子、およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子とキシルロースリン酸化酵素をコードする遺伝子とを連結させた遺伝子の両方を酵母染色体に導入した形質転換酵母は、キシロースからエタノールを生産することに特に適している。以下、本発明の形質転換酵母を例に挙げてエタノールの生産方法を説明するが、キシロースの資化能を有する本発明の形質転換酵母についても、同様にエタノールの生産方法に用いることができる。
【0075】
本発明の形質転換酵母は、酵母の培養に用いられる通常の方法に従って培養することができる。当業者であれば、SD培地、SCX培地、YPD培地、YPX培地などの公知の培地から適切な培地を選択し、好ましい培養条件の下で酵母を培養することができる。液体培地で酵母を培養する場合は、振盪培養が好ましい。
【0076】
本発明の形質転換酵母を培養し、得られる培養物からエタノールを採取することにより、エタノールを生産させることができる。
エタノールを生産させる場合、キシロースの10〜150 g/L、好ましくは70 g/Lの存在下に本発明の形質転換酵母を培養する。本培養の前に、形質転換酵母を前培養しても良い。前培養は、例えば、本発明の形質転換酵母を少量の培地に接種し、12〜24時間培養すればよい。本培養の培養量の0.1〜10%、好ましくは1%の前培養液を本培養の培地に加え、本培養を開始する。本培養は、キシロース含有培地で、0.5〜200時間、好ましくは10〜150時間、より好ましくは24〜137時間、20〜40℃、好ましくは30℃で振盪培養する。
【0077】
生産されたエタノールは、上記のように本発明の酵母を培養して得られる培養物から採取することができる。培養物とは、培養液(培養上清)、培養酵母または培養酵母の破砕物等を意味する。エタノールは公知の精製方法により培養物から精製し、採取することができる。本発明において、エタノールは形質転換酵母から主に培養上清中に分泌されるため、培養上清から採取することが好ましい。
【0078】
エタノールの生産量は、培地に含まれるエタノールを液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、市販のエタノール測定キットで分析することで測定できる。
また、エタノールの生産量を測定することにより、本発明の形質転換酵母のエタノール生産能を確認することができる。
【0079】
本発明の形質転換酵母として、本発明の宿主酵母にグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換酵母(例えば、GDH2を導入したGDH2過剰発現株)、あるいは本発明の宿主酵母にグルタミン酸脱水素酵素をコードする遺伝子およびキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子の両方を導入した形質転換酵母(例えば、GDH2およびSOR1の両方を導入したGDH2およびSOR1過剰発現株)を用いてエタノールを生産する場合、対照株と比較して副生成物であるキシリトールおよびグリセロールの生産量が減少する。
【0080】
また、本発明の形質転換酵母として、本発明の宿主酵母にキシリトール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換酵母(例えば、SOR1を導入したSOR1過剰発現株)を用いる場合は、NAD+の存在下にキシロース含有培地で培養することにより、対照株と比較して副生成物であるキシリトールおよびグリセロールの生産量が減少し得る。NAD+は、最終濃度が0.01〜10000μM、好ましくは0.1〜1000μM、より好ましくは1〜100μMとなるようにキシロース含有培地に添加すればよい。
NAD+は培養の全期間において培養系に存在させてもよいし、培養の一定期間にのみ存在させることもできる。したがって、例えば、NAD+は、培養の開始前に培養系に添加してもよいし、培養開始から所定時間経過後に培養系に添加してもよい。
【0081】
キシリトールおよびグリセロールの生産量は、培地に含まれるキシリトールまたはグリセロールを液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、市販の測定キットで分析することで測定できる。
また、キシリトールおよびグリセロールの生産量を測定することにより、本発明の形質転換酵母の副生成物生産抑制能やエタノール生産効率を確認することができる。
【0082】
配列番号1:サッカロマイセス・セレビシアGRE3の塩基配列を示す。
配列番号2:サッカロマイセス・セレビシアGRE3タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号3:サッカロマイセス・セレビシアSOR1の塩基配列を示す。
配列番号4:サッカロマイセス・セレビシアSOR1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号5:サッカロマイセス・セレビシアXKS1の塩基配列を示す。
配列番号6:サッカロマイセス・セレビシアXKS1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号7:サッカロマイセス・セレビシアGDH2の塩基配列を示す。
配列番号8:サッカロマイセス・セレビシアGDH2タンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0083】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例で使用した酵母は、すべてサッカロマイセス・セレビシアである。
【0084】
[酵素活性測定]
GRE3(アルドケト還元酵素3)のキシロース還元酵素活性、SOR1(ソルビトール脱水素酵素1)のキシリトール脱水素酵素活性、およびXKS1(キシルロースリン酸酵素1)のキシルロースリン酸酵素活性を、以下の条件で測定した。
粗抽出液は、酵母培養菌体からY-PER Protein Extraction Reagent(Pierce)を用いて調製した。
以下に示す組成の反応液を調製後、30℃で5分静置し、吸光度を測定した。GRE3およびXKS1についてはNADHの酸化に基づく340nmの吸光度の減少を測定し、SOR1についてはNAD+の還元に基づく340nmの吸光度の増加を測定することによって活性を測定した。
反応液の組成は以下のとおりである。
アルドケト還元酵素(GRE3):
50mM リン酸ナトリウム緩衝液 pH 6.8
0.2mM NADPH
100mM D−キシロース
粗抽出液
ソルビトール脱水素酵素(SOR1):
50mM Tris-HCl pH8.5
1mM NAD
+
5mM MgCl
2
100mM キシリトール
粗抽出液
キシルロースリン酸化酵素(XKS1):
20mM リン酸ナトリウム緩衝液 pH 6.8
100mM KCl
5mM MgCl
2
5mM ATP
0.2mM NADH
1mM ホスホエノールピルビン酸
5U/ml ピルビン酸キナーゼ
7U/ml 乳酸脱水素酵素
5mM キシルロース
粗抽出液
【実施例1】
【0085】
1.キシロース資化能付与酵母の作製
醸造用酵母のキシロース資化内在性遺伝子GRE3(アルド・ケト還元酵素遺伝子:キシロース還元酵素遺伝子の代替として利用)、SOR1(ソルビトール脱水素酵素遺伝子:キシリトール脱水素酵素遺伝子の代替として利用)およびXKS1(キシルロースリン酸化酵素遺伝子)を、PGK1プロモーター支配下にタンデムに連結した発現カセットを作製した。作製した発現カセットを用いて上記遺伝子を染色体上XYL2部位に導入し、キシロース資化能付与醸造用酵母を得た。
【0086】
2.過剰発現株の作製
市販の発現ベクターpAUR135(タカラバイオ株式会社)に、PGK1プロモーター支配下に置いたSOR1またはGDH2(グルタミン酸脱水素酵素遺伝子)を組み込んだ。得られた組換えベクターを用いて、上記1.で作製したキシロース資化能付与醸造用酵母の染色体上AUR1部位にSOR1またはGDH2を導入した。得られた株をそれぞれSOR1過剰発現株およびGDH2過剰発現株とした。また、ベクターのみを組み込んだ株を同様に作製し、以下の実験で対照株として用いた。
【0087】
3.発酵性評価
上記2.で作製した株は、YPD(グルコース2%含有)で前培養した後、5%キシロースを含む改変CBS培地(非特許文献H. B. Klinke et al., Biotechnol. Bioeng., 81, 738 (2003):pH 5.0)15 mlを含む50 ml容三角フラスコで、初期植菌量OD
600 = 20、30℃、140 rpmで旋回培養し、経時的にサンプリングを行い、発酵性を評価した。発酵代謝物は、Shodex SUGAR SP0810カラムを用い、HPLCにより定量した。菌体濃度は、分光光度計(λ=600nm)で測定した。
【0088】
4.発酵性評価結果
結果を表1に示す。SOR1過剰発現株は、対照株と比べてキシロース消費速度は変わらず、エタノール生成量に向上が認められ、副生物のキシリトールおよびグリセロールの生成量はわずかに低下した。GDH2過剰発現株は、副生物のキシリトールおよびグリセロールの生成量が減少し、また、エタノール生成量が向上した。
【0089】
【表1】
【実施例2】
【0090】
1.染色体導入用ベクターの作製
市販ベクターpUC18をEcoRIおよびKpnIで切断し、酵母(協会7号)染色体より増幅したδ配列前半部分(1〜240bp)を導入した。得られたベクターをPstIおよびSphIで切断し、同じく酵母(協会7号)より増幅したδ配列後半部分(241〜334bp)を導入し、ベクターpUC-δを得た。pUC-δをSmaIで切断し、PGK1プロモーター支配下に2つの遺伝子をタンデムに連結したGRE3-SOR1およびXKS1-SOR1断片を導入し、それぞれpUC-δ-GRE3-SOR1ベクターおよびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターを得た。GRE3、SOR1およびXKS1の各遺伝子は、協会7号由来である。
【0091】
2.キシロース資化能付与酵母の作製
1.で得られたpUC-δ-GRE3-SOR1およびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターをStuIで切断し、直鎖状の断片とした後、等量ずつ混ぜ、酢酸リチウム法により焼酎酵母S-2株に導入した。遺伝子断片を導入した酵母の培養液を、アミノ酸を含んだSD-キシロース寒天プレート(キシロース5%)に塗布し、30℃で7〜10日間インキュベーションし、染色体組込み株(改良株A〜G)を得た。SC-X(キシロース5%)液体培地で形質転換株を培養し(2ml/15ml培養チューブ、140rpm, 30℃)、生育の良好な株について、培養評価をおこなった。
また、対照株として、PGK1プロモーター支配下にタンデムに連結したGRE3-SOR1-XKS1をXYL2部位に導入し、キシロース資化能付与酵母(XYL2株)を作製した。この酵母(XYL2株)についても培養評価を行った。
【0092】
3.発酵性評価
上記2.で作製した株は、YPD(グルコース2%含有)で前培養した後、表2に示す組成の培地15 mLを含む50 mL容三角フラスコで、初期植菌量OD
600 = 20、30℃、140 rpmで旋回培養し、経時的にサンプリングを行い、発酵性を評価した。発酵代謝物は、Shodex SUGAR SP0810カラムを用い、HPLCにより定量した。菌体濃度は、分光光度計で測定した。
【0093】
【表2】
【0094】
4.発酵性評価結果
結果を表3に示す。上記の手法により作製した改良株A〜Gは、高いエタノール収率を示した。改良株A〜Gは、PGK1プロモーター支配下にタンデムにGRE3-SOR1-XKS1をXYL2部位に導入して作製したキシロース資化能付与酵母(XYL2株)と比べ、エタノール生成量の向上が認められた。
【0095】
【表3】
【実施例3】
【0096】
実施例2と同様の方法で、協会7号酵母について試験を行った。
協会7号酵母から得られたGRE3、SOR1およびXKS1の各遺伝子を用いて、実施例2 1.と同様の方法でpUC-δ-GRE3-SOR1ベクターおよびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターを得た。得られたpUC-δ-GRE3-SOR1およびpUC-δ-XKS1-SOR1ベクターおよび酵母(協会7号)を用いて、実施例2 2.と同様の方法でキシロース資化能付与酵母を作製した(改良株H〜M)。
【0097】
改良株H〜Mについて、発酵性評価を実施例2 3.と同様の方法で行った。実施例1と同様の方法で作製したSOR1過剰発現株(協会7号)、および対照株としてPGK1プロモーター支配下にタンデムに連結したGRE3-SOR1-XKS1をXYL2部位に導入して作製したXYL2株(協会7号)についても発酵性評価を行った。
【0098】
結果を表4に示す。SOR1過剰発現株および改良株H〜Mは、対照株に比べて高いエタノール収率を示した。特に、改良株H〜Mは、エタノールの生産量のより良い向上が認められた。
【0099】
【表4】