【課題を解決するための手段】
【0019】
この観点から、本発明の目的は、コスト効率的および資源効率的な形でNi合金の鋼板材の溶融めっきを行うことを可能にし、工業的実施において高い工程信頼性で使用できる方法を記載することである。
【0020】
本発明によれば、本目的は請求項1に示した方法により達成される。
【0021】
本発明による方法は、大型の熱めっき工業プラントで連続運転中の制御された大気条件下、焼鈍され、その後すぐにインラインで溶融めっきされる冷間圧延鋼板材または熱間圧延鋼板材の溶融めっきに好適である。本発明による手順は、フラッシュプレめっきまたは同種のものを必要としない。
【0022】
このため、本発明による方法は原則として、インラインで連続的に実施される以下のプロセス工程:
a) 鋼板材を用意する工程
b) 鋼板材を保持温度まで加熱する工程、
c) 鋼板材を保持温度で保持し、再結晶させる工程
d) 鋼板材をストリップ入口温度まで冷却する工程、および
e) 鋼板材を入口帯を通して溶融浴に送る工程
を含む。
【0023】
本発明による方法の一部として連続通路において少なくとも連続的に行われるプロセス工程a)〜e)のリストは、限定されるものではない。したがってプロセス工程a)とb)との間に、場合によっては、めっきされる鋼板材の表面を洗浄する作業工程a’)が存在してもよい。さらにそれぞれのストリップ入口温度への冷却(プロセス工程d))とそれぞれの溶融浴への進入(プロセス工程e))との間にも、過時効処理の任意のプロセス工程d’)が存在してもよい。同様に、通常、溶融浴から鋼板材が出現後、プロセス工程e’)として、そのとき鋼板材に存在する金属保護めっきの厚さの調整工程があってもよい。
【0024】
具体的には、高いNiおよびCr含有量を含む鋼板材を金属保護めっきで溶融めっきするための本発明による方法は、少なくとも以下の作業工程:
a) 少なくとも2.0重量%のNiおよび少なくとも5.0重量%のCrを含む鋼から製造され、冷間圧延または熱間圧延により得られた鋼板材を用意する工程;
b) 1〜30秒以内、鋼板材を保持温度700〜1100℃に加熱する工程であって、加熱は、−15℃〜+30℃に設定された露点TP1を有し、かつN
2および技術的に不可避な不純物のほか、任意に以下の構成成分(体積%単位):H
2:1〜50%、CO:0.1〜2.0%、CO
2:5.0〜15.0%の1つまたは複数を含む加熱雰囲気下で行われる工程;
c) 加熱された鋼板材を、N
2および技術的に不可避な不純物ならびに1.0〜50.0体積%のH
2および最大1.0体積%のO
2からなり、かつその露点TP2が−30℃〜0℃に設定された保持雰囲気下、10〜120秒の保持時間保持温度で保持する工程;
d) 鋼板材を保持温度から430〜800℃になるストリップ入口温度に冷却する工程;
e) 鋼板材を、鋼板材が溶融浴への進入まで不活性または還元性入口雰囲気下で保持される入口帯を通過させ、その後鋼板材が金属被膜により溶融めっきされる溶融浴を通過させる工程;
を提供し、
加熱雰囲気の露点TP1は保持雰囲気の露点TP2より高く、露点TP2は入口雰囲気の露点TP4より高い。言い換えれば:TP1>TP2>TP4である。
【0025】
溶融浴からの出現、および溶融浴から出現した鋼板材上に存在する金属めっきの、たとえばスクレーパーノズルの使用による任意の厚さの調整の後、得られた鋼板材は、従来の方法で室温まで冷却してもよい。冷却後に任意に鋼板材の予成形(調質圧延)、パッシベーション、塗油およびコイルへの巻きを行ってもよい。必要なら巻き取りの前または後に、金属めっきに特定の特性を与えるため、さらに加熱処理を行ってもよい。
【0026】
本発明による方法の連続プロセスで連続的に行われる個々のプロセス工程は、好ましくは各プロセス工程が特定の炉帯に関連付けられた既知の通路炉において行う。
【0027】
製造される鋼板材は、圧延硬化ストリップまたは冷間もしくは熱間圧延焼鈍ストリップとして存在してもよい。本発明による方法の使用は、特に圧延硬化、冷間圧延鋼板材を出発材料として使用すると、とりわけ経済的であることが分かっている。特にこうした冷間圧延、圧延硬化鋼板材を処理する場合、保持中に再結晶を達成するため、作業工程a)の加熱中に達する保持温度が700〜1100℃、特に700〜850℃になると有利であることが分かっている。
【0028】
本発明による方法は、加熱雰囲気のH
2含有量が1.0〜5.0体積%である場合に最適な経済的な形で実施することができる。
【0029】
本発明は、鋼板材の表面上の酸化物形成により確認できるようになる外部移行、いわゆる「外部」酸化の大部分を十分に抑制するように、鋼板材に金属の保護層を施す溶融浴への進入の前に加熱処理を行うという着想に基づく。したがって最適には、加熱処理工程はすべて、どのような場合でも外部酸化が最小限に抑えられるか、あるいは最適には外部酸化が起こらないように、間接的に燃焼される炉内の還元雰囲気下で行う。
【0030】
鋼板材の間接加熱では、RTF型(RTF:Radiant Tube Furnace=ラジアントチューブ炉)の実施における通常の炉を使用する。この炉型では、加熱は、炉室に配置されたラジアントチューブを通して燃焼ガスを送ることで行われる。燃焼はラジアントチューブ内で行われる。このようにして燃焼ガスは炉雰囲気から隔てられる。この場合、大気の酸化構成成分が加わることを回避することができるため、標的化して、技術的に不可避な不純物以外はもっぱらN
2および意図的に加えた任意のH
2比率からなる加熱雰囲気を維持することができる。
【0031】
したがって、たとえば利用可能なプラント技術のため、作業工程a)において直接加熱される炉帯で鋼板材を加熱する場合、この場合の加熱雰囲気は、N
2および任意に存在するH
2のほか、最大でも0.1〜2.0体積%のCOおよび最大でも5.0〜15.0体積%のCO
2を含むように設定される。こうして、直接燃焼させる加熱ゾーンにおける加熱雰囲気は、鉄または卑金属元素の外部酸化を回避し、卑金属元素の酸化物形成が内部だけにほぼ限られるように設定される。
【0032】
したがって本発明による方法の本質的な利点は、既知の方法の一部に記載されているような標的化プレ酸化の必要がないことである。こうして本発明による方法の実施に関連する制御および調節コストは、実質的に低下する。
【0033】
加熱後の保持段階(プロセス工程b))において、本発明により加熱された鋼板材は、保持温度で10〜120秒間焼鈍する。主として保持ゾーンに存在する保持雰囲気、保持時間、保持温度および保持雰囲気の露点TP2は相互に適合しているため、保持段階の終了時に、鋼板材の構造が再結晶し、存在する可能性があるあらゆる種類の任意の外部酸化物が還元され、そうした酸化物の新たな形成が回避される。最適な作業結果はさらに、保持雰囲気のH
2含有量が1.0〜5.0体積%である場合に達成される。保持雰囲気の酸化力をさらに最小化するには、同時に保持雰囲気のO
2含有量を最大0.1体積%に限定してもよい。
【0034】
具体的には、保持温度で保持中の鋼板材の外部酸化が回避されるように、保持雰囲気の露点TP2を設定する。このため本発明によれば、露点TP2を最低−30℃、特に−30℃より高く設定する。より低い露点では、卑金属合金元素、たとえばCr、MnまたはSiが外部酸化物を形成するリスクがある。同時に、本発明による露点TP2は、鋼板材の表面上に存在する任意の酸化鉄または酸化ニッケルに対する十分な還元力を得る、あるいはそれらの発生を回避するため、最高0℃にすべきである。本発明による鋼板材の表面上のFeまたはNi酸化物の望ましくない発生は、保持ゾーン雰囲気の露点TP2を−10℃以下に設定する場合、特に確実に起こり得る。
【0035】
保持工程後、鋼ストリップの温度を冷却ゾーン内で保持温度から、ストリップ鋼材がそれぞれの溶融浴に入る、430〜800℃の範囲にあるストリップ入口温度まで冷却する。いずれの場合も選択されるストリップ入口温度は、金属保護層を施すために鋼板材が送られる溶融浴の温度と同様に、亜鉛またはアルミニウム支持体上にめっきが作られるかどうかによって決まる。
【0036】
表1は、Zn系めっき(たとえばZn、ZnAl、ZnMgまたはZnMgAlめっき)およびAl系めっき(たとえばAlZn、AlSiめっき)のそれぞれの溶融浴に鋼板材が入るストリップ入口温度の典型的な範囲、およびそれぞれの溶融浴の適切な温度範囲を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
選択肢として、ストリップ入口温度に冷却した(プロセス工程d))後、プロセス工程d’)で鋼板材に過時効処理を行ってもよく、鋼板材を過時効雰囲気下、ストリップ入口温度で1〜30秒間保持し、過時効雰囲気はN
2および技術的に不可避な不純物のほか、任意に1〜50体積%のH
2、特に1〜5体積%のH
2を含み、過時効雰囲気の露点TP3を−50℃〜−25℃に設定する。
【0039】
冷却および任意の過時効処理の後、溶融浴釜に供給された溶融浴に鋼板材を送る。周囲大気とのどのような接触も回避するため、溶融浴釜まで延在する入口構造物を通してストリップ入口温度で、本発明により加熱処理された鋼板材を溶融浴に送る。この入口帯には、主に不活性または還元性入口雰囲気が存在する。入口雰囲気は、N
2および技術的に不可避な不純物ならびに任意に1.0〜50.0体積%のH
2からなってもよく、こうして作られる入口雰囲気の露点TP4は−80℃〜−25℃である。
【0040】
一般に、鋼板材は、不活性または還元性雰囲気下、それぞれのストリップ入口温度まで本発明により冷却されるということができる。具体的には、冷却は、いずれの場合も冷却後に主に作業工程に存在する雰囲気下で行われる。過時効処理を行わない場合、すなわち鋼板材が冷却後直ちに入口帯に入り、そこから溶融浴に運ばれる場合には、これが入口雰囲気である。一方、冷却後、鋼板材に過時効処理を施す場合には、冷却は、過時効雰囲気下で行われる。
【0041】
次いで、本発明による方法で準備された鋼板材を、既知の方法で好適な溶融浴釜に満たされた溶融浴を連続通路で通過させるが、それによって実際には1〜10秒、特に2〜5秒の浸漬時間が好適であることが分かっている。溶融浴釜では、溶融浴が鋼表面を湿潤させ、ストリップ鋼の金属鉄と溶融浴との間で化学反応が起こって金属間の境界層が形成され、良好なめっき付着が確保される。
【0042】
本発明により処理されるタイプの鋼板材のめっきに特に好適である溶融浴は、Znおよび不可避な不純物のほか、0.1〜60.0%、特に0.15〜0.25%のAlおよび最大0.5%のFeを含んでもよい(データはすべて重量%単位)。こうして作られる溶融浴で得られるめっきは、それぞれのAl含有量に応じて実際には「Z」めっき、「ZA」めっきまたは「AZ」めっきとして知られる。この場合の不可避な不純物は、微量のSi、Mn、Pbおよび希土類を含む。別の溶融浴組成は、Znおよび不可避な不純物のほか、0.05〜8.0%のAl、0.2〜8.0%のMg、最大2.0%のSi、最大0.1%のPb、最大0.2%のTi、最大1%のNi、最大1%のCu、最大0.3%のCo、最大0.5%のMn、最大0.2%のCr、最大0.5%のSr、最大3.0%のFe、最大0.1%のB、最大0.1%のBi、最大0.1%のCdおよび微量の希土類、Al含有量%AlとMg含有量%Mgとの比率は%Al/%Mg<1である。本明細書に記載したタイプの鋼板材のめっきに好適な溶融浴の他の組成は、たとえば特許文献18、特許文献19および特許文献20に開示されている。この種のマグネシウムを含む亜鉛系めっきは、実際には「ZM」めっきとして知られる。
【0043】
次いで、溶融めっき鋼板材を、Fe−Zn合金めっきを得るためインラインで熱処理(ガルバニーリング)する場合、Znおよび不可避な不純物のほか、0.1〜0.15重量%のAlおよび最大0.5%のFeを含む溶融浴組成が好適であることが分かっている。こうした溶融浴で得られためっきは、商業上、接頭辞「ZF」で表示される。
【0044】
不可避な微量を除いてZnを含まないAl系めっきは典型的には、Alおよび不可避な不純物のほか、最大15.0重量%のSiおよび最大5.0%のFeを含む。このタイプのめっきは、実際には「ASめっき」として知られている。
【0045】
露点TP1、TP2およびTP4を
TP1>TP2>TP4
に従い、あるいは過時効処理を行う場合には、
TP1>TP2>TP3≧TP4
に従い設定することにより、それぞれの加熱雰囲気(露点TP1)、保持雰囲気(露点TP2)、任意に存在する過時効雰囲気(露点TP3)および入口雰囲気(露点TP4)の酸化力は、いずれの場合もそれぞれのプロセス工程において存在する鋼ストリップ温度に最適に適合される。加熱中に維持される加熱雰囲気を高い露点TP1にすると、卑金属合金元素の内部酸化物の最初の形成が増加する。その後の高い保持温度での保持においては、鋼表面上で最適な還元結果を達成し、FeおよびNiの酸化を防止するため、露点TP2を下げることにより保持雰囲気の酸化力を低下させる。
【0046】
任意に実行される過時効処理中に維持される雰囲気の露点TP3をさらに下げると、酸化力がさらに低下する。これには、過時効処理において主に存在する低いストリップ温度およびその短い時間のため、この前に形成された可能性がある任意の外部酸化物を過時効工程自体またはその後の作業工程でもはや還元できないという環境を考慮に入れる。同じ理由により、入口に主に存在する入口雰囲気の露点TP4も過時効雰囲気の露点TP3以下に設定し、したがって保持雰囲気の露点TP2より低い。
【0047】
条件TP1>TP2>TP3≧TP4を守ため実際の実施では、先行する作業工程で維持された雰囲気による、より乾燥した雰囲気の汚染がすべて回避されなければならない。これは、20〜100Paへの圧力低下を設定し、使用する通路炉の長さにわたりストリップ進行方向と逆に維持すれば、容易に達成することができる。この結果、通路炉を通り持続的に鋼板材の進行方向と逆に方向付けられ、いずれの場合も先行するプロセス工程において維持された雰囲気とより乾燥した雰囲気を混合するガス流が得られる。
【0048】
通路炉を通して鋼板材の進行方向と逆に方向付けられた当該ガス流は、たとえば供給するガス体積流、流速および圧力低下の制御により調節することができる。流速および圧力低下は、典型的には炉の最初の部分に位置するガス抽出装置の吸引力をそれぞれの条件に適合させることで操作することができる。たとえば炉内部に狭窄部を設けることにより、局所的に流速をさらに高めてもよい。
【0049】
本発明による方法に重要な露点TP1〜TP4の制御および設定には、特に露点TP1およびTP2の制御時、加熱雰囲気および保持雰囲気の標的化加湿が必要とされる。このため、それぞれの雰囲気(加熱雰囲気、保持雰囲気、入口雰囲気または過時効雰囲気)に湿った媒体を導入してもよい。これは一般に、酸化媒体の添加により達成され、酸化媒体は
水蒸気、湿っ
たN2もしくはH
2、加湿されたN
2およびH
2もしくはN
2およびO
2の混合物、またはO
2であってもよい。これは通常、加湿される炉帯ごとに1つの供給ラインを介して加えられ、供給ラインは、調節しやすいように不活性ガス供給から分離されている。
【0050】
本発明による溶融めっきされた鋼板材は、その機械的数値および表面特性のため、薄板金属部材への単段または多段の冷間もしくは熱間成形に理想的に好適である。したがって特に自動車車両構造用、および設備、機械または家電機器の組み立てにおける高温および低温用途の部材は、本発明により得られた鋼板材から製造することができる。本発明により製造された鋼板材は、優れた成形能ならびに熱性および腐食性の環境による負荷に対する高い抵抗性を有する。したがって本発明により溶融めっきされた鋼板材を使用すると、軽量化の可能性を最大限利用できるだけでなく、本発明により製造された鋼板材から形成される製品の寿命も延長する。
【0051】
本発明により処理される鋼板材を製造する鋼は典型的には、鉄および不可避な不純物のほか(重量%)、Cr:5.0〜30.0%、Ni:2.0〜30.0%、Mn:≦6.0%、Mo:≦5.0%、Si:≦2.0%、Cu:≦2.0%、Ti:≦1.0%、Nb:≦1.0%、V:≦0.5%、N:≦0.2%、Al:≦2.0%、C:≦0.5%を含む。
【0052】
本発明について、例示的な実施形態を参照しながら以下により詳細に説明する。