特許第5796143号(P5796143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5796143固形ルウ用油脂組成物及びそれを含有する固形ルウ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5796143
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】固形ルウ用油脂組成物及びそれを含有する固形ルウ
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20151001BHJP
   A23L 1/40 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   A23D9/00 518
   A23L1/40
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-2772(P2015-2772)
(22)【出願日】2015年1月9日
【審査請求日】2015年1月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】村川 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】堀越 千恵
(72)【発明者】
【氏名】堤 崇史
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−197884(JP,A)
【文献】 特開2006−325509(JP,A)
【文献】 特開2014−050343(JP,A)
【文献】 特開2000−204389(JP,A)
【文献】 特開2001−238597(JP,A)
【文献】 特開2006−160906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
C11B
C11C
A23L 1/39
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物油脂の極度硬化油(A)及び動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別軟質部(B)からなる混合油脂組成物(C)を、エステル交換して得られるエステル交換油(D)と、動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別硬質部(E)とを含み、動物油脂由来の全油脂中における、前記エステル交換油(D)の含量が30〜95質量%であり、前記動物油脂分別硬質部(E)の含量が5〜60質量%であることを特徴とする固形ルウ用油脂組成物。
【請求項2】
動物油脂の極度硬化油(A)、動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別軟質部(B)、及び動物油脂(F)からなる混合油脂組成物(C)を、エステル交換して得られるエステル交換油(D)と、動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別硬質部(E)とを含み、動物油脂由来の全油脂中における、前記エステル交換油(D)の含量が30〜95質量%であり、前記動物油脂分別硬質部(E)の含量が5〜60質量%であることを特徴とする固形ルウ用油脂組成物。
【請求項3】
前記エステル交換油(D)と、前記動物油脂分別硬質部(E)と、動物油脂(F)とを含む、請求項1又は2記載の固形ルウ用油脂組成物。
【請求項4】
前記混合油脂組成物(C)中における前記動物油脂分別軟質部(B)の含量が5〜75質量%である、請求項1〜のいずれか1つに記載の固形ルウ用油脂組成物。
【請求項5】
前記混合油脂組成物(C)中における前記動物油脂の極度硬化油(A)の含量が25〜70質量%である、請求項1〜のいずれか1つに記載の固形ルウ用油脂組成物。
【請求項6】
前記動物油脂分別硬質部(E)が、動物油脂の分別処理の際に、硬質部と軟質部との質量比が30:70〜70:30になるように分別処理した硬質部からなる、請求項1〜のいずれか1つに記載の固形ルウ用油脂組成物。
【請求項7】
前記動物油脂分別軟質部(B)が、動物油脂の分別処理の際に、硬質部と軟質部との質量比が30:70〜70:30になるように分別処理した軟質部からなる、請求項1〜のいずれか1つに記載の固形ルウ用油脂組成物。
【請求項8】
トランス脂肪酸含量が2%以下である、請求項1〜のいずれか1つに記載の固形ルウ用油脂組成物。
【請求項9】
前記請求項1〜のいずれか1つに示した油脂組成物を含有することを特徴とする固形ルウ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカレー、シチュー、ハヤシなどの即席ルウに適した固形ルウ用油脂組成物及びそれを含有する固形ルウに関する。
【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、ハヤシなどの即席ルウに用いられる固形ルウは、家庭だけでなく、レストランや給食などで広く使用されている。固形ルウは、小麦粉若しくは澱粉と、油脂とを、約100〜140℃位に加熱混合後、加熱しながら乳化剤、砂糖、塩、グルタミン酸ソーダなどの調味料、香辛料、その他を添加して攪拌混合した後、容器に充填し、冷却雰囲気下で数十分から数時間かけて冷却固化して製造される。また、冷却用容器から固化したルウを出し、粉砕あるいは裁断などの仕上げを行いフレーク状、顆粒状などにして使用されることもある。
【0003】
このような固形ルウとして、下記特許文献1には、動物油脂及び動物油脂の極度硬化油を配合してエステル交換した油脂と、動物油脂とを配合した油脂組成物を含ませた即席調理食品が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、牛脂/豚脂と、牛脂/豚脂の極度硬化油とからなる油脂混合物を、ランダムエステル交換反応して作製したトランス脂肪酸含量が4%以下のルー用油脂組成物が開示されている。
【0005】
更に、下記特許文献3には、牛脂を分別処理して得られる牛脂分別硬質部の極度硬化油と、牛脂を分別処理して得られる牛脂分別軟質部とを混合してなる油脂混合物(A)を含む油脂組成物を、エステル交換反応させて得られ、トランス脂肪酸含量が2%以下であることを特徴とする即席ルー用油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−197884号公報
【特許文献2】特開2006−325509号公報
【特許文献3】特開2014−50343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固形ルウの製造時の冷却処理は、製造工程上の都合から瞬間固化できないため、以下のような問題があった。
(1)冷却処理時間が長く、エネルギーやスペースの多消費型となり、効率が悪い。
(2)冷却過程で油脂結晶粗大化による白色化(ブルーミング)が発生し油脂が表面に浸出する。
(3)固化までの時間が長くなると比重の大きい成分が沈降して上層部分と下層部分とで成分分布が異なり、バラツキがでて不均一になる。
(4)フレークや顆粒状などの形状が不均一になる。
(5)過度の冷却( 過冷却)により表面に結露が発生するので、保存性が悪化する。
(6)表面に結露が発生すると、食塩、砂糖などの水溶性成分が結露水に溶解し、結露水が蒸発すると表面にその結晶が出現し、外観が悪化する。
【0008】
このような固形ルウの課題に対して、前記特許文献1,2に開示された固形ルウにおいては、製造工程における冷却時の固化性が悪いため、沈殿が生じやすく、また、ブルーミング防止効果がやや劣り、ソースとする際のお湯への溶解性が悪いという問題があった。
【0009】
また、前記特許文献3に開示された固形ルウにおいては、冷えたときに粘度が出過ぎて、口溶けが悪くなる傾向があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、製造時における固化性が良好で、ブルーミングが生じにくく、かつ、ソースとする際のお湯への溶解性が良好な固形ルウ用油脂組成物及びそれを含有する固形ルウを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、動物油脂を分別処理して作製した動物油脂分別軟質部と動物油脂の極度硬化油を一定の割合以上含有する油脂組成物を、エステル交換してエステル交換油脂を作製し、前記エステル交換油脂と、動物油脂を分別処理して作製した動物油脂分別硬質部とを一定の割合以上含有する油脂組成物を用いることにより、ルウ製造工程中のルウの固化性に優れ、油脂と固形分の分離やブルーミングが発生せず、かつソースとする際のお湯への溶解性が良い即席ルーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の固形ルウ用油脂組成物は、動物油脂の極度硬化油(A)及び動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別軟質部(B)を含む混合油脂組成物(C)を、エステル交換して得られるエステル交換油(D)と、動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別硬質部(E)とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の固形ルウ用油脂組成物の好ましい一態様において、前記混合油脂組成物(C)は、前記動物油脂の極度硬化油(A)、前記動物油脂分別軟質部(B)、及び動物油脂(F)を含むものであってもよい。
【0014】
また、本発明の固形ルウ用油脂組成物の好ましい一態様において、前記固形ルウは、前記エステル交換油(D)と、前記動物油脂分別硬質部(E)と、動物油脂(F)とを含むものであってもよい。
【0015】
また、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、動物油脂由来の全油脂中における前記動物油脂分別硬質部(E)の含量が5〜60質量%であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、動物油脂由来の全油脂中における前記エステル交換油(D)の含量が30〜95質量%であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、前記混合油脂組成物(C)中における前記動物油脂分別軟質部(B)の含量が5〜75質量%であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、前記混合油脂組成物(C)中における前記動物油脂の極度硬化油(A)の含量が25〜70質量%であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、前記動物油脂分別硬質部(E)が、動物油脂の分別処理の際に、硬質部と軟質部との質量比が30:70〜70:30になるように分別処理した硬質部からなることが好ましい。
【0020】
更に、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、前記動物油脂分別軟質部(B)が、動物油脂の分別処理の際に、硬質部と軟質部との質量比が30:70〜70:30になるように分別処理した軟質部からなることが好ましい。
【0021】
更にまた、本発明の固形ルウ用油脂組成物においては、トランス脂肪酸含量が2%以下であることが好ましい。
【0022】
一方、本発明の固形ルウは、前記固形ルウ用油脂組成物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の固形ルウ用油脂組成物によれば、動物油脂を分別処理して得られる結晶性の良い動物油脂分別硬質部を配合したため、固形ルウの製造工程中のルウの固化性が良好で、固形分の沈殿が発生しづらい。また、動物油脂極度硬化油と動物油脂分別軟質部とを含む混合油をエステル交換したエステル交換油を含むことにより、使用時におけるお湯への溶解性が良好となると共に、製造されたルウの口溶けが良好となる。更に、エステル交換油の原料の1つとして、動物油脂極度硬化油を用いるため、トランス脂肪酸を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のルウ用油脂組成物は、動物油脂の極度硬化油(A)及び動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別軟質部(B)を含む混合油脂組成物(C)を、エステル交換して得られるエステル交換油(D)と、動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別硬質部(E)とを含んでいる。
【0025】
本発明で用いる動物油脂としては、特に制限はなく、例えば牛脂、豚脂、魚油、羊油、鶏油、鯨油、乳脂などから選ばれる1種又は2種以上の油脂を混合して使用することができる。この中でも、特に豚脂、牛脂が好ましい。これらの動物油脂としては、一般的に得られる品位のものを使用することができ、抽出方法、精製方法などに制限はない。
【0026】
本発明において、動物油脂の極度硬化油(A)としては、動物油脂を、常法により圧力容器中でニッケル触媒を用いて、ヨウ素価3以下まで水素添加したものを用いることができる。
【0027】
また、本発明における動物油脂分別軟質部(B)及び動物油脂分別硬質部(E)は、動物油脂を分別処理することにより得られる。ここで、分別処理は、自然分別であるドライ分別法(乾式分別)、あるいは有機溶剤を用いる溶剤分別法、もしくはその他の方法のいずれでも良く、その方法に制限はないが、安全性の問題やコストの観点から溶剤を使用しないドライ分別法が好ましい。分別時の温度条件は、特に限定されないが、晶析温度±3℃程度であれば、軟質部と硬質部とに容易に効率良く分別することができる。分別の際の硬質部と軟質部との比(質量比)は、好ましくは30:70〜70:30、より好ましくは60:40〜40:60である。硬質部と軟質部との比(質量比)が上記範囲内であれば、分別油脂としての特性を良好に得ることができる。
【0028】
こうして分別処理して得られる動物油脂分別硬質部は、炭素原子数16個以上の飽和脂肪酸残基を35〜55質量%含み、動物油脂分別軟質部は、炭素原子数18個以上の不飽和脂肪酸残基を45〜65質量%含むことが望ましい。これらの分別動物油脂は一度の分別処理で同時に得られた硬質部と軟質部を用いても良く、又はそれぞれ別の分別処理で得られた硬質部と軟質部を用いても差し支えない。
【0029】
本発明に使用する混合油脂組成物(C)は、前記動物油脂の極度硬化油(A)及び前記動物油脂分別軟質部(B)を含むものであればよいが、前記動物油脂の極度硬化油(A)及び前記動物油脂分別軟質部(B)の他に、動物油脂(F)を含んでいてもよい。
【0030】
上記動物油脂(F)としては、前述した動物油脂の中から適宜選択したものを用いることができるが、特に豚脂、牛脂が好ましい。動物油脂(F)は、動物油脂の極度硬化油(A)又は動物油脂分別軟質部(B)の原料と同じ動物油脂であってもよく、異なる動物油脂であってもよい。
【0031】
本発明において、混合油脂組成物(C)中における動物油脂分別軟質部(B)の含量は、5〜75質量%であることが好ましく、15〜70質量%であることがより好ましい。混合油脂組成物(C)中における動物油脂分別軟質部(B)の含量が、5質量%未満では、使用時におけるお湯への溶解性が悪くなる傾向があり、75質量%を超えると、ブルーミング防止効果およびスナップ性が低下する傾向がある。
【0032】
本発明において、混合油脂組成物(C)中における動物油脂の極度硬化油(A)の含量は、25〜70質量%であることが好ましく、30〜55質量%であることがより好ましい。混合油脂組成物(C)中における動物油脂の極度硬化油(A)の含量が、25質量%未満では、ブルーミング防止効果の低下およびスナップ性が悪くなる傾向があり、70質量%を超えると、使用時におけるお湯への溶解性が悪くなる傾向がある。本発明では、混合油脂組成物(C)の原料の1つとして動物油脂の極度硬化油(A)を用いることにより、エステル交換油(D)のトランス脂肪酸含量を低くすることができる。
【0033】
本発明において、エステル交換の方法としては、特に制限はなく、例えば、ソジウムメチラート等のアルカリ金属触媒を用いて化学的にエステル交換を行う方法、位置特異性を有しないリパーゼ等の酵素を用いて生化学的にエステル交換を行う方法が挙げられる。
【0034】
本発明において、動物油脂由来の全油脂中における前記エステル交換油(D)の含量は、30〜95質量%であることが好ましく、50〜70質量%であることがより好ましい。動物油脂由来の全油脂中におけるエステル交換油(D)の含量が、30量%未満では、ブルーミング防止効果及びスナップ性が低下する傾向があり、95質量%を超えると、製造工程中のルウの固化性が悪くなり、お湯への溶解性が悪くなる傾向がある。
【0035】
本発明において、動物油脂由来の全油脂中における前記動物油脂分別硬質部(E)の含量は、5〜60質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。動物油脂由来の全油脂中における動物油脂分別硬質部(E)の含量が、5質量%未満では、製造固定中のルウの固化性が悪くなり、スナップ性が低下する傾向があり、60質量%を超えると、ブルーミング防止効果が悪くなる傾向がある。
【0036】
本発明の固形ルウ用組成物は、前記エステル交換油(D)と、前記動物油脂分別硬質部(E)とを含むものであればよいが、更に、動物油脂(F)を含有してもよい。この動物油脂(F)としては、前述したものを用いることができる。
【0037】
本発明の固形ルウ用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、植物油脂を含有させることができる。植物油脂としては、特に制限はなく、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、なたね油、大豆油、とうもろこし油、ひまわり油、サフラワー油、ごま油、米油、オリーブ油などから得られる1種または2種以上の油脂を混合して使用することができ、更にはこれらを水素添加、分別処理、エステル交換して得られる油脂も使用することができる。
【0038】
本発明の固形ルウ用組成物の原料とする動物油脂及び植物油脂のトランス脂肪酸量は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることが更に好ましい。また、本発明の固形ルウ用組成物全体としてのトランス脂肪酸含量(g/100g)は、2%以下とされることが好ましく、1.6%以下とされることが更に好ましい。なお、本発明におけるトランス脂肪酸含量の測定は、(社)日本油化学会基準油脂分析試験法暫17−2007に従って行った。
【0039】
本発明の即席ルウ用油脂組成物には、必要に応じてその他の成分、例えば各種乳化剤、酸化防止剤、味付け材やフレーバー等を適宜使用することができる。
【0040】
本発明の即席ルウは、上記即席ルウ用油脂組成物を用いて製造されたものである。上記即席ルウ用油脂組成物以外の原料としては、特に限定されないが、例えば、小麦粉、澱粉等の澱粉質原料、カレー粉等の香辛料、牛乳、粉乳、チーズ等の乳製品、砂糖等の糖類、塩、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、オニオン、ガーリックなどの野菜類、オレンジ、リンゴ、バナナなどの果実類などが挙げられ、これらの原料を用途に応じて適宜組み合わせて用いることができる。これらの原料を、加熱混合し、例えばトレー等の容器に流し込んで、冷却固化することにより、本発明の即席ルウを得ることができる。
【0041】
こうして得られた本発明の即席ルウは、保管中に比較的高温になっても白色化や軟化が発生せず、常法により、カレー、シチュー、ハヤシなどのソースとしたとき、口溶けが良好で、充分なコク味を有している。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」は質量基準である。
【0043】
<実施例1>
(1)豚脂分別硬質部及び豚脂分別軟質部の調製
豚脂脱色油(ヨウ素価58.7)を、70℃に加熱して完全に溶解し、30℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後、3.0MPaでフィルタープレスし、豚脂分別硬質部(E1)及び豚脂分別軟質部(B1)を得た。
【0044】
(2)ランダムエステル交換油脂の調製
豚脂を常法によりニッケル触媒を用いて硬化し、豚脂極度硬化油(ヨウ素価0.2)(A1)を作製した。
【0045】
次に、上記豚脂の極度硬化油(A1)45部と、(1)で調製した豚脂分別軟質部(ヨウ素価62.7)(B1)55部とを混合し、得られた油脂混合物(C1)を90℃で30分間、真空下で脱水を行った。次いで、ナトリウムメチラート0.3部を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応を停止し水洗した。次に、常法により活性白土を用いて脱色し、次いで脱臭を行い、ランダムエステル交換油(D1)を作製した。
【0046】
(3)油脂組成物の調製
(1)で調製した豚脂分別硬質部(ヨウ素価52.1)(E1)30部と、(2)で作製したランダムエステル交換油(D1)50部と、豚脂(F1)20部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0047】
<実施例2>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)10部と、ランダムエステル交換油(D1)50部と、豚脂(F1)40部を混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0048】
<実施例3>
実施例1で作製した豚脂分別軟質部(B1)15部と、豚脂極度硬化油(A1)35部と、豚脂(F1)50部とを混合し、得られた油脂混合物(C2)を用いて実施例1と同様にしてランダムエステル交換反応を行って、ランダムエステル交換油(D2)を作製した。実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)40部と前記ランダムエステル交換油(D2)60部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0049】
<実施例4>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)20部と、実施例3で作製したランダムエステル交換油(D2)60部と、豚脂(F1)20とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0050】
<実施例5>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)5部と、実施例3で作製したランダムエステル交換油(D2)95部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0051】
<実施例6>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)60部と、ランダムエステル交換油(D1)30部と、豚脂(F1)10部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0052】
<実施例7>
(1)牛脂分別硬質部及び牛脂分別軟質部の調製
牛脂脱色油(ヨウ素価49.0)を、70℃に加熱して完全に溶解し、30℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後、3.0MPaでフィルタープレスし、牛脂分別硬質部(E2)及び豚脂分別軟質部(B2)を得た。
【0053】
(2)ランダムエステル交換油脂の調製
牛脂を常法によりニッケル触媒を用いて硬化し、牛脂極度硬化油(ヨウ素価0.2)(A2)を作製した。
【0054】
次に、上記牛脂の極度硬化油(A2)40部と、(1)で調製した牛脂分別軟質部(ヨウ素価53.4)(B2)60部とを混合し、得られた油脂混合物(C3)を用いて実施例1と同様にしてランダムエステル交換反応を行って、ランダムエステル交換油(D3)を作製した。
【0055】
(3)油脂組成物の調製
(1)で調製した牛脂分別硬質部(ヨウ素価44.1)(E2)10部と、(2)で作製したランダムエステル交換油(D3)60部と、牛脂(F2)30部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0056】
<比較例1>
実施例1で作製した豚脂極度硬化油(A1)45部と、豚脂(F1)55部とを混合し、得られた油脂組成物(C4)を用いて実施例1と同様にしてランダムエステル交換油(D4)を作製した。豚脂(F1)50部と、前記ランダムエステル交換油(D4)50部とを混合し、得固形ルウ用油脂組成物を得た。
【0057】
<比較例2>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)20部と、比較例1で作製したランダムエステル交換油(D4)50部と、豚脂(F1)30部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を得た。
【0058】
<比較例3>
実施例3で作製したランダムエステル交換油(D2)95部と、豚脂(F1)5部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を得た。
【0059】
<比較例4>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)80部と、ランダムエステル交換油(D1)20部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0060】
<比較例5>
実施例1で作製したランダムエステル交換油(D1)100を固形ルウ用油脂組成物とした。
【0061】
<比較例6>
実施例1で作製した豚脂分別硬質部(E1)60部と、ランダムエステル交換油(D1)20部と豚脂(F1)20部を混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0062】
<比較例7>
実施例7で作製したランダムエステル交換油(D4)60部と、牛脂(F2)40部を混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0063】
<比較例8>
(1)ランダムエステル交換油脂の調製
実施例7で作製した牛脂の極度硬化油(A2)40部と、牛脂(F2)60部とを混合し、得られた油脂混合物(C5)を用いて実施例1と同様にしてランダムエステル交換反応を行って、ランダムエステル交換油(D5)を作製した。
【0064】
(2)油脂組成物の調製
実施例7で作製した牛脂分別硬質部(E2)10部と、(1)で作製したランダムエステル交換油(D5)60部と、牛脂(F2)30部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0065】
<比較例9>
比較例8で作製したランダムエステル交換油(D5)60部と、牛脂(F2)40部とを混合し、固形ルウ用油脂組成物を作製した。
【0066】
<特性評価>
下記表1に、上記実施例1〜7、比較例1〜9におけるランダムエステル交換油の原料油脂配合と、トランス脂肪酸含量と、SFC(固体脂含量)とを示した。
【0067】
【表1】
【0068】
また、下記表2、3に、上記実施例1〜7、比較例1〜9で得られた固形ルウ用油脂組成物の原料油脂配合と、トランス脂肪酸含量と、SFC(固体脂含量)とを示した。
【0069】
なお、表中のSFC(固体脂含量)とは、所定の温度(表中に示された温度)における固体脂含量(質量%)のことである。SFC(固体脂含量)は、IUPAC法2.150a Solid Content determination in Fats by NMRに準じて測定した。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
<試験例>
(1)カレールウの調製
実施例1〜7、比較例1〜9で得られた固形ルウ用油脂組成物300部、小麦粉300部、糖類50部、食塩30部、カレー粉200部、調味ペースト30部を平鍋にとり、120℃で30分間混合した後、品温が60℃になるまで冷却した。次に、ポリプロピレン製のトレーにルウを流し入れ、−10℃、−5℃、0℃、5℃、10℃、15℃の各温度帯で30分間保持し、その後20℃で一晩保持して固化した。
【0073】
(2)カレールウの固化性試験
上記(1)で調製した各カレールウを切断し、断面を肉眼観察して固形物の沈殿状態を評価した。得られた結果を下記表4,5に示す。なお、固形物の沈殿状態は、下記基準によって評価した。
◎:固形分の沈殿が全くなし
○:固形分の沈殿がわずかにあり
△:固形分の沈殿が少しあり
×:固形分の沈殿が多い
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
(3)カレールウのブルーミング、スナップ性、溶解性
上記(1)の5℃30分の冷却条件で調製したカレールウについて、ブルーミング、スナップ性、溶解性を評価した。得られた結果を下記表6,7に示す。
【0077】
なお、それぞれの評価基準は、下記の通りである。
(ブルーミング)
◎:ブルーミングが全くなし
○:ブルーミングがわずかにあり
△:ブルーミングが少しあり
×:ブルーミングが多数あり
(スナップ性)
固形ルウを、20℃に調温した後、手での折りやすさを下記基準で評価した。
◎:とても良い
○:良い
△:やや悪い
×:悪い
(溶解性)
◎:お湯(60℃)への溶解性がとても良い
○:お湯(60℃)への溶解性が良い
△:お湯(60℃)への溶解性がやや悪い
×:お湯(60℃)への溶解性が悪い
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
表4〜7に示したように、実施例1〜7の油脂組成物を用いて作製したルウは、動物油脂の分別軟質部と動物油脂極度硬化油を一定の割合以上含有する油脂組成物を、ランダムエステル交換してランダムエステル交換油脂(D1,D2,D3)を作製し、前記ランダムエステル交換油脂(D1,D2,D3)と動物油脂を分別処理して作製した動物油脂の分別硬質部(E1,E2)を一定の割合以上含有する油脂組成物からなるため、固化性がとても良く、ブルーミング防止効果やスナップ性に優れるものであり、60℃のお湯への溶解性がとても良いものとなった。
【0081】
これに対して、動物油脂の極度硬化油と動物油脂とを混合し、ランダムエステル交換してランダムエステル交換油脂(D4, D5)を作製し、前記ランダムエステル交換油脂(D4, D5)を含む油脂組成物を用いて作製した比較例1、比較例2、比較例8、比較例9のルウは、60℃のお湯への溶解性が悪かった。
【0082】
また、動物油脂の分別硬質部を含有しない油脂組成物を用いて作製した比較例1、比較例3、比較例5、比較例7、比較例9のルウは固化性が悪く、スナップ性も劣るものとなった。
動物油脂の分別硬質部を一定の割合以上含む油脂組成物を用いて作製した比較例2、比較例4、比較例6、比較例8のルウは固化性に優れるが、硬質部が60質量%よりも多く含まれる比較例4はブルーミング防止効果が劣るものとなった。
ランダムエステル交換油を一定の割合以上含む油脂組成物を用いて作製した比較例1、比較例2、比較例3、比較例5、比較例8、比較例9はブルーミング防止効果に優れるが、ランダムエステル交換油脂の割合が30質量%よりも低い油脂組成物を用いた比較例4、比較例6のルウはブルーミング防止効果が劣るものとなった。
【要約】
【課題】製造時における固化性が良好で、ブルーミングが生じにくく、かつ、ソースとする際のお湯への溶解性が良好な固形ルウ用油脂組成物及びそれを含有する固形ルウを提供する。
【解決手段】動物油脂の極度硬化油(A)及び動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別軟質部(B)を含む混合油脂組成物(C)を、エステル交換して得られるエステル交換油(D)と、動物油脂を分別処理して得られる動物油脂分別硬質部(E)とを含む固形ルウ用油脂組成物を得る。この固形ルウ用油脂組成物を用いて固形ルウを作製する。
【選択図】なし