【文献】
RAMMENSEE S., et al.,Rheological characterization of hydrogels formed by recombinantly produced spider silk,Appl. Phys. A Mater. Sci. Process.,2006年,vol.82, no.2,p.261-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドを、下記(A)〜(C)からなる群から選ばれる少なくとも一つの溶解用溶媒に溶解させてポリペプチドの溶液を得る溶液生成工程と、
(A)ジメチルスルホキシド
(B)ジメチルスルホキシドに無機塩を加えたもの
(C)N,N−ジメチルホルムアミドに無機塩を加えたもの
前記溶液生成工程で生成した溶液を水溶性溶媒に置換することによりポリペプチドゲルを得る工程と、
前記ポリペプチドゲルを乾燥する工程を含むことを特徴とするポリペプチド多孔質体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタンパク質は、クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドを使用する。クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドとは、天然型クモ糸タンパク質に由来又は類似するものであればよく、特に限定されない。例えば天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体などを含む。上記組換えクモ糸タンパク質は、強靭性に優れるという観点からクモの大瓶状線で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する組換えクモ糸タンパク質であることが好ましい。上記大吐糸管しおり糸タンパク質としては、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状線スピドロインMaSp1やMaSp2、二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3やADF4などが挙げられる。
【0011】
また、上記組換えクモ糸タンパク質は、クモの小瓶状線で産生される小吐糸管しおり糸に由来する組換えクモ糸タンパク質であってもよい。上記小吐糸管しおり糸タンパク質としては、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する小瓶状線スピドロインMiSp1やMiSp2が挙げられる。
【0012】
その他にも、上記組換えクモ糸タンパク質は、クモの鞭毛状線(flagelliform gland)で産生される横糸タンパク質に由来する組換えクモ糸タンパク質であってもよい。上記横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)などが挙げられる。
【0013】
前記大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチドとしては、式1:REP1−REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上含むポリペプチドが挙げられる。なお、前記大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する組ポリペプチドにおいて、式(1):REP1−REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位は、同一であってもよく、異なっていてもよい。前記式(1)において、REP1はポリアラニンを意味している。前記REP1において、連続して並んでいるアラニンは、2残基以上であることが好ましく、より好ましくは3残基以上であり、さらに好ましくは4残基以上であり、特に好ましくは5残基以上である。また、前記REP1において、連続して並んでいるアラニンは、20残基以下であることが好ましく、より好ましくは16残基以下であり、さらに好ましくは14残基以下であり、特に好ましくは12残基以下である。前記式(1)において、REP2は10〜200残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、前記アミノ酸配列中に含まれるグリシン、セリン、グルタミン、プロリン及びアラニンの合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。
【0014】
大吐糸管しおり糸において、前記REP1は繊維内で結晶βシートを形成する結晶領域に該当し、前記REP2は繊維内でより柔軟性があり大部分が規則正しい構造を欠いている無定型領域に該当する。そして、前記[REP1−REP2]は、結晶領域と無定型領域からなる繰り返し領域(反復配列)に該当し、しおり糸タンパク質の特徴的配列である。
【0015】
前記式1:REP1−REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドとしては、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4のいずれかに示されているアミノ酸配列を有するADF3由来の組換えクモ糸タンパク質が挙げられる。配列番号1に示されているアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したADF3の部分的なアミノ酸配列(NCBIのGenebankのアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)のN末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したアミノ酸配列の1残基目から631残基目までのアミノ酸配列に該当する。配列番号2に示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列(NCBIのGenebankのアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号3に示されているアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したADF3の部分的なアミノ酸配列(NCBIのGenebankのアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)のN末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したアミノ酸配列である。配列番号4に示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列(NCBIのGenebankのアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やしたものである。また、前記式1:REP1−REP2(1)で示されるアミノ酸配列の単位を2以上含むポリペプチドとしては、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4のいずれかに示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、結晶領域と無定型領域からなる繰り返し領域を有するポリペプチドを用いてもよい。
【0016】
本発明において、「1若しくは複数個」とは、例えば、1〜40個、1〜35個、1〜30個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、又は1若しくは数個を意味する。また、本発明において、「1若しくは数個」は、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、又は1個を意味する。
【0017】
上記小吐糸管しおり糸タンパク質に由来する組換えクモ糸タンパク質としては、式2:REP3(2)で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。上記式2において、REP3は(Gly−Gly−Z)m(Gly−Ala)l(A)rから構成されるアミノ酸配列を意味し、Zは任意の一つのアミノ酸を意味するが、特にAla、Tyr及びGlnからなる群から選ばれる一つのアミノ酸であることが好ましい。またmは1〜4であることが好ましく、lは0〜4であることが好ましく、rは1〜6であることが好ましい。
【0018】
クモ糸において、小吐糸管しおり糸はクモの巣の中心から螺旋状に巻かれ、巣の補強材として使われたり、捉えた獲物を包む糸として利用されたりする。大吐糸管しおり糸と比べると引っ張り強度は劣るが、伸縮性は高いことが知られている。これは小吐糸管しおり糸において、多くの結晶領域がグリシンとアラニンが交互に連なる領域から形成されているため、アラニンのみで結晶領域が形成されている大吐糸管しおり糸よりも結晶領域の水素結合が弱くなり易いためと考えられている。
【0019】
上記横糸タンパク質に由来する組換えクモ糸タンパク質としては、式3:REP4(3)で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。前記式3において、REP4は(Gly−Pro−Gly−Gly−X)nから構成されるアミノ酸配列を意味し、Xは任意の一つのアミノ酸を意味するが、特にAla、Ser、Tyr及びValからなる群から選ばれる一つのアミノ酸であることが好ましい。またnは少なくとも4以上の数字を表し、好ましくは10以上、より好ましくは20以上である。
【0020】
クモ糸において、横糸は結晶領域を持たず、無定形領域からなる繰り返し領域を持つことが大きな特徴である。大吐糸管しおり糸などにおいては結晶領域と無定形領域からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つと推測される。一方、横糸については、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。これは横糸の大部分が無定形領域によって構成されているためだと考えられている。
【0021】
前記ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した宿主を用いて製造することができる。遺伝子の製造方法は特に制限されず、天然型クモ糸タンパク質をコードする遺伝子をクモ由来の細胞からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅してクローニングするか、若しくは化学的に合成する。遺伝子の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した天然型クモ糸タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結して合成することができる。この際に、タンパク質の精製や確認を容易にするため、前記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子を合成してもよい。前記発現ベクターとしては、DNA配列からタンパク質を発現し得るプラスミド、ファージ、ウイルスなどを用いることができる。前記プラスミド型発現ベクターとしては、宿主細胞内で目的の遺伝子が発現し、かつ自身が増幅することのできるものであればよく、特に限定されない。例えば宿主として大腸菌Rosetta(DE3)を用いる場合は、pET22b(+)プラスミドベクター、pColdプラスミドベクターなどを用いることができる。中でも、タンパク質の生産性の観点から、pET22b(+)プラスミドベクターを用いることが好ましい。前記宿主としては、例えば動物細胞、植物細胞、微生物などを用いることができる。
【0022】
また、前記ポリペプチドとしては、水溶性溶媒との接触によりゲルを形成可能なものが用いられる。ゲルが形成可能なポリペプチドには、例えば、前記溶液生成工程で生成した溶液を水溶性溶媒に置換した際に凝集し易い特性を有するもの(例えば、分子量が比較的に大きなもの)等がある。なお、そのような易凝集性を有しないポリペプチドであっても、例えば、溶液生成工程で生成した溶液中の濃度が高くされていれば、かかる溶液が水溶性溶媒に置換されることにより、凝集して、ポリペプチドゲルを形成する。凝集は高温状態から低温状態に温度を下げることによっても起こり得る。要するに、ポリペプチド多孔質体は、前記溶液生成工程で生成した溶液を水溶性溶媒に置換した際に凝集して、ゲルを形成するポリペプチドを用いて製造されるのであり、また、そのようなポリペプチドを含んで構成されている。
【0023】
ポリペプチド多孔質体は連続孔を有している。この連続孔は真空凍結乾燥工程において、脱離する水分の透過孔によって形成されると推定される。この結果、キセロゲル(xerogel)が形成され、固相の骨格で空隙を有する網目構造体になっていると思われる。このようなポリペプチド多孔質体は、見掛けの密度が0.1g/cm
3以下とされ、好適には、見掛けの密度が0.01〜0.08g/cm
3の範囲内の値とされる。なお、見掛けの密度が0.01g/cm
3未満である場合には、見掛け密度が余りに小さいために、空隙量が過大となって、ポリペプチド多孔質体の強度が低下するといった不具合が生じる可能性がある。
【0024】
前記多孔質体の水分最大吸収倍率は重量換算で2倍以上が好ましく、さらに好ましくは3倍以上である。好ましい上限は20倍以下、さらに好ましくは18倍以下である。前記水分最大吸収倍率は、水分を最大吸収させ、傾けても水が濡れてこない点である。
【0025】
本発明のポリペプチド多孔質体は、クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドを、下記(A)〜(C)からなる群から選ばれる少なくとも一つの溶解用溶媒に溶解させてポリペプチドの溶液を得る溶液生成工程と、
(A)ジメチルスルホキシド
(B)ジメチルスルホキシドに無機塩を加えたもの
(C)N,N−ジメチルホルムアミドに無機塩を加えたもの
前記溶液生成工程で生成した溶液を水溶性溶媒に置換することによりポリペプチドゲルを得る工程と、前記ポリペプチドゲルを乾燥する工程により得られる。前記溶液生成工程と前記溶媒を水溶性溶媒に置換する工程の間に、型枠に流し込み所定の形状に成形する工程を入れるか、あるいは前記溶媒を水溶性溶媒に置換する工程の後にカットすることにより所定の形状とすることができる。得られたポリペプチド多孔質の内部にはジメチルスルホキシド及びN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも一つが存在していてもよい。前記溶解用溶媒の存在量は、特に限定されるものではなく、前記溶液生成工程で生成される溶液を前記水溶性溶媒に置換した後において意図せずに残存する程度の量である。
【0026】
溶解用溶媒は、前記(A)〜(C)に示す物質に加えて、アルコール及び/又は水を含んでもよい。前記溶解用溶媒は極性溶媒であり、空気中の水分を吸収しやすい性質があるため、通常販売されている溶媒は数%水を含む場合もある。この程度の水やアルコールは含んでいても良い。但し、溶解用溶媒として機能するのは前記(A)〜(C)に示す物質である。
【0027】
前記水溶性溶媒は、水を含む溶媒をいい、例えば、水、水溶性緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。前記水溶性溶媒は、人体への適応性が高いという観点から水であることが好ましい。前記水としては、特に限定されないが、純水、蒸留水、超純水等を用いることができる。
【0028】
溶液生成工程後の溶液粘度は5〜80cP(センチポアズ)が好ましく、さらに好ましくは10〜50cPである。前記の範囲であれば取扱い性が良く便利である。
【0029】
本発明は、溶媒として、極性溶媒であるDMSO及び/又はDMFを含む溶媒を使用する。DMSOは融点18.4℃、沸点189℃、DMFは融点−61℃、沸点153℃であり、従来法で使用されているヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)の沸点59℃、ヘキサフルロアセトン(HFAc)の沸点−26.5℃に比べると、沸点ははるかに高く、その分溶解性も良い。また、DMSO及びDMFは、一般産業分野においてもアクリル繊維の重合、紡糸液として使用され、ポリイミドの重合溶媒としても使用されていることから、コストも安く安全性も確認されている物質である。
【0030】
DMSOまたはDMFに無機塩を加えると、さらに媒質の溶解度は上がる。無機塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物(例えばLiCl,LiBrなど)、アルカリ土類金属ハロゲン化物(例えばCaCl
2)、アルカリ土類金属硝酸塩(例えばCa(NO
3)
2など)、チオシアン酸ナトリウム(例えばNaSCNなど)から選ばれる少なくとも一つである。溶解成分を100質量%としたとき、無機塩の割合は0.1〜20質量%の範囲が好ましい。
【0031】
前記ポリペプチドゲルは、溶媒を水溶性溶媒に置換して生成される。このとき、前記ポリペプチドゲルは水には溶解しない。水溶性溶媒に置換する工程は、溶媒に溶解させたポリペプチド溶液を透析膜内に入れ、水溶性溶媒中に浸漬し、水溶性溶媒を1回以上入れ替える方法が好ましい。具体的には、溶媒を水溶性溶媒に置換する工程は、溶液生成工程後の溶液を透析膜に入れ、前記溶液の100倍以上の水溶性溶媒(1回分)の中に3時間静置し、この水溶性溶媒入れ替えを計3回以上繰り返すことが好ましい。透析膜については、溶液中のポリペプチドが透過しないサイズであればよく、例えばセルロース透析膜等を用いることができる。水溶性溶媒置換を繰り返せば溶媒をゼロに近づけることができる。脱溶媒工程の後半では透析膜は使用しなくても良い。
【0032】
水溶性溶媒置換工程後のポリペプチド中の溶媒:ジメチルスルホキシド(DMSO)又はN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の残量は核磁気共鳴分光装置(NMR)で測定できる。内部標準としては1、2ジクロロエタンーギ酸溶液を用いることができる。
【0033】
乾燥工程では真空凍結乾燥を用いることが好ましい。真空凍結乾燥時の真空度は200パスカル(Pa)以下が好ましく、さらに好ましくは150パスカル以下であり、より好ましくは100パスカル以下である。真空乾燥によりポリペプチドから水分が蒸発し、この蒸発潜熱により温度が下がり凍結状態となる。真空凍結乾燥時のポリペプチドの温度は70℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以下であり、より好ましくは50℃以下である。なお、真空凍結乾燥に先立って、−10〜−45℃の温度で10〜36時間程度予備凍結をしてもよい。凍結乾燥後の水分率は5.0%以下が好ましく、さらに好ましくは3.0%以下である。
【実施例】
【0034】
以下実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。水溶性溶媒として水を用いた例を説明する。
【0035】
<各測定方法>
(1)溶媒残量測定
内部標準として1,2−ジクロロエタン−ギ酸溶液 濃度3,100ppm(0.00310mg/ml)を準備した。タンパク質溶液(10mlのギ酸に0.1gのポリペプチド多孔質体を溶解したもの)500μlと内部標準溶液500μlを混合した。さらに、H−NMR測定のためアセトニトリル重溶媒を同量程度加え約2倍に希釈し、H−NMR測定を行った(NMRの機種:JEOL社 JNM−ECX 100)。内部標準試料1,2−ジクロロエタンのH−NMR積分強度とDMSOのH−NMR積分強度を比較した。検量線の作成は3ppm〜3000ppmのDMSO−ギ酸溶液を作成し、上記プロトコルにしたがって、検量線を作成した。検量線との比較から、タンパク質溶液中のDMSO濃度を求めた。DMSO濃度測定は、JEOL社製、核磁気共鳴装置(NMR)を用いた。
(2)粘度
KEM社製、EMS装置を使用した。
【0036】
(実施例1)
1.ポリペプチドの準備
<ADF3Kai−Aの遺伝子の合成>
ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つであるADF3の部分的なアミノ酸配列をNCBIのウェブデータベース(NCBIアクセッション番号:AAC47010、GI:1263287)より取得し、同配列のN末端に開始コドンと、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加し、該配列のN末端の1残基目から631残基目までのアミノ酸配列(配列番号1)からなるポリペプチド(ADF3Kai−A)をコードする遺伝子を合成した。その結果、配列番号6に示す塩基配列からなるADF3Kai−Aの遺伝子が導入されたpUC57ベクター(遺伝子の5’末端直上流にNde Iサイト、及び5’末端直下流にXba Iサイト有り)を取得した。その後、同遺伝子をNde I及びEcoR Iで制限酵素処理し、pET22b(+)発現ベクターに組み換え、ADF3Kai−Aの遺伝子が導入されたpET22b(+)ベクターを得た。
【0037】
<タンパク質の発現>
前記で得られたADF3Kai−Aの遺伝子配列を含むpET22b(+)発現ベクターを、大腸菌Rosetta(DE3)に形質転換した。得られたシングルコロニーを、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養後、同培養液1.4mlを、アンピシリンを含む140mLのLB培地に添加し、37℃、200rpmの条件下で、培養液のOD
600が3.5になるまで培養した。次に、OD
600が3.5の培養液を、アンピシリンを含む7Lの2×YT培地に50%グルコース140mLと共に加え、OD
600が4.0になるまでさらに培養した。その後、得られたOD
600が4.0の培養液に、終濃度が0.5mMになるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加してタンパク質発現を誘導した。IPTG添加後2時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製したタンパク質溶液をポリアクリルアミドゲルに泳動させたところ、IPTG添加に依存して目的サイズ(約56.1kDa)のバンドが観察され、目的とするタンパク質(ADF3Kai−A)が発現していることを確認した。
【0038】
<精製>
(1)遠沈管(1000ml)にADF3Kai−Aのタンパク質を発現している大腸菌の菌体約50gと、緩衝液AI(20mM Tris−HCl、pH7.4)300mlを添加し、ミキサー(IKA社製「T18ベーシック ウルトラタラックス」、レベル2)で菌体を分散させた後、遠心分離機(クボタ社製の「Model 7000」)で遠心分離(11,000g、10分、室温)し、上清を捨てた。
(2)遠心分離で得られた沈殿物(菌体)に緩衝液AIを300mlと、0.1MのPMSF(イソプロパノールで溶解)を3ml添加し、前記IKA社製のミキサー(レベル2)で3分間分散させた。その後、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Saovi社製の「Panda Plus 2000」)を用いて菌体を繰り返し3回破砕した。
(3)破砕された菌体に、3w/v%のSDSを含む緩衝液B(50mM TrisーHCL、100mM NaCl、pH7.0)300mLを加え、前記IKA社製のミキサー(レベル2)で良く分散させた後、シェイカー(タイテック社製、200rpm、37℃)で60分間攪拌した。その後、前記クボタ社製の遠心分離機で遠心分離(11,000g、30分、室温)し、上清を捨て、SDS洗浄顆粒(沈殿物)を得た。
(4)SDS洗浄顆粒を100mg/mLの濃度になるよう1Mの塩化リチウムを含むDMSO溶液で懸濁し、80℃で1時間熱処理した。その後、前記クボタ社製の遠心分離機で遠心分離(11,000g、30分、室温)し、上清を回収した。
(5)回収した上清に対して3倍量のエタノールを準備し、エタノールに回収した上清を加え、室温で1時間静置した。その後、前記クボタ社製の遠心分離機で遠心分離(11,000g、30分、室温)し、凝集タンパク質を回収した。次に純水を用いて凝集タンパク質を洗浄し、遠心分離により凝集タンパク質を回収するという工程を3回繰り返した後、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。得られた凍結乾燥粉末における目的タンパク質ADF3Kai−A(約56.1kDa)の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動(CBB染色)の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、ADF3Kai−Aの精製度は約85%であった。
【0039】
2.溶液の調整
クモ糸タンパク質(ADF3Kai−A)の粉末0.8gをDMSO(1MのLiClを含む)20mlに入れ、80℃で30分間溶解させた。その後、ゴミと泡を取り除いた。溶液の溶液粘度は30.8cP(センチポアズ)であった。この溶液を透析チューブ(三光純薬株式会社セルロースチューブ36/32)に入れた。
【0040】
3.水置換
前記透析チューブを3リットルの純水で満たされたビーカに入れた。その後3時間静置させた後、水を入れ替え、計6回この操作を行った。これにより、溶液中のクモ糸タンパク質が凝集して、ほぼ全てのDMSOが水に置換されたヒドロゲルが作成できた。得られたゲルの水分率は95.3質量%であった。
【0041】
4.真空凍結乾燥
前記ヒドロゲルを凍結乾燥機(東京理化器械製の「FDUー1200」)により、14Pa、−45℃の条件で15時間凍結乾燥した。
【0042】
5.結果
(1)得られた多孔質体の溶媒残量は多孔質体100gに対して2.63gであった。
(2)得られた多孔質の見掛けの密度は0.077g/cm
3であった。なお、見掛けの密度は公知の手法に従って求めた。以下に示す実施例2〜4の密度(見掛けの密度)も同様にして求めた。
(3)得られた多孔質体の水分最大吸収倍率は15.4倍であった。この水分吸収倍率は、水分を最大吸収させ、傾けても水が濡れてこない点とした。以下も同様である。
(4)得られた多孔質体は
図1〜4に示すとおりである。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同一のポリペプチドを用い、操作も同様にして次のゲルを作製した。濃度の薄いゲルとして、ポリペプチド粉末0.4gを用いて20mg/mlのドープ(DMSO+1MのLiCl)を準備し、ゲルを作製した。ドープ粘度は13.9cPであった。得られたゲルの水分率は98.8質量%であった。このゲルを実施例1と同じ条件で真空凍結乾燥した。得られた多孔質体の密度は0.020g/cm
3であった。得られた多孔質体の水分最大吸収倍率は7.2倍であった。
【0044】
(実施例3)
実施例1と同一のポリペプチドを用い、操作も同様にして次のゲルを作製した。ポリペプチド粉末0.4gを用いて20mg/mlのドープ(塩なしのDMSO)を準備し、ゲルを作製した。得られたゲルの水分率は97.4質量%であった。このゲルを実施例1と同じ条件で真空凍結乾燥した。得られた多孔質体の密度は0.036g/cm
3であった。得られた多孔質体の水分最大吸収倍率は6.1倍であった。
【0045】
(実施例4)
実施例1と同一のポリペプチドを用い、操作も同様にして次のゲルを作製した。ポリペプチド粉末0.4gを用いて20mg/mlのドープ(DMF+1MのLiCl)を準備し、ゲルを作製した。得られたゲルの水分率は98.2質量%であった。このゲルを実施例1と同じ条件で真空凍結乾燥した。得られた多孔質体の密度は0.039g/cm
3であった。得られた多孔質体の水分最大吸収倍率は3.8倍であった。
【0046】
なお上記実施例1〜4においては置換工程で水を用いたが、他の水溶性溶媒でも同様の効果が得られる。