特許第5796149号(P5796149)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5796149
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/04 20060101AFI20151001BHJP
   B22D 11/059 20060101ALI20151001BHJP
   B22D 11/115 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B22D11/04 311H
   B22D11/059 120B
   B22D11/115 A
   B22D11/04 311D
   B22D11/04 317Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-516349(P2015-516349)
(86)(22)【出願日】2015年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2015058874
【審査請求日】2015年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-61732(P2014-61732)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176626
【氏名又は名称】三島光産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】筒江 修
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀典
(72)【発明者】
【氏名】平野 新一
(72)【発明者】
【氏名】黒木 潤二
(72)【発明者】
【氏名】吉隆 剛
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−224800(JP,A)
【文献】 特開2009−279599(JP,A)
【文献】 特開平7−96360(JP,A)
【文献】 特開平4−251638(JP,A)
【文献】 特開2011−218401(JP,A)
【文献】 特開2013−78796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記長辺側支持機構には前記銅板Aに当接して直接支持する取付け部材Aを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Aの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記取付け部材Aの水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Aの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも10倍とし、しかも、前記銅板Aは、熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されていることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【請求項2】
請求項1記載の連続鋳造鋳型において、前記取付け部材Aの水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Aの水平軸回りの断面二次モーメントの60倍以下とすることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【請求項3】
対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記長辺側支持機構には前記銅板Aに当接して直接支持する取付け部材Aを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Aの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記長辺側支持機構の水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Aの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも30倍とし、しかも、前記銅板Aは、熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されていることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続鋳造鋳型において、前記長辺側支持機構内に溶鋼の電磁撹拌装置が設けられていることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の連続鋳造鋳型において、前記銅板Aは前記取付け部材Aに複数の締結手段を介して固定され、縦横に隣り合う前記締結手段間の間隔は、長くても120mmであることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【請求項6】
対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記短辺側支持機構には前記銅板Bに当接して直接支持する取付け部材Bを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Bの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記取付け部材Bの水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Bの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも10倍とし、しかも、前記銅板Bは、熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されていることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【請求項7】
対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記短辺側支持機構には前記銅板Bに当接して直接支持する取付け部材Bを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Bの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記短辺側支持機構の水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Bの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも30倍とし、しかも、前記銅板Bは、熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されていることを特徴とする連続鋳造鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造時に発生する熱変形を抑制した連続鋳造用鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
対向配置される長辺側の銅板と、長辺側の銅板の間に対向配置される短辺側の銅板から構成された鋳型空間内に溶鋼を注湯して鋳片を鋳造する場合、溶鋼の凝固過程において凝固収縮が発生するため、溶鋼の鋳型接触面側に形成される凝固シェル(鋳片)と鋳型(銅板)内面との間に隙間が生じる。そして、隙間が生じると、凝固シェルの隙間に対向した部分では、冷却効率が低下するため凝固遅れが発生し(凝固シェルの厚みの成長が遅れ)、鋳片割れに発展するという問題がある。更に、鋳造中に凝固シェルが割れると、内部から溶鋼が漏れ出すという事故の虞も生じる。そこで、各銅板の鋳造中における熱変形分を考慮して、各銅板の内側面(鋳型空間を取り囲む面)にそれぞれ凝固シェルの凝固収縮プロフィール(単に、収縮プロフィールともいう)を近似したマルチテーパを形成して、凝固シェルと鋳型内面との間に隙間が発生することを抑制した連続鋳造鋳型が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−49385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、マルチテーパ付の連続鋳造鋳型を使用して鋳片を鋳造しても、例えば、長辺側の銅板を支持する長辺側支持機構内に電磁撹拌装置が組込まれた連続鋳造鋳型により鋳片を鋳造した場合、鋳片のコーナー部に割れが発生するという問題が依然存在している。そこで、長辺側の銅板をそれぞれ支持する長辺側支持機構までを含んだ部分を解析対象として鋳造時の熱変形解析を行なったところ、鋳片のコーナー部に割れが発生する操業では連続鋳造鋳型が大きく熱変形していることが判った。これは、長辺側支持機構内に電磁撹拌装置を収納するための空間部を設けたため、長辺側支持機構の曲がり剛性が低下したことが要因と解され、長辺側の銅板の内側面に形成したマルチテーパの形状が鋳造時に大きく崩れ、長辺側の銅板と短辺側の銅板のコーナ部では、凝固シェルとの間に大きな隙間が形成されることが予想される。このため、鋳片のコーナー部に発生する割れを防止するためには、鋳造中に銅板に発生する熱変形を、銅板の内側面に形成したマルチテーパと凝固シェルとの接触状態が維持される程度にまで抑制することが重要であることが判明した。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、鋳造時に銅板に発生する熱変形を抑制して、鋳型内に形成される凝固シェルと鋳型の内側面との間に大きな隙間が形成されることを防止した連続鋳造用鋳型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る連続鋳造鋳型は、対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記長辺側支持機構には前記銅板Aに当接して直接支持する取付け部材Aを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Aの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記取付け部材Aの水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Aの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも10倍とする(そして、上限は20〜60倍とするのが好ましい)。
【0007】
前記目的に沿う第2の発明に係る連続鋳造鋳型は、対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記長辺側支持機構には前記銅板Aに当接して直接支持する取付け部材Aを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Aの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記長辺側支持機構の水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Aの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも30倍とする(そして、上限は60倍とするのが好ましい)。
【0008】
第1、第2の発明に係る連続鋳造鋳型において、前記長辺側支持機構内に溶鋼の電磁撹拌装置を設けることができる。
【0009】
第1、第2の発明に係る連続鋳造鋳型において、前記銅板Aは前記取付け部材Aに複数の締結手段を介して固定され、縦横に隣り合う前記締結手段間の間隔は、長くても120mmであることが好ましい。
そして、第1、第2の発明に係る連続鋳造鋳型において、前記銅板Aは、熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されている。
【0010】
前記目的に沿う第3の発明に係る連続鋳造鋳型は、対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記短辺側支持機構には前記銅板Bに当接して直接支持する取付け部材Bを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Bの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記取付け部材Bの水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Bの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも10倍とする(そして、上限は20〜60倍とするのが好ましい)。
【0011】
前記目的に沿う第4の発明に係る連続鋳造鋳型は、対向配置される長辺側の銅板Aと、該銅板Aの間に対向配置される短辺側の銅板Bと、前記銅板A及び前記銅板Bをそれぞれ支持する長辺側支持機構及び短辺側支持機構を有し、前記短辺側支持機構には前記銅板Bに当接して直接支持する取付け部材Bを備える連続鋳造鋳型において、
前記銅板Bの厚さは8mmを超え35mm未満であって、
前記短辺側支持機構の水平軸回りの断面二次モーメントを、前記銅板Bの水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも30倍とする(そして、上限は60倍とするのが好ましい)。
【0012】
そして、第3、第4の発明に係る連続鋳造鋳型において、前記銅板Bは、熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されている。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明に係る連続鋳造鋳型においては、銅板Aの厚さを、8mmを超え35mm未満にすると共に、銅板Aを直接支持する取付け部材Aの断面二次モーメントを、銅板Aの断面二次モーメントの少なくとも10倍とするので、鋳造時に銅板Aに発生する熱変形が取付け部材Aにより抑制でき、第2の発明に係る連続鋳造鋳型においては、銅板Aの厚さを、8mmを超え35mm未満にすると共に、銅板Aを支持する長辺側支持機構の断面二次モーメントを、銅板Aの断面二次モーメントの少なくとも30倍とするので、鋳造時に銅板Aに発生する熱変形が長辺側支持機構により抑制できる。このため、例えば、銅板Aの表面に収縮プロフィールを近似したテーパを形成しても、テーパの形状の崩れを抑制でき、鋳型空間内に形成される凝固シェルと銅板Aの表面との間に大きな隙間が形成されることが防止され、凝固シェルにおける凝固遅れの発生を防止して、鋳片のコーナー部に発生する割れを防止することが可能になる。
【0014】
第1、第2の発明に係る連続鋳造鋳型において、長辺側支持機構内に溶鋼の電磁撹拌装置が設けられている場合、鋳型空間内で溶鋼を撹拌しながら凝固させることができるので、不純物の介在や偏析が存在しない高品質の鋳片を製造することが可能になる。
【0015】
第1、第2の発明に係る連続鋳造鋳型において、銅板Aが取付け部材Aに複数の締結手段を介して固定され、縦横に隣り合う締結手段間の間隔が、長くても120mmである場合、銅板Aが熱変形することにより生じるうねりの幅を低減させることができる。これにより、例えば、銅板A表面に収縮プロフィールを近似したテーパを形成しても、銅板Aの表面に形成したテーパの形状の崩れを更に防止することが可能になる。
【0016】
第3の発明に係る連続鋳造鋳型においては、銅板Bの厚さを、8mmを超え35mm未満にすると共に、銅板Bを直接支持する取付け部材Bの断面二次モーメントを、銅板Bの断面二次モーメントの少なくとも10倍とするので、鋳造時に銅板Bに発生する熱変形が取付け部材Bにより抑制でき、第4の発明に係る連続鋳造鋳型においては、銅板Bの厚さを、8mmを超え35mm未満にすると共に、銅板Bを支持する短辺側支持機構の断面二次モーメントを、銅板Bの断面二次モーメントの少なくとも30倍とするので、鋳造時に銅板Bに発生する熱変形が短辺側支持機構により抑制できる。このため、例えば、銅板Bの表面に収縮プロフィールを近似したテーパを形成しても、テーパの形状の崩れを抑制でき、鋳型空間内に形成される凝固シェルと銅板Bの表面との間に大きな隙間が形成されることが防止され、凝固シェルにおける凝固遅れの発生を防止して、鋳片のコーナー部に発生する割れを防止することが可能になる。
【0017】
第1、第2の発明に係る連続鋳造鋳型において、銅板Aが熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されており、第3、第4の発明に係る連続鋳造鋳型において、銅板Bが熱伝導率が大きくても240kcal/m・hr・℃である銅合金素材で形成されているので、銅板A、Bの厚さを8mmを超え35mm未満としても、銅板A、Bの表面温度の過度な低下を抑制することができ、設定された凝固シェルの冷却速度を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例に係る連続鋳造鋳型の平面図である。
図2】(A)は同連続鋳造鋳型の長辺側の銅板の鋳造時における熱変形状態を示す模式図、(B)は長辺側の銅板、長辺側の銅板を直接支持する取付け部材にそれぞれ曲がり変形を与える曲げモーメントの説明図である。
図3】銅板表面の幅方向中央に鋳造方向に沿って発生する熱変形の説明図である。
図4】銅板表面の幅方向中央から幅方向に沿って発生する熱変形の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施例につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施例に係る連続鋳造鋳型10は、対向配置される長辺側の銅板(銅板A)11、12と、銅板11、12の間に対向配置される短辺側の銅板(銅板B)13、14と、銅板11、12及び銅板13、14をそれぞれ支持する長辺側支持機構(水箱ともいう)17、18及び短辺側支持機構21、22とを有し、長辺側支持機構17、18には銅板11、12に当接して直接支持する取付け部材(取付け部材A)15、16及び取付け部材15、16を冷却する水冷部(図示せず)が、短辺側支持機構21、22には銅板13、14に当接して直接支持する取付け部材(取付け部材B)19、20及び取付け部材19、20を冷却する水冷部(図示せず)がそれぞれ備えられている。ここで、銅板11〜14の内側面により、上下に貫通する鋳型空間23が形成され、銅板11、12の内側面及び銅板13、14の内側面のいずれか一方又は両方には、鋳型空間23内に注入された溶鋼24から形成される凝固シェル25(図2参照)の凝固収縮プロフィールを近似したテーパが設けられている。以下、詳細に説明する。
【0020】
例えば、銅板11〜14の内側面には、鋳造時に銅板11〜14の長手方向(凝固シェルの引抜き方向)に沿って大きな温度勾配(温度分布)が発生する。このため、鋳造時の銅板11〜14の熱変形は、銅板11〜14の長手方向に形成される温度分布に依存して発生する。そして、銅板11〜14の内側面に形成される長手方向に沿った温度分布では、銅板11〜14の内側面において、溶鋼の湯面直下の部位に接する付近の領域の温度が一番高く、銅板11〜14の両端(上端、下端)に向けて温度は徐々に低下している。このため、鋳造時の銅板11、12(銅板13、14においても同様)の熱変形は、図2(A)、(B)に示すように、銅板11、12に水平軸回り(銅板11、12の幅方向に平行な軸回り)の曲げモーメントMが作用した際の変形(曲がり変形)として近似できる。
【0021】
銅板11、12は、長辺側支持機構17、18に設けられた取付け部材15、16に当接すると共に、複数の締結手段の一例である締結ボルト(図示せず)を介して取付け部材15、16に固定(支持)されている。このため、銅板11、12が曲がり変形すると、銅板11、12を支持している取付け部材15、16も、銅板11、12の変形に倣って、即ち、取付け部材15、16に水平軸回り(取付け部材15、16の幅方向に平行な軸回り)の曲げモーメントMが作用した際の変形(曲がり変形)として近似できる。しかし、取付け部材15、16の曲がり変形性(曲がり変形に対する抵抗性)と銅板11、12の曲がり変形性(曲がり変形に対する抵抗性)は異なるので、取付け部材15、16が銅板11、12の変形に倣って曲がり変形をすることに伴う反作用として、銅板11、12の曲がり変形性が、取付け部材15、16の曲がり変形に対する抵抗性の影響を受けることになる。
【0022】
銅板11、12の曲がり変形に対する抵抗性を定量的に示す曲がり剛性Dは、銅板11、12の弾性率及びポアソン比をそれぞれE、ν、銅板11、12の幅及び厚さをそれぞれb、hとすると、D=Eh/(12(1−ν))となる。ここで、銅板11、12に曲げモーメントMが作用して発生する曲がり変形に関する断面二次モーメントIは、bh/12であるので、DはI・E/(1−ν)bとなる。同様に、取付け部材15、16が曲がり変形に対する抵抗性を定量的に示す曲がり剛性Dは、取付け部材15、16の弾性率及びポアソン比をそれぞれE、ν、取付け部材15、16の幅及び厚さをそれぞれB、Hとすると、D=E/(12(1−ν))となる。ここで、取付け部材15、16に曲げモーメントMが作用して発生する曲がり変形に関する断面二次モーメントIは、BH/12であるので、DはI・E/(1−ν)Bとなる。
【0023】
銅板11、12及び取付け部材15、16のそれぞれの曲がり剛性D、Dを調整することにより、銅板11、12の曲がり変形の抑制を図ろうとする場合、例えば、銅板11、12の曲がり剛性Dに対する取付け部材15、16の曲がり剛性Dの比(曲がり剛性比)を大きくする必要がある。そこで、曲がり剛性比D/Dを求めると、(I/I)・(E/E)・(b/B)・((1−ν)/(1−ν))となる。ここで、ν、νは0.3程度の値なので、(1−ν)/(1−ν)は1と近似でき、D/Dは、(I/I)・(E/E)・(b/B)となる。ここで、E/Eは取付け部材15、16及び銅板11、12を形成する材質により、b/Bは連続鋳造鋳型の寸法によりそれぞれ決定されので、D/Dを大きくするには、取付け部材15、16の断面二次モーメントIを銅板11、12の断面二次モーメントIに対して大きくする、即ち、銅板11、12の断面二次モーメントIに対する取付け部材15、16の断面二次モーメントIの比(断面二次モーメント比)を大きくする必要がある。
【0024】
そこで、現在使用されている種々の形状の連続鋳造鋳型から、一般的な形状の連続鋳造鋳型を想定して、連続鋳造時に発生する銅板11〜14及び取付け部材15、16、19、20にそれぞれ発生している熱変形(曲がり変形)を数値計算(例えば、有限要素法)により求めたところ、銅板11〜14の表面に形成した凝固シェル25の凝固収縮プロフィールを近似したテーパが顕著に崩れないように、例えば、熱変形前後のテーパ間の最大ずれ率が15%(臨界値)以下となるようにするには、断面二次モーメント比I/Iを10以上にしなければならないことが判明した。なお、臨界値は、良好な品質の鋳片が得られた過去の鋳造実績から求めた実績値である。
【0025】
また、数値計算結果から、銅板11、12がそれぞれ取付け部材15、16に縦横に配置した複数の締結ボルトを介して固定されている場合、銅板11、12の裏面において、締結ボルト近傍では、取付け部材15、16の曲がり剛性Dの影響を受けて熱変形が抑制されるが、銅板11、12の裏面において、締結ボルト間の領域は自由に熱変形して、熱変形前後のテーパ間の最大ずれ率が臨界値を上回ることが確認できた。そこで、縦横に隣り合う締結ボルト間の間隔を変化させながら、銅板11、12の裏面における締結ボルト間の領域の熱変形を求めたところ、隣り合う締結ボルト間の間隔を120mm以下にすると、銅板11、12の裏面における締結ボルト間の領域の熱変形が小さくなり、熱変形前後のテーパ間の最大ずれ率を臨界値以下にできることが判った。なお、隣り合う締結ボルト間の間隔を60mm未満としても、銅板11、12の裏面における締結ボルト間の領域の熱変形を大きく低減させることはできず、銅板11、12及び取付け部材15、16の加工コストの上昇、銅板11、12を取付け部材15、16に固定する際の取付け作業量の増大が生じる。このため、隣り合う締結ボルト間の間隔の下限値を60mmとした。
同様に、短辺側の銅板13、14を短辺側支持機構21、22の取付け部材19、20に締結ボルトを介して固定する場合、縦横に配置した複数の締結ボルトの隣り合う締結ボルト間の間隔の上限値は120mm、下限値は60mmとなる。
【0026】
断面二次モーメント比I/Iは、BH/bhと表せるので、銅板11、12の厚さを薄くすると、I/Iを大きくできる。このため、従来の連続鋳造鋳型では銅板の厚さを40〜60mmとしていたが、銅板11、12の厚さを、8mmを超え35mm未満とした。ここで、長辺側の銅板11、12は長辺側支持機構17、18の取付け部材15、16を介して冷却されているので、銅板11、12の厚さが8mm以下では、銅板11、12の厚さ方向に発生する温度差が小さくなって、鋳造時の熱変形を抑えることはできるが、銅板11、12の表面温度が低くなり過ぎて、鋳造時に設定された凝固シェルの冷却速度を満足することが困難となる。一方、銅板11、12の厚さが35mm以上では、銅板11、12の厚さ方向に発生する温度差が大きくなって、銅板11、12の熱変形が増大するので好ましくない。このため、銅板11、12の厚さは8mmを超え35mm未満(短辺側の銅板13、14も同様)とした。
【0027】
銅板11、12(銅板13、14も同様)は、熱伝導率が240kcal/m・hr・℃以下となる銅合金素材(銅系合金)で形成する。銅板11、12の熱伝導率の上限値を240kcal/m・hr・℃とすることにより、従来の連続鋳造鋳型で使用する銅板の厚さと比べて、銅板11、12の厚さを8〜35mmと薄くしても、銅板11、12の表面温度の過度な低下を抑制することができる。また、銅板11、12の熱伝導率の下限値は、140kcal/m・hr・℃である。これにより、銅板11、12の厚さを8〜35mmと薄くしても、凝固シェルの冷却速度を、従来の連続鋳造鋳型の場合に設定された冷却速度の範囲内に維持することができ、鋳片の生産性を維持することができる。
【0028】
銅板11、12の曲がり変形の抑制を、銅板11、12及び取付け部材15、16のそれぞれの曲がり剛性D、Dを調整することにより達成しているので、取付け部材15、16を備えた長辺側支持機構17、18の内部に空間部26、27を形成することができる。このため、空間部26、27内に溶鋼24を電磁撹拌する電磁撹拌装置(図示せず)を収納することができる。これにより、鋳型空間23内の溶鋼24を撹拌しながら鋳型空間23内に凝固シェルを形成すると共に、凝固シェルと銅板11〜14の内側面との間に大きな隙間が発生するのを防止して、凝固シェルの凝固遅れの発生がなく、不純物の介在や偏析が存在しない高品質の鋳片を製造することができる。
【実験例】
【0029】
連続鋳造鋳型の長辺側の銅板の鋳造時の熱変形を、有限要素法により求めた。ここで、銅板のサイズは、鋳造方向に沿った長さが900mm、幅が2450mm、厚さが27mm、銅板を支持する取付け部材のサイズは、鋳造方向に沿った長さが900mm、幅が2500mm、厚さが85mmであり、断面二次モーメント比は約32である。また、銅板を取付け部材に固定する締結ボルトの間隔は90mmである。銅板表面の幅方向中央付近に配設した締結ボルト間の中央部位において、鋳造方向に沿って発生する熱変形の状態を図3に(●で)、銅板表面の上端から下方200mmの高さ位置において、幅方向中央から幅方向に沿って発生する熱変形の状態(幅方向中央から幅方向に沿って975mmまでの範囲)を図4に(●で)それぞれ示す。図3から、銅板表面に鋳造方向に沿って発生する熱変形により発生する最大反り幅は約0.4mmであり、凝固シェルとの接触領域における熱変形による反り量は約0.1mm以下となることが判る。また、図4から、銅板表面に幅方向中央から幅方向に沿って発生する熱変形による最大反り幅は約0.28mmとなることが判る。
【0030】
比較例として、長辺側の銅板の厚さを40mm、取付け部材の厚さを80mmとし(従って、断面二次モーメント比は約8)、締結ボルトの間隔を200mmとした連続鋳造鋳型において、鋳造時に長辺側の銅板に生じる熱変形を有限要素法により求めた。銅板表面の幅方向中央付近に配設した締結ボルト間の中央部位において、鋳造方向に沿って発生する熱変形の状態を図3に(◇で)、銅板表面の上端から下方200mmの高さ位置において、幅方向中央から幅方向に沿って発生する熱変形の状態(幅方向中央から幅方向に沿って975mmまでの範囲)を図4に(◇で)それぞれ示す。図3に示すように、銅板表面に鋳造方向に沿って発生する熱変形により発生する最大反り幅は約0.9mmとなった。また、図4に示すように、銅板表面に幅方向中央から幅方向に沿って発生する熱変形による最大反り幅は約0.76mmとなった。従って、実験例では比較例に対して、銅板表面に鋳造方向に沿って発生する熱変形により発生する最大反り幅を約55%、銅板表面の上端から下方200mmの高さ位置において、幅方向中央から幅方向に沿って発生する熱変形による最大反り幅を約59%それぞれ低減できることが確認できた。
【0031】
以上、本発明を、実施例を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施例又は実験例に記載した構成に限定されるものではなく、請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施例や変形例も含むものである。
更に、本実施例とその他の実施例や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
例えば、銅板が、長辺側支持機構に設けられた取付け部材に固定されていることから、銅板の曲がり変形に対する抵抗性を取付け部材の曲がり剛性で評価したが、取付け部材を構成部材の一つとする長辺側支持機構の曲がり剛性で評価することもできる。
【0032】
長辺側支持機構の曲がり剛性Dは、長辺側支持機構を構成する素材の弾性率及びポアソン比をそれぞれE、ν、長辺側支持機構の幅及び厚さをそれぞれB、Hとすると、D=E/(12(1−ν))となり、長辺側支持機構の断面の中心を通過し幅方向に平行な軸に関する断面二次モーメントIは、B/12であるので、DはI・E/(1−ν)Bとなる。ここで、曲がり剛性比D/Dを考えると、(I/I)・(E/E)・(b/B)・((1−ν)/(1−ν))となり、ν、νは1と近似できるので、D/Dは、(I/I)・(E/E)・(b/B)となって、E/Eは長辺側支持機構及び銅板を形成する材質により、b/Bは連続鋳造鋳型の寸法によりそれぞれ決定されので、D/Dを大きくするには、長辺側支持機構の断面二次モーメントIを、銅板の断面二次モーメントIに対して大きくする、即ち、銅板の断面二次モーメントIに対する長辺側支持機構の断面二次モーメントIの比(断面二次モーメント比)を大きくする必要がある。そして、一般的な形状の連続鋳造鋳型を想定して、連続鋳造時に発生する銅板及び長辺側支持機構にそれぞれ発生している熱変形を数値計算により求めたところ、銅板の表面に形成した凝固シェルの凝固収縮プロフィールを近似したテーパが顕著に崩れないようにするには、断面二次モーメント比I/Iを30以上にしなければならないことが判明した。なお、断面二次モーメント比I/Iの上限値は、形状の制約、重量の制約、コストによって適宜決定される。また、短辺側の銅板の断面二次モーメントに対する短辺側支持機構の断面二次モーメントの比も、30以上にする。
【産業上の利用可能性】
【0033】
銅板の厚さと、取付け部材(又は支持機構)の銅板に対する断面二次モーメント比を制御することによって、熱変形を抑制でき、長期に渡って安定した操業を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
10:連続鋳造鋳型、11〜14:銅板、15、16:取付け部材、17、18:長辺側支持機構、19、20:取付け部材、21、22:短辺側支持機構、23:鋳型空間、24:溶鋼、25:凝固シェル、26、27:空間部
【要約】
対向配置される長辺側の銅板11、12と、銅板11、12の間に対向配置される短辺側の銅板13、14と、銅板11、12及び銅板13、14をそれぞれ支持する長辺側支持機構17、18及び短辺側支持機構21、22を有し、長辺側支持機構17、18には銅板11、12に当接して直接支持する取付け部材15、16を備える連続鋳造鋳型10において、銅板11、12の厚さは8mmを超え35mm未満であって、取付け部材15、16の水平軸回りの断面二次モーメントを、銅板11、12の水平軸回りの断面二次モーメントの少なくとも10倍とする。
図1
図2
図3
図4