(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796260
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】リチウム遷移金属リン酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20151001BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20151001BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/58
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-507869(P2013-507869)
(86)(22)【出願日】2011年4月20日
(65)【公表番号】特表2013-530112(P2013-530112A)
(43)【公表日】2013年7月25日
(86)【国際出願番号】KR2011002816
(87)【国際公開番号】WO2011136497
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月4日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0040797
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500323513
【氏名又は名称】三星精密化学株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG FINE CHEMICALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ユン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ドン・ギュ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジ・ホ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ウー・ヨン
【審査官】
佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−095386(JP,A)
【文献】
特表2013−501704(JP,A)
【文献】
特表2004−535930(JP,A)
【文献】
特表2004−533912(JP,A)
【文献】
特表2008−532910(JP,A)
【文献】
特表2011−505332(JP,A)
【文献】
特表2010−513193(JP,A)
【文献】
特表2010−510056(JP,A)
【文献】
特開2003−062440(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101693531(CN,A)
【文献】
特表2008−542517(JP,A)
【文献】
特表2008−533055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00 − 25/46
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、遷移金属及びリン酸を含む反応原料を反応器に注入し、前記反応器内において分子レベルで混合する段階と、
前記反応器内で、前記反応原料を化学反応させて結晶核を生成する段階と、を含み、
前記反応器は、
内部空間を限定するチャンバと、
前記チャンバ内に配置されて多孔性充填材が充填された回転自在な透過性充填層と、
前記内部空間に前記反応原料を注入する少なくとも1つの原料注入ラインと、
前記内部空間からスラリを排出するスラリ排出口と、を具備する高重力回転充填型反応器であるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属は、Fe、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種を含む請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項3】
前記化学反応は、酸塩基反応である請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項4】
前記反応原料は、溶液状及び懸濁液状のうち少なくとも1つの形態で前記反応器に注入される請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項5】
前記反応原料は酸性原料及び塩基性原料を含み、前記酸性原料は、第1原料注入ラインを介して前記反応器に注入され、前記塩基性原料は、第2原料注入ラインを介して前記反応器に注入される請求項4に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記酸性原料はリチウム、遷移金属及びリン酸を含み、前記塩基性原料は無機塩基を含む請求項5に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項7】
前記酸性原料は遷移金属及びリン酸を含み、前記塩基性原料はリチウムを含む請求項5に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項8】
前記酸性原料はリチウム及びリン酸を含み、前記塩基性原料は遷移金属を含む請求項5に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項9】
前記塩基性原料はリチウム及び遷移金属を含み、前記酸性原料はリン酸を含む請求項5に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項10】
前記分子レベルの混合に所要する時間TMは、前記結晶核生成に所要する時間TNより短い請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項11】
前記TMは10〜100μsであり、前記TNは1ms以下である請求項10に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項12】
前記反応器の内部温度は、0〜90℃に維持される請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項13】
前記反応原料のうち、リン酸に対するリチウム+遷移金属のモル比((Li+M)/リン酸)は1.5〜2.5である請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項14】
前記反応器内で、前記反応原料の滞留時間は1ms〜10sである請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項15】
前記透過性充填層の遠心加速度は10〜100,000m/s2に維持される請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【請求項16】
前記リチウム遷移金属リン酸塩はオリビン型結晶構造を有する請求項1に記載のリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム遷移金属リン酸塩の製造方法に係り、さらに詳細には、リチウム、遷移金属及びリン酸を含む反応原料を反応器に注入し、分子レベルで混合(mixing at the molecular level)して化学反応(chemical reaction)させ、結晶核を生成(nucleating)する段階を含むリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム遷移金属リン酸塩(LiMPO
4:Mは、遷移金属、以下、LMPとする)は、リチウム二次電池の正極活物質として使われるものと期待されている物質である。
【0003】
このようなLMPの製造方法としては、例えば、固相法及びゾルゲル法(Sol-Gel)がある。
【0004】
前記固相法は、固相の反応原料を混合して熱処理してLMPを製造する方法であり、熱処理温度が高くて均一なナノ粒子の製造のためには、数百nm以下の微粒の反応原料を使わなければならないため、反応原料に対する依存度が高くなり、価格競争力が劣るという問題点がある。また、固相法の場合には、熱処理自体も還元雰囲気で進められなければならないため、格別の注意が要求される。また、LMPは、素材の特性上、導電度が低く、電池特性具現のためには、LMP粒子の表面に、伝導性素材をコーティングする必要があるが、固相法を使う場合には、このような表面コーティングが困難であるという問題点がある。
【0005】
前記ゾルゲル法は、金属アルコキシド原料をゾル状にした後、縮合反応を介して、ゲル化させた後、これを乾燥及び熱処理してLMPを製造する方法であり、使われる反応原料の価格が高く、有機溶媒に基づいた反応であるため、製造コストが高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一具現例は、リチウム、遷移金属及びリン酸を含む反応原料を反応器に注入し、分子レベルで混合して化学反応させ、結晶核を生成する段階を含むリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、リチウム、遷移金属及びリン酸を含む反応原料を反応器に注入し、前記反応器内で、分子レベルで混合(mixing at the molecular level)する段階と、前記反応器内で、前記反応原料を化学反応(chemical reaction)させて結晶核を生成(nucleating)する段階と、を含
み、前記反応器が、内部空間を限定するチャンバ、前記チャンバ内に配置され、多孔性充填材が充填された回転自在な透過性充填層(permeable packed bed)、前記反応原料を前記内部空間に注入する少なくとも1種の原料注入ライン、及び前記内部空間からスラリを排出するスラリ排出口を具備する高重力回転充電型反応器(high gravity rotating packed bed reactor)であるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法を提供する。
【0008】
前記遷移金属は、Fe、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0009】
前記化学反応は、酸塩基反応であってもよい。
【0010】
前記反応原料は、溶液状及び懸濁液状のうち少なくとも1つの形態で前記反応器に注入するとよい。
【0011】
前記反応原料は酸性原料及び塩基性原料を含み、前記酸性原料は、第1原料注入ラインを介して前記反応器に注入され、前記塩基性原料は、第2原料注入ラインを介して前記反応器に注入するとよい。
【0012】
前記酸性原料は、リチウム、遷移金属及びリン酸を含み、前記塩基性原料は、無機塩基を含んでもよい。
【0013】
前記酸性原料は遷移金属及びリン酸を含み、前記塩基性原料はリチウムを含んでもよい。
【0014】
前記酸性原料はリチウム及びリン酸を含み、前記塩基性原料は遷移金属を含んでもよい。
【0015】
前記塩基性原料はリチウム及び遷移金属を含み、前記酸性原料はリン酸を含んでもよい。
【0016】
前記分子レベルの混合に所要する時間(T
M)は、前記結晶核生成に所要する時間(T
N)より短くともよい。
【0017】
前記T
Mは10〜100μsであり、前記T
Nは1ms以下である。
【0018】
前記反応器の内部温度は、0〜90℃に維持するとよい。
【0019】
前記反応原料のうち、リン酸に対するリチウム+遷移金属のモル比((Li+M)/リン酸)は、1.5〜2.5である。
【0020】
前記反応器内で、前記反応原料の滞留時間は、1ms〜10sであってもよい。
【0022】
前記反応器は、前記内部空間からガスを排出するガス排出口をさらに具備することができる。
【0023】
前記多孔性充填材は、チタンを含んでもよい。
【0024】
前記透過性充填層の遠心加速度は、10〜100,000m/s
2で維持するとよい。
【0025】
前記リチウム遷移金属リン酸塩は、オリビン型結晶構造(olivine type crystal structure)を有することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一具現によれば、リチウム、遷移金属及びリン酸を含む反応原料を反応器に注入し、分子レベルで混合して化学反応させ、結晶核を生成する段階を含むことにより、粒度分布が均一であって純度が高いLMPを安価なコストで大量生産することができるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一具現例によるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法に使われる高重力回転充填層反応器を概略的に示した断面図である。
【
図2】本発明の実施例1で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真図である。
【
図3】本発明の実施例1で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のXRD(X-ray diffraction)回折パターンを示したグラフである。
【
図4】本発明の実施例2で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のTEM写真図である。
【
図5】本発明の実施例2で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のXRD回折パターンを示したグラフである。
【
図6】本発明の実施例3で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のTEM写真図である。
【
図7】本発明の実施例3で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のXRD回折パターンを示したグラフである。
【
図8】本発明の実施例4で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のTEM写真図である。
【
図9】本発明の実施例4で製造されたリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のXRD回折パターンを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一具現例によるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
本発明の一具現例によるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法は、リチウム、遷移金属及びリン酸を含む反応原料を反応器に注入し、前記反応器内において分子レベルで混合(mixing at the molecular level)する段階、及び前記反応器内で、前記反応原料を化学反応させて結晶核を生成(nucleating)し、これをナノサイズに成長させる(crystal growing)段階と、を含む。その後、前記反応で排出されたスラリを濾過、洗浄、乾燥及び/または熱処理させることにより、均一なナノサイズのリチウム遷移金属リン酸塩(LMP)を得ることができる。
【0030】
本明細書において、「リチウム」とは、場合によって、リチウム化合物、リチウム原子及び/またはリチウムイオンを意味し、「遷移金属」とは、場合によって、遷移金属化合物、遷移金属原子及び/または遷移金属イオンを意味する。また、前記遷移金属は、Fe、Mn、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0031】
また、本明細書において、「分子レベルの混合」とは、各分子同士混合するレベルの混合を意味する。一般的に、「混合(mixing)」は、「マクロ混合(macro-mixing)」と「マイクロ混合(micro-mixing)」とに区分されるが、マクロ混合は、容器レベル(vessel scale)の混合を意味し、マイクロ混合は、前述の分子レベルの混合と同一の意味である。
【0032】
前記反応原料は、溶液状及び懸濁液状のうち少なくとも1つの形態で、前記反応器に注入するとよい。
【0033】
また、前記反応原料は、酸性原料及び塩基性原料を含んでもよい。この場合、前記酸性原料は、第1原料注入ラインを介して前記反応器に注入され、前記塩基性原料は、第2原料注入ラインを介して前記反応器に注入するのがよい。具体的には、前記酸性原料と前記塩基性原料は、それぞれ前記第1原料注入ライン及び第2原料注入ラインを介して前記反応器に注入され、前記反応器内において分子レベルで混合された後、酸塩基反応のような化学反応を経てLMPナノ粒子を形成する。
【0034】
前記酸性原料は、リチウム、遷移金属及びリン酸を含んでもよい。具体的には、前記酸性原料は、リチウム塩化物、遷移金属塩化物及びH
3PO
4を含んでもよい。前記酸性原料は、例えば、LiCl/FeCl
2/H
3PO
4の水溶液または水懸濁液であってもよい。この場合、前記塩基性原料は、NH
4OHのような無機塩基を含んでもよい。
【0035】
また、前記酸性原料は遷移金属及びリン酸を含み、前記塩基性原料はリチウムを含んでもよい。具体的には、前記酸性原料は、FeCl
2のような遷移金属塩化物及びH
3PO
4を含み、前記塩基性原料は、LiOHのようなリチウム水酸化物を含んでもよい。
【0036】
また、前記酸性原料はリチウム及びリン酸を含み、前記塩基性原料は遷移金属を含んでもよい。具体的には、前記酸性原料は、LiClのようなリチウム塩化物及びH
3PO
4を含み、前記塩基性原料は、Fe(OH)
2のような遷移金属水酸化物を含んでもよい。
【0037】
また、前記塩基性原料は、リチウム及び遷移金属を含んでもよい。具体的には、前記塩基性原料は、リチウム水酸化物及び遷移金属水酸化物を含んでもよい。前記塩基性原料は、例えばLiOH/Fe(OH)
2水溶液または水懸濁液であってもよい。この場合、前記酸性原料は、H
3PO
4のようなリン酸、及び選択的に、その他の無機酸と有機酸とを含んでもよい。
【0038】
このようなリチウム塩化物、遷移金属塩化物、リチウム水酸化物、遷移金属水酸化物及びリン酸は、価格が安価であり、リチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子の製造コストを節減させることができる。
【0039】
前記化学反応は、前記反応原料中の酸と塩基とが1当量ずつ反応し、酸及び塩基としての性質を失う酸塩基反応であってもよい。
【0040】
前記分子レベルの混合に所要する時間T
Mは、前記結晶核生成に所要する時間T
Nより短くともよい。
【0041】
本明細書において、「T
M」は、混合開始時点から混合物の組成が空間的に均一になるまでかかる時間を意味し、「T
N」は、結晶核が生成され始める時点から、結晶核生成速度が平衡に到逹して結晶核が一定した速度で生成されるまで所要する時間を意味する。
【0042】
このように、T
MをT
Nより短いように調節することにより、反応器内で核生成が始まる前に分子間の最大混合をなすようになれば、粒度分布が均一なナノサイズのLMP粒子を製造することができる。
【0043】
前記T
Mは10〜100μsであり、前記T
Nは1ms以下である。前記T
Mが10μs未満であるならば経済性側面で望ましくなく、100μsを超えれば粒度均一度が下がって望ましくない。また、前記T
Nが1msを超えれば適正なレベルの反応が起こらず、収率が落ちるので望ましくない。
【0044】
前記LMPナノ粒子の製造時、前記反応器の内部温度は、0〜90℃、例えば20〜80℃に維持するのがよい。前記温度が0℃未満であれば適正なレベルの収率を確保することができずに望ましくなく、90℃を超えればT
Nの調節が困難になって望ましくない。
【0045】
また、前記反応原料、すなわち、前記反応器に注入される反応原料のうち、リン酸に対するリチウム+遷移金属のモル比((Li+M)/リン酸)は、1.5〜2.5である。前記モル比(((Li+M)/リン酸)が1.5未満であるならば、LiFeP
2O
7及びFe
4(P
2O
7)
3のような金属リン酸化物二次相が、LMPナノ粒子の表面に析出され、2.5を超えれば、Li
2O、Fe
2O
3、Fe
2P、Li
3PO
4及びLi
4P
2O
7のような二次相が、LMPナノ粒子の表面に析出される。
【0046】
前記反応器内で、前記反応原料の滞留時間は1ms〜10s、例えば10ms〜5sである。前記反応原料の滞留時間が1ms未満であれば適正なレベルの反応が起こらずに望ましくなく、10sを超えればLMPの粒子サイズ調節が困難になり、経済性が落ちて望ましくない。
【0047】
図1は、本発明の一具現例によるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法に使われる高重力回転充填層反応器(high gravity rotating packed bed reactor)を概略的に図示した断面図である。
【0048】
このような高重力回転充填型反応器10は、内部空間を限定するチャンバ11、チャンバ11内に配置され、多孔性充填材12aが充填された回転自在な透過性充填層(permeable packed bed)12、前記内部空間に、前記反応原料を注入する少なくとも1つの原料注入ライン14−1,14−2、及び前記内部空間からスラリを排出するスラリ排出口15を具備することができる。
【0049】
また、前記反応器10は、前記内部空間からガスを排出するガス排出口16をさらに具備することができる。
【0050】
多孔性充填材12aは、内部耐性の強いチタンを含んでもよい。具体的には、このような多孔性充填材は、12aは、チタンフォーム(titanium foam)であってもよい。
【0051】
透過性充填層12は、その内部に多孔性充填材12aが充填されており、溶液状または懸濁液状で反応器10に注入された反応原料を透過させるものであり、駆動軸13によって回転するとよい。このような透過性充填層12の遠心加速度は、10〜100,000m/s
2で維持するとよい。前記透過性充填層12の遠心加速度が10m/s
2未満であるならば、反応が適正レベルで進められない。一方、前記透過性充填層12の遠心加速度が、100,000m/s
2を超えるのは、反応器設計技術上容易ではない。
【0052】
前記のような構成を有する反応器10は大気圧下で作動するが、透過性充填層12の回転速度を調節することにより、大きい遠心力によって反応原料を分子レベルで混合することができるから、低温でも反応を円滑に進めることができる。すなわち、微細な液滴の反応原料をLMP粒子の成長前に良好に混合することにより、低温で均一なLMPナノ粒子を得ることができる。前記反応器10は連続反応器であるので、LMPを大量に生産することができる。
【0053】
本発明の一具現例によるリチウム遷移金属リン酸塩の製造方法によって製造されたLMPは、オリビン型結晶構造を有することができ、その平均粒径が0.01〜10μm、例えば0.05〜0.8μmである。よって、前記製造されたリチウム遷移金属リン酸塩は、リチウム二次電池の正極活物質などとして使われもする。
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこのような実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
〔実施例1〕
(1)10.0mol/LのNH
4OH水溶液を製造した。
【0056】
(2)2.0mol/LのLiCl水溶液、2.0mol/LのFeCl
2水溶液、及び2.0mol/LのH
3PO
4水溶液をそれぞれ製造した後、前記3種の水溶液を1:1:1の体積比で互いに混合した。このとき、前記LiCl/FeCl
2/H
3PO
4の混合溶液において、H
3PO
4対比の(Li+Fe)のモル比((Li+Fe)/H
3PO
4)は、2であった。
【0057】
(3)
図1の反応器と類似した反応器10を自体製作した。製作された反応器10の仕様は、下記のようであった。
・透過性充填層12:ステンレススチール材質、内径10cm、外径30cm、厚さ10cmである円筒状
・多孔性充填材12a:4枚のチタンフォーム(1m当たり約400個の孔隙、外径30cm、内径10.5cm、軸方向厚2.5cm)
【0058】
(4)LMPナノ粒子の製造のために、前記反応器10の駆動軸13を回転させ、透過性充填層12を1,440rpmの速度(遠心加速度:60,000m/s
2)で回転させつつ、反応器10の内部温度を80℃に維持させた。
【0059】
(5)前記(2)で製造したLiCl/FeCl
2/H
3PO
4の混合溶液、及び前記(1)で製造したNH
4OH水溶液を、それぞれ第1原料注入ライン14−1及び第2原料注入ライン14−2を介して、前記反応器10に、それぞれ30L/分の流速で連続的に注入し、LMPナノ粒子を得た。
【0060】
(6)前記製造されたLMPナノ粒子を含むスラリをスラリ排出口15に排出させた。
【0061】
(7)前記スラリをフィルタで濾過し、水で洗浄した後、乾燥器で120℃の温度で乾燥させてLMPナノ粒子を得た。
【0062】
〔実施例2〕
4.0mol/LのLiOH水溶液、2.0mol/LのFeCl
2水溶液、及び2.0mol/LのH
3PO
4水溶液をそれぞれ製造した後、前記FeCl
2水溶液とH
3PO
4水溶液とを1:1の体積比で混合した。前記反応器の内部温度を60℃に維持し、前記FeCl
2/H
3PO
4混合溶液及びLiOH水溶液を、それぞれ第1原料注入ライン14−1及び第2原料注入ライン14−2を介して、前記反応器10に、それぞれ40L/分及び10L/分の流速で連続的に注入したことを除き、前記実施例1と同一の方法でLMPナノ粒子を製造した。濾過、洗浄及び乾燥してLMPナノ粒子を得た。本実施例で、前記反応器10に注入される反応原料成分の比、すなわち、H
3PO
4対比の(Li+Fe)のモル比((Li+Fe)/H
3PO
4)は、2であった。
【0063】
〔実施例3〕
2.0mol/LのLiCl水溶液、2.0mol/LのH
3PO
4水溶液、及び2.0mol/LのFe(OH)
2水溶液をそれぞれ製造した。その後、前記LiCl水溶液とH
3PO
4水溶液とを1:1の体積比で混合し、前記反応器の内部温度を70℃に維持し、前記LiCl/H
3PO
4混合溶液及びFe(OH)
2水溶液を、それぞれ第1原料注入ライン14−1及び第2原料注入ライン14−2を介して、前記反応器10に、それぞれ40L/分及び20L/分の流速で連続的に注入したことを除き、前記実施例1と同一の方法でLMPナノ粒子を製造した。濾過、洗浄及び乾燥してLMPナノ粒子を得た。本実施例で、前記反応器10に注入される反応原料成分の比、すなわち、H
3PO
4対比の(Li+Fe)のモル比((Li+Fe)/H
3PO
4)は、2であった。
【0064】
〔実施例4〕
4.0mol/LのH
3PO
4水溶液、2.0mol/LのLiOH水溶液、及び2.0mol/LのFe(OH)
2水溶液をそれぞれ製造した。その後、前記LiOH水溶液及びFe(OH)
2水溶液を1:1の体積比で混合し、前記反応器の内部温度を60℃に維持し、前記H
3PO
4水溶液及び前記LiOH/Fe(OH)
2混合溶液を、それぞれ第1原料注入ライン14−1及び第2原料注入ライン14−2を介して、前記反応器10に、それぞれ10L/分及び40L/分の流速で連続的に注入したことを除き、前記実施例1と同一の方法でLMPナノ粒子を製造した。濾過、洗浄及び乾燥してLMPナノ粒子を得た。本実施例で、前記反応器10に注入される反応原料成分の比、すなわち、H
3PO
4対比の(Li+Fe)のモル比((Li+Fe)/H
3PO
4)は、2であった。
【0065】
〔分析例〕
実施例1〜4で製造したリチウム遷移金属リン酸塩ナノ粒子のTEM写真及びXRD回折パターンを分析し、
図2ないし
図9にそれぞれ示した。使われたTEM及びXRDの仕様及び分析条件を下記表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
図2ないし
図9を参照すれば、価格が安価な反応原料を使ったにもかかわらず、粒度分布が比較的均一であり、ナノサイズを有するLMP粒子を得る可能性があることを確認することができる。具体的には、
図2、
図4、
図6及び
図8からは、実施例1〜4で製造された粒子がナノサイズを有するという事実、及び各粒子の粒度分布が均一であるという事実が分かり、
図3、
図5、
図7及び
図9からは、前記製造された各粒子がLMP(LiMPO
4)であるという事実が分かる。
図2、
図4、
図6及び
図8に表示された各数値(例えば、
図2の100nm)は、各図面に図示された太いバーの長さを意味し、
図3、
図5、
図7及び
図9に表示された各数値(例えば、
図3の(111))は、結晶面指数を意味する。
【0068】
以上、図面及び実施例を参照し、本発明による望ましい実施例について説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、当該技術分野で当業者であるならば、今後多様な変形及び均等な他の実施例が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって決まるものである。