特許第5796287号(P5796287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5796287繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、これを用いるプリプレグおよびハニカムサンドイッチパネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796287
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、これを用いるプリプレグおよびハニカムサンドイッチパネル
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20151001BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20151001BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20151001BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20151001BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20151001BHJP
   B32B 3/12 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08J5/24CFC
   C08K9/04
   C08L81/06
   C08L79/08 B
   B32B3/12 Z
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-221436(P2010-221436)
(22)【出願日】2010年9月30日
(65)【公開番号】特開2011-99094(P2011-99094A)
(43)【公開日】2011年5月19日
【審査請求日】2013年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2009-231446(P2009-231446)
(32)【優先日】2009年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友裕
(72)【発明者】
【氏名】川添 真幸
(72)【発明者】
【氏名】岩田 充宏
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5088353(JP,B2)
【文献】 特開2001−089733(JP,A)
【文献】 特開平11−302412(JP,A)
【文献】 特開2003−124626(JP,A)
【文献】 特開2007−084829(JP,A)
【文献】 特開2009−242459(JP,A)
【文献】 特開2007−332234(JP,A)
【文献】 特開平07−252343(JP,A)
【文献】 特開平10−204257(JP,A)
【文献】 特開平08−048752(JP,A)
【文献】 特開2006−124487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
C08L 63/00
C08G 59/00
C09J163/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂Aと、熱可塑性樹脂Bと、熱可塑性樹脂Cがフィラーに吸着した吸着フィラーと、硬化剤とを含有し、
前記エポキシ樹脂Aが、25℃における粘度が100〜2,000mPa・sであるエポキシ樹脂a−1を含み、
前記熱可塑性樹脂Cの重量平均分子量が、20,000〜100,000であり、
前記フィラーが、カーボンブラックおよびシリカからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記吸着フィラーが、前記エポキシ樹脂a−1と、前記熱可塑性樹脂Cと、前記フィラーとを混合することで製造され、
下記(式1)で定義される吸着係数が0より大きく0.8以下であることを満たし、
硬化後の形態が、少なくとも前記エポキシ樹脂Aが連続相を形成し、前記吸着フィラーが少なくとも前記連続相中に分散する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(式1)
吸着係数=前記フィラー100質量部に吸着された前記熱可塑性樹脂Cの量(質量部)/前記熱可塑性樹脂Cの比重/前記フィラーのDBP吸油量(mL/100g)
【請求項2】
前記フィラーの形状が、球状、粒状および不規則形状からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂Bまたは前記熱可塑性樹脂Cが、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記吸着フィラーの量が、前記エポキシ樹脂A100質量部に対して、0.1〜100質量部である請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂Bまたは前記熱可塑性樹脂Cが、前記エポキシ樹脂Aと反応する官能基を有する請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記DBP吸油量が、10〜1,000mL/100gである請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、常温で固形である、固形樹脂Dおよび/またはエラストマーを含有する請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記固形樹脂Dが、エポキシ樹脂d−1、マレイミド樹脂、シアネート樹脂およびコアシェル構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂d−1が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂および分子末端にエポキシ基を有するフェノキシ骨格型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による最低粘度が、1〜100Pa・sである請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による50℃での粘度が、5000Pa・s以下である請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化後、得られた硬化物を用いて、ASTM D5045に準拠して測定される破壊靱性値が、1.8MPa√m以上である請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを複合させて得られるプリプレグ。
【請求項14】
前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の含有量が、プリプレグ中の30〜60質量%である請求項13に記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記強化繊維が、炭素繊維である請求項13または14に記載のプリプレグ。
【請求項16】
請求項1315のいずれかに記載のプリプレグとハニカムコアとを積層させ硬化させることによって得られるハニカムサンドイッチパネル。
【請求項17】
前記ハニカムコアが、アラミドハニカム、アルミハニカム、ペーパーハニカムおよびガラスハニカムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項16に記載のハニカムサンドイッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、これを用いるプリプレグおよびハニカムサンドイッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカムパネル製造時にフィルム接着剤を適用することなくパネル生産性を向上可能な自己接着プリプレグにおいては、マトリックス樹脂の高靭性化及び樹脂流れ特性が極めて重要であり、従来からゴム又はスーパーエンジニアリングプラスチック(熱可塑樹脂)によるエポキシ樹脂の高靭性化検討が進められている(例えば特許文献1〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第99−02586号
【特許文献2】国際公開第2005−83002号
【特許文献3】特開2006−328292号公報
【特許文献4】特開2006−198920号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2002/0079052号明細書
【特許文献6】特表2005−506394号公報
【特許文献7】特開2006−291218号公報
【特許文献8】特開2001−31838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液状ゴムを用いた配合系では、ゴム自身の分子量が小さいため、多量添加してもエポキシ樹脂の十分な高靭性化を図ることが出来ない。
また、十分な自己接着性を発現させるためにエポキシ樹脂100重量部に対しエンプラ(熱可塑樹脂)を40〜50重量部又はそれ以上添加する必要があり、硬化樹脂の相構造中エンプラが連続相を形成することから、硬化後の樹脂が溶剤に曝された場合このエンプラ連続相が溶剤の悪影響を受け易く、結果的に複合材の耐溶剤性を低下させることを本願発明者らは見出した。
そこで、本発明は、強靭性、耐溶剤性に優れる硬化物となる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、エポキシ樹脂Aと、熱可塑性樹脂Bと、熱可塑性樹脂Cがフィラーに吸着した吸着フィラーと、硬化剤とを含有し、特定の式で定義される吸着係数が0より大きく0.8以下であることを満たし、硬化後の形態が、少なくとも前記エポキシ樹脂Aが連続相を形成し、前記吸着フィラーが少なくとも前記連続相中に分散する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が、強靭性、耐溶剤性に優れる硬化物となる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物であることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜19を提供する。
1. エポキシ樹脂Aと、熱可塑性樹脂Bと、熱可塑性樹脂Cがフィラーに吸着した吸着フィラーと、硬化剤とを含有し、
下記(式1)で定義される吸着係数が0より大きく0.8以下であることを満たし、
硬化後の形態が、少なくとも前記エポキシ樹脂Aが連続相を形成し、前記吸着フィラーが少なくとも前記連続相中に分散する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(式1)
吸着係数=前記フィラー100質量部に吸着された前記熱可塑性樹脂Cの量(質量部)/前記熱可塑性樹脂Cの比重/前記フィラーのDBP吸油量(mL/100g)
2. 前記エポキシ樹脂Aが、25℃における粘度が2,000mPa・s以下のエポキシ樹脂a−1を含む上記1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
3. 前記フィラーの形状が、球状、粒状および不規則形状からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
4. 前記フィラーが、ヒュームドシリカ、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
5. 前記熱可塑性樹脂Bまたは前記熱可塑性樹脂Cが、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
6. 前記吸着フィラーの量が、前記エポキシ樹脂A100質量部に対して、0.1〜100質量部である上記1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
7. 前記熱可塑性樹脂Bまたは前記熱可塑性樹脂Cが、前記エポキシ樹脂Aと反応する官能基を有する上記1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
8. 前記DBP吸油量が、10〜1,000mL/100gである上記1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
9. さらに、常温で固形である、固形樹脂Dおよび/またはエラストマーを含有する上記1〜8のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
10. 前記固形樹脂Dが、エポキシ樹脂d−1、マレイミド樹脂、シアネート樹脂およびコアシェル構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記9に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
11. 前記エポキシ樹脂d−1が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂および分子末端にエポキシ基を有するフェノキシ骨格型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記10に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
12. 昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による最低粘度が、1〜100Pa・sである上記1〜11のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
13. 昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による50℃での粘度が、5000Pa・s以下である上記1〜12のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
14. 上記1〜13のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化後、得られた硬化物を用いて、ASTM D5045に準拠して測定される破壊靱性値が、1.8MPa√m以上である上記1〜13のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
15. 上記1〜14のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを複合させて得られるプリプレグ。
16. 前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の含有量が、プリプレグ中の30〜60質量%である上記15に記載のプリプレグ。
17. 前記強化繊維が、炭素繊維である上記15または16に記載のプリプレグ。
18. 上記15〜17のいずれかに記載のプリプレグとハニカムコアとを積層させ硬化させることによって得られるハニカムサンドイッチパネル。
19. 前記ハニカムコアが、アラミドハニカム、アルミハニカム、ペーパーハニカムおよびガラスハニカムからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記18に記載のハニカムサンドイッチパネル。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、強靭性、耐溶剤性に優れる硬化物となる。本発明のプリプレグおよび本発明のハニカムサンドイッチパネルは強靭性、耐溶剤性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のハニカムサンドイッチパネルの一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、ハニカムサンドイッチパネルをハニカムコアの角柱の側面と平行に切断した断面の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、
エポキシ樹脂Aと、熱可塑性樹脂Bと、熱可塑性樹脂Cがフィラーに吸着した吸着フィラーと、硬化剤とを含有し、
下記(式1)で定義される吸着係数が0より大きく0.8以下であることを満たし、
硬化後の形態が、少なくとも前記エポキシ樹脂Aが連続相を形成し、前記吸着フィラーが少なくとも前記連続相中に分散する組成物である。
(式1)
吸着係数=前記フィラー100質量部に吸着された前記熱可塑性樹脂Cの量(質量部)/前記熱可塑性樹脂Cの比重/前記フィラーのDBP吸油量(mL/100g)
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を以下「本発明の組成物」ということがある。
【0010】
エポキシ樹脂Aについて以下に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂Aはエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0011】
エポキシ樹脂Aは、強化繊維への樹脂含浸性などの取扱作業性に優れるという観点から、25℃におけるE型またはB型粘度計による粘度が2,000mPa・s以下のエポキシ樹脂a−1を含むのが好ましく、100〜2,000mPa・sであるのがより好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂a−1としては、例えば、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−p−アミノクレゾールのようなアミノフェノール型エポキシ樹脂;ジグリシジルレゾルシノールのようなレゾルシノール型エポキシ樹脂;ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレートのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0013】
なかでも、エポキシ樹脂a−1は、耐熱性、強靭性、耐溶剤性により優れ、強化繊維への樹脂含浸性などの取扱作業性に優れるという観点から、アミノフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂a−1はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
エポキシ樹脂Aは、強靭性、耐溶剤性に優れるという観点から、25℃における粘度が2,000mPa・sを超えるエポキシ樹脂a−2をさらに含むことができる。
エポキシ樹脂a−2の25℃における粘度は、強靭性、耐溶剤性に優れ、強化繊維への樹脂含浸性などの取扱作業性に悪影響を与えないという観点から10,000mPa・s以下であるのがより好ましい。
【0015】
エポキシ樹脂a―2としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のような2官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)のようなグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂;脂環型エポキシ樹脂;エポキシ樹脂主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂;ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂;ポリブタジエン、液状ポリアクリロニトリル−ブタジエンゴム又はアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を含有するゴム変性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0016】
なかでも、エポキシ樹脂a−2は、作業性と硬化物の耐熱性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂a−2はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
エポキシ樹脂a−1の量は、耐熱性、強靭性、耐溶剤性により優れ、強化繊維への樹脂含浸性などの取扱作業性に優れるという観点から、エポキシ樹脂A中の30〜100質量%であるのが好ましく、50〜100質量部であるのがより好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂Bについて以下に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂Bは特に制限されない。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は熱可塑性樹脂Bを含有することによって組成物の粘度とチクソ性を適切なものとすることができ、これによって本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は良好なフィレットを形成し、プリプレグの自己接着性を優れたものとすることができる。
熱可塑性樹脂Bとしては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0019】
なかでも、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、熱可塑性樹脂Bは、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0020】
また、熱可塑性樹脂Bは、機械的性質により優れ、前記特性のうち強靭性と耐溶剤性により優れるという観点から、エポキシ樹脂と反応する官能基を有するのが好ましい。
官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、アルデヒド基、カルボキシ基、エポキシ基、イソシアネート基が挙げられる。
熱可塑性樹脂Bが有する官能基は、前記特性のうち強靭性と耐溶剤性により優れるという観点から、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基であるのが好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂Bは、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A中において、UCST(上限臨界溶解温度)またはLCST(下限臨界溶解温度)を有するポリマーであるのが好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良く樹脂組成物の粘度を必要以上に上昇させないという観点から、20,000〜100,000であるのが好ましい。
熱可塑性樹脂Bの形状は、エポキシ樹脂Aへの溶解作業性に優れるという観点から、粒子状であるのが好ましい。熱可塑性樹脂Bの平均粒径は、エポキシ樹脂Aへの溶解作業性に優れるという観点から、200μm以下であるのが好ましい。
熱可塑性樹脂Bはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
熱可塑性樹脂Bの量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A100質量部に対して、5〜40質量部であるのが好ましく、10〜30質量部であるのがより好ましい。
【0024】
吸着フィラーについて以下に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に含有される吸着フィラーは、熱可塑性樹脂Cをフィラーに吸着させたものである。
本発明において、吸着は、エポキシ樹脂とフィラーとの界面において熱可塑性樹脂Cの濃度がエポキシ樹脂の内部よりも大きくなる現象をいう。吸着としては、物理吸着、化学吸着が挙げられる。フィラー表面での部分的吸着を促すという観点から、物理吸着であるのが好ましい。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は吸着フィラーを含有することによって、強靭性、耐溶剤性に優れ、組成物にチクソトロピー性を付与し樹脂流れをコントロールすることができる。また、熱可塑性樹脂Bの量を抑制し耐溶剤性に優れるものとすることができる。
【0025】
フィラーについて以下に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物において、吸着フィラーを製造する際に使用されるフィラーは特に制限されない。例えば、無機フィラー、有機フィラーが挙げられる。強靭性により優れるという観点から無機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ(例えば、ヒュームドシリカ、湿式シリカ)、カーボンナノチューブ、珪砂、珪酸カルシウム、マイカ、タルク、アルミナ、モンモリロナイト、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素、炭酸カルシウム、酸化チタンが挙げられる。
なかでも、強靭性、耐溶剤性により優れ、熱可塑性樹脂が吸着しやすいという観点から、ヒュームドシリカ、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0026】
フィラーの形状は特に制限されない。例えば、球状、粒状、不規則形状(不規則な形状を有するもの、不定形のもの)のものが挙げられる。フィラーの形状は熱可塑性樹脂が吸着しやすいという観点から、球状、粒状および不規則形状からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0027】
本発明において、フィラーが有するDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)は、十分な量の熱可塑性樹脂Cを吸着させるという観点から、10〜1,000mL/100gであるのが好ましく、50〜500mL/100gであるのがより好ましい。
フィラーの平均一次粒径は、熱可塑性樹脂の吸着性を良くするという観点から、5〜100nmであるのが好ましい。
フィラーはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
使用されるフィラーの量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A100質量部に対して、1〜100質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。
【0029】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物において、吸着フィラーを製造する際に使用される熱可塑性樹脂Cは、制限されない。例えば、熱可塑性樹脂Bと同様のものが挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂Cは、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A中において、UCST(上限臨界溶解温度)またはLCST(下限臨界溶解温度)を有するポリマーであるのが好ましい。UCSTまたはLCSTは熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の、種類、量に応じて適宜設定することができる。
熱可塑性樹脂Bと熱可塑性樹脂Cとは、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良く、取扱作業性に優れるという観点から、同一である、同様の性状(例えば、分子量、官能基)を有するのが好ましい。
【0031】
吸着フィラーを構成する熱可塑性樹脂Cとフィラーの組み合わせとしては、例えば、ポリエーテルスルホン(ポリエーテルサルフォン)、ヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン、およびポリエーテルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、ヒュームドシリカ、カーボンブラックおよびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。
吸着フィラーはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
本発明において、下記(式1)で定義される吸着係数は0より大きく0.8以下である。
(式1)
吸着係数=前記フィラー100質量部に吸着された前記熱可塑性樹脂Cの量(質量部)/前記熱可塑性樹脂Cの比重/前記フィラーのDBP吸油量(mL/100g)
=[前記フィラー100質量部に吸着された前記熱可塑性樹脂Cの量(質量部)/前記熱可塑性樹脂Cの比重]/前記フィラーのDBP吸油量(mL/100g)
本発明において、(式1)で定義される吸着係数は、あるフィラー100質量部が吸油することができるDBPの体積に対する、同じ種類で同じ量のフィラーが吸着した熱可塑性樹脂Cの体積の比の値である。
吸着係数が1である場合、フィラーはその表面全体が熱可塑性樹脂Cで被覆された状態を意味する。
吸着係数が0より大きく0.8以下である場合、フィラーはその表面の一部が熱可塑性樹脂Cで覆われた状態であり、フィラーの表面の全体は熱可塑性樹脂Cで覆われていない。このことによって強靭性、耐溶剤性に優れる熱硬化性樹脂が得られる。
【0033】
吸着係数は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、0.1〜0.7であるのが好ましく、0.2〜0.6であるのがより好ましい。
【0034】
フィラーに吸着した熱可塑性樹脂Cの量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良く、チクソ性に優れるという観点から、フィラー100質量部に対して吸着係数が0より大きく0.8以下であることを満たす量であるのが好ましく、0.1〜0.7であることを満たす量であるのがより好ましく、0.2〜0.6であるのがさらに好ましい。
【0035】
吸着フィラーの量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A100質量部に対して、0.1〜100質量部であるのが好ましく、1〜20質量部であるのがより好ましい。
【0036】
吸着フィラーはその製造について特に制限されない。例えば、熱硬化性樹脂A(エポキシ樹脂A)と熱硬化性樹脂A(エポキシ樹脂A)に対してLCSTを有する熱可塑性樹脂Cとフィラーとを混合し、LCST未満の温度で熱硬化性樹脂A(エポキシ樹脂A)と熱可塑性樹脂Cとを相溶させたあと、LCST以上の温度で熱硬化性樹脂A(エポキシ樹脂A)から相分離させ、分離した熱可塑性樹脂Cをフィラーに吸着させることによって製造することができる。
熱硬化性樹脂A(エポキシ樹脂A)に対してLCSTを有する熱可塑性樹脂Cと、熱硬化性樹脂A(エポキシ樹脂A)との組み合わせは、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂Aのような熱硬化性樹脂との組み合わせが好ましい。実施例に示す熱可塑性樹脂C−1のポリエーテルスルホン10〜25質量部とエポキシ樹脂a−1−1のパラアミノフェノール型3官能エポキシ樹脂70質量部の組み合わせの場合のLCSTは約170℃とすることができる。
【0037】
硬化剤について以下に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に含有される硬化剤はエポキシ樹脂に対して使用することできるものであれば特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
硬化剤として、例えば、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、イミダゾール化合物、テトラメチルグアニジンのようなアミン系化合物;チオ尿素付加アミン;ポリアミド;ポリオール;ポリメルカプタン;ポリカルボン酸;酸無水物;カルボン酸ヒドラジド;カルボン酸アミド;ポリフェノール化合物;ノボラック樹脂;潜在性硬化剤(例えば、ケチミン、ジシアンジアミド)が挙げられる。
硬化剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
硬化剤の量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A(本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物がさらに固形樹脂Dとしてエポキシ樹脂d−1を含有する場合、エポキシ樹脂Aとエポキシ樹脂d−1との合計量)に対して、0.5〜1.2当量であるのが好ましく、0.6〜1.1当量であるのがより好ましい。
【0039】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、強靭性、耐溶剤性により優れるという観点から、さらに、常温で固形である、固形樹脂Dおよび/またはエラストマーを含有することができる。
固形樹脂Dは、少なくともエポキシ樹脂Aと親和性が高い樹脂であればよく、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂のどちらでもよく、両者を共に使用してもよい。
【0040】
固形樹脂Dの分子量は、3,000〜500,000であることが好ましい。分子量が3,000〜500,000の範囲内にある場合、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させる際に固形樹脂Dが溶け残ることを防止して均一に溶解することが可能になると共に、固形樹脂Dが均一に分散することにより繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の強靭性をより向上させることができる。なお、本発明において、分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で表わされる重量平均分子量である。
【0041】
固形樹脂Dとしての熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂d−1、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、コアシェル構造を有する樹脂が挙げられる。なかでもエポキシ樹脂Aへの混合作業性に優れるという観点から、エポキシ樹脂d−1がより好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂d−1はエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されるものではない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格のエポキシ樹脂が挙げられる。
なかでも、強靭性、耐溶剤性により優れるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂d−1は、強靭性に優れるという観点から、高分子量タイプのものが好ましく、重量平均分子量が3,000〜20,000のエポキシ樹脂がより好ましい。重量平均分子量が3,000〜20,000の範囲内にある場合、衝撃粉砕法などにより、微細な粒子を製造しやすいことや本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を製造する際、加熱混合過程において粒子が溶解しやすいという理由から好ましい。
【0044】
エポキシ樹脂d−1のエポキシ当量は、強靭性、耐溶剤性により優れるという観点から、1,000〜5,000g/eqであるのが好ましく、1,500〜4,500g/eqであるのがより好ましい。
また、エポキシ樹脂d−1がビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、強靭性、耐溶剤性により優れるという観点から、1,000〜5,000g/eqであるのが好ましく、1,500〜4,500g/eqであるのがより好ましい。
エポキシ当量を1,000g/eq以上にする場合、強靭性が高くなり好ましい。5,000g/eq以下の場合、耐薬品性が良好となり好ましい。
【0045】
また、エポキシ樹脂d−1としては、例えば、分子末端にエポキシ基を有するフェノキシ骨格型エポキシ樹脂が挙げられる。フェノキシ骨格型エポキシ樹脂は分子末端にエポキシ基を有することによってエポキシ樹脂Aとの親和性を高めることができる。
フェノキシ骨格型エポキシ樹脂は、強靭性により優れ、エポキシ樹脂Aとの親和性を高めることができ、軟化点を高くすることができるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いて得られるものが好ましい。
【0046】
フェノキシ骨格型エポキシ樹脂の重量平均分子量は、20,000〜100,000であるのが好ましく、40,000〜80,000であるのがより好ましい。フェノキシ骨格型エポキシ樹脂の重量平均分子量をこのような範囲とする場合、衝撃粉砕法などにより微細な粒子を製造しやすく、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を製造する際、加熱混合過程においてこの粒子が溶解しやすいからである。
【0047】
また、フェノキシ骨格型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、5,000〜30,000g/eqであるのが好ましく、6,000〜20,000g/eqであるのがより好ましい。エポキシ当量を5,000g/eq以上にするとエポキシ樹脂Aに加熱硬化後に完全に相溶することがなく、硬化後にエポキシ樹脂Aの連続相中で分離した分散相を形成することが可能になり、30,000g/eq以下にするとエポキシ樹脂Aに加熱混合時に容易に溶解させることができる。
【0048】
固形樹脂Dとしての熱可塑性樹脂は特に限定されるものではない。例えば、分子末端にエポキシ樹脂Aにする反応性官能基を有するものが、強靭性により優れるという観点から好ましい。
【0049】
加熱混合時にエポキシ樹脂Aに、固形樹脂Dが完全に溶解するようにするため、固形樹脂Dの形状は粒径であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
固形樹脂Dの平均粒子径は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは5〜100μmである。固形樹脂Dの平均粒子径をこのような範囲内にする場合、加熱混合工程で所定の温度になると、固形樹脂Dがエポキシ樹脂Aに容易に溶解するので、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の粘度を適正に調整すると共に、固形樹脂Dがエポキシ樹脂A相の中に分散し、硬化物の靭性をより向上させることができる。
固形樹脂Dはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
固形樹脂Dはその製造について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0050】
エラストマーは特に制限されない。例えば、シリコーンエラストマーが挙げられる。
エラストマーの形状は、分散性に優れるという観点から、粒径であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。エラストマーの平均粒子径は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは0.1〜100μmである。
エラストマーはそれぞれ単独でまたは2種以上を組合わせて使用することができる。エラストマーはその製造について特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
固形樹脂Dおよび/またはエラストマーの量(固形樹脂Dとエラストマーとを併用する場合はその合計)は、強靭性、耐溶剤性により優れるという観点から、エポキシ樹脂A100質量部に対して、1〜20質量部であるのが好ましく、3〜15質量部であるのがより好ましい。
【0051】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂A、熱可塑性樹脂B、吸着フィラー、硬化剤、固形樹脂D、エラストマーのほかに、本発明の組成物の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、三フッ化ホウ素/アミン塩触媒のような硬化触媒、充填剤、老化防止剤、溶剤、難燃剤、反応遅延剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤が挙げられる。
【0052】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の製造方法について以下に説明する。
吸着フィラーは、フィラーに予め熱可塑性樹脂C(靭性のある樹脂)を付着させた状態の物を適用しても良く、もしくは配合又は硬化時の樹脂相分離によりフィラーの周りに熱可塑性樹脂Cを吸着させる手法を用いても良い。
【0053】
例えば、エポキシ樹脂Aと、熱可塑性樹脂Cと、フィラーとを、熱可塑性樹脂CがUCST以下の温度またはLCST以上の温度でエポキシ樹脂Aから相分離する溶液を、UCSTを超える温度またはLCST未満の温度で、1相領域の混合溶液とする樹脂混合工程と、
前記樹脂混合溶液を前記UCST以下の温度または前記LCST以上の温度とし、熱可塑性樹脂Cがエポキシ樹脂Aから相分離して、前記樹脂混合溶液が2相領域となり、相分離した熱可塑性樹脂Cが前記フィラーに吸着して吸着フィラーとなり、吸着フィラーを含有する吸着フィラー含有混合物が得られる吸着工程と、
前記吸着フィラー含有混合物に熱可塑性樹脂Bを添加する熱可塑性樹脂B添加工程と、
熱可塑性樹脂B添加工程後の吸着フィラー混合物と硬化剤とを混合する硬化剤混合工程とを有する製造方法が挙げられる。
本発明においてエポキシ樹脂樹脂Aと熱可塑性樹脂Cとを混合して均一な溶液としたのち、それを昇温し、系内に曇りが観察されはじめる温度をLCSTとする。
エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂Cとを混合して均一な溶液としたのち、それを降温し、系内に曇りが観察されはじめる温度をUCSTとする。
本発明の組成物がさらに固形樹脂Dおよび/またはエラストマーを含有する場合、熱可塑性樹脂B添加工程において系内に固形樹脂Dおよび/またはエラストマーを添加することができる。また樹脂混合工程で一部のエポキシ樹脂Aが使用された場合残りのエポキシ樹脂Aを熱可塑性樹脂B添加工程において系内に常温固形成分を添加することができる。
【0054】
樹脂混合工程について以下に説明する。
樹脂混合工程は、エポキシ樹脂Aと、熱可塑性樹脂Cと、フィラーとを含有し、熱可塑性樹脂BがUCST以下の温度またはLCST以上の温度で前記エポキシ樹脂Aから相分離する溶液を、UCSTを超える温度またはLCST未満の温度で、1相領域の混合溶液とする工程である。
【0055】
エポキシ樹脂A、熱可塑性樹脂C、フィラーは、上記と同義である。
樹脂混合工程において使用されるフィラーの量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、エポキシ樹脂A100質量部に対して、0.1〜100質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。
樹脂混合工程において使用される熱可塑性樹脂Cの量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、フィラー100質量部に対して(式1)で定義される吸着係数が0より大きく0.8以下を満たす量であるのが好ましく、0.1〜0.7であるのがより好ましく、0.2〜0.6であるのがさらに好ましい。
【0056】
樹脂混合工程において得られる混合溶液は、エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂Cとフィラーとを含有し、エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂Cとが1相領域となっている。
1相領域とは、エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂Cとが相溶している状態をいう。
樹脂混合工程において、エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂CとフィラーとをUCSTを超える温度またはLCST未満の温度の条件下で、例えば、0.5〜1.5時間撹拌することによって、混合溶液とすることができる。
【0057】
吸着工程について以下に説明する。
吸着工程は、樹脂混合溶液をUCST以下の温度またはLCST以上の温度とし、熱可塑性樹脂Cがエポキシ樹脂Aから相分離して、樹脂混合溶液が2相領域となり、相分離した熱可塑性樹脂Cがフィラーに吸着して吸着フィラーとなる工程である。
【0058】
2相領域とは、エポキシ樹脂Aが主となる成分と熱可塑性樹脂Cが主となる成分に相分離した状態をいう。吸着工程において得られる吸着フィラー混合物は、エポキシ樹脂Aと吸着フィラーとを少なくとも含有する。吸着工程において、混合溶液をUCST以下の温度またはLCST以上の温度の条件下で、例えば、1〜10時間撹拌することができる。
【0059】
熱可塑性樹脂B添加工程について以下に説明する。
熱可塑性樹脂B添加工程は、吸着工程において得られた吸着フィラー含有混合物に熱可塑性樹脂Bを添加する工程である。使用される熱可塑性樹脂Bは上記と同義である。熱可塑性樹脂B添加工程における温度は特に制限されない。例えば、70〜120℃が挙げられる。
【0060】
硬化剤混合工程について以下に説明する。
硬化剤混合工程は、熱可塑性樹脂B添加工程後の吸着フィラー混合物と硬化剤とを混合する工程である。硬化剤混合工程において、吸着フィラー混合物と硬化剤とを混合する温度は、硬化反応を抑制するという観点から、可能な限り低温あるのが好ましい。吸着フィラー混合物と硬化剤とを混合する方法は特に制限されない。硬化剤混合工程において、吸着フィラー混合物を上記の温度に調節してここに硬化剤を加え、例えば、0.25〜0.5時間撹拌することによって、熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0061】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は熱によって硬化することができる。本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させる際の温度としては、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良いという観点から、160〜200℃であるのが好ましい。
【0062】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、硬化後の形態が、少なくともエポキシ樹脂Aが連続相を形成し、吸着フィラーが少なくともエポキシ樹脂Aの連続相中に分散することができる。エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが共連続相を形成してもよい。
少なくともエポキシ樹脂Aの連続相の中に、吸着フィラーが微細な分散相を形成するので、エポキシ樹脂A相の内部の応力集中を全体に分散させるようにして、靭性を向上させることができる。組成物の靭性の向上により、フィレットの強度が高くなり、プリプレグの自己接着強度を向上することができる。なお、吸着フィラーは、少なくともエポキシ樹脂Aの連続相の中に分散していればよく、熱可塑性樹脂Bの連続相に分散してもよい。
熱可塑性樹脂Bだけが連続相を形成しない(つまりモルフォロジーが逆海島構造とならない。)形態が耐溶剤性に優れるという観点から好ましい態様として挙げられる。
【0063】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が固形樹脂Dおよび/またはエラストマーを含有する場合、組成物を硬化させた後、得られる硬化物の形態(モルフォロジー)においては、少なくともエポキシ樹脂Aが連続相を形成し、吸着フィラーならびに固形樹脂Dおよび/またはエラストマーが少なくともエポキシ樹脂Aの連続相中に分散することができる。エポキシ樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが共連続相を形成してもよい。
少なくともエポキシ樹脂Aの連続相の中に、固形樹脂Dおよび/またはエラストマーが微細な分散相を形成するので、エポキシ樹脂A相の内部の応力集中を全体に分散させるようにして、靭性をより向上することができる。組成物の靭性のさらなる向上により、フィレットの強度が改良され、プリプレグの自己接着強度を向上することができる。なお、固形樹脂Dおよび/またはエラストマーは、少なくともエポキシ樹脂Aの連続相の中に分散していればよく、熱可塑性樹脂Bの連続相に分散してもよい。
【0064】
組成物を硬化させたのちに得られる硬化物において、ドメインとしての固形樹脂Dまたはエラストマーの平均粒子径は、強靭性、耐溶剤性により優れるという観点から、0.05〜2μmが好ましく、0.1〜0.5μmがより好ましい。
【0065】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させた後に得られる硬化物を用いて、ASTM D5045−99に準じて測定される破壊靭性値は、強靭性がより高く、はく離強度[例えば、プリプレグのような面板と他の部材(例えば、ハニカムコア)との自己接着強後のはく離強度]を高くすることができるという観点から、1.8MPa・m1/2以上が好ましく、2.0MPa・m1/2以上がより好ましい。
【0066】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による最低粘度が、1〜100Pa・sであるのが好ましく、5〜40Pa・sであるのがより好ましい。動的粘弾性測定の最低粘度を上記の範囲とする場合、プリプレグの生産性及び自己接着性を発現する上で好ましい。1Pa・s以上にする場合良好なフィレットを形成することができ自己接着性が向上する。100Pa・s以下にする場合フィレットの形成性を保ちつつ、プリプレグ製造時に強化繊維に樹脂組成物を容易に含浸させることができる。
なお、本発明において動的粘弾性測定による最低粘度は、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を試料にして、温度25℃から200℃までの間で、昇温速度2℃/分、周波数10rad/秒、ひずみ1%の動的粘弾性測定における複素粘性率の最低値をいうものとする。
【0067】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、昇温速度2℃/分における動的粘弾性測定による50℃での粘度が、5,000Pa・s以下であるのがプリプレグ製造に用いる樹脂フィルムの塗工作業性に優れるという観点から好ましい。
なお、本発明において動的粘弾性測定による50℃での粘度は、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を試料にして、温度25℃から200℃までの間で、昇温速度2℃/分、周波数10rad/秒、ひずみ1%の動的粘弾性測定における複素粘性率の50℃での値をいうものとする。
【0068】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐溶剤性に優れる。溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトンが挙げられる。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物から得られる硬化物は常温下で溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に浸漬したのちも、クラックが生じないのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0069】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の用途としては、例えば、プリプレグ用のマトリックス樹脂、接着剤、プライマー、シーリング材、注型材、封止剤、塗料などが挙げられる。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いることができる被着体は特に制限されない。例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維のような強化繊維、プラスチック、ゴム、ガラス、セラミック、コンクリート、モルタル、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス合金、スチールなどが挙げられる。
【0070】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は強靭性、耐溶剤性に優れる硬化物となることができるので、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として強化繊維と複合させた場合、強靭性、耐溶剤性に優れるプリプレグを製造することができる。また、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を用いることによって、適切なフィレットを形成しやすく、自己接着性の高いプリプレグを製造することができる。
【0071】
次に、本発明のプリプレグについて以下に説明する。
本発明のプリプレグは、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを複合させて得られるものである。
【0072】
具体的には、本発明のプリプレグは、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させることにより得られるものである。本発明のプリプレグに使用されるマトリックス用組成物は、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物であれば特に制限されない。
【0073】
本発明のプリプレグに使用される強化繊維は、特に制限されず、例えば、従来公知のものが挙げられる。なかでも、強度の観点から、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、炭素繊維であるのがより好ましい。
アラミド繊維としては、例えば、ケブラーが挙げられる。
繊維は、その形態について特に制限されず、例えば、ロービング、不織布、編物、チュールなどが挙げられる。繊維の目付量は、形態や用途により最適値が異なるが、例えば炭素繊維織物の場合、150〜400g/m2であるのが好ましい。
市販されている繊維としては、例えば、東レ社製のカーボン繊維T−300、東邦レーヨン社製のカーボン繊維HTAなどが挙げられる。
【0074】
本発明のプリプレグは、その製造方法について特に制限されない。例えば、溶剤を使用するウェット法、無溶剤法であるホットメルト法が挙げられる。溶剤の使用量は、乾燥時間を短縮しうるという観点から、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物の固形分100質量部に対して、80〜200質量部であるのが好ましい。
【0075】
本発明のプリプレグにおいて、マトリックス樹脂の含有量は、機械的性質(特に強靭性)、耐熱性、耐溶剤性のバランスが良い、という観点から、プリプレグ中の30〜60質量%であるのが好ましい。
【0076】
本発明のプリプレグは、その使用方法について特に制限されず、例えば、本発明のプリプレグをそのまま硬化させる方法、本発明のプリプレグを半硬化させさらに硬化させる方法が挙げられる。硬化の際の条件は上記と同様である。
【0077】
本発明のプリプレグは、その用途について特に制限されない。本発明のプリプレグを硬化させることによって、例えば、従来公知の繊維強化複合材料を得ることができる。具体的には、例えば、フェアリング、フラップ、リーディングエッジ、フロアパネル、プロペラ、胴体などの航空機部品;オートバイフレーム、カウル、フェンダー等の二輪車部品;ドア、ボンネット、テールゲート、サイドフェンダー、側面パネル、フェンダー、エネルギー吸収部材、トランクリッド、ハードップ、サイドミラーカバー、スポイラー、ディフューザー、スキーキャリアー、エンジンシリンダーカバー、エンジンフード、シャシー、エアースポイラー、プロペラシャフト等の自動車部品;先頭車両ノーズ、ルーフ、サイドパネル、ドア、台車カバー、側スカートなどの車輌用外板;荷物棚、座席等の鉄道車輌部品;インテリア、ウイングトラックにおけるウイングのインナーパネル、アウターパネル、ルーフ、フロアー等、自動車や単車に装着するサイドスカートなどのエアロパーツ;ノートパソコン、携帯電話等の筐体用途;X線カセッテ、天板等のメディカル用途;フラットスピーカーパネル、スピーカーコーン等の音響製品用途;ゴルフヘッド、フェースプレート、スノーボード、サーフィンボード、プロテクター等のスポーツ用品用途;板バネ、風車ブレード、エレベーター(籠パネル、ドア)のような一般産業用途が挙げられる。
【0078】
また、本発明のプリプレグと他の部材(例えば、ハニカムコア)とを積層して繊維強化複合材料を作製することができる。本発明のプリプレグと他の部材とを積層して作製することができる繊維強化複合材料としては、例えば、ハニカムサンドイッチパネルが挙げられる。
本発明のプリプレグは、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を使用することによって、強靭性、耐溶剤性に優れ、高い自己接着強度を有し、強度に優れるフィレットを形成することができ、タック性、ドレイプ性、生産性、作業性に優れる。
また、本発明のプリプレグから得られる繊維強化複合材料は、強靭性、耐溶剤性に優れ、他の部材と接着剤を使用せず接着することができ、プリプレグの平滑性に優れ、ポロシティ(表面の凹凸)が少ない優れた外観と表面性を有する。
【0079】
次に、本発明のハニカムサンドイッチパネルについて以下に説明する。
本発明のハニカムサンドイッチパネルは、本発明のプリプレグとハニカムコアとを積層させ硬化させることによって得られるものである。
【0080】
本発明のハニカムサンドイッチパネルに使用されるプリプレグは、本発明のプリプレグであれば特に制限されない。本発明のハニカムサンドイッチパネルに使用されるプリプレグは、優れた接着性を有するので、接着剤を使用せずにハニカムコアと接着することができ、高い強度を有するフィレットを形成することができる。
【0081】
また、本発明のハニカムサンドイッチパネルに使用されるハニカムコアは、特に制限されない。例えば、アラミドハニカム、アルミハニカム、ペーパーハニカムおよびガラスハニカムからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
ハニカムコアの蜂の巣状の構造体の六角柱の大きさは、特に制限されず、強度、軽量化の観点からハニカムコアのセルサイズの長さが1/8〜3/8インチのものが好ましい。
【0082】
本発明のハニカムサンドイッチパネルは、その製造について特に制限されない。
本発明のハニカムサンドイッチパネルの製造方法の一例について、添付の図面を用いて以下に説明する。
図1は、本発明のハニカムサンドイッチパネルの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、ハニカムサンドイッチパネルをハニカムコアの角柱の側面と平行に切断した断面の一例を模式的に示す断面図である。図2のa部は、従来のプリプレグシート用樹脂組成物で形成したプリプレグを接着させたハニカムサンドイッチパネルである。図2のb部は、本発明のハニカムサンドイッチパネルの一例である。
【0083】
図1において、ハニカムサンドイッチパネル1は、プリプレグ10とハニカムコア11とを接着させて得られる。より詳しくは、ハニカムサンドイッチパネル1は、蜂の巣状の構造を有するハニカムコア11の端部12の一方または両方(両方は図示せず。)に本発明の組成物で形成したプリプレグ10を接合し、両端から圧着しながらオートクレーブ、等で加熱硬化させることによって作製することができる。
【0084】
図2において、従来の組成物を繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物として使用したプリプレグを用いる場合、図2のa部に示すとおり、加熱硬化の際に、プリプレグ10とハニカムコア11とを均等に圧着しても、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が全て下面部13’に落ちて上面部(図示せず。)にフィレットが形成されなかったり、部分的にプリプレグ10とハニカムコア11との接着面に隙間13が生じる場合がある。
これに対して、本発明の組成物を用いる場合、図2のb部に示すとおり、プリプレグ10とハニカムコア11との接着が完全に行われ、しかもプリプレグから繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が流出し過ぎて樹脂成分がプリプレグ中から組成物がなくなることなく、プリプレグに適量の組成物が存在することができる。
したがって、上部フィレット14は適切な形状を維持しながら硬化を完了することができる。また、下面においても粘度が一度低下したときに表面張力によって下部フィレット14’が形成され繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が適度に保持されて硬化を完了することができる。
【0085】
プリプレグ10とハニカムコア11とを接着させる際の加熱温度は、硬化物の耐熱性の観点から、160〜200℃であるのが好ましく、170〜190℃であるのがより好ましい。
【0086】
プリプレグ10とハニカムコア11とを接着させる際の硬化条件は、2〜5℃/分、加圧2.5〜4.0kg/cm2で、150〜185℃まで昇温させた後、150〜185℃で1〜2時間維持し、その後2〜5℃/分で室温まで降下させる方法が好ましい態様の1つとして挙げられる。
このような方法により本発明のハニカムサンドイッチパネルを製造することができる。
【0087】
本発明のハニカムサンドイッチパネルは、フィレット形成性、フィレットの強度、機械的強度、作業性に優れる。
本発明のハニカムサンドイッチパネルは、例えば、航空機、自動車の構造材料として使用することができる。
【実施例】
【0088】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
<評価>
下記のようにして得られた各組成物について、以下に示す方法で、樹脂粘度、硬化樹脂靭性(K1C)、ハニカムパネルピール強度、耐溶剤性、チクソ性、LCSTを評価した。結果を第1表に示す。
【0089】
1.吸着係数
下記のようにして得られた吸着フィラー含有混合物(中間品)20gを、遠心分離装置により19,000(rpm)で1時間の分離操作を行い、沈降物を得た。次に、分離された沈降物中に含まれる熱硬化性成分をメチルエチルケトン(MEK)により洗浄除去して、吸着フィラーを抽出した。吸着フィラー含有混合物20gから抽出された吸着フィラーの量を第1表、第2表に示す。
抽出された吸着フィラーを熱重量分析装置(TGA)によって分析し、吸着フィラー中の熱可塑性樹脂成分Cの質量(WTP)とフィラーの質量(W)を求めた。得られた吸着フィラー中の熱可塑性樹脂成分Cの質量(WTP)とフィラーの質量(WF)を第1表、第2表に示す。また、以下の(式2)によって実施例における吸着フィラーの吸着係数を算出した。実施例における吸着フィラーの吸着係数を第1表、第2表に示す。
【数1】
式2中、WTP:吸着フィラー中の熱可塑性樹脂Cの質量(g)、CaTP:熱可塑性樹脂Cの比重、WF:吸着フィラー中のフィラーの質量(g)、DBP:フィラーのDBP吸油量(mL/100g)である。
【0090】
2.樹脂粘度
下記のようにして得られた繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を試料にして、温度25℃から200℃までの間で、昇温速度2℃/分、周波数10rad/秒、ひずみ1%の条件の動的粘弾性測定における複素粘性率の最低値および50℃における粘度を測定した。
【0091】
3.硬化樹脂靭性(K1C
下記のようにして得られた各組成物で離型紙上に厚み7mmの樹脂板を形成し、これをオートクレーブに入れて70℃から昇温速度2℃/分で180℃まで昇温し、圧力0.32MPa、180℃で2時間硬化させて、厚さ7mmの硬化物を作製した。
得られた硬化物からASTM D−5045−99に準じて、室温(25℃)の条件下で破壊靭性値(応力拡大係数、単位:MPa・m1/2)を測定した。得られた破壊靭性値を硬化樹脂靭性として示す。
【0092】
4.ハニカムパネルピール強度
下記のようにして得られた組成物と強化繊維として平織状に織られた炭素繊維(東レ(株)社製、T300−3000、目付量198g/m2)を使用して作成したプリプレグを2枚積層し、これをハニカムコア(昭和飛行機工業社製ノーメックスハニカムSAH−1/8−8.0)の両面に配置した後、バッグに入れ、これをオートクレーブ内で温度180℃、2時間(昇温速度2.8℃/分)加熱し、硬化させてハニカムパネルを作製した。この間、オートクレーブ内を圧空で0.32MPaに加圧した。
【0093】
得られたハニカムパネルを、ASTM D1781に準拠して、加熱硬化工程にハニカムコアの上側(Bag side:バキュームバッグに接触する面)及び下側(Tool side:成形治具に接触する面)に配置された面板をそれぞれ所定の寸法に加工し温度23℃(乾燥状態)における試験片の剥離強度(lb−in/3in)を測定した。
【0094】
5.耐溶剤性
ハニカムピール強度試験において使用したものと同様のプリプレグを2枚積層したものをオートクレーブに入れて70℃から昇温速度2℃/分で180℃まで昇温し、圧力0.32MPa、180℃で2時間硬化させて、厚さ×幅×長さが0.5mm×25mm×50mmのラミネート硬化物を作製した。それを25℃の条件下においてメチルエチルケトンに90分間浸漬し溶剤から引き揚げて、硬化物の表面状態を光学顕微鏡で観察した。
浸漬前と変化がない場合を良好として「○」、僅かな表面クラックが観察された場合を「△」、顕著な表面クラックが観察された場合を「×」とした。
【0095】
6.LCSTの測定方法
第1表に示す質量部のエポキシ樹脂a−1−1と熱可塑性樹脂C−1を120℃の条件下で1時間攪拌して混合処理を行ったのち、80℃の条件下で減圧脱泡して透明な溶液を得た。それを5℃きざみで段階的に昇温し、系内に曇りが観察されはじめる温度をLCSTとした。
【0096】
<組成物の製造>
第1表に示す成分を同表に示す量(単位:質量部)で用いて、次に示す方法で組成物を製造した。
1.複合化処理
まず、エポキシ樹脂a−1−1、フィラーおよび熱可塑性樹脂Cを容器に入れて、これらを120℃の条件下で1時間撹拌し混合処理を行ったのち、引き続き180℃の条件下で1時間攪拌し複合化処理(樹脂混合工程および吸着工程)を行い、吸着フィラー含有混合物(中間品)を得た。さらに120℃の条件下に戻しエポキシ樹脂a−2−1、エポキシ樹脂a−1−2、熱可塑性樹脂B、エポキシ樹脂d−1−1、エポキシ樹脂d−1−2を加え1時間攪拌混合して吸着フィラー含有混合物を得た。
吸着フィラー含有混合物の温度を70℃以下に下げたのちに、吸着フィラー含有混合物に硬化剤を混合し撹拌して繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を得た(硬化剤混合工程)。
比較例1においては、エポキシ樹脂a−1−1およびフィラー1を180℃の条件下で1時間撹拌し混合処理し、複合化処理と同じ操作を行った。得られた混合物から20gをとり、上記の吸着係数の評価と同様に遠心分離を行った。
【0097】
2.複合化処理をしない場合
エポキシ樹脂A、フィラーおよび熱可塑性樹脂Bを容器に入れて、これらを120℃の条件下で1時間撹拌して混合処理を行い、混合物を70℃以下冷ましたのち硬化剤を加えて組成物を得た。
【0098】
【表1】
【0099】
第1表に示されている各成分の詳細は下記第2表のとおりである。
【表2】
なお、フィラー1のDBP吸油量は350mL/100g、形状は無定形である。
【0100】
第1表に示す結果から明らかなように、吸着フィラーを含有しない比較例1〜3は耐溶剤性に劣り靭性が低くかった。比較例1においては複合化処理の際に熱可塑性樹脂が使用されていないので吸着フィラーは複合化処理と同等の操作をしても存在しない。
これに対して、実施例1〜3は強靭性、耐溶剤性に優れる。
また、実施例1〜3は、硬化後の形態が、少なくともエポキシ樹脂Aが連続相を形成し、吸着フィラーが少なくとも連続相中に分散した。
【0101】
以上のように、吸着フィラーを含有することによって、従来手法によるエポキシ樹脂A100質量部に対して熱可塑樹脂B添加量40〜50質量部に相当する靭性を発現することが可能であった。
熱可塑性樹脂Bを高添加量で配合した樹脂は、硬化後に熱可塑樹脂が連続相を形成し、溶剤浸漬時にこの部分が劣化し易いが、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物では熱可塑樹脂が連続相を形成し難いことから、溶剤に対する耐性が高い。
本発明による繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、作業領域(例えば、100℃以下)において低粘度性を有しており、プリプレグ製造時の作業性のみならず、プリプレグ化後の作業性(タック、ドレイプ)も熱可塑樹脂高添加配合系に勝る。また、硬化時の成形欠陥(ボイド)も生じ難い。
吸着フィラーの効果を活用することにより、樹脂の最低粘度を必要以上に高く維持させる必要が無く、作業性を犠牲にしないレベルでのマトリックス混合が可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 ハニカムサンドイッチパネル
10 繊維強化プリプレグ
11 ハニカムコア
12 端部
13 隙間
13’ 下面部
14 上部フィレット
14’ 下部フィレット
a 従来のハニカムサンドイッチパネル
b 本発明のハニカムサンドイッチパネル
c セルサイズ
図1
図2