(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796410
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】連結構造及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20151001BHJP
F16D 3/38 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
B62D1/20
F16D3/38 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-182781(P2011-182781)
(22)【出願日】2011年8月24日
(65)【公開番号】特開2013-43555(P2013-43555A)
(43)【公開日】2013年3月4日
【審査請求日】2014年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】大谷 拓光
【審査官】
粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−088508(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第04129042(DE,A1)
【文献】
特開2005−280564(JP,A)
【文献】
特開2007−292165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00−28
F16D 1/00−3/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に回転自在に収容され、前記ハウジングの開口部から一端が突出する軸部材と、
前記軸部材の一端に対して相対回転不能に連結される筒状部材とからなる連結構造において、
前記筒状部材に開口端部から軸方向に延在するスリットを形成し、
前記軸部材には一体回転可能なガイドカバーを貫装し、
前記ガイドカバーは、
前記軸部材から径方向外方に突出して前記筒状部材のスリットに係合可能なガイド部と、
前記ハウジングの開口部を覆うとともに前記軸部材に貫装されるカバー部とからなり、
前記ガイド部と前記カバー部とが一体形成され、
前記軸部材を前記筒状部材に嵌合した際に、前記筒状部材の開口端部が当接することで、前記筒状部材の軸方向における位置を決める段差部を前記ガイドカバーの上面に形成した
ことを特徴とする連結構造。
【請求項2】
請求項1に記載の連結構造において、
前記ガイドカバーの内径は、前記軸部材に対して圧入される大きさに形成される
ことを特徴とする連結構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の連結構造によってステアリングシャフトを構成するシャフトとユニバーサルジョイントとを連結した
ことを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、
連結構造及
び連結構造を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング装置は、ステアリングホイールの操舵力がラックアンドピニオン機構を介してラック軸に伝達される。ステアリングシャフトは、操舵するステアリングホイールに繋がるコラムシャフトと、アッパ側ユニバーサルジョイントと、インターミディエイトシャフトと、ロア側ユニバーサルジョイントと、ピニオンシャフトとからなる。
【0003】
ここで、ロア側ユニバーサルジョイントとピニオンシャフトとは、ピニオンシャフトの上端部をロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークに嵌合して接続されている(例えば、特許文献1参照)。なお、車両の上下方向に従って、上、下の語を用いる。
【0004】
特許文献1に記載のステアリング装置では、ロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークに対してピニオンシャフトの上端部が軸の周方向において位置決めされるようになっている。ロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークには、内壁にセレーションが形成された接続穴が設けられるとともに、位置決めのためのスリットが形成されている。ピニオンシャフトの上端部には、セレーションが形成されるとともに、ロア側ユニバーサルジョイントのスリットに挿し込まれる突出片が設けられている。
【0005】
ロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークには、軸に対して垂直方向にボルトを貫通させる貫通孔が設けられている。また、ピニオンシャフトの上端部の突出片には、ロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークに嵌合した際に、上記貫通孔と一致する位置に切欠凹部が形成されている。ピニオンシャフトの上端部がロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークに嵌合された状態でボルトが貫通孔に挿入されて螺子止め固定されている。
【0006】
また、
図5に示されるように、油圧を駆動源としてラック軸の移動をアシストする油圧式パワーステアリングを設けたステアリング装置101もある。このようなステアリング装置101では、ピニオンシャフト111の上端側にロータリバルブ112が設けられている。ロータリバルブ112のインプットシャフト113は、上端部が突出した状態で、ロータリバルブ112のバルブハウジング116に覆われている。バルブハウジング116は、ラック軸118とピニオンシャフト111とからなるラックアンドピニオン機構117を収容するラックハウジング120に接続されている。
【0007】
インプットシャフト113とバルブハウジング116の上端開口部との間には、ダストの進入を防止するダストカバー125が装着されている。インプットシャフト113の上端には、ロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークのスリットに対して位置決め部材となるガイドチップ126が装着されている。ガイドチップ126は、スリットに挿し込まれるガイド部127と、インプットシャフト113の上端外周に形成されたセレーション123に嵌着されるリング部128とを備えている。ガイドチップ126は、このリング部128の下面がダストカバー125の上面に接触することで軸方向に位置決めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−84893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のステアリング装置では、車両に取り付けるにあたって、他の部材とのスペースの関係から小型化が求められており、特にピニオンシャフト111(インプットシャフト113)の軸方向の長さを短くすることが求められていた。なお、ロータリバルブ112を備えたステアリング装置101に限らず、ラックハウジング120に収容されたピニオンシャフト111がロア側ユニバーサルジョイントの下側ジョイントヨークに直接嵌合されるステアリング装置においても、同様の課題があった。
【0010】
また、ステアリング装置に限らず、ハウジングから一端が突出してハウジング内に収容された軸部材を、ユニバーサルジョイントのジョイントヨークに周方向における位置合わせをして嵌合することで連結する連結構造においても、同様の課題があった。そこで、軸方向の長さを短くすることができる連結構造が求められていた。
【0011】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸方向の長さを短くすることができる連結構造及び連結構造を備えたステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、ハウジング内に回転自在に収容され、前記ハウジングの開口部から一端が突出する軸部材と、前記軸部材の一端に対して相対回転不能に連結される筒状部材とからなる連結構造において、前記筒状部材に開口端部から軸方向に延在するスリットを形成し、前記軸部材には一体回転可能なガイドカバーを貫装し、前記ガイドカバーは、前記軸部材から径方向外方に突出して前記筒状部材のスリットに係合可能なガイド部と、前記ハウジングの開口部を覆うとともに前記軸部材に貫装されるカバー部とからなり、前記ガイド部と前記カバー部とが一体形成され、前記軸部材を前記筒状部材に嵌合した際に、前記筒状部材の開口端部が当接する
ことで、前記筒状部材の軸方向における位置を決める段差部を前記ガイドカバーの上面に形成したことをその要旨としている。
【0013】
同構成によれば、カバー部とガイド部とを一体に形成し、軸部材とともに回転可能に貫装されるガイドカバーを備えた。このため、従来技術のようにガイド部とリング部とからなるガイドチップと、ダストカバーとが2部材である構造と比較して、リング部を省略した構造となるので、軸方向の長さを短くすることが可能となる。また、部材を削減したので、組み付け性を向上させることが可能である。
また、軸部材を筒状部材に嵌合した際に、筒状部材の開口端部がガイドカバーの上面に形成された段差部に当接することで、軸部材に対する筒状部材の位置決めができ、軸部材と筒状部材との組み付けを容易とすることが可能となる。
【0016】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の連結構造において、前記ガイドカバーの内径は、前記軸部材に対して圧入される大きさに形成されることをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、軸部材に対してガイドカバーが圧入されるので、軸部材とガイドカバーとの抜けを防止することが可能となるとともに、密閉度を高めることが可能となる。
請求項
3に記載の発明は、請求項1
又は2に記載の連結構造によってステアリングシャフトを構成するシャフトとユニバーサルジョイントとを連結したことを特徴とするステアリング装置であることをその要旨としている。
【0018】
同構成によれば、ステアリングシャフトを構成するシャフトとユニバーサルジョイントとの連結においても、ピニオンシャフトの軸方向の長さを短くすることが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軸方向の長さを短くすることができる連結構造及び連結構造を備えたステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ステアリング装置のロア側ユニバーサルジョイントとピニオンシャフトとの連結構造を示す斜視図。
【
図2】ピニオンシャフトが設けられたロータリバルブ及びラックアンドピニオン機構を示す断面図。
【
図3】ピニオンシャフトの上端に装着されたガイドカバーを示す断面図。
【
図5】ピニオンシャフトが設けられたロータリバルブ及びラックアンドピニオン機構を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をステアリング装置に具体化した一実施形態について
図1〜
図4を参照して説明する。
図1に示されるように、車両のステアリング装置1は、ラック軸に噛合されるピニオンシャフト11と、ピニオンシャフト11に接続されるロア側ユニバーサルジョイント3と、ロア側ユニバーサルジョイント3に接続されるインターミディエイトシャフト2とを備えている。ピニオンシャフト11は、筒状部材に相当する下側ジョイントヨーク5を介してロア側ユニバーサルジョイント3に接続される。ロア側ユニバーサルジョイント3の上側には、上側ジョイントヨーク4を介してインターミディエイトシャフト2が接続されている。なお、車両の上下方向に従って、上、下の語を用いる。
【0022】
図2に示されるように、ステアリング装置1には、ラック軸18に対して操舵力を補助するためのロータリバルブ12が設けられている。このため、ピニオンシャフト11の上端側には、ロータリバルブ12のインプットシャフト13がトーションバー14を介して嵌着されている。このインプットシャフト13は、インプットシャフト13の上端が突出した状態でロータリバルブ12のバルブハウジング16に覆われている。バルブハウジング16は、ラックアンドピニオン機構17を収容するラックハウジング20に接続されている。ピニオンシャフト11は、ラックハウジング20に設けられる軸受21a,21bによって回転可能に支持されている。なお、インプットシャフト13が軸部材に相当し、ピニオンシャフト11の一部を構成する。
【0023】
バルブハウジング16の上端側の内部には、バルブハウジング16内への浸水を防止するシール部材22が設けられている。また、バルブハウジング16の上端開口部には、ダストの進入を防止するとともに、インプットシャフト13とロア側ユニバーサルジョイント3との周方向の位置決めを行うガイドカバー30が装着されている。
【0024】
図1に示されるように、ロア側ユニバーサルジョイント3の下側ジョイントヨーク5には、内壁にセレーションが形成された接続穴6が設けられるとともに、スリット7が形成されている。インプットシャフト13の上端部には、接続穴6に形成されたセレーションが係合されるセレーション23が形成されている。セレーション23の軸方向の中央には、全周に亘る溝24が形成されている。下側ジョイントヨーク5には、軸に対して垂直方向にボルト9を貫通させる貫通孔8が設けられている。
【0025】
図3及び
図4に示されるように、ガイドカバー30は、バルブハウジング16の上端開口部を覆うカバー部32と、下側ジョイントヨーク5のスリット7に挿し込まれて係合する板状のガイド部31とが一体に形成されている。カバー部32の中央には、インプットシャフト13を貫装する孔が形成され、インプットシャフト13の上端部に形成されたセレーション23に係合されるセレーション35が内壁に形成されている。このセレーション35が形成された孔の内径は、インプットシャフト13のセレーション23の外径に対して圧入が必要な大きさに形成されている。
【0026】
ガイド部31は、インプットシャフト13の径方向外方に突出するととともに、軸方向に延出し、インプットシャフト13の外周に接している。ガイド部31には、ボルト9を貫通させる切欠凹部33が形成されている。また、カバー部32の上面には、インプットシャフト13に下側ジョイントヨーク5が接続された際に、下側ジョイントヨーク5の下面が当接する段差部34が形成されている。下側ジョイントヨーク5の下面が段差部34に当接することで、インプットシャフト13に対する下側ジョイントヨーク5の軸方向の位置決めが可能となっている。
【0027】
次に、前述のように構成されたステアリング装置1の組み付けについて説明する。
図1に示されるように、インプットシャフト13に下側ジョイントヨーク5を接続する際には、周方向における位置を合わせて接続する必要がある。このため、インプットシャフト13に装着されたガイドカバー30のガイド部31に下側ジョイントヨーク5のスリット7を一致させてインプットシャフト13を下側ジョイントヨーク5の接続穴6に嵌合させる。このとき、インプットシャフト13のセレーション23と接続穴6のセレーションとが係合して、インプットシャフト13と下側ジョイントヨーク5とが一体回転可能に接続される。
【0028】
また、下側ジョイントヨーク5の下端がガイドカバー30の段差部34の上面に当接することで、下側ジョイントヨーク5に対するインプットシャフト13の軸方向における位置が決められる。そして、貫通孔8及びガイド部31の切欠凹部33にボルト9を貫装して螺子止めすることで、インプットシャフト13と下側ジョイントヨーク5、ひいてはロア側ユニバーサルジョイント3が一体に回転可能に接続される。
【0029】
さて、本実施例では、バルブハウジング16の上端開口部を覆うカバーとして機能するカバー部32と、下側ジョイントヨーク5のスリット7に挿入されるガイド部31とを一体に成形したガイドカバー30をインプットシャフト13の上端に装着した。また、カバー部32の中央の孔には、インプットシャフト13のセレーション23に係合するセレーション35が形成されることで、一体回転可能に装着されている。このため、従来技術においてシャフトに嵌着されるリング部の機能をカバー部32に持たせてリング部を省略しているので、インプットシャフト13の軸方向における長さを短くすることができる。
【0030】
以上、説明した実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)カバー部32とガイド部31とを一体に形成し、インプットシャフト13とともに回転可能に貫装されるガイドカバー30を備えた。このため、従来技術(
図5)のようにガイド部127とリング部128とからなるガイドチップ126と、ダストカバー125とが2部材である構造と比較して、リング部128を省略した構造となるので、軸方向の長さを短くすることができる。また、部材を削減したので、組み付け性を向上させることができる。
【0031】
(2)インプットシャフト13を下側ジョイントヨーク5に嵌合した際に、下側ジョイントヨーク5の基端がガイドカバー30の上面に形成された段差部34に当接することで、インプットシャフト13に対する下側ジョイントヨーク5の軸方向の位置決めができ、インプットシャフト13と下側ジョイントヨーク5との組み付けを容易とすることができる。
【0032】
(3)インプットシャフト13に対してガイドカバー30が圧入されるので、インプットシャフト13とガイドカバー30との抜けを防止することができるとともに、密閉度を高めることができる。
【0033】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態では、ガイドカバー30をインプットシャフト13に圧入する構成を省略してもよい。
【0034】
・上記実施形態では、ロア側ユニバーサルジョイント3とインプットシャフト13との連結構造に本発明を採用したが、ロア側ユニバーサルジョイント3にピニオンシャフト11が接続されるステアリングシャフトの場合には、ロア側ユニバーサルジョイント3とピニオンシャフト11との連結構造に本発明を採用してもよい。
【0035】
・また、アッパ側ユニバーサルジョイントとインターミディエイトシャフトとの連結構造に本発明を採用してもよい。
・上記実施形態では、ステアリング装置1に本発明の連結構造を採用したが、ステアリング装置1に限らず、シャフトとユニバーサルジョイントとの連結構造を備えた装置に採用してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…ステアリング装置、2…インターミディエイトシャフト、3…ロア側ユニバーサルジョイント、4…上側ジョイントヨーク、5…下側ジョイントヨーク、6…接続穴、7…スリット、8…貫通孔、9…ボルト、11…ピニオンシャフト、12…ロータリバルブ、13…インプットシャフト、14…トーションバー、15…油圧バルブ、16…バルブハウジング、17…ラックアンドピニオン、18…ラック軸、20…ラックハウジング、21…軸受、22…シール部材、23…セレーション、24…溝、30…ガイドカバー、31…ガイド部、32…カバー部、33…切欠凹部、34…段差部、35…セレーション。