(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796431
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】周波数変換装置
(51)【国際特許分類】
H03D 7/00 20060101AFI20151001BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20151001BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
H03D7/00 Z
H01L29/82 Z
H01L43/08 U
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-202508(P2011-202508)
(22)【出願日】2011年9月16日
(65)【公開番号】特開2013-65987(P2013-65987A)
(43)【公開日】2013年4月11日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 裕二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正人
【審査官】
鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−278713(JP,A)
【文献】
特開2011−009551(JP,A)
【文献】
特開2011−181756(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/100711(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/033664(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0051481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03D 7/00
H01L 29/82
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、第1高周波信号およびローカル用の第2高周波信号を入力したときに磁気抵抗効果によって当該両高周波信号を乗算して乗算信号を生成する磁気抵抗効果素子と、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを有する混合器を複数備え、前記複数の混合器に対して、前記第1高周波信号と、前記複数の混合器毎にそれぞれ異なるローカル用の前記第2高周波信号とを入力したときに生成する複数の乗算信号を、加算して出力することを特徴とする周波数変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の周波数変換装置において、前記複数の混合器毎にそれぞれ異なるローカル用の第2高周波信号は、ローカル用に規定された周波数f2の近傍値になるように設定されていることを特徴とする周波数変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の周波数変換装置において、前記複数の混合器毎にそれぞれ異なるローカル用の第2高周波信号は、その周波数をf2+n×Δf(Δf:fの変化量)と定義した場合(nは・・・,−2,−1,0,1,2,・・・、Δfは周波数ステップ幅)、同一の周波数ステップ幅だけ離れて散在させ、周波数f2との差分全てを加算することにより、差分の全加算値のΣ(n×Δf)がゼロに近づくように設定されていることを特徴とする周波数変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の周波数変換装置において、複数の混合器に備える前記磁気抵抗効果素子の共振周波数が、ローカル用の第2高周波信号の周波数f2の近傍値になるように設定されていることを特徴とする周波数変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の前記磁気抵抗効果素子の共振周波数は、その各周波数をf0+n×Δfと定義した場合(nは・・・,−2,−1,0,1,2,・・・、Δfは周波数ステップ幅)、同一の周波数ステップ幅だけ離れて散在させ、周波数f0はローカル用の第2高周波信号の周波数f2と一致させ、且つ周波数f2との差分を全て加算することにより、差分の全加算値のΣ(n×Δf)がゼロに近づくように前記磁気抵抗効果素子の共振周波数を設定されていることを特徴とする周波数変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の周波数変換装置において、前記第1高周波信号を分割し、複数の前記混合器に前記第1高周波信号を入力するように接続されたことを特徴とする周波数変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載の前記第1高周波信号の分割において、複数のRF半導体増幅器の出力用バッファを備え、前記第1高周波信号が前記磁気抵抗効果素子から前記RF増幅器に戻らないように設定されていることを特徴とする周波数変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を用いて乗算信号を生成する混合器を備えた周波数変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信に割り当てられる周波数帯域は飽和しつつある。その対策として「無線オポチュニスティックシステム(radio-opportunistic)」または「コグニティブ通信」と呼ばれる動的割り当ての概念が研究されている。その原理は周波数スペクトルを解析し、混み合う占有周波数帯域を避け、新たに利用可能な非占有周波数帯域を識別し判断し、通信手法を移行することに本質がある。しかしながら、この動的周波数割り当てを実現するためには、超広帯域の発振器やチューナブルフィルタが必要とされる。
【0003】
一般に携帯端末器の受信性能(感度及び選択性)は周波数選択性を有する周波数選択性減衰器(バンドパスフィルタ)と混合器で決まる。特に周波数帯域を有効に利用し、省エネルギーで遠隔無線通信を実現させるためには高いQ値を持つバンドパスフィルタが望まれる。チューナブルフィルタになる要件として、フィルタの中心周波数が移動でき、且つ、通過帯域を広げたり、狭めたりすることを行なう制御が必要となる。既存のSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波素子の意味であり、詳細は圧電体の表面を伝播する弾性表面波を利用したフィルタ素子)、BAW(Bulk Acoustic Wave:バルク弾性波と呼ばれる圧電膜自体の共振振動を利用したフィルタ素子)などの振動型共振子では目下実現不可能である。従って、携帯端末器に入るようなコンパクトなチューナブルバンドパスフィルタは実現できていない。
【0004】
一方で、磁気抵抗効果素子として、磁化固定層と磁化自由層との間に非磁性材料で形成されたスペーサー層を介在させて構成されたTMR(Tunnel Magnetoresistive)素子が知られている。このTMR素子では、電流を流したときにスピン偏極電子が流れて、磁化自由層内に蓄積されるスピン偏極電子の数に応じて磁化自由層の磁化の向き(電子スピンの向き)が変化する。一定の磁場内に配置された磁化自由層では、その磁化の向きを変更しようとしたときに、磁場によって拘束される安定な方向へ復元するように電子スピンに対してトルクが働き、特定の力で揺らされたときに、スピン歳差運動と呼ばれる振動が発生する。
【0005】
近年、TMR素子等の磁気抵抗効果素子に対して高い周波数の交流電流を流した場合において、磁化自由層に流れる交流電流の周波数と磁化の向きに戻ろうとするスピン歳差運動の振動数とが一致したときに、強い共振が発生する現象(スピントルク強磁性共鳴)が発見された(非特許文献1参照)。また、磁気抵抗効果素子に外部から静磁界を印加し、かつこの静磁界の方向を磁化固定層の磁化の方向に対して層内で所定角度傾けた状態では、磁気抵抗効果素子は、RF電流(スピン歳差運動の振動数(共振周波数)と一致する周波数のRF電流)が注入されたときに、注入されたRF電流の振幅の2乗に比例する直流電圧をその両端に発生させる機能、つまり、2乗検波機能(スピントルクダイオード効果)を発揮することが知られている。また、この磁気抵抗効果素子の2乗検波出力は、所定の条件下において半導体pn接合ダイオードの2乗検波出力を上回ることが知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能に着目して、低いローカルパワーで作動可能な混合器への用途を検討し、既に提案している(特許文献1参照)。磁気抵抗効果素子の混合器は、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを備え、第1高周波信号S1およびローカル用の第2高周波信号S2を入力したとき、磁気抵抗効果によって乗算信号S4を生成する。 しかしながら、乗算信号S4は50Ω整合回路のままでは著しく減衰してしまうことから、前記乗算信号S4に対するインピーダンスが、前記第1高周波信号S1および前記第2高周波信号S2に対するインピーダンスよりも高くなるようにするため、インピーダンス回路(フィルタまたはコンデンサ)を、第1高周波信号S1と第2高周波信号S2を伝送する入力伝送路と前記磁気抵抗効果素子の間に配設することを提案した(特許文献2参照)。
【0007】
上述のような磁気抵抗効果素子の混合器の現象が知られつつも、このような現象を工業的に利用できる高周波デバイスは知られておらず、発見の応用が期待されていた。本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能において、共振特性に応じて乗算信号出力が増減し、周波数的な選択性機能があることを知り得たが、高いQ値が得られず、周波数選択範囲がかなり広いため、工業的な応用が見出せなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature, Vol.438, 17 November, 2005, pp.339-342
【非特許文献2】まぐね, Vol.2, No.6, 2007, pp.282-290
【特許文献1】特開2009−246615号公報
【特許文献2】特開2010−278713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願出願人が上記の混合器について継続して検討を行った結果、この混合器では、磁気抵抗効果による2乗検波出力(混合器における乗算信号の信号レベル)は、磁気抵抗効果素子の共振特性に大きく依存していることが分かった。そして、共振特性のQ値を高めることで、乗算信号のレベル増大が期待されると共に、工業的応用のため周波数選択性を高めたフィルタ性能も望まれていた。そして、高精度な受信用バンドパスフィルタ機能を有する混合器は得るため磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対し、法線方向の磁場を印加することでQ値100以上の共振特性を持つことによる周波数選択性減衰器(バンドパスフィルタ)の機能を有する混合器を提供するに至った。
【0010】
しかしながら、Q値100以上の共振特性を得ることで、乗算信号のバンドパスフィルタ機能の通過帯域幅は狭くなりつつあるが、−3dB減衰以内の通過帯域幅はどう調整し、確保するかの課題が残った。一般に無線通信における1つのチャネル幅は伝送速度の向上追求(スペクトラム拡散やその他ブロードバンド化技術進展)により、20MHz程度に拡大しつつある。磁場方向や磁場強さを変えることで単一の乗算信号のバンドパスフィルタ機能の通過帯域幅を調整することを試みたが、その周波数精度を高めることが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく本発明に係る周波数変換装置は、磁化固定層、磁化自由層、および前記磁化固定層と前記磁化自由層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、第1高周波信号およびローカル用の第2高周波信号を入力したときに磁気抵抗効果によって当該両高周波信号を乗算して乗算信号を生成する磁気抵抗効果素子と、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部とを有する混合器を複数備え、前記複数の混合器に、前記第1高周波信号と、前記複数の混合器毎にそれぞれ異なるローカル用の前記第2高周波信号とを入力したときに生成する複数の乗算信号を、加算して出力するように構成されている。
【0012】
また、本発明に係る周波数変換装置は、前記複数の混合器毎にそれぞれ異なるローカル用の第2高周波信号は、ローカル用に基定された周波数f2の近傍値になるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る周波数変換装置は、前記複数の混合器毎にそれぞれ異なるローカル用の第2高周波信号は、その周波数をf2+n×Δfと定義した場合(nは・・・,−2,−1,0,1,2,・・・、Δfは周波数ステップ幅)、同一の周波数ステップ幅だけ離れて散在させ、周波数f2との差分全てを加算することにより、差分の全加算値のΣ(n×Δf)がゼロに近づくように設定されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る周波数変換装置は、複数の混合器に備える前記磁気抵抗効果素子の共振周波数が、ローカル用の第2高周波信号の周波数f2の近傍値になるように設定されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る周波数変換装置は、請求項4に記載の前記磁気抵抗効果素子の共振周波数は、その各周波数をf0+n×Δfと定義した場合(nは・・・,−2,−1,0,1,2,・・・、Δfは周波数ステップ幅)、同一の周波数ステップ幅だけ離れて散在させ、周波数f0はローカル用の第2高周波信号の周波数f2と一致させ、且つ周波数f2との差分を全て加算することにより、差分の全加算値のΣ(n×Δf)がゼロに近づくように前記磁気抵抗効果素子の共振周波数を設定されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る周波数変換装置は、前記第1高周波信号を分割し、複数の前記混合器に前記第1高周波信号を入力するように接続されたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る周波数変換装置は、複数のRF半導体増幅器の出力用バッファを備え、前記第1高周波信号が前記磁気抵抗効果素子から前記RF増幅器に戻らないように設定されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る周波数変換装置は、前記第1高周波信号の周波数をf1(f1>f2)としたとき、各混合器に発生する前記乗算信号(周波数(f1+f2+n×Δf)および(f1−f2−n×Δf))を全部加算することにより、差分の全加算値のΣ(n×Δf)がゼロに近づき、(f1+f2)および(f1−f2)に近づくように設定されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】単一の周波数変換装置100の構成を示す構成図である。
【
図3】単一の磁気抵抗効果素子2に印加磁場Hを与えたときに磁気抵抗効果素子2の持つバンドパスフィルタと混合器の機能を示す等価回路図である。
【
図4】単一の磁気抵抗効果素子2に印加磁場Hを与えたときに高周波信号S1の周波数に対する電圧信号S4(乗算信号)に現れた信号の内、乗算信号f1−f2の信号スペクトルであり、通過帯域(減衰量−3dB以下)と遮断領域の区分けを強調した図である。
【
図5】並列化された複数の混合器1(1、n)およびローカル用の信号生成部121〜12nを備える周波数変換装置100(1、n)の構成を示す構成図である。
【
図6】並列化された複数のバンドパスフィルタ7(1、n)と混合器8(1、n)およびローカル用の信号生成部121〜12nを備える周波数変換装置100(1、n)の構成を示す等価回路図である。
【
図7】高周波信号S1の信号スペクトルに対し、並列化された複数の混合器1(1、n)およびローカル用の信号生成部121〜12nを備えたことによる複数のスピントルク共振との位置関係を示す周波数分布スペクトル図である。
【
図8】並列化された複数の混合器1(1、n)の出力信号(乗算信号)S41〜S4nを足し合わせたときのバンドパスフィルタ特性を表すスペクトル図である。
【
図9】磁気抵抗効果素子2(TMR素子)近傍の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、周波数変換装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0021】
最初に、単一の混合器1、および単一の混合器1を含む周波数変換装置100の構成について、図面を参照して説明する。なお、一例として周波数変換装置100を受信装置RXに適用した例を挙げて説明する。
【0022】
図1に示す周波数変換装置100は、アンテナ101と共に受信装置RXを構成する。周波数変換装置100は、アンテナ101から出力されるRF信号S
RFを受信する受信装置RXの高周波段に配置されて、RF信号S
RFの周波数f1を乗算信号S3の所望の周波数に変換する機能を有している。一例として周波数変換装置100は、混合器1と共に、アンプ11、信号生成部12、フィルタ13および出力端子14a,14b(以下、特に区別しないときには出力端子14ともいう)を備えている。アンプ11は、RF信号S
RFを入力すると共に増幅して、信号S1(第1高周波信号)として出力する。信号生成部12は、いわゆる局部発振器として機能して、周波数がf2のローカル信号(第2高周波信号)S2を生成する。信号生成部12は、一例として、−15dBm±5dBmのローカル信号S2を生成して出力する。また、このようにして出力された信号S1およびローカル信号S2は、特性インピーダンスが50Ωに規定された信号伝送路(例えばマイクロストリップライン。以下、「伝送路」ともいう)L1を介してインピーダンス回路4に伝送される。
【0023】
混合器1は、磁気抵抗効果素子2、磁場印加部3、インピーダンス回路4およびインピーダンス変換回路5を備え、アンプ11から出力された信号S1(周波数f1)と、信号生成部12によって生成されるローカル信号S2(周波数f2)とを乗算して、乗算信号としての出力信号S5を出力する。この場合、出力信号S5には、周波数f1,f2の信号、および周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・などの各乗算信号が含まれている。なお、信号生成部12については、周波数変換装置100にとって必須の構成ではなく、RF信号S
RFと共に周波数変換装置100の外部から入力する構成とすることもできる。また、
図1に示す混合器1は、
図2に示すような等価回路で表される。
【0024】
図3は磁気抵抗効果素子2に印加する磁場Hを一定としたときに、磁気抵抗効果素子2におけるバンドパスフィルタ7と混合器8を示す等価回路図である。第1高周波信号S1の入力端子に当たるRF In、ローカル用の第2高周波信号S2の入力端子に当たるLo In、乗算信号の出力端子に当たるIF Outを分けて示している。しかし、RF In、Lo InおよびIF Outの3つの入出力端子は磁気抵抗効果素子2の磁化自由層に繋がる1本の信号線がそれらを兼ねている。
【0025】
図3のバンドパスフィルタ7は、磁気抵抗効果素子2の共振特性6の最大強度と減衰域、そしてその共振周波数f0と磁気抵抗効果素子2に入力される第1高周波信号S1の周波数f1とローカル用の第2高周波信号S2の周波数f2との位置関係によって減衰曲線が決まる。
図3の混合器8は、磁気抵抗効果素子2による乗算信号を生成するものであるが、特に乗算信号が動作周波数域内で平坦な信号レベルを出力することを意味している。磁気抵抗効果素子2による周波数変換動作は乗算信号の各周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・がバンドパスフィルタ7による減衰の影響を受ける。
【0026】
図4は、単一の磁気抵抗効果素子2に印加磁場Hを与えたときに高周波信号S1の周波数に対する電圧信号S4(乗算信号)に現れた信号の内、乗算信号(f1−f2)の信号スペクトルの通過帯域(減衰量−3dB以下)と遮断領域の区分けを強調した図である。単一の混合器による乗算信号のバンドパスフィルタ特性の天上部の減衰量−3dB以下の通過帯域を通過した信号しか受信復調用信号として使えないことを意味している。現実にはIF中間フィルタによる円弧のような減衰量があることを考慮すると、−3dBより少ない減衰量が望まれる。単一の混合器による乗算信号のバンドパスフィルタ特性の場合、印加磁場Hの方向や強さを変えることで、通過帯域を広げたりすることは可能だが、バンドパスフィルタとして両肩部の切れ(通過信号レベルと遮断信号レベルのアイソレーション差も十分でなくなる)がなくなり、なだらかな特性のものになってしまう。また、単一の混合器による乗算信号のバンドパスフィルタ特性の場合、印加磁場Hの方向や強さを変えることで、様々な通信方式のチャネル幅に前記混合器のバンドパスフィルタの通過帯域幅を合わせることは可能だが、フィルタ性能が十分でなくなる恐れがある。
【0027】
次に、本発明の並列化された複数の磁気抵抗効果素子2による混合器1(1、n)およびローカル用の信号生成部121〜12nを配置させ、複数の混合器1(1、n)の乗算信号を重ね合わせること、則ち加算出力することにより、中心周波数可変および通過帯域幅可変のバンドパスフィルタを実現することを説明する。本実施例の形態は、
図5のように混合器1(1、n)および周波数変換装置100(1、n)が並列化された複数の混合器1(1、n)およびローカル用の信号生成部121〜12nを配置した回路図である。 周波数変換装置100(1、n)は、アンテナ101と共に受信装置RXを構成する。周波数変換装置100(1、n)は、アンテナ101から出力されるRF信号S
RFを受信する受信装置RXの高周波段に配置されて、RF信号S
RFの周波数f1を乗算信号S3の所望の周波数に変換する機能を有している。
【0028】
一例として周波数変換装置100(1、n)は、複数台並列化された混合器1(1、n)と共に、RF(高周波増幅用)アンプ11、複数台並列化されたRFアンプ出力部11A、信号生成部121〜12n、IF(中間増幅用)アンプ5、複数台並列化されたIFアンプ出力部11A、フィルタ13および出力端子14a,14b(以下、特に区別しないときには出力端子14ともいう)を備えている。RFアンプ11は、RF信号S
RFを入力すると共に増幅して、信号S11〜S1n(第1高周波信号)として複数並列に出力する。信号生成部121〜12nは、いわゆる局部発振器として機能して、周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f2nのローカル信号(第2高周波信号)S21〜S2nを複数並列に生成する。信号生成部121〜12nは、一例として、−15dBm±5dBmのローカル信号S21〜S2nをそれぞれ生成して出力する。また、このようにして出力された信号S11〜S1nおよびローカル信号S21〜S2nは、特性インピーダンスが50Ωに規定された信号伝送路(例えばマイクロストリップライン。以下、「伝送路」ともいう)L11〜L1nを介してインピーダンス回路41〜4nにそれぞれ伝送される。
【0029】
混合器1(1、n)は、磁気抵抗効果素子21〜2n、磁場印加部31〜3n、インピーダンス回路41〜4nを備え、RFアンプ11およびRFアンプ出力部11Aから出力された信号S11〜S1n(周波数f1)と、信号生成部121〜12nによって生成されるローカル信号S21〜S2n(周波数f21,f22,f23,・・・・,f2n)とを乗算して、乗算信号としての出力信号S5を出力する。この場合、出力信号S5には、周波数f1,f2の信号、および周波数(f1+f2),(f1−f2),2×f1,2×f2,3×f1,3×f2,・・・などの各乗算信号が含まれている。なお、信号生成部121〜12nについては、周波数変換装置100(1、n)にとって必須の構成ではなく、RF信号S
RFと共に周波数変換装置100(1、n)の外部から入力する構成とすることもできる。また、
図5に示す周波数変換装置100(1、n)は、
図2の等価回路を拡張した回路で構成できる。
【0030】
混合器1(1、n)では、後述するように、各磁気抵抗効果素子21〜2nの共振周波数f0の近傍の周波数f01,f02,f03,・・・・,f0nをローカル信号S21〜S2nの周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f2nに一致させ、かつ信号S11〜S1nの周波数f1は、通常は周波数f2の近傍に設定される。したがって、インピーダンス回路41〜4nは、一例として、
図9に示すようなインピーダンス特性を備えた帯域通過型フィルタ(バンドパスフィルタ)で構成することができる。この場合、この帯域通過型フィルタは、同図に示すように、磁気抵抗効果素子21〜2nの共振周波数f0の近傍の周波数f01,f02,f03,・・・・,f0n(ローカル信号S21〜S2nの周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f2n)、および信号S11〜S1nの周波数f1を通過帯域に含み、かつ各磁気抵抗効果素子21〜2nで発生する2乗検波出力としての乗算信号の各周波数は次のようになる。磁気抵抗効果素子21において(f1+f21),(f1−f21),2×f1,2×f21,3×f1,3×f21,・・・、磁気抵抗効果素子22において(f1+f22),(f1−f22),2×f1,2×f22,3×f1,3×f22,・・・、磁気抵抗効果素子2nにおいて(f1+f2n),(f1−f2n),2×f1,2×f2n,3×f1,3×f2n,・・・を減衰帯域に含むインピーダンス特性に規定されている。また、インピーダンス回路4は、例えば、各カップリングコンデンサを有して構成されて、磁気抵抗効果素子21〜2nにおいて発生する2乗検波出力の直流成分のRFアンプ出力部11A側や信号生成部121〜12nへの漏れ出しを阻止する機能も備えている。また各カップリングコンデンサは、等価直列インダクタンスを含んでいるため、簡易的な帯域通過型フィルタとして機能している。
【0031】
インピーダンス変換回路5は、一例として演算増幅器5aおよび複数台並列化された入力部5Aを用いて構成されている。本例では、演算増幅器5aおよび複数台並列化された入力部5Aは、その一方の入力端子が上部電極25に接続され、他方の入力端子がグランドに接続されて、差動増幅器として機能する。これにより、演算増幅器5aおよび複数台並列化された入力部5Aは、コンデンサ4a1〜4anを介して信号S11〜S1nおよびローカル信号S21〜S2nが入力されることに起因して各磁気抵抗効果素子21〜2nの両端間に発生する電圧信号S41〜S4nを入力し、その電圧信号S4を増幅して出力信号S5として出力伝送路L2(以下では、「伝送路L2」ともいう。例えば、マイクロストリップライン)に出力する。また、演算増幅器5aは、一般的に入力インピーダンスは極めて高く、また出力インピーダンスは十分に低いという特性を有している。したがって、この構成により、演算増幅器5aは、磁気抵抗効果素子2の両端間に発生する電圧信号S4を、出力インピーダンスよりも高い入力インピーダンスで入力し、入力した電圧信号S4を出力信号S5に増幅して、低インピーダンスで出力するため、インピーダンス変換部として機能する。この場合、演算増幅器5aおよび複数台並列化された入力部5Aは、出力伝送路L2の特性インピーダンスと整合する出力インピーダンスで出力信号S5を出力する。フィルタ13は、一例として帯域通過型フィルタ(BPF:第2フィルタ)で構成されると共に伝送路L2に配設されて、出力信号S5から所望の周波数の信号のみを通過させることで、乗算信号S3として出力端子14に出力する。具体的には、フィルタ13は、各周波数(f1−f2),(f1+f2)のうちのいずれかの周波数(所望の周波数)の信号を通過させる。
【0032】
次に、混合器1(1、n)の混合動作および周波数変換装置100(1、n)の周波数変換動作について説明する。一例として、アンテナ101を介して受信したRF信号S
RF(周波数f1=4.05GHz)が入力され、信号生成部12はローカル信号S21〜S2n(周波数f2=4.0GHz(<f1)とし、そのf2の近傍値f21=3.8GHz,f22=3.85GHz,f23=3.95GHz,f24=4.0GHz,f25=4.05GHz,f26=4.1GHz,f27=4.15GHz,f24=4.2GHz)を生成するものとする。また、各インピーダンス回路41〜4nを構成するコンデンサ4a1〜4anが選択されて、その自己共振周波数fs(=4.0GHz)を含む自己共振周波数帯域(通過帯域)内に、両信号S11〜S1nの周波数f1(=4.05GHz)、S21〜S2nの周波数f21(=3.8GHz),f22(=3.85GHz),f23(=3.9GHz),f24(=3.95GHz),f25(=4.0GHz),f26(=4.05GHz),f27(=4.1GHz),f28(=4.15GHz),f29(=4.2GHz)が含まれているものとし、コンデンサ4a1〜4anは、3.80GHz〜4.20GHzの周波数範囲に自己共振の通過帯域であれば良い。また、各磁気抵抗効果素子21〜2nの共振特性は、各ローカル信号S21〜S2nの周波数f21(=3.8GHz),f22(=3.85GHz),f23(=3.9GHz),f24(=3.95GHz),f25(=4.0GHz),f26(=4.05GHz),f27(=4.1GHz),f28(=4.15GHz),f29(=4.20GHz)においてピークを示すのが好ましい。このため、共振周波数f01,f02,f03,f04,f05,f06,f07,f08,f09を各ローカル信号S21〜S2nの周波数f21,f22,f23,f24,f25,f26,f27,f28,f29に一致させる磁場H1〜Hnを磁気抵抗効果素子21〜2nに印加し得る値に規定されているものとする。また、ローカル信号S21〜S2nは、磁気抵抗効果素子21〜2nに対して共振を発生させ得る電流を供給可能な電力(例えば−15dBm±5dBm)に規定されているものとする。また、混合器1(1、n)による混合動作によって差動増幅部5から出力される出力信号S5には、各信号S11〜S1nの周波数成分f1、S21〜S2nの周波数成分f21,f22,f23,・・・・,f29により、自らの信号成分(f1,f21,f22,f23,・・・・,f29)、および各乗算信号の周波数成分磁気抵抗効果素子21において(f1+f21),(f1−f21),2×f1,2×f21,3×f1,3×f21,・・・、磁気抵抗効果素子22において(f1+f22),(f1−f22),2×f1,2×f22,3×f1,3×f22,・・・、磁気抵抗効果素子29において(f1+f29),(f1−f29),2×f1,2×f29,3×f1,3×f29,・・・、が含まれているが、これらの周波数成分のうちのf21,f22,f23,・・・・,f29は本質的にf2の近傍であるために所望の周波数成分(周波数成分(f1+f2)または周波数成分(f1−f2)。本例では一例として低域の周波数成分(f1−f2))を通過させ、これ以外の周波数の信号の通過を阻止し得るようにフィルタ13が構成されているものとする。この場合、フィルタ13は、帯域通過型フィルタで構成されているが、低域通過型フィルタであってもよい。
【0033】
この周波数変換装置100(1、n)では、電流供給部33から電流Iが供給されている状態(磁気抵抗効果素子2に磁場Hが印加されている状態)において、各信号生成部121〜12nから混合器1(1、n)にローカル信号S2(周波数f2)が入力されている。インピーダンス回路4(コンデンサ4a)のインピーダンスはローカル信号S21〜S2nの周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f29において十分に小さな値(本実施例では10Ω以下)になっているため、ローカル信号S21〜S2nは、極めて減衰の少ない状態でインピーダンス回路41〜4nを通過して各磁気抵抗効果素子21〜2nに出力される。また、この状態では、ローカル信号S21〜S2nはその周波数f2(本例では周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f29である)が、各磁気抵抗効果素子21〜2nの共振周波数f0(本例では周波数f2の近傍の周波数f01,f02,f03,・・・・,f09である)と一致し(本例ではf21=f01,f22=f02,f23=f03,・・・・,f29=f09である)、かつその電力が各磁気抵抗効果素子21〜2nに対して共振を発生させ得るように規定されている。このため、強い共振(スピントルク強磁性共鳴)が各磁気抵抗効果素子21〜2nに発生する。この共振状態において、アンテナ101からアンプ11にRF信号S
RF(周波数f1)が入力され、RFアンプ11およびRFアンプ出力部11Aが信号S11〜S1n(周波数f1)の出力を開始すると、各磁気抵抗効果素子21〜2nは、2つの信号S11〜S1n,S21〜S2nに対して2乗検波動作を実行する。この際に、各インピーダンス回路41〜4n(コンデンサ4a1〜4an)のインピーダンスは、信号S11〜S1nの周波数f1においても十分に小さな値(本実施例では10Ω以下)になっているため、信号S11〜S1nは、ローカル信号S21〜S2nと同様にして、反射することなく極めて減衰の少ない状態で各コンデンサ4a1〜4anを通過して各磁気抵抗効果素子21〜2nに出力される。
【0034】
また、各磁気抵抗効果素子21〜2nによる2乗検波動作(混合動作)によって生成される電圧信号S41〜S4nは、上記したように本質的に2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)を含む種々の周波数成分で構成されているが、これらの周波数成分は各コンデンサ4a1〜4anの通過帯域を外れた減衰帯域に含まれる周波数成分である。このため、これら周波数成分(f1+f2,f1−f2)についての各コンデンサ4a1〜4an(つまり、インピーダンス回路41〜4n)のインピーダンスは、信号S11〜S1n(周波数f1)および各ローカル信号S21〜S2n(周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f2n)についての各コンデンサ4a1〜4anのインピーダンスよりも大きな値となる。特に、本例の周波数変換装置100(1、n)において出力される乗算信号S3と同じ周波数(f1−f2=50MHz)の周波数成分についての各コンデンサ4a1〜4anのインピーダンスは、1000Ωを超える高い値となる。また、上記したように、各磁気抵抗効果素子21〜2nに接続されているインピーダンス変換回路5を構成する演算増幅器5aおよび複数台並列化された入力部5Aの入力インピーダンスも極めて高い値(通常は、数百KΩ以上)となっている。したがって、磁気抵抗効果素子2によって電圧信号S41〜S4nが出力される伝送路Lm1〜Lmnのインピーダンスが高い値(1000Ωを超える値)であるため、各磁気抵抗効果素子21〜2nは、上記したように、レベルの大きな電圧信号S41〜S4nを発生して伝送路Lm1〜Lmnに出力する。
【0035】
図6は、並列化された複数のバンドパスフィルタ71〜7nと混合器81〜8nおよびローカル用の信号生成部121〜12nを備える周波数変換装置100(1、n)の構成を示す等価回路図である。磁気抵抗効果素子2に内在するバンドパスフィルタ71〜7nと混合器81〜8nを明示したものであるが、インピーダンス回路4(コンデンサ4a)を便宜上2つに分けて表示しているが、本来1つの部品で構成されている。第1高周波信号S11〜S1nの入力に当たるRF In信号線、則ちバンドパスフィルタ71〜7nに繋がり、ローカル用の第2高周波信号S21〜S2nの入力に当たるLo In信号線、則ち混合器81〜8nに繋がり、混合器81〜8nの乗算信号の出力に当たるIF Out信号線は後段回路に繋がっていることを意味している。しかし、実際の磁気抵抗効果素子2において、RF In、Lo InおよびIF Outの3つの入出力端子は磁化自由層に繋がる1本の信号線がそれらを兼ねている。
【0036】
図7は、高周波信号S1の信号スペクトルに対し、並列化された複数の混合器1(1、n)およびローカル用の信号生成部121〜12nを備えたことによる複数のスピントルク共振との位置関係を示す周波数分布スペクトル図である。高周波信号S1の信号スペクトルからたくさんの周波数成分を取り出すため、高周波信号S1(周波数f1)の制限帯域幅に、複数の混合器のスピントルク共振を表す分布波形を周波数等間隔に並べて、それらひとつひとつをバンドパスフィルタの窓関数として機能させる。単一の混合器では通過帯域幅が調整することが難しかったが、並列化された複数の混合器を使用することで通過帯域幅の調整が可能にすることができる共に、天上部の出力特性をフラットにすることができる。
【0037】
図8は並列化された複数の混合器1(1、n)の出力信号(乗算信号)S41〜S4nを加算したときのフィルタ特性を示すスペクトル図である。磁気抵抗効果素子2の磁化自由層に対して膜面方向から膜面法線方向に5°〜175°傾けた角度の範囲になるように磁場を適切に印加することで、高いQ値のスピントルク共振状態が得られる。高いQ値のスピントルク共振状態にある混合器を複数並列に使用することで、急峻なフィルタ特性が得られるが、その通過帯域幅は狭いが、重ね合わせることで則ち加算出力することで、所望の通過帯域幅を持ったバンドパスフィルタ特性を実現できる。
図8に示すように、バンドパスフィルタ特性は天上部の出力特性がフラットであり、且つ両肩部が切れのあるもの(通過信号レベルと遮断信号レベルのアイソレーション差が十分に大きい)が得られる。
【0038】
次に、磁性層膜面に対して面内方向に磁化された磁化自由層21、磁化固定層23を含むTMR素子の構成を
図9に示す。具体的には、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサー層22、磁化固定層23および反強磁性層24を備え、この順に積層された状態で、上部電極25と下部電極26との間に、磁化自由層21が上部電極25に接続され、かつ反強磁性層24が下部電極26に接続された状態で配設されている。この場合、磁化自由層21は、強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサー層22は、非磁性スペーサー層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサー層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極26はグランドに接続されている。磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21と磁化固定層23の材料として、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)などの磁性金属と、その磁性合金からなるもので、さらに磁性合金にボロンを混入して飽和磁化を下げた合金などがある。
【0039】
磁化固定層23は、一例として、
図9に示すように、磁化方向が固定された強磁性層(第2磁性層)23a、Ruなどの金属からなる非磁性層23b、および磁化方向が強磁性層23aと逆向きとなるように固定された他の強磁性層(第1磁性層)23cとを備え、強磁性層23cが反強磁性層24の上部に位置するように各層がこの順に積層されて構成されている。一例として、磁化固定層23の積層構成はCoFe(コバルト鉄)−Ru(ルテニウム)−CoFe(コバルト鉄)の多層膜などが使用できる。
【0040】
磁気抵抗効果素子2に関して、磁化自由層21の共鳴運動をより大きく起こり易くするためには、その大きさを200nm角よりも小さくし、素子抵抗値も高周波伝送回路との整合を取るため直流抵抗値において、50Ωに近付けることが好ましい。トンネルバリア層22は、単結晶MgOx(001)あるいは(001)結晶面が優先配向した多結晶MgOx(0<x<1)層(以下、「MgO層」と称する。)により形成されていることが好ましい。 さらにトンネルバリア層22とBCC構造(体心立方格子構造:Body-Centered Cubic lattice)を有する磁化自由層21との間にCoFeB(コバルト鉄ボロン)の界面層(図においては省略されている)と、トンネルバリア層22とBCC構造を有する磁化固定層23との間にCoFeB(コバルト鉄ボロン)の界面層(図においては省略されている)とを設けることによりコヒーレントトンネル効果が期待でき、高い磁気抵抗変化率が得られることで好ましい。
【0041】
なお、上記の構成に限定されず、種々の構成を採用することもできる。例えば、磁気抵抗効果素子2としてMgO−TMR素子などのTMR素子を使用した例について上記したが、CPP−GMR(Current-Perpendicular-to-Plane giant magnetoresistance)素子などの他の磁気抵抗効果素子を使用することもできる。
【0042】
また、混合器1,1(1、n)による混合動作によってインピーダンス変換回路5から出力される出力信号S5に含まれる所望の2つの周波数成分(f1+f2,f1−f2)のうちの低域側の周波数成分(f1−f2)を低域通過型フィルタまたは帯域通過型フィルタで通過させる例について上記したが、高域側の周波数成分(f1+f2)を通過させて乗算信号S3として出力する場合にはフィルタ13を帯域通過型フィルタまたは高域通過型フィルタとして構成することもできる。また、インピーダンス回路4,41〜4nをコンデンサなどの受動素子だけで構成されたパッシブフィルタを用いて構成したが、演算増幅器を用いたアクティブフィルタを用いて構成することもできる。
【0043】
また、上記の例では、磁場印加部3、31〜3nから磁気抵抗効果素子2、21〜2nに印加される磁場H、H1〜Hnの強さを変更可能な構成を採用しているが、ローカル信号S2、S21〜S2nの周波数f2、周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f2nが固定であるときには、磁場印加部3、31〜3nが発生させる磁場H、H1〜Hnの強さも固定でよいため、例えば永久磁石などで構成して磁場の強さを一定に維持する構成を採用することもできる。この構成によれば、磁場印加部3を簡易な構造とすることができるため、製品コストを低減することができる。
【0044】
また、ローカル信号S2、S21〜S2nの周波数f2、周波数f2の近傍の周波数f21,f22,f23,・・・・,f2nと磁気抵抗効果素子2、21〜2nの共振周波数f0、周波数f0の近傍の周波数f01,f02,f03,・・・・,f0nとが一致している構成を採用しているが、周波数f2の周波数が共振周波数f0の近傍の周波数であってもよいのは勿論である。また、インピーダンス回路4,41〜4nをコンデンサなどの受動素子だけで構成されたパッシブフィルタを用いて構成したが、スタブを用いてフィルタの選択度を高めることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1,1(1、n) 混合器
2,21〜2n 磁気抵抗効果素子
3,31〜3n 磁場印加部
4,41〜4n インピーダンス回路
4a,4a1〜4an コンデンサ
5 インピーダンス変換回路
5a 演算増幅器
5A 複数台並列化された入力部
6 磁気抵抗効果素子の共振特性
7,71〜7n バンドパスフィルタ
8,81〜8n 混合器
11 RFアンプ
11A 複数台並列化された出力部
12,121〜12n ローカル用の信号生成部
13 フィルタ
21 磁化自由層
22 スペーサー層
23 磁化固定層
100,100(1、n) 周波数変換装置
H,H1〜Hn 磁場
S
RF RF信号
S1 信号
S2 ローカル信号
S3 乗算信号
S4 磁気抵抗効果素子より出力された乗算信号
S5 磁気抵抗効果素子より出力され、
後段アンプで電力増幅された乗算信号