【実施例】
【0026】
以下に、本発明の光照射成形用のゴム型にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例の光照射成形用のゴム型1は、
図2に示すごとく、光を透過させる性質を有し、透過させた光をキャビティ11に配置した熱可塑性樹脂8に吸収させるよう構成してある。同図において、光を符号Xで示す。
ゴム型1は、
図1に示すごとく、キャビティ11の周囲において互いに対面する分割面12を形成して、複数に分割したゴム型部1A、1Bから構成してある。複数のゴム型部1A、1Bは、光を透過させる性質を有する透明又は半透明のゴム材料からなる一般部2と、キャビティ11の内壁面に位置し、一般部2を構成するゴム材料よりも耐熱性に優れたゴム材料からなる耐熱ゴム層3とを形成してなる。
【0027】
以下に、本例の光照射成形用のゴム型1につき、
図1〜
図8を参照して詳説する。
製品形状を有する母型(マスターモデル)6は、種々の方法によって成型することができ、例えば、手作りの現物とすることができる。
耐熱ゴム層3は、一般部2を構成するゴム材料に対して耐熱効果を有する物質を含有させて構成することができる。一般部2は、透明又は半透明の光透過性ゴム材料41から構成し、耐熱ゴム層3は、光透過性ゴム材料41よりも光の吸収率が高い光吸収性ゴム材料42から構成することができる。光透過性ゴム材料41及び光吸収性ゴム材料42は、いずれもシリコーンゴムの材料とすることができる。
【0028】
光透過性ゴム材料41は、透明又は半透明のシリコーンゴム材料から構成し、光吸収性ゴム材料42は、透明又は半透明のシリコーンゴム材料に対して、光吸収効果及び耐熱効果を有する耐熱性付加物質を混合して構成することができる。耐熱性付加物質は、カーボンブラック、金属酸化物及び金属水酸化物のうちのいずれか1種又は2種以上とすることができる。
【0029】
耐熱性付加物質は、耐熱ゴム層3を構成するゴム材料100質量部に対して0.01〜20質量部(特に好ましくは0.1〜5質量部)含有させることができ、耐熱ゴム層3は、0.01〜1mmの厚みに形成することができる。例えば、耐熱性付加物質の含有量が耐熱ゴム層3を構成するゴム材料100質量部に対して約1質量部である場合には、耐熱ゴム層3の厚みを0.01〜0.2mmの範囲内とすることができ、耐熱性付加物質の含有量が耐熱ゴム層3を構成するゴム材料100質量部に対して約0.2質量部である場合には、耐熱ゴム層3の厚みを0.1〜1mmの範囲内とすることができる。耐熱性付加物質の含有量、耐熱ゴム層3の厚みは、耐熱性付加物質の種類、粒子径、粒子径分布等によって変化し、上記範囲に限定されるものではない。
【0030】
一般部2及び耐熱ゴム層3を構成するシリコーンゴム材料は、シリコーン主剤と硬化剤とを混合させて硬化させることができる。各シリコーンゴムの材料には、常温において硬化する常温硬化タイプと、所定の加熱温度において硬化する高温硬化タイプとがある。なお、高温硬化タイプのシリコーンゴムの材料を用いる場合には、加熱するとともに所定の圧力をかけて硬化させる必要がある。
【0031】
図3は、横軸に波長(nm)をとり、縦軸に光の透過率(%)をとって、1mmの厚みの透明のシリコーンゴムに対して耐熱性付加物質としての黒色顔料を添加したときの光の透過率の変化を示すグラフである。同図において、透明のシリコーンゴムは、200〜2200(nm)の波長の光の多くを透過させることがわかる。これに対し、黒色顔料の添加量を、ゴム材料100質量部に対して0.1質量部、0.5質量部、1質量部と増加させたとき、この添加量に比例して、光の透過率が小さくなっていることがわかる。同図において、0質量部、0.1質量部、0.5質量部、1質量部の表示は、黒色顔料の添加量を示す。
耐熱ゴム層3の耐熱性をより向上させるためには、黒色顔料の添加量を増加させることが好ましいが、この添加量が多くなるとキャビティ11内の熱可塑性樹脂8へ光を透過させることができなくなる。そのため、耐熱性付加物質としての黒色顔料の添加量及び耐熱ゴム層3の厚みは、光の透過率が10〜50(%)となるように決定することができる。
【0032】
また、200〜2200(nm)の波長の領域である近赤外線(光、電磁波)をシリコーンゴム製のゴム型1の表面に照射すると、当該近赤外線の多くを、ゴム型1の一般部2を透過させ、ゴム型1の耐熱ゴム層3及びキャビティ11内の熱可塑性樹脂8に吸収させることができることがわかる。
光透過性ゴム材料41の層からなる一般部2は、0.78〜2(μm)の波長領域を含む光(電磁波)の一部(多く)を透過させる性質を有している。光吸収性ゴム材料42の層からなる耐熱ゴム層3は、0.78〜2(μm)の波長領域を含む光を、一般部2よりも多く吸収する性質を有している。
ゴム型1において熱可塑性樹脂8を成形する際には、0.78〜2(μm)の波長領域を含む光を発生させる(0.78〜2(μm)の波長領域内に光強度のピークを有する)ハロゲンランプ等の光照射手段7を用いることができる。
【0033】
本例のゴム型1は、
図4に示すごとく、母型6の表面に光吸収性ゴム材料42を塗布して半硬化させるとともに、この母型6を型取り枠5内に配置し、
図5に示すごとく、この型取り枠5内に光透過性ゴム材料41を充填して、光吸収性ゴム材料42と光透過性ゴム材料41とを一体的に接合して成形することができる。そして、ゴム型1から母型6を取り出したときには、光吸収性ゴム材料42の内壁面に、母型6の表面形状を転写したキャビティ11を形成することができる。
【0034】
また、ゴム型1は、
図6に示すごとく、母型6を配置した型取り枠5内に、光透過性ゴム材料41を充填して半硬化させた後、
図7に示すごとく、母型6を一旦取り出し、母型6又は光透過性ゴム材料41の内側面411に光吸収性ゴム材料42を塗布し、母型6を再び光透過性ゴム材料41の内側面411に配置して、光吸収性ゴム材料42と光透過性ゴム材料41とを一体的に接合して成形することができる。なお、ゴム型1から母型6を取り出したときには、光吸収性ゴム材料42の内壁面に、母型6の表面形状を転写したキャビティ11を形成することができる。
【0035】
本例のゴム型1において、一般部2よりも耐熱性に優れた耐熱ゴム層3は、加熱環境下に維持する際に、一般部2よりも劣化を生じ難い部分として形成することができる。耐熱ゴム層3の耐熱性は、所定の温度環境下に繰り返し晒されたときに、引張強度、切断時の伸び、硬さ等の変化が少ない性質として表すことができる。
【0036】
より具体的には、耐熱ゴム層3の耐熱性は、例えば、一般部2に比べて引張強度の低下が少ない性質として表すことができる。この場合には、次の方法によって引張強度の低下量を測定することができる。
まず、完全硬化した後の初期状態のゴムシート(試料)からJISK6250に基づく5号ダンベルを作成し、JISK6250のゴム評価方法に従って引張強度を測定する。続いて、このダンベルをJISK6257のノーマルオーブン法による250℃のオーブン内に72時間放置した後の引張強度を測定する。そして、初期状態のダンベルの引張強度に比べて、加熱後のダンベルの引張強度がどれだけ低下したかを耐熱性の指標とする。引張強度の低下が少ないほど耐熱性が高いと判断することができる。
【0037】
また、耐熱ゴム層3の耐熱性は、例えば、一般部2に比べてゴムシートの外観変化が少ない性質として表すこともできる。
具体的には、オーブンに放置した状態のゴムシートの外観を観察し、その表面に亀裂、ヒビ等の欠陥が観察されるまでの時間を耐熱性の指標とする。亀裂、ヒビ等の欠陥が観察されるまでの時間が長いほど、耐熱性が高いと判断することができる。
また、オーブンによる加熱温度を徐々に上昇させたときのゴムシートの外観を観察し、その表面に亀裂、ヒビ等の欠陥が観察されたときの温度を耐熱性の指標とすることもできる。亀裂、ヒビ等の欠陥が観察されたときの温度が高いほど、耐熱性が高いと判断することができる。
【0038】
また、
図8に示すごとく、本例において成形するゴム型1は、キャビティ11の容積を変化させるよう互いにスライド可能に組み合わせるゴム型1のいずれかのゴム型部とすることもできる。同図において、互いにスライドする方向を矢印Sで示した。この場合には、ゴム型1の製造を行ってスライド可能な一方のゴム型部1Aを成形し、さらに別にゴム型1の製造を行ってスライド可能な他方のゴム型部1Bを成形することができる。
【0039】
本例の光照射成形用のゴム型1においては、一般部2と耐熱ゴム層3とを形成した構成により、以下の作用効果を得ることができる。
すなわち、
図2に示すごとく、ゴム型1を介してキャビティ11内の熱可塑性樹脂8に光を照射して加熱する際に、熱可塑性樹脂8と接触して最も加熱される部分である耐熱ゴム層3を、耐熱性に優れたゴム材料によって保護することができる。これにより、ゴム型1を介して熱可塑性樹脂8に照射する光の強度を強くすることができる。
また、例えば、光の吸収性能が低い透明又は半透明の熱可塑性樹脂8の成形品を成形する場合、溶融温度が高い熱可塑性樹脂8の成形品を成形する場合等に、熱可塑性樹脂8を高温に加熱するときでも、耐熱ゴム層3の形成により、ゴム型1の寿命を長くし、その許容使用回数を多くすることができる。
【0040】
それ故、本例の光照射成形用のゴム型1によれば、キャビティ11内の熱可塑性樹脂8に照射する光の強度を強くすることができ、その耐久性を向上させることができる。
【0041】
(確認試験)
本確認試験においては、上記製造方法によって成形したゴム型1の耐熱性能を確認する試験を行った。
発明品として、一般部2の厚みを30mmとし、耐熱ゴム層3の厚みを5mmとしたゴム型1のモデルを準備した。また、比較品として、耐熱ゴム層3を有しない厚みが30mmのゴム型のモデルも準備した。
【0042】
一般部2には、型取り用RTVゴムとして一般に知られている透明シリコーン(信越化学工業(株)製KE−1606)を用い、耐熱ゴム層3には、透明シリコーン(信越化学工業(株)製KE−1606)に対して黒色顔料(信越化学工業(株)製K−COLOR−BK02)を混合したものを用いた。黒色顔料は、透明シリコーン100質量部に対して0.2質量部含有させた。
加熱溶融させる熱可塑性樹脂8は、透明又は半透明でないPEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)樹脂とした。光照射手段7(光の照射源)としてハロゲンランプ(2.5kW)を用い、光照射手段7からゴム型1の表面までの照射距離を350mmに設定した。
【0043】
そして、光照射手段7からゴム型1に光を照射して、PEEK樹脂を溶融(PEEK樹脂の溶融温度:365℃)させる光照射ショットを繰り返し行い、ゴム型1に亀裂等が生じたショット回数を確認した。この確認した結果は、発明品については10ショット行ってもゴム型1に亀裂が生じなかった一方で、比較品については3ショット目でゴム型1に亀裂が生じた。なお、PEEK樹脂が溶融するまでには5分かかった。
この結果より、PEEK樹脂(透明又は半透明でなく溶融温度が高い熱可塑性樹脂8)の加熱を行う際に、発明品によれば、ゴム型1の耐久性を向上できることがわかった。
【0044】
(実施例2)
本例は、耐熱ゴム層3をミラブル型シリコーンゴムの耐熱性付加ゴム材料42から構成した光照射成形用のゴム型1についての例である。
本例のゴム型1を製造するに当たっては、
図9に示すごとく、母型6の表面に対して、耐熱性付加ゴム材料42としてのミラブル型シリコーンゴムからなるゴムシート420を貼り付ける。ゴムシート420は、高粘度であることによって固形状に形成されている。
【0045】
次いで、
図10に示すごとく、ゴムシート420を貼り付けた母型6を、可とう性を有するシート材から袋状に形成したシート袋52内に配置し、
図11に示すごとく、このシート袋52内を吸引ポンプ53によって吸引する。これにより、ゴムシート420を母型6の表面に密着させる。また、母型6に貼り付けたゴムシート420を加熱し、ゴムシート420を、完全硬化する前の所定の半硬化状態にする。
次いで、半硬化状態のゴムシート420が貼り付けられた母型6を、型取り枠5内に配置する(上記実施例1の
図4参照)。
【0046】
次いで、型取り枠5内に液状の光透過性ゴム材料41を充填する(上記実施例1の
図5参照)。この光透過性ゴム材料41は、一般的な液状のシリコーンゴム(例えばRTV(Room Temperature Vulcanizing)型のシリコーンゴム)を用いることができる。
その後、型取り枠5を、所定の加熱環境下に維持し、光透過性ゴム材料41を硬化させ、光透過性ゴム材料41が所定の硬度になったときに、母型6をゴム型1から取り出す。
こうして、ゴムシート420から、母型6の表面形状を転写した耐熱ゴム層3を形成するとともに、光透過性ゴム材料41から一般部2を形成して、ゴム型1を成形する。また、母型6をゴム型1から取り出す際に、ゴム型1を複数に分割し、各ゴム型部1A、1Bに分割面12が形成される。
【0047】
本例においては、耐熱ゴム層3を構成する耐熱性付加ゴム材料42をゴムシート420とすることにより、耐熱ゴム層3を有するゴム型1を一層容易に成形することができる。また、耐熱性付加ゴム材料42に、耐熱性に優れるミラブル型シリコーンゴムを用いたことにより、カーボンブラック等の物質を添加しなくても、シリコーンゴムに容易に耐熱性能を付加することができる。
【0048】
なお、特に、ゴム型1において、光の吸収性能が低い透明、半透明、白色等の熱可塑性樹脂の成形を行う場合には、ゴムシート420に光吸収性を有する物質(上述した耐熱性付加物質を含む。)等を添加することができる。また、機能性ゴム材料42と光透過性ゴム材料41とは、いずれもミラブル型シリコーンゴムから構成することができる。
本例においても、ゴム型1の他の構成は、上記実施例1と同様であり、上記実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【0049】
(実施例3)
本例は、耐熱ゴム層3をミラブル型シリコーンゴムの耐熱性付加ゴム材料42から構成し、かつ、一般部2を光透過性ゴム材料41としての固形のゴムプレート410から構成した光照射成形用のゴム型1についての例である。
本例のゴム型1を製造するに当たっては、
図12に示すごとく、母型6の表面に対して、機能性ゴム材料42としてのミラブル型シリコーンゴムからなるゴムシート420を貼り付ける。また、ゴムシート420を貼り付けた母型6を間に挟みながら、光透過性ゴム材料41としてのミラブル型シリコーンゴムからなるゴムプレート410を複数積層して、積層体40を形成する。
【0050】
そして、
図13に示すごとく、積層体40を圧縮型54内に配置し、積層体40を加熱しながら圧縮型54を移動させて、積層体40を加圧する。圧縮型54は、積層体40の積層方向Eに位置する一対の型部541と、積層体40の積層方向Eに直交する方向の回りを囲む囲い型部542とを有している。そして、囲い型部542によって周囲をガイドした状態で、一対の型部541によって積層体40を圧縮するように加圧する。このとき、複数のゴムプレート410同士の間に形成された隙間から空気が脱泡される。
【0051】
本例においては、ゴムシート420は、ミラブル型シリコーンゴムに光吸収性及び耐熱性を有する物質を添加したものから形成することができ、ゴムプレート410は、一般的なミラブル型シリコーンゴムから形成することができる。
ゴムプレート410は、母型6の形状(成形するゴム型1の形状)に応じて、ゴムシート420を貼り付けた母型6が占有するスペースを避けるようにして、母型6の積層方向Eの一方面側及び他方面側に、適宜長さに切断したものを配置し、積層することができる。
【0052】
ゴムシート420を貼り付けた母型6の周りに複数のゴムプレート410を積層して配置する際には、母型6とゴムプレート410との間には、若干の隙間が形成されてもよい。この若干の隙間は、積層体40を加熱しながら加圧する際に埋められる。また、積層体40を加熱しながら加圧する際には、各ゴムプレート410同士が密着して一体化するとともに、ゴムプレート410とゴムシート420とが密着して一体化する。
その後、ゴムプレート410による一般部2が所定の硬度になったときに、母型6をゴム型1から取り出す。
【0053】
本例においては、液状の光透過性ゴム材料41を用いる代わりに、固形の光透過性ゴム材料41からなるゴムプレート410を用いることにより、型取り枠5内へのゴム材料の充填作業が不要になり、耐熱ゴム層3を有するゴム型1を一層容易に製造することができる。
本例においても、ゴム型1のその他の構成は、上記実施例1、2と同様であり、上記実施例1、2と同様の作用効果を得ることができる。