(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力軸(18)からの回転を、ケース(100)に回転自在に固定支持された揺動シャフト(41)の揺動運動に変換し、かつ、揺動角度を調整する変速比調整機構と、前記揺動シャフト(41)の揺動運動を回転運動に変換する揺動・回転変換機構とを具備する無段変速機であって、
前記揺動・回転変換機構は、前記揺動シャフト(41)の揺動運動のうちの一方向側の回転運動を、出力軸(23)の一方向回転に変換する第1の歯車列(131、132)と、前記揺動シャフト(41)の揺動運動のうちの他方向側の回転運動を、出力軸(23)の前記一方向の回転に変換する第2の歯車列(133、134)を具備し、前記揺動シャフト(41)の揺動運動の両方向の運動を、出力軸(23)の一方向回転として出力し、
前記第1の歯車列は、1組の前記揺動シャフト(41)のそれぞれに、前記一方向側の回転時に伝動する一方向クラッチ(146−1)を介して連結した第1歯車(131)と、前記他方向側の回転時に伝動する一方向クラッチ(146−2)を介して連結した第2歯車(132)から構成され、前記第1歯車(131)は、前記出力軸(23)と一体の出力軸歯車(23’)に噛み合い、前記第2歯車は、前記第1歯車と噛み合うとともに前記出力軸歯車(23’)には噛み合わず、
前記第2の歯車列は、1組の前記揺動シャフト(41)のそれぞれに、前記他方向側の回転時に伝動する一方向クラッチ(146−3)を介して連結した第3歯車(133)と、前記一方向側の回転時に伝動する一方向クラッチ(146−4)を介して連結した第4歯車(134)から構成され、前記第4歯車(134)は、前記出力軸(23)と一体の前記出力軸歯車(23’)に噛み合い、前記第3歯車(133)は、前記第4歯車(134)と噛み合うとともに前記出力軸歯車(23’)には噛み合わないことを特徴とする無段変速機。
前記第1歯車(131)と、前記第2歯車(132)はサイズが異なり、前記第4歯車(134)と、前記第3歯車(133)はサイズが異なることを特徴とする請求項1から3にいずれか1項に記載の無段変速機。
前記第1歯車(131)は、前記第2歯車(132)よりサイズが大きく、前記第4歯車(134)は、前記第3歯車(133)よりサイズが大きいことを特徴とする請求項4に記載の無段変速機。
【背景技術】
【0002】
産業機械や輸送機械などにおいて、無段変速機が数多く使用されている。このような無段変速機には、従来、電動機を直接変速する電気式と、Vベルトなどを使用した機械式が知られている。Vベルトによる機械式無段変速機は、摩擦伝動による効率の低下、異常負荷時のスリップ、ゼロ回転からの変速不可能と言った問題点が生じていた。
【0003】
その他、クランク運動を利用した機械式無段変速機が知られている(特許文献1の従来の技術参照)。これは、入力軸の回転運動を一度往復運動に変換し、その往復運動を出力軸部の一方向クラッチで回転運動に変換する機構を用いるものである。そして、往復運動の振幅を変速レバーで自由に変えることで無段変速を実現したものである。しかしながら、揺動運動の一方向しか出力として使えておらず、逆方向分は遊びになっており、また、入力軸と出力軸とが食い違っているため省スペース化が困難であり、高負荷に不適当な単列の伝動系列であり、脈動対策も不十分であった。
【0004】
(特許文献1の無段変速機の説明)
これに対して、特許文献1に示すような無段変速機が知られている。本発明とも一部共通する部分があるので、特許文献1の記載に基づき、少し詳細に概略を説明する。
図1は、特許文献1の無段変速機の縦断面図である。
図2は、特許文献1の無段変速機の一部カットして示す斜視図であり、(b)は、クランクシャフト41とクランクアーム41aの斜視図である。
図3(a)、(b)は、特許文献1の無段変速機の作動説明図であり、(a)は、出力軸がゼロ回転の場合で、内側偏心カム29と外側偏心カム30との結合位相が、入力軸18の中心O1と同心円となった場合であり、(b)は、(a)の場合に比べて外側偏心カム30が約90°回動した場合である。
【0005】
まず、不動側のケース全体について説明する。ケース全体(ケース100)は、ケース本体1、その一側端部を閉塞する壁板部1a、ケース本体1の開口端部に締結されたケース蓋4、壁板部1aの外側の偏心カム用ケース7、ケース蓋4の外側の増速ギヤ用ケース11、偏心カム用ケース7の外側に結合したウオームギヤ用ケース9から構成され、それぞれ互いにボルトで固定されている。ベース6は、ケース本体1と一体に形成されている。璧板部1aの中心部より、軸筒部1bが、ケース本体の内部に突設している(不動側)。この軸筒部1bの端部に形成したフランジに、円形プレート2がボルト3により締結されている(不動側)。璧板部1aと円形プレート2の間で、8本のクランクシャフト41がベアリング42、43で回転自在に設けられている。クランクシャフト41の回転軸は、璧板部1aと円形プレート2を介して、ケース本体1に固定されて、自転はするが公転はしない。
【0006】
次に、特許文献1に示す無段変速機の入力軸18と出力軸23について述べる。
入力軸18は、ウオームギヤ用ケース9、偏心カム用ケース7、ケース本体1の軸筒部1b(不動)、円形プレート2を貫通して、軸筒部14a(回転)の途中まで回転自在に挿入されている。19、20、21、22は、入力軸18を回転自在に支持するベアリングである。23は、この入力軸18と対向して同心に増速ギヤ用ケース11内から外方に突出するように設けた出力軸で、24、25は、この出力軸23を回転自在に支持するベアリングである。
【0007】
13は、ケース本体1内に回転自在に設けた中空円筒状のインナーケース、14は、このインナーケース13の出力側端部にボルト15により結合した壁板で、14aは、壁板14の中心部にケース蓋4を貫通して増速ギヤ用ケース11内に突出させた軸筒部であり、16は、この軸筒部14aをケ−ス蓋4に回転自在に支持するベアリング、17はインナーケース13の入力側を回転自在に支持するためのベアリングである。クランクシャフト41と遊星ギヤ47の間には一方向クラッチ46が設けられ、一方向クラッチ46を介して伝動された回転運動は、入力側リングギヤ48と出力側リングギヤ48を経て、インナーケース13を回転させ、出力軸23に伝動される。これらの機構は、脈動緩衝装置を構成する(後述)。
【0008】
次に、入力軸18から出力軸23にいたる伝動経路について述べる。
ケース7内の入力軸18にキー26を介して第1作動歯車27を設ける。この第1差動歯車27に対して、同径の第2差動歯車28を回転自在に嵌装し、その出力側に内側偏心カム29を、キー26を介して入力軸18に固定して設ける。この内側偏心カム29の外周部に外側偏心カム30を回転自在に設ける。ここで、入力軸18にキー26を介して固定されているのは、この第1差動歯車27と内側偏心カム29である。第2差動歯車28は、第1差動歯車27に対して回転自在であり、外側偏心カム30は、内側偏心カム29に対して回転自在である。
【0009】
第2差動歯車28の外側偏心カム30との接合フランジ面に、放射方向の縦溝28aを設けると共に、この縦溝28aと摺動自在に係合する突起30aを外側偏心カム30に突設し、この外側偏心カム30の出力側の側面に円形のカム溝30bを設ける。ウオームギヤ用ケース9内にウオームホイール31を回転自在に設けて、ハンドル34を回転させると、
図3(a)、(b)に示したように、内側偏心カム29と外側偏心カム30との結合位相を変化させることができる(詳しくは特許文献1の3頁左上欄、右下欄等参照)。
【0010】
図2(b)に示すように、クランクシャフト41の一端にクランクアーム41aが一体に形成されている。クランクアーム41aの端部に、クランクピン41bを突設した複数(8本)のクランクシャフト41を、璧板部1aと円形プレート2において、それぞれ、軸受42、43で支持され、ケース本体1に固定されている。クランクシャフト41は、自転はするが公転はしない。そして、これら各クランクシャフト41の端部のクランクピン41bを、ベアリング44および角形の滑り子45を介して、外側偏心カム30のカム溝30b内にそれぞれ摺動自在に嵌入させる(
図2(a)参照)。
【0011】
これら各クランクシャフト41に、それぞれ、一方向クラッチ46を介して、遊星歯車47を複列に一方向にのみ回転自在に嵌装する。すなわち、8本のクランクシャフト41のうちの一つおきの4本のクランクシャフト41には、壁板部1aと円形プレート2との間に入力側の遊星歯車47を配置し、他の4本のクランクシャフト41には、円形プレート2とケース蓋4との間に出力側の遊星歯車47を配置する。
【0012】
次に、脈動緩衝装置について述べる。
上記複列の各遊星歯車47と、それぞれ噛合する内歯歯車48aを有する2列の入力側と出力側のリングギヤ48を、それぞれインナーケース13に対してボールベアリング49を介して回転自在に設ける。これら2列のリングギヤ48間に、ボールベアリング50を介挿してリングギヤ48相互も回転自在にする。さらに、これら2個のリングギヤ48の対向する側面に、それぞれ放射状に歯を並設した側歯歯車48bを形成し、これら両側の側歯歯車48bと、それぞれ噛み合う複数のピニオン51を、ベアリング52を介して、軸53によりインナーケース13に枢支して設ける。54は、軸53をインナーケース13に固定するナットである。
【0013】
並設した2個のリングギヤ48は必ずしも同速では回転しないが、これらのリングキヤ48は、側歯歯車48b介してピニオン51とそれぞれ噛合しているため、ピニオン51の軸53を介して、インナーケース13が2個のリングギヤ48の平均速度で回転することになる。このようにして、平均速度化がなされるので脈動が著しく緩衝されることになる(平均速度化の仕組みについては、特許文献1の4頁左下欄から5頁左上欄参照)。
【0014】
インナーケース13の壁板14の軸筒部14aの外周部に、キー55を介して円板56を固着し、この円板56の側面の同一円周上に、複数(例えば4個)の軸57を円周等分位置において、それぞれ出力側に向けて設置する。これらの軸57に、ベアリング58を介して遊星歯車59を回転自在に嵌装し、これら各遊星歯車59と、それぞれ噛み合う内歯歯車60を、増速ギヤ用ケース11にボルト61により固定する。各遊星歯車59と噛み合う太陽歯車62は、出力軸23に一体に形成されている。
【0015】
次に、上述した無段変速装置の伝動機構の作動について説明する。
1.出力軸がゼロ回転の場合
入力軸18が、
図3(a)において矢印Eのように反時計方向に回転すると、内側偏心カム29および外側偏心カム30も入力軸18と共に回転する。この場合、外側偏心カム30が
図3(a)のように入力軸18と同心であれば、カム溝30bも入力軸18に対して同心円となる。したがって、各クランクシャフト41は入力軸18に対して同心円上に配置してあるから、入力軸18の中心O1と、クランクシャフト41の中心O2と、クランクピン41bの中心O3とのなす角θは、すべて不変である。このため、入力軸18と共にカム溝30bが回転しても各クランクシャフト41は全く回転しない。そして、クランクシャフト41以降の伝動系もすべて停止したままであるから、出力軸23は全く回転しない。
【0016】
2.出力軸が変速される場合
ハンドル34を回転させると、
図3(b)に示したように、内側偏心カム29と外側偏心カム30との結合位相を変化させることができ、
図3(b)は、(a)の場合に比べて外側偏心カム30が約90°回動した場合である。
図2(b)に示すクランクピン41bには、角形の滑り子45が嵌合し、
図2(a)に示すように、角形の滑り子45が、外側偏心カム30のカム溝30b内にそれぞれ摺動自在に嵌入している。
図3(b)において、入力軸11が矢印Eの方向に回転すると、カム溝30bも矢印Eの方向に回転するため、各クランクシャフト41のクランクピン41bは滑り子45(を介してカム溝30bによって案内され、時々刻々その位置が変化する。
【0017】
すなわち、この場合、中心O1、O2、O3のなす角θは、θ1〜θ8のように変化する。したがって、各クランクシャフト41には矢印Fで示す方向の回転が生ずる。クランクシャフト41が矢印F方向に回転すると、一方向クラッチ46を介して遊星歯車47も矢印F方向に回転する(一方向クラッチ46は、クランクシャフト41に対して時計方向に回転するのを阻止し、反時計方向に回転するのは許容する)。クランクシャフト41と遊星歯車47が8組あるが、この内4個の遊星歯車47は並列したリングギヤ48の一方と噛合し、また他の4個の遊星歯車47は他方のリングギヤ48と噛合している。入力軸側と出力軸側のリングギヤ48は、それぞれ、一方向クラッチによって、インナーケースを所定の同方向に回転させるように構成されている。そして、ピニオン51の軸53を介して、インナーケース13が2個のリングギヤ48の平均速度で回転することになる。インナーケース13の回転は、遊星歯車59を回転させ、太陽歯車62を介して、出力軸23を回転させる。
【0018】
(特許文献1の問題点)
特許文献1に示す無段変速機においては、クランクアーム41aの一方向のみの回転を、一方向クラッチ46により取り出しているため、クランクシャフト41の揺動の一方向しか出力として使えておらず、逆方向分は遊びになっている。このため、脈動緩衝のために平均速度化を行うためには、クランクシャフト41(クランクアーム41a)の本数が多く必要となっていた。しかしながら、クランクシャフト41本数の増加には、装置内の配置スペースから制約を受けることとなって、平均速度化には限界が生じていた。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。従来技術に対する各実施態様の同一構成の部分には、同様に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
(変速比調整機構)
まず、本発明の一実施形態を説明する前に、本発明の一実施形態に用いられる変速比調整機構について、説明する。なお、本発明の一実施形態の変速比調整機構は、特許文献1の変速比調整機構を用いても実施可能であり、また、後述する変速比調整機構の変形例を適用しても、本発明の一実施形態は実施可能である。
【0033】
図4は、本発明の一実施形態の変速比調整機構の概略断面図である。
図5(a)は、本発明の一実施形態の変速比調整機構における、入力軸である入力プーリーの斜視図、(b)は、スライダリンクの斜視図、(c)は、クランクアームと連接棒を2セット偏心量可変軸に連結した斜視図である。
図6(a)〜(h)は、本発明の一実施形態の作動説明図である。本発明の無段変速機は、産業機械や輸送機械などあらゆる分野において用いることができ、汎用のものである。一例として、車両用エアコンシステムに適用した場合には、入力軸はベルト伝動されたプーリーとなる。しかしながら、これに限定されることはなく、中空軸などを使用しても良い。
【0034】
図4において、入力軸18は、ベルト伝動用プーリーである。まず、
図5を参照して、入力プーリー(以下、入力軸)18、スライダリンク103、クランクアーム111、114と連接棒112、113(2セット分)の概略構造を説明する。これらは、入力軸18からの回転を、ケースに回転自在に固定支持された少なくとも1本のクランクシャフト41(揺動シャフトともいう)の揺動運動に変換し、かつ、揺動角度を調整する変速比調整機構を構成する。
【0035】
入力軸18には、その軸心O1から偏心した位置に回り対偶軸101(軸心P1)が設置されている。この回り対偶軸101に、スライダリンク103の穴101’が嵌合している。入力軸18側に穴を設け、スライダリンク103側に回り対偶軸101を突設しても良い。スライダリンク103には、リニアガイド104に沿ってスライド可能なスライダピン(軸心P2)102、及び、スライダリンク103に固着された偏心量可変軸105(軸心P3)を有する。
【0036】
この場合、リニアガイド104は、溝とスライダピン102でスライドさせている。これに限定されず、断面コの字形状のスライダと直線ガイドで、馬乗り状にスライドさせても良い。スライダピン102は、作動中はリンクの不動点を構成する。すなわち、入力軸18の回転により、回り対偶軸101も回転する。スライダリンク103は、不動点であるスライダピン102を瞬間中心として回転するとともに、スライダリンク103におけるスライダピン102は、リニアガイド104内を直線移動することになる。これらの動きについては、
図6で詳説する。
【0037】
スライダピン102(P2)は、外部に位置調整自在に固定されており、作動中はリンクの不動点を構成する。入力軸18の中空部などから、軸心O1に対する偏心量が調整可能に構成されている。すなわち、軸心O1に対する偏心量(O1−P2)が調整されて(
図6(a)のX軸方向にP2移動)、スライダピン102のリニアガイド104におけるスライド位置が調整される。これにより、後述するクランクシャフト41の揺動角度範囲が調整される。
【0038】
偏心量可変軸105は、リニアガイド104の反対面において、スライダリンク103に固着されている。この固着位置は、入力軸18の半径長さO1−P1と、回り対偶軸101と偏心量可変軸105の中心位置長さP1−P3と等しい位置となっている。偏心量可変軸105の軌跡は、
図6(a)の2重円状のAで示されている。偏心量可変軸105の軌跡(2重円状のA)は、スライダピン102のP2の位置が小さくなると、次第に小さくなり、入力軸18の軸心O1と同心となるように調整することができる。偏心量可変軸105は、スライダリンク103に固着されており、それ自体可変ではないが、これらの図に見られるようにその軌跡の偏心量が可変となることで、クランクシャフト41の揺動角度範囲を変化させることができる。なお、スライダピン102のP2の位置を入力軸18の軸心O1と同心に調整した場合、出力軸をゼロ回転にすることができる。
【0039】
本発明の一実施形態の無段変速機は、入力軸18からの回転を、ケースに回転自在に固定支持された揺動シャフト41の揺動運動に変換し、かつ、揺動角度を調整する変速比調整機構、及び、揺動シャフト41の揺動運動を回転運動に変換する揺動・回転変換機構を具備する。この変速比調整機構は、入力軸18に対して偏心した回り対偶軸101で連結したスライダリンク103であって、リニアガイド104に沿ってスライド可能なスライダ102、及び、スライダリンク103に固着された偏心量可変軸105を有するスライダリンク103と、偏心量可変軸105の運動を揺動シャフト41に伝動する連結機構と、を具備し、スライダ102は位置調整自在に外部に固定されており、スライダ102のリニアガイド104におけるスライド位置が調整されて、揺動シャフト41の揺動角度範囲が調整されるようにしたものである。そして、揺動シャフト41は、クランクアーム111、114、及び、クランクピン115、116を有する。上記連結機構は、クランクアーム111、114、及び、クランクピン115、116と偏心量可変軸105とを連結する連接棒112、113により構成されるリンク機構である。
【0040】
図6(a)〜(h)を参照して、本発明の一実施形態の変速比調整機構の作動を説明する。
図6(a)に示された軌跡B、Cが、クランクシャフト41が揺動する軌跡である。
図6(a)〜(h)に従って、回り対偶軸101のP1が時計回りに回転する。ここで、スライダリンク103とX軸との交点の、スライダピン102のP2は不動である。そして、偏心量可変軸105のP3は、軌跡Aを描く。軌跡Aは、
図6(b)〜(f)までで1回転し、その後もう1回転していることが分かる。すなわち、入力軸18の1回転で、偏心量可変軸105のP3を2回転させることができ、クランクアーム111を2往復させることができる。クランクピン115、116のP4、P5の軌跡B、Cは2往復している。これまでの研究によれば、スライダピン102のP2は、回り対偶軸101のP1の軌跡の回転半径内側にあれば、2回転することが分かっている。
【0041】
特許文献1の従来技術の変速比調整機構では入力軸1回転あたり、クランクアームの揺動が1往復しか起こらず、入力回転角速度に対するクランクアームの揺動角速度が大きくならない(つまり変速比が大きくならない)という問題がある。本実施形態の変速比調整機構では、以上のように2回転させて、クランクアームの揺動を2往復させることができるので、増速歯車を用いずに偏心量可変軸105の回転速度を上げて、クランクアームの揺動角速度を大きくすることができ、高変速比を得ることができる。
【0042】
(第1実施形態)
上述したように、変速比調整機構により、入力軸18からの回転を揺動シャフト41の揺動運動に変換される。次に、本発明の第1実施形態において、揺動シャフト41の揺動運動を回転運動に変換する揺動・回転変換機構の特徴について説明する。
特許文献1の場合には、クランクアーム41aの揺動運動の一方向のみの回転を、一方向クラッチ46により取り出しているため、クランクシャフト41の揺動の一方向しか出力として使えておらず、逆方向分は遊びになっている。本発明の第1実施形態においては、クランクアーム41aの揺動運動の両方向の運動を、出力軸23に同方向の回転運動として取出せるように工夫したものである。
【0043】
図7は、本発明の第1実施形態の概略断面図である。
図8(a)、(b)は、揺動・回転変換機構を説明する説明図であり、(a)は、クランク軸41が反時計回りに揺動した場合であり、(b)は、クランク軸41が時計回りに揺動した場合である。
図7の(I)の矢印位置には、
図8(a)及び(b)の(I)におけるA−A線の断面が示されており、
図7の(II)の矢印位置には、
図8(a)及び(b)の(II)におけるA−A線の断面が示されている。
図9(a)、(b)は、揺動・回転変換機構を説明する説明図であり、(a)は、クランク軸41の軸心P6側(以下、41
P6と表示する)が反時計回りに揺動し、クランク軸41の軸心P7側(以下、41
P7と表示する)が時計回りに揺動した場合であり、(b)は、クランク軸41の軸心P6側が時計回りに揺動し、クランク軸41の軸心P7側が反時計回りに揺動した場合である。ここで、反時計回りを正転と定めて、以下説明する。
【0044】
まず簡単のため、クランクシャフト41
P6、41
P7が、
図8(a)のように共に正転した場合、又は、
図8(b)のように共に逆転した場合で説明する。
図7のクランクシャフト41の軸心P6側(41
P6)について説明する。クランクシャフト41
P6には、歯車131、133(第1歯車、第3歯車)が、それぞれ、一方向クラッチ146−1、146−3を介して同軸に連結している。一方向クラッチ146−1は、クランクシャフト41
P6が正転時に歯車131を駆動し(
図8(a)−(I)参照)、逆転時には空回りして伝動しない(
図8(b)−(I)参照)。クランクシャフト41
P6の逆転時には、歯車131が正転することを許容する(空回り)。一方向クラッチ146−3は、クランクシャフト41
P6が逆転時に歯車133を駆動し(
図8(b)−(II)参照)、正転時には空回りして伝動しない(
図8(a)−(II)参照)。なお、クランクシャフト41
P6の正転時には、歯車133が逆転することを許容する(空回り)。
【0045】
次に、
図7のクランクシャフト41の軸心P7側(41
P7)について説明する。クランクシャフト41
P7には、歯車132、134(第2歯車、第4歯車)が、それぞれ、一方向クラッチ146−2、146−4を介して同軸に連結している。一方向クラッチ146−2は、クランクシャフト41
P7が逆転時に歯車132を駆動し(
図8(b)−(I)参照)、正転時には空回りして伝動しない(
図8(a)−(I)参照)。一方向クラッチ146−4は、クランクシャフト41
P7が正転時に歯車134を駆動し、逆転時には空回りして伝動しない。なお、クランクシャフト41
P7の逆転時には、歯車134が正転することを許容する(空回り)。
【0046】
図8(a)に示すように、クランクシャフト41
P6、41
P7が正転した場合には、次のような作動となる。ここで、第1、第2歯車は第1の歯車列を形成する(
図7の(I)の位置)。第3、第4歯車は第2の歯車列を形成する(
図7の(II)の位置)。第1の歯車列、第2の歯車列はこれに限定されるものではない。
図8(a)(I)に示すように、歯車131は、出力軸23の出力軸歯車23’と噛み合って、正転時には、クランクシャフト41
P6の回転が歯車131に伝動されて、出力軸23を逆転方向に駆動する。このとき、歯車132は、出力軸23(出力軸歯車23’)とは噛み合っていないので、正転時には、クランクシャフト41
P6の回転に対して空回りしている。
【0047】
一方、
図8(a)(II)に示すように、歯車134は、出力軸23(出力軸歯車23’)と噛み合って、正転時には、クランクシャフト41
P7の回転が歯車134に伝動されて、出力軸23を逆転方向に駆動する。このとき、歯車133は、出力軸23とは噛み合っていないので、正転時には、クランクシャフト41
P7の回転に対して空回りしている。
したがって、
図8(a)のクランクシャフト41
P6、41
P7が正転した場合には、第1歯車列の歯車131、第2歯車列の歯車134が、出力軸を逆転方向に駆動する。
【0048】
次に、
図8(b)に示すように、クランクシャフト41
P6、41
P7が逆転した場合には、次のような作動となる。
図8(b)(I)の第1の歯車列が示すように、歯車131は、出力軸23(出力軸歯車23’)と噛み合っているが、一方向クラッチ146−1はクランクシャフト41
P6の回転を伝動せず空回りしている。しかしながら、クランクシャフト41
P7が逆転する場合には、歯車132に回転伝動されて、歯車131を正転させるので出力軸23を逆転方向に駆動する。
【0049】
一方、
図8(b)(II)に示すように、歯車134は、出力軸23(出力軸歯車23’)と噛み合っているが、一方向クラッチ146−4はクランクシャフト41
P7の逆転回転を伝動せず空回りしている。しかしながら、歯車133は、逆転時には、クランクシャフト41
P6の回転が歯車133に伝動されて、歯車134を介して出力軸23を逆転方向に駆動する。したがって、
図8(b)のクランクシャフト41
P6、41
P7が逆転した場合には、第1歯車列の歯車132、第2歯車列の歯車133が、出力軸を逆転方向に駆動する。クランクシャフト41の軸と出力軸23は平行である。第1歯車131は、第2歯車132よりサイズが大きく、第4歯車134は、第3歯車133よりサイズが大きい。第1〜4歯車のサイズは、これらの関係に限定されるものではなく、逆の関係にして第2、3歯車の方を大きくしてもよい。
【0050】
次に、
図9(a)のように、クランクシャフト41
P6が正転し、クランクシャフト41
P7が逆転した場合、
図9(b)のように、クランクシャフト41
P6が逆転し、クランクシャフト41
P7が正転した場合の作動を説明する。これは、
図6のクランクシャフト(P6、P7で表示)のクランクピンの位置P4、P5の軌跡が示す揺動運動が、同方向に移動している場合と、相互に逆方向に移動している場合があるためである。
クランクシャフト41
P6が正転し、クランクシャフト41
P7が逆転した場合、
図9(a)(I)に示すように、歯車131は、出力軸23(出力軸歯車23’)と
噛み合って、正転時には、クランクシャフト41
P6の回転が歯車131に伝動されて、出力軸23を逆転方向に駆動可能である。このとき、歯車132は、クランクシャフト41
P7が逆転しているので、クランクシャフト41
P7の回転を、歯車131とともに出力軸23に伝動可能である。ここで歯車131と132はかみ合っているのでそれぞれクランクシャフト41から伝わる回転のかみ合い点での歯車周速度の速いほうの動力が出力軸23に伝えられることになる。結果的に周速度の遅いほうは空回りする。また、
図9(a)(II)に示すように、歯車133も正転時には、クランクシャフト41
P6の回転に対して空回りしており、歯車134も、クランクシャフト41
P7が逆転しているので、空回りしている。
【0051】
一方、クランクシャフト41
P6が逆転し、クランクシャフト41
P7が正転した場合、
図9(b)(II)に示すように、歯車134は、出力軸23と噛み合って、正転時には、クランクシャフト41
P7の回転が出力軸23を逆転方向に駆動可能である。このとき、歯車133は、クランクシャフト41
P6が逆転しているので、クランクシャフト41
P6の回転を、歯車134とともに出力軸23に伝動可能である。ここで歯車133と134はかみ合っているのでそれぞれクランクシャフト41から伝わる回転のかみ合い点での歯車周速度の速いほうの動力が出力軸23に伝えられることになる。結果的に周速度の遅いほうは空回りする。また、
図9(b)(I)に示すように、歯車131も逆転時には、クランクシャフト41
P6の回転に対して空回りしており、歯車132も、クランクシャフト41
P7が正転しているので、空回りしている。したがって、
図9(a)の場合、クランクシャフト41
P6が正転し、クランクシャフト41
P7が逆転した場合、第1歯車列の歯車131、132が、出力軸を逆転方向に駆動し、
図9(b)の場合、クランクシャフト41
P6が逆転し、クランクシャフト41
P7が正転した場合、第2歯車列の歯車133、134が、出力軸を逆転方向に駆動する。
【0052】
以上説明したように、クランクシャフト41
P6、クランクシャフト41
P7の正転、逆転にかかわらず、第1歯車列の歯車、第2歯車列の歯車が、常に出力軸を逆転方向に駆動する。これにより、特許文献1の場合のようにクランクシャフト41の揺動の一方向しか出力として取出すようなことはなく、本発明の第1実施形態においては、クランクシャフト41の揺動運動の両方向の運動を、出力軸23に同方向の回転運動として取出すことができる。かみ合い点での周速度が速い方が、結果的に出力軸を駆動する。そして、クランクシャフト41により伝動された歯車のうちで、最も周速度の速いギヤが出力軸を回転させることができる。
【0053】
(第2実施形態)
図10(a)、(b)は、本発明の第2実施形態の揺動・回転変換機構を説明する説明図であり、(a)は、クランク軸41が反時計回りに揺動した場合であり、(b)は、クランク軸41が時計回りに揺動した場合である。
図7の(I)の矢印位置には、
図10(a)及び(b)の(I)におけるA−A線の断面が示されており、
図7の(II)の矢印位置には、
図10(a)及び(b)の(II)におけるA−A線の断面が示されている。
【0054】
本発明の第2実施形態において、第1、第2歯車131、132は、第1の歯車列を形成し、第3、第4歯車133、134は、第2の歯車列を形成する。これらの歯車に加えて、さらに、第5〜8歯車が配置されている。第5、第6歯車135、136は、
図7の(I)の矢印位置に配置されて、第1、第2歯車131、132の第1の歯車列に対して、180度位相が進んだ位置に配置されている。第7、第8歯車137、138は、
図7の(II)の矢印位置に配置されて、第3、第4歯車133、134の第2の歯車列に対して、180度位相が進んだ位置に配置されている。
【0055】
したがって、本発明の第2実施形態は、第1の歯車列と第2の歯車列の組を2組配置したものである。作動は第1実施形態で説明した通り、第1歯車列の第1、第2歯車131、132、及び、第2歯車列の第3、第4歯車133、134の歯車列の組、並びに、第1歯車列に相当する第5、第6歯車135、136、及び、第2歯車列に相当する第7、第8歯車137、138の歯車列の組が、出力軸23を逆転方向に駆動する。クランクシャフト41により伝動されたこれらの歯車のうちで、かみ合い点での周速度が速い方が、結果的に出力軸を駆動する。これにより、複数のクランクシャフト41から出力軸23にいたる伝動経路が一層重畳化して、脈動緩衝を一層進めることができる。第1、第2歯車列の組数は、歯車のサイズと、複数のクランクシャフト41の配置を適宜工夫することにより、2組に限らず複数組配置すると良い。
【0056】
(変速比調整機構の変形例)
本発明の上記実施形態は、次のような変速比調整機構の変形例に適用して、無段変速機を構成することができる。
図11は、変速比調整機構の第1変形例の概略断面図である。この変速比調整機構の変形例では、
図5(c)の実施形態のリンク機構の代わりに、カム105’が使用されている。
図5(a)、(b)の入力軸18の回り対偶軸101や、リニアガイド104に沿ってスライド可能なスライダ102、及び、スライダリンク103に固着された偏心量可変軸105は、同じものである。ここで、偏心量可変軸105にはカム105’が設置されている。ここでは、一例として、偏心量可変軸105の径を太くして同心円筒面のカム105’としているが、その他所望外形形状のカムとしても良い。
【0057】
この変速比調整機構の第1変形例では、クランクシャフト41の代わりに、揺動シャフト41’が相当する。上下の揺動シャフト41’には、それぞれ一体に揺動アーム部111’、114’が形成されている。揺動アーム部111’、114’は、クランクアーム111、114に相当する。カム105’に対して、揺動アーム部111’、114’は、それぞれ、ばね121、122により、弾圧当接している。上下の揺動シャフト41’はケース100に回転自在に支持されている。ばね121、122の揺動アーム部111’、114’と反対側の端部は、ケース100に固定されている。そして、
図7のクランクシャフト41
P6、41
P7のところに、揺動シャフト41’を置き換えれば、第1実施形態となり、また、同様に、
図10の第2実施形態にも適用することができる。
【0058】
次に、変速比調整機構の第2変形例について簡単に説明する。
図12(a)〜(c)は、変速比調整機構の第2変形例の概略説明図である。
図12(a)は出力軸側から見た断面図であり、その運動の説明図が(c)に示されている。
図12(b)は、変速揺動アーム215の斜視図である。
図12(a)を参照して説明すると、入力軸18には一体に内歯歯車234が連結し、入力軸18の回転は内歯歯車234の回転として伝動される。この内歯歯車234に4個の遊星歯車232が噛み合い、内歯歯車234の回転は、遊星歯車232の回転として伝動される。4個の遊星歯車232は、太陽歯車231と噛み合う。太陽歯車231は、キャリア231に固定された軸235に回転自在に嵌合している。
【0059】
遊星歯車232は、それぞれ、ケース211に対して回転可能なキャリア233に、軸が固定されている。遊星歯車232は、キャリア233が変速動作のために回転する場合を除き、自転はするものの公転はしない。キャリア233はハンドルによって、ケース211に対して回動可能となっており、これにより4個の遊星歯車232の軸位置が変更でき、変速比を調整することができる。遊星歯車232には、それぞれ駆動ピン237が一体に形成され、変速揺動アーム215を軸253回りに、
図12(c)に示すように揺動運動(矢印K参照)させることができる。
【0060】
変速揺動アーム215は、215’の部分と215’’の部分がV字状に一体に連結している。そして、その軸253はキャリア233に回転自在に固定されている。部分215’において、変速揺動アーム215の軸253を中心にして、遊星歯車232の駆動ピン237が第1の溝251に嵌合して揺動運動を発生させる。この部分215’と一体な部分215’’も同時に揺動運動する。
図12(c)に示すように、
図7のクランクシャフト41(41
P6、41
P7)のクランクピン41b(
図7には図示せず、
図2(b)、
図5(c)の115、116参照)が第2の溝252に嵌合して、揺動運動(矢印L参照)させることができる。したがって、変速比調整機構の第2変形例も、
図8の第1実施形態や、
図10の第2実施形態にも適用することができる。(なお、変速比調整機構の第2変形例については、特開2011−237028号公報に詳細が説明されている。)