【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題を解決するため、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いた冷間引抜きであって、プラグを用いない空引きにより、得られる二重管の外管と内管の界面に面圧を発生させる方法について検討した。
【0013】
図1は、テーパーダイスを用いた空引きによる金属二重管の冷間引抜きの一例を示す模式図である。同図には、被加工材である外管11および内管12と、加工用ダイスであるテーパーダイス2とを示し、ハッチングを施した矢印で被加工材の引抜き方向を示す。テーパーダイス2は、外管11および内管12をダイスの入側から出側に案内するため、入側のアプローチ部2aと、一定の内径を有し管材の加工形状を決定するベアリング部2bと、出側の逃げ部2cとを備える。テーパーダイス2のアプローチ部2aの形状は、内径が縮小するテーパー状であり、両角で規定される。アプローチ部2aの両角は、アプローチ部2aの角度α(°)により、2αで表すことができる。
【0014】
このようなテーパーダイスを用いた空引きの冷間引抜きにより、得られる二重管の外管と内管の界面に面圧を発生させるため、本発明者らは、冷間引抜き前の外管と内管とのクリアランスzに注目した。ここで、外管と内管とのクリアランスzは、
図1に示すように、冷間引抜き前の外管内面と内管外面との間隔であり、冷間引抜き前の外管内径do2と、冷間引抜き前の内管外径di1とから、下記(3)式により求めることができる。
z=(do2−di1)/2 ・・・(3)
【0015】
本発明者らは、後述する実施例の表2の試験番号1〜7に示すように外管と内管とのクリアランスzを変更し、アプローチ部の両角(2α)が30°であるテーパーダイスを用いた空引きの冷間引抜きにより二重管を得る試験を行った。
【0016】
図2は、冷間引抜き前の外管と内管とのクリアランスと冷間引抜きにより得られた二重管に発生した面圧との関係を示す図である。同図から、クリアランスが0.5mm未満と小さい場合は得られた二重管に発生した面圧がいずれも20MPaを超え、クリアランスを0.5〜0.7mmと中程度の場合は得られた二重管に発生した面圧がいずれも30MPaを超え、クリアランスが0.7mmを超えた場合は得られた二重管に発生した面圧はいずれも5MPa以下であった。
【0017】
このように、本発明者らは、クリアランスを変更することにより得られた二重管に発生する面圧が変化し、クリアランスには最適値が存在することを明らかにした。本発明者らは、クリアランスを変更することにより得られる二重管の面圧が変化する現象を解明するため、テーパーダイスのアプローチ部およびベアリング部で外管および内管が変形するメカニズムを調査した。変形メカニズムの調査は、冷間引抜きを途中で中止し、この冷間引抜き途中の二重管を長手方向に平行な断面で切断し、切断面の形状を観察することにより行った。
【0018】
図3は、長手方向に平行な断面で切断した冷間引抜き途中の二重管の切断面を示す模式図であり、同図(a)はクリアランスが小さい場合、同図(b)はクリアランスが中程度の場合、同図(c)はクリアランスが大きい場合をそれぞれ示す。同図には冷間引抜き途中の二重管1の外管11および内管12を示し、冷間引抜きを途中で中止した際にテーパーダイスのアプローチ部とベアリング部の境界と接触していた外管外面の位置を破線矢印で指し示す。同図では、左側がテーパーダイスの入側、右側がテーパーダイスの出側であり、冷間引抜きを途中で中止した際に破線矢印の左側の外管外面はアプローチ部と、破線矢印の右側の外管外面はベアリング部とそれぞれ接触していた。
【0019】
変形メカニズムの調査では、テーパーダイスのアプローチ部およびベアリング部で外管および内管が変形する際のクリアランスの変化に着目し、クリアランスが0(ゼロ)となって外管内面と内管外面とが接触する位置1aを確認した。その結果、クリアランスが小さい場合は、同図(a)に示すように、外管と内管の接触位置1aは、アプローチ部とベアリング部の境界の前(左側)であり、アプローチ部による加工途中であった。また、クリアランスが小さい場合、内管の変形が大きいことが確認される。
【0020】
また、クリアランスが中程度の場合、同図(b)に示すように、外管と内管の接触位置1aは、アプローチ部とベアリング部の境界の直前であり、アプローチ部とベアリング部の境界とほぼ同位置となった。クリアランスが大きい場合、同図(c)に示すように、外管と内管の接触位置1aは、アプローチ部とベアリング部の境界の後(右側)であり、アプローチ部による加工の際には外管と内管とは接触することがなかった。また、クリアランスが大きい場合、内管の変形はほとんど認められなかった。
【0021】
このようにクリアランスを変更することにより、テーパーダイスのアプローチ部およびベアリング部で外管および内管が変形する際に外管と内管とが接触する位置が移動し、得られる二重管に発生する面圧が増減することが明らかとなった。そこで、本発明者らは、外管と内管の接触位置の移動を、テーパーダイスのアプローチ部で外管と内管とが接触する長さ(以下、単に「接触長さ」ともいう)により評価することを試みた。
【0022】
本発明で規定する外管と内管とが接触する長さLは、前記
図1に示すように、テーパーダイス2のアプローチ部2aで外管11の内面と内管12の外面とが接触する長さである。この接触長さLは、後述する(1)式(近似式)により算出することができるので、本発明者らは、接触長さと二重管に発生する面圧との関係を調査した。
【0023】
後述する
図4は、テーパーダイスのアプローチ部における外管と内管との接触長さと二重管に発生した面圧との関係を示す図である。同図から、テーパーダイスのアプローチ部で接触長さが短いほど、得られる二重管に発生する面圧が増加することが確認される(同図の破線矢印参照)。しかし、接触長さが0、すなわち、テーパーダイスのアプローチ部で外管と内管とが接触しない場合、得られる二重管に発生する面圧が著しく減少することが確認される。
【0024】
また、接触長さが0.1以下になると外管および内管の部分的な真円度不良(楕円化)や偏肉の影響で円周方向で部分的に外管と内管が接触しない箇所が発生し始める。そのため、面圧が低下するおそれがある。従って、接触長さLは0.1以上が必要である。
【0025】
本発明者らは、接触長さが0を超える場合、すなわち、テーパーダイスのアプローチ部で外管と内管とが接触する場合について、さらに接触長さの逆数(1/L)と二重管に発生する面圧との関係を確認した。
【0026】
後述する
図5は、接触長さの逆数と二重管に発生した面圧との関係を示す図である。同図から、接触長さの逆数(1/L)と二重管の面圧とが相関関係を有し、接触長さの逆数が増加するとともに二重管の面圧が向上することが確認される。すなわち、本発明者らは、テーパーダイスを用いた空引きの冷間引抜きにおいて、接触長さの逆数を適正化することにより、得られる金属二重管の外管と内管の界面に面圧を発生させ、密着性を確保できることを明らかにした。また、接触長さの逆数を調整することにより、得られる二重管に発生する面圧を所望の値に制御できることを明らかにした。
【0027】
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであり、下記の(1)および(2)に示す金属二重管の製造方法を要旨とする:
【0028】
(1)加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる冷間引抜きによって、外管の内面に内管の外面が接してなる金属二重管を製造する方法であって、
下記(1)式により算出され、テーパーダイスのアプローチ部で外管と内管とが接触する長さL(mm)が、下記(2)式を満たす条件とし、
プラグを用いない空引きすることを特徴とする金属二重管の製造方法。
L=(do1−d1−2z)/2sinα ・・・(1)
1.35≦1/L≦10 ・・・(2)
ただし、do1は冷間引抜き前の外管外径(mm)、zは冷間引抜き前における外管と内管とのクリアランス(mm)、d1は冷間引抜きにより得られた金属二重管の外径(mm)、αはテーパーダイスのアプローチ部の角度(°)である。
【0029】
(2)前記外管および前記内管の材質を9Cr−1Mo鋼とすることを特徴とする上記(1)に記載の金属二重管の製造方法。