(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電極箔とこの電極箔上に電極用ペーストを塗工して形成された電極膜とを有するシート状の電極を所定の速度で搬送する工程と、前記搬送された電極を一対のプレスローラにより挟んで圧縮する工程とを含む電池用電極のプレス方法において、
前記電極を前記一対のプレスローラにより圧縮する前に前記電極をその厚さ方向から一対のプレス板により挟んで圧縮する工程を更に含み、
前記一対のプレス板を前記電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして、少なくとも2セット設け、
前記一対のプレス板による前記電極の圧縮中に前記一対のプレス板を前記電極の搬送速度に同期して移動させ、
前記一対のプレス板による前記電極の圧縮完了後に前記一対のプレス板を前記電極の搬送方向と反対方向に移動させる
ことを特徴とする電池用電極のプレス方法。
電極箔とこの電極箔上に電極用ペーストを塗工して形成された電極膜とを有するシート状の電極を所定の速度で搬送する搬送手段と、前記搬送手段により搬送された前記電極を一対のプレスローラにより挟んで圧縮するローラプレス機とを備えた電池用電極のプレス装置において、
前記電極が前記ローラプレス機の一対のプレスローラにより圧縮される前に、前記電極をその厚さ方向から一対のプレス板により挟んで圧縮する一軸プレス機を更に備え、
前記一軸プレス機が、前記一対のプレス板と、前記一対のプレス板による前記電極の圧縮中に前記一対のプレス板を前記電極の搬送速度に同期して移動させる同期手段と、前記一対のプレス板を前記電極の両面にそれぞれ圧接する圧力付与手段と、前記一対のプレス板による前記電極の圧縮完了後に前記一対のプレス板を前記電極の搬送方向と反対方向に移動させる復帰手段とを有し、
前記一対のプレス板が前記電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして少なくとも2セット設けられたことを特徴とする電池用電極のプレス装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記両特許文献の電極は、いずれもアルミ箔や銅箔等からなる電極箔と、この電極箔上に活物質の分散した電極用ペーストを塗工することにより形成された電極膜とを有する長いシート状に形成される。しかし、上記従来の特許文献1に示された電池用電極のロールプレス装置や、上記従来の特許文献2に示された電池用電極部材の加圧装置では、上記シート状の電極を一対のプレスローラにより圧縮すると、プレスローラによる縦方向(電極の厚さ方向)の圧縮応力に加えて、プレスローラが回転する際の横方向(電極の搬送方向)への剪断応力(ずり応力)が電極に作用し、この剪断応力により電極箔は変形し難いけれども電極膜は変形し易いため、上記剪断応力により電極膜が電極箔から剥離するおそれがあった。ここで、一対のプレスローラによるシート状の電極のプレス後に、電極膜がその長手方向(電極の搬送方向)に約0.5%程度伸びたことを実験的に確認した。この電極膜の伸びは電極膜に剪断応力が作用したことにより生じ、上記電極膜の伸びにより電極膜が電極箔から剥離したものと考えられる。
【0006】
この点を解消するために、プレスローラの回転速度を小さくして、電極をゆっくり圧縮する方法が考えられる。しかし、この方法では、電極のプレスローラによる圧縮工程の時間が長くなるため、電極箔への電極膜の塗工工程や、電極膜の乾燥工程の速度も遅くなり、電極の製造時間が著しく長くなる問題点がある。
【0007】
また、一対のプレスローラの直径を大きくすることにより、一対のプレスローラにより電極に作用する応力のうち、剪断応力を抑制して、殆ど全てを圧縮応力とする方法が考えられる。しかし、この方法では、一対のプレスローラの直径を大きくすることに伴って、これに付随する設備を大型化しなければならず、設備投資が巨額となり、また一対のプレスローラを大きくしても、電極に剪断応力が全く作用しなくなることはなく、依然として電極箔から電極膜が剥離するおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、電極膜を電極箔から剥離させず、また電極の製造時間を増大させず、更にプレスローラを含む設備を大型化しなくても、電極箔が破れることなく、電極を効率良く圧縮できる、電池用電極のプレス方法及びそのプレス装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、電極箔とこの電極箔上に電極用ペーストを塗工して形成された電極膜とを有するシート状の電極を所定の速度で搬送する工程と、この搬送された電極を一対のプレスローラにより挟んで圧縮する工程とを含む電池用電極のプレス方法において、電極を一対のプレスローラにより圧縮する前に電極をその厚さ方向から一対のプレス板により挟んで圧縮する工程を更に含み、
一対のプレス板を電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして、少なくとも2セット設け、一対のプレス板による電極の圧縮中に一対のプレス板を電極の搬送速度に同期して移動させ、一対のプレス板による電極の圧縮完了後に一対のプレス板を電極の搬送方向と反対方向に移動させることを特徴とする。
【0011】
本発明の第
2の観点は、第
1の観点に基づく発明であって、更に一対のプレス板による電極の圧縮応力が10〜5000MPaであることを特徴とする。
【0012】
本発明の第
3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に電極の搬送速度が0.1〜30m/分であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第
4の観点は、電極箔とこの電極箔上に電極用ペーストを塗工して形成された電極膜とを有するシート状の電極を所定の速度で搬送する搬送手段と、搬送手段により搬送された電極を一対のプレスローラにより挟んで圧縮するローラプレス機とを備えた電池用電極のプレス装置において、電極がローラプレス機の一対のプレスローラにより圧縮される前に、電極をその厚さ方向から一対のプレス板により挟んで圧縮する一軸プレス機を更に備え、一軸プレス機が、一対のプレス板と、一対のプレス板を電極の両面にそれぞれ圧接する圧力付与手段と、一対のプレス板による電極の圧縮中に一対のプレス板を電極の搬送速度に同期して移動させる同期手段と、一対のプレス板による電極の圧縮完了後に一対のプレス板を電極の搬送方向と反対方向に移動させる復帰手段とを有
し、一対のプレス板が電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして少なくとも2セット設けられたことを特徴とする。
【0015】
本発明の第
5の観点は、第
4の観点に基づく発明であって、更に一軸プレス機の一対のプレス板による電極の圧縮応力が10〜5000MPaであることを特徴とする。
【0016】
本発明の第
6の観点は、第
4の観点に基づく発明であって、更に搬送手段による電極の搬送速度が0.1〜30m/分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の観点のプレス方法及び本発明の第
4の観点にプレス装置では、電極を所定の速度で搬送している状態で、一対のプレス板を電極の搬送速度に同期して移動させながら、電極をその厚さ方向から一対のプレス板により挟んで圧縮するので、一対のプレス板による縦方向(電極の厚さ方向)の圧縮応力のみが電極に作用し、一対のプレス板による横方向(電極の搬送方向)への剪断応力(ずり応力)が電極に作用することはなく、更に一対のプレス板により電極を横方向(電極の搬送方向)に引っ張る力が電極に作用することもない。この結果、電極膜が電極箔から剥離することはなく、電極箔が破れることもない。また一対のプレス板による電極の圧縮完了後に、これらのプレス板を電極の搬送方向と反対方向に移動させて、再びこれらのプレス板により電極を圧縮するので、一対のプレス板により電極の全面を圧縮できる。更に一対のプレス板による電極の圧縮完了後に、所定の速度で搬送された電極を一対のプレスローラにより挟んで圧縮するので、一対のプレス板により二度圧縮されて潰れ方が多少大きくなった部分が電極表面に生じるけれども、この潰れ方が多少大きくなった部分が一対のプレスローラにより均されて、表面が平らな電極を作製できる。
【0018】
ここで、一対のプレス板による電極の圧縮応力を比較的大きくして、電極膜の空隙率が所定値近くになるように電極を圧縮し、一対のプレスローラによる電極の圧縮応力を比較的小さくして、電極の潰れ方が多少大きくなった部分を除去するとともに、電極膜の空隙率が所定値になるように電極を圧縮する。これにより、電極膜が電極箔から剥離することはなく、電極箔が破れることもなく、電極を効率良く圧縮でき、表面が平らな電極が得られる。一方、プレスローラの回転速度を小さくして、電極をゆっくり圧縮する方法を採用しなくて済むので、電極の製造時間は増大しない。また、一対のプレスローラの直径を大きくすることにより、剪断応力を抑制して、殆ど全てを圧縮応力とする方法を採用しなくて済むので、プレスローラを含む設備の大型化を防止できるとともに、電極膜の電極箔からの剥離を防止できる。
【0019】
更に、本発明の第
1の観点のプレス方法及び本発明の第
4の観点にプレス装置では、一対のプレス板を電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして、少なくとも2セット設けたので、各プレス板の面積を比較的小さくすることができる。この結果、一対のプレス板による電極の圧縮に必要な圧縮応力を比較的小型のプレス装置で得ることができるとともに、電極膜の空隙率を所定値まで効率良く低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、電池用電極のプレス装置10は、シート状の電極11を所定の速度で搬送する搬送手段12と、搬送手段12により搬送された電極11を一対のプレスローラ13a,13aにより挟んで圧縮するローラプレス機13とを備える。電池としては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池等が挙げられる。また電極11としては、上記電池の正極又は負極が挙げられる。この電極11は、図示しないが、電極箔と、この電極箔上に電極用ペーストを塗工して形成された電極膜とを有する。例えば、電極11がリチウムイオン二次電池の正極である場合、電極箔はアルミ箔又は銅箔のいずれかであり、電極用ペーストは導電助剤と結着剤と活物質とを含む。導電助剤としては、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等のカーボンブラックが挙げられ、結着剤としては、有機系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられ、活物質としては、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiFePO
4等の正極活物質が挙げられる。一方、電極がリチウムイオン二次電池の負極である場合、活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛からなる負極活物質が用いられること以外は、正極と略同一に構成される。
【0022】
一方、搬送手段12は、一対の搬送ローラ12a,12aと、第1ガイドローラ12bと、第2ガイドローラ12cとを有する。一対の搬送ローラ12a,12aは電極11を挟持して搬送するように構成される。また第1ガイドローラ12bは一対の搬送ローラ12a,12aより電極11の搬送方向上流側に設けられ、電極11の搬送角度を調整して電極11を一対の搬送ローラ12a,12aに案内するように構成される。更に第2ガイドローラ12cは一対の搬送ローラ12a,12aより電極11の搬送方向下流側に設けられ、電極11の搬送角度を調整して電極11を一対のプレスローラ13a,13aに案内するように構成される。なお、上記搬送手段12による電極11の搬送速度は、好ましくは0.1〜30m/分、更に好ましくは1〜10m/分に設定される。ここで、搬送手段12による電極11の搬送速度を0.1〜30m/分の範囲内に限定したのは、0.1m/分未満では電極11の搬送速度が遅すぎて電極11の生産性が低下してしまい、30m/分を越えると電極11の搬送速度が速すぎて後述の一軸プレス機16,17で電極膜を所定の空隙率まで低減できないからである。
【0023】
ローラプレス機13の一対のプレスローラ13a,13aのうち下側のプレスローラ13aはロアブロック13b上面にロア圧力付与手段13cを介して回転可能に取付けられ、上側のプレスローラ13aはアッパブロック13d下面にアッパ圧力付与手段13eを介して回転可能に取付けられる。一対のプレスローラ13a,13aは互いに対向するように配設される。またロアブロック13b及びアッパブロック13dはロア圧力付与手段13c及びアッパ圧力付与手段13eの圧力が作用しても上下動しないように堅牢に形成される。更にロア圧力付与手段13c及びアッパ圧力付与手段13eとしては、油圧などを用いた液圧プレスが用いられる。なお、ロア圧力付与手段及びアッパ圧力付与手段として、フライホイールやクランクシャフトなどの機械的機構を用いた機械プレスを用いてもよい。
【0024】
一方、第2ガイドローラ12cと一対のプレスローラ13a,13aとの間には、電極11がローラプレス機13の一対のプレスローラ13a,13aにより圧縮される前に、電極11をその厚さ方向から一対のプレス板21〜24,21〜24により挟んで圧縮する一軸プレス機16,17が設けられる。一対のプレス板21〜24,21〜24は、この実施の形態では、電極11の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして2セット設けられる。即ち、一対のプレス板21〜24,21〜24は、電極11の搬送方向の上流側から下流側に向って所定の間隔をあけ、一対の第1プレス板21,21、一対の第2プレス板22,22、一対の第3プレス板23,23及び一対の第4プレス板24,24の順に4組配設される。そして、一対の第1プレス板21,21及び一対の第2プレス板22,22は前側一軸プレス機16に設けられ、一対の第3プレス板23,23及び一対の第4プレス板24,24は後側一軸プレス機17に設けられる。
【0025】
前側一軸プレス機16は、一対の第1プレス板21,21と、一対の第2プレス板22,22と、これらのプレス板21,22を電極11の両面にそれぞれ圧接する前側圧力付与手段(図示せず)と、これらのプレス板21,22による電極11の圧縮中にプレス板21,22を電極11の搬送速度に同期して移動させる前側同期手段18と、プレス板21,22による電極11の圧縮完了後にプレス板21,22を電極11の搬送方向と反対方向に移動させる前側復帰手段19とを有する。電極11の下方には電極11の搬送方向に延びるロアレール26が設けられ、電極11の上方には電極11の搬送方向に延びるアッパレール27が設けられる。またロアレール26にはこのロアレール26に沿って摺動する前側ロアスライダ28が設けられ、アッパレール27にはこのアッパレール27に沿って摺動する前側アッパスライダ29が設けられる。前側ロアスライダ28には略逆T字状の前側ロアアーム31が取付けられ、前側アッパスライダ29には略T字状の前側アッパアーム32が取付けられる。更に前側ロアアーム31は下側の第1プレス板21及び下側の第2プレス板22にそれぞれ取付けられた第1ロッド21a及び第2ロッド22aを上下動可能に保持し、前側アッパアーム32は上側の第1プレス板21及び上側の第2プレス板22にそれぞれ取付けられた第1ロッド21a及び第2ロッド22aを上下動可能に保持するように構成される。
【0026】
ロアレール26及びアッパレール27は前側圧力付与手段の圧力が作用しても上下動しないように堅牢に形成される。また前側圧力付与手段は、前側ロアアーム31及び前側アッパアーム32にそれぞれ設けられ、フライホイールやクランクシャフトなどの機械的機構を用いた機械プレス、或いは油圧などを用いた液圧プレスである。更に前側ロアスライダ28にはロアレール26に沿って前側ロアスライダ28を移動させる前側ロアスライダ駆動モータ(図示せず)が設けられ、前側アッパスライダ29にはアッパレール27に沿って前側アッパスライダ29を移動させる前側アッパスライダ駆動モータ(図示せず)が設けられる。
【0027】
前側同期手段18は、ロアレール26と、アッパレール27と、前側ロアスライダ28と、前側アッパスライダ29と、電極11の搬送速度と同一速度で前側ロアスライダ28を移動させる前側ロアスライダ駆動モータと、電極11の搬送速度と同一速度で前側アッパスライダ29を移動させる前側アッパスライダ駆動モータとを有する。また前側復帰手段19は、ロアレール26と、アッパレール27と、前側ロアスライダ28と、前側アッパスライダ29と、電極11の搬送方向とは反対方向に前側ロアスライダ28を移動させる前側ロアスライダ駆動モータと、電極11の搬送方向とは反対方向に前側アッパスライダ29を移動させる前側アッパスライダ駆動モータとを有する。
【0028】
一方、後側一軸プレス機17は、一対の第3プレス板23,23と、一対の第4プレス板24,24と、これらのプレス板23,24を電極11の両面にそれぞれ圧接する後側圧力付与手段(図示せず)と、これらのプレス板23,24による電極11の圧縮中にプレス板23,24を電極11の搬送速度に同期して移動させる後側同期手段33と、プレス板23,24による電極11の圧縮完了後にプレス板23,24を電極11の搬送方向と反対方向に移動させる後側復帰手段34とを有する。ロアレール26にはこのロアレール26に沿って摺動する後側ロアスライダ36が設けられ、アッパレール27にはこのアッパレール27に沿って摺動する後側アッパスライダ37が設けられる。後側ロアスライダ36には略逆T字状の後側ロアアーム38が取付けられ、後側アッパスライダ37には略T字状の後側アッパアーム39が取付けられる。更に後側ロアアーム38は下側の第3プレス板23及び下側の第4プレス板24にそれぞれ取付けられた第3ロッド23a及び第4ロッド24aを上下動可能に保持し、後側アッパアーム39は上側の第3プレス板23及び上側の第4プレス板24にそれぞれ取付けられた第3ロッド23a及び第4ロッド24aを上下動可能に保持するように構成される。
【0029】
ロアレール26及びアッパレール27は後側圧力付与手段の圧力が作用しても上下動しないように堅牢に形成される。また後側圧力付与手段は、後側ロアアーム38及び後側アッパアーム39にそれぞれ設けられ、フライホイールやクランクシャフトなどの機械的機構を用いた機械プレス、或いは油圧などを用いた液圧プレスである。更に後側ロアスライダ36にはロアレール26に沿って後側ロアスライダ36を移動させる後側ロアスライダ駆動モータ(図示せず)が設けられ、後側アッパスライダ37にはアッパレール27に沿って後側アッパスライダ37を移動させる後側アッパスライダ駆動モータ(図示せず)が設けられる。
【0030】
後側同期手段33は、ロアレール26と、アッパレール27と、後側ロアスライダ36と、後側アッパスライダ38と、電極11の搬送速度と同一速度で後側ロアスライダ36を移動させる後側ロアスライダ駆動モータと、電極11の搬送速度と同一速度で後側アッパスライダ37を移動させる後側アッパスライダ駆動モータとを有する。また後側復帰手段34は、ロアレール26と、アッパレール27と、後側ロアスライダ36と、後側アッパスライダ37と、電極11の搬送方向とは反対方向に後側ロアスライダ36を移動させる後側ロアスライダ駆動モータと、電極11の搬送方向とは反対方向に後側アッパスライダ37を移動させる後側アッパスライダ駆動モータとを有する。
【0031】
なお、第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮応力は、好ましくは10〜5000MPa、更に好ましくは100〜800MPaに設定される。また一対のプレスローラ13a,13aよる電極11の圧縮応力は、好ましくは50〜5000MPa、更に好ましくは100〜800MPaに設定される。ここで、第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮応力を10〜5000MPaの範囲内に限定したのは、10MPa未満では電極膜が所定の空隙率近くになるまで低減できず、5000MPaを越えると電極11を必要以上に圧縮して電極膜の空隙率が所定値を下回ってしまうからである。また、一対のプレスローラ13a,13aによる電極11の圧縮応力を50〜5000MPaの範囲内に限定したのは、50MPa未満では一軸プレス機16,17によって電極11の潰れ方が多少大きくなった部分を除去できず、また電極膜の空隙率を所定値まで低減できず、5000MPaを越えると電極11を必要以上に圧縮して電極膜の空隙率が所定値を下回ってしまうからである。また電極11の第1〜第4プレス板21〜24による圧縮後の電極膜の空隙率は25〜45%の範囲内に設定されることが好ましく、電極11を第1〜第4プレス板21〜24により圧縮し、更にこの電極11を一対のプレスローラ13a,13aにより圧縮した後の電極膜の空隙率は、電極11の第1〜第4プレス板21〜24による圧縮後の電極膜の空隙率25〜45%より小さい範囲内であって、20〜40%の範囲内に設定されることが好ましい。
【0032】
一方、第1〜第4プレス板21〜24のうち隣り合うプレス板の間隔は、第1〜第4プレス板21〜24の電極11の搬送方向の長さより僅かに短く形成される。これにより、プレス板21〜24により二度圧縮されて潰れ方が多少大きくなった部分が電極11表面に僅かに生じるようになっている。また各プレス板21〜24には、図示しないが、電極膜を変形し易くするために電極11を加熱するヒータ等により構成された加熱手段と、プレス板21〜24を電極11から離脱し易くするために電極11を冷却する冷却水が通る通路等により構成された冷却手段とがそれぞれ設けられる。
【0033】
このように構成されたプレス装置10を用いて電極11をプレスする方法を説明する。先ず電極箔とこの電極箔上に電極用ペーストを塗工して形成された電極膜とを有するシート状の電極11を搬送手段12にセットする。具体的には、電極11を搬送手段12の第1ガイドローラ12b、一対の搬送ローラ12a,12a及び第2ガイドローラ12cに掛け渡した後、電極11の先端を一対のプレスローラ13a,13aにより挟む。このとき第1〜第4プレス板21〜24は電極11から離れた状態に保持される(
図2(a))。次いで一対の搬送ローラ12a,12aと一対のプレスローラ13a,13aを駆動して電極11を
図1の矢印で示す方向に搬送し、前側同期手段18及び後側同期手段33により第1〜第4プレス板21〜24を電極11の搬送速度に同期して移動させる。この状態で前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して電極11を第1〜第4プレス板21〜24により挟んで圧縮する(
図2(b))。そして第4プレス板24の後端が一対のプレスローラ13a,13aに近付いて
図2の二点鎖線Cの位置に達したときに(
図2(c))、前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して第1〜第4プレス板21〜24を電極11から離す(
図2(d))。
【0034】
次に第1〜第4プレス板21〜24を前側復帰手段19及び後側復帰手段34により電極11の搬送方向とは反対方向に移動させ、第1プレス板21の前端が第2ガイドローラ12cに近付いて
図3の一点鎖線Bの位置に達したときに(
図3(e))、前側同期手段18及び後側同期手段33により第1〜第4プレス板21〜24を電極11の搬送速度に同期して移動させる。この状態で前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して電極11を第1〜第4プレス板21〜24により挟んで圧縮する(
図3(f))。このとき電極11の第3及び第4プレス板23,24により挟んで圧縮される部分は、既に所定の間隔をあけて圧縮された4つの部分の間に位置する3つの圧縮されていない部分11a,11a,11aのうち電極11の搬送方向上流側の2つの部分11a,11aである。なお、上記3つの圧縮されていない部分11a,11a,11aのうち電極11の搬送方向の最も下流側の部分11aは、第4プレス板24が電極11の搬送方向とは反対側に復帰する距離が短すぎ、電極11の搬送方向の最も下流側の部分11aを第4プレス板24により十分に圧縮できないため、第4プレス板24により圧縮されずに、電極11を全長にわたって圧縮した後に切取って破棄される。そして第4プレス板24の後端が一対のプレスローラ13a,13aに近付いて
図3の二点鎖線Cの位置に達したときに(
図3(g))、前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して第1〜第4プレス板21〜24を電極11から離す(
図3(h))。
【0035】
次に第1〜第4プレス板21〜24を前側復帰手段19及び後側復帰手段34により電極11の搬送方向とは反対方向に移動させ、第1プレス板21の前端が第2ガイドローラ12cに近付いて
図4の破線Aの位置に達したときに(
図4(i))、前側同期手段18及び後側同期手段33により第1〜第4プレス板21〜24を電極11の搬送速度に同期して移動させる。この状態で前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して電極11を第1〜第4プレス板21〜24により挟んで圧縮する(
図4(j))。このとき電極11の第4プレス板24により挟んで圧縮される部分は、第1及び第2プレス板21,22により圧縮された部分の間に位置する1つの圧縮されていない部分11aである。そして第4プレス板24の後端が一対のプレスローラ13a,13aに近付いて
図4の二点鎖線Cの位置に達したときに(
図4(k))、前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して第1〜第4プレス板21〜24を電極11から離す(
図4(l))。
【0036】
次に第1〜第4プレス板21〜24を前側復帰手段19及び後側復帰手段34により電極11の搬送方向とは反対方向に移動させ、第1プレス板21の前端が第2ガイドローラ12cに近付いて
図5の一点鎖線Bの位置に達したときに(
図5(m))、前側同期手段18及び後側同期手段33により第1〜第4プレス板21〜24を電極11の搬送速度に同期して移動させる。この状態で前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して電極11を第1〜第4プレス板21〜24により挟んで圧縮する(
図5(n))。このとき電極11の第3及び第4プレス板23,24により挟んで圧縮される部分は、第2〜第4プレス板22〜24により圧縮された部分の間に位置する2つの圧縮されていない部分11a,11aである。そして第4プレス板24の後端が一対のプレスローラ13a,13aに近付いて
図5の二点鎖線Cの位置に達したときに(
図5(o))、前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して第1〜第4プレス板21〜24を電極11から離す(
図5(p))。
【0037】
次に第1〜第4プレス板21〜24を前側復帰手段19及び後側復帰手段34により電極11の搬送方向とは反対方向に移動させ、第1プレス板21の前端が第2ガイドローラ12cに近付いて
図6の破線Aの位置に達したときに(
図6(q))、前側同期手段18及び後側同期手段33により第1〜第4プレス板21〜24を電極11の搬送速度に同期して移動させる。この状態で前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して電極11を第1〜第4プレス板21〜24により挟んで圧縮する(
図6(r))。このとき電極11の第4プレス板24により挟んで圧縮される部分は、第1及び第2プレス板21,22により圧縮された部分の間に位置する1つの圧縮されていない部分11aである。そして第4プレス板24の後端が一対のプレスローラ13a,13aに近付いて
図6の二点鎖線Cの位置に達したときに(
図6(s))、前側圧力付与手段及び後側圧力付与手段を駆動して第1〜第4プレス板21〜24を電極11から離す(
図6(t))。上記動作を繰り返して電極11が略全長にわたって圧縮される。また第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮の前半において各プレス板21〜24に設けられた加熱手段を作動させることにより、電極11が加熱されて電極膜が変形し易くなり、第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮の後半において各プレス板21〜24に設けられた冷却手段を作動させることにより、電極11が冷却されてプレス板21〜24が電極11から離脱し易くなる。
【0038】
このように電極11を所定の速度で搬送している状態で、第1〜第4プレス板21〜24を電極11の搬送速度に同期して移動させながら、電極11をその厚さ方向から第1〜第4プレス板21〜24により挟んで圧縮するので、第1〜第4プレス板21〜24による縦方向(電極11の厚さ方向)の圧縮応力のみが電極11に作用し、第1〜第4プレス板21〜24による横方向(電極11の搬送方向)への剪断応力(ずり応力)が電極11に作用することはなく、更に第1〜第4プレス板21〜24により電極11を横方向(電極11の搬送方向)に引っ張る力が電極11に作用することもない。この結果、電極膜が電極箔から剥離することはなく、電極箔が破れることもない。また第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮完了後に、これらのプレス板21〜24を電極11の搬送方向と反対方向に移動させて、再び第1〜第4プレス板21〜24により電極11を圧縮するので、第1〜第4プレス板21〜24により電極11の先端部分を除いた略全面を圧縮できる。更に第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮完了後に、所定の速度で搬送された電極を一対のプレスローラ13a,13aにより挟んで圧縮するので、第1〜第4プレス板21〜24により二度圧縮されて潰れ方が多少大きくなった部分が電極11表面に生じるけれども、この潰れ方が多少大きくなった部分が一対のプレスローラ13a,13aにより均されて、表面が平らな電極11を作製できる。
【0039】
ここで、第1〜第4プレス板21〜24による電極11の圧縮応力を比較的大きくして、電極膜の空隙率が所定値近くになるように電極を圧縮し、一対のプレスローラ13a,13aによる電極11の圧縮応力を比較的小さくして、電極11の潰れ方が多少大きくなった部分を除去するとともに、電極膜の空隙率が所定値になるように電極11を圧縮する。これにより、電極膜が電極箔から剥離することはなく、電極箔が破れることもなく、電極11を効率良く圧縮でき、表面が平らな電極11が得られる。またプレス板を電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして、2セット設けたので、各プレス板21〜24の面積を比較的小さくすることができる。この結果、プレス板21〜24による電極11の圧縮に必要な圧縮応力を比較的小型のプレス装置で得ることができるとともに、電極膜の空隙率を所定値まで効率良く低減できる。
【0040】
なお、上記実施の形態では、一対のプレス板を電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして、2セット設けたが、電極の生産性よりも電極膜の正確な空隙率が要求される場合には、一対のプレス板を1組だけ設けたり、2組1セット設けてもよく、電極膜の正確な空隙率に加えて電極の生産性の更なる向上が要求される場合には、一対のプレス板を電極の搬送方向に所定の間隔をあけて2組1セットとして、3セット以上設けてもよい。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0042】
<実施例1>
先ず幅及び長さがそれぞれ200mm及び100mであるロール状のアルミ箔からなる電極箔を用意した。次いでLiFePO
4からなる正極活物質90質量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる結着剤5質量%と、アセチレンブラック(AB)からなる導電助剤5質量%とを混合して電極用ペーストを調製した。次に塗工機により電極用ペーストを電極箔上に塗工して、電極箔上に厚さ50μm程度の電極膜を形成した。更にこの電極膜が形成された電極箔を130℃の熱風炉に入れて乾燥して空隙率73%の電極を作製し、この電極をプレス装置で圧縮して電極の空隙率を低減した。
【0043】
上記プレス装置は、
図1に示すように、電極11を搬送する搬送手段12と、第1及び第2プレス板21,22を有する前側一軸プレス機16と、第3及び第4プレス板23,24を有する後側一軸プレス機17と、一対のプレスローラ13a,13aを有するローラプレス機13とを備えた。搬送手段12により1m/分の速度で搬送された電極11を圧力89MPaの第1〜第4プレス板21〜24で挟んで圧縮し電極11の空隙率を36%に低減させた後、この電極11を圧力100MPaの一対のプレスローラ13a,13aで挟んで圧縮し電極11の空隙率を35%に低減させた。この電極11を実施例1とした。なお、第1〜第4プレス板21〜24のプレス面は200mm及び100mmの長方形であった。
【0044】
<比較例1>
第1〜第4プレス板を用いずに、電極を圧力100MPaの一対のプレスローラにより挟んで圧縮し電極の空隙率を35%に低減させたこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製した。この電極を比較例1とした。
【0045】
<比較試験1及び評価>
実施例1及び比較例1の電極を、幅及び長さがそれぞれ25mm及び30mmになるように打抜いた。そして電極の下面、即ち電極箔の露出する面に両面粘着テープを貼付け、この両面粘着テープの露出面をステンレス製の平板に貼付けることにより、電極をステンレス製の平板上に固定した。次に電極のうち電極膜の露出する上面に粘着テープ(ニチバン社製の登録商標セロテープNo.405)を全面にわたって貼付け、この粘着テープの一端を把持して、10mm/秒の速度で上方に引上げ、粘着テープを電極から剥がした。そして粘着テープを画像解析して、電極膜が剥離して粘着テープに付着した電極膜の面積を求め、テープ剥離率(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
表1から明らかなように、一対のプレスローラのみにより電極を圧縮した比較例1ではテープ剥離率が41%と大きかったのに対し、第1〜第4プレス板により電極を圧縮した後に、一対のプレスローラで電極を圧縮した実施例1ではテープ剥離率が7%と小さくなった。このことから実施例1の方法で電極を圧縮すると、電極膜が電極箔から剥がれ難い電極を作製できることが分かった。