特許第5796539号(P5796539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ポリプロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5796539-熱成形体 図000008
  • 特許5796539-熱成形体 図000009
  • 特許5796539-熱成形体 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796539
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】熱成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20151001BHJP
   C08F 297/00 20060101ALI20151001BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20151001BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20151001BHJP
   B65D 77/20 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B32B27/32 E
   C08F297/00
   B65D1/00
   B65D1/34
   B65D77/20 F
【請求項の数】3
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-106631(P2012-106631)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-233695(P2013-233695A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤村 和昌
(72)【発明者】
【氏名】高山 正人
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−229078(JP,A)
【文献】 特開2005−305767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B65D 1/00
B65D 1/34
B65D 77/20
C08F 297/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層に下記(A−i)〜(A−iii)の条件を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対し、ポリエチレン0重量部を超えて100重量部以下を含有する組成物を用い、第2層に融点150℃以上のポリプロピレン100重量部に対し無機充填剤5〜100重量部を配合した組成物を用いた少なくとも2層構造からなり、積層シートの厚みが200〜1000μmで、第1層の厚みが10〜100μmであるポリプロピレン系積層シートを熱成形してなる熱成形体。
(A−i)メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20重量%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体であること。
(A−ii)メルトフローレート(2.16kg 230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にあること。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有すること。
【請求項2】
熱成形体が、容器である請求項1に記載の熱成形体。
【請求項3】
容器の第1層に、蓋が熱シールされる請求項に記載の熱成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形体に関し、さらに詳しくは、プロピレン系重合体を用いた積層シートを用いて熱成形した、剛性、光沢に優れ、さらにヒートシール特性に優れた熱成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、優れた成形性、機械的特性、耐熱性、化学的な安定性を兼ね備えた汎用樹脂であり、その特徴を利用すべく押出し成形、射出成形などの方法で成形加工されて使用されている。
しかしながら、プロピレン系重合体は、特にポリスチレン、ポリ塩化ビニール等に比較して剛性が著しく劣るという欠点がある。
プロピレン系重合体の剛性を改良する方法として、例えば、高融点のポリプロピレンを使用し、さらにタルク等の無機充填材を加えて剛性を改良し、これを押出した押出ートを使用して、各種の熱成形により、包装用等の成形体容器に使用されている。
【0003】
また、近年、プロピレン単独重合体やプロピレンとα−オレフィンとの共重合体に造核剤を配合した組成物の押出しシートを熱成形して、透明性の良い蓋状の熱成形体を作成し、別に熱成形された容器本体のための蓋として、使用されているが、実使用においては、蓋と容器本体が離れることを防止する必要がある。
例えば、コンビニエンスストア等では、弁当用容器本体と蓋を接着するために、両者を接着テープで接着したり、さらにラップフィルムで包装する等の方法が行われている。
【0004】
一方、容器本体に蓋をする場合に、フィルムで蓋をする場合は、熱接着(ヒートシール)にて完全に接着することが出来る。しかし、蓋として、熱成形による熱成形体を使用する場合は、低温でヒートシールする方法が困難であり、接着テープやラップフィルム等の煩雑な方法をとらざるを得なかった。フィルムで蓋をする場合は、剛性に乏しい為に内容物の保護が出来ない。
このように、蓋とのヒートシールが可能な熱成形体容器が、強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、プロピレン系重合体の押出しシートを用いて、剛性、光沢に優れ、ヒートシール可能な熱成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、メタロセン系触媒を使用する多段重合による、特定のプロピレン−エチレンブロック共重合体をヒートシール層に使用し、無機充填剤を配合した特定のポリプロピレン樹脂との積層シートを用いることにより、剛性、光沢を有しながらヒートシール可能な熱成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の熱成形体を提供する。
【0007】
[1]第1層に下記(A−i)〜(A−iii)の条件を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対し、ポリエチレン0重量部を超えて100重量部以下を含有する組成物を用い、第2層に融点150℃以上のポリプロピレン100重量部に対し無機充填剤5〜100重量部を配合した組成物を用いた少なくとも2層構造からなり、積層シートの厚みが200〜1000μmで、第1層の厚みが10〜100μmであるポリプロピレン系積層シートを熱成形してなる熱成形体。
(A−i)メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20重量%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体であること。
(A−ii)メルトフローレート(2.16kg 230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にあること。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有すること。
]熱成形体が、容器である上記[1]に記載の熱成形体。
]容器の第1層に、蓋が熱シールされる上記[]に記載の熱成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱成形体は、剛性、光沢に極めて優れ、またヒートシール可能で確実な密封が可能であり、各種食品、日用品等の包装用容器等に特に好適に使用でき、また、医療、電子用途での包装又は収容用容器等にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に使用したPP−1の溶出量曲線と溶出量積算を示すグラフ図である。
図2】本発明の実施例に使用したPP−1の固体粘弾性測定を示すグラフ図である。
図3】本発明の実施例に使用したPP−3の固体粘弾性測定を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱成形体は、第1層に(A−i)〜(A−iii)の条件を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用い、第2層に融点150℃以上のポリプロピレン100重量部に対し無機充填剤5〜100重量部を配合した組成物を用いた少なくとも2層構造からなるポリプロピレン系積層シートを熱成形してなる熱成形体である。
以下に、使用する樹脂、層構成及び成形法等について詳細に説明する。
【0011】
[1.プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)]
本発明の熱成形体に使用する積層シートの第1層には、(A−i)〜(A−iii)の条件を満たすプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用いる。
(A−i)メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で成分(A1)よりも3〜20重量%多くのエチレンを含有するプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%逐次重合することで得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体であること
(A−ii)メルトフローレート(2.16kg 230℃)が0.1〜30g/10分の範囲にあること
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有すること
【0012】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、上記のとおり、メタロセン系触媒を用いて、第1工程でエチレン含量0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)を30〜95重量%、第2工程で第1工程よりも3〜20重量%多くのエチレンを含むプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜5重量%、逐次重合することで得られる。
なお、このようなプロピレン−エチレンブロック共重合体は、いわゆるブロック共重合体と通称されているものであり、成分(A1)と成分(A2)のブレンド状態にあるものを包含するが、双方が重合で結合してリアルブロック構造を形成しているものであってもよい。
【0013】
・プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)について
・・成分(A1)中のエチレン含量E(A1)
第1工程で製造される成分(A1)は、ベタツキを抑制し、耐熱性を発現するために、融点が比較的高く、結晶性を有するエチレン含量が0.3〜7重量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体であらねばならない。エチレン含量が0.3重量%を下回ると接着性が不足し、エチレン含量が7重量%を超えると融点が低くなりすぎ耐熱性を悪化させるため、エチレン含量は0.3〜7重量%、好ましくは0.5〜6重量%とされる。
なお、成分(A1)はプロピレン単独重合体でも改良された接着性や光沢及び耐熱性を示すが、成分(A1)がプロピレン単独重合体の場合には光沢を維持しながら充分な接着性を発揮させるために後述する成分(A2)の割合を極端に増加させる必要が生じ、これにより耐熱性及びベタツキやブロッキングなどの顕著な悪化を招くことが懸念される。
一方、成分(A1)をプロピレン−エチレンランダム共重合体とすると、成分(A1)自体の融点は低下することで耐熱性は悪化するように見えるが、充分な接着性を発揮するために必要な成分(A2)の量を抑制できることで、ブロック共重合体全体としての耐熱性はむしろ向上し、かつ、ベタツキやブロッキングの悪化が小さいため好ましい。
さらに融点を低下させられることで、シート成形時の成形温度を低下させても充分な成形安定性が得られることで加熱による臭気の発生などが極めて少ない優れたシートを得ることができる。
これらの観点から、成分(A1)中のエチレン含量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上である。
【0014】
・・ブロック共重合体(A)中に占める成分(A1)の割合
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)中に占める成分(A1)の割合が多過ぎると、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の接着性の改良効果を充分に発揮することができない。そこで成分(A1)の割合は95重量%以下であり、好ましくは85重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
一方、成分(A1)の割合が少なくなり過ぎるとベタツキが増加するといった問題を生じるため、成分(A1)の割合は30重量%以上であり、好ましくは40重量%以上である。
【0015】
・プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)について
・・成分(A2)中のエチレン含量E(A2)
第2工程で製造されるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の接着性を向上させるのに必要な成分である。
ここで、成分(A2)は、上記効果を充分発揮するために特定範囲のエチレン含量であることが必要である。すなわち、ブロック共重合体(A)において、成分(A1)に対し成分(A2)の結晶性は低い方が、接着性改良効果が大きく、結晶性はプロピレン−エチレンランダム共重合体中のエチレン含量で制御されるため、成分(A2)中のエチレン含量E(A2)は、成分(A1)中のエチレン含量E(A1)よりも3重量%以上多くないとその効果を発揮できず、好ましくは6重量%以上、より好ましくは8重量%以上、成分(A1)よりも多くのエチレンを含む。
ここで、成分(A1)と成分(A2)のエチレン含量の差をE(gap)(=E(A2)−E(A1))と定義すると、E(gap)は3重量%以上であり、好ましくは6重量%以上、より好ましくは8重量%以上である。
【0016】
一方、成分(A2)の結晶性を下げるためにエチレン含量を増加させ過ぎると、成分(A1)と成分(A2)のエチレン含量の差E(gap)が大きくなり、マトリクスとドメインに分かれた相分離構造を取り、透明性が低下する。これは元来、ポリプロピレンはポリエチレンとの相溶性が低く、プロピレン−エチレンランダム共重合体においても、エチレン含量が異なるものの相互の相溶性は、エチレン含量の違いが大きくなると低下するためである。E(gap)の上限については、後述する固体粘弾性測定によりtanδのピークが単一になる範囲にあればよいが、そのためにはE(gap)は20重量%以下であり、好ましくは18重量%以下、より好ましくは16重量%以下の範囲とされる。
【0017】
・・ブロック共重合体(A)中に占める成分(A2)の割合
成分(A2)の割合が多過ぎるとベタツキが増加しブロッキングに悪化が生じるため、成分(A2)の割合は70重量%以下に抑えることが必要である。
一方、成分(A2)の割合が少なくなり過ぎると接着性の改良効果が得られないため、(A2)の割合は5重量%以上であることが必要であり、好ましくは15重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。
【0018】
・ブロック共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のMFRは、0.1〜30g/10minの範囲であることが必要である。MFRが低すぎると、シートの表面にシャークスキンやメルトフラクチャと呼ばれる表面あれが発生し光沢や外観を著しく損なう。一方、MFRが高すぎると、シートの成形安定性が損なわれ、耐衝撃性が低下するため好ましくない。
そこで、本発明において成分(A)のMFRは0.1〜30g/10minの範囲を取らなくてはならず、0.5〜10g/10minの範囲が、成形安定性やシート外観、物性のバランスの観点から好適である。
なお、本発明におけるメルトフローレート(MFR)はJIS K7210 A法 条件M に従い、試験温度:230℃、公称加重:2.16kg、ダイ形状:直径2.095mm 長さ8.00mm の条件で測定されたものである。
【0019】
・固体粘弾性によるtanδ曲線のピーク規定
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有することが必要である。
プロピレン−エチレンブロック共重合体が相分離構造を取る場合には、成分(A1)に含まれる非晶部のガラス転移温度と成分(A2)に含まれる非晶部のガラス転移温度が各々異なるため、ピークは複数となる。この場合には、透明性が顕著に悪化するという問題が生じる。
相分離構造を取っているかどうかは、固体粘弾性測定におけるtanδ曲線において判別可能であり、成形体の透明性を左右する相分離構造の回避は、tanδ曲線が0℃以下に単一のピークを有することによりもたらされる。
本発明においては、透明性を発揮するために、固体粘弾性測定におけるtanδ曲線が単一のピークを持つことが必要である。
なお、本発明のtanδ曲線のピークの実例、及び比較のための単一のピークを有しない場合のtanδ曲線の実例が、各々重合製造例−1(PP−1)及び重合製造例−3(PP−3)における実例として、図2及び図3に示されている。
【0020】
・・測定法
固体粘弾性測定とは、具体的には、短冊状の試料片に特定周波数の正弦歪みを与え、発生する応力を検知することで行う。ここでは周波数は1Hzを用い測定温度は−60℃から段階状に昇温し、サンプルが融解して測定不能になるまで行う。また、歪みの大きさは0.1〜0.5%程度が推奨される。得られた応力から、公知の方法によって貯蔵弾性率と損失弾性率を求め、これの比で定義される損失正接(=損失弾性率G’’/貯蔵弾性率G’)を温度に対してプロットすると、tanδ曲線が得られ、本発明においては、0℃以下の温度領域で鋭いピークを示す。一般に0℃以下でのtanδ曲線のピークは非晶部のガラス転移を観測するものであり、ここでは本ピーク温度をガラス転移温度Tg(℃)として定義する。
【0021】
・成分(A1)と(A2)の各成分のエチレン含量E(A1)とE(A2)及び各成分量W(A1)とW(A2)の特定
成分(A1)と(A2)の各エチレン含量及び成分量は、重合時の物質収支(マテリアルバランス)によって特定することも可能であるが、より正確にこれらを特定するためには、以下の分析(分別法)を用いることが望ましい。
【0022】
・・温度昇温溶離分別法(TREF)による各成分量W(A1)とW(A2)の特定
・・・温度昇温溶離分別法
プロピレン−エチレンランダム共重合体の結晶性分布を温度昇温溶離分別法(TREF)により評価する手法は、当業者によく知られているものであり、例えば、次の文献などで詳細な測定法が示されている。
G.Glockner,J.Appl.Polym.Sci.:Appl.Polym.Symp.;45,1−24(1990)
L.Wild,Adv.Polym.Sci.;98,1−47(1990)
J.B.P.Soares,A.E.Hamielec,Polymer;36,8,1639−1654(1995)
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、成分(A1)と(A2)各々の結晶性に大きな違いがあり、また、メタロセン系触媒を用いて製造されることで各々の結晶性分布が狭くなっていることから双方の中間的な成分は極めて少なく、双方をTREFにより精度良く分別することが可能である。
【0023】
o−ジクロロベンゼン溶媒を用いた−15℃〜140℃の温度範囲での温度昇温溶離分別法(TREF)による温度に対する溶出量(dWt%/dT)のプロットとして得られるTREF溶出曲線において、成分(A1)と(A2)は結晶性の違いにより各々の温度T(A1)とT(A2)にその溶出ピークを示し、その差は充分大きいため、中間の温度T(A3)(={T(A1)+T(A2)}/2)においてほぼ分離が可能である。
また、TREF測定温度の下限は、本測定に用いた装置では−15℃であるが、成分(A2)の結晶性が非常に低い或いは非晶性成分の場合には本測定方法において、測定温度範囲内にピークを示さない場合がある(このとき測定温度下限(すなわち−15℃)において溶媒に溶解した成分(A2)の濃度は検出される。)。この場合には、T(A2)は測定温度下限以下に存在するものと考えられるが、その値を測定することができないため、このような場合にはT(A2)を測定温度下限である−15℃と定義する。
ここで、T(A3)までに溶出する成分の積算量をW(A2)重量%、T(A3)以上で溶出する部分の積算量をW(A1)重量%と定義すると、W(A2)は結晶性が低い或いは非晶性の成分(A2)の量とほぼ対応しており、T(A3)以上で溶出する成分の積算量W(A1)は結晶性が比較的高い成分(A1)の量とほぼ対応している。なお、TREF溶出曲線の実例は、重合製造例A−1における実例として、図1に例示されている。
【0024】
・・・TREF測定方法
本発明においては、具体的には次のように測定を行う。試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後に8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後、溶媒である−15℃のo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)を1ml/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0025】
・・各成分中のエチレン含量E(A1)とE(A2)の特定
・・・成分(A1)と(A2)の分離
先のTREF測定により求めたT(A3)を基に、分取型分別装置を用い昇温カラム分別法により、T(A3)における可溶成分の成分(A2)と、T(A3)における不溶成分の成分(A1)とに分別し、NMRにより各成分のエチレン含量を求める。
昇温カラム分別法とは、例えば、Macromolecukes 21 314−319(1988)に開示されたような測定方法をいう。具体的には、本発明において以下の方法を用いた。
【0026】
・・・分別条件
直径50mmで高さ500mmの円筒状カラムにガラスビーズ担体(80〜100メッシュ)を充填し、140℃に保持する。次に、140℃で溶解したサンプルのo−ジクロロベンゼン溶液(10mg/ml)200mlを前記カラムに導入する。その後、該カラムの温度を0℃まで10℃/時間の降温速度で冷却する。0℃で1時間保持後、10℃/時間の昇温速度でカラム温度をT(A3)まで加熱し、1時間保持する。なお、一連の操作を通じてのカラムの温度制御精度は±1℃とする。
次いで、カラム温度をT(A3)に保持したまま、T(A3)のo−ジクロロベンゼンを20ml/分の流速で800ml流すことにより、カラム内に存在するT(A3)で可溶な成分を溶出させ回収する。
次に、10℃/分の昇温速度で当該カラム温度を140℃まで上げ、140℃で1時間静置後、140℃の溶媒のo−ジクロロベンゼンを20ml/分の流速で800ml流すことにより、T(A3)で不溶な成分を溶出させ回収する。
分別によって得られたポリマーを含む溶液は、エバポレーターを用いて20mlまで濃縮された後、5倍量のメタノール中に析出される。析出ポリマーを濾過して回収後、真空乾燥器により一晩乾燥する。
【0027】
・・・13C−NMRによるエチレン含量の測定
上記分別により得られた成分(A1)と(A2)それぞれについてのエチレン含有量は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した、13C−NMRスペクトルを解析することにより求める。
機種:日本電子(株)製 GSX−400又は同等の装置(炭素核共鳴周波数100MHz以上)
溶媒:o−ジクロロベンゼン/重ベンゼン=4/1(体積比)
濃度:100mg/ml
温度:130℃
パルス角:90°
パルス間隔:15秒
積算回数:5,000回以上
【0028】
スペクトルの帰属は、例えばMacromolecules 17 1950 (1984)などを参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は表1の通りである。表中Sααなどの記号はCarmanら(Macromolecules 10 536 (1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
【0029】
【表1】
【0030】
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、及びEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules 15 1150 (1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度とスペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ) (1)
[PPE]=k×I(Tβδ) (2)
[EPE]=k×I(Tδδ) (3)
[PEP]=k×I(Sββ) (4)
[PEE]=k×I(Sβδ) (5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} (6)
【0031】
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。
したがって、[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1 (7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えばI(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。
上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含有量が求まる。
エチレン含有量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
なお、本発明のプロピレンランダム共重合体には少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/又は1,3−結合)が含まれ、それにより、表2に示す微小なピークを生じる。
【0032】
【表2】
【0033】
正確なエチレン含有量を求めるにはこれら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また異種結合量が少量であることから、本発明のエチレン含有量は実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
エチレン含有量のモル%から重量%への換算は以下の式を用いて行う。
エチレン含有量(重量%)=(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100 ここでXはモル%表示でのエチレン含有量である。
【0034】
また、ブロック共重合体全体のエチレン含量E(W)は、上記より測定された成分(A1)と(A2)それぞれのエチレン含量E(A1)とE(A2)及びTREFより算出される各成分の重量比率W(A1)とW(A2)重量%から以下の式により算出される。
E(W)={E(A1)×W(A1)+E(A2)×W(A2)}/100 (重量%)
【0035】
[2.プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造方法]
(1)メタロセン系触媒
本発明のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を製造する方法は、メタロセン系触媒の使用を必須とするものである。
プロピレン−エチレンブロック共重合体において分子量及び結晶性分布が広いとベタツキやブリードアウトが悪化することは当業者に広く知られるところであるが、本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体においても、ベタツキ及びブリードアウトを抑制するため、かつ、シート成形において充分な透明性を発揮するために、分子量及び結晶性分布を狭くできるメタロセン系触媒を用いて重合されることが必要であり、チーグラー・ナッタ系触媒では本発明の優れたプロピレン−エチレンブロック共重合体が得られないのは、後記の実施例と比較例との対比からも明らかである。
【0036】
メタロセン系触媒の種類は、本発明の性能を有するブロック共重合体(A)を生成できる限りは、特に限定はされるものではないが、本発明の要件を満たすために、例えば、下記に示すような成分(a)と(b)及び必要に応じて使用する成分(c)からなるメタロセン系触媒を用いることが好ましい。
成分(a):一般式(1)で表される遷移金属化合物から選ばれる少なくとも1種のメタロセン遷移金属化合物
成分(b):下記(b−1)〜(b−4)から選ばれる少なくとも1種の固体成分
(b−1)有機アルミオキシ化合物が担持された微粒子状担体
(b−2)成分(A)と反応して成分(A)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸が担持された微粒子状担体
(b−3)固体酸微粒子
(b−4)イオン交換性層状珪酸塩
成分(c):有機アルミニウム化合物。
【0037】
(1−1)成分(a)
成分(a)としては、下記一般式(1)で表される遷移金属化合物から選ばれる少なくとも1種のメタロセン遷移金属化合物を使用することができる。
Q(C−aR)(C−bR)MeXY (1)
ここで、Qは、2つの共役五員環配位子を架橋する2価の結合性基を示し、Meは、チタン、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれる金属原子を示し、X及びYは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示し、X及びYは、それぞれ独立に、すなわち同一でも異なっていてもよい。R、Rは、水素、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基を示す。a及びbは置換基の数である。
【0038】
詳しくは、Qは2つの共役五員環配位子を架橋する2価の結合性基を表し、例えば、2価の炭化水素基、シリレン基ないしはオリゴシリレン基、炭化水素基を置換基として有するシリレン基或いはオリゴシリレン基、又は炭化水素基を置換基として有するゲルミレン基などが例示される。この中でも好ましいものは2価の炭化水素基と炭化水素基を置換基として有するシリレン基である。
X及びYは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、アミノ基、窒素含有炭化水素基、リン含有炭化水素基又はケイ素含有炭化水素基を示し、このうちで好ましいものとしては、水素、塩素、メチル、イソブチル、フェニル、ジメチルアミド、ジエチルアミド基などを例示することができる。X及びYは、それぞれ独立に、すなわち同一でも異なっていてもよい。
【0039】
とRは、水素、炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基を表す。炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基、ナフチル基、ブテニル基、ブタジエニル基などが例示される。また、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基としては、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、トリメチルシリル基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピラゾリル基、インドリル基、ジメチルフォスフィノ基、ジフェニルフォスフィノ基、ジフェニルホウ素基、ジメトキシホウ素基などを典型的な例として例示できる。これらの中で、炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であることが特に好ましい。ところで、隣接したRとRは、結合して環を形成してもよく、この環上に炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有炭化水素基、窒素含有炭化水素基、酸素含有炭化水素基、ホウ素含有炭化水素基又はリン含有炭化水素基からなる置換基を有していてもよい。
Meは、チタン、ジルコニウム、ハフニウムの中から選ばれる金属原子であり、好ましくはジルコニウム、ハフニウムである。
【0040】
以上において記載した成分(a)の中で、本発明のプロピレン系重合体の製造に好ましいものは、炭化水素置換基を有するシリレン基、ゲルミレン基或いはアルキレン基で架橋された置換シクロペンタジエニル基、置換インデニル基、置換フルオレニル基、置換アズレニル基を有する配位子からなる遷移金属化合物であり、特に好ましくは、炭化水素置換基を有するシリレン基、或いはゲルミレン基で架橋された2,4−位置換インデニル基、2,4−位置換アズレニル基を有する配位子からなる遷移金属化合物である。
【0041】
非限定的な具体例としては、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−メチルベンゾインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−イソプロピル−4−(3,5−ジイソプロピルフェニル)インデニル}ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−プロピル−4−フェナントリルインデニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルアズレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)アズレニル}ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−エチル−4−フェニルアズレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス(2−イソプロピル−4−フェニルアズレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(2−フルオロビフェニル)アズレニル}ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(4−t−ブチル−3−クロロフェニル)アズレニル}ジルコニウムジクロリドなどがあげられる。
これらの具体例の化合物のシリレン基をゲルミレン基に、ジルコニウムをハフニウムに置き換えた化合物も好適な化合物として例示される。
なお、触媒成分は本発明の重要要素ではないので、煩雑な列記を避け、代表的な例示に限定しているが、これにより本発明の有効範囲が制限されることがないのは自明のことである。
【0042】
(1−2)成分(b)
成分(b)としては、上述した成分(b−1)〜成分(b−4)から選ばれる少なくとも1種の固体成分を使用する。これらの各成分は公知のものであり、公知技術の中から適宜選択して使用することができる。その具体的な例示や製造方法については、特開2002−284808公報、特開2002−53609号公報、特開2002−69116号公報、特開2003−105015号公報などに詳細な例示がある。
ここで、成分(b−1)、成分(b−2)に用いられる微粒子状担体としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、シリカアルミナ、シリカマグネシアなどの無機酸化物、塩化マグネシウム、オキシ塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ランタンなどの無機ハロゲン化物、さらには、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、スチレンジビニルベンセン共重合体、アクリル酸系共重合体などの多孔質の有機担体を挙げることができる。
【0043】
また、成分(B)の非限定的な具体例としては、成分(b−1)として、メチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、メチルイソブチルアルモキサン、ブチルボロン酸アルミニウムテトライソブチルなどが担持された微粒子状担体を、成分(b−2)として、トリフェニルボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが担持された微粒子状担体を、成分(b−3)として、アルミナ、シリカアルミナ、塩化マグネシウムなどを、成分(b−4)として、モンモリロナイト、ザコウナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライトなどのスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族などが挙げられる。これらは、混合層を形成しているものでもよい。
上記成分(b)の中で特に好ましいものは、成分(b−4)のイオン交換性層状珪酸塩であり、さらに好ましい物は、酸処理、アルカリ処理、塩処理、有機物処理などの化学処理が施されたイオン交換性層状珪酸塩である。
【0044】
(1−3)成分(c)
必要に応じて成分(c)として用いられる有機アルミニウム化合物の例は、
一般式 AlR3−a
式中、Rは、炭素数1から20の炭化水素基、Xは、水素、ハロゲン、アルコキシ基、aは0<a≦3の数)で示されるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムである。またこの他に、メチルアルミノキサンなどのアルミノキサン類なども使用できる。
これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。
【0045】
(1−4)触媒の形成
成分(a)と成分(b)及び必要に応じて成分(c)を接触させて触媒とする。その接触方法は特に限定されないが、以下のような順序で接触させることができる。また、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時又はオレフィンの重合時に行ってもよい。
1)成分(a)と成分(b)を接触させる
2)成分(a)と成分(b)を接触させた後に成分(c)を添加する
3)成分(a)と成分(c)を接触させた後に成分(b)を添加する
4)成分(b)と成分(c)を接触させた後に成分(a)を添加する
5)三成分を同時に接触させる
【0046】
(1−5)成分量
使用する成分(a)と(b)及び(c)の使用量は任意である。例えば、成分(b)に対する成分(a)の使用量は、成分(b)1gに対して、好ましくは0.1μmol〜1,000μmol、特に好ましくは0.5μmol〜500μmolの範囲である。成分(b)に対する成分(c)の使用量は、成分(b)1gに対し、好ましくは遷移金属の量が0.001〜100μmol、特に好ましくは0.005〜50μmolの範囲である。したがって、成分(a)に対する成分(c)の量は、遷移金属のモル比で、好ましくは10−5〜50、特に好ましくは10−4〜5の範囲内である。
【0047】
(1−6)予備重合
触媒は、予めオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付すことが好ましい。使用するオレフィンは、特に限定はないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレンなどを使用することが可能であり、特にプロピレンを使用することが好ましい。
オレフィンの供給方法は、オレフィンを反応槽に定速的に或いは定圧状態になるように維持する供給方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせるなど、任意の方法が可能である。予備重合温度と時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が成分(b)に対し、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。
さらに、上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0048】
(2)製造方法
(2−1)逐次重合
プロピレン−エチレンブロック重合体(A)を製造するに際しては、結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)と低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を逐次重合することが前述した理由により必要である。
逐次重合を行う際には、バッチ法と連続法のいずれを用いることも可能であるが、一般的には生産性の観点から連続法を用いることが望ましい。
バッチ法の場合には時間と共に重合条件を変化させることにより単一の反応器を用いて成分(A1)と成分(A2)を個別に重合することが可能である。本発明の効果を阻害しない限り、複数の反応器を並列に接続して用いてもよい。
連続法の場合には成分(A1)と成分(A2)を個別に重合する必要から2個以上の反応器を直列に接続した製造設備を用いる必要があるが、本発明の効果を阻害しない限り成分(A1)、成分(A2)のそれぞれについて複数の反応器を直列及び/又は並列に接続して用いてもよい。
【0049】
(2−2)重合プロセス
重合プロセス(重合方法)は、スラリー法、バルク法、気相法など任意の重合方法を用いることができる。バルク法と気相法の中間的な条件として超臨界条件を用いることも可能であるが、実質的には気相法と同等であるため、特に区別することなく気相法に含める。
低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)は炭化水素などの有機溶媒や液化プロピレンに溶け易いため、成分(A2)の製造に際しては気相法を用いることが望ましい。
結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)の製造に対してはどのプロセスを用いても特に問題はないが、比較的結晶性の低い成分(A1)を製造する場合には、付着などの問題を避けるために気相法を用いることが望ましい。
したがって、連続法を用いて、まず結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)をバルク法もしくは気相法にて重合し、引き続き低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体エラストマー成分(A2)を気相法にて重合することが最も望ましい。
【0050】
(2−3)その他の重合条件
重合温度は、通常用いられている温度範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、0℃〜200℃、より好ましくは40℃〜100℃の範囲を用いることができる。
重合圧力は、選択するプロセスによって差異が生じるが、通常用いられている圧力範囲であれば特に問題なく用いることができる。具体的には、0より大きく200MPaまで、より好ましくは0.1MPa〜50MPaの範囲を用いることができる。この際、窒素などの不活性ガスを共存させることもできる。
第一工程で成分(A1)、第二工程で成分(A2)の逐次重合を行う場合、第二工程にて系中に重合抑制剤を添加することが望ましい。プロピレン−エチレンブロック共重合体を製造する場合には、第二工程のエチレン−プロピレンランダム共重合を行う反応器に重合抑制剤を添加すると、得られるパウダーの粒子性状(流動性など)やゲルなどの製品品質を改良することができる。この手法については各種技術検討がなされており、一例として特公昭63−54296号、特開平7−25960号、特開2003−2939号などの各公報を例示することができる。本発明にも当該手法を適用することが望ましい。
【0051】
[3.プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の構成要素の制御方法]
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の各要素は、以下のように制御され、本発明のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)に必要とされる構成要件を満たすよう製造することができる。
【0052】
(1)成分(A1)について
結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A1)については、エチレン含量E(A1)を制御する必要がある。
本発明では、E(A1)を所定の範囲に制御するためには、第1工程における重合槽に供給するプロピレンとエチレンの量比を、適宜調整すればよい。供給比率と得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体中のエチレン含量の関係は、用いるメタロセン触媒の種類によって異なるが、供給比率の調整により必要とするエチレン含量E(A1)を有する成分(A1)を製造することができる。例えば、E(A1)を0〜7重量%に制御する場合には、プロピレンに対するエチレンの供給重量比を0〜0.3の範囲、好ましくは0〜0.2の範囲とすればよい。
【0053】
(2)成分(A2)について
低結晶性或いは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)については、エチレン含量E(A2)を制御する必要がある。
本発明では、E(A2)を所定の範囲に制御するためには、E(A1)と同様に、第二工程におけるプロピレンに対するエチレンの供給量比を制御すれば良い。
例えば、E(A2)を5〜20重量%に制御する場合には、プロピレンに対するエチレンの供給重量比を0.01〜5の範囲、好ましくは0.05〜2の範囲とすればよい。
【0054】
(3)W(A1)とW(A2)について
成分(A1)の量W(A1)と成分(A2)の量W(A2)は、成分(A1)を製造する第一工程の製造量と成分(A2)の製造量の比を変化させることにより制御することができる。例えば、W(A1)を増やしてW(A2)を減らすためには、第一工程の製造量を維持したまま第二工程の製造量を減らせばよく、それは、第二工程の滞留時間を短くしたり、重合温度を下げたり、重合抑制剤の量を増やしたりすることにより容易に制御することができる。その逆も又同様である。
実際に条件を設定する際には、活性減衰を考慮する必要がある。すなわち、本発明にて実施するエチレン含有量E(A1)及びE(A2)の範囲においては、一般にエチレン含有量を高くするためにプロピレンに対するエチレン供給量比を高くすると重合活性が高くなり、同時に活性減衰が大きくなる傾向にある。したがって、第二工程の活性を維持するために第一工程の重合活性を抑制する必要があり、具体的には、第一工程にて生産量W(A1)を下げ、必要に応じて、重合温度を下げる及び/又は重合時間(滞留時間)を短くする、或いは第二工程にてエチレン含有量E(A2)を上げ、生産量W(A2)を上げ、必要に応じて、重合温度を上げる及び/又は重合時間(滞留時間)を長くするような方法で条件を設定すればよい。
【0055】
(4)ガラス転移温度Tgについて
本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体では、前述したようにガラス転移温度Tgは、単一のピークを持つ必要がある。Tgが単一のピークを持つためには、成分(A1)中のエチレン含有量E(A1)と成分(A2)中のエチレン含有量E(A2)の差の[E]gap、すなわち、E(A2)−E(A1)を20重量%以下、好ましくは18重量%、より好ましくは16重量%以下にし、実際の測定においてTgが単一のピークとなる範囲までE(gap)を小さくすればよい。
結晶性の共重合体成分(A1)のエチレン含有量E(A1)に応じて、低結晶性或いは非晶性の共重合体成分(A2)のエチレン含量E(A2)を適正範囲に入るよう、成分(A2)の重合時のプロピレンに対するエチレンの供給重量比を設定することで、所定の[E]gapを有する重合体を得ることが可能である。
また、本発明のような相分離構造をとらないブロック共重合体の場合のTgは、成分(A1)中のエチレン含有量E(A1)と成分(A2)中のエチレン含有量E(A2)、及び両成分の量比の影響を受ける。本発明においては、成分(A2)の量は5〜70重量%であるが、この範囲においてTgは成分(A2)中のエチレン含有量E(A2)の影響をより強く受ける。
すなわち、Tgは非晶部のガラス転移を反映するものであるが、本発明のブロック共重合体(A)において、成分(A1)は結晶性を持ち比較的非晶部が少ないのに対し、成分(A2)は低結晶性或いは非晶性であり、そのほとんどが非晶部であるためである。
したがって、Tgの値は、ほぼE(A2)によって制御され、E(A2)の制御法は、前述したとおりである。
【0056】
(5)メルトフローレート(MFR)について
本発明で使用するプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)では、透明性を維持するために結晶性の共重合体成分(A1)と低結晶性或いは非晶性の共重合体エラストマー成分(A2)が相溶性していることを必須とするため、成分(A1)の粘度([η]A1)、成分(A2)の粘度([η]A2)、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)全体の粘度([η]W)の間には、見かけ上の粘度の混合則が概ね成立する。すなわち、
Log[η]W={W(A1)×Log[η]A1+W(A2)×Log[η]A2}/100
が概ね成立する。一般にMFRと[η]の間には一定の相関があるから、最初に接着性や耐熱性などの観点から、[η]A2、W(A1)、W(A2)を設定しておけば、上記の式に従って[η]A1を変化させることによって、MFRを自在に制御することができる。
【0057】
[4.第1層配合用ポリエチレン]
本発明の第1層には、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対し、ポリエチレン0〜100重量部を配合した組成物とすることも好ましい。ポリエチレンを所定量配合することで、ヒートシール接着した際の引き剥がし強度を制御することが出来る。
ここで用いられるポリエチレンは、高圧法低密度ポリエチレン、リニア低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が使用できるが、透明性を損なわない観点から高圧法低密度ポリエチレンが好ましい。
高圧法低密度ポリエチレンの具体例としては、日本ポリエチレン社製の商品名ノバテック(登録商標)LD等が使用できる。
ポリエチレンの配合割合が、上記範囲を上回ると、シール強度が不足して、本発明の性能が発揮できにくくなるので好ましくない。
【0058】
[5.第2層用ポリプロピレン]
本発明の第2層に用いられる融点150℃以上のポリプロピレン(B)は、プロピレン単独重合体の他、プロピレンが95重量%以上のプロピレン−α−オレフィンランダム或いはブロック共重合体が使用できる。α−オレフィンとしてはエチレンが好ましい。
ポリプロピレン(B)は、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒のいずれの触媒で製造されたものでも使用でき、スラリー法、バルク法、気相法等いずれの製造法で製造されたものでも使用できる。
ポリプロピレン(B)の融点は150℃以上であり、好ましくは155℃以上、さらに好ましくは158℃以上であり、通常170℃程度以下である。融点が150℃を下回ると、剛性が低下するばかりかヒートシールの際に溶融して成形体の形状が損なわれる。
【0059】
ポリプロピレン(B)のMFRは、0.1〜20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.2〜10g/10分、さらに好ましくは0.3〜5g/10分である。
MFRが、20g/10分を上回ると、押出しシート成形時にドローダウンが大きくなって成形が困難となりやすく、MFRが0.1/10分を下回ると、押出しシートの表面にシャークスキン状の外観異常が発生し易くなり透明性が損なわれやすい。
ポリプロピレン(B)の具体的な商品としては、例えば、日本ポリプロ社製の商品名ノバテック(登録商標)PP、同WINTEC(登録商標)等が好ましく使用できる。
【0060】
[6.第2層用無機充填剤]
第2層に用いられる無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ガラス繊維、硫酸バリウム等が好ましく挙げられるが、この中では、タルクが価格、剛性の点で最も好適である。
無機充填剤の配合割合は、ポリプロピレン(B)100重量部に対し、無機充填剤5〜100重量部であり、好ましくは10〜80重量部、特に好ましくは20〜70重量部である。
無機充填剤の配合量が、5重量部未満では剛性が不足して本発明の効果が奏されず、一方、配合量が100重量部を越えると衝撃強度が低下して好ましくない。
【0061】
[7.その他の添加剤]
本発明における積層シートの第1層、第2層には、これらの必須成分の他に付加的成分を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。それらの付加的成分としては、通常、プロピレン系樹脂に用いられる酸化防止剤、造核剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、中和剤着色剤、充填剤等の添加剤や、他のポリオレフィンやポリスチレン等の合成樹脂、等が挙げられる。
【0062】
[8.成形体とその製造方法]
本発明における積層シートの厚みは200〜1000μmであることが好ましく、第1層の厚みが10〜100μmであることが好ましい。
積層シート厚みが200μmを下回る場合は、熱成形品の剛性が損なわれやすく、厚みが1000μmを上回る場合は、熱成形の加熱時間が長くなり熱成形性に乏しくなりやすい。
また、第1層の厚みが10μmを下回る場合は、接着強度が損なわれやすく、厚みが100μmを上回る場合は、成形体の剛性が不足しやすい。
【0063】
積層シートは、好ましくは、通常、ポリプロピレンの成形で使用される多層押出しシート成形法により得ることができる。
多層押出しシート成形法は、2台以上の単軸又は二軸のスクリュー押出機からフィードブロックやマルチマニホールドを通してコートハンガーダイからシート状に押出す方法である。押出されたシートは(内部で冷却水や油が循環している)金属ロール表面にエアーナイフ、エアーチャンバー、硬質ゴムロール、スチールベルト、金属ロールにて押さえつけ冷却固化されてシートに製造される。又、シート両面をスチールベルトで挟んで冷却固化することもできる。
【0064】
積層シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、華燭、ガスバリアー、酸素吸着、光遮断、再生処理等の別の層を加えることもできる。
積層シートは、その表面に本発明の効果を損なわない範囲で、帯電防止剤、防曇剤、滑剤等の塗布剤を塗布しても差し支えない。
【0065】
さらに、押出しシート成形された積層シートは、熱盤圧空成形、真空成形、真空圧空成形、固相圧空成形等の熱成形により各種の熱成形体に加工される。
本発明の積層シートを用いた熱成形体は、剛性に極めて優れているので、形状保持や耐熱性の特に必要な食品、化粧品、日用品の包装製品や、ICチップや液晶パネルなど電子部品の梱包トレー、プラスチックダンボール、ディスプレー用の箱などの産業部材に最適である。
【0066】
本発明の積層シートを用いた熱成形体としては、積層シートを容器形状に熱成形してなる包装用容器が好ましい。
包装用容器としては、形状や大きさは特に限定されず、平面形状が四辺形、円形、楕円形などの種々の形状が可能であり、立体形状も、箱形(特に弁当箱状)、トレー状、丼状などの種々の形状とすることができる。さらに、蓋と容器本体が別個のタイプのものも好ましい。
【0067】
蓋と容器本体が別個のタイプのものの場合、蓋材としては、容器本体側に熱接着性樹脂(ヒートシール)層を設けた積層シートからなる蓋材が好ましく、特には、この熱接着性樹脂(ヒートシール)層として、プロピレン−エチレン共重合体を用いたものを使用することが好ましい。
さらに、蓋材の熱接着性樹脂層を、第1層の熱接着性樹脂層と同種の材質で構成することにより、蓋材を容器本体の開口部にヒートシールする際、シール部の変形を少なくでき、きれいで安定した熱シールを行えるようになり、調理食品などの内容物が収納され、蓋材がヒートシールされた容器包装体は、密閉性に極めて優れたものとなる。
【0068】
このような包装用容器の用途としては、特に制限はないが、弁当容器、惣菜容器、トレー、カップ、ケース、フードパック、レンジアップ容器、冷凍食品容器、嵌合容器、蒸し容器、一般容器、等に好適に使用できる。また食品包装分野その他として、一般包装分野でも好適に使用できる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、各実施例および比較例で用いた物性値の測定方法、評価法は、以下のとおりである。
【0070】
1)メルトフローレート(MFR、単位:g/10min)
JIS K7210 A法 条件M に従い、以下の条件で測定した。
試験温度:230℃
公称加重:2.16kg
ダイ形状:直径2.095mm 長さ8.00mm
【0071】
2)TREF
試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後に8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後、溶媒であるo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)を1ml/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0072】
〔使用装置〕
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ × 150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm 表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ 4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル 光路長1.5mm
窓形状2φ×4mm長丸 合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
〔測定条件〕
溶媒:o−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)
試料濃度:5mg/ml
試料注入量:0.1ml
溶媒流速:1ml/分
【0073】
3)固体粘弾性測定
試料は、下記条件により射出成形した厚さ2mmのシートから、10mm幅×18mm長×2mm厚の短冊状に切り出したものを用いた。装置はレオメトリック・サイエンティフィック社製のARESを用いた。周波数は1Hzである。測定温度は−60℃から段階状に昇温し、試料が融解して測定不能になるまで測定を行った。歪みは0.1〜0.5%の範囲で行った。
〔試験片の作成〕
規格番号:JIS−7152(ISO294−1)
成形機:東洋機械金属社製TU−15射出成形機
成形機設定温度:ホッパ下から 80,80,160,200,200,200℃
金型温度:40℃
射出速度:200mm/秒(金型キャビティー内の速度)
射出圧力:800kgf/cm
保持圧力:800kgf/cm
保圧時間:40秒
金型形状:平板(厚さ2mm 幅30mm 長さ90mm)
【0074】
4)融点(Tm)
セイコー社製DSCを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度をTmとした。(単位:℃)
5)エチレンの含量
エチレンの含量は、下記の条件の13C−NMR法によって計測された値である。
装置:日本電子社製 JEOL−GSX270
濃度:300mg/2mL
溶媒:オルソジクロロベンゼン
【0075】
6)引張弾性率(単位:MPa)
シートの引張弾性率は、JIS K7127に準拠して、MD方向とTD方法の両方を測定した。
7)表面光沢(単位:%)
表面光沢は、熱成形された容器のシート第1層側の光沢を、JIS Z8741に準拠して60度角にて測定した。
8)容器のシール強度(単位:kgf)
後記の方法で行った。
【0076】
<プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造>
〔製造例PP−1〕
[重合製造例A−1]
・予備重合触媒の調製
(珪酸塩の化学処理)
10リットルの撹拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75リットル、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、さらにモンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL;平均粒径=25μm 粒度分布=10〜60μm)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7リットル加え再スラリー化後、濾過した。この洗浄操作を、洗浄液(濾液)のpHが、3.5を越えるまで実施した。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の重量は707gであった。
【0077】
(珪酸塩の乾燥)
先に化学処理した珪酸塩は、キルン乾燥機により乾燥を実施した。仕様、乾燥条件は以下の通りである。
回転筒:円筒状 内径50mm 加温帯550mm(電気炉)
かき上げ翼付き回転数:2rpm
傾斜角:20/520
珪酸塩の供給速度:2.5g/分
ガス流速:窒素 96リットル/時間
向流乾燥温度:200℃(粉体温度)
【0078】
(触媒の調製)
撹拌及び温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で充分置換した。ここに、乾燥珪酸塩200gを導入し、混合ヘプタン1,160ml、さらにトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.60M)840mlを加え、室温で攪拌した。1時間後、混合ヘプタンにて洗浄し、珪酸塩スラリーを2,000mlに調製した。次に、先に調製した珪酸塩スラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71ML)9.6mlを添加し、25℃で1時間反応させた。平行して、(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム2,180mg(0.3mM)と混合ヘプタン870mlに、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)33.1mlを加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間攪拌後、混合ヘプタンを追加して5,000mlに調製した。
【0079】
(予備重合/洗浄)
続いて、槽内温度を40℃昇温し、温度が安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。4時間後プロピレンの供給を停止し、さらに2時間維持した。
予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ約10分間静置後、上澄みを2,400mlデカントした。続いてトリイソブチルアルミニウム(0.71ML)のヘプタン溶液9.5ml、さらに混合ヘプタンを5600ml添加し、40℃で30分間撹拌し、10分間静置した後に、上澄みを5600ml除いた。さらにこの操作を3回繰り返した。最後の上澄み液の成分分析を実施したところ有機アルミニウム成分の濃度は、1.23mモル/リットル、Zr濃度は8.6×10−6g/Lであり、仕込み量に対する上澄み液中の存在量は0.016%であった。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71ML)のヘプタン溶液を170ml添加した後に、45℃で減圧乾燥を実施した。触媒1g当たりポリプロピレンを2.0g含む予備重合触媒が得られた。
【0080】
・第一工程
第一工程では、内容積0.4mの攪拌装置付き液相重合槽を用いてプロピレン−エチレンランダム共重合を実施した。液化プロピレンと液化エチレン、トリイソブチルアルミニウムをそれぞれ90kg/時、4.2kg/時、21.2g/時で連続的に供給した。水素供給量は第一工程のMFRが目標の値となるように調節した。さらに、上記の予備重合触媒を、触媒として(予備重合ポリマーの重量は除く)、6.9g/時となるように供給した。また、重合温度が45℃となるように重合槽を冷却した。
第一工程で得られたプロピレン−エチレンランダム共重合を分析したところ、BD(嵩密度)は0.46g/cc、MFRは2.0g/10分、エチレン含有量は3.7重量%であった。
【0081】
・第二工程
第二工程では、内容積0.5mの攪拌式気相重合槽を用いてプロピレン−エチレンランダム共重合を実施した。第一工程の液相重合槽より重合体粒子を含んだスラリーを連続的に抜き出し、液化プロピレンをフラッシングした後、窒素で昇圧して気相重合槽へ連続的に供給した。
重合槽は温度が80℃、プロピレンとエチレンと水素の分圧の合計が1.5MPaとなるように制御した。その際にプロピレンとエチレンと水素の分圧の合計に占めるプロピレンとエチレン及び水素の濃度は、それぞれ66.99vol%、32.99vol%、150volppmとなるように制御した。
さらに、活性抑制剤としてエタノールを気相重合槽に供給した。エタノールの供給量は、気相重合槽に供給される重合体粒子に随伴して供給されるTIBA中のアルミニウムに対して、0.3mol/molとなるようにした。
こうして得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体を分析したところ、活性は7.6kg/g−触媒、BDは0.41g/cc、MFRは2.0g/10分、エチレン含有量は8.7重量%であった。
【0082】
(組成物の製造)
重合製造例A−1で得られたブロック共重合体パウダー100重量部にヘンシェルミキサーにより、以下の酸化防止剤、中和剤を以下の量添加し、750rpmで1分間室温で高速混合した。
酸化防止剤:
・テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」) 0.05重量部
・トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガホス168」) 0.10重量部
中和剤:
ステアリン酸カルシウム(日本油脂(株)製、商品名「カルシウムステアレートG」)
0.05重量部
【0083】
さらに、スクリュー口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度190℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を、冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを切断することによりプロピレン−エチレンブロック共重合体組成物(PP−1)を得た。
【0084】
(分析)
得られたPP−1を用いて、TREF、エチレン含量、DSC、GPC、固体粘弾性の測定を行った。
測定により得られた各データを表4に示す。
得られた測定結果からPP−1は成分(A)として全ての要件を満たすといえる。
ここで、PP−1のTREF測定結果について、各パラメータの位置づけを示すために、図1に溶出曲線を例示する。また、同じく固体粘弾性測定結果について、各パラメータの位置づけを示すために、図2に温度に対する貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’と損失正接tanδの変化を例示する。
【0085】
〔製造例PP−2〜3〕
[重合製造例A−2〜3]
重合製造例A−1と同様にして重合条件を変化させプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。重合条件及び重合結果を表3に示す。
得られた重合体パウダーを用いて、製造例PP−1と同様の添加剤配合、混合混錬条件により、PP−2〜3を得た。各種分析結果を表4に示す。
【0086】
〔製造例PP−4〕
[重合製造例A−4]
重合製造例A−1において、第二工程を行わずに第一工程のみを行った点以外は重合製造例A−1と同様にして重合を実施し、プロピレン−エチレンランダム共重合体の製造を行った。重合条件及び重合結果を表3に示す。
得られた重合体パウダーを用いて、製造例PP−1と同様の添加剤配合、造粒条件により、PP−4を得た。各種分析結果を表4に示す。
【0087】
〔製造例PP−5〕
[重合製造例A−5]
(固体触媒成分の調製)
充分に窒素置換したフラスコに、脱水および脱酸素したn−ヘプタン2,000ミリリットルを導入し、次いでMgClを2.6モル、Ti(O−n−Cを5.2モル導入し、95℃で2時間反応させた。反応終了後、40℃に温度を下げ、次いでメチルヒドロポリシロキサン(20センチストークスのもの)を320ミリリットル導入し、3時間反応させた。生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
次いで、充分に窒素置換したフラスコに、上記と同様に精製したn−ヘプタンを4,000ミリリットル導入し、上記で合成した固体成分をMg原子換算で1.46モル導入した。次いでn−ヘプタン25ミリリットルにSiCl2.62モルを混合して30℃において30分間でフラスコへ導入し、70℃で3時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いでn−ヘプタン25ミリリットルにフタル酸クロライド0.15モルを混合して、70℃において30分間でフラスコへ導入し、90℃で1時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄した。次いでTiCl11.4モルを導入して110℃で3時間反応させた。反応終了後、n−ヘプタンで洗浄して固体成分(A1)を得た。この固体成分のチタン含有量は2.0重量%であった。
次いで、撹拌及び温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で充分置換し、ここへ、上記と同様に精製したn−ヘプタンを5,000ミリリットル導入して上記で合成した固体成分(A1)を100グラム導入し、SiCl0.875モルを導入して90℃で2時間反応させた。反応終了後、さらに(CH=CH)Si(CH0.15モル、(t−C)(CH)Si(OCH0.075モル及びAl(C0.4モルを順次導入して30℃で2時間接触させた。接触終了後、n−ヘプタンで充分に洗浄し、塩化マグネシウムを主体とする固体触媒成分(A)を得た。このもののチタン含有量は、1.8重量%であった。
【0088】
(予備重合)
撹拌および温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で十分置換した。ここへ、上記で調製した固体触媒成分(A)のn−ヘプタンスラリーを固体触媒成分(A)として100g導入し、更にn−ヘプタンを導入して液レベルを5000ミリリットルに調整した。次に、槽内温度を15℃に調節し、トリエチルアルミニウム・n−ヘプタン溶液(10重量%)をAl(Cとして0.1モル添加した。その後、プロピレンを50g/時間の速度で2時間供給して予備重合を行った。予備重合終了後、残モノマーをパージし、固体触媒をn−ヘプタンで充分に洗浄した。洗浄終了後、減圧乾燥を行い、予備重合触媒を得た。この予備重合触媒中には、触媒1g当たり2.0gのポリプロピレンが含まれていた。
こうして得られた予備重合触媒を用い、かつ、トリイソブチルアルミニウムの代わりにトリエチルアルミニウムを10g/時で連続的に供給し、更に、表3に示す重合条件を用いた以外は重合製造例A−1と同様にしてプロピレン−エチレンブロック共重合体の製造を行った。重合結果を表3に示す。
得られた重合体パウダーを用いて、製造例PP−1と同様の添加剤配合、造粒条件により、PP−5を得た。各種分析結果を表4に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
<その他成分>
・第1層に配合されるポリエチレンとして、以下のポリエチレンを使用した。
ポリエチレン(PE−1):
日本ポリエチレン社製、商品名「ノバテック(登録商標)LD LB440HB」
高圧法ポリエチレン、MFR=2.8g/10分、密度=0.925g/cm
・第2層用のポリプロピレン樹脂として、以下のポリプロピレン(B−1)を、また、第2層に配合する無機充填剤として、以下のタルクを使用した。
ポリプロピレン(B−1):
日本ポリプロ社製、商品名「ノバテック(登録商標)PP EA9」
プロピレン単独重合体、MFR=0.5g/10分
タルク:
富士タルク(株)製、商品名「PKP53S」、平均粒径14μm
【0092】
(実施例1(参考例1)
押出しシートの製造
上記粒状物を230℃に加熱された2台のスクリュー径40mm押出機を持つ多層押出シート成形機にて第1押出機にPP−1を入れ、第2押出機にポリプロピレンB−1を入れ、フィードブロックを介して第1押出機がシートの上面に、第2押出機がシートの下面に押出され、幅600mm、ダイリップ間隔0.8mmのコートハンガーダイから水平方向に押出し、40℃の水が内部で循環している鏡面加工された硬質クロムメッキの金属ロールで挟んで冷却固化し、厚み0.5mmのシートを製造した。得られた積層シートの物性の測定結果を表5に示す。
【0093】
さらに、積層シートを間接加熱式真空圧空成形機(浅野研究所社製、コスミック成形機)を使用して450℃のセラミックヒーターで上下より加熱し、シートの第1層が内側になるように、直径10cm、深さ3cmの金型を使用して丸型容器成形体を真空成形した。得られた容器成形体の物性の測定結果を表5に示す。
【0094】
別に、ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製プロピレン−エチレン共重合体、商品名「WINTEC WEG5TF」、MFR=3.5g/10分)製の単層シートを真空圧空成形して、直径10cm、深さ2cmの丸型蓋を準備した。
この容器成形体に丸型蓋を(第1層が蓋と接するように)被せ、株式会社シンワ機械社製の半自動パックシーラーSN−1にて温度200℃、圧力5kg/cm、加熱時間5秒、接着幅5mmにて容器と蓋のヒートシールを行った。
さらに、ヒートシールされた部分を幅15mmにて切り出し、蓋と容器とを、島津製作所製の引張試験機オートグラフ5KNGにて500mm/分の速度で引き剥がし、シール強度を測定した。
シール強度は、2〜5kg/cmの範囲であることが、引き剥がす際に好適な強度である。
この範囲を下回ると輸送等の段階で剥がれる恐れがあり、この範囲を上回ると利用者が剥がす際に困難となる。
結果を表5に示す。
【0095】
(実施例2〜4(実施例4は参考例2)
配合物およびその添加量を第1表の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして評価した。
結果を表5に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
(比較例1〜6)
配合物およびその添加量を表5の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして評価した。
結果を表6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
これらの結果より明らかなように、実施例1〜4の熱成形体は、引張弾性率が高い(剛性が強く)ものであり、光沢が高く、さらに適正なシール強度が得られることがわかる。
これに対し、tanδ曲線が複数のピークを有するブロック共重合体を使用した比較例1の熱成形体は、光沢が極めて悪いものであった。比較例2、3の熱成形体は、シール強度が低く、優れた包装を得ることはできない。比較例4は、タルクを使用しなかったものであるが、剛性が極めて低いものである。
比較例5は、第1層を使用しない層構成であり、これから得られる成形体は、シール強度が低く、優れた包装を得ることはできないことがわかる。比較例6は、第1層のみを使用したシートであるが、これから得られる熱成形体は、剛性が低くなるばかりか、シール時に熱成形体の溶融が発生して使用できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の熱成形体は、剛性、光沢に優れ、さらにヒートシール特性に優れるので、形状保持や耐熱性の特に必要な食品、化粧品、日用品等の包装製品や、ICチップや液晶パネルなど電子部品の梱包トレー、などの産業部材においても、広く好適に利用可能である。
図1
図2
図3