【実施例1】
【0021】
図1、
図2および
図3は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。具体的には、
図1は、動電型スピーカー1を前面側から見た斜視図であり、
図2は、動電型スピーカー1のB−B’断面図である。また、
図3は、動電型スピーカー1の構成を説明する展開図であり、説明に不要な一部の部品を除いた斜視図である。なお、説明に不用な動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、点A−O−A’を結ぶ直線(長軸)が延びる方向が長径方向であり、また、点B−O−B’
を結ぶ直線(短軸)が延びる方向が短径方向である。
【0022】
本実施例の動電型スピーカー1は、トラック形の振動板2を有する細長形の動電型スピーカーであり、ボイスコイル4のボビン4bの円筒外側にダンパー5を設ける動電型スピーカーである。振動板2は、エッジ3によってその外周端を支持されており、エッジ3の外周端は、フレーム6に固定されている。振動板2の内周側は、後述するダストキャップ9の一端側に連結し、ダストキャップ9の他端側はボイスコイル4のボビン4bに連結している。また、フレーム6は、トラック形の振動板2に対応した細長形状であり、フレーム6の背面側中央部分に固定される磁気回路10も、短径方向の幅が狭い細長形状を有している。したがって、動電型スピーカー1は、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側面など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適する動電型スピーカーである。フレーム6の側面側には、音声信号電流が供給される端子8が取り付けられ、背面側には磁気回路10の一部が露出している。
【0023】
本実施例の振動板2は、トラック形の外形寸法が約124mm×約17mmであって、長径方向長に比べて短径方向長が極めて短いトラック形状のスピーカー振動板であり、その外周端部をエッジ3で振動可能に自由支持されている。振動板2は、長径方向に延びる複数のリブを備え、その中央部分にダストキャップ9が連結する中心孔2aを有する。本実施例の振動板2およびダストキャップ9は、紙材を抄紙して形成する紙振動板ならびに紙ダストキャップであるので、中心孔2aに挿入されるダストキャップ9を介してボイスコイル4のボビン4bと連結する。振動板2、ダストキャップ9、および、ボイスコイル4は、エッジ3および後述するダンパー5によって、振動可能に支持される。
【0024】
エッジ3は、振動板2の外周端に連結する内周固定部と、後述するフレーム6のエッジ取付部に固定される外周固定部と、内周固定部と外周固定部とを振動可能に連結する支持可動部と、を含む。外周固定部は、厚みを持たせてガスケットとして兼用してもよい。また、支持可動部は、断面が略ロール状のロールエッジ、もしくは、コルゲーションをもつコルゲーションエッジでもよい。エッジ3は、支持可動部を、内周固定部および外周固定部よりも柔軟で硬度が低い異なる材料で形成すれば良く、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、あるいは、他のポリスチレン系熱可塑性樹脂、ポリエチレン系熱可塑性樹脂、ポリウレタン系熱可塑性樹脂、等で形成してもよい。エッジ3は、別々に製造する振動板2ならびに外周固定部を延長して形成するガスケットと接着剤で連結して形成してもよく、また、2色成形等の製造方法により振動板2と一体に形成してもよい。
【0025】
ボイスコイル4は、筒状のボビン4bに対してコイル4aが巻回されて、トラック形に形成される。また、錦糸線7は、ボイスコイル4のコイル4aに一方端側が接続及び固定される。したがって、2本の錦糸線7が、ボイスコイル4に音声信号を供給するために、コイル4aの両端に接続される。また、錦糸線7の他端側は、後述するフレーム6に固定される端子8に接続及び固定される。ボイスコイル4は、そのボビン4bの円筒外側にダンパー5を配置する。
【0026】
ダンパー5は、柔軟性を有する樹脂板をプレス加工して成型した蝶ダンパーである。ダンパー5は、ボビン4bの円筒外側と連結する内周固定部と、フレーム6のエッジ取付部に固定される外周固定部と、内周固定部と外周固定部とを振動可能に連結する支持可動部と、を含む。なお、本実施例のダンパー5は、外周固定部が長径方向の両端側にある異形であるが、内周固定部および外周固定部が丸形のダンパーであってもよく、フェノール樹脂を含浸させて熱硬化させたダンパーであってもよく、もちろん、樹脂を射出成形して形成する蝶ダンパーであってもよい。
【0027】
フレーム6は、樹脂で形成されて略バスケット状の基体を有する。フレーム6は、基体の一方側に形成されるエッジ3を取り付けるエッジ取付部と、基体の他方側に形成される磁気回路10を取り付ける磁気回路取付部と、ダンパー5を取り付けるダンパー取付部と、エッジ取付部と磁気回路取付部とを連結して複数の窓部を規定する連結部と、2つの端子8を固定する端子固定部と、を有する。基体の背面側には、動電型スピーカー1を他の筐体等に取り付けるためのネジ孔が形成されている。なお、フレーム6は、鋼板をプレス成型して形成する金属フレームであってもよい。
【0028】
磁気回路10は、断面が壺状のヨーク11を備え、その内側に細長形のマグネット12およびプレート13を載置して、プレート13とヨーク11の側壁部との間にトラック形の磁気空隙14を形成する内磁型の磁気回路である。その結果、磁気空隙14には、高い磁束密度を示す磁界が形成されるので、この動電型スピーカー1では、ボイスコイル4のコイル4aが、この磁気空隙14に配置される。磁気回路10は、フレーム6の磁気回路取付部に連結する。磁気回路10を構成する各部材は、接着剤で固定される。また、磁気回路10も、フレーム6の固定部に接着剤で固定される。なお、磁気回路10は、直線状の磁気空隙14を形成し、かつ、トッププレートまたはポールピースを含むものであれば、内磁型あるいは外磁型等を問わず、本実施例の構成に限定されない。
【0029】
ダストキャップ9は、ボイスコイル4のボビン4bの一端側に係合する外径寸法(断面直径)が大きい第1係合部9aと、その中心部分から第1係合部9aよりも外径寸法が小さい突部として形成される第2係合部9bを含む形状の部材である。ダストキャップ9の第1係合部9aは、ボイスコイル4のボビン4bに対応するトラック形であり、その短径方向の幅寸法は、振動板2の短径方向の幅寸法とほぼ等しい大きさを有する。本実施例の動電型スピーカー1は、
図2の短径方向の断面図に示すように、振動板2の中心孔2aからダストキャップ9の突部である第2係合部9bが突出し、中心孔2aの縁部と接着剤で連結されている。したがって、この動電型スピーカー1では、以下に説明するような製造工程を採用することができる。
【0030】
本実施例の動電型スピーカー1の製造工程では、所定の(図示しない)治具を用いて予め磁気回路10を構成する。具体的には、磁気空隙14を規定する治具を挿入した状態で接着剤を用いてヨーク11とマグネット12およびプレート13を連結し、その後に治具を抜去する。端子8が取り付けられたフレーム6と磁気回路10とを連結し、その上に振動板2およびエッジ3およびボイスコイル4およびダンパー5およびダストキャップ9を含む振動系と、を載置していくようにして、ボイスコイル4のコイル4aが磁気回路10の磁気空隙14に配置されるようにすることができる。
【0031】
具体的には、最初に、ボイスコイル4のボビン4bに(図示しない)治具を挿入して、この治具およびボイスコイル4を磁気回路10の磁気空隙14に挿入する。次に、ダンパー5を配置して、ダンパー5の外周部をフレーム6のダンパー取付部に連結し、かつ、ダンパー5の内周部をボイスコイル4のボビン4bに接着剤で連結する。したがって、治具により磁気回路10の磁気空隙14の所定位置に配置されたボイスコイル4のコイル4aは、接着剤が硬化した後に治具をボビン4bから抜去しても、所定位置にとどまる。ボイスコイル4のコイル4aに接続する錦糸線7は、フレーム6に予め連結された端子8に半田付けすればよい。
【0032】
次に、ダストキャップ9をボイスコイル4のボビン4bに連結する。ダストキャップ9の第1係合部9aをボビン4bの一端側に係合させて接着剤で連結し、さらに振動板2を載置して、振動板2の中心孔2aとダストキャップ9の第2係合部9bとを接着剤で連結する。エッジ3の外周側およびフレーム6も接着剤で連結する。したがって、接着剤が固化した後には、振動板2、エッジ3、コイル4、ダンパー5、および、ダストキャップ9からなるスピーカー振動系が構成され、このスピーカー振動系は、フレーム6および磁気回路10に対して振動可能に支持される。
【0033】
ここで、上記の振動板2を連結する工程において、振動板2をダストキャップ9およびフレーム6に載置すると、振動板2の中心孔2aからダストキャップ9の第2係合部9bが突出するので、振動板2の中心孔2aの縁部とダストキャップ9の第2係合部9bとを前面側から接着剤を塗布して連結することができる。したがって、振動板2とダストキャップ9の接着部を前面側から目視できるので、接着の不良が減少し、振動板2とダストキャップ9とが離隔しにくくなり、製造不良を低減することができる。振動板2の中心孔2aからダストキャップ9の第2係合部9bが突出する寸法関係になっているので、振動板2に押し下げられてボイスコイル4が磁気回路10の磁気空隙14の中で相対的に沈むようなことが少なくなり、その点でも製造不良を低減することができる。ボイスコイル4のローリングを抑制して、動作の安定した音声再生能力に優れる動電型スピーカー1にすることができる。
【0034】
本実施例のように、ダストキャップ9が、ボビン4bの一端側に係合する第1係合部9aと、第1係合部9aよりも外径寸法が小さい突部として形成されて振動板2の中心孔2aに連結する第2係合部9bと、を少なくとも含むので、第1係合部9aの短径方向の幅寸法を振動板2の短径方向の幅寸法とほぼ等しい大きさまで大きくすることができる。場合によっては、第1係合部9aの短径方向の幅寸法が、振動板2の短径方向の幅寸法よりも大きくなっても対応可能である。つまり、トラック形のボイスコイル4のコイル4aの短径方向の幅を、可能な限り大きくすることができるので、長径方向長に比べて短径方向長が極めて短い細長形の振動板2を備えていても、コイル4aのコイル長を十分に確保して、再生音圧レベルが高い動電型スピーカー1を実現できる。
【0035】
なお、ダストキャップ9は、本実施例のような形状および材質に限定されない。ダストキャップ9は、ボビン4bの一端側に係合する第1係合部9aと、第1係合部9aよりも外径寸法が小さい突部として形成されて振動板2の中心孔2aに連結する第2係合部9bと、を少なくとも含む形状であれば、例えば、第2係合部9bの内部が中空になっていないような他の形状であってもよい。第1係合部9aおよび第2係合部9bの長径方向の長さは、細長形のボイスコイル4のボビン4bの長径方向長に対応して、さらに長く又は短くしても良い。細長形の振動板2を備える動電型スピーカー1は分割振動を発生しやすいので、本実施例のようなダストキャップ9を振動板2とボイスコイル4のボビン4bとの結合部分に用いれば、不要な分割振動を抑制することができる。
【0036】
また、上記の実施例の動電型スピーカー1は、長径方向に比べて短径方向が短いトラック形のスピーカーであるが、外径が円形のコーン形状の振動板を備え、この円形のスピーカー振動板に対応する略円形のフレームを用いるスピーカーにも、適用可能である。小型のスピーカーにおいて略円形のフレームの形状寸法に制限がある場合に、上記のようなダストキャップ9を含む振動系を構成することができるので、ボイスコイル4を含むスピーカー振動系が他の部分に接触して異音を生じるという動作不良を少なくすることができ、動作の安定した動電型スピーカーを実現できる。