特許第5796554号(P5796554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796554
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/14 20060101AFI20151001BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20151001BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B60T13/14
   B60T13/68
   B60T8/17 C
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-156149(P2012-156149)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-19172(P2014-19172A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】清水 大志
(72)【発明者】
【氏名】野平 重光
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−240873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
B60T 7/12− 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(10a)と、
前記シリンダ内に軸線方向摺動可能に配設されブレーキ液を加圧するためのマスタ室(10f)を前記シリンダ内周面とで区画する加圧ピストン部(11a2)およびサーボ圧室(10e)を前記シリンダ内周面とで区画するサーボ圧受部(11a1)を有するマスタピストン(11a)と、
前記マスタピストンの後端面と所定距離離間可能に前記シリンダ内の後方に軸線方向摺動可能に配設された入力ピストン(12)と、
前記ブレーキ液を蓄圧する蓄圧装置(30)と、
前記蓄圧装置の前記ブレーキ液を使用し、前記入力ピストンの操作量に応じたパイロット圧を生成するパイロット圧発生装置(40)と、
ハウジング(55)内に摺動可能に嵌合され前記ハウジング内を前記パイロット圧発生装置に連通された第1パイロット室(53)と前記サーボ圧室に連通されたサーボ圧生成室(57)とに区画する第1ピストン(51)、前記第1ピストンの移動に応じて前記サーボ圧生成室を前記蓄圧装置またはリザーバに連通する弁機構(56)および前記ハウジング内に前記第1ピストンに対して接離可能に嵌合され、前記ハウジング内を前記第1パイロット室と前記マスタ室に連通された第2パイロット室(54)とに区画する第2ピストン(52)を備えるレギュレータ(50)と、を備え、
前記第2ピストンは、前記第1パイロット室側に露出する端面(52b1)が前記第2パイロット室側に露出する端面(52a1)よりも受圧面積が大きく形成された車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2ピストンの前記第1パイロット室側に露出する端面の受圧面積と前記第2パイロット室側に露出する端面の受圧面積との差は、前記マスタピストンが前記マスタ圧を減少させる方向に移動され、前記マスタピストンと前記シリンダとの間の摺動抵抗の影響によって前記マスタ圧が前記パイロット圧よりも大きくなった場合にも、前記第2ピストンが前記第1ピストン方向に移動しないように設定されている車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記レギュレータは、
一方が開口された有底円筒形状を呈し、前記第2パイロット室、前記第2ピストン、前記第1パイロット室および前記第1ピストンを同順に内部底面から積層して収容する第1ケース(58)と、
前記第1ケースの開口側に固定され、前記第1ケースおよび前記第1ピストンとの間で前記サーボ圧生成室を区画し、前記弁機構が内部に形成される第2ケース(59)と、を備え、
前記第1および第2ケースは、一体で前記ハウジング内に組み付けられる車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に摩擦制動力を付与する車両用制動装置に関する。
【0002】
車両に摩擦制動力を付与する車両用制動装置の一例として、例えば特許文献1の図11図12に示す車両用制動装置が知られている。この車両用制動装置のマスタシリンダでは、入力ピストンおよびマスタピストンが所定の間隔を有して離間した状態で保持され、入力ピストンが移動すると入力ピストンの移動量に応じて要求制動力が算出され、要求制動力から要求回生制動力を減じて要求摩擦制動力が算出される。そして、要求摩擦制動力に基づき生成されるサーボ圧がマスタピストンに作用してマスタピストンを移動させ、マスタ室にマスタ圧を発生させ、当該マスタ圧をホイールシリンダに付与し要求摩擦制動力を発生させる。このとき、特許文献1に係る従来技術では、マスタ圧とサーボ圧とが1:1になるよう制御されている。具体的には、サーボ圧を生成するため、まず要求摩擦制動力に基づき、サーボ圧と同圧のパイロット圧が電動式パイロット圧発生部によって生成される。当該生成されたパイロット圧はレギュレータの第1調圧ピストンと第2調圧ピストンとの間に設けられた第2パイロット液圧室に供給されて第1調圧ピストンに作用し、第1調圧ピストンのみを所定量移動させる。これにより、高圧ポートと蓄圧室との連通を遮断する弁体を開弁させ、高圧ポートに要求摩擦制動力に対応するサーボ圧を生成する。また、第2調圧ピストンにおける第2パイロット液圧室とは反対側の端面側に設けられたパイロット液圧室にはマスタ圧が導入されている。このような構成により、例えば、電源系統が失陥し第2パイロット液圧室にパイロット圧が供給できなくなったときにも、運転者がブレーキペダルを踏むことで発生させるマスタ圧によって、第1調圧ピストンおよび第2調圧ピストンを連動して作動させ弁体を開弁させて、サーボ圧室にサーボ圧を供給しブレーキ力を発生可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−240873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1(図11図12)に示される車両用制動装置では、運転者が、踏込んでいたブレーキペダルを解除すると、入力ピストンおよびマスタピストンが、戻り方向、つまりブレーキペダルが踏込まれる前の状態に向って移動する。このとき、マスタピストンの移動中においては、マスタピストンとマスタピストンが収納されるシリンダ内周面との間にマスタピストンの移動方向と逆方向に作用する摺動抵抗が発生する。これにより、ブレーキペダル解除中の過渡状態においては、マスタ圧の減圧速度は、構造上、各部からの抵抗を受けないパイロット圧の減圧速度よりも遅くなる場合がある。このため、マスタ圧=パイロット圧となるよう制御される特許文献1に示す従来技術の場合においては、マスタ圧>パイロット圧となる場合が発生する。このとき、第2調圧ピストンの第2パイロット液圧室およびパイロット液圧室にそれぞれ露出する両端面の受圧径は同一であるので、第2調圧ピストンが、マスタ圧とパイロット圧の差圧によって押動されて第1調圧ピストン方向へ移動され、生成するサーボ圧の特性に影響を与える虞がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電源系統失陥時等の非常時においても、運転者がブレーキペダルを踏むことで発生させるマスタ圧によってマスタシリンダに供給するサーボ圧が生成可能な車両用制動装置において、マスタ圧がパイロット圧よりも大きくなる場合においても安定してサーボ圧の生成が可能な車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明は、シリンダと、前記シリンダ内に軸線方向摺動可能に配設されブレーキ液を加圧するためのマスタ室を前記シリンダ内周面とで区画する加圧ピストン部およびサーボ圧室を前記シリンダ内周面とで区画するサーボ圧受部を有するマスタピストンと、前記マスタピストンの後端面と所定距離離間可能に前記シリンダ内の後方に軸線方向摺動可能に配設された入力ピストンと、前記ブレーキ液を蓄圧する蓄圧装置と、前記蓄圧装置の前記ブレーキ液を使用し、前記入力ピストンの操作量に応じたパイロット圧を生成するパイロット圧発生装置と、ハウジング内に摺動可能に嵌合され前記ハウジング内を前記パイロット圧発生装置に連通された第1パイロット室と前記サーボ圧室に連通されたサーボ圧生成室とに区画する第1ピストン、前記第1ピストンの移動に応じて前記サーボ圧生成室を前記蓄圧装置またはリザーバに連通する弁機構および前記ハウジング内に前記第1ピストンに対して接離可能に嵌合され、前記ハウジング内を前記第1パイロット室と前記マスタ室に連通された第2パイロット室とに区画する第2ピストンを備えるレギュレータと、を備え、前記第2ピストンは、前記第1パイロット室側に露出する端面が前記第2パイロット室側に露出する端面よりも受圧面積が大きく形成された。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記第2ピストンの前記第1パイロット室側に露出する端面の受圧面積と前記第2パイロット室側に露出する端面の受圧面積との差は、前記マスタピストンが前記マスタ圧を減少させる方向に移動され、前記マスタピストンと前記シリンダとの間の摺動抵抗の影響によって前記マスタ圧が前記パイロット圧よりも大きくなった場合にも、前記第2ピストンが前記第1ピストン方向に移動しないように設定されている。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2において、前記レギュレータは、一方が開口された有底円筒形状を呈し、前記第2パイロット室、前記第2ピストン、前記第1パイロット室および前記第1ピストンを同順に内部底面から積層して収容する第1ケースと、前記第1ケースの開口側に固定され、前記第1ケースおよび前記第1ピストンとの間で前記サーボ圧生成室を区画し、前記弁機構が内部に形成される第2ケースと、を備え、前記第1および第2ケースは、一体で前記ハウジング内に組み付けられる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、レギュレータにおいて、パイロット圧が供給される第1パイロット室に露出する第2ピストンの端面が、マスタ圧が供給される第2パイロット室に露出する第2ピストンの端面より大きな受圧面積で形成されている。これにより、たとえマスタ圧がパイロット圧よりも大きくなるような現象が生じても、第2ピストンが、マスタ圧とパイロット圧との差圧によって第1ピストン方向に移動されてサーボ圧の生成に影響を与えることが抑制される。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、第2ピストンの第1パイロット室に露出する端面の受圧面積と、第2パイロット室に露出する端面の受圧面積との差が、たとえマスタ圧がパイロット圧よりも大きくなるような現象が生じた場合でも、第1ピストン方向に移動されることがないよう設定される。これにより、第2ピストンが、マスタ圧とパイロット圧との差圧によって第1ピストン方向に移動され、サーボ圧の生成に影響を与えることが良好に防止される。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、レギュレータを構成する第2ピストンおよび第1ピストン等が、第1および第2ケースに組み付けられて一体化され、当該一体化品がハウジング内に挿入されてレギュレータを構成する。これにより、レギュレータの組み付けを簡易に行なうことが可能となり、コスト低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る車両用制動装置の構成を示す部分断面説明図である。
図2】本実施形態のレギュレータの構成を示す断面図である。
図3図2における、第2ピストンに付勢される付勢力FmおよびFpを説明する模式図である。
図4】ブレーキペダルを踏込んだ場合および踏込みを解除した場合におけるパイロット圧Ppおよびマスタ圧Pmの挙動を示す(時間−液圧)グラフである。
図5】ブレーキペダルを踏込んだ場合および踏込みを解除した場合における本発明に係る第2ピストンに付勢される付勢力FmおよびFpの挙動を示す(時間−付勢力)グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態の摩擦ブレーキ装置BK(車両用制動装置)が搭載されるハイブリッド車両(以下、単に車両と略す)は、エンジンおよびモータジェネレータ(いずれも不図示)によって、駆動輪である例えば左右前輪Wfl,Wfrを駆動させる車両である。上述したモータジェネレータによって回生ブレーキ装置が構成されている。回生ブレーキ装置は、モータジェネレータによって後述する「目標回生制動力」に基づく回生制動力を左右前輪Wfl,Wfrに発生させるものである。なお、モータジェネレータは、モータと発電機が別体の構成であっても差し支え無い。
【0014】
各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの近傍には、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するブレーキディスクと、当該ブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けて目標とする摩擦制動力を発生させる摩擦ブレーキ(いずれも図示しない)が設けられている。摩擦ブレーキには、後述するマスタシリンダ10(図1参照)により生成されるマスタ圧Pmにより、上記ブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けるホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrが設けられている。なお、このとき、目標とされる目標摩擦制動力は、後述するブレーキECU2によって、運転者が踏んだブレーキペダル4(図1参照)の踏込み量に基づき決定される目標制動力から、上述した目標回生制動力を減じて演算されるものである。
【0015】
本実施形態の摩擦ブレーキ装置BK(車両用制動装置)は、図1に示すように、主に、マスタシリンダ10,反力発生装置20,蓄圧装置30,パイロット圧発生装置40,レギュレータ50,ABS60,ブレーキECU2およびブレーキECU2と通信可能な各種センサ15,73〜75を備えている。なお、上記において、蓄圧装置30,パイロット圧発生装置40およびレギュレータ50等によって、サーボ圧Psを発生させるためのサーボ圧発生装置を構成している。
【0016】
図1に示すように、マスタシリンダ10は、図1において右方が開口された有底の略円筒形状を呈したシリンダ10aと、シリンダ10a内に収容される入力ピストン12,第1マスタピストン11a,第2マスタピストン11b,反力圧室10p,サーボ圧室10e,第1マスタ室10f,スプリング13a,スプリング13bおよび第2マスタ室10gを有している。なお、以後、マスタシリンダ10については、マスタシリンダ10の図1における左方を前方とし、右方を後方として説明する。
【0017】
入力ピストン12は、ブレーキペダル4の操作に応じた操作量だけシリンダ10a内を軸線方向に往復動し、反力圧室10pの容積を増減させるピストンである。反力圧室10pは、シリンダ10aの内周面(シリンダ穴10b),シリンダ10a内の隔壁10cおよび入力ピストン12の鍔部12bによって区画され形成されている。鍔部12b外周とシリンダ穴10bとの間には例えばゴム製のOリングであるシール部材63が配設され、シリンダ穴10bと入力ピストン12の鍔部12bとの間を液密にシールしている。
【0018】
また、入力ピストン12は、前方の先端部12aが、隔壁10cの中央の貫通穴10c2に、例えばゴム製のOリングであるシール部材64を介して液密に支持され、第1マスタピストン11aの後端面の後方に軸線方向摺動可能に配設されている。先端部12aは、サーボ圧室10e内に突出し、第1マスタピストン11aの後端面と接触可能、且つ所定距離離間可能に配置されている。入力ピストン12がブレーキペダル4の操作に応じて前方に移動されると、鍔部12bも前進し反力圧室10pの容積を小さくする。
【0019】
また、このとき、サーボ圧室10eにサーボ圧Psが供給されていると、サーボ圧室10eの容積は変化しない状態が維持される。これにより、第1マスタピストン11aのサーボ圧受部11a1がサーボ圧Psを受圧し、第1マスタピストン11aの後端面と入力ピストン12の先端部12aの前方端面とは離間したまま、第1マスタピストン11aが、前方に向かって移動を開始する。しかし、サーボ圧室10eにサーボ圧Psが供給されていないと、サーボ圧室10eの容積は縮小され、入力ピストン12の先端部12aの前方端面は、第1マスタピストン11aの後端面に当接し、その後、第1マスタピストン11aを前方に押動する。
【0020】
図1に示すように、第1マスタ室10f(本発明のマスタ室に該当する)は、第1マスタピストン11aの加圧ピストン部11a2,第2マスタピストン11bの後方ピストン部11b2およびシリンダ穴10b(シリンダ10a内周面)によって区画形成され、第1マスタピストン11aが前方に移動することによってブレーキ液を加圧しマスタ圧Pmを生成する。
【0021】
第2マスタ室10gは、第2マスタピストン11bの加圧ピストン部11b1,シリンダ10aの底壁10dおよびシリンダ穴10b(シリンダ10a内周面)によって区画形成され、第2マスタピストン11bが前方に移動することによって、ブレーキ液を加圧してマスタ圧Pmを生成する。
【0022】
スプリング13aは、第1マスタ室10f内で、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bの間に縮設され、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bをそれぞれ第1マスタ室10fが拡張される方向に付勢する。スプリング13bは、第2マスタ室10g内で、第2マスタピストン11bおよび底壁10dの間に縮設され、第2マスタピストン11bを、第2マスタ室10gが拡張される方向に付勢する。
【0023】
図1に示すように、マスタシリンダ10のシリンダ10aには、内部と外部を連通するポート10h〜10j,ポート10m,10n,10qおよびポート10rが形成されている。ポート10hは、第1マスタ室10fと大気圧状態のリザーバ14とを、配管91を介して連通し、ポート10iは第2マスタ室10gとリザーバ14とを配管92を介して連通している。このとき、ポート10hおよびポート10iは所定位置に位置する第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bの前方端、具体的には、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bと、シリンダ穴10b(シリンダ10a内周面)との間を液密にシールする例えばゴム製のOリングであるシール部材66および68の前方端の前方直近に開口するよう配置されている。なお、ここでいう、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bの所定位置とは、第2マスタピストン11bにおいては、サーボ圧室10eに液圧が供給されていないとき(例えばブレーキペダル4が踏み込まれていないとき)に、スプリング13aおよびスプリング13bによって対向方向に付勢されてバランスし、停止している位置をいう。また、第1マスタピストン11aにおいては、スプリング13aによって後方に付勢されて第1マスタピストン11aの後方端面が段部10c1に当接し停止している位置をいう(図1参照)。
【0024】
このように、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bの各所定位置に対し、ポート10hおよびポート10iは、前方端の前方直近に配置されるので、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bが前方に移動を開始すると、開始直後にポート10hおよびポート10iはシール部材66および68によって閉塞され、第1マスタ室10fおよび第2マスタ室10gがリザーバ14から遮断される。
【0025】
ポート10jは、サーボ圧室10eとレギュレータ50のサーボ圧生成室57とを、配管93を介して連通させている。ポート10mは、配管61およびABS60を介して、第1マスタ室10fとホイールシリンダWCrr,WCrlとを連通させている。ポート10nは、配管62およびABS60を介して第2マスタ室10gとホイールシリンダWCfr,WCflと連通させている。
【0026】
ポート10q,10rは、隔壁10cより後方に形成されシリンダ穴10bに貫通している。ポート10qは、反力発生装置20に配管94を介して連通されている。ポート10rは、ブレーキペダル4が踏込まれていない状態において、入力ピストン12の鍔部12bの前方端の前方直近に開口するよう配置され、反力圧室10pとリザーバ14とを、配管95を介して連通している。具体的には、ポート10rは、鍔部12bの外周において、鍔部12bとシリンダ穴10b(シリンダ10a内周面)との間を液密にシールするシール部材63の前方端の前方直近に開口するよう配置されている。これにより、ブレーキペダル4が踏み込まれ、入力ピストン12が前方に所定量移動すると、反力圧室10pに開口されるポート10rの開口穴は、シール部材63によって閉塞され、反力圧室10pがリザーバ14から遮断される。
【0027】
ストロークセンサ15は、ブレーキペダル4の近傍に配設され、ブレーキペダル4の操作量(踏み込み量)を検出するセンサであり、検出結果をブレーキECU2に送信する。なお、ブレーキペダル4は、入力ピストン12の後端に連結されているので、結果として入力ピストン12の軸線方向の移動量(操作量)を検出する。
【0028】
反力発生装置20は、ストロークシミュレータ21を備えている。ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル4の操作に応じて反力圧室10pに反力圧を発生させ、通常のブレーキ装置の操作感(踏力感)を再現する装置である。一般的に、ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合され、圧縮スプリング213によって前方に付勢されたピストン212の前面側にパイロット液室214が形成され構成されている。ストロークシミュレータ21は、配管94およびポート10qを介して反力圧室10pに接続されている。
【0029】
これにより、ブレーキペダル4が踏込まれると、入力ピストン12が前進し、ポート10rが閉塞されて反力圧室10pとリザーバ14とが遮断される。その後、入力ピストン12の移動に応じて反力圧室10pからストロークシミュレータ21にブレーキ液が流入し、ストロークシミュレータ21は、反力圧室10pに、ストローク量に応じた反力圧を発生させる。つまり、ストロークシミュレータ21は、入力ピストン12に連結しているブレーキペダル4に、入力ピストン12のストローク量である操作量(ブレーキペダル4の操作量)に応じた反力圧を付与する。
圧力センサ73は、主に反力圧室10pの液圧(反力圧)を検出するセンサであり、配管94に接続されている。圧力センサ73の信号はブレーキECU2に送信される。
【0030】
サーボ圧発生装置は、主に、蓄圧装置30、パイロット圧発生装置40およびレギュレータ50によって構成される。蓄圧装置30は、ブレーキECU2の指示に基づいて、レギュレータ50に高圧のブレーキ液を提供する装置である。蓄圧装置30は、主に、アキュムレータ31と、液圧ポンプ32と、モータ33と、大気圧状態のリザーバ34と、を有している。
【0031】
アキュムレータ31は、液圧ポンプ32により発生された液圧を蓄圧するものである。アキュムレータ31は、配管31aにより、レギュレータ50,圧力センサ75および液圧ポンプ32と接続されている。液圧ポンプ32は、モータ33およびリザーバ34と接続されており、リザーバ34に貯留されるブレーキ液をモータ33が駆動することでアキュムレータ31に供給する。圧力センサ75は、アキュムレータ31の液圧を検出する。
【0032】
アキュムレータ圧が所定値以下に低下したことが圧力センサ75によって検出されると、ブレーキECU2からの制御信号に基づいてモータ33が駆動され、液圧ポンプ32は、アキュムレータ31にブレーキ液を供給してアキュムレータ31に圧力エネルギーを補給する。
【0033】
パイロット圧発生装置40は、レギュレータ50がサーボ圧Psを生成可能とするために、レギュレータ50に、生成した所定圧のパイロット圧Pp(本実施形態においては、サーボ圧Psと同圧となるよう制御される)を供給する装置である。パイロット圧発生装置40がレギュレータ50に供給する所定のパイロット圧Ppの大きさ(=サーボ圧Ps)は、上述したように目標摩擦制動力に基づいてブレーキECU2が演算し決定する。
【0034】
パイロット圧発生装置40は、減圧弁41および増圧弁42を備えている。減圧弁41は、常開型の電磁弁であり、一方が配管411を介して大気圧状態のリザーバ43に接続され、他方が配管413に接続されている。減圧弁41は、ブレーキECU2によって流路の開口面積がリニアに制御されることにより、下流の流路の液圧が制御される。
【0035】
増圧弁42は、常閉型の電磁弁であり、増圧弁42の一方は配管422に接続されて蓄圧装置30に連通され、増圧弁42の他方は配管421に接続され、配管421は配管413に接続されている。増圧弁42は、ブレーキECU2によって流路の開口面積がリニアに制御されることにより、下流の流路の液圧が制御される。
【0036】
レギュレータ50は、主に第1パイロット室53へのパイロット圧Ppの給排によりマスタシリンダ10のサーボ圧室10eの液圧を調整するものである。図1図2に示すように、レギュレータ50は、主に、ハウジング55,第1ピストン51,第2ピストン52,第1パイロット室53,第2パイロット室54,弁機構56およびサーボ圧生成室57を備えている。そして本実施形態においては、第2パイロット室54,第2ピストン52,第1パイロット室53,および第1ピストン51が、前方側に底面を有する略有底円筒状部材である第1ケース58内に底面から順に整列して配設され、弁機構56は、弁機構56の弁ハウジング56aと兼用する第2ケース59内に構成されて、第1ケース58の開口側に固定される。なお、第1ケース58は、ハウジング55と共に、本発明に係るハウジングに該当する。
【0037】
一体的に固定された第1ケース58および第2ケース59によってサブアッセンブリ80が形成されている。このとき、サーボ圧生成室57は、第1ケース58と第2ケース59との間で囲繞される空間によって形成される。そして、サブアッセンブリ80がハウジング55内に挿入され、ハウジング55の開口部が、後述する蓋部材55bによって螺着され封止されてレギュレータ50が構成されている。なお、以後、レギュレータ50の図1図2における左方を前方とし、右方を後方として説明する。
【0038】
ハウジング55は、後方側に底面を有する略有底円筒状のハウジングボデー55aと、ハウジングボデー55aの前方の開口を螺着して塞ぎ、サブアッセンブリ80の前方端面に後方端面が当接して、サブアッセンブリ80をハウジングボデー55aの底面側に押圧する前述した蓋部材55bと、を備えている。蓋部材55bは、本実施形態においては、内6角穴を有するスクリュである。ハウジングボデー55aには、内部と外部を連通させる複数のポート55c〜55hが形成されている。
【0039】
ポート55cは、配管31aと接続している。ポート55dは、配管93と接続している。ポート55eは、リザーバ43に連通する配管431と接続している。ポート55fは、配管413に接続している。ポート55gは、配管431に接続する配管432に接続している。ポート55hは、配管61から分岐した配管611に接続されている。
【0040】
ハウジングボデー55aの内部は、底面側からサブアッセンブリ80の弁機構56部を収容する小径部55i、サブアッセンブリ80の第1ケース58部を収容する中径部55j、蓋部材55bが螺着される大径ネジ部55kによって形成されている。
そして、小径部55iの内周面においてポート55cが開口する位置の全周には、ハウジングボデー55aの軸線方向に所定の幅を有した連絡流路55c1が刻設されている。また、中径部55jの内周面においてポート55d〜ポート55hが開口する位置の全周には、ハウジングボデー55aの軸線方向に所定の幅を有した連絡流路55d1,55e1,55f1,55g1および55h1がそれぞれ刻設されている。ハウジングボデー55aの中径部55jには、第1ケース58が、第1ケース58の開口側を先頭に挿入されて配設されている。
【0041】
このように、第1ピストン51が、第1ケース58内を第1パイロット室53とサーボ圧室10eに連通されたサーボ圧生成室57(図1図2参照)と、に区画し、第2ピストン52が、第1ケース58内に第1ピストン51に対して接離可能に嵌合され、第1ケース58内を第1パイロット室53と第1マスタ室10fに連通された第2パイロット室54と、に区画する。
【0042】
第1ケース58には、内部と外部を連通させる複数のポート58d〜58hが形成されている。ポート58dは、第1ケース58がハウジングボデー55a内に配設された状態で、ハウジングボデー55a内周面に刻設された連絡流路55d1とサーボ圧生成室57と、を連通している。ポート58eは、ハウジングボデー55a内周面に刻設された連絡流路55e1と連絡流路51a1(大気圧室)と、を連通している。ポート58fは、ハウジングボデー55a内周面に刻設された連絡流路55f1と第1パイロット室53と、を連通している。
【0043】
ポート58gは、ハウジングボデー55a内周面に刻設された連絡流路55g1と図2に示す中間大気圧室52cと、を連通している。さらにポート58hは、ハウジングボデー55a内周面に刻設された連絡流路55h1と第2パイロット室54と、を連通している。なお、本実施形態において、ポート58d〜58hは、第1ケース58の外周において180度離れた位置にそれぞれ2個ずつ設けたが、これに限らず、必要流量を満足すれば外周上に1個だけ設けてもよいし、3個以上設けてもよい。
【0044】
第2パイロット室54は、第1ケース58の底面,第1ケース58の内周面および第2ピストン52によって区画され形成されている。第2パイロット室54は、ポート58h,連絡流路55h1およびポート55hを介して配管611と接続され、マスタシリンダ10の第1マスタ室10fに連通されている。
【0045】
第2ピストン52は、外周面が大径および小径の2つの径を有した段付きの円柱形状を呈し、第1ケース58の内周面に軸線方向に摺動可能に嵌合されている。図2および第2ピストン52の模式図を示した図3に示すように、第1ケース58の底面側(前方側)に配設される小径の小径円柱部52aは、第2パイロット室54側に受圧面積Aを有する端面52a1が露出するように形成されている。また大径の大径円柱部52bは、第1パイロット室53側に受圧面積Bを有する端面52b1が露出するように形成されている。
【0046】
小径円柱部52aおよび大径円柱部52bには、シール部材81,82がそれぞれ配設され、第1ケース58の内周面との間が液密にシールされている。これによって、小径円柱部52aの端面52a1が、第2パイロット室54の液圧、つまり第1マスタ室10fのマスタ圧Pmを受圧して、第2ピストン52が、第1ピストン51方向に付勢力Fm(=Pm×A)で付勢される。また、大径円柱部52bの端面52b1が、パイロット圧発生装置40で生成された第1パイロット室53のパイロット圧Ppを受圧して、第2ピストン52が第1ケース58の底面側に付勢力Fp(=Pp×B)で付勢される。このとき、本実施形態においては、マスタ圧Pmとパイロット圧Ppとは同圧になるよう制御するものとする。
【0047】
しかし、後に作用の説明において詳述するように、例えば運転者がそれまで踏込んでいたブレーキペダル4を解除したときにはマスタ圧Pm>パイロット圧Ppという状態が生じる虞がある。この場合には、付勢力Fm,Fpの関係が付勢力Fm>付勢力Fpとなり、意図せず、第2ピストン52が、第1ピストン51方向に移動されサーボ圧Psの生成に影響を及ぼす虞れがある。本発明においては、このような場合にも、図3に示すように、付勢力Fm<付勢力Fpとなるよう、小径円柱部52aの受圧面積Aおよび大径円柱部52bの受圧面積B、即ち、小径円柱部52aおよび大径円柱部52bの外径を適切に設定するものである。
【0048】
なお、本発明においては、マスタ圧Pm≦パイロット圧Ppの関係となる場合には、図3に示すように、付勢力Fm,Fpの関係が、付勢力Fm<付勢力Fpとなり、第2ピストン52は、第1ケース58の底面側に付勢され移動しないため、サーボ圧Psの生成に影響を及ぼす虞はない。
【0049】
第1ケース58の内周面と第2ピストン52とを液密に嵌合させるために、第1ケース58の内周面も段付き形状を呈している。つまり、第2ピストン52の小径円柱部52aおよび大径円柱部52bに対応するよう、第1ケース58の内周面の底面側の内径が小さくなるよう形成し、それ以外の内径部は大径円柱部52bの径に対応させて大きく形成している。ただし、第1ケース58の内周面の段付き位置は、第2ピストン52の端面が第1ケース58の底面に当接し配設されている状態における第2ピストン52の段付き位置よりもさらに第1ケース58の開口部側にずらして設け、第2ピストン52と第1ケース58の内周面との間に上述した中間大気圧室52cを設けている。つまり、中間大気圧室52cは、シール部材81およびシール部材82の間に設けられている。そして、この中間大気圧室52cは、第1ケース58のポート58gと連通し、ポート58gは連絡流路55g1およびポート55gを介してリザーバ43に連通している。
【0050】
第1ピストン51は、第1ケース58の内周面に、液密、且つ第2ピストン52と同軸で軸線方向に摺動可能に嵌合されている。第1ピストン51は、主に、ボデー部51aおよびボデー部51aの内部に圧入嵌合される制御ピストン51bを備えている。ボデー部51aは有底カップ状に形成されている。第1ピストン51の円筒外径は、第2ピストン52の大径円柱部52bの外径と同径に形成されている。また、ボデー部51aの前方端面51a3は、第2ピストン52の後方の端面52b1と対向して配設され、前方の端面51a3,後方の端面52b1および第1ケース58の内周面によって第1パイロット室53が区画形成されている。
【0051】
ボデー部51aの外周面には、第1パイロット室53側および第1ケース58の開口側にシール部材83,84がそれぞれ配設され、第1ケース58の内周面との間がそれぞれ液密にシールされている。そして、シール部材83,84の間には前述した連絡流路51a1が設けられており、第1ケース58に形成されたポート58eに連通している。
【0052】
制御ピストン51bは、略円柱状の本体部51b1および本体部51b1の円柱軸中心から突出され、本体部51b1よりも径が小さな略円柱状の突出部51b2を有している。制御ピストン51bの本体部51b1の外周面は、ボデー部51aの内周面にシール部材85を介して嵌入され、これによってボデー部51aと一体的に軸線方向に移動可能となっている。
【0053】
本体部51b1および突出部51b2の円柱軸線方向には、突出部51b2先端から穿設された通路51b3が本体部51b1を貫通しないように設けられている。また本体部51b1内には、通路51b3に直交し本体部51b1の外周面に開口する周方向(図面上下方向)に延在する通路51b4が設けられている。さらに、本体部51b1の外周面には通路51b4と連通するよう連絡流路51b5が、外周全周に亘って刻設されている。そして連絡流路51b5とボデー部51aの外周面に刻設された連絡流路51a1とを連通する通路51a2が周方向(図面上下方向)に延在して設けられている。
【0054】
突出部51b2の円筒外径は、後述する弁座部56cの内径部56c3よりも小さく、弁座部56c内を挿通可能となっている。突出部51b2は、弁座部56cの内径部56c3と同軸上に配設されている。第1パイロット室53にパイロット圧Ppが供給されていない状態において、突出部51b2の先端は、弁座56c2に着座する後述する弁体56bのボール弁56b2から第1ケース58の底面側に所定間隔離間されている。
【0055】
弁機構56は、第1ピストン51の移動に応じて弁体56bを開閉弁させ、サーボ圧生成室57の蓄圧装置30への連通、非連通を制御する。このとき、非連通時には、サーボ圧生成室57は、リザーバ43に連通し大気圧状態となっている。弁機構56は、前述した第2ケース59を兼用する弁ハウジング56a,弁体56b,弁座部56cおよびコイルスプリング56dを備えている。弁ハウジング56aは、径の異なる第1円筒部56a1(径大側)および第2円筒部56a2(径小側)が対向する方向に同軸で突設され、第1円筒部56a1および第2円筒部56a2の間には円筒外周に対して立設する鍔部56a3が設けられている。
【0056】
有底の第1円筒部56a1は、ハウジングボデー55aの底面側に向って突設され、開口を有する第2円筒部56a2は、第1ケース58の底面側に向って突設されている。第1円筒部56a1および第2円筒部56a2内に設けられた円筒穴56a4は、第2円筒部56a2側から第1円筒部56a1の底面まで穿設されている。第1円筒部56a1の底面の中心には、摺動穴56a5が貫通している。
【0057】
また、第1円筒部56a1の外周面から円筒穴56a4にポート56a6が貫通している。このとき、ポート56a6の外周面側の開口はハウジングボデー55a内の中径部55jの内周面に刻設された連絡流路55c1と連通している。これによってポート55cと円筒穴56a4とが連通する。
【0058】
弁体56bは、円筒穴56a4内において第1円筒部56a1側に配置され、その先端に形成される球形のボール弁56b2およびボール弁56b2の中心点に軸線の延長線が交差するようボール弁56b2に溶着される弁軸56b1を備えている。弁軸56b1は、第1円筒部56a1の底面に貫設された摺動穴56a5に挿入されて軸支され、弁ハウジング56aの長手方向に摺動可能となっている。
【0059】
図2に示すように、弁座部56cは、弁座部材56c1および弁座部材56c1に形成された弁座56c2を備えている。弁座部材56c1は略円筒形状を呈し、円筒外周面が弁ハウジング56aの円筒穴56a4に圧入嵌合されている。圧入嵌合された弁座部材56c1の弁座56c2側の先端面(図2において右側)は、円筒穴56a4の略中央まで進入して固定されている。
【0060】
弁座56c2は、弁座部材56c1の後方側に形成されている。弁座56c2が形成される部分では、弁座部材56c1の他の内径部よりも縮径された貫通孔56c3を有している。そして弁座56c2は、貫通孔56c3と弁座部材56c1の後方端面との間に設けた円錐台形状のテーパ面上、若しくは貫通孔56c3とテーパ面との交差部に形成されている。
【0061】
弁座56c2には、弁座部材56c1の後方端面側からボール弁56b2が当接し、円筒穴56a4を、蓄圧装置30が連通され弁体56bが収容される空間(以後、第2空間46と称す)と、マスタシリンダ10のサーボ圧室10eに連通するサーボ圧生成室57と接続される空間(以後、第1空間45と称す)とに区画している。
【0062】
コイルスプリング56dは、ボール弁56b2を弁座56c2に向って付勢するものであって、第2空間46内において弁体56bと弁ハウジング56aの底面との間に縮設されている。このとき、弁体56bは弁軸56b1上に段部を有し、コイルスプリング56dの一端面が当該段部に着座している(図2参照)。このようにして、コイルスプリング56dの付勢によってボール弁56b2が、弁座56c2に当接して押圧され、第1空間45と第2空間46とを液密に遮断している。
【0063】
図2に示すように、弁機構56(サブアッセンブリ80)が、ハウジング55内に配置された状態においては、弁ハウジング56aの鍔部56a3の後方側端面がハウジング55内の小径部55iおよび中径部55jを接続する段部に当接してサブアッセンブリ80の軸線方向における位置決めがされる。そして、このとき、弁ハウジング56aの後方端面とハウジング55の小径部55iの底面との間には所定の隙間が設けられている。この隙間によって弁軸56b1が、弁ハウジング56aの後方端面を越えて移動可能となっており、弁軸56b1のストローク量を確保している。
【0064】
弁ハウジング56a(第2ケース59)の鍔部56a3の外周面は、第1ケース58の開口側先端部に設けられた圧入用内周面に圧入嵌合されている。これにより、第1ケース58の内周面,第1ピストン51のボデー部51aの外周面,内周面および底面,弁ハウジング56aの第2円筒部56a2の外周面および鍔部56a3の前方端面によって囲繞される空間によりサーボ圧生成室57が形成されている。これによりサーボ圧生成室57は、第1空間45と連通している。
【0065】
サーボ圧生成室57内のボデー部51a底面と鍔部46a3の前方端面との間には、ボデー部51a底面側にスペーサを介してスプリング47が縮設され、第1ピストン51を第2ピストン52側に付勢している。
【0066】
そして、このように構成されたサブアッセンブリ80が、ハウジング55に挿入され配置されたときに、サブアッセンブリ80の外周には、ハウジング55の小径部55iおよび中径部55jとの間を液密にシールするように、例えばゴム製のOリング96〜102が設けられている。具体的には、Oリング96〜102は、第2ケース59に設けられたポート56a6および第1ケース58に設けられたポート58d〜ポート58hと、それぞれのポートに対応するハウジング55に設けられたポート55c〜55hとを液密に連結するために、各連絡流路55c1, 55d1〜55h1の前後に設けられている。
【0067】
次にブレーキ配管について、簡単に説明する。マスタシリンダ10において、マスタ圧Pmを発生する第1マスタ室10fおよび第2マスタ室10gのポート10mおよび第2マスタ室10gのポート10nには、それぞれ配管61,62および常開の開閉弁62a,61aを介して、公知のABS(Anti−lock Brake System)60が連結されている。ABS60には、車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrを制動する摩擦ブレーキを作動させるホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrが連結されている。
【0068】
ABS60について、4輪のうちの1つ(例えば右側前輪Wfr)の構成について説明すると、ABS60は、保持弁60a,減圧弁60b,リザーバ60c,ポンプ60dおよびモータ60eを備えている。保持弁60aは、常開型の電磁弁であり、ブレーキECU2により開閉が制御される。保持弁60aは、一方が配管62に接続され、他方がホイールシリンダWCfrおよび減圧弁60bに接続されるよう配設されている。つまり、保持弁60aは、ABS60の入力弁である。なお、ABSは公知であるので、作動についての詳細な説明は省略する。
【0069】
ブレーキECU2は、電子制御ユニットであり、マイクロコンピュータを有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAM、ROMや不揮発性メモリー等の記憶部を備えている。CPUは、後述する「リニアモード」や「REGモード」に対応したプログラム等を実行する。RAMはプログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、記憶部は前記プログラムや、マップデータ等を記憶している。
【0070】
ブレーキECU2は、各種センサ15,73〜75と通信し、各電磁弁41、42、60a、60bおよびモータ33などを制御する。なお、図1においては、ブレーキECU2とストロークセンサ15のみの接続が代表として破線で図示してあり、ブレーキECU2と他の各種センサ73〜75,各電磁弁41,42,60a,60bおよびモータ33との接続は図示省略してある。
【0071】
また、ブレーキECU2は、ハイブリッドECU(不図示)に互いに通信可能に接続されており、「要求制動力」が、回生ブレーキ装置によって発生する「目標回生制動力」と摩擦ブレーキ装置BKによって発生する「目標摩擦制動力」の和に等しくなるように、協調制御(回生協調制御)を行なう。ブレーキECU2は、「リニアモード」および「REGモード」の2つの制御モードを記憶している。
【0072】
まず、「リニアモード」における通常の作動について説明する。「リニアモード」とは、通常のブレーキ制御であり、減圧弁41および増圧弁42を制御してサーボ圧室10eの「サーボ圧Ps」を制御するモードである。この「リニアモード」において、ブレーキECU2は、ストロークセンサ15で検出されたブレーキペダル4の操作量(入力ピストン12の操作量)から、運転者の「要求制動力」を算出する。そして、ブレーキECU2は、運転者の「要求制動力」をハイブリッドECUに出力し、ハイブリッドECUから回生ブレーキ装置の目標値、即ち「目標回生制動力」を取得し、「要求制動力」から「目標回生制動力」を減算して、「目標摩擦制動力」を算出する。そして、ブレーキECU2は、算出した「目標摩擦制動力」に基づいて、パイロット圧発生装置40の減圧弁41および増圧弁42を制御することにより所定圧のパイロット圧Ppを発生させる。そして、レギュレータ50によって、「サーボ圧Ps」(=パイロット圧Pp)を生成してサーボ圧室10eに供給し、摩擦ブレーキ装置BKでの摩擦制動力が、「目標摩擦制動力」となるように制御する。
【0073】
よって、ブレーキペダル4が踏込まれると、「目標摩擦制動力」に基づいて、ブレーキECU2が減圧弁41を閉じる方向に制御し、増圧弁42を開ける方向に制御する。
増圧弁42が開くことでアキュムレータ31と第1パイロット室53とが連通する。また、減圧弁41が閉じることで、第1パイロット室53とリザーバ43とが遮断される。アキュムレータ31から供給される高圧のブレーキ液により、第1パイロット室53のパイロット圧Ppを上昇させることができる。パイロット圧Ppが上昇することで、第1ピストン51(制御ピストン51b)が弁機構56方向に付勢され、制御ピストン51bがハウジングボデー55a底面側に向かって摺動する。これにより、制御ピストン51bの突出部51b2先端がボール弁56b2に当接し、突出部51b2の通路51b3がボール弁56b2により塞がれ、第1空間45とリザーバ43との連通が遮断される。
【0074】
さらに、制御ピストン51bがハウジングボデー55a底面側に向かって移動することで、突出部51b2が、ボール弁56b2をハウジングボデー55a底面側に向かって押動し、ボール弁56b2を弁座56c2から離間させる。これにより、第1空間45および第2空間46は弁座部材56c1の貫通孔56c3を介して連通する。第2空間46には、アキュムレータ31から高圧のブレーキ液が供給されているので、連通により第1空間45の液圧が上昇する。
【0075】
なお、ボール弁56b2の弁座56c2からの離間距離が大きくなる程、ブレーキ液の流路面積が大きくなり、ボール弁56b2の下流の流路の液圧の昇圧速度が早くなり応答性が向上する。そして、上記第1空間45の液圧上昇の結果、第1ピストン51に作用する第1空間45に対応する力が、第1ピストン51に作用するパイロット圧Paに対応する力よりも大きくなると、第1ピストン51が前方側に摺動して、第1空間45が第2空間46から遮断される。このような作動により、第1空間45およびサーボ圧生成室57の液圧はパイロット圧Paに応じた圧力になる。
【0076】
また、ブレーキECU2は、「目標摩擦制動力」が大きくなる程、第1パイロット室53のパイロット圧Paが高くなるように、増圧弁42を開弁方向に制御するとともに、減圧弁41を閉弁方向に制御する。つまり、「目標摩擦制動力」が大きくなる程、パイロット圧Paが高くなり、サーボ圧Psつまりサーボ圧室10eの液圧も高くなる。
【0077】
サーボ圧室10eの液圧上昇により、第1マスタピストン11aが前進し、第1マスタ室10fのマスタ圧Pmが上昇する。そして、第2マスタピストン11bも前進し、第2マスタ室10gのマスタ圧Pmが上昇する。このとき、第1マスタ室10fおよび第2マスタ室10gのマスタ圧Pmは等しいものとする。
【0078】
そして、前述したように、本実施形態においては、サーボ圧室10eの目標サーボ圧力Psはパイロット圧Ppと等しくなるよう制御される。またマスタ圧Pmも、パイロット圧Ppと等しくなるよう制御されるものとする(つまり、サーボ圧Ps=マスタ圧Pm=パイロット圧Ppとなるよう制御される)。
【0079】
そして、第1マスタ室10fの液圧上昇により、第1マスタ室10fから高圧のブレーキ液がABS60に供給され、摩擦ブレーキが作動して車両が制動される。なお、このとき、第2パイロット室54にも第1マスタ室10fからサーボ圧力Ps(=パイロット圧Pp)のブレーキ液が供給される。この状態において、本発明においては、第2ピストン52における第1パイロット室53のパイロット圧Ppを受圧する端面52b1の受圧面積Bが、第2パイロット室54から受圧する端面52a1の受圧面積Aよりも大きく形成されているので、通常、第2ピストン52は第2パイロット室54側に向かって付勢され、第2ピストン52は移動しない。
【0080】
ブレーキ操作を解除する場合には、反対に、減圧弁41を開状態とし、増圧弁42を閉状態として、リザーバ43と第1パイロット室53とを連通させる。これにより、第1パイロット室53の液圧は目標どおりにリニアに大気圧まで減圧制御され、制御ピストン51bがスプリング47に付勢されて後退し、ブレーキペダル4を踏む前の状態に戻る。
【0081】
次に、ブレーキペダル4が踏まれている途中(過渡状態)もしくはブレーキペダル4の踏込みが解除されている途中(過渡状態)におけるマスタ圧Pmおよびパイロット圧Ppの液圧の挙動および第2ピストン52の端面52b1の受圧面積Bおよび端面52a1の受圧面積Aの設定方法について説明する。
【0082】
ブレーキペダル4が踏込まれ、若しくは踏込みが解除されて、第1マスタピストン11aおよび第2マスタピストン11bが、マスタシリンダ10のシリンダ穴10b内を摺動している最中には、第1マスタピストン11a(以後、第2マスタピストン11bについては同様の挙動を示すので、説明は省略する)が移動する方向とは逆向きに第1マスタピストン11aに摺動抵抗fが発生し、このため、圧力損失ΔPを生じることが分かっている。これにより、ブレーキペダル4を踏込むことによって、マスタ圧Pmを増圧させる場合およびブレーキの踏込みを解除してマスタ圧Pmを減圧させる過渡状態においては、上記で説明した通常の静的な状態とは異なる現象を生じ、マスタ圧Pmとパイロット圧Ppとの関係は下記(数1)式,(数2)式の通りとなる。
(数1)
増圧時 :Pm=Pp−ΔP
(数2)
減圧時 :Pm=Pp+ΔP
【0083】
これにより、本実施形態のようにマスタ圧Pm=パイロット圧Ppとするよう制御する場合においては、減圧(過渡)時において、パイロット圧Pp<マスタ圧Pmという場合が生じてしまう。図4には、具体的にブレーキペダル4を踏込みおよび解除した場合におけるマスタ圧Pmの過渡特性(破線)およびパイロット圧Ppの過渡特性(実線)をそれぞれ例示してある(縦軸は、液圧Pであり、横軸は時間tである)。
【0084】
図4から明らかなように、増圧(過渡)時(図4のグラフの左側部分参照)においては、摺動抵抗fによる圧力損失ΔPが、マスタ圧Pmを小さくする方向に作用するため、ブレーキペダル4の踏込み速度に依らず、常にパイロット圧Pp>マスタ圧Pmとなっている。これにより、マスタ圧Pmを受圧する受圧面積Aの小径円柱部52aおよびパイロット圧Ppを受圧し小径円柱部52aより大径に形成された受圧面積Bの大径円柱部52bを備えた第2ピストン52を、軸線方向に付勢する付勢力Fp,Fmは、常にFp>Fmとなる。このため、マスタ圧Pmの増圧中および増圧完了時においては、第2ピストン52が、第1パイロット室53方向に押圧されて移動されることはなく、サーボ圧Psに影響を与える虞はない。
【0085】
次に、マスタ圧Pmの減圧(過渡)時について説明する。減圧(過渡)時においては、第1マスタピストン11aの摺動抵抗fによる圧力損失ΔPの影響によって、図4のグラフの右側部分に示すようにパイロット圧Pp<マスタ圧Pmとなる場合が発生する。
【0086】
このとき、従来技術に示すように、レギュレータ50において、第2ピストン52の両端面(受圧面)が同じ径である場合には、マスタ圧Pmを受圧する面の付勢力Fmが、パイロット圧Ppを受圧する面の付勢力Fpよりも大きくなってしまい、第2ピストン52を第1ピストン51方向に移動させ、サーボ圧Psに影響を与える虞がある。
【0087】
しかしながら、本発明においては、第2ピストン52の円筒軸線方向に段差を設け、パイロット圧Ppを受圧する大径円柱部52bの受圧面積Bが、マスタ圧Pmを受圧する小径円柱部52aの受圧面積Aより、大径になるように設定した。このとき、受圧面積Aおよび受圧面積Bの差は、第2ピストン52が、パイロット圧Ppおよびマスタ圧Pmを受圧したときにそれぞれ付勢される付勢力Fpおよび付勢力Fmが、図5に示す特性(特に右側の解除側の特性)を満足するように設定されている。つまり、実際の使用において、ブレーキペダル4の踏込みを解除したことにより、マスタ圧Pmがパイロット圧Ppよりも大きくなり、マスタ圧Pmとパイロット圧Ppとの差が最大となった場合にも、常に付勢力Fpが付勢力Fmよりも大きくなるよう小径円柱部52aの外径(受圧面積A)および大径円柱部52bの外径(受圧面積B)の差が設定されている。これにより、マスタ圧Pmの減圧中においても、常に、付勢力Fp>付勢力Fmとすることができるので、第2ピストン52が、第1ピストン51方向に移動されてサーボ圧Psに影響を与える虞はない。なお、受圧面積Aおよび受圧面積Bを設定するための基礎となるベレーキペダル4の解除過渡時におけるマスタ圧Pmとパイロット圧Ppの求め方は、実験値に基づいてもよいし、計算値であってもよい。
【0088】
次に、「REGモード」について簡単に説明する。「REGモード」は、減圧弁41および増圧弁42を非通電状態にするモード、または故障等により非通電状態(常態維持)になったときのモードである。「REGモード」では、減圧弁41および増圧弁42が通電(制御)されず、減圧弁41は開状態、増圧弁42は閉状態となっている。そして、ブレーキペダル4が踏まれた後も非通電状態(無制御状態)が維持される。
【0089】
「REGモード」において、ブレーキペダル4が踏まれると、入力ピストン12が前進し、やがて、入力ピストン12の前方端面が第1マスタピストン11aの後方端面に当接し第1マスタピストン11aを前進させる。このとき減圧弁41および増圧弁42は通電されていないためサーボ圧は制御されていない。つまり、第1マスタピストン11aは、ブレーキペダル4の操作力に対応する力のみで前進する。
【0090】
第1マスタピストン11aが前進すると、「リニアモード」同様、第1マスタ室10fおよび第2マスタ室10gの液圧は上昇する。そして、第1マスタ室10fの液圧上昇により、第2パイロット室54の液圧も上昇する。第2パイロット室54の液圧上昇により第2ピストン52は、第1ピストン51を押動しながらハウジングボデー55aの底面側に向かって摺動する。同時に、制御ピストン51bの突出部51b2は、ハウジングボデー55aの底面側に向かって摺動する。これにより、突出部51b2はボール弁56b2に当接することによって突出部51b2内を貫通する通路51b3の入口を遮断し、第1空間45(つまりサーボ圧生成室57)とリザーバ43との連通を遮断する。さらに突出部51b2はボール弁56b2を押動し、ボール弁56b2は、ハウジングボデー55aの底面側に押されて移動する。そして、第1空間45と第2空間46とが連通され、アキュムレータ31による高圧のブレーキ液がサーボ圧生成室57を経由してサーボ圧室10eに供給される。
【0091】
このように、「REGモード」では、ブレーキペダル4の操作力により所定ストローク踏込まれると、アキュムレータ31とサーボ圧室10eとが連通し、制御なしにサーボ圧を上昇させることができる。そして、第1マスタピストン11aを運転者の操作力以上に前進させることができる。これにより、各電磁弁が非通電状態であっても、高圧のブレーキ液がABS60に供給される。
【0092】
なお、上記においては、第2ピストン52は外周面に段差を有し、小径円柱部52aおよび大径円柱部52bには、それぞれ第1ケース58の内周面との間を液密にシールするためのシール部材81および82が設けられている。また、軸線方向におけるシール部材81および82の間にはリザーバ43に連通する中間大気圧室52cが設けられている。
【0093】
これにより、車両用制動装置BKの作動中において、例えばシール部材81のシール機能が低下しても、大径円柱部52bをシールするシール部材82の正常なシール機能によって第1パイロット室53内に所定圧のパイロット圧Ppを発生させることができる。このため通常のサーボ圧Psをサーボ圧室10eに供給でき、第2マスタ室10gに所定のマスタ圧Pmを生成させることができる。従って、総合的なブレーキ力は低下するものの充分なブレーキ力を確保することができ安全性が担保できる。このとき、第2パイロット室54では、ブレーキ液がシール部材81から漏れリザーバ43に連通してしまうので、所定圧のマスタ圧Pmを第1マスタ室10fに発生させることが困難になる。そこで、第1マスタ室10fの液圧を監視することで、シール部材81の機能低下を検出し、早期に対応できるようにすればよい。
【0094】
また、例えば小径円柱部52aをシールするシール部材82のシール機能が低下した場合には、第1パイロット室53内に所定圧のパイロット圧Ppを発生させることができなくなり、パイロット圧Ppによるサーボ圧Psの生成ができなくなる。しかし、シール部材81の正常なシール機能によって、第1パイロット室53には、REGモードで説明したブレーキペダル4の踏込み操作力に対応するマスタ圧Pmを発生させることができる。これにより、マスタ圧Pmが第2ピストン52および第1ピストン51を押動してサーボ圧Psを発生させ、所定のマスタ圧Pmを生成することができるので、ブレーキ力を確保することができ安全性が担保できる。
【0095】
このとき、パイロット圧発生装置40は、正常に作動しているにもかかわらず、第1パイロット室53内のブレーキ液は、シール部材82からリザーバ43に連通し漏れてしまい、所定圧のパイロット圧Ppの生成が困難になる。そこで、第1パイロット室53内の液圧を監視することで、シール部材82の機能低下を検出し、早期に対応できるようにすればよい。このように、中間大気圧室52cを介してシール部材81およびシール部材82を2つ設けたことにより、1つのシール部材のシール機能が低下した場合にも、大幅なブレーキ性能の低下に至ることはなく信頼性を向上させることができる。
【0096】
上述した説明から明らかなように、本実施形態においては、レギュレータ50において、パイロット圧Ppが供給される第1パイロット室53に露出する第2ピストン52の大径円柱部52bの端面52b1が、マスタ圧Pmが供給される第2パイロット室54に露出する第2ピストン52の小径円柱部52aの端面52a1より大きな受圧面積で形成されている。これにより、たとえマスタ圧Pmがパイロット圧Ppよりも大きくなるような現象が生じても、第2ピストン52が、マスタ圧Pmとパイロット圧Ppとの差圧によって第1ピストン51方向に移動され、サーボ圧Psの生成に影響を与えることが抑制される。
【0097】
また、本実施形態においては、第2ピストン52の第1パイロット室53に露出する大径円柱部52bの端面52b1の受圧面積Bと、第2パイロット室54に露出する小径円柱部52aの端面52a1の受圧面積Aとの差が、たとえブレーキ解除時のようにマスタ圧Pmがパイロット圧Ppよりも大きくなるような現象が生じた場合でも、第1ピストン51方向に移動されることがないよう設定される。これにより、第2ピストン52が、マスタ圧Pmとパイロット圧Ppとの差圧によって第1ピストン51方向に移動されてサーボ圧Psの生成に影響を与えることが防止される。
【0098】
さらに、本実施形態においては、レギュレータ50を構成する第2ピストン52および第1ピストン51等が、第1および第2ケース58,59に組み付けられて一体化され、当該一体化品がハウジング55内に挿入されてレギュレータ50を構成する。これにより、レギュレータ50の組み付けを簡易に行なうことが可能となり、コスト低減に寄与する。
【0099】
なお、上記実施形態においては、図4のグラフにおいて、ブレーキペダル4の踏込み途中および解除途中にマスタ圧Pmを変動させる理由として第1マスタピストン11aとシリンダ穴10bとの間の摺動抵抗fを挙げて説明した。しかし、ブレーキペダル4の解除を急激に行なった場合には、摺動抵抗fのみならず、図4中の2点鎖線に示すようにブレーキ液の粘性によってマスタ圧Pmに変動が生じることがわかっている。その影響αは、下記の(数3)式,(数4)式に示すように、摺動抵抗fと同じ方向に現れ、ブレーキペダル4が踏まれるときには、α(および圧力損失ΔP)が負側に現れてマスタ圧Pmが小さくなり、踏込みが解除されるときには、α(および圧力損失ΔP)が増加側に現れマスタ圧Pmが大きくなる。
(数3)
増圧時 :Pm=Pp−ΔP−α
(数4)
減圧時 :Pm=Pp+ΔP+α
【0100】
これにより、本実施形態において、ブレーキペダル4を急激に解除する場合も考慮する場合には、付勢力Fp(=Pp×B)が付勢力Fm(=(Pp−ΔP+α)×A)よりも大きくなるよう小径円柱部52aの外径(即ち、受圧面積A)および大径円柱部52bの外径(即ち、受圧面積B)を設定すればよい。これにより、ブレーキペダル4の急激な解除時におけるマスタ圧Pmの減圧中においても、常に、付勢力Fp>付勢力Fmとすることができるので、第2ピストン52が、第1ピストン51方向に移動されてサーボ圧Psに影響を与える虞はない。
【0101】
なお、以上説明した実施形態では、ブレーキECU2は、入力ピストン12の移動量(操作量)のみに基づいて、「要求制動力」を算出し、次いで、「目標摩擦制動力」を算出している。しかし、ブレーキECU2が、入力ピストン12の移動量のみならず反力発生装置20の反力圧を検出し、当該反力圧も加えて「要求制動力」を算出し、次いで、「目標摩擦制動力」を算出する実施形態であっても差し支え無い。
【0102】
また、以上説明した実施形態では、入力ピストン12の移動量を検出するストロークセンサ15は、ブレーキペダル4の近傍に配設され、ブレーキペダル4のストローク量を検出するセンサである。しかし、ストロークセンサ15は、入力ピストン12の近傍に配設され、入力ピストン12の移動量(ストローク量、操作量)を直接検出するセンサであっても差し支え無い。
【0103】
また、以上説明した実施形態では、入力ピストン12に運転者の操作力を伝達する部材は、ブレーキペダル4とした。しかし、操作力を伝達する部材は、ブレーキペダル4に限定されず、例えば、ブレーキレバーやブレーキハンドルであっても差し支え無い。そして、本実施形態の車両用制動装置(摩擦ブレーキ装置BK)を、自動二輪車やその他車両に適用しても、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0104】
また、本実施形態においては、第1ケース58内の底面から順に第2パイロット室54,第2ピストン52,第1パイロット室53,および第1ピストン51が収納され、弁機構56は、弁機構56の弁ハウジング56aと兼用する第2ケース59によって構成される。そして、第1ケース58の開口側と第2ケース59とが一体的に固定されてサブアッセンブリ80が形成され、サブアッセンブリ80がハウジング55内に挿入されてレギュレータ50が構成されている。しかしながら、この形態に限らず、第1ケース58を用いずに、第2パイロット室54,第2ピストン52,第1パイロット室53,第1ピストン51および弁機構56を同順にハウジング55内に直接収納してレギュレータ50を構成してもよい。このとき、第1ケース58内に設けていた、第2ピストン52の外周に設けられた段差に対応する段差部をハウジング55の内周面に設ければよい。これにより、高コストな第1ケース58を廃止できるので、大幅なコスト低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0105】
2・・・ブレーキECU、 4・・・ブレーキペダル、 10・・・マスタシリンダ、 11a・・・マスタピストン(第1マスタピストン)、 11b・・・第2マスタピストン、 12・・・入力ピストン、 15・・・ストロークセンサ、 20・・・反力発生装置、 30・・・蓄圧装置、 31・・・アキュムレータ、 40・・・パイロット圧発生装置、 41・・・減圧弁、 42・・・増圧弁、 50・・・レギュレータ、 51・・・第1ピストン、 52・・・第2ピストン、 53・・・第1パイロット室、 54・・・第2パイロット室、 55・・・ハウジング、 56・・・弁機構、 57・・・サーボ圧生成室、 60・・・ABS、73,74,75・・・圧力センサ、 BK・・・摩擦ブレーキ装置(車両用制動装置)、 WCfl,WCfr,WCrl,WCrr・・・ホイールシリンダ、 Wfl,Wfr,Wrl,Wrr・・・車輪。
図1
図2
図3
図4
図5