【文献】
中川憲彦、外4名,レーザ溶接高強度鋼板のプレス成形シミュレーション,塑性と加工,日本,社団法人日本塑性加工学会,1994年 9月20日,vol.35、no.404,p.1115-1121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
素材金属板をプレスして、縦壁部と、縦壁部の片端部につながるフランジ部と、縦壁部のフランジ部がつながる側と反対側の端部につながりかつフランジ部と反対方向に延びる天板部とを持ち、かつ縦壁の一部もしくは全体がフランジを内側とするように湾曲するL字状形状に成形する方法であって、
素材金属板のL字の下側に相当する部分の端部が天板部内にあるような形状をした素材金属板を、ダイ金型上に配置し、天板部をパッドで押さえて前記素材金属板の面外変形または座屈を抑制しながら、前記素材金属板のうち、前記天板部に対応する領域の少なくとも一部を、前記ダイ金型のうち前記天板部に対応する部位の上でスライドさせつつ、縦壁部およびフランジ部を曲げ型によりプレスすることにより成形することを特徴とするL字状形状を有するプレス部品の成形方法。
素材金属板をプレスして、縦壁部と、縦壁部の片端部につながるフランジ部と、縦壁部のフランジ部がつながる側と反対側の端部につながりかつフランジ部と反対方向に延びる天板部とを持ち、かつ縦壁の一部もしくは全体がフランジを内側とするように湾曲するL字状形状に成形する方法であって、
素材金属板のL字の下側に相当する部分の端部が天板部内にあり、縦壁の湾曲の中央より、上側のフランジ部に余肉を設け、かつフランジの幅と余肉の幅の合計が25mm以上、100mm以下とするような形状を有する素材金属板を、ダイ金型上に配置し、天板部をパッドで押さえて前記素材金属板の面外変形または座屈を抑制しながら、前記素材金属板のうち、前記天板部に対応する領域の少なくとも一部を、前記ダイ金型のうち前記天板部に対応する部位の上でスライドさせつつ、縦壁部およびフランジ部を曲げ型によりプレスすることにより成形し、その後にフランジ部分の余肉をトリムすることを特徴とするL字状形状を有するプレス部品の成形方法。
素材金属板を破断強度が400MPa以上、1600MPa以下の鋼板とすることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のL字状形状を有するプレス部品の成形方法。
複数のL字状形状を有する形状をプレス成形するあたり、1つのL字状形状もしくは複数のL字状形状もしくは全てのL字状形状の成形について、請求項3〜6のいずれか一項に記載のL字状形状の成形方法により成形を行うことを特徴とするL字状形状を有するプレス部品の成形方法。
【背景技術】
【0002】
自動車骨格構造は、素材金属板からプレス成形されて製作されるフロントピラーレインフォースメント、センターピラーレインフォースメント、及びサイドシルアウターレインフォースメント等の骨格部材を接合することにより形成される。例えば、
図1は骨格部材110、120、130、140をスポット溶接によって接合することにより形成される骨格構造100を示す。骨格部材110は、天板部111と、縦壁部112と、フランジ部113とによるL字状形状を有し、これにより骨格構造100の強度及び剛性を確保している。
【0003】
通常、骨格部材110のようなL字状形状を有する部品(以下、L字状形状部品と呼ぶ場合がある)をプレス成形する場合には、シワの発生を抑えるために絞り成形方法が採用される。絞り成形方法では、
図3の(a)、(b)に示すようにダイ201、パンチ202、及びシワ押さえ203(ホルダー)を用いて素材金属板300Aを成形体300Bに絞り成形する。例えば、
図4Aに示す部品300を絞り成形方法により製造する場合には、(1)
図4Bに示す素材金属板300Aをダイ201とパンチ202の間に設置し、(2)
図4Cに示す、素材金属板300Aの周囲のシワ押さえ領域Tをシワ押さえ203とダイ201により強く押さえ、(3)ダイ201とパンチ202とをプレス方向(鉛直方向)に相対移動させて素材金属板300Aを
図4Dに示す絞り成形体300Bに絞り成形し、(4)絞り成形体300Bの周囲の不要な部分をトリムし、部品300を得る。この絞り成形方法によれば、シワ押さえ203により素材金属板300Aの金属材料流動を制御できるため、素材金属板300Aの過剰な流入によるシワ発生を抑えることができる。しかしながら、素材金属板300Aの周囲に大きなトリム領域が必要になるため、歩留まりが低下し、コストが上昇する。また、絞り成形の過程で、絞り成形体300Bには、
図5に示すように、金属材料が過剰に流入する領域(α領域)ではシワが発生しやすく、一方、板厚が局部的に減少する領域(β領域)では割れが発生しやすい。このような割れ及びシワを防止するために、従来では延性に優れた比較的低強度の金属板を素材金属板300Aとして用いる必要があった。
【0004】
上述のように、絞り成形される素材金属板には高い延性が要求される。例えば、延性の小さい高強度鋼板を素材金属板として用いてL字状形状部品を絞り成形する場合、延性の不足により割れやシワが発生しやすい。このため、従来、フロントピラーレインフォースメントやセンターピラーレイフォースメント等のL字状形状部品は、延性に優れた比較的低強度の鋼板を素材金属板として用いて製造されていた。従って、強度を確保するためには素材金属板の板厚を厚くする必要があり、部品重量増加やコスト高などの問題があった。このような問題は、
図2に示すような、2つのL字状形状を組み合わせたT字状形状を有する骨格部材110’をプレス成形する場合も同様に起こる。
【0005】
特許文献1〜特許文献4には、ハット形状、Z字状形状などの単純断面形状を有する部品を製造するための曲げ成形方法が記載されているが、これらの方法は上記のL字状形状部品の製造には使用できない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るプレス成形方法について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係るプレス成形方法では、天板部11と、弧状に湾曲している部位15aを有する屈曲部15を介して天板部11につながり、且つ、屈曲部15と反対側にフランジ部13を有する縦壁部12とを有する部品を、鋼板S(素材金属板)から成形する。天板部11は、縦壁部12の弧の外側に存在する。このプレス成形方法では、鋼板Sの少なくとも一部の領域(鋼板Sのうち、天板部11に対応する領域の少なくとも一部)が、ダイ金型51のうち前記天板部11に対応する部位の上でスライド(面内移動)することを許容した状態で、縦壁部12及びフランジ部13を成形する。より具体的には、鋼板Sをダイ金型51とパッド52及び曲げ型53との間に配置し、パッド52を鋼板Sに近接又は接触させた状態で、鋼板Sの少なくとも一部を、ダイ金型51のうち天板部11に対応する部位の上でスライドさせつつ、縦壁部12およびフランジ部13を成形する。
尚、「パッドを鋼板に近接させた状態」とは、ダイ金型のうち天板部に対応する部位の上で鋼板がスライドする場合には鋼板とパッドとが接触せず、当該部位の上で鋼板が面外変形(又は座屈)しようとした場合には鋼板とパッドとが接触する状態を意味する。
【0014】
縦壁部12およびフランジ部13の成形では、金属板Sの一部を面外変形抑制領域(領域F)として、パッド52により所定の荷重圧力で加圧してもよい。
【0015】
例えばパッド荷重圧力が高く設定され、プレス中に鋼板Sの“ダイ金型51の天板部に接する部分”がダイ金型51とパッド52との間で十分にスライド(面内移動)できない場合には、フランジ部13で割れが発生してしまう。
また、パッド52による荷重圧力が低く設定され、プレス中に鋼板Sの“ダイ金型51の天板部に接する部分”での面外変形を拘束できない場合は、天板部11でシワが発生してしまう。
自動車部品等で一般に使用される引張強度200MPaから1600MPaの金属板を成形する場合、30MPa以上の圧力で加圧するとフランジ部13で割れが発生し、一方、0.1MPa以下の圧力で加圧すると天板部11での面外変形を十分に抑制できないので、パッド52による加圧は0.1MPa以上かつ30MPa以下の圧力で行うことが望ましい。
さらに一般的な自動車部品の製造用のプレス機および金型ユニットを考えると、0.4MPa以下では荷重が小さいため、ガスクッション等でパッド52を安定して加圧することが難しく、15MPa以上では荷重が大きくなり高圧の加圧装置が必要になるため設備コストが高くなるので、パッド52による加圧は0.4MPa以上かつ15MPa以下の圧力で行うことがより望ましい。
ここで言う圧力とは、パッド加圧力を、パッド52と鋼板Sとの接触部分の面積で除した平均面圧のことであり、局所的には多少のバラツキがあってもよい。
【0016】
また、縦壁部12およびフランジ部13の成形では、鋼板Sの一部を面外変形抑制領域(領域F)として、パッドの面外抑制領域に近接又は接触する部分については、パッド52とダイ金型51との隙間を、鋼板Sの板厚以上でかつ板厚の1.1倍以下に保った状態で、成形してもよい。
【0017】
例えば、天板部11に相当する部分のパッド52とダイ金型51との隙間を鋼板Sの板厚以上でかつ板厚の1.1倍以下に保った状態で成形した場合、鋼板Sには過大な面圧がからないため、プレス中に鋼板Sは金型ユニット50内で十分にスライド(面内移動)でき、更に、成形が進むにつれ、天板部11で肉余りが発生し、鋼板Sを面外変形させる力が働いた場合には、パッド52により鋼板Sの面外変形が拘束されるので、割れやシワの発生を抑制することができる。
天板部11に相当する部分のパッド52とダイ金型51との隙間を鋼板Sの板厚未満にして成形した場合は、鋼板Sとダイ金型51との間に過大な面圧がかかることになり、鋼板Sが金型ユニット50内で十分にスライド(面内移動)できずに、フランジ部13で割れが発生してしまう。
一方、天板部11に相当する部分のパッド52とダイ金型51との隙間を鋼板Sの板厚の1.1倍以上として成形した場合、プレス中に鋼板Sの面外変形が十分に拘束されないため、成形が進むにつれ、天板部11で鋼板Sが大幅に余ることにより、天板部11に顕著なシワの発生のみならず、座屈が発生し、所定の形に成形することができなくなる。
自動車部品等で一般に使用される引張強度200MPaから1600MPaの金属板をその一部を面外変形抑制領域(領域F)として、パッド52の面外抑制領域に近接又は接触する部分についてはパッド52をダイ金型51との隙間が、板厚以上でかつ板厚の1.1倍以下に保った状態で成形する場合、パッド52とダイ金型51との隙間が板厚の1.03倍以上であると、多少のシワが発生するので、パッド52とダイ金型51との隙間は板厚以上、かつ板厚の1.03倍以下とすることがより望ましい。
【0018】
すなわち、本実施形態に係るプレス成形方法では、
図8に示すように、鋼板Sをプレスして、縦壁部12と、縦壁部12の片端部につながるフランジ部13と、縦壁部12のフランジ部13がつながる側と反対側の端部につながりかつフランジ部13と反対方向に延びる天板部11とを持ち、かつ縦壁の一部もしくは全体がフランジ部13を内側とするように湾曲するL字状形状に成形するにあたり、鋼板SのL字の下側に相当する部分の端部が天板部11内にあるような形状をした鋼板Sを、ダイ金型51上に配置し、天板部11をパッド52で押さえながら又は近接させながら縦壁部12およびフランジ部13を曲げ型53によりプレスする。尚、
図8の(a)は
図6のa−a矢視についてプレス中の鋼板Sの挙動を示し、
図8の(b)は
図6のb−b矢視についてプレス中の鋼板Sの挙動を示す。
【0019】
L字状形状部品10は、
図6に示されるように、L字状形状を有する平面状の天板部11と、縦壁部12と、フランジ部13とを有する。天板部11は、弧状に湾曲している部位15aを含む屈曲部15を介して縦壁部12に連接している。弧状に湾曲している部位15aの弧は、プレス方向から見て、一定の曲率を有する形状、楕円形状、複数の曲率を有する形状、又は直線部を含む形状などを有する。すなわち、L字状形状部品10においては、弧状に湾曲している部位15aの弧の外側に天板部11が存在し、弧状に湾曲している部位15aの弧の内側(弧の中心点側)にフランジ部13が存在する。尚、天板部11は完全な平面である必要はなく、プレス製品のデザインに基づき天板部11に種々の付加形状が付与されてもよい。
【0020】
本発明においては、
図6に示すように、L字状形状部品10の弧状に湾曲している部位15aの両端部のうち、屈曲部15の端部(L字下側の端部)から遠い位置の端部を端部A(第1の端部)と呼び、屈曲部15の端部(L字下側の端部)から近い位置の端部を端部B(第2の端部)と呼ぶ。屈曲部15は、端部Aの外側(端部Bの反対側)に略直線状に延在する部位15b、及び、端部Bの外側(端部Aの反対側)に略直線状に延在する部位15cを有する。尚、弧状に湾曲している部位15aの端部Bは屈曲部15の端部と同一点である場合もある。この場合には、端部Bの外側(端部Aの反対側)に略直線上に延在する部位15cは存在しない。
【0021】
鋼板Sは、L字状形状部品10を展開した形状を有する。すなわち、鋼板Sは、L字状形状部品10のうち、天板部11、縦壁部12、フランジ部13などに対応する部位をそれぞれ有する。
尚、鋼板S(素材金属板)として、プレス成形加工、曲げ加工、穴空け加工等の予加工を施した予加工済み鋼板(素材金属板)を用いてもよい。
【0022】
縦壁部12及びフランジ部13の成形では、天板部11の面の垂直方向(プレス方向)からみた場合に屈曲部15の弧状に湾曲している部位15aの一方の端部である端部A(第1の端部)における、屈曲部15と天板部11との境界線の接線で二分される天板部11の領域のうち、屈曲部15の弧状に湾曲している部位15aの他方の端部である端部B(第2の端部)を含む側の領域のうちダイ金型51の天板面(鋼板Sの天板部に対応する面)に接する領域(
図10のハッチング部)が面外変形抑制領域(領域F)として加圧されることが好ましい。この場合、天板部11や縦壁部12のシワ発生を抑えることができる。尚、パッド加圧に際しては、鋼板Sのダイ金型51の天板面に接する部分全面もしくは、面外変形抑制領域(領域F)の全体を含む鋼板Sのダイ金型51の天板面に接する部分の一部をカバーする形状のパッドを用いることが好ましいが、例えば製品のデザインにより面外変形抑制領域(領域F)に付加形状が存在する場合等には、付加形状部を避けて、少なくとも面外変形抑制領域(領域F)のうち屈曲部の弧状に湾曲している部位との境界線に接する部位の、当該境界線から5mm以内の領域を含みかつ面外変形抑制領域(領域F)の50%以上面積をカバーする形状のパッドを用いてもよい。更には、加圧面が区切りされたパッドを用いることもできる。
【0023】
また、鋼板Sのうち、天板部11の、天板部11と屈曲部15のうち弧状に湾曲している部位15aとの境界線に接する部位の、少なくとも、当該境界線から5mm以内の領域を、パッド52で加圧することが好ましい。一方、例えば境界線から4mm以内の領域のみをパッド52で加圧する場合には、天板部11においてシワが発生しやすい。ただし、シワの発生に関しては、割れの発生に比べ、製品強度に大きな影響を与えるものではない、
【0024】
図7に、本実施形態に係るプレス成形方法で用いる金型ユニット50を示す。この金型ユニット50は、ダイ金型51と、パッド52と、曲げ型53とを備える。
面外変形抑制領域(領域F)に対応する部位などの面内移動を許容する程度に鋼板Sを加圧する場合に用いるパッド52の駆動機構は、バネや油圧でよく、また、ガスクッションをパッド52としてもよい。
また、面外変形抑制領域(領域F)に近接又は接触する部分についてパッド52とダイ金型51との隙間を、鋼板Sの板厚以上でかつ板厚の1.1倍以下に保った状態で縦壁部12及びフランジ部13を成形する場合に用いるパッド52の駆動機構は電動シリンダーや油圧サーボ装置などであればよい。
【0025】
本実施形態に係るプレス成形方法では、
図9Aに示す、成形体を展開した形状を有する鋼板Sを、
図9Bに示すように、ダイ金型51の上に設置し、そして、L字状部品10の天板部11に対応する部位を、パッド52によりダイ金型51に向けて加圧した状態で、曲げ型53をプレス方向Pに向けて降下させ、
図9Cに示すように縦壁部12及びフランジ部13を形成することができる。
【0026】
上述のように、曲げ型53をプレス方向に向けて降下させることで、鋼板Sは縦壁部12及びフランジ部13の形状に沿って変形する。このとき、鋼板Sのうち、L字下側部の縦壁部12に対応する部位は、縦壁部12に流入する。すなわち、鋼板Sのうち、L字下側部の天板部11に対応する位置は伸ばされることになるため、従来の絞り成形の場合では過剰な金属材料流入によるシワが発生しやすかった天板部11におけるシワ発生が抑制される。また、鋼板Sのうち、L字下側部のフランジ部13に対応する位置は、過度に伸ばされないため、従来の絞り成形の場合では板厚減少による割れが発生しやすかったフランジ部13における割れの発生が抑制される。また、このようにしてシワ、割れの発生を抑制することから、従来の成形法のように、鋼板SのうちL字状形状部品のL字下側部に対応する部位に、シワ押さえのための大きなトリム領域を設ける必要がない。
【0027】
鋼板Sの形状としては、少なくとも一部の端部が天板部11の同一平面内にあるような形状(プレス成形時に端部が巻き込まれない形状)であればよい。すなわち、
図10に示すように、鋼板Sのうち、面外変形抑制領域(領域F)に対応する部位の端部は前記天板部11と同一平面上にあることが好ましい。
【0028】
形成する縦壁部12の高さHについては、屈曲部15の前記弧状に湾曲している部位15aの長さの0.2倍未満である場合、あるいは20mm未満である場合には、縦壁部12にシワが発生しやすくなる。従って、縦壁部12の高さHは、屈曲部15の前記弧状に湾曲している部位15aの長さの0.2倍以上、又は20mm以上とすることが好ましい。
【0029】
また、成形による板厚減少が抑制されるので、延性が高く比較的低強度の鋼板(例えば破断強度が1600MPa程度の鋼板)だけでなく、延性が低く比較的高強度の鋼板(例えば破断強度が400MPa程度の鋼板)を使用しても良好にプレス成形することができる。従って、鋼板Sとしては、破断強度が400MPa以上、1600MPa以下の高強度鋼板を用いることができる。
【0030】
更に、本実施形態に係るプレス成形方法では、縦壁の湾曲の中央より、上側のフランジ部13の幅h
iが25mm以上、100mm以下であればよい。より具体的には、フランジ部13のうち、縦壁部12の、屈曲部15の弧状に湾曲している部位15aにつながる部分の、天板部11の反対側につながる部分のフランジ部13の長方向(周方向)の中央線Cより端部A側のフランジ部分13a、及び、端部A側のフランジより50mm先の部分のフランジ部分13b(すなわち、領域O)において、幅h
iが25mm以上100mm以下になるようにプレス成形することが好ましい。
幅h
iは、フランジ部分13a及びフランジ部分13bにおけるフランジ端部の任意位置と、当該任意位置から最短の、縦壁部とフランジ部との境界線上の位置との距離で定義される。
フランジ部分13a及びフランジ部分13bにおいて、幅h
iが25mm未満の箇所が存在する場合、フランジ部において板厚減少が大きくなり、割れが発生しやすくなる。これは、成形の過程でL字下側部の先端部を縦壁部12に引き込む力がフランジ部近辺に集中するためである。
一方、フランジ部分13a及びフランジ部分13bにおいて、幅h
iが100mm超の箇所が存在する場合、フランジ部13において圧縮される量が大きくなり、シワが発生しやすくなる。
従って、幅h
iを25mm以上かつ100mm以下とすることで、フランジ部13におけるシワと割れの発生を抑制することができる。
このため、L字内側のフランジ部の幅h
iが25mm未満の形状の部品を作製する場合は、25mm以上のフランジ部のあるL字状形状をプレス成形した後に、不要な部分をトリムすることにより作製することが好ましい。
【0031】
さらに、縦壁部12の湾曲の最大曲率部の曲率半径、すなわち、前記屈曲部15の前記弧状に湾曲している部位15aと天板部11との境界線の最大曲率部の曲率半径(R
MAX)は5mm以上、300mm以下であることが好ましい。
最大曲率部の曲率半径が5mm未満の場合、最大曲率部周辺が局所的に張り出すため、割れが発生しやすくなる。
一方、最大曲率部の曲率半径が300mm超の場合、L字下部の先端の長さが長くなり、プレス成形の過程でL字の内側(縦壁部12)に引き込まれる距離が大きくなるため、金型ユニット50と鋼板Sとの摺動距離が大きくなり、金型ユニット50の摩耗が促進され、金型寿命が短くなってしまう。最大曲率部の曲率半径は、100mm以下であるとより好ましい。
【0032】
尚、上述の実施形態においては、一つのL字状形状を有する部材の成形方法を例にとったが、本発明は、二つのL字状形状を有する部材(T字状形状部材など)、あるいは二つ以上のL字状形状を有する部材(Y字状形状部材など)の成形にも適用できる。すなわち、複数のL字状形状を有する形状をプレス成形するにあたり、1つのL字状形状もしくは複数のL字状形状もしくは全てのL字状形状の成形について、上述のL字状形状の成形方法により成形を行ってもよい。また、天板部11は、L字状形状、T字状形状、又はY字状形状を有してもよい。更には、左右が非対称のT字状形状、又はY字状形状を有してもよい。
また、ダイ金型51と曲げ型53との上下の位置関係は、本発明において限定されるものではない。
更には、本発明における素材金属板は鋼板Sのみに限定されるものではない。例えば、アルミ板や、Cu−Al合金板など、プレス成形に適した素材金属板を用いてもよい。
【実施例】
【0033】
実施例1〜52では、パッド機構を有する金型ユニットを用いて、天板部と縦壁部とフランジ部とを有する成形体を成形した。実施例1〜52により成形した成形体の斜視図(図中(a))と、領域O(弧長/2mm+50mmの領域)、領域F(面外変形抑制領域)、及び、実際に加圧した加圧位置をハッチングで示す平面図(図中(b)、(c)、(d))とを
図11〜
図32にそれぞれ示す。尚、
図11〜
図32に記載されている寸法の単位はmmである。また、それぞれの実施例でプレス成形した成形体における端部A(第1の端部)、端部B(第2の端部)を図中にA、Bで示す。
【0034】
表1A、表1Bに、各実施例に対応する図面をに示すとともに、各実施例で用いた素材金属板の材質として、「素材金属板種類」、「板厚(mm)」、「破断強度(MPa)」を示す。
【0035】
表2A、表2Bに、各実施例で成形した成形体の形状として、「天板形状」、「弧長(mm)」、「弧長×0.2」、「弧の最大曲率部の曲率半径(mm)」、「縦壁部高さH(mm)」、「A端フランジ幅(mm)」、「弧の形状」、「端部巻き込み」、「A端の先の形状」、「天板部付加形状」を示す。
【0036】
表3A、表3Bに、成形条件として、「加圧位置」、「境界線からの加圧範囲(mm)」、「予加工」、「成形荷重(ton)」、「パッド荷重圧力(MPa)」、「パッドとダイとの隙間と板厚との比(パッドとダイとの隙間/板厚)」を示す。
【0037】
表4A、表4Bに、「フランジ部シワ評価」、「フランジ部割れ評価」、「天板部シワ評価」、「天板部割れ評価」、「縦壁部シワ評価」の結果を示す。
フランジ部、天板部、縦壁部のシワ評価では、目視検査により、シワが一切発見されなかった場合をA、微小なシワが発見された場合をB、シワが発見された場合をC、顕著なシワが発見された場合をD、座屈変形が発見された場合を×で評価した。また、フランジ部、天板部の割れ評価では、割れが発生しなかった場合を○、ネッキング(30%以上の局部的な板厚減少部)が発生した場合を△、割れが発生した場合を×で評価した。
【0038】
【表1A】
【0039】
【表1B】
【0040】
【表2A】
【0041】
【表2B】
【0042】
【表3A】
【0043】
【表3B】
【0044】
【表4A】
【0045】
【表4B】
【0046】
実施例1、41では、適切な成形条件を採用して
図11に示す成形体をプレス成形した。成形体に割れ及びシワは一切発生しなかった。
【0047】
実施例2、42では、実施例1に比べパッド荷重圧力を低く設定して、
図11に示す成形体をプレス成形した。成形体には、天板部におけるシワ、及び縦壁部における微小なシワが発生した。ただし、割れは発生していないため製品強度に問題は無かった。
【0048】
実施例3、43、44では、実施例1に比べパッド荷重圧力を高く設定して、
図11に示す成形体をプレス成形した。このため、加圧位置において素材金属板が十分にスライド(面内移動)できず、フランジ部で割れが発生した。
【0049】
実施例45〜52では、パッドとダイとの隙間と板厚との比(パッドとダイとの隙間/板厚)を1.00〜2.00に設定して、
図11に示す成形体をプレス成形した。この結果、パッドとダイとの隙間と板厚との比を1.80に設定した実施例49及びパッドとダイとの隙間と板厚との比を2.00に設定した実施例52では、天板部において座屈変形が生じたため、所望の製品形状を得ることが出来なかった。
【0050】
実施例4では、面外変形抑制領域(領域F)に相当する領域以外をパッドで加圧して、
図12に示す成形体をプレス成形した。成形体には、天板部における顕著なシワ、及び縦壁部における微小なシワが発生した。ただし、割れは発生していないため製品強度に問題は無かった。
【0051】
実施例5では、面外変形抑制領域(領域F)を全て含む領域をパッドで加圧して、
図13に示す成形体をプレス成形した。成形体には、シワ及び割れが一切発生しなかった。
【0052】
実施例6では、
図14に示す成形体をプレス成形した。この実施例においては、
図14に示すように、面外変形抑制領域(領域F)に相当する部位の端部が天板部と同一平面状に存在していないため、すなわち端部が巻き込まれているため、フランジ部において割れが発生してしまった。
【0053】
実施例7〜10では、
図15、
図16、
図17、
図18に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例では、弧が楕円形である場合(実施例7)、弧が複数の曲率(R)を有する場合(実施例8)、弧が直線部を有する場合(実施例9)、又は弧の先端が屈曲部の端部である場合(実施例10)であっても、本発明の効果が良好に得られることが示された。
【0054】
実施例11〜13では、
図19、
図20、
図21に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例からは、製品デザインにより、A端の先の形状が非直線である場合(実施例11〜13)や、天板部が付加形状を有する場合(実施例13)であっても、本発明の効果が良好に得られることが示された。特に実施例13からは、面外変形抑制領域(領域F)の一部において微小な付加形状が存在することにより面外変形抑制領域(領域F)の全体をパッドで加圧できない場合であっても、本発明の効果が得られることが示された。
【0055】
実施例14〜17では、縦壁部の高さHを10mm(実施例14)、15mm(実施例15)、20mm(実施例16)、30mm(実施例17)にそれぞれ設定し、
図22に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例から、縦壁部の高さHを20mm以上とすることで、縦壁部のシワを抑えることができることが示された。尚、縦壁部の高さが20mm未満である実施例14、15では、縦壁部においてシワが発生したが、割れは発生していないため製品強度に問題は無かった。
【0056】
実施例18〜20では、弧長を66mm(弧長×0.2=13.2)に設定した上で、縦壁部の高さHを5mm(実施例18)、14mm(実施例19)、18mm(実施例20)にそれぞれ設定し、
図23に示す成形体をプレス成形した。これらの実施形態から、縦壁部の高さHを弧長の0.2倍以上とすることで、縦壁部の高さが20mm未満であっても、縦壁部のシワを抑えることができることが示された。尚、縦壁部の高さHが弧長の0.2倍未満である実施例18では、縦壁部においてシワが発生したが、割れは発生していないため製品強度に問題は無かった。
【0057】
実施例21〜23では、天板部と屈曲部のうち弧状に湾曲している部位との境界線に接する部位の、当該境界線から3mm以内(実施例21)、5mm以内(実施例22)、又は8mm以内(実施例23)の領域を、パッドで加圧しつつ、
図24、
図25、
図26に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例からは、境界線から5mm以内の領域を少なくともパッドで加圧することにより、天板部におけるシワの発生を抑えることができることが示された。
【0058】
実施例24〜28では、A端におけるフランジ幅を20mm(実施例24)、25mm(実施例25)、80mm(実施例26)、100mm(実施例27)、120mm(実施例28)に設定し、
図27に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例から、フランジ幅を25mm〜100mmに設定することにより、シワ及び割れの発生を抑えることができることが示された。尚、実施例24では、フランジ幅を20mmに設定したことによりフランジ部にネッキングが発生し、実施例28では、フランジ幅を120mmに設定したことによりフランジ部における顕著なシワが発生し、天板部にはネッキングが発生したが、いずれも割れまでには至らなかったため強度特性に大きな問題は無かった。
【0059】
実施例29〜32では、弧が直線部を有する場合(R+直線+R)において、弧の最大曲率部の曲率半径を3mm(実施例29)、5mm(実施例30)、10mm(実施例31)、20mm(実施例32)に設定し、
図28に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例から、弧の最大曲率部の曲率半径を5mm以上とすることにより、縦壁部のシワを抑えることができることが示された。
【0060】
実施例33〜36では、弧の最大曲率半径を200mm(実施例33)、250mm(実施例34)、300mm(実施例35)、350mm(実施例36)に設定し、
図29に示す成形体をプレス成形した。これらの実施例から、弧の最大曲率部の曲率半径を300mm以内に設定することにより、縦壁部のシワの発生を抑えることができることが示された。
【0061】
実施例37、38では、
図30に示すT字型の成形体をプレス成形した。尚、素材金属板には
図33に示す形状に予加工を行った鋼板(実施例37)、及び予加工を行ったアルミ板(実施例38)を用いた。これらの実施例から、本発明にかかるプレス成形方法は、T字型の成形体の成形にも採用できること、及び、本発明の素材金属板が鋼板に限定されるものではないことが示された。
【0062】
実施例39、実施例40では、
図31に示す左右非対称のT字型の成形体(実施例39)、及び、
図32に示すY字型の成形体(実施例40)をプレス成形した。これらの実施例から、本発明に係るプレス成形方法は、L字形状を一つ以上有する成形体の成形にも十分に適用できることが示された。