【実施例】
【0042】
(試験1)
<負極活物質および負極>
先ず、市販のSiO粉末をボールミルに入れて、Ar雰囲気下で、回転数450rpmで20時間ミリングした。その後、不活性ガス雰囲気中、かつ900℃の温度下で、2時間加熱処理を行った。これにより、SiO粉末が不均化されて、粒子状のケイ素酸化物(SiO
x)が得られた。このSiO
xについて、CuKαを使用したX線回折(XRD)測定を行ったところ、単体ケイ素と二酸化ケイ素とに由来する特有のピークが確認された。このことから、SiO
xには単体ケイ素と二酸化ケイ素が生成していること、つまり、SiO
xが不均化されていることがわかった。SiO
xの平均粒径D
50は、4.4μmであった。
【0043】
不均化されたSiO
xと、炭素質粒子と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリアミドイミド(PAI)とを混合し、溶媒を加えてスラリー状をなす負極合材を得た。炭素質粒子としては、具体的には、表面にカーボンコート層が形成された天然黒鉛を用いた。この炭素質粒子のBET比表面積は2.11m
2/gであり、平均粒径(D
50)は19.2μmであった。溶媒としてはN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)を用いた。SiO
x、炭素質粒子、導電助剤、およびバインダの質量比は、SiO
x:炭素質粒子:AB:PAI=32:50:8:10であった。なお、SiO
xおよび炭素質粒子は負極活物質を構成する。
【0044】
次いで、上記のスラリー状の負極合材を、ドクターブレードを用いて集電体である銅箔の片面に積層した。このときの目付量は、集電体1cm
2あたり7.75mgであった。またこのときの負極合材の密度は、1.6g/cm
3であった。その後、負極合材を集電体ごとプレスし、焼成した。焼成温度は200℃、焼成時間は2時間であった。以上の工程により、負極用集電体の表面に負極活物質層が固定されてなる負極を得た。
【0045】
ところで、実施例の負極においては、有機溶剤系のバインダの一種であるポリアミドイミドを用いている。本発明の負極に用いるバインダは、有機溶剤系であっても良いし、水系であっても良い。
【0046】
有機溶剤系のバインダとしては、上述したポリアミドイミド以外にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらのバインダは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0047】
水系のバインダとしては、ポリアクリレート、エチレンビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレンブタジエンコポリマー(SBR)、ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0048】
なお、バインダとしては、有機溶剤系のものを選択するのが特に好ましい。試験1および後述する試験2〜試験6において、負極用のバインダは何れも有機溶剤系のものを用いているためである。
【0049】
<正極>
正極活物質としてLiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2を用い、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)を用い、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。LiCo
2/10Ni
5/10Mn
3/10O
2、導電助剤およびバインダの質量比は、LiCo
2/10Ni
5/10Mn
3/10O
2:AB:PVdF=94:3:3であった。LiCo
2/10Ni
5/10Mn
3/10O
2、ABおよびPVdFを混合しスラリー状の正極合材を得た。得られたスラリー状の正極合材を、集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布した。このときの目付量は集電体1cm
2あたり30mgであった。またこのときの正極合材の密度は、3.2g/cm
3であった。その後、正極合材を集電体ごとプレスし、焼成した。焼成温度は120℃、焼成時間は2時間であった。以上の工程により、正極用集電体の表面に正極活物質層が固定されてなる正極を得た。
【0050】
<非水電解質二次電池>
正極と負極との間に、セパレータを挟み込んだ。セパレータとしては、ポリプロピレン多孔質膜を用いた。この正極、セパレータおよび負極からなる電極体を複数積層した。2枚のアルミニウムフィルムの周囲を、一部を除いて熱溶着をすることにより封止して、袋状にした。袋状のアルミニウムフィルムの中に、積層された電極体を入れ、さらに電解液を入れた。
【0051】
電解液は、支持電解質としてのLiPF
6、および、添加剤としてのLPFOを、有機溶媒に溶解させたものである。有機溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合物である。FEC、EC、EMCおよびDMCの体積比は、FEC:EC:EMC:DMC=4:26:30:40である。電解液中のLiPF
6の濃度は1mol/L(M)であり、電解液中のLPFOの濃度は0.005mol/L(=5μmol/mL)である。なお、1つの電池に含まれる電解液の量は、0.3mLである。
【0052】
その後、真空引きしながら、アルミニウムフィルムの開口部分を気密に封止した。このとき、正極側及び負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とした。以上の工程で試験1の非水電解質二次電池を得た。その後、試験1の非水電解質二次電池にコンディショニング処理を施した。
【0053】
(試験2)
試験2の負極活物質は、炭素質粒子の平均粒子径D
50およびBET比表面積以外は、試験1の負極活物質と同じものである。試験2の負極活物質において、炭素質粒子の平均粒子径D
50は19.8μmであり、BET比表面積は3.82m
2/gであった。
【0054】
試験2の負極および非水電解質二次電池は、試験2の負極活物質を用いて試験1と同じ方法で製造したものである。
【0055】
(試験3)
試験3の負極活物質は、炭素質粒子の平均粒子径D
50およびBET比表面積以外は、試験1の負極活物質と同じものである。試験3の負極活物質において、炭素質粒子の平均粒子径D
50は12.0μmであり、BET比表面積は2.40m
2/gであった。
【0056】
試験3の負極および非水電解質二次電池は、試験3の負極活物質を用いて試験1と同じ方法で製造したものである。
【0057】
(試験4)
試験4の負極活物質は、炭素質粒子の平均粒子径D
50およびBET比表面積以外は、試験1の負極活物質と同じものである。試験4の負極活物質において、炭素質粒子の平均粒子径D
50は12.2μmであり、BET比表面積は3.16m
2/gであった。
【0058】
試験4の負極および非水電解質二次電池は、試験4の負極活物質を用いて試験1と同じ方法で製造したものである。
【0059】
(試験5)
試験5の負極活物質は、炭素質粒子の平均粒子径D
50およびBET比表面積以外は、試験1の負極活物質と同じものである。試験5の負極活物質において、炭素質粒子の平均粒子径D
50は8.8μmであり、BET比表面積は3.30m
2/gであった。
【0060】
試験5の負極および非水電解質二次電池は、試験5の負極活物質を用いて試験1と同じ方法で製造したものである。
【0061】
(試験6)
試験6の負極活物質は、炭素質粒子の平均粒子径D
50およびBET比表面積以外は、試験1の負極活物質と同じものである。試験6の負極活物質において、炭素質粒子の平均粒子径D
50は8.5μmであり、BET比表面積は5.80m
2/gであった。
【0062】
試験6の負極および非水電解質二次電池は、試験6の負極活物質を用いて試験1と同じ方法で製造したものである。
【0063】
〔評価試験〕
試験1〜6の非水電解質二次電池について、負極活物質1cm
2あたり16mAとなる電流密度、放電終止電圧3V、充電終止電圧4.2V、温度25℃で充放電をおこない、非水電解質二次電池の出力(W/時)を測定した。また、このときの非水電解質二次電池の出力抵抗を測定した。このとき測定した試験1〜試験5の各非水電解質二次電池の出力および出力抵抗を表1、
図1および
図2に示す。なお、
図1は、試験1〜試験5の各非水電解質二次電池で用いた負極活物質における炭素質粒子の比表面積と、各非水電解質二次電池の出力と、の関係を表すグラフである。
図2は、試験1〜試験5の各非水電解質二次電池で用いた負極活物質における炭素質粒子の比表面積と、各非水電解質二次電池の出力抵抗と、関係を表すグラフである。
【0064】
【表1】
図1に示すように、BET比表面積の比較的小さな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験1、試験3および試験5)は、BET比表面積の比較的大きな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験2、試験4および試験6)に比べて、出力が大きい傾向にある。また、平均粒子径D
50の比較的小さな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験3、試験4、試験5および試験6)は、平均粒子径D
50の比較的大きな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験1および試験2)に比べて、出力が大きい傾向にある。出力は、試験5>試験3>試験6>試験4>試験1>試験2の順に大きかった。
【0065】
また、
図2に示すように、BET比表面積の比較的小さな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験1、試験3および試験5)は、BET比表面積の比較的大きな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験2、試験4および試験6)に比べて、出力抵抗が小さい傾向にある。また、平均粒子径D
50の比較的小さな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験3、試験4、試験5および試験6)は、平均粒子径D
50の比較的大きな炭素質粒子を用いた非水電解質二次電池(試験1および試験2)に比べて、出力抵抗が小さい傾向にある。出力抵抗は、試験5<試験3<試験6<試験4<試験1<試験2の順に小さかった。これらの結果から、出力(つまり放電容量)の面においても、出力抵抗(つまり導電性)の面においても、試験5>試験3>試験6>試験4>試験1>試験2の順に好ましいことがわかる。
【0066】
上記の結果を基に、試験1〜試験6の各非水電解質二次電池を出力および出力抵抗の面で2つのグループに分類した。一方のグループは出力および出力抵抗の面で好ましいグループであり、他方のグループは好ましくないグループである。好ましいグループは試験5、試験3、試験6および試験4からなり、好ましくないグループは試験1および試験2からなる。なお、
図1中縦軸は非水電解質二次電池の出力(w/時)を表し、横軸は負極活物質の比表面積を表す。そして、上記した好ましいグループとあまり好ましくないグループとを区分する直線(4)を、
図1に表されるグラフ上にひいた。この直線(4)はb=−(12/18)a+12で表される。式中aは炭素質粒子の平均粒径D
50を指し、bは炭素質粒子のBET比表面積を指す。好ましいグループは
図1中にて直線(4)よりも下側に位置する。つまり、a、bが下式(1)の関係を満たす炭素質粒子は、上述した好ましいグループに属する。
(数3)
b≦−(12/18)a+12……(1)
【0067】
ところで、上述したように炭素質粒子の平均粒子径D
50は小さい方が好ましい。
図1に示すグラフにおいても、平均粒子径D
50が20μm程度と比較的大きい試験1および試験2の炭素質粒子は、あまり好ましくないグループに属する。一方、平均粒子径D
50が12μm程度である試験3および試験4の炭素質粒子は好ましいグループに属する。このことから、平均粒子径D
50は20μm未満であるのが良いと考えられ、具体的には20μmと12μmとの間の値、より具体的には15μm以下であれば良いと考えられる。また、炭素質粒子の生産技術上、平均粒径D
50が5μm以下となる炭素質粒子は製造が困難である。このため、炭素質粒子の平均粒子径D
50は下式(2)の範囲であれば良いと考えられる。そして、aおよびbが上式(1)および下式(2)の両方を満たす炭素質粒子を負極活物質の一部として用いることで、非水電解質二次電池の高容量化および導電性向上を図り得る。
(数4)
5≦a≦15……(2)
さらに、上記した好ましいグループをさらに2つのグループに分類した。一方のグループは特に好ましいグループであり、他方のグループは単に好ましいグループである。特に好ましいグループは試験5および試験3で構成される。そして、特に好ましいグループと、その他のグループとを区分する直線(5)を、
図1に示されるグラフ上にひいた。この直線(5)はb=−(9/18)a+9で表される。特に好ましいグループは
図1中にて直線(5)よりも下側に位置する。つまり、a、bが下式(3)の関係を満たす炭素質粒子は、上述した特に好ましいグループに属する。そして、a、bが下式(3)および上式(2)の両方を満たす炭素質粒子を負極活物質の一部として用いることで、非水電解質二次電池の更なる高容量化および更なる導電性向上を図り得る。
【0068】
(数5)
b≦−(9/18)a+9……(3)
【0069】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。