【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
<CeO
2−Ag凝集体の調製>
CeとAgとの合計量に対するAgの含有率が60mol%、CeとLaとの合計量に対するLaの含有率が10mol%となるように、Ce、AgおよびLaを含有する硝酸塩溶液を調製した。すなわち、50.49gのCe(NO
3)
3・6H
2Oと29.63gのAgNO
3と5.59gのLa(NO
3)
3・6H
2Oとを120mlの水に溶解させて硝酸塩溶液を調製した。また、25%アンモニア水38.21gを水100gで希釈したアンモニア水を調製した。そして、このアンモニア水に前記硝酸塩溶液を撹拌しながら混合して逆沈殿処理を行い、さらに10分間撹拌を継続した後、水の存在下、閉鎖系、2気圧の条件下、120℃に加熱して2時間の凝集処理を行なった。得られた沈殿物(凝集体前駆体)を大気中、500℃で5時間焼成して、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO
2微粒子により覆われている凝集体(以下、「CeLaAg凝集体」という。)を得た。このCeLaAg凝集体のX線回折パターンを測定し、Ag粒子およびCeO
2微粒子の平均一次粒子径を求めたところ、それぞれ30nmおよび10nmであった。
【0046】
<固体電解質の調製>
ジルコニア粉末(東ソー(株)製「TZ−8YS」、8mol%Y
2O
3含有ジルコニア顆粒)2.0gをディスク状に成形し、1400℃で5時間焼成して直径20mm、厚さ2mmの緻密なイットリア安定化ジルコニアディスク(以下、「YSZディスク」という。)を作製した。
【0047】
<電極の作製>
先ず、CeLaAg凝集体2gとセルロース0.2gとを混合し、さらに粘度調節用希釈剤(田中貴金属販売(株)製「TMS−1」)を添加してCeLaAgインクを調製した。次に、前記YSZディスクの一方の面にスクリーンプリンタ(ミタニマイクロニクス(株)製)を用いてCeLaAgインクをスクリーン印刷して、CeLaAg凝集体からなる電極(直径6mm、厚さ10μm。以下、「CeLaAg電極」という。)を作製し、他方の面にPtインク(田中貴金属販売(株)製「TR7905」)を塗布してPt電極(直径6mm)を作製した。さらに、このYSZディスクの側面にPt線(0.2mmφ)を巻き、その周囲にPtインク(田中貴金属販売(株)製「TR7905」)を塗布してPt参照極を作製し、電気化学測定用セルを得た。
【0048】
<電気化学測定>
上記のようにして作製したセルを固体酸化物形燃料電池(SOFC)評価用セルホルダー((株)チノー製)に装着した。
図3は、セルホルダーのセル装着部の断面図である。Pt電極7bおよびPt参照極7dには100cm
3/分の流量で大気を接触させ、CeLaAg電極7eにはH
2/H
2O混合ガスまたはCO/CO
2混合ガスを接触させながら、以下の分極測定を行なった。
・分極測定
下記の測定条件下において、ポテンションスタット(東邦技研社製「toho2000」)を用いて、三端子測定により電位−電流曲線を求めた。その結果を
図4〜
図7に示す。
(測定条件)
測定温度:500℃または800℃
混合ガス濃度:H
2/H
2O(vol%/vol%)=0.1/99.9〜10/90
CO/CO
2(vol%/vol%)=0.1/99.9〜10/90
(参考例1)
混合ガスの代わりにCO
2ガス(100vol%)またはO
2ガス(100vol%)を800℃で接触させた以外は、実施例1と同様にして分極測定を行なった。その結果を
図5に示す。
【0049】
図4〜
図7に示したグラフにおいて、開回路電圧(OCV)より電位が正の方向の測定結果はCeLaAg電極の燃料極としての特性を示しており、電位が負の方向の測定結果は燃料発生極としての特性を示している。従って、
図4〜
図7に示した結果から明らかなように、CeLaAg電極は、化学エネルギーから電気エネルギーへのエネルギー変換装置における燃料極や電気エネルギーから化学エネルギーへのエネルギー変換装置における燃料発生極として機能することがわかった。
【0050】
また、
図4〜
図5に示した結果から明らかなように、セルの分極特性は、CeLaAg電極に接触する混合ガス中のH
2濃度またはCO濃度に依存することがわかった。特に、CeLaAg電極の燃料極としての性能は、H
2濃度またはCO濃度が高いほど、すなわち、CeLaAg電極が接触している雰囲気の還元性が強いほど、高くなることがわかった。これは、還元性雰囲気において電子導電性を示すセリウム酸化物微粒子が燃料極としての性能に寄与しているためと考えられる。
【0051】
一方、
図4に示したように、H
2/H
2O混合ガスを接触させた場合の電位−電流曲線は、WE−RE間の電位差が−1.2V以下において全て一致した。また、
図5に示したように、CO/CO
2混合ガスまたはCO
2ガスを接触させた場合の電位−電流曲線は、WE−RE間の電位差が−1.0V以下において全て一致した。これらの結果は、H
2またはCO
2がその濃度にかかわらず、同等に還元されたことを示しており、CeLaAg電極の還元性能(燃料発生極としての性能)はそれに接触するガスの濃度に依存しないことがわかった。
【0052】
また、O
2ガスを接触させた場合の電位−電流曲線を電位が負の方向に延長すると、
図5中の点線で示したように、WE−RE間の電位差が−1.2〜−1.6Vの範囲において、CO/CO
2混合ガスまたはCO
2ガスを接触させた場合の電位−電流曲線と一致した。この結果から、CeLaAg電極は、O
2を還元する場合と同等の性能でCO
2を還元できることがわかった。
【0053】
また、
図6〜
図7に示した結果から明らかなように、開回路電圧(OCV)が同程度であれば、異なる混合ガス系であっても、セルの分極特性は同等になることがわかった。これは、CeLaAg電極での酸化反応(燃料極として機能)や還元反応(燃料発生極として機能)においては、CeLaAg電極に接触させた混合ガス成分の反応が律速ではなく、酸化物イオンの拡散が律速であるためと考えられる。従って、H
2/H
2O混合ガスやCO/CO
2混合ガス以外の混合ガスをCeLaAg電極に接触させる場合でも、開回路電圧(OCV)がH
2/H
2O混合ガスやCO/CO
2混合ガスの場合と同程度となる条件に調整することによって、H
2/H
2O混合ガスやCO/CO
2混合ガスの場合と同等の電極性能が得られると考えられる。
【0054】
(実施例2)
CeとAgとの合計量に対するAgの含有率が60mol%、CeとLaとの合計量に対するLaの含有率が10mol%、CeとLaとの合計量に対するAlの含有率が5mol%となるようにCe、Ag、LaおよびAlを含有する硝酸塩溶液を調製した。すなわち、50.49gのCe(NO
3)
3・6H
2Oと29.63gのAgNO
3と5.59gのLa(NO
3)
3・6H
2Oと2.42gのAl(NO
3)
3・9H
2Oとを120mlの水に溶解させて硝酸塩溶液を調製した。この硝酸塩溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO
2微粒子により覆われており、さらにAlを含有する凝集体(以下、「CeLaAg−Al(5)凝集体」という。)を調製し、さらに、CeLaAg凝集体の代わりにCeLaAg−Al(5)凝集体2gを用いた以外は実施例1と同様にして電気化学測定用セルを作製した。
【0055】
CeLaAg−Al(5)電極にCO/CO
2混合ガス(CO/CO
2(vol%/vol%)=10/90)またはH
2/H
2O混合ガス(H
2/H
2O(vol%/vol%)=1/99〜10/90)を600℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を
図8〜
図9に示す。なお、
図8〜
図9には、実施例1で作製したAlを含まないCeLaAg電極を備えるセルについて、上記の条件で分極測定を行なった結果も示した。
【0056】
また、分極測定後のCeLaAg−Al(5)電極の断面を走査型電子顕微鏡写真(SEM)により観察した。その結果(二次電子像)を
図10A〜
図10Bに示す。なお、
図10Bは
図10Aに示したSEM写真を拡大した写真である。
【0057】
図8〜
図9に示した結果から明らかなように、測定条件が同じ場合、Alを含有するCeLaAg電極(CeLaAg−Al電極)を備えるセルの電位−電流曲線は、Alを含まない場合(CeLaAg電極の場合)の電位−電流曲線と一致し、CeLaAg凝集体にAlを添加してもセルの分極特性が変化しないことがわかった。また、
図10A〜
図10Bに示した結果から明らかなように、分極測定後のCeLaAg−Al電極においても、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO
2微粒子により覆われた電極微構造が形成されていることが確認された。
【0058】
(実施例3)
CeとLaとの合計量に対するAlの含有率が10mol%となるようにAl(NO
3)
3・9H
2Oの量を4.84gに変更した以外は実施例2と同様にして、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO
2微粒子により覆われており、さらにAlを含有する凝集体(以下、「CeLaAg−Al(10)凝集体」という。)を調製した。
【0059】
このCeLaAg−Al(10)凝集体を大気中、800℃で5時間焼成した後、X線回折パターンを測定し、Ag粒子およびCeO
2微粒子の平均一次粒子径を求めたところ、それぞれ59nmおよび12nmであった。
【0060】
CeLaAg凝集体の代わりにCeLaAg−Al(10)凝集体2gを用いた以外は実施例1と同様にして電気化学測定用セルを作製した。
【0061】
CeLaAg−Al(10)電極にH
2ガス(100vol%)またはCO/CO
2混合ガス(CO/CO
2(vol%/vol%)=10/90)を500℃または700℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を
図11〜
図13に示す。
【0062】
また、CeLaAg−Al(10)電極にCH
4ガス(100vol%)または加湿CH
4ガス(CH
4/H
2O(vol%/vol%)=98/2)を700℃または800℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルの開回路電圧(OCV)より電位が正の方向の電位−電流曲線を求めた。その結果を
図14〜
図17に示す。
【0063】
(比較例1)
CeLaAg凝集体の代わりに、ニッケル酸化物含有イットリア安定化ジルコニア(Ni−YSZ)粉末(ネクステックマテリアルズ社製「NiYSZ−TC」)2gを用いた以外は実施例1と同様にして電気化学測定用セルを作製した。Ni−YSZ電極は直径6mm、厚さ10μmの大きさで作製した。
【0064】
このNi−YSZ電極に各種ガスを接触させた以外は実施例3と同様にして前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。なお、Ni−YSZ電極作製時にはニッケルは酸化物の状態となっているが、上記の最初の測定の前に、水素ガスを用いて800℃でニッケル金属に還元した。前記分極測定の結果を
図11〜
図17に示す。
【0065】
図11〜
図15に示した結果から明らかなように、H
2ガスやCO/CO
2混合ガスを接触させた場合(
図11〜
図13)には、CeLaAg−Al電極を備えるセルの分極特性はNi−YSZ電極を備えるセルと同等であった。一方、CH
4ガスを接触させた場合(
図14〜
図15)には、CeLaAg−Al電極はNi−YSZ電極より高い電極性能を示した。この理由は以下のように推察される。すなわち、CH
4ガスを接触させると、いずれの電極においても、CH
4ガスと固体電解質層中を移動してきた酸化物イオンとが反応して二酸化炭素と水蒸気が生成し、電子が発生する電極反応が起こるとともに、クラッキング反応(CH
4→C+2H
2)も起こる。このとき、Ni−YSZ電極では、電極反応において生成した水蒸気による改質反応が起こるが、改質されるCH
4ガスの量は接触したCH
4ガスに比べて僅かであるため、炭素の析出が十分に抑制されず、電極反応の阻害要因が十分に解消されなかったと推察される。一方、CeLaAg−Al電極では、生成した水蒸気によるCH
4ガスの改質に加えて、CeLaAgの強いカーボン酸化力により、クラッキング反応過程で生成した炭素前駆体がすぐに酸化されたため、電極反応の阻害要因が十分に解消されたと推察される。
【0066】
また、
図16〜
図17に示した結果から明らかなように、CeLaAg−Al電極に、CH
4ガス(100vol%)を接触させた場合には、加湿CH
4ガス(CH
4/H
2O)を接触させた場合に比べて、燃料極としての性能が高くなった。この結果から、CeLaAgの強いカーボン酸化力によって炭素前駆体を酸化して炭素の析出を抑制した場合には、CH
4ガスの水蒸気改質によって炭素の析出を抑制した場合に比べて、電極反応の阻害要因を解消する効果が高いことがわかった。
【0067】
(実施例4)
比較例1と同様にして、一方の面にNi−YSZ層(直径6mm、厚さ10μm)を、他方の面にPt電極(直径6mm)を備えるYSZディスクを作製した。次に、前記Ni−YSZ層上にCeLaAg−Al(10)層(直径6mm、厚さ10μm)を形成した以外は実施例3と同様にして電気化学測定用セルを作製した。
【0068】
2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕にH
2/H
2O混合ガス(H
2/H
2O(vol%/vol%)=98/2)を500℃または700℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。なお、前記2層電極作製時にはニッケルは酸化物の状態となっているが、上記の最初の測定の前に、水素ガスを用いて800℃でニッケル金属に還元した。その結果を
図18〜
図19に示す。
【0069】
また、分極測定後の前記2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕と固体電解質層〔YSZディスク〕の断面を走査型電子顕微鏡写真(SEM)により観察した。
図20Aには、前記2層電極と前記固体電解質層の断面の二次電子像を示す。また、
図20Bには、
図20Aに示した前記2層電極と固体電解質層の断面の反射電子像を示す。
【0070】
(比較例2)
ジルコニア粉末(東ソー(株)製「TZ−8YS」、8mol%Y
2O
3含有ジルコニア顆粒)100質量部に対して30質量部のAgをAgNO
3を用いて含浸担持させ、Ag担持YSZ粉末(以下、「Ag−YSZ粉末」という。)を調製した。CeLaAg−Al(10)凝集体の代わりにAg−YSZ粉末2gを用いた以外は実施例4と同様にして電気化学測定用セルを作製した。2層電極〔Ag−YSZ+Ni−YSZ〕にH
2/H
2O混合ガスを500℃で接触させた以外は実施例4と同様にして前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を
図18に示す。
【0071】
(比較例3)
比較例1で調製した電気化学測定用セルのNi−YSZ電極にH
2/H
2O混合ガスを接触させた以外は実施例4と同様にして前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を
図18〜
図19に示す。また、分極測定後のNi−YSZ電極とYSZ固体電解質層の断面を走査型電子顕微鏡写真(SEM)により観察した。その結果(二次電子像)を
図21に示す。
【0072】
図18〜
図19に示した結果から明らかなように、2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕を備えるセル(実施例4)は、Ni−YSZ電極を備えるセル(比較例3)に比べて分極特性が向上することがわかった。また、
図18に示した結果から明らかなように、2層電極〔Ag−YSZ+Ni−YSZ〕を備えるセル(比較例2)は、2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕を備えるセル(実施例4)およびNi−YSZ電極を備えるセル(比較例3)に比べて分極特性が劣るものであることがわかった。
【0073】
図20A〜
図20Bに示した結果から明らかなように、分極測定後の前記2層電極のCeLaAg−Al層においては、Agの溶出は確認されず、電極微構造が形成されていることが確認された。