特許第5796591号(P5796591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5796591エネルギー変換装置用電極、それを用いたエネルギー変換装置およびエネルギー変換方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796591
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】エネルギー変換装置用電極、それを用いたエネルギー変換装置およびエネルギー変換方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20151001BHJP
   H01M 8/12 20060101ALI20151001BHJP
   C25B 11/08 20060101ALI20151001BHJP
   C25B 1/04 20060101ALI20151001BHJP
   C25B 1/00 20060101ALI20151001BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   H01M4/86 U
   H01M8/12
   C25B11/08 A
   C25B1/04
   C25B1/00 Z
   C25B9/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-58811(P2013-58811)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-183032(P2014-183032A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2014年7月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香山 智之
(72)【発明者】
【氏名】八代 圭司
(72)【発明者】
【氏名】水崎 純一郎
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5024562(JP,B2)
【文献】 特開2004−335131(JP,A)
【文献】 特表2012−527068(JP,A)
【文献】 特開2006−351405(JP,A)
【文献】 特開2008−243744(JP,A)
【文献】 特開2008−159571(JP,A)
【文献】 特開2007−311318(JP,A)
【文献】 特開2005−166564(JP,A)
【文献】 特開平11−297333(JP,A)
【文献】 特開2009−016350(JP,A)
【文献】 特開昭62−281271(JP,A)
【文献】 特開2004−076084(JP,A)
【文献】 特開2002−333428(JP,A)
【文献】 特開平07−022032(JP,A)
【文献】 特表2006−505094(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/011062(WO,A1)
【文献】 特表2010−521277(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/003849(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/157454(WO,A1)
【文献】 特表2013−533245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
B01J 21/00 − 38/74
C25B 1/00
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置においては燃料極であり、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置においては燃料発生極であって
核となる銀粒子と該銀粒子の周囲を覆っているセリウム酸化物微粒子とを備え、アルミニウムを更に含む凝集体を含有するものであり、
銀の含有率が、銀とセリウムとの合計量に対して10〜80mol%であり、
アルミニウムの含有率が、セリウムとアルミニウムとの合計量に対して1〜30mol%であることを特徴とするエネルギー変換装置用電極。
【請求項2】
ニッケル金属と金属酸化物とからなるサーメットをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のエネルギー変換装置用電極。
【請求項3】
酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層と該固体電解質層の一方の面に配置された燃料極と他方の面に配置された空気極とを備えている化学エネルギーを電気エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置であって、
前記燃料極が請求項1または2に記載のエネルギー変換装置用電極であることを特徴とするエネルギー変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエネルギー変換装置の燃料極に燃料ガスを接触させ且つ空気極に酸素含有ガスを接触させて化学エネルギーを電気エネルギーに変換することを特徴とするエネルギー変換方法。
【請求項5】
酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層と該固体電解質層の一方の面に配置された燃料発生極と他方の面に配置された酸素発生極とを備えている電気エネルギーを化学エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置であって、
前記燃料発生極が請求項1または2に記載のエネルギー変換装置用電極であることを特徴とするエネルギー変換装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエネルギー変換装置の燃料発生極において水蒸気および二酸化炭素の少なくとも1種を電気分解することにより、燃料発生極に水素および一酸化炭素のうちの少なくとも1種を生成させて電気エネルギーを化学エネルギーに変換することを特徴とするエネルギー変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池や電解セルなどに用いることが可能な電極、それを用いたエネルギー変換装置、およびこの装置を用いたエネルギー変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、水素、一酸化炭素、炭化水素などの燃料を電気化学的に酸化することによって化学エネルギーを電気エネルギーに変えることができるエネルギー変換装置の一種である。固体酸化物形燃料電池における燃料極としては、従来、Ni金属とジルコニアなどの金属酸化物との混合焼結体(サーメット、例えば、ニッケル−イットリア安定化ジルコニア(Ni−YSZ)、ニッケル−スカンジア安定化ジルコニア(Ni−ScSZ))などが使用されてきた。固体酸化物形燃料電池においては、水素はもちろん、一酸化炭素、メタンなどの炭化水素を燃料として使用することが可能である。しかし、水素以外の含炭素燃料を使用した場合にはNiサーメット上に炭素が析出し、Niでの浸炭、脱炭プロセスを繰り返すことにより燃料極が破壊するといった課題がある。炭素の析出を抑制するために水蒸気や二酸化炭素により改質し、炭素析出領域を避けるといった対策がとられるが、実際には速度論的な効果も大きく寄与し、炭素の析出が起きてしまうといった課題を有している。
【0003】
そこで、特開2005−166564号公報(特許文献1)には、炭素の析出が起こりにくいSOFC燃料極として、希土類添加セリアなどの多孔体とNiなどの炭化水素に対して活性な金属との混合体からなる活性層と、前記多孔体とAgなどの炭化水素に対して不活性な金属との混合体からなる改質層とを備える固体酸化物形燃料電池用燃料極が提案されている。また、特開2010−103009号公報(特許文献2)には、改質触媒および電子導電性物質を含有する被膜が基材の表面に形成された触媒集電要素を含む集電体が燃料極に接して設けられている固体酸化物形燃料電池が開示されている。さらに、特許文献2には、触媒集電要素の基材としてガドリニアドープトセリア(GDC)やサマリアドープトセリア(SDC)などのセリア系電解質材料を用いることによって炭素の析出が抑制されることが記載されており、また、電子導電性の観点から、被膜にはAgが含まれていることが好ましいことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−166564号公報
【特許文献2】特開2010−103009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている希土類添加セリアなどの多孔体に含浸法により銀を析出させた燃料極や特許文献2に記載されているセリア系電解質材料の表面に銀を含有する被膜を形成した集電体を用いても十分な電極特性および炭素析出抑制効果が得られなかった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、炭化水素燃料を導入した場合の炭素の析出による電極反応の阻害が十分に解消され且つ電極特性に優れたエネルギー変換装置用電極、この電極を備えるエネルギー変換装置、並びに、この装置を用いたエネルギー変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、核となる銀粒子の周囲をセリウム酸化物微粒子で覆った凝集体を含有する電極が、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置においては燃料極として、あるいは酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置においては燃料発生極として機能することを見出し、さらに、このような電極が、炭化水素燃料を導入した場合の炭素の析出による電極反応の阻害を十分に解消し、さらに、優れた電極特性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のエネルギー変換装置用電極は、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するための第一のエネルギー変換装置においては燃料極であり、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するための第二のエネルギー変換装置においては燃料発生極であって、核となる銀粒子と該銀粒子の周囲を覆っているセリウム酸化物微粒子とを備え、アルミニウムを更に含む凝集体を含有するものであり、銀の含有量が、銀とセリウムとの合計量に対して10〜80mol%であり、アルミニウムの含有量が、セリウムとアルミニウムとの合計量に対して1〜30mol%であることを特徴とするものである。このようなエネルギー変換装置用電極は、ニッケル金属と金属酸化物とからなるサーメットをさらに含有していることが好ましい。
【0009】
本発明の第一のエネルギー変換装置は、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層と該固体電解質層の一方の面に配置された燃料極と他方の面に配置された空気極とを備えている化学エネルギーを電気エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置であって、前記燃料極が本発明のエネルギー変換装置用電極からなるものであることを特徴とするものである。また、本発明の第二のエネルギー変換装置は、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層と該固体電解質層の一方の面に配置された燃料発生極と他方の面に配置された酸素発生極とを備えている電気エネルギーを化学エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置であって、前記燃料発生極が本発明のエネルギー変換装置用電極からなるものであることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第一のエネルギー変換方法は、本発明の第一のエネルギー変換装置の燃料極に燃料ガスを接触させ且つ空気極に酸素含有ガスを接触させて化学エネルギーを電気エネルギーに変換することを特徴とする方法である。また、本発明の第二のエネルギー変換方法は、本発明の第二のエネルギー変換装置の燃料発生極において水蒸気および二酸化炭素の少なくとも1種を電気分解することにより、燃料発生極に水素および一酸化炭素のうちの少なくとも1種を生成させて電気エネルギーを化学エネルギーに変換することを特徴とする方法である。
【0011】
なお、本発明の電極が、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するための第一のエネルギー変換装置において、燃料極として機能する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の電極が核となる銀粒子と該銀粒子の周囲を覆っているセリウム酸化物微粒子との凝集体のみからなる場合において、この電極と他の電極とによって酸化物イオン伝導体からなる固体電解質膜を挟持し、本発明の電極に燃料ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素など)を、他の電極に酸素含有ガス(空気など)をそれぞれ供給すると、図1に示すように、本発明の電極1においては、燃料ガスが酸化されて水蒸気や二酸化炭素などが生成し、他の電極2においては、酸素が還元されて酸化物イオンが生成し、この酸化物イオンは固体電解質層3中を移動する。このとき、本発明の電極1においては、それを構成する凝集体が銀粒子の周囲をセリウム酸化物微粒子が覆っている構造を有しているため、燃料ガスは、セリウム酸化物中を伝導してきた酸化物イオンと反応し、水蒸気や二酸化炭素などになる。一般に、燃料ガスの還元性雰囲気に曝されたセリウム酸化物は、3価のセリウムと4価のセリウムとの間を局在した電子がホッピングするため、電子伝導性を示す。このため、上記のように燃料ガスと酸化物イオンとの反応により生成した電子は、セリウム酸化物微粒子上を容易に移動し、電極外部に取り出すことが可能となる。このように、電子が生成するだけでなく、セリウム酸化物中を酸化物イオンだけでなく電子が移動するため、本発明の電極1は燃料極として、他の電極2は空気極として機能すると推察される。この際、銀粒子は酸素原子のバッファーとして機能し、酸化物イオンを安定的に移動させ、さらに、燃料ガスへの酸素供給を容易にする役割を果たすものと推察される。また、酸素は、固体電解質層3中を移動してきた酸化物イオンのほか、燃料ガスとの反応により生成した水蒸気や二酸化炭素からも供給されると考えられる。
【0012】
一方、本発明の電極1が、ニッケル金属と金属酸化物(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープトセリア(GDC)、サマリアドープトセリア(SDC))とからなるサーメットをさらに含有する場合には、ニッケル金属中を電子が伝導し、金属酸化物中を酸化物イオンが伝導する。この場合、ニッケル金属と金属酸化物とからなるサーメットのみにより、上記の作用機構が完結する場合もある。
【0013】
また、本発明の電極が、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するための第二のエネルギー変換装置において、燃料発生極として機能する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の電極が核となる銀粒子と該銀粒子の周囲を覆っているセリウム酸化物微粒子との凝集体のみからなる場合において、この電極と他の電極とによって酸化物イオン伝導体からなる固体電解質膜を挟持し、本発明の電極において水蒸気や二酸化炭素などを電気分解すると、図2に示すように、本発明の電極4においては水素や一酸化炭素などの燃料ガス(化学エネルギー)が生成する。また、酸化物イオンは固体電解質層6中を移動し、他の電極5との界面において電子を放出して酸素ガスとなる。
【0014】
一方、本発明の電極4が、ニッケル金属と金属酸化物(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープトセリア(GDC)、サマリアドープトセリア(SDC))とからなるサーメットをさらに含有する場合には、ニッケル金属中を電子が伝導し、金属酸化物中を酸化物イオンが伝導する。この場合、ニッケル金属と金属酸化物とからなるサーメットのみにより、上記の作用機構が完結する場合もある。
【0015】
さらに、本発明の電極に炭化水素燃料を導入した場合において、炭素の析出による電極反応の阻害が十分に解消される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、一般に、燃料極に炭化水素燃料を導入すると、炭化水素燃料と固体電解質層中を移動してきた酸化物イオンとが反応する電極反応が起こるとともにクラッキング反応も起こる。このとき、Ni−YSZ電極などの従来の燃料極においては、炭素が析出し、電極反応が阻害され、電極特性が低下するため、炭化水素燃料とともに水蒸気を供給して炭化水素燃料を一酸化炭素と水素に改質して電極反応を行っていた。しかしながら、水蒸気の供給量が不足すると、炭化水素燃料が十分に改質されず、炭素が析出する。従来の燃料極では、一度析出した炭素は除去されにくいため、低下した電極特性を使用中に回復させることは困難であった。一方、本発明の電極においては、それを構成する凝集体が、銀粒子がセリウム酸化物微粒子で覆われた構造を有しており、カーボン酸化力が強いため、クラッキング反応過程で炭素前駆体が生成するとすぐに、その炭素前駆体が酸化され、電極反応の阻害要因が十分に解消されると推察される。また、本発明の電極が、ニッケル金属と金属酸化物(例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープトセリア(GDC)、サマリアドープトセリア(SDC))とからなるサーメットをさらに含有する場合においても、サーメットを介して供給される酸化物イオンあるいは燃料ガスと酸化物イオンとの反応により生成した水蒸気や二酸化炭素によって、このようなカーボン酸化力が本発明にかかる凝集体において発揮されるため、上記と同様に、電極反応の阻害要因が十分に解消されると推察される。
【0016】
また、本発明の電極が、セリウム酸化物微粒子の表面に銀を含有する従来の電極に比べて優れた電極特性を示す理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、従来の電極においては、銀粒子がセリウム酸化物微粒子の表面に存在しているため、このような電極を高温下で使用すると、銀粒子が凝集して粗大化し、銀粒子を触媒とする電極反応の活性が低下すると推察される。一方、本発明の電極においては、銀粒子がセリウム酸化物微粒子で覆われているため、このような電極を高温下で使用しても、銀粒子の凝集が起こらず、銀粒子とセリウム酸化物微粒子との界面が維持され、触媒活性が高く維持されると推察される。また、本発明の電極においては、銀粒子が酸素のバッファーとしても作用するため、燃料極反応に効率的に利用され、高い電極性能が得られると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭化水素燃料を導入した場合の炭素の析出による電極反応の阻害を十分に解消し、さらに、優れた電極特性を示すエネルギー変換装置用電極を得ることが可能となる。また、この電極は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置に用いられる燃料極としても、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置に用いられる燃料発生極としても機能するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】化学エネルギーを電気エネルギーに変換する本発明の第一のエネルギー変換装置の一例を示す模式図である。
図2】電気エネルギーを化学エネルギーに変換する本発明の第二のエネルギー変換装置の一例を示す模式図である。
図3】実施例で使用した固体酸化物形燃料電池(SOFC)評価用セルホルダーのセル装着部を示す断面図である。
図4】実施例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:500℃、導入ガス:H/HO混合ガス)を示すグラフである。
図5】実施例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:800℃、導入ガス:CO/CO混合ガス、COガスまたはOガス)を示すグラフである。
図6】実施例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:500℃、導入ガス:H/HO混合ガスまたはCO/CO混合ガス)を示すグラフである。
図7】実施例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:500℃、導入ガス:H/HO混合ガスまたはCO/CO混合ガス)を示すグラフである。
図8】実施例1および2で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:600℃、導入ガス:CO/CO混合ガス)を示すグラフである。
図9】実施例1および2で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:600℃、導入ガス:H/HO混合ガス)を示すグラフである。
図10A】実施例2で作製した電極の分極測定後の状態を二次電子像として示す走査型電子顕微鏡写真である。
図10B図10Aに示した走査型電子顕微鏡写真の拡大写真である。
図11】実施例3および比較例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:500℃、導入ガス:Hガス)を示すグラフである。
図12】実施例3および比較例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:700℃、導入ガス:Hガス)を示すグラフである。
図13】実施例3および比較例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:500℃、導入ガス:CO/CO混合ガス)を示すグラフである。
図14】実施例3および比較例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:700℃、導入ガス:CHガス)を示すグラフである。
図15】実施例3および比較例1で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:800℃、導入ガス:CHガス)を示すグラフである。
図16】実施例3で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:700℃、導入ガス:CHガスまたは加湿CHガス)を示すグラフである。
図17】実施例3で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:800℃、導入ガス:CHガスまたは加湿CHガス)を示すグラフである。
図18】実施例4、比較例2および比較例3で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:500℃、導入ガス:H/HO混合ガス)を示すグラフである。
図19】実施例4および比較例3で作製したセルの電位−電流曲線(測定温度:700℃、導入ガス:H/HO混合ガス)を示すグラフである。
図20A】実施例4で作製した電極と固体電解質層の分極測定後の状態を二次電子像として示す走査型電子顕微鏡写真である。
図20B】実施例4で作製した電極と固体電解質層の分極測定後の状態を反射電子像として示す走査型電子顕微鏡写真である。
図21】比較例3で作製した電極と固体電解質層の分極測定後の状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
<エネルギー変換装置用電極>
先ず、本発明のエネルギー変換装置用電極について説明する。本発明のエネルギー変換装置用電極は、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するための第一のエネルギー変換装置においては燃料極であり、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層を備えている、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するための第二のエネルギー変換装置においては燃料発生極であって、核となる銀粒子と該銀粒子の周囲を覆っているセリウム酸化物微粒子との凝集体を含有するものである。銀粒子の周囲をセリウム酸化物微粒子で覆うことによって、電極反応における活性点が十分に確保され、効率的にエネルギー変換を行うことが可能となる。また、本発明の電極においては、銀粒子の凝集が抑制されるため、銀粒子の触媒としての機能が十分に確保される。さらに、本発明の電極を燃料極として使用した場合には、炭化水素燃料を導入した場合であっても炭素析出を容易に抑制することができ、電極反応の阻害要因を十分に解消することが可能となる。
【0021】
なお、本発明にかかる銀粒子およびセリウム酸化物微粒子そのものは一次粒子であり、前者が後者により覆われてなる二次粒子を「凝集体(または一次凝集体)」、さらにそのような凝集体が集合してなる三次粒子を「集合体(または二次凝集体)」と称する。
【0022】
本発明にかかる銀粒子の粒径としては特に制限はないが、大気中、500℃で5時間焼成した後の平均一次粒径が10〜100nm(より好ましくは10〜60nm)であることが好ましい。銀粒子の平均一次粒径が前記下限未満の電極を燃料極として使用すると、銀粒子を介した酸素の供給が阻害され、電極性能および炭素析出抑制能力が低下する傾向にあり、また、燃料発生極として使用すると、銀粒子の触媒作用による水蒸気や二酸化炭素からの酸素の引き抜きが阻害され、エネルギー変換効率が低下する傾向にある。他方、銀粒子の平均一次粒径が前記上限を超えると、銀粒子がセリウム酸化物微粒子によって覆われにくくなる傾向にある。
【0023】
本発明にかかるセリウム酸化物微粒子は、本発明の電極を燃料極として使用した場合には、銀粒子を介した三相界面への酸素供給が可能なものであり、また、燃料発生極として使用した場合には、銀粒子の触媒作用により引き抜かれた酸化物イオンを輸送することが可能なものである。さらに、本発明にかかるセリウム酸化物微粒子は、還元性雰囲気下において電子伝導性を示すものである。
【0024】
本発明にかかるセリウム酸化物微粒子の粒径としては特に制限はないが、大気中、500℃で5時間焼成した後の平均一次粒径が1〜75nm(より好ましくは8〜20nm、特に好ましくは8〜15nm)であることが好ましい。セリウム酸化物微粒子の平均一次粒径が前記下限未満になると、粒界抵抗が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、銀粒子を覆うことが困難となる傾向にある。
【0025】
また、本発明にかかる凝集体においては、大気中、500℃で5時間焼成した後の銀粒子の平均一次粒径がセリウム酸化物微粒子の平均一次粒径の1.3倍以上(より好ましくは2.0倍以上)であることが好ましい。銀粒子とセリウム酸化物微粒子の平均一次粒径が前記条件を満たさない場合、銀粒子の周囲がセリウム酸化物微粒子によって十分に覆われず、このような電極を燃料極として使用すると、燃料ガスを酸化する能力が低下したり、炭素析出抑制能力が低下する傾向にあり、燃料発生極として使用すると、銀粒子の触媒作用が低下する傾向にある。
【0026】
本発明にかかる凝集体において、銀粒子とセリウム酸化物微粒子との比率としては特に制限はないが、銀とセリウムとの合計量に対して、銀の含有率が10〜80mol%であることが好ましく、30〜60mol%であることがより好ましく、35〜60mol%であることが特に好ましい。銀の含有率が前記下限未満の電極を燃料極として使用すると、銀粒子を介した酸素供給が阻害され、燃料ガスを酸化する能力が低下したり、炭素析出抑制能力が低下する傾向にあり、また、燃料発生極として使用すると、銀粒子の触媒作用が低下するため、酸化物イオン供給ガスからの酸化物イオン生成量が減少し、酸化物イオンを十分に燃料極に供給できない傾向にある。他方、銀の含有率が前記上限を超えると、セリウム酸化物微粒子の含有率が少なくなり、このような電極を燃料極として使用すると、燃料ガスや炭素前駆体に移動できる酸化物イオンの量が減少し、燃料ガスを酸化する能力や炭素析出抑制能力が低下する傾向にあり、また、燃料発生極として使用すると、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質に移動できる酸化物イオンの量が減少する傾向にある。そして、銀粒子の周囲をセリウム酸化物微粒子が覆いやすく、且つ、それらの凝集体を形成しない両成分の割合が少なくなることから、銀の含有率は35〜60mol%であることが特に好ましい。
【0027】
さらに、本発明にかかる凝集体には、希土類元素が含まれていることが好ましい。このような希土類元素は、セリウム酸化物微粒子中に含まれていることがより好ましく、セリウム酸化物微粒子中に固溶していることが特に好ましい。これにより、酸化物イオン伝導度が向上する。このような希土類元素としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられ、これらの中でも、酸化物イオン伝導度が確実に向上するという観点から、Gd、Sm、Y、La、Pr、Ndが好ましい。また、希土類元素の含有率としては特に制限はないが、セリウムと希土類元素の合計量に対して1〜30mol%が好ましく、5〜20mol%がより好ましい。
【0028】
また、本発明にかかる凝集体には、アルミニウム、チタンおよびケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の添加元素が含まれていることが好ましい。このような添加元素は、セリウム酸化物微粒子に含まれていることがより好ましく、セリウム酸化物微粒子の周囲を覆っていることが特に好ましい。これにより、セリウム酸化物微粒子の酸化還元耐性が向上するため、還元雰囲気下において酸素欠損が起こりにくく、機械的強度に優れたセリウム酸化物微粒子が形成される。その結果、このようなセリウム酸化物微粒子に周囲を覆われている銀粒子は凝集しにくくなる傾向にある。また、添加元素の含有率としては特に制限はないが、セリウムと添加元素の合計量に対して1〜30mol%が好ましく、5〜20mol%がより好ましい。
【0029】
このような本発明にかかる凝集体の平均粒径としては特に制限はないが、0.05〜0.5μmが好ましく、0.07〜0.2μmがより好ましい。凝集体の平均粒径が前記下限未満になると、銀粒子の酸素バッファーとしての能力が低下する傾向にある。他方、凝集体の平均粒径が前記上限を超える電極を燃料極として使用すると、銀粒子とセリウム酸化物微粒子との界面が減少し、触媒活性が阻害される傾向にある。また、本発明にかかる凝集体の形状としては特に制限はないが、球状であることが好ましい。
【0030】
本発明にかかる凝集体は、例えば、国際公開WO2007/011062号に記載された方法に沿って製造することができる。すなわち、銀塩とセリウム塩と、必要に応じて、添加元素の塩および希土類元素の塩のうちの少なくとも1種とを含有する溶液(以下、「塩溶液」という。)から、銀粒子の周囲がセリウム化合物微粒子により覆われている凝集体前駆体(好ましくは、添加元素および希土類元素のうちの少なくとも1種をさらに含有する凝集体前駆体)を生成させる工程、ならびに得られた凝集体前駆体を焼成する工程を含む方法によって、本発明にかかる凝集体を得ることができる。
【0031】
前記塩溶液中の銀塩とセリウム塩との配合比(仕込み比)は、得られる銀粒子とセリウム酸化物微粒子との比率と完全に一致している必要はなく、得ようとする凝集体における銀粒子とセリウム酸化物微粒子との比率に応じて、銀塩とセリウム塩との配合比を適宜決定することが好ましい。また、セリウム塩に対して銀塩の量を過剰にすることは、溶液中に生成するセリウム酸化物微粒子の全てが本発明にかかる凝集体の構成成分となる傾向にあり、溶液中で本発明にかかる凝集体を形成していないセリウム酸化物微粒子の量が少なくなるという点で好ましい。一方、得ようとする凝集体における添加元素および希土類元素の含有率は、前記塩溶液中の添加元素の塩及び希土類元素の塩の配合比率(仕込み比率)と一致する傾向にある。
【0032】
このように、本発明のエネルギー変換装置用電極は、核となる銀粒子と該銀粒子の周囲を覆っているセリウム酸化物微粒子との凝集体を含有するものであるが、ニッケルと金属酸化物との混合物(より好ましくは、ニッケルと金属酸化物との混合焼結体(サーメット))を更に含有するものが好ましい。なお、ニッケルと金属酸化物とのサーメットは、一般に、酸化ニッケル(NiO)と金属酸化物とからなる焼結体を還元処理し、酸化ニッケルを金属ニッケルとすることにより形成される。
【0033】
前記金属酸化物としては、公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)や固体酸化物形電解セル(SOEC)の電極に用いられる金属酸化物であれば特に制限はなく、例えば、ジルコニア、セリア、マンガナイト、コバルタイトなどが挙げられる。また、このような金属酸化物は、イットリウム、スカンジウム、ランタン、サマリウム、ガドリニウムなどの希土類元素により安定化されていることが好ましい。希土類元素により安定化された金属酸化物としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープトセリア(GDC)、サマリアドープトセリア(SDC)などが挙げられる。
【0034】
本発明のエネルギー変換装置用電極は、通常、後述する酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層上に配置されている。このような電極の製造方法としては特に制限はなく、公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)や固体酸化物形電解セル(SOEC)における電極の製造方法を適用することができる。例えば、本発明にかかる凝集体を含有する分散液(インク)をスクリーン印刷などの公知の塗工方法を用いて酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層の表面に塗工することによって、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層の表面に配置された、前記凝集体からなる層を備える本発明の電極を得ることができる。また、本発明の電極がニッケルと金属酸化物との混合物をさらに含有するものである場合には、先ず、前記混合物を含有する分散液(インク)をスクリーン印刷などの公知の塗工方法を用いて酸化物イオン伝導体からなる固体電解質膜の表面に塗工してニッケルと金属酸化物とを含有する混合物層を形成し、この混合物層の表面にスクリーン印刷などの公知の塗工方法を用いて本発明にかかる凝集体を含有する分散液(インク)を塗工することによって、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層の表面に配置された、前記混合物層と前記凝集体からなる層とを備える本発明の電極を得ることができる。
【0035】
<エネルギー変換装置>
次に、本発明のエネルギー変換装置について説明する。本発明の第一のエネルギー変換装置は、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層と該固体電解質層の一方の面に配置された燃料極と他方の面に配置された空気極とを備えている化学エネルギーを電気エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置であって、前記燃料極が本発明のエネルギー変換装置用電極からなるものである。
【0036】
また、本発明の第二のエネルギー変換装置は、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層と該固体電解質層の一方の面に配置された燃料発生極と他方の面に配置された酸素発生極とを備えている電気エネルギーを化学エネルギーに変換するためのエネルギー変換装置であって、前記燃料発生極が本発明のエネルギー変換装置用電極からなるものである。
【0037】
前記酸化物イオン伝導体からなる固体電解質としては、公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)や固体酸化物形電解セル(SOEC)における酸化物イオン伝導体からなる固体電解質を使用することができ、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニアドープトセリア(GDC)、サマリアドープトセリア(SDC)、ランタンガレート(LaGaO)などが挙げられる。
【0038】
第一のエネルギー変換装置における空気極および第二のエネルギー変換装置における酸素発生極としては、公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)における空気極および公知の固体酸化物形電解セル(SOEC)における酸素発生極を使用することができ、例えば、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)、サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)などが挙げられる。
【0039】
本発明の第一および第二のエネルギー変換装置の製造方法としては特に制限はなく、それぞれ公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)や固体酸化物形電解セル(SOEC)の製造方法を適用することができる。例えば、スラリーコートやスクリーン印刷などの公知の塗工方法を用いて、酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層の一方の面に本発明のエネルギー変換装置用電極を形成し、他方の面に他の電極を形成する方法などが挙げられる。
【0040】
<エネルギー変換方法>
次に、本発明のエネルギー変換方法について説明する。本発明の第一のエネルギー変換方法は、本発明の第一のエネルギー変換装置の燃料極に燃料ガスを接触させ且つ空気極に酸素含有ガスを接触させて化学エネルギーを電気エネルギーに変換する方法である。
【0041】
前記燃料ガスとしては、公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)において燃料極に導入されるガスであれば特に制限はなく、例えば、水素を含むガス、一酸化炭素を含むガス、炭化水素燃料を含むガス、およびこれらの混合ガスなどが挙げられる。前記炭化水素燃料としては、公知の固体酸化物形燃料電池(SOFC)において燃料極に導入される炭化水素燃料であれば特に制限はなく、例えば、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガスなどが挙げられる。また、常温において液体または固体となっている燃料成分であっても、直接またはガス化して導入することができる。ガス化の方法としては、改質、部分酸化などが挙げられる。本発明の電極においては、炭素の析出による電極反応の阻害を十分に解消することができるため、炭化水素燃料を積極的に導入することが可能である。
【0042】
また、本発明の第二のエネルギー変換方法は、本発明の第二のエネルギー変換装置の燃料発生極において、電気分解により酸化物イオンを生成するガス(酸化物イオン供給ガス)から燃料ガスを生成させて電気エネルギーを化学エネルギーに変換する方法である。
【0043】
前記酸化物イオン供給ガスとしては、公知の固体酸化物形電解セル(SOEC)において燃料発生極に導入される、電気分解により酸化物イオンを生成するガスであれば特に制限はなく、例えば、水蒸気を含むガス、二酸化炭素を含むガス、およびこれらの混合ガスなどが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
<CeO−Ag凝集体の調製>
CeとAgとの合計量に対するAgの含有率が60mol%、CeとLaとの合計量に対するLaの含有率が10mol%となるように、Ce、AgおよびLaを含有する硝酸塩溶液を調製した。すなわち、50.49gのCe(NO・6HOと29.63gのAgNOと5.59gのLa(NO・6HOとを120mlの水に溶解させて硝酸塩溶液を調製した。また、25%アンモニア水38.21gを水100gで希釈したアンモニア水を調製した。そして、このアンモニア水に前記硝酸塩溶液を撹拌しながら混合して逆沈殿処理を行い、さらに10分間撹拌を継続した後、水の存在下、閉鎖系、2気圧の条件下、120℃に加熱して2時間の凝集処理を行なった。得られた沈殿物(凝集体前駆体)を大気中、500℃で5時間焼成して、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO微粒子により覆われている凝集体(以下、「CeLaAg凝集体」という。)を得た。このCeLaAg凝集体のX線回折パターンを測定し、Ag粒子およびCeO微粒子の平均一次粒子径を求めたところ、それぞれ30nmおよび10nmであった。
【0046】
<固体電解質の調製>
ジルコニア粉末(東ソー(株)製「TZ−8YS」、8mol%Y含有ジルコニア顆粒)2.0gをディスク状に成形し、1400℃で5時間焼成して直径20mm、厚さ2mmの緻密なイットリア安定化ジルコニアディスク(以下、「YSZディスク」という。)を作製した。
【0047】
<電極の作製>
先ず、CeLaAg凝集体2gとセルロース0.2gとを混合し、さらに粘度調節用希釈剤(田中貴金属販売(株)製「TMS−1」)を添加してCeLaAgインクを調製した。次に、前記YSZディスクの一方の面にスクリーンプリンタ(ミタニマイクロニクス(株)製)を用いてCeLaAgインクをスクリーン印刷して、CeLaAg凝集体からなる電極(直径6mm、厚さ10μm。以下、「CeLaAg電極」という。)を作製し、他方の面にPtインク(田中貴金属販売(株)製「TR7905」)を塗布してPt電極(直径6mm)を作製した。さらに、このYSZディスクの側面にPt線(0.2mmφ)を巻き、その周囲にPtインク(田中貴金属販売(株)製「TR7905」)を塗布してPt参照極を作製し、電気化学測定用セルを得た。
【0048】
<電気化学測定>
上記のようにして作製したセルを固体酸化物形燃料電池(SOFC)評価用セルホルダー((株)チノー製)に装着した。図3は、セルホルダーのセル装着部の断面図である。Pt電極7bおよびPt参照極7dには100cm/分の流量で大気を接触させ、CeLaAg電極7eにはH/HO混合ガスまたはCO/CO混合ガスを接触させながら、以下の分極測定を行なった。
・分極測定
下記の測定条件下において、ポテンションスタット(東邦技研社製「toho2000」)を用いて、三端子測定により電位−電流曲線を求めた。その結果を図4図7に示す。
(測定条件)
測定温度:500℃または800℃
混合ガス濃度:H/HO(vol%/vol%)=0.1/99.9〜10/90
CO/CO(vol%/vol%)=0.1/99.9〜10/90
(参考例1)
混合ガスの代わりにCOガス(100vol%)またはOガス(100vol%)を800℃で接触させた以外は、実施例1と同様にして分極測定を行なった。その結果を図5に示す。
【0049】
図4図7に示したグラフにおいて、開回路電圧(OCV)より電位が正の方向の測定結果はCeLaAg電極の燃料極としての特性を示しており、電位が負の方向の測定結果は燃料発生極としての特性を示している。従って、図4図7に示した結果から明らかなように、CeLaAg電極は、化学エネルギーから電気エネルギーへのエネルギー変換装置における燃料極や電気エネルギーから化学エネルギーへのエネルギー変換装置における燃料発生極として機能することがわかった。
【0050】
また、図4図5に示した結果から明らかなように、セルの分極特性は、CeLaAg電極に接触する混合ガス中のH濃度またはCO濃度に依存することがわかった。特に、CeLaAg電極の燃料極としての性能は、H濃度またはCO濃度が高いほど、すなわち、CeLaAg電極が接触している雰囲気の還元性が強いほど、高くなることがわかった。これは、還元性雰囲気において電子導電性を示すセリウム酸化物微粒子が燃料極としての性能に寄与しているためと考えられる。
【0051】
一方、図4に示したように、H/HO混合ガスを接触させた場合の電位−電流曲線は、WE−RE間の電位差が−1.2V以下において全て一致した。また、図5に示したように、CO/CO混合ガスまたはCOガスを接触させた場合の電位−電流曲線は、WE−RE間の電位差が−1.0V以下において全て一致した。これらの結果は、HまたはCOがその濃度にかかわらず、同等に還元されたことを示しており、CeLaAg電極の還元性能(燃料発生極としての性能)はそれに接触するガスの濃度に依存しないことがわかった。
【0052】
また、Oガスを接触させた場合の電位−電流曲線を電位が負の方向に延長すると、図5中の点線で示したように、WE−RE間の電位差が−1.2〜−1.6Vの範囲において、CO/CO混合ガスまたはCOガスを接触させた場合の電位−電流曲線と一致した。この結果から、CeLaAg電極は、Oを還元する場合と同等の性能でCOを還元できることがわかった。
【0053】
また、図6図7に示した結果から明らかなように、開回路電圧(OCV)が同程度であれば、異なる混合ガス系であっても、セルの分極特性は同等になることがわかった。これは、CeLaAg電極での酸化反応(燃料極として機能)や還元反応(燃料発生極として機能)においては、CeLaAg電極に接触させた混合ガス成分の反応が律速ではなく、酸化物イオンの拡散が律速であるためと考えられる。従って、H/HO混合ガスやCO/CO混合ガス以外の混合ガスをCeLaAg電極に接触させる場合でも、開回路電圧(OCV)がH/HO混合ガスやCO/CO混合ガスの場合と同程度となる条件に調整することによって、H/HO混合ガスやCO/CO混合ガスの場合と同等の電極性能が得られると考えられる。
【0054】
(実施例2)
CeとAgとの合計量に対するAgの含有率が60mol%、CeとLaとの合計量に対するLaの含有率が10mol%、CeとLaとの合計量に対するAlの含有率が5mol%となるようにCe、Ag、LaおよびAlを含有する硝酸塩溶液を調製した。すなわち、50.49gのCe(NO・6HOと29.63gのAgNOと5.59gのLa(NO・6HOと2.42gのAl(NO・9HOとを120mlの水に溶解させて硝酸塩溶液を調製した。この硝酸塩溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO微粒子により覆われており、さらにAlを含有する凝集体(以下、「CeLaAg−Al(5)凝集体」という。)を調製し、さらに、CeLaAg凝集体の代わりにCeLaAg−Al(5)凝集体2gを用いた以外は実施例1と同様にして電気化学測定用セルを作製した。
【0055】
CeLaAg−Al(5)電極にCO/CO混合ガス(CO/CO(vol%/vol%)=10/90)またはH/HO混合ガス(H/HO(vol%/vol%)=1/99〜10/90)を600℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を図8図9に示す。なお、図8図9には、実施例1で作製したAlを含まないCeLaAg電極を備えるセルについて、上記の条件で分極測定を行なった結果も示した。
【0056】
また、分極測定後のCeLaAg−Al(5)電極の断面を走査型電子顕微鏡写真(SEM)により観察した。その結果(二次電子像)を図10A図10Bに示す。なお、図10B図10Aに示したSEM写真を拡大した写真である。
【0057】
図8図9に示した結果から明らかなように、測定条件が同じ場合、Alを含有するCeLaAg電極(CeLaAg−Al電極)を備えるセルの電位−電流曲線は、Alを含まない場合(CeLaAg電極の場合)の電位−電流曲線と一致し、CeLaAg凝集体にAlを添加してもセルの分極特性が変化しないことがわかった。また、図10A図10Bに示した結果から明らかなように、分極測定後のCeLaAg−Al電極においても、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO微粒子により覆われた電極微構造が形成されていることが確認された。
【0058】
(実施例3)
CeとLaとの合計量に対するAlの含有率が10mol%となるようにAl(NO・9HOの量を4.84gに変更した以外は実施例2と同様にして、Ag粒子の周囲がLa固溶CeO微粒子により覆われており、さらにAlを含有する凝集体(以下、「CeLaAg−Al(10)凝集体」という。)を調製した。
【0059】
このCeLaAg−Al(10)凝集体を大気中、800℃で5時間焼成した後、X線回折パターンを測定し、Ag粒子およびCeO微粒子の平均一次粒子径を求めたところ、それぞれ59nmおよび12nmであった。
【0060】
CeLaAg凝集体の代わりにCeLaAg−Al(10)凝集体2gを用いた以外は実施例1と同様にして電気化学測定用セルを作製した。
【0061】
CeLaAg−Al(10)電極にHガス(100vol%)またはCO/CO混合ガス(CO/CO(vol%/vol%)=10/90)を500℃または700℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を図11図13に示す。
【0062】
また、CeLaAg−Al(10)電極にCHガス(100vol%)または加湿CHガス(CH/HO(vol%/vol%)=98/2)を700℃または800℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルの開回路電圧(OCV)より電位が正の方向の電位−電流曲線を求めた。その結果を図14図17に示す。
【0063】
(比較例1)
CeLaAg凝集体の代わりに、ニッケル酸化物含有イットリア安定化ジルコニア(Ni−YSZ)粉末(ネクステックマテリアルズ社製「NiYSZ−TC」)2gを用いた以外は実施例1と同様にして電気化学測定用セルを作製した。Ni−YSZ電極は直径6mm、厚さ10μmの大きさで作製した。
【0064】
このNi−YSZ電極に各種ガスを接触させた以外は実施例3と同様にして前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。なお、Ni−YSZ電極作製時にはニッケルは酸化物の状態となっているが、上記の最初の測定の前に、水素ガスを用いて800℃でニッケル金属に還元した。前記分極測定の結果を図11図17に示す。
【0065】
図11図15に示した結果から明らかなように、HガスやCO/CO混合ガスを接触させた場合(図11図13)には、CeLaAg−Al電極を備えるセルの分極特性はNi−YSZ電極を備えるセルと同等であった。一方、CHガスを接触させた場合(図14図15)には、CeLaAg−Al電極はNi−YSZ電極より高い電極性能を示した。この理由は以下のように推察される。すなわち、CHガスを接触させると、いずれの電極においても、CHガスと固体電解質層中を移動してきた酸化物イオンとが反応して二酸化炭素と水蒸気が生成し、電子が発生する電極反応が起こるとともに、クラッキング反応(CH→C+2H)も起こる。このとき、Ni−YSZ電極では、電極反応において生成した水蒸気による改質反応が起こるが、改質されるCHガスの量は接触したCHガスに比べて僅かであるため、炭素の析出が十分に抑制されず、電極反応の阻害要因が十分に解消されなかったと推察される。一方、CeLaAg−Al電極では、生成した水蒸気によるCHガスの改質に加えて、CeLaAgの強いカーボン酸化力により、クラッキング反応過程で生成した炭素前駆体がすぐに酸化されたため、電極反応の阻害要因が十分に解消されたと推察される。
【0066】
また、図16図17に示した結果から明らかなように、CeLaAg−Al電極に、CHガス(100vol%)を接触させた場合には、加湿CHガス(CH/HO)を接触させた場合に比べて、燃料極としての性能が高くなった。この結果から、CeLaAgの強いカーボン酸化力によって炭素前駆体を酸化して炭素の析出を抑制した場合には、CHガスの水蒸気改質によって炭素の析出を抑制した場合に比べて、電極反応の阻害要因を解消する効果が高いことがわかった。
【0067】
(実施例4)
比較例1と同様にして、一方の面にNi−YSZ層(直径6mm、厚さ10μm)を、他方の面にPt電極(直径6mm)を備えるYSZディスクを作製した。次に、前記Ni−YSZ層上にCeLaAg−Al(10)層(直径6mm、厚さ10μm)を形成した以外は実施例3と同様にして電気化学測定用セルを作製した。
【0068】
2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕にH/HO混合ガス(H/HO(vol%/vol%)=98/2)を500℃または700℃で接触させた以外は実施例1と同様にして、前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。なお、前記2層電極作製時にはニッケルは酸化物の状態となっているが、上記の最初の測定の前に、水素ガスを用いて800℃でニッケル金属に還元した。その結果を図18図19に示す。
【0069】
また、分極測定後の前記2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕と固体電解質層〔YSZディスク〕の断面を走査型電子顕微鏡写真(SEM)により観察した。図20Aには、前記2層電極と前記固体電解質層の断面の二次電子像を示す。また、図20Bには、図20Aに示した前記2層電極と固体電解質層の断面の反射電子像を示す。
【0070】
(比較例2)
ジルコニア粉末(東ソー(株)製「TZ−8YS」、8mol%Y含有ジルコニア顆粒)100質量部に対して30質量部のAgをAgNOを用いて含浸担持させ、Ag担持YSZ粉末(以下、「Ag−YSZ粉末」という。)を調製した。CeLaAg−Al(10)凝集体の代わりにAg−YSZ粉末2gを用いた以外は実施例4と同様にして電気化学測定用セルを作製した。2層電極〔Ag−YSZ+Ni−YSZ〕にH/HO混合ガスを500℃で接触させた以外は実施例4と同様にして前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を図18に示す。
【0071】
(比較例3)
比較例1で調製した電気化学測定用セルのNi−YSZ電極にH/HO混合ガスを接触させた以外は実施例4と同様にして前記電気化学測定用セルについて分極測定を行なった。その結果を図18図19に示す。また、分極測定後のNi−YSZ電極とYSZ固体電解質層の断面を走査型電子顕微鏡写真(SEM)により観察した。その結果(二次電子像)を図21に示す。
【0072】
図18図19に示した結果から明らかなように、2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕を備えるセル(実施例4)は、Ni−YSZ電極を備えるセル(比較例3)に比べて分極特性が向上することがわかった。また、図18に示した結果から明らかなように、2層電極〔Ag−YSZ+Ni−YSZ〕を備えるセル(比較例2)は、2層電極〔CeLaAg−Al(10)+Ni−YSZ〕を備えるセル(実施例4)およびNi−YSZ電極を備えるセル(比較例3)に比べて分極特性が劣るものであることがわかった。
【0073】
図20A図20Bに示した結果から明らかなように、分極測定後の前記2層電極のCeLaAg−Al層においては、Agの溶出は確認されず、電極微構造が形成されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明によれば、燃料ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素など)を接触させることによって、燃料極として機能するエネルギー変換装置用電極を得ることが可能となる。また、このエネルギー変換装置用電極は、電気分解により酸化物イオンを発生するガス(水蒸気、二酸化炭素など)を接触させることによって、燃料発生極としても機能する。
【0075】
したがって、本発明のエネルギー変換装置用電極が、接触させるガスの種類に依存して燃料極としても燃料発生極としても機能することから、この電極を備える本発明のエネルギー変換装置は、その運転条件(具体的には、電極に導入するガスの種類)を切り替えることによって、燃料電池としても電解セルとしても利用することができ、発電とエネルギー貯蔵の両方の機能を有するエネルギー変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0076】
1:本発明の電極(燃料極)
2:他の電極(空気極)
3:酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層
4:本発明の電極(燃料発生極)
5:他の電極(酸素発生極)
6:酸化物イオン伝導体からなる固体電解質層
7:電気化学測定用セル
7a:大気拡散板
7b:電極
7c:固体電解質
7d:参照極
7e:電極
7f:混合ガス拡散板
8:パイレックス(登録商標)製ガラスO−リング
9:混合ガス導入管
10:セル支持管
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図1
図2
図10A
図10B
図20A
図20B
図21