(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のものでは、焼成時において生じ得るセラミック誘電体層とセラミック磁性体層との間での相互拡散の問題は避けられない。すなわち、セラミック誘電体層とセラミック磁性体層との間で生じ得る相互拡散を抑制することが困難であるため、セラミック誘電体層からセラミック磁性層へガラス成分の拡散が生じ、その結果、セラミック誘電体層の焼結性を低下させたり、絶縁抵抗特性を劣化させたりするといった問題に遭遇することがあった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、セラミック電子部品およびその製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、セラミック誘電体層とセラミック磁性体層とを積層した構造を有する複合基板を備える、セラミック電子部品にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、
上記セラミック誘電体層は、
35〜50重量%のCaO、0〜20重量%のAl
2O
3、5〜20重量%のB
2O
3、および30〜50重量%のSiO
2を含む、ガラスを40〜80重量%と、
アルミナ、フォルステライト(Mg
2SiO
4)および石英の群から選ばれる少なくとも1種のセラミックを20〜60重量%と、
を含み、さらに、
結晶として、少なくともウォラストナイト(CaSiO
3)を含む、
ことを特徴としている。
【0008】
セラミック磁性体層は、Ni−Cu−Zn系フェライトを含むことが好ましい。これによって、セラミック磁性体層において高い透磁率を得ることができ、そのため、セラミック部品において良好な特性を得ることができる。
【0009】
この発明は、また、セラミック電子部品の製造方法にも向けられる。この発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体セラミックグリーンシートと磁性体セラミックグリーンシートとをそれぞれ準備する工程と、誘電体セラミックグリーンシートと磁性体セラミックグリーンシートとを積層して複合積層体を作製する工程と、複合積層体を焼成して複合基板を得る工程と、を備える。
【0010】
そして、前述した技術的課題を解決するため、上記誘電体セラミックグリーンシートを準備する工程において、固形成分として、35〜50重量%のCaO、0〜20重量%のAl
2O
3、5〜20重量%のB
2O
3、および30〜50重量%のSiO
2を含む、ガラスを40〜80重量%と、アルミナ、フォルステライトおよび石英の群から選ばれる少なくとも1種のセラミックを20〜60重量%と、を含む、誘電体セラミックグリーンシートが準備されることを特徴としている。このような組成の誘電体セラミックグリーンシートと磁性体セラミックグリーンシートとが積層されてなる複合積層体が焼成されたとき、上記ガラスの一部が結晶化して少なくともウォラストナイトが析出する。
【発明の効果】
【0011】
上述したセラミック誘電体層または誘電体セラミックグリーンシートは、焼成時において、ガラスの一部が結晶化して少なくともウォラストナイトを析出する組成を有している。このように、ガラスの一部が結晶化すると、ガラスの粘度が高くなる。
【0012】
したがって、この発明によれば、焼成時にガラスの粘度が高くなるため、誘電体セラミックグリーンシートから磁性体セラミックグリーンシートへの、すなわち、セラミック誘電体層からセラミック磁性体層への成分拡散が抑制され得る。その結果、セラミック誘電体層の焼結性を低下させたり、絶縁抵抗特性を劣化させたりするといった問題、さらには、セラミック磁性体層の特性を劣化させたりするといった問題をも生じにくくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、この発明の一実施形態によるセラミック電子部品1について説明する。
【0015】
セラミック電子部品1は、セラミック誘電体層2とセラミック磁性体層3とを積層した構造を有する複合基板4を備えている。セラミック誘電体層2およびセラミック磁性体層3の各々は、
図1では、それぞれ一体のものとして図示されているが、実際には、複数の層からなる積層構造を有している。
【0016】
セラミック誘電体層2は、後述する製造方法からわかるように、ガラスとセラミックとを含むものであるが、ガラスは、出発原料として、35〜50重量%のCaO、0〜20重量%のAl
2O
3、5〜20重量%のB
2O
3、および30〜50重量%のSiO
2を含む、ガラスに由来するものであり、セラミックは、アルミナ、フォルステライトおよび石英の群から選ばれる少なくとも1種のセラミックを出発原料とするものである。セラミック誘電体層2は、出発原料の段階では、ガラスを40〜80重量%、セラミックを20〜60重量%それぞれ含んでいる。また、セラミック誘電体層2は、結晶として、少なくともウォラストナイトを含んでいる。
【0017】
セラミック磁性体層3は、好ましくは、Ni−Cu−Zn系フェライトを含む。このように、Ni−Cu−Zn系フェライトを含むと、セラミック磁性体層3において高い透磁率を得ることができ、そのため、セラミック部品1において良好な特性を得ることができる。
【0018】
複合基板4におけるセラミック誘電体層2が占める部分は、コンデンサ部5を構成し、そこには、互いに対向するように形成された複数のコンデンサ電極6が設けられている。他方、複合基板4におけるセラミック磁性体層3が占める部分は、インダクタ部7を構成し、そこには、コイル状に延びるコイル導体8が設けられている。
【0019】
このようにして、
図1に示したセラミック電子部品1は、LC複合部品を構成する。
【0020】
次に、セラミック電子部品1の好ましい製造方法について説明する。
【0021】
まず、セラミック誘電体層2となるべき誘電体セラミックグリーンシートとセラミック磁性体層3となるべき磁性体セラミックグリーンシートとがそれぞれ準備される。
【0022】
誘電体セラミックグリーンシートは、固形成分として、35〜50重量%のCaO、0〜20重量%のAl
2O
3、5〜20重量%のB
2O
3、および30〜50重量%のSiO
2を含む、ガラスを40〜80重量%と、アルミナ、フォルステライトおよび石英の群から選ばれる少なくとも1種のセラミックを20〜60重量%と、を含み、さらに、溶剤、バインダおよび可塑剤を含む、スラリーをシート状に成形することによって得られるものである。
【0023】
他方、磁性体セラミックグリーンシートは、たとえば、Ni−Cu−Zn系フェライトの仮焼粉を含むとともに、溶剤、バインダおよび可塑剤を含む、スラリーをシート状に成形することによって得られるものである。上記Ni−Cu−Zn系フェライトに代えて、Ni−Zn系フェライト、またはMn−Zn系フェライトが用いられてもよい。
【0024】
次に、誘電体セラミックグリーンシート上には、コンデンサ電極6となるべき導体膜が、たとえば導電性ペーストの印刷によって形成される。他方、磁性体セラミックグリーンシート上には、コイル導体8となるべき導体膜および必要に応じてビア導体が導電性ペーストの印刷によって形成される。
【0025】
次に、誘電体セラミックグリーンシートと磁性体セラミックグリーンシートとが、それぞれ、必要数、所定の順序で積層される。これによって、複合基板4となるべき複合積層体が得られる。
【0026】
次に、複合積層体が1000℃以下で焼成され、それによって、複合基板4が得られる。この焼成工程において、誘電体セラミックグリーンシートに含まれていたガラスの一部が結晶化して少なくともウォラストナイトが析出する。このように、ガラスの一部が結晶化すると、ガラスの粘度が高くなる。そのため、誘電体セラミックグリーンシートから磁性体セラミックグリーンシートへの、すなわち、セラミック誘電体層2からセラミック磁性体層3への成分拡散が抑制され、セラミック誘電体層2の焼結性を低下させたり、絶縁抵抗特性を劣化させたり、また、セラミック磁性体層3の特性を劣化させたりするといった問題を生じにくくすることができる。
【0027】
このようにして得られた複合基板4におけるセラミック誘電体層3は、35〜50重量%のCaO、0〜20重量%のAl
2O
3、5〜20重量%のB
2O
3、および30〜50重量%のSiO
2を含む、ガラスを40〜80重量%と、アルミナ、フォルステライトおよび石英の群から選ばれる少なくとも1種のセラミックを20〜60重量%と、を含む出発原料が有していた元素組成を維持している。また、セラミック誘電体層3は、結晶として、少なくともウォラストナイトを含む。
【0028】
次に、複合基板4の外表面上に、必要に応じて、端子となる外部電極、コンデンサ電極6やコイル導体8に接続される接続導体が形成され、LC複合部品としてのセラミック電子部品1が完成される。
【0029】
このように、
図1に示したセラミック電子部品1は、LC複合部品を構成するものであるが、この発明に係るセラミック電子部品は、セラミック誘電体層とセラミック磁性体層とを積層した構造を有する複合基板を備える限り、必ずしも複合部品である必要はなく、単一の機能素子のみを有するセラミック電子部品であってもよいし、他の電子部品を実装してモジュールとして用いられてもよい。
【0030】
また、この発明に係るセラミック電子部品に備える複合基板におけるセラミック誘電体層およびセラミック磁性体層の各々の数および積層順序は、セラミック電子部品に求められる機能に応じて任意に変更することができる。
【0031】
[実験例]
以下に、この発明に係るセラミック電子部品に関して、実験例に基づき、より具体的に説明する。
【0032】
(1)誘電体セラミックグリーンシートの作製:
表1に示すガラス組成となるように、出発原料となる酸化物または炭酸塩を調合し、これをPtるつぼに入れ、ガラス組成により1300〜1500℃の温度で1時間溶融させた。次に、このガラス融液を急冷した後、粉砕し、ガラス粉末を得た。
【0033】
他方、フィラーとなるセラミック粉末として、表1に示すように、アルミナ粉末、フォルステライト粉末、および石英粉末を用意し、これらを表1に示した重量比となるように秤量した。
【0034】
次いで、上記ガラス粉末と上記セラミック粉末とを、表1の「ガラス量」および「フィラー量」で示す割合で混合するとともに、これらに溶剤、バインダおよび可塑剤を加え、十分に混合し、ドクターブレード法を適用することによって、各試料に係る誘電体セラミックグリーンシートを得た。
【0036】
(2)磁性体セラミックグリーンシートの作製:
Ni−Cu−Zn系フェライトの仮焼粉に溶剤、バインダおよび可塑剤を加え、十分に混合し、ドクターブレード法を適用することによって、磁性体セラミックグリーンシートを得た。
【0037】
これらの誘電体セラミックグリーンシートおよび磁性体セラミックグリーンシートを用いて、以下の評価を行なった。
【0038】
(3)絶縁抵抗:
絶縁抵抗測定のため、
図2および
図3にそれぞれ示すようなコンデンサ11および21を作製した。
【0039】
〈コンデンサ11および
21に共通する構成〉
コンデンサ11および21は、それぞれ、基板12および22を備える。コンデンサ11および21について、共通する要素には同様の参照符号を付して説明すると、基板12および22の各々の内部には、互いに対向する内部電極13および14が配置される。基板12および22の各々の互いに対向する各端面上には、内部電極13および14にそれぞれ電気的に接続された外部電極15および16が形成される。
【0040】
図2および
図3に示すように、内部電極13および14は、4mm×4mmの平面寸法を有しており、内部電極13および14間の距離は、30μmとした。
【0041】
なお、内部電極13および14の形成には、Ag系ペーストを用いた。また、基板12および22を得るため、1000℃以下の焼成温度を適用した。
【0042】
〈コンデンサ11特有の構成〉
図2に示すコンデンサ11では、基板12は、10mm×10mm×約1.0mm(厚み)の寸法を有し、誘電体セラミックグリーンシートを積層してなる積層体を焼成して得られたものである。基板12の厚み方向での中央に内部電極13および14を配置した。
【0043】
〈コンデンサ21特有の構成〉
図3に示すコンデンサ21では、基板22は、10mm×10mm×約1.0mm(厚み)の寸法を有し、誘電体セラミックグリーンシートと磁性体セラミックグリーンシートとを積層してなる積層体を焼成して得られた複合基板である。より詳細には、複合基板22は、
図3に示すように、厚み90μmのセラミック誘電体層23を、各厚みが0.5mmの2つのセラミック磁性体層24および25で挟んだ積層構造を有しており、セラミック誘電体層23の厚み方向での中央に内部電極13および14を配置した。
【0044】
〈絶縁抵抗測定〉
コンデンサ11および
21について、絶縁抵抗測定器により絶縁抵抗値[Ω]を測定した。その結果が、logIRとして、表2の「誘電体単体」における「logIR」および「共焼結体」における「logIR」の各欄に示されている。表2において、「誘電体単体」はコンデンサ11に相当し、「共焼結体」はコンデンサ21に相当する。
【0045】
(4)結晶相:
誘電体セラミックグリーンシートのみを所定枚数積層した後、圧着、焼成し、20mm×20mm×1.0mm(厚み)の基板を作製した。そして、この焼成基板を乳鉢で粉砕し得られた粉末についてX線回折分析を実施し、それによって、結晶相の同定を行なった。その結果が表2の「誘電体単体」における「結晶相」の欄に示されている。
【0046】
表2の「結晶相」に関して、「A」はα−アルミナを示し、「W」はウォラストナイトを示し、「F」はフォルステライトを示し、「Q」は石英(クオーツ)を示している。なお、結晶相「A」、「F」および「Q」は、表1の「フィラー」の欄に記載のセラミック種からわかるように、原材料として添加したものであり、焼成時に析出した結晶ではない。
【0048】
表1および表2において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の比較例である。
【0049】
この発明の範囲内の試料2、3、5、6、9、10、13、14、17、18および20では、「結晶相」として、「W」(ウォラストナイト)が析出しており、「共焼結体」での「logIR」は、「誘電体単体」での「logIR」と大差なく、logIR>10を満足した。
【0050】
これらに対して、この発明の範囲外の試料1では、ガラス中のCaOが少なすぎるため、「W」(ウォラストナイト)が析出しなかった。そのため、ガラス成分がセラミック磁性体層に拡散して、「共焼結体」での「logIR」が、「誘電体単体」での「logIR」に比べて大幅に低下した。
【0051】
試料4では、「W」(ウォラストナイト)が析出しているものの、ガラス中のCaOが多すぎるため、ガラスの粘度が低下して、ガラス成分がセラミック磁性体層に拡散して、「共焼結体」での「logIR」が、「誘電体単体」での「logIR」に比べて大幅に低下した。CaOはガラス修飾酸化物でガラスの粘度を低下させる性質を有している。
【0052】
試料7では、ガラス中のAl
2O
3が多すぎるため、「未焼結」となった。
【0053】
試料8では、ガラス中のB
2O
3が少なすぎるため、「未焼結」となった。
【0054】
試料11では、ガラス中のB
2O
3が多すぎるため、「W」(ウォラストナイト)が析出しなかった。そのため、ガラス成分がセラミック磁性体層に拡散して、「共焼結体」での「logIR」が、「誘電体単体」での「logIR」に比べて大幅に低下した。
【0055】
試料12では、ガラス中のSiO
2が少なすぎるため、「W」(ウォラストナイト)が析出しなかった。そのため、ガラス成分がセラミック磁性体層に拡散して、「共焼結体」での「logIR」が、「誘電体単体」での「logIR」に比べて大幅に低下した。
【0056】
試料15では、ガラス中のSiO
2が多すぎるため、「未焼結」となった。
【0057】
試料16では、ガラス量が少なすぎるため、「未焼結」となった。
【0058】
試料19では、「W」(ウォラストナイト)が析出しているものの、ガラス量が多すぎるため、ウォラストナイトがガラス粘度の低下を抑えきれず、ガラス成分がセラミック磁性体層に拡散して、「共焼結体」での「logIR」が、「誘電体単体」での「logIR」に比べて大幅に低下した。