(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記弾性体は、その表面が非粘着性で、かつ前記セラミックシートの厚みより小さい表面粗さRaを有することを特徴とする、請求項1に記載のセラミック積層体の製造装置。
前記成膜支持手段と前記剥離転写ロールとの接触位置における速度差を、前記成膜支持手段の接触位置における速度に対して1〜3%の範囲としたことを特徴とする、請求項1に記載のセラミック積層体の製造装置。
前記成膜支持手段は、その外周面上に成膜装置によりセラミックスラリーが直接塗布され、かつ前記セラミックスラリーが乾燥されてセラミックシートが形成される成膜ロールを含むことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミック積層体の製造装置。
前記成膜支持手段は、連続状のキャリアフィルムと、このキャリアフィルムの内周面を支持するガイドロールとを含み、前記セラミックシートは前記キャリアフィルムの外周面上に形成され、前記ガイドロールと前記剥離転写ロールとが前記キャリアフィルムを間にして接触し、前記ガイドロールの周速と前記剥離転写ロールの周速とに前記弾性体によるせん断変形により吸収できる速度差を与えたことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のセラミック積層体の製造装置。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサを製造する場合、特許文献1のように、長尺なキャリアフィルムの上にセラミックグリーンシートを形成し、その上に内部電極を印刷し、セラミックグリーンシートを所望のサイズにカットしてキャリアフィルムから剥離すると共に、カットされたセラミックグリーンシートを複数層積層して積層体ブロックを形成する方法が一般的である。キャリアフィルムからセラミックグリーンシートを剥離する方法として、定盤上に吸引孔によってセラミックグリーンシートを支持するキャリアフィルムの下面を吸着保持すると共に、定盤の上方に多数の吸引孔を有する吸着ヘッドを設け、吸着ヘッドの吸引孔によってセラミックグリーンシートの上面を吸着した状態で吸着ヘッドを上昇させることで、セラミックグリーンシートをキャリアから剥離している。
【0003】
しかしながら、定盤と吸着ヘッドとが共に平板状であるため、剥離モードは面剥離である。吸着ヘッドの吸引孔は所定の間隔をあけて設けられているので、吸引孔間のセラミックグリーンシートは保持されていない。そのため、セラミックグリーンシートが薄く強度が小さい場合、定盤上のキャリアフィルムからセラミックグリーンシートを剥離する途中で、吸引穴間のセラミックグリーンシートが破断する可能性がある。
【0004】
特許文献2の
図3には、効率的なセラミック積層体の製造装置が開示されている。この製造装置は、離型処理が施された成膜ロール上に成膜装置によりセラミックスラリーを薄膜状に塗布し、セラミックスラリーを乾燥装置により乾燥した上で、そのセラミックシートを剥離転写ロールに乗り移らせ、さらに剥離転写ロールから積層ロールへセラミックシートを転写することで、積層ロール上でセラミックシートを多層に積層している。積層ロール上では、電極形成装置により各セラミックシート上に電極を形成している。
【0005】
特許文献2に記載の装置では、連続運転によりセラミックスラリーを成膜できるので、間欠的な成膜方法に比べて膜厚の安定領域が広くなり、品質及び量産性が向上すると共に、キャリアフイルムを使用せずに成膜、積層できるので、製造コストを低減できるという利点がある。また、積層ロール上にセラミックシートが積層されるに従い積層ロールの直径が増大するが、それに応じて剥離転写ロールの位置や圧力を調整できるので、積層体の品質を安定化させることができる。さらに、積層ロールが成膜ロールに直接接触しないので、積層ロールの加圧力が成膜ロールを傷つけるという問題を解消できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2では、成膜ロールから剥離転写ロールにセラミックシートを確実に乗り移らせるために、成膜ロール上には離型処理が施され、剥離転写ロールには粘着手段又は吸着手段(吸引又は静電吸着)が設けられている。
【0008】
ところが、剥離転写ロールに粘着手段を用いた場合には、その粘着力を適切に制御することが難しく、粘着力が強過ぎれば、セラミックシートを積層ロールへ円滑に転写できないし、逆に粘着力が弱過ぎると、成膜ロールからセラミックシートを円滑に剥離できない。
【0009】
一方、剥離転写ロールとしてサクションロールのような吸着手段を用いると、保持力の制御は簡単であるが、キャリアフィルムによって支持されていないセラミックシートの表面を真空吸引するため、吸引孔を有しない領域でセラミックシートに延びが発生したり、吸引孔による吸引痕がセラミックシートの表面に残ることがあり、セラミック積層体の品質低下をもたらす可能性がある。特に、膜厚の小さい低強度のセラミックシートの場合、僅かな負荷でもセラミックシートが歪むので、真空吸引による吸着手段は採用しにくい。
【0010】
そこで、本発明の目的は、成膜支持手段から剥離転写ロールを介して積層支持手段へセラミックシートを転写する際に、セラミックシートに大きな負荷をかけずに搬送でき、品質のよいセラミック積層体を製造できる、セラミック積層体の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明にかかるセラミック積層体の製造装置は、表面上にセラミックシートが形成された成膜支持手段と、前記セラミックシートを間にして前記成膜支持手段と接触し、前記セラミックシートを成膜支持手段から剥離する剥離転写ロールと、前記セラミックシートを間にして前記剥離転写ロールと接触し、前記剥離転写ロールへ転写されたセラミックシートを前記剥離転写ロールから剥離すると共に、剥離したセラミックシートを積層することにより、前記セラミックシートの積層体を得る積層支持手段と、を備えるセラミック積層体の製造装置において、前記剥離転写ロールの少なくとも外周部を、前記セラミックシートに対する接着力が前記成膜支持手段よりも大きくない弾性体で構成し、前記成膜支持手段と前記剥離転写ロールとの接触位置に、前記弾性体によるせん断変形により吸収できる速度差を与えたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明にかかるセラミック積層体の製造方法は、成膜支持手段の表面にセラミックシートを形成する成膜形成工程と、前記成膜支持手段に対して前記セラミックシートを介して剥離転写ロールを接触させることにより前記セラミックシートを前記成膜支持手段から剥離し、剥離した前記セラミックシートを剥離転写ロールの外周へ転写する剥離転写工程と、前記剥離転写ロールに対して前記セラミックシートを介して積層支持手段を接触させることにより前記セラミックシートを前記剥離転写ロールから剥離し、剥離した前記セラミックシートを前記積層支持手段上に積層することによりセラミック積層体を形成する積層体形成工程と、を有するセラミック積層体の製造方法において、前記剥離転写ロールの少なくとも外周部を、前記セラミックシートに対する接着力が前記成膜支持手段よりも大きくない弾性体で構成し、前記成膜支持手段と前記剥離転写ロールとの接触位置に、前記弾性体によるせん断変形により吸収できる速度差を与えたことを特徴とするものである。ここで、「せん断変形」とは、弾性体の移動方向の変形のことである。弾性体が例えばロールの外周部に設けられている場合には、ロールの接線方向の変形のことを指す。
【0013】
成膜支持手段上に形成されたセラミックシートは、成膜支持手段と剥離転写ロールとの接触位置まで搬送される。剥離転写ロールの周速度と成膜支持手段上のセラミックシートの搬送速度とをずらし、かつ剥離転写ロールの少なくとも外周部を弾性体で構成することで、セラミックシートと成膜支持手段の界面にせん断力を作用させ、せん断剥離モードでセラミックシートを成膜支持手段から剥離できる。成膜支持手段と剥離転写ロールとの速度差は、剥離転写ロールの弾性体のせん断変形により吸収できる程度の差であるので、セラミックシートに皺や破断が発生することがない。
【0014】
成膜支持手段から剥離転写ロールに転写された後、再度、剥離転写ロールからセラミックシートを剥離する場合、剥離転写ロールが円筒状であるため、剥離モードは面剥離でなく線剥離である。剥離転写ロールの外周部に設けた弾性体は、セラミックシートに対する接着力が成膜支持手段よりも大きくないので、弾性体の接着力自体が小さく、剥離転写ロールから積層支持手段へセラミックシートを容易に転写できる。このようにして成膜支持手段から剥離転写ロールへ、さらに積層支持手段へとセラミックシートに負荷をかけずに転写できるので、これまで剥離が難しかった強度の低いセラミックシート(厚みが薄い、セラミックグリーンシート中の樹脂が少ない、セラミックグリーンシート中の樹脂の分子量が小さい)でも、剥離積層が可能である。そのため、高品質のセラミック積層体を得ることができる。
【0015】
剥離転写ロールの外周部に設けられる弾性体は、その表面が非粘着性で、かつセラミックシートの厚みより小さい表面粗さRaを有するものが望ましい。弾性体が粘着性を有する場合には、剥離転写ロールから積層支持手段へセラミックシートを転写しにくくなるからである。なお、非粘着性とは、セラミックシートに対して全く粘着性を有しない場合だけでなく、多少の粘着性を有してもよいが、成膜支持手段の粘着性より大きくない粘着力を有するものがよい。また、弾性体は所定の表面粗さRaを有するので、成膜支持手段上のセラミックシートと剥離転写ロールとが接触する部分では、セラミックシートが弾性体の表面の凹凸に沿って変形し、セラミックシートとの接触面積が増大した状態で剥離転写ロールに接着する。そのため、弾性体の表面が非粘着性であっても、成膜支持手段から剥離転写ロール上へセラミックシートを確実に転写できる。なお、凹凸はセラミックシートの厚みより小さいので、セラミックシートを必要以上に大きく変形させず、歪みの発生を防止できる。
【0016】
弾性体のせん断変形により吸収できる成膜支持手段と剥離転写ロールとの接触位置における速度差は、弾性体の厚み、弾性率、表面粗さによって変わる。以下のように、速度差の上限と下限とを決定できる。成膜支持手段より剥離転写ロールの速度が速い場合、速度差の上限は、シートが破断するかしないかにより決定できる。具体的には、速度差により発生する剥離転写ロールの弾性体の表面にかかるせん断力が、シートを破断させために必要な力(物性値)よりも大きくならないように設定すればよい。成膜支持手段より転写ロールの速度が遅い場合、速度の上限は剥離転写ロール上でシートに皺や弛みが大量に発生しないかにより決定できる。成膜支持手段より剥離転写ロールの速度が遅いと、剥離転写ロールにシートが過剰に供給され、剥離転写ロール上での行き場を失って剥離転写ロール上でシートに皺や弛みが発生する。このような皺や弛みは、せん断方向のシートの圧縮によりある程度は吸収できるが、それ以上になれば吸収しにくい。そこで、たとえばシートの圧縮率が1〜3%の範囲となるように速度差を設定すれば、シートの皺や弛みを許容できる。速度差の下限は、成膜支持手段から正常にシートを剥離できるかにより決定できる。具体的には、剥離転写ロールの弾性体の表面にかかるせん断力が、成膜支持手段上のシートの剥離力(剥離角度0°のときの値)よりも大きくなるように設定すればシートを剥離できる。
【0017】
一例として、成膜支持手段と剥離転写ロールとの接触位置における速度差を、成膜支持手段の接触位置における速度に対して±1〜3%の範囲としてもよい。弾性体の厚みを大きくすれば、それだけ弾性体のせん断変形により速度差の吸収範囲が広くなるが、弾性体の厚みをあまり大きくすると、成膜支持手段と剥離転写ロールとの接触位置における弾性体の変形量が大きくなり、セラミックシートと弾性体の表面との接触面積が増大してセラミックシートと剥離転写ロールとの接着力が過大になる。そのため、セラミックシートを積層支持手段へ良好に転写できない可能性がある。そこで、弾性体の厚みを適度な厚みとするために、成膜支持手段と剥離転写ロールとの速度差を±1〜3%とするのが望ましい。
【0018】
成膜支持手段は、その外周面上に成膜装置によりセラミックスラリーが直接塗布され、かつセラミックスラリーが乾燥されてセラミックシートが形成される成膜ロールとしてもよい。この場合は、成膜ロールも剥離転写ロールも円筒形であるから、剥離モードが線剥離となり、比較的小さな力で剥離できる。しかも、キャリアフィルムを使用せずにセラミックシートを連続成膜できるので、キャリアフィルムの延びの影響がなく、かつ製造コストを低減できる利点がある。
【0019】
成膜支持手段は、連続状のキャリアフィルムと、このキャリアフィルムの内周面を支持するガイドロールとを含み、セラミックシートはキャリアフィルムの外周面上に形成され、ガイドロールと剥離転写ロールとがキャリアフィルムを間にして接触し、ガイドロールの周速と剥離転写ロールの周速とに弾性体によるせん断変形により吸収できる速度差を与えてもよい。この場合は、キャリアフィルム上に予めセラミックシートを形成しておくことができるので、ガイドロールの周囲に成膜装置や乾燥装置を配置する必要がなく、装置を簡素化できる。なお、キャリアフィルム上にセラミックシートだけでなく、そのシート上に電極パターンを予め形成しておくこともできる。この場合には、積層支持手段の周囲に電極形成装置や乾燥装置を設ける必要がない。
【0020】
積層支持手段としては、積層ロールでもよいし、平板状の積層支持板であってもよい。積層ロールを使用した場合には、その外周面にセラミック積層体を連続的に形成できるので、間欠的な積層方法に比べて品質及び量産性が向上する利点がある。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、剥離転写ロールの少なくとも外周部を弾性体で構成し、成膜支持手段と剥離転写ロールとの接触部の間に所定の速度差を与えたので、セラミックシートに皺や破断を発生させずにセラミックシートを成膜支持手段から剥離でき、剥離転写ロールから積層支持手段への転写も良好に行うことができる。その結果、高品質なセラミック積層体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明にかかるセラミック積層体の製造装置の複数の実施例を図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本発明の対象としているセラミック積層体には、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層型電子部品を製造するための積層体ブロックなどが含まれる。
【0024】
[第1実施例]
図1に示す製造装置10は、成膜ロール12と、剥離転写ロール14と、積層ロール16とを含む。成膜ロール12は、その外周面にセラミックシートSを形成するための金属などの剛体ロール(円柱状あるいは円筒状)であり、その外周面には例えばフッ素系樹脂コーティングなどの離型処理が施されている。
【0025】
成膜ロール12の周囲には、成膜ロール12の外周面にセラミックシート(セラミックグリーンシート)Sの材料になるセラミックスラリーを塗布するための成膜装置20と、成膜ロール12上のセラミックスラリーを乾燥させるための乾燥装置21とが配置されている。成膜装置20としては、例えばダイコータ、ドクターブレード、ロールコータ、インクジェット型コータなどを適宜用いることができる。成膜装置20から成膜ロール12上に連続的にセラミックスラリーを塗布することで、薄膜(例えば厚みが10μm以下)のセラミックシートSを形成できる。セラミックスラリーは、セラミック粉末に樹脂成分を添加し、有機溶媒(水系溶媒でもよい)で溶解分散したスラリーである。乾燥装置21としては、熱風により乾燥する方法、成膜ロール12の外周面を加熱する方法、真空乾燥法などが採用されるが、溶媒の性質に応じてスラリーを乾燥させる手段であれば、任意に選択可能である。
【0026】
剥離転写ロール14は、金属ロール14aの外周部全周に所定厚みの弾性体14bを固定したロールであり、その直径(弾性体14bの外径)は成膜ロール12の直径より小さい。弾性体14bの外周面14b
1は非粘着性であり、セラミックシートSの厚みより小さい表面粗さRaを有している。表面粗さRaは、好ましくは0.03〜3μmが望ましい。弾性体14bの厚みは、セラミックシートSの厚みより大きく、例えば30〜100μmが望ましい。弾性体14bは、例えば硬度が20〜80°(ショア硬度:JIS K 6253:2006)の弾性材料で形成されているのが望ましい。剥離転写ロール14は、図示しない圧力付与機構により、成膜ロール12及び積層ロール16に対して所定の圧力で押し付けられている。なお、積層ロール16上にセラミックシートSが積層されるに従い積層ロール16の直径が増大するので、それに応じて剥離転写ロール14の位置や圧力を調整できるように構成するのが望ましい。
【0027】
積層ロール16は、剥離転写ロール14から剥離したセラミックシートSを巻き取ってセラミック積層体を形成するロールである。積層ロール16の直径は剥離転写ロール14の直径より大きい。積層ロール16は、回転軸に対して脱着可能な金属製の円筒治具16aを備えており、その円筒治具16aの外周面上にセラミックシートSを巻き付けることができる。積層ロール16で巻き取られたセラミックシートSは、重なり合うシート層同士が圧着されて互いに保持し合う。この保持力は、剥離転写ロール14がセラミックシートSを保持する力より大きく設定されているため、セラミックシートSは剥離転写ロール14から剥離されて積層ロール16へ転写される。なお、積層ロール16としてサクションロールや粘着ロールを使用してもよい。
【0028】
積層ロール16の周囲には、積層ロール16の表面に巻き付けられたセラミックシートSに電極パターンを形成するための電極印刷装置22と、電極パターンを乾燥させるための乾燥装置23とが配置されている。電極印刷装置22としては、例えばグラビアオフセット印刷機やインクジェット印刷機のような印刷装置を使用できる。乾燥装置23としては、乾燥装置21と同様な装置を用いることができる。
【0029】
積層ロール16上にセラミックシートSを所定枚数だけ積層した後、積層ロール16の巻き取りを停止し、セラミック積層体を円筒治具16aと共に回転軸から取り外す。そして、円筒形状のまま加圧プレスを行うか、又は円筒治具から分離した後加圧プレスを行い、ダイサーカットによりセラミック積層体を所定の大きさにカットする。その後、焼成工程、外部電極形成工程を経て、積層型電子部品を完成する。
【0030】
図2に示すように、成膜ロール12、剥離転写ロール14、及び積層ロール16は、それぞれ個別の駆動装置30、31、32によって矢印方向に回転駆動される。駆動装置30〜32にはそれぞれ回転速度センサ30a〜32aが内蔵されており、各ロールの回転速度(ロールの周速度)を検出し、所望の回転速度に調整することが可能である。なお、
図2では、成膜ロール12、剥離転写ロール14、積層ロール16だけを示し、他の装置は省略した。
図2では、全てのロール12、14、16が個別の駆動装置30、31、32を備える例を示したが、共通の駆動装置を使用し、ギヤやベルトなどの伝動機構を介してロール12、14、16を所定の回転速度比で同期回転させるようにしてもよい。
【0031】
本実施例では、セラミックシートSを成膜ロール12から剥離転写ロール14へ確実に転写するために、成膜ロール12にセラミックシートSとの接着力をできるだけ低くする離型処理を施すと共に、剥離転写ロール14の外周部に非粘着性でかつ所定の表面粗さRaを有する弾性体14bを設け、成膜ロール12と剥離転写ロール14との接触位置に弾性体14bのせん断変形により吸収できる速度差を与えるよう、駆動装置30、31の速度を調整してある。せん断変形とは、弾性体14bの移動方向の弾性変形、つまり接線方向の弾性変形をさす。なお、剥離転写ロール14と積層ロール16との間に周速差がないように、駆動装置31、32の速度を設定している。
【0032】
例えば、接触位置にある成膜ロール12の周速度をV1、剥離転写ロール14の周速度をV2とし、弾性体14bによるせん断変形により吸収できる最大速度差をαとすると、
V1≠V2、でかつ|V1−V2|≦α
となるように設定されている。
【0033】
好ましくは、αの値は、
α=(0.01〜0.03)×V1
とするのがよい。
【0034】
ここで、成膜ロール12から剥離転写ロール14へのセラミックシートSの転写メカニズムについて説明する。成膜ロール12上で乾燥されたセラミックシートSは、成膜ロール12と剥離転写ロール14との接触位置へ運ばれ、ここで両方のロールの間で挟まれる。成膜ロール12の周速度(セラミックシートSの搬送速度)と剥離転写ロール14の周速度とが異なるので、セラミックシートSと成膜ロール12の界面にせん断力が作用し、せん断剥離モードでセラミックシートSは成膜ロール12から剥離される。成膜ロール12と剥離転写ロール14との周速差は、弾性体14bのせん断変形により吸収できる速度差であるから、セラミックシートSに皺や破断が発生することがない。さらに、本実施例では成膜ロール12上のセラミックシートSと剥離転写ロール14が接触する部分で、セラミックシートSが剥離転写ロール14の弾性体14bの表面の凹凸に沿って変形するので、セラミックシートSとの接触面積が増大した状態で剥離転写ロール14に接着する。そのため、単位面積当たりのセラミックシートSと弾性体14bの接着力が微小でも(弾性体14bが粘着性を有しなくても)、剥離転写ロール14上にセラミックシートSを確実に保持できる。
【0035】
再度、剥離転写ロール14からセラミックシートSを剥離して積層ロール16へ転写する場合、剥離転写ロール14と積層ロール16とが共に円筒状であるため、剥離モードは面剥離でなく線剥離であり、しかも剥離転写ロール14と積層ロール16との周速差が0となるように設定されている。弾性体14bは粘着性を有しないので、単位面積当たりのセラミックシートSと弾性体14bの接着力は小さく、これに比べて積層ロール16上に積層されたセラミックシートSとの接着力は十分に大きいので、セラミックシートSを剥離転写ロール14から積層ロール16へ確実に転写できる。積層ロール16への転写の際、セラミックシートS同士の接着力を高めるために、積層ロール16の外周面を所定の温度になるように温度調整してもよい。
【0036】
図1の構成で、成膜ロール12と剥離転写ロール14の周速度差を変化させた際の成膜ロール12からのセラミックシートSの剥離状態を表1に記す。但し、以下の条件で実験した。
成膜ロールロール:φ200mmの金属ロール
剥離転写ロール :表面に弾性体を取り付けたφ150mmの金属ロール
弾性体の表面粗さ:Ra=1μm
弾性体の厚み :100μm
弾性体の硬度 :55°(ショア硬度)
【0038】
成膜ロール12より剥離転写ロール14の周速が5%遅い条件では、剥離転写ロール14に転写したセラミックシートSに皺が発生した。成膜ロール12より剥離転写ロール14の周速が3%遅い条件〜3%速い条件では、剥離転写ロール14に転写したセラミックシートSの外観不良は無かった。成膜ロール12より剥離転写ロール14の周速が5%速い条件では、セラミックシートSが数mmピッチでロール軸方向に破断されながら、剥離転写ロール14に転写された。
【0039】
表1の結果について検討すると、以下の通りである。剥離転写ロール14の回転速度とセラミックシートSの搬送速度をずらす事で、セラミックシートSと成膜ロール12の界面にせん断力がかかり、せん断剥離モードでセラミックシートSを剥離できた。剥離転写ロール14の周速が遅過ぎると、成膜ロール12と剥離転写ロール14の周速差を剥離転写ロール14表面の弾性体14bで吸収しきれず、供給過多となったセラミックシートSが皺となって剥離転写ロール14上に現われた。剥離転写ロール14の周速が速過ぎると、剥離転写ロール14のせん断変形量がセラミックシートSの破断強度を上回り、セラミックシートSが破断した。以上のことから、上述した条件下では、成膜ロール12の周速度V1と剥離転写ロール14の周速度V2との差を、周速度V1の1%〜3%の範囲とするのが望ましい。
【0040】
第1実施例の製造装置の場合、成膜ロール12から剥離転写ロール14への転写を、剥離転写ロール14の外周に設けた弾性体14bと両ロール間の周速差とによって達成するので、従来では剥離が難しかった低強度のセラミックシートでも良好に剥離・転写することができる。また、セラミックシートSが成膜ロール12から剥離され、剥離転写ロール14を経て積層ロール16に巻き付けられてセラミック積層体が形成されているときに、成膜ロール12には新たなセラミックシートSが形成され続けるため、成膜ロール12におけるセラミックシートSの形成と、積層ロール16におけるセラミック積層体の形成とが同時に実行される。これにより、成膜ロール12の回転駆動を一旦停止することなく、連続的にセラミックシートSを形成することができ、また、積層ロール16の回転駆動を一旦停止することなく、連続的にセラミック積層体を製造することができる。このように、連続運転にてセラミック積層体を形成することができるため、間欠的な成膜方法に比べて膜厚の均一性が良好になり、品質及び量産性が向上する。さらに、キャリアフイルムを使用せずに成膜、積層できるので、製造コストを低減できる。
【0041】
なお、第1実施例では、弾性体14bの表面が非粘着性であり、かつその表面にセラミックシートSの厚みより小さい表面粗さRaを有する例について説明したが、これに限るものではない。例えば、弾性体14bのセラミックシートSに対する粘着力を、成膜ロール12のセラミックシートSに対する粘着力と同等又はそれより小さい粘着力としてもよい。
【0042】
[第2実施例]
図3は、本発明の第2実施例にかかる製造装置を示す。なお、第1実施例と同じ又は共通する機能を有する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0043】
第2実施例では、成膜支持手段を、連続状のキャリアフィルムFと、このキャリアフィルムFの内周面を支持するガイドロール40とで構成し、キャリアフィルムFを間にしてガイドロール40と剥離転写ロール14とを圧接させたものである。キャリアフィルムFの外周面には離型処理が施され、その外周面にはセラミックシート(グリーンシート)Sおよびその上に電極パターン(図示せず)が予め形成されている。キャリアフィルムF上へのセラミックシートSの形成、及び電極パターンの形成は、公知のようにセラミックスラリーを塗布、乾燥させた後、そのセラミックシート上に電極パターンを印刷、乾燥させることにより形成できる。
【0044】
セラミックシートS及び電極パターンを形成したキャリアフィルムFは供給ロール41から連続的に供給され、このキャリアフィルムFがガイドロール40と剥離転写ロール14との間を通過することで、キャリアフィルムFから電極パターンを有するセラミックシートSが剥離され、キャリアフィルムFのみが巻取ロール42へ巻き取られる。
【0045】
ガイドロール40としては、キャリアフィルムFとの間で相対ずれが発生しないように、サクションロールや粘着ロールなどの公知のロールを用いても良い。剥離転写ロール14の構成は第1実施例と同様である。積層ロール16の周囲には、電極印刷装置22や乾燥装置23は設けられていない。
【0046】
なお、上述のようにキャリアフィルムF上にセラミックシートSと電極パターンとが形成された状態で供給してもよいが、キャリアフィルムF上にセラミックシートSのみを形成しておいてもよい。この場合には、第1実施例と同様に、積層ロール16上にセラミックシートSを積層した後で電極パターンを形成してもよい。
【0047】
ガイドロール40の周速度と剥離転写ロール14の周速度との間に、剥離転写ロール14の外周部に設けた弾性体14bのせん断変形により吸収可能な速度差を与えてある。セラミックシートSを形成したキャリアフィルムFがガイドロール40と剥離転写ロール14との接触位置へ搬送されたとき、キャリアフィルムFはガイドロール40と一体に移動するので、ガイドロール40と剥離転写ロール14との周速差によって、セラミックシートSとキャリアフィルムFとの界面にせん断力が作用する。セラミックシートSと剥離転写ロール14とが接触する部分では、セラミックシートSが弾性体14bの表面の凹凸に沿って変形するので、セラミックシートSとの接触面積が増大した状態で剥離転写ロール14に接着する。そのため、せん断剥離モードでセラミックシートSはキャリアフィルムFから剥離され、剥離転写ロール14上にセラミックシートSを確実に保持できる。ガイドロール40と剥離転写ロール14との周速差は、弾性体14bのせん断変形により吸収できる速度差であるから、セラミックシートSに皺や破断が発生することがない。
【0048】
剥離転写ロールに弾性体を使用した第2実施例の構成と、剥離転写ロールに剛体吸引機構(サクションロール)を使用した構成とを比較し、ガイドロール上のキャリアフィルムからの剥離が可能なセラミックグリーンシートの厚みを調べた。実験結果を表2に記す。
【0050】
表2の結果から、剥離転写ロールに吸引機構よりも弾性体を形成した方が、より薄いセラミックシートを剥離できることがわかる。その理由は以下のようなものと考えられる。剥離転写ロールが吸引機構を有する場合、吸引穴間のセラミックグリーンシートは一切保持されていない。セラミックグリーンシートの強度がキャリアフィルムからの剥離強度より小さいと、吸引穴間のセラミックグリーンシートは変形し、セラミックグリーンシートの破断伸びを超えると破断する。一方、剥離転写ロールの表面に弾性体を形成した場合、セラミックグリーンシート全体が弾性体に接しており、セラミックグリーンシートの一部が大きく変形することは無い。よって、厚みの薄いセラミックグリーンシートが剥離中に破断されることなく、キャリアフィルムから剥離できる。なお、本実施例のように、剥離転写ロール14によってキャリアフィルムFからセラミックシートSを連続的に剥離すれば、キャリアフィルムFにカット痕などのキズがつかないため、次回のセラミック積層体の製造工程などにキャリアフィルムFを再利用することが可能になる。
【0051】
[第3実施例]
図4は、本発明の第3実施例にかかる製造装置を示す。なお、第2実施例と同じ又は共通する機能を有する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
第3実施例では、成膜支持手段を、第2実施例と同様にキャリアフィルムFと、このキャリアフィルムFを支持するガイドロール40とで構成すると共に、積層支持手段を平板状の積層支持板50で構成したものである。積層支持板50は、剥離転写ロール14との接触位置における速度が同じになるように、図示しない駆動装置によって直進駆動される。
【0053】
この実施例では、第2実施例の作動に加えて、剥離転写ロール14から積層支持板50へセラミックシートSの転写が行われる。剥離転写ロール14とセラミックシートSとの単位面積当りの保持力に比べて、積層支持板50上のセラミックシートS同士の単位面積当りの接着力の方が大きいので、セラミックシートSは皺や破断を起こすことなく積層支持板50へ円滑に転写される。積層支持板50上に積層されたセラミック積層体は加圧プレスの後、所定の大きさにカットされ、焼成工程、外部電極形成工程を経て、積層型電子部品が完成する。
【0054】
この実施例では、セラミックシートSを積層支持板50に1回積層した後、積層支持板50を元の位置に戻すために、ガイドロール40及び剥離転写ロール14を間欠的に停止させ、積層支持板50と剥離転写ロール14との接触状態を解除する必要がある。
【0055】
[第4実施例]
図5は、本発明の第4実施例にかかる製造装置を示す。なお、第2実施例と同じ又は共通する機能を有する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0056】
第4実施例では、成膜支持手段を、第2実施例と同様にキャリアフィルムFと、このキャリアフィルムFを支持するガイドロール40とで構成し、積層支持手段を平板状の積層支持板50で構成すると共に、剥離転写ロール60を非円形断面形状としている。ここでは、剥離転写ロール60の断面形状は、例えば円筒形ロールの外周の一部がカットされた半月形状とされている。剥離転写ロール60の円筒状外周面には弾性体61が固定されている。この弾性体61も、第1実施例と同様に、表面が非粘着性で、かつ所定の表面粗さRaを有するものがよい。この実施例の場合も、積層支持板50は、剥離転写ロール60との接触部における速度が同じになるように直進駆動される。
【0057】
剥離転写ロール60の周長(欠損部を除く)と積層支持板50の長さとをほぼ等しくしておくことで、積層支持板50の長さ分だけセラミックシートSを積層したあと、剥離転写ロール60の欠損部が積層支持板50と対応し、剥離転写ロール60と積層支持板50とが一時的に非接触状態となるため、その間に積層支持板50を元の位置に戻すことができる。この場合には、ガイドロール40と剥離転写ロール60とを連続回転させることが可能になる。
【0058】
[第5実施例]
図6は、本発明の第5実施例にかかる製造装置を示す。なお、第2実施例と同じ又は共通する機能を有する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0059】
第5実施例では、成膜支持手段を、第2実施例と同様にキャリアフィルムFと、このキャリアフィルムFを支持するガイドロール40とで構成し、積層支持手段をサクションロール51と平板状の積層支持板50とで構成している。剥離転写ロール14は外周に弾性体14bを有する断面円形ロールである。
【0060】
この実施例では、セラミックシートSを有するキャリアフィルムFが間欠で供給され、剥離転写ロール14にセラミックシートSを転写した後、再度、表面に吸引機構を有するサクションロール51にセラミックシートSを転写し、さらに積層支持板50にセラミックシートSを転写し、積層する。積層後の積層支持板50は、再度、積層前の位置に戻り、次層の積層を行う。
【0061】
第1〜3実施例において、剥離転写ロール14から積層ロール16又は積層支持板50にセラミックシートSを転写する場合、セラミックシートSと剥離転写ロール14の弾性体14bとの接着力が、セラミック積層体とセラミックシートSとの接着力を低下させる方向に作用する。そのため、剥離転写ロール14と積層ロール16又は積層支持板50との面圧を高くする必要が生じる。サクションロール51を用いる場合には、積層支持板50への転写部分においてサクションロール51の吸引圧を抑える(又は逆に加圧する)ことができるので、セラミック積層体とセラミックシートSとの接着力の低下をなくせる。そのため、低い面圧でセラミックシートSを積層できる。低い面圧で積層できる方が、積層中のセラミック積層体の変形を抑制できる利点がある。
【0062】
本発明は前記のような実施例に限定されるものではない。第1〜第5実施例における一部の要素を、別の実施例の要素に置換することで、新たな実施例を構成することもできる。例えば、第3、第4実施例(
図4、
図5)では、キャリアフィルムFを用いた成膜支持手段と平板状の積層支持板50とを組合せたが、第1実施例のような成膜ロール12と平板状の積層支持板50とを組み合わせて使用してもよい。