(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記管は、前記加工液供給口からの距離に従った間隔で設けられた供給口であって、前記加工液供給口からの距離に応じた大きさの供給口が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のワイヤ放電加工装置。
前記管は、前記加工液供給口からの距離が遠くなるに従って、前記供給口の数は多く、かつ、前記供給口の大きさが小さくなるように前記供給口が設けられていることを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置。
前記流速低下機構は、前記加工液槽に供給される加工液の水流を分散して前記加工液を前記加工液槽に供給することで、前記加工液槽に供給される加工液の流速を低下させる機構であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のワイヤ放電加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を好適な実施形態に従って詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るマルチワイヤ放電加工装置1を前方から見た外観図である。尚、
図1に示す各機構の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。
【0017】
本発明の実施の形態に係るマルチワイヤ放電加工システムは、マルチワイヤ放電加工装置1、電源ユニット(電源装置)15、加工液供給装置18から構成されている。
【0018】
マルチワイヤ放電加工システムは、放電により、並設された複数本のワイヤ7(ワイヤ電極)の間隔で被加工物(
図1の例では、シリコンインゴット5)を薄片にスライスすることができる。
【0019】
マルチワイヤ放電加工装置1は、電源ユニット15と電線(電圧印加線)を介して接続されており、電源ユニット15から供給される電力により作動する。
【0020】
マルチワイヤ放電加工装置1は、不図示のサーボモータにより駆動されるワーク送り装置3が上下方向に移動することにより、ワーク送り装置3に接着剤(接着部4の接着剤)により接着されているワーク(ワークは、被加工物を示し、
図1の例ではシリコンインゴット5である)を上下方向に移動することができる。
【0021】
また、マルチワイヤ放電加工装置1は、本発明のワイヤ放電加工装置の適用例であり、ワイヤと被加工物との間で発生する放電により被加工物を加工する。
【0022】
本発明の実施の形態では、シリコンインゴット5が下方向に移動することで、シリコンインゴット5とワイヤ7とが接近し、シリコンインゴット5とワイヤ7との間で放電が発生し、シリコンインゴット5の放電加工を行う。このとき、シリコンインゴット5とワイヤ7との間の空間(放電ギャップ(シリコンインゴット5とワイヤ7との間の隙間))には加工液が満たされており、この加工液が所定幅の電気抵抗値を有していることから、シリコンインゴット5とワイヤ7との間で放電が発生し、シリコンインゴット5の放電加工を行うことができる。すなわち、加工液は、加工物とワイヤとの間の放電に必要な電気抵抗の材料として用いられる加工液である。
【0023】
また、ワーク送り装置3をワイヤ7よりも下部へ設け、シリコンインゴット5を上方向へ移動させることにより、シリコンインゴット5とワイヤ7との間で放電加工を行わせるようにすることも可能である。
【0024】
本実施の形態では、被加工物の一例としてシリコンインゴット5を用いて説明するが、SIC(炭化シリコン)などの、絶縁体ではない他の材料(導体又は半導体)を用いることもできる。
【0025】
マルチワイヤ放電加工装置1は、
図1に示すように、マルチワイヤ放電加工装置1の土台として機能するブロック19と、ブロック19の上部の装置内に設置されている、ブロック2と、ワーク送り装置3と、接着部4と、シリコンインゴット5と、加工液槽6と、メインローラ8と、ワイヤ7と、メインローラ9と、給電ユニット10と、給電子11と、囲い板12と、給水部13と、整流板14と、流束分散制御機構801とを備えている。
【0026】
流束分散制御機構801は、本発明の分散機構の適用例であり、加工液供給装置18により加工液槽6に供給される加工液の水流を分散して加工液を加工液槽6に供給する機構である。
【0027】
すなわち、流束分散制御機構801は、本発明の流速低下機構の適用例であり、加工液槽に供給される加工液の水流を分散して加工液を加工液槽に供給することで、加工液槽に供給される加工液の流速を低下させる機構である。
【0028】
15は、電源ユニット(電源装置)であり、2には、サーボモータを制御する放電サーボ制御回路が放電の状態に応じて効率よく放電を発生させるために放電ギャップを一定の隙間に保つように制御し、またワークの位置決めを行い、放電加工を進行させる。
【0029】
18は、加工液供給装置であり、放電加工部の冷却、加工チップ(屑)の除去に必要な加工液をポンプによりシリコンインゴット5とワイヤ7へ送液すると共に、加工液中の加工チップの除去、イオン交換樹脂による比抵抗または電導度(1μS〜250μS)の管理、液温(20℃付近)の管理を行う。加工液には、主に水が使用されるが、放電加工油を用いることもできる。本実施の形態では、加工液の例として水を用いるが、放電加工油でもよい。
【0030】
8,9はメインローラであり、メインローラには、所望する厚さで加工出来るようにあらかじめ決められたピッチ、数で溝が形成されており、ワイヤ供給ボビンからの張力制御されたワイヤが2つのメインローラに必要数巻きつけられ、巻き取りボビンへ送られる。ワイヤ速度は100m/minから900m/min程度が用いられる。
【0031】
メインローラ9は、本発明のガイドローラの適用例であり、メインローラ9が回転することによりメインローラ9に巻きつけられたワイヤ7を走行させる。
【0032】
2つのメインローラが同じ方向でかつ同じ速度で連動して回転することにより、ワイヤ繰出し部から送られた1本のワイヤ7がメインローラ(2つ)の外周を周回し、並設されている複数本のワイヤ7を同一方向に走行させることができる。
【0033】
ワイヤ7は、1本の繋がったワイヤであり、図示しないボビンから繰り出され、メインローラ8、9の外周面のガイド溝(図示しない)に嵌め込まれながら、当該メインローラの外側に多数回(最大で2000回程度)螺旋状に巻回された後、図示しないボビンに巻き取られる。
【0034】
加工液槽6は、所定の範囲の比抵抗(電気伝導度)に管理されたイオン交換水を、並設されたワイヤ7(ワイヤ電極とも言う)とシリコンインゴット5とが近接する放電ギャップの位置(放電点)に加工液として供給している。
【0035】
加工液槽6は、本発明の加工液槽の適用例であり、被加工物とワイヤとの間で放電加工されるために用いられる加工液が貯留される。
【0036】
すなわち、加工液槽6は、被加工物とワイヤとの間の放電に用いられる加工液が貯留される加工液槽であって、被加工物とワイヤとの間に加工液槽内の加工液が位置するように設けられている。
【0037】
給水部13から噴射される冷却水の比抵抗は、イオン交換水(加工液)の比抵抗とほぼ等しく、冷却水の比抵抗も加工液と同様にイオン交換樹脂により管理されている。これは冷却水と加工液が混ざっても放電に影響をあたえないためである。
【0038】
すなわち、給水部13から噴射される冷却水は、メインローラ8、9、ワイヤ7を冷却する加工液である。
【0039】
また、給水部13から噴射される加工液は、加工液槽6に貯留されている加工液と同一、又はほぼ同一の比抵抗を有する加工液である。
【0040】
また、整流板14は、給水部13から噴射される加工液を、走行しているワイヤ7により、加工液槽6に流し込むための機構である。整流板14の構成については、後で詳しく説明する。
【0041】
また、囲い板12は、加工液槽6、及びワイヤ7の上部に設けられており、加工液槽6内に流入する加工液の界面(液面)がワイヤ7よりも高い位置になるように、ワークの周りを囲っている、囲い板12を用いることで、加工液の水位がワイヤ7よりも高くすることが可能となる。
【0042】
囲い板12は、本発明の流出抑制板の適用例であり、加工液槽よりも上部に設けられ、加工液槽内に貯留される加工液の当該加工液槽からの流出を抑制する。また、流出抑制板と加工液槽との間の隙間には、走行するワイヤが設けられている。
【0043】
図3に示す囲い板12は、加工液槽6の縁上に設けられているが、加工液槽6の縁の直上ではなく、加工液槽6の内側、又は外側に設けるようにすることもできる。
【0044】
また、
図3に示す流出抑制板は、加工液槽6内の加工液を囲むように構成されているが、少なくとも、被加工物に対してワイヤの走行方向側に設けることで、加工液槽6内の加工液が、ワイヤが走行している方向に運び出され加工液槽6の外に運び出されるのを防ぎ、ワークとワイヤとの間の隙間(放電ギャップ)に、放電加工に必要な加工液の水量を確保することができるようになる。
【0045】
流出抑制板は、被加工物に対してワイヤの走行方向側の加工液槽の縁よりも上部に設けられている。
【0046】
また、加工液槽6の内部には、加工液供給口701からの水流を制御するための流束分散制御機構801を備えている。
【0047】
加工液槽6内への加工液の供給は、加工液槽6の下部に備えられた加工液供給部(加工液供給口701を加工液供給部とも言う。)から行われる。そのため、加工液供給部から供給された加工液が、ワイヤ7の下部から直接、ワイヤ7にあたり、その加工液の水流によりワイヤの間隔が変動してしまい(ワイヤがぶれてしまい)、被加工物を均一に加工することが難しくなるおそれがある。
【0048】
そのため、
図9を用いて、後で説明するが、加工水の水流による被加工物の加工の不均一性の増大を抑えるために、加工液供給部から供給された加工液が、ワイヤ7の下部から直接、ワイヤ7にあたらないようにするための流束分散制御機構801を、加工液槽6内に設けている。
【0049】
流束分散制御機構801についての詳細は、
図9を用いて、後で説明する。
【0051】
図2は、
図1に示す点線16枠内の拡大図である。
【0052】
ブロック2は、ワーク送り装置3と接合されている。また、ワーク送り装置3は、シリコンインゴット5(ワーク)と接着部4により接着(接合)されている。
【0053】
本実施例では、被加工材料(ワーク)として、シリコンインゴット5を例に説明する。
【0054】
接着部4は、ワーク送り装置3と、シリコンインゴット5(ワーク)とを接着(接合)するためのものであれば何でもよく、例えば、導電性接着剤が用いられる。
【0055】
ワーク送り装置3は、接着部4により接着(接合)されているシリコンインゴット5を上下方向に移動する機構を備えた装置であり、ワーク送り装置3が下方向に移動することにより、シリコンインゴット5をワイヤ7に近づけることが可能となる。
【0056】
加工液槽6は、加工液を溜めるための容器である。加工液は、例えば、抵抗値が高い脱イオン水である。ワイヤ7と、シリコンインゴット5との間に、加工液が設けられることにより、ワイヤ7と、シリコンインゴット5との間で放電が発生し、シリコンインゴット5を削ることが可能となる。
【0057】
また、
図1でも説明したが、マルチワイヤ放電加工装置1は、加工液槽6の上部に囲い板12を備えている。
【0058】
囲い板12は、放電発生部である、ワークとワイヤとの間(放電ギャップ)に、放電加工に必要な加工液の量を確保するために備えている。
【0059】
囲い板12は、本発明の囲い板であり、加工液槽6の上部に設けられ、加工液槽6内に貯留される加工液の水位をワイヤ7よりも上位になるように貯留し、ワイヤが走行することによる、加工液槽内の加工液の加工漕外への流出量を減らすように機能する。
【0060】
また、囲い板12と加工液槽6との間には、隙間があり、その隙間を走行するワイヤが設けられている。
【0061】
囲い板12についての詳細は、
図3、
図4、
図5を用いて、後で説明する。
【0062】
図2に示すように、加工液槽6の上部に囲い板12が設けられ、更に、給水部13から加工液がメインローラ9、及び/又は、加工液槽6又は囲い板12との間のワイヤ7に、噴射され、当該噴射された加工液が、整流板14を通り加工液槽6内に貯留される。このようにして加工液槽6内に貯留される加工液の水位がワイヤ7よりも上位になるように貯留することができ、ワイヤが走行することによる、加工液槽内の加工液の加工漕外への流出量を減らすことができる。
【0063】
これにより、放電発生部である、ワークとワイヤとの間(放電ギャップ)に、放電加工に必要な加工液の量を確保することが出来るようになり、放電加工を安定して行うことができ被加工物への欠陥の発生を防ぐことが可能となる。
【0064】
図2に示すように、マルチワイヤ放電加工装置1は、整流板14と給水部13を備えている。
【0065】
給水部13は、加工液を、メインローラ9の上部でありメインローラ9に巻きつけられたワイヤの上部、及び/又はメインローラ9と加工液槽6との間のワイヤの上部に流すように、これらの上部に配置されている。
【0066】
給水部13は、本発明の給水機構の適用例であり、メインローラ9と加工液槽との間で走行するワイヤ、及び/又はメインローラ9に加工液を噴射する。
【0067】
この給水機構は、ワイヤ7の走行方向とは逆方向に設けられたメインローラ9と加工液槽6との間のワイヤ7、及び/又はメインローラ9に加工液を噴射する。
【0068】
また、給水機構は、ワイヤ7の走行方向とは逆方向に設けられたメインローラ9と加工液槽6との間のワイヤ7、及び/又はメインローラ9よりも上部に設けられている。
【0069】
給水部13は、ワイヤ7に給電されている場合にワイヤ電極(ワイヤ7)から発する熱から、メインローラ9を保護するために、メインローラ9の上部でかつ、メインローラ9に巻きつけられたワイヤの上部に、冷却水としての加工液を噴射する。
【0070】
ここでは、ワーク(シリコンインゴット5)とワイヤ7との間の隙間に、放電加工に必要な加工液の量を確保するために、この冷却水としての加工液を利用する。そのために、整流板14を設けて、メインローラ9を伝わってきた冷却用の加工液を加工液槽6に運ぶように構成している。これにより、ワイヤの静止状態からワイヤの走行状態まで放電加工に必要な加工液槽6内の加工液量の確保が可能となる。
【0071】
例えば、給水部13からの加工液の噴射を行わず、ワイヤを走行した場合、囲い板12と加工液槽6との間の隙間を走行しているワイヤにより、空気が加工液槽6内に大量に入り込むこと共に、囲い板12と加工液槽6との間の隙間から、加工液槽6内の加工液が漏れ出し加工液槽6内の水位が低下してしまうおそれがある。
【0072】
このような課題を解消するために、マルチワイヤ放電加工装置1は、整流板14と給水部13を備えている。
【0073】
メインローラ8、9(ガイドローラとも言う)には、ワイヤ7を取り付けるための溝が複数列形成されており、その溝にワイヤ7が取り付けられている。そして、メインローラ8、9が右又は左回転することにより、ワイヤ7が走行する。
【0074】
メインローラにワイヤ7が複数回巻きつけられており、メインローラに刻まれた溝に従い、所定ピッチでワイヤ7が整列している。
【0075】
メインローラ8、9は中心に金属を使用し、外側は樹脂で覆う構造である。
【0076】
給電子11は、機械的摩耗に強く、導電性があることが要求され超硬合金が使用されている。
【0077】
メインローラの間の中央部の上部に、シリコンインゴット5が配置され、シリコンインゴット5はワーク送り装置3に取付けられており、ワーク送り装置3が上下方向に移動することにより、シリコンインゴット5が上下方向に移動し、シリコンインゴット5の加工を行う。
【0078】
また、メインローラ間の中央部に加工液槽6を設け、ワイヤ7およびシリコンインゴット5を浸漬し、放電加工部の冷却、加工チップの除去を行う。
【0079】
ワイヤ7は、
図2に示すように、メインローラ8、9に取り付けられ、メインローラ8、9の上側、及び下側にワイヤ列を形成している。
【0080】
また、ワイヤ7は、伝導体であり、電源ユニット15から電圧が供給された給電ユニット10の給電子11と、ワイヤ7とが接触することにより、当該供給された電圧が給電子11からワイヤ7に印加される。(給電子11がワイヤ7に電圧を印加している。)
【0081】
そして、ワイヤ7と、シリコンインゴット5との間で放電が起き、シリコンインゴット5を削り(放電加工を行い)、薄板状のシリコン(シリコンウエハ)(加工物)を作成することが可能となる。
【0082】
次に、
図3を用いて、加工液槽6と、囲い板12と、ワイヤ7との構成について説明する。
【0083】
図3は、マルチワイヤ放電加工装置1が備える、加工液槽6と、囲い板12と、ワイヤ7との構成を示す図である。
【0084】
図3に示す通り、加工液槽6と囲い板12との間には隙間があり、その隙間にワイヤ7が走行する構成となっている。
【0085】
加工液槽6内に供給される加工液は、この隙間から流れ出ることになるが、この隙間から流れ出る以上の流量の加工液が加工液槽6に供給される。
【0086】
そのため、囲い板12内にも、放電加工に必要な加工液の水量が貯留されることとなる。
【0087】
次に、
図4を用いて、囲い板12内に放電加工に必要な加工液の量が貯留されることを説明する。
【0088】
図4は、マルチワイヤ放電加工装置1が備える囲い板12内に放電加工に必要な加工液の水量が貯留されることを説明するための図である。
【0089】
図4の(A)は、囲い板12を備えていない加工液槽6内に加工液が溜められ、ワイヤ7が走行していない状態を示す図である。
【0090】
図4の(A)に示すように、ワイヤ7が走行していないため、加工液槽6内に供給される加工液により、ワイヤ7と、加工液槽6内の加工液とが接触している状態となる。
【0091】
また、
図4の(B)は、囲い板12を備えていない加工液槽6内に加工液が溜められ、ワイヤ7が走行している状態を示す図である。
【0092】
図4の(B)に示すように、ワイヤ7が走行しているため、加工液槽6内の加工液が、ワイヤが走行している方向に運び出され、加工液槽6内の加工液が、ワイヤ7に一部接触していない状態となる。
図4の(B)に示す加工液槽6内の矢印は、加工液槽6内の加工液の流れを示している。ワイヤが走行しているため、加工液槽6内の加工液が、
図4の(B)に示す矢印のように流れてしまい、加工液槽6内の加工液が、ワイヤが走行している方向に運び出され、加工液槽6の外に出てしまう。そのため、加工液槽6内の加工液が、ワイヤ7に接触することさえできず、ワークとワイヤとの間(放電ギャップ)に、放電加工に必要な加工液の水量を確保することが難しくなってしまう。
【0093】
そこで、本実施の形態では、
図4の(C)、(D)に示すように、加工液槽6の上部に、囲い板12を備え、ワークとワイヤとの間(放電ギャップ)に、放電加工に必要な加工液の水量を確保するようにしている。
【0094】
図4の(C)は、加工液槽6、及び囲い板12内に加工液が溜められ、ワイヤ7が走行していない状態を示す図である。
【0095】
また、
図4の(D)は、加工液槽6、及び囲い板12内に加工液が溜められ、ワイヤ7が走行している状態を示す図である。
【0096】
図4の(D)に示すように、加工液槽6と囲い板12との間のワイヤ7が走行しているため、加工液槽6内の加工液が、ワイヤが走行している方向に運び出されるが、囲い板が、当該運び出される加工液が加工液槽6、及び囲い板12の外に運び出されるのを防いでいる。
【0097】
そのため、ワークとワイヤとの間の隙間(放電ギャップ)に、放電加工に必要な加工液の水量を確保することができるようになる。
【0098】
図4の(D)に示す加工液槽6内の矢印は、加工液槽6内の加工液の流れを示している。
【0099】
また、ワイヤ速度の増加などにより加工液槽6内の水流が大きくなる場合には、囲い板の高さを上げる(調整する)ことで加工液槽6の外への水の運び出し(流出)を減らすことが可能である。
【0100】
次に、
図5を用いて、マルチワイヤ放電加工装置1が備える、囲い板12、給水部13、整流板14の構成について説明する。
【0101】
図5は、マルチワイヤ放電加工装置1が備える、囲い板12、給水部13、整流板14の構成を説明するための図である。
【0102】
図5を用いて、給水部13から噴射される冷却水としての加工液を、ワイヤ7の走行、及び整流板14により、加工液槽6、及び囲い板12に、流入させ、ワークとワイヤとの間の隙間に、放電加工に必要な加工液の水量を確保することについて説明する。
【0103】
上述したように、
図4の(B)では、ワイヤが走行すると、加工液槽6内の加工液が加工液槽6の外に出てしまい、ワイヤ7が、加工液に浸かっていない状態となる。
【0104】
また、この課題を改善するために、囲い板12を備える構成としたが、囲い板12と、加工液槽6との間の隙間(ワイヤが走行するための隙間)から、空気が入ってきたり、加工液が漏れてしまい、ワイヤが走行する方向とは逆方向側の加工液槽6内のワイヤが、加工液に一部浸かっていない状態となるおそれもある。
【0105】
そこで、更に、ワークとワイヤとの間に、放電加工に必要な加工液の水量を確保するための機構について、
図5を用いて説明する。
【0106】
給水部13は、
図5に示すように、ワイヤからの発熱からメインローラ9を保護するために、冷却水としての加工液をメインローラ9に噴射する。また、メインローラ9と加工液槽6との間のワイヤ7の上に加工液を噴射することもできる。
【0107】
給水部13から、メインローラ9により走行するワイヤ7に加工液が噴射され、走行しているワイヤ7により、噴射された加工液が加工液槽6と囲い板12との間の隙間に流れていく。
【0108】
その際に、ワイヤ7から落ちた加工液も、加工液槽6と囲い板12との間の隙間に流すために、
図5に示すように、整流板14を、メインローラ9と加工液槽6、及び/又は囲い板12との間の走行中のワイヤ7の下に設ける。
【0109】
このように、給水部13から、走行するワイヤ7/メインローラ9に加工液が噴射され、走行しているワイヤ7により、整流板14、及びワイヤ7にある加工水が加工液槽6と囲い板12との間の隙間に流れていく。
【0110】
マルチワイヤ放電加工装置1が備える整流板14とワイヤ7の構成については、
図6を用いて説明する。
【0111】
図6は、マルチワイヤ放電加工装置1が備える、整流板14と、ワイヤ7の構成について説明する図である。
【0112】
整流板14は、
図6に示すように、ワイヤ7の下部に設けられ、整流板の底板(底面)と側板(側面)により、ワイヤ7から落ちた加工液が溜められ、走行しているワイヤ7の上下面で、ワイヤ7の走行により、噴射された加工液を、加工液槽6、及び/又は囲い板12に運ぶことができる。
【0113】
整流板14は、本発明の整流板の適用例であり、メインローラ9と加工液槽6との間のワイヤ7の下部に設けられた、給水機構により噴射された加工液を加工液槽に送り出す。
【0114】
そして、加工液槽6、及び/又は囲い板12に運ばれた加工液は、加工液槽6と囲い板12との間の隙間を通り、加工液槽6と囲い板12の中に入り、ワークとワイヤとの間に、放電加工に必要な加工液の水量を確保することが出来るようになる。
【0115】
これにより、ワイヤの静止状態からワイヤの走行状態まで放電加工に必要な加工槽内の加工液量の確保が可能となる。
【0116】
次に、
図7を用いて、マルチワイヤ放電加工装置1が備える、加工液槽6に加工液が供給される加工液供給口701について説明する。
【0117】
図7は、マルチワイヤ放電加工装置1が備える、加工液槽6に加工液が供給される加工液供給口701を説明するための図である。
【0118】
図7に示すように、加工液槽6には、加工液槽6の下部の前面側の左右にそれぞれ加工液供給口701を設けている。
【0119】
このように、加工液槽6は、加工液を加工液槽6内に供給する加工液供給口701を複数設けられている。
【0120】
このそれぞれの加工液供給口701から、加工液槽6内に加工液が供給される。
【0121】
加工液供給口701は、加工槽の底面など他の位置であってもよく、また設置数量も2か所に限定されるものではない。
【0122】
また、加工液供給口701は、加工液供給装置18と導通しており、加工液供給装置18から、加工液が加工液供給口701に供給され、加工液供給口701から加工液槽6内に加工液が供給される。
【0123】
加工液供給口701は、本発明の加工液供給機構の適用例であり、加工液槽6内に加工液を供給する。
【0124】
図8は、加工液供給口701から、流束分散制御機構801を備えていない加工液槽6に加工液が供給され、当該加工液が供給されることによる加工液槽6内の加工液の流れを示した図である。
【0125】
図8の(A)に示す加工液槽6内の矢印は、加工液が供給されることによる加工液槽6内の加工液の流れを表している。
【0126】
図8(A)では、加工液槽6の両側面の加工液供給口701から加工液を供給したときに、2つの水流がぶつかり合って水面方向へ噴流となって湧き上がるため、複数本のワイヤ7に当該噴流が直接当たることとなり、等間隔に張設されたワイヤ間の間隔が乱されるおそれがある。
【0127】
図8(B)では、加工液供給口701を2つではなく1つにした場合の図である。矢印は、加工液が供給されることによる加工液槽6内の加工液の流れを表している。
【0128】
図8(B)のように、加工液槽6の片側面の加工液供給口701から加工液を供給したときに、水流は加工液供給口701とは反対側の側面にぶつかった後、水面方向へ噴流となって湧き上がるため、
図8(A)と同様にワイヤ間の間隔が乱されるおそれがある。
【0129】
次に、
図9を用いて、加工液供給口701から、流束分散制御機構801を備えている加工液槽6に加工液が供給され、当該加工液が供給されることによる加工液槽6内の加工液の流れについて説明する。
【0130】
図9は、加工液供給口701から、流束分散制御機構801を備えている加工液槽6に加工液が供給され、当該加工液が供給されることによる加工液槽6内の加工液の流れを示した図である。
【0131】
図9に示す加工液槽6内の矢印は、加工液が供給されることによる加工液槽6内の加工液の流れを表している。
【0132】
図9に示すように、流束分散制御機構801は、加工液槽6の底部近傍に、加工液供給口701をワイヤ張設部(ワイヤ7)から隔絶するように設置することにより、水流は加工液槽6の底部から、複数本のワイヤ7が張設された水面方向に直接湧き上がることなく、流速が緩和された状態で水面に達するため、等間隔に張設されたワイヤの間隔を乱すことが低減され、より安定した放電加工が可能となる。すなわち、流束分散制御機構801(流速低下機構)が、加工液槽に供給される加工液の流速を低下させるので、より安定した放電加工が可能となる。
【0133】
図9の(C)、(D)は、それぞれ、同一の加工液槽6を示した図であり、加工液槽6を見ている方向がそれぞれ異なる。
図9の(C)は、正面から見た図であり、
図9の(D)は右側から見た図である。
【0134】
図9に示すように、加工液供給口701から供給された加工液は、流束分散制御機構801に供給され、流束分散制御機構801から、加工液槽6内に加工液が供給される。
【0135】
また、
図9に示すように、左右の(複数の)加工液供給口701から加工液が流束分散制御機構801に供給されている。
【0136】
流束分散制御機構801は、
図10を用いて、詳しく説明するが、チューブ802と、チューブ802を覆っている多孔質素材(多孔質材料)の部材であるスポンジ803とから構成されている。チューブ802は、本発明の管の適用例であり、加工液供給口701に接続し、加工液供給口701から供給される加工液を通す導管であって、左右の(複数の)加工液供給口から供給される加工液を通す同一の管である。また、
図11でも説明するが、管は、加工液供給口からの距離に従った間隔で、管内から前記加工液槽に加工液を供給する供給口(穴)が設けられている
【0137】
なお、ここでは、多孔質素材(多孔質材料)の部材としてスポンジを例に説明したが、多孔質材料の部材は、複数の孔を有した部材であり、加工液槽に供給される加工液の流速を低下させる部材であれば、他の部材であってもよい。
【0138】
チューブ802に設けられた穴から水流の弱い加工水が加工液槽6に供給されるため、加工液の噴流によるワイヤのブレを抑止することができる。
【0139】
すなわち、チューブ802に設けられたこの穴は、本発明の供給口の適用例であり、加工液供給口からの距離に従った間隔で供給口が設けられている。供給口は、管(チューブ802)内から加工液槽に加工液を供給する口である。
【0140】
さらに、チューブ802に設けられた穴から出てくる加工水は、チューブ802を覆っている多孔質素材であるスポンジ803を通り、加工液槽6内に加工液が供給されるため、さらに水流が弱くなり、加工液の噴流によるワイヤのブレを抑止することが可能となる。
【0141】
このように、流束分散制御機構801は、加工液供給口(加工液供給機構)から供給される加工液の水流をワイヤ7が受ける力を減らすように当該加工液の水流を制御する。
【0142】
すなわち、流束分散制御機構801は、加工液供給口(加工液供給機構)から供給される加工液を、当該加工液の水流をワイヤ7が受ける力を減らすように当該加工液の水流を制御する。
【0143】
図9の(D)に示すように、加工液供給口701(加工液供給機構)の出口(穴、すなわち供給口)に流束分散制御機構801が設けられている。
【0144】
流束分散制御機構801は、本発明の水流制御機構の適用例であり、加工液供給口701(加工液供給機構)から供給される加工液による、加工液槽6内の加工液の噴流を軽減するべく、加工液供給口701(加工液供給機構)から供給される加工液の水流を制御する。
【0145】
また、流束分散制御機構801は、加工液供給口701(加工液供給機構)の出口に設けられており、加工液供給口701から供給される加工液が、流束分散制御機構801の内部で水流の勢いを抑えられ水面方向に流れる位置に配置されている。
【0146】
また、加工液槽6内の加工液の水面近傍に走行するワイヤ7の下部に、加工液供給口701が設けられ、流束分散制御機構801は、加工液供給口701の出口に設けられた管である。
【0147】
図10は、流束分散制御機構801の外観図と、流束分散制御機構801の断面図と、加工水が、流束分散制御機構801のスポンジの気孔を通って加工液槽6内に流れ出る水流の一例を示す図である。
【0148】
図10の流束分散制御機構801の外観図に示しているように、流束分散制御機構801の表面は、多孔質素材からなる筒状(管状)のスポンジ803により構成されている。また、そのスポンジ803の内部には、スポンジ803の形状にあわせて、筒状(管状)のチューブ802から構成されている。すなわち、チューブの周囲に多孔質材料が設けられている。
【0149】
このチューブ802は、加工液槽6に設けられた複数の加工液供給口701から供給される加工水を同一のチューブに通すように構成されている。
【0150】
また、
図10には、流束分散制御機構801のA−A’の断面図も示している。
【0151】
この断面図に示されるように、流束分散制御機構801は、チューブと、その周りを囲っている(包んでいる)多孔質素材とから構成されている。
【0152】
ここで使用する素材は、チューブについてはPVC(塩化ビニル)であり、多孔質材についてはウレタンである。この多孔質材は、ウレタンからなるスポンジである。
【0153】
図10に示す流束分散制御機構801の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例及び素材があることは言うまでもない。
【0154】
また、
図10に示す、加工水がスポンジの気孔を流れるイメージ図について、説明する。
【0155】
加工液供給口から加工水が供給されチューブを通りチューブの穴から加工水が噴出する。
【0156】
そして、チューブの穴から出てきた加工水は、スポンジの気孔により、その水流が緩衝(緩和)され、スポンジから加工液槽6に流れ出る。
【0157】
図11は、流束分散制御機構801内部のチューブの穴径を、加工液供給口701の出口からの距離に応じて変えることにより、チューブから加工液槽6内に全面均一な流量の加工液を噴出させることを示す図である。
【0158】
図11の(A)は、同径の穴が等間隔に設けられたチューブ802の外観図と、同径の穴が等間隔に設けられたチューブの断面図とを示す図である。
【0159】
図11の(A)に示すチューブは、同じ穴径で均一の距離に穴をあけられている。そのため、両端の加工液供給口701から共に加工液がチューブ802内に供給される場合には、チューブの中央、または中央付近の穴から出てくる加工水の水圧が一番高くなり、中央から端方向(加工液供給口701の方向)にいくにつれて穴から出てくる加工水の水圧は下がる。
【0160】
その結果、チューブの中央の部分の加工水の噴出量が一番大きく、端に行くに従い、噴出量が少なくなってしまう。
【0161】
そのため、チューブの中央の部分の穴から出てくる加工水の噴出量が大きくなり、その噴流によりワイヤのブレが増大してしまうおそれがある。
【0162】
そこで、本実施例では、
図11の(B)に示すチューブを用いる。
【0163】
図11の(B)は、中央付近に行くにつれて、チューブに設けられた穴(供給口)の径は小さくなり、穴(供給口)が設けられている間隔が狭いチューブ802の外観図と、そのチューブの断面図とを示す図である。
【0164】
図11の(B)に示すチューブは、図の通り、両端の加工液供給口701から、中央に付近に行くにつれて、径が小さくなるように穴(供給口)が設けられており、さらに、中央に付近に行くにつれて、穴(供給口)が設けられている間隔が狭くなるように穴が設けられている。
【0165】
すなわち、中央付近の穴を小さくして、更に中央付近の穴(供給口)の数を多くし、端方向(加工液供給口701の方向)の穴(供給口)は、中央の穴(供給口)より大きくし、穴(供給口)の数も少なくする。
【0166】
このように、
図11の(B)に示すチューブを用いることで、チューブのどの穴から出てくる加工水の水流、水圧、噴出量は均一となる。
【0167】
このように、中央付近に行くにつれて、チューブに設けられた穴(供給口)の径は小さくなり、穴(供給口)が設けられている間隔が狭いチューブ802を用いることにより、チューブから加工液槽に入る加工液の噴流が分散化され、チューブの中央の部分の穴(供給口)から出てくる加工水の噴出量を小さくし、噴流によりワイヤのブレが低減させることが可能となる。その結果、被加工物を適切に放電加工することができるようになる。
【0168】
このように、チューブ802は、複数の加工液供給口701からの距離に従った間隔で設けられた穴(供給口)であって、複数の加工液供給口701からの距離に応じた大きさの穴を有する。すなわち、チューブ802は、複数の加工液供給口701からの距離が遠くなる従って、チューブ802に設けられる穴(供給口)は小さく、かつ、チューブに設けられる穴の数は多くなるよう構成されている。
【0169】
以上、本発明によれば、流速低下機構(流束分散制御機構801)を備えているため、加工液槽に供給される加工液の水流を分散して流速を低下させることで、加工液槽内の加工液供給機構から供給される加工液の噴流によるワイヤのブレを抑止することができる。
【0170】
また、本発明によれば、さらに、放電加工部(放電ギャップ)における、放電加工に必要な加工液の量を確保し、被加工物を適切に放電加工することができる。
【0171】
また、本実施の形態で説明したワイヤ放電加工方法により、被加工物を放電加工されることにより加工された加工物も本発明の特徴である。