(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載のような、第1の誘電体層及び第2の電極層を形成した構造の弾性境界波装置において周波数を調整するために、特許文献1に記載の方法を用いることが考えられる。すなわち、第1の誘電体層を形成した後に、第1の誘電体層をエッチングする弾性境界波装置の製造方法を用いることが考えられる。特許文献2の構造においては、配線電極のうち外部と電気的に接続される部分を露出させるために、第1の誘電体層は配線電極を覆わないように形成される。従って、周波数を調整するために、該第1の誘電体層をエッチングした場合、第1の誘電体層が形成されていない部分において、露出している電極部分がエッチングされるおそれがある。特に、第1の誘電体層に比べ、IDT電極を形成するための金属層は薄いため、エッチングによりIDT電極に連なる配線電極部分において断線するおそれがある。
【0006】
また、露出している電極部分がエッチングされるのを防ぐために、第1の誘電体層が形成されていない部分に第2の電極層を形成した場合にも、特許文献2のように形成する場合には、第1の誘電体層と第2の電極層との間の領域や両者の境界部分において下方の第1の電極層がエッチングされるおそれがある。従って、やはり、IDT電極と配線電極との間で断線するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、第1の誘電体層をエッチングすることにより周波数調整が行われたとしても第1の電極層の断線が生じ難い、弾性境界波装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弾性境界波装置は、圧電体と、前記圧電体上に形成されており少なくともIDT電極を形成している第1の電極層と、前記第1の電極層上に部分的に積層された第2の電極層とを備える。本発明では、第1の電極層が、IDT電極構成部分と、前記IDT電極構成部分に連なる配線電極構成部分に至るように形成されており、前記第2の電極層が前記配線電極構成部分において前記第1の電極層に積層されている。本発明の弾性境界波装置は、さらに、前記IDT電極を覆い、前記配線電極構成部分を覆わないように設けられている第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に積層された第2の誘電体層とを備え、前記第2の電極層が、前記配線電極構成部分から該配線電極構成部分に近い側の第1の誘電体層の端部の上面に至るように形成されている。
【0009】
本発明に係る弾性境界波装置のある特定の局面では、前記IDT電極が、第1及び第2のバスバーと、第1のバスバーに接続された複数本の第1の電極指と、第2のバスバーに接続されている複数本の第2の電極指とを有し、複数本の第1の電極指と複数本の第2の電極指とが互いに間挿し合っている部分が電極指交叉部を構成している。そして、前記第2の電極層の前記第1の誘電体層上に至っている部分が、前記IDT電極の前記電極指交叉部の上方には至らず、前記第1または第2のバスバーの上方部分に至っている。この場合、第2の電極層がIDT電極指交叉部に至っていないため、弾性境界波装置を確実に動作させることができる。
【0010】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法は、上面にIDT電極構成部分と配線電極構成部分とを含む領域において第1の電極層が形成されている圧電体を用意する工程と、前記第1の電極層上に、IDT電極構成部分の上方に第1の誘電体層を形成する工程と、前記第1の誘電体層の形成後に、第2の電極層を、前記配線電極構成部分から前記第1の誘電体層の上面の一部に至るように形成する工程と、前記第1の誘電体層をエッチングすることにより周波数調整を行う工程と、前記周波数調整後に、第1の誘電体層を覆うように第2の誘電体層を形成する工程とを備える。
【0011】
本発明に係る弾性境界波装置の製造方法のある特定の局面では、前記IDT電極が、第1,第2のバスバーと、第1のバスバーに接続されている複数本の電極指と、第2のバスバーに接続されている複数本の電極指とを有し、複数本の第1の電極指と複数本の第2の電極指とが互いに間挿し合っている電極指交叉部を有するようにIDT電極が形成されている。ここでは、前記第2の電極層の形成に際し、第2の電極層の前記第1の誘電体層上に至っている部分が、前記電極指交叉部の上方には至らず、前記第1または第2のバスバーの上方に至るように前記第2の電極層を形成する。この場合、第2の電極層がIDT電極指交叉部に至っていないため、弾性境界波装置を確実に動作させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る弾性境界波装置及びその製造方法によれば、第2の電極層が、配線電極構成部分から配線電極構成部分に近い側の第1の誘電体層の端部の上面に至るように形成されているため、第1の誘電体層と第2の電極層との間及びそれらの境界において第1の電極層が露出し難い。従って、第1の誘電体層をエッチングして周波数調整を行ったとしても、第1の電極層の断線が生じ難い。
【0013】
よって、弾性境界波装置の歩留まりを高め、かつ信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0016】
図1〜
図3を参照して、本発明の一実施形態に係る弾性境界波装置の製造方法及び弾性境界波装置を説明する。
【0017】
本発明では、圧電体、IDT電極、第1の誘電体層及び第2の誘電体層がこの順序で積層されている、いわゆる三媒質構造の弾性境界波装置を製造する。
【0018】
まず、
図2(a)に示すように、圧電体1を用意する。圧電体1としては、LiTaO
3及びLiNbO
3などの適宜の圧電単結晶または圧電セラミックスを用いることができる。
【0019】
次に、圧電体1の上面に、第1の電極層2を形成する。第1の電極層2はIDT電極構成部分と、IDT電極構成部分に連なる配線電極構成部分を有する。より具体的には、Al、Cu、AuまたはPtもしくはこれらを主体とする合金を圧電体1の上面において成膜し、パターニングする。それによって、
図3(a)に示すIDT電極2Aと、反射器2B,2Cと、配線電極下層部分2D,2Eとを構成する。IDT電極2Aは、弾性境界波伝搬方向において互いに平行に延びる第1のバスバー2A1と第2のバスバー2A2を有する。第1のバスバー2A1に、複数本の第1の電極指2A3が接続されている。第2のバスバー2A2にも、複数本の第2の電極指2A4が接続されている。複数本の第1の電極指2A3と第2の電極指2A4とは弾性境界波伝搬方向と直交する方向に延びており、かつ互いに間挿し合っている。第1の電極指2A3と第2の電極指2A4とが間挿し合っている部分、すなわち弾性波伝搬方向において電極指2A3,2A4が重なり合って見える部分が、電極指交叉部である。
【0020】
反射器2B,2Cは、周知のグレーティング型反射器である。
【0021】
配線電極構成部分は、IDT電極2Aに連ねられている。本実施形態では、配線電極構成部分において、上記第1の電極層2により、配線電極下層部分2D,2Eが構成されている。この配線電極下層部分は、外部と電気的に接続するための電極パッドとされている。
【0022】
上記第1の電極層2の厚みは、弾性境界波の波長λとしたとき、0.1λ程度である。例えば2GHz帯の弾性境界波装置の場合、λは約2.0μmである。従って、IDT電極2Aの厚み、すなわち第1の電極層の厚みは200nm程度である。もっとも、この厚みは、弾性境界波装置の使用する周波数帯によって変更してもよい。
【0023】
なお、圧電体1上に上記のような電極構造を有する第1の電極層2の形成は、周知のフォトリソグラフィー法により行い得る。
【0024】
次に、上記のようにして、第1の電極層2が上面に形成された圧電体1上において、第1の誘電体層3を形成する。第1の誘電体層3を構成する材料としては適宜の誘電体を用いることができる。本実施形態では、第1の誘電体層3は酸化珪素からなる。第1の誘電体層3の厚みは、最終的には0.3λ〜0.5λ程度である。例えば2GHz帯の弾性境界波装置の場合には、600nm〜1000nm程度となる。
【0025】
もっとも、第1の誘電体層3を形成するに際しては、予め、最終的な第1の誘電体層3の厚みよりも厚く第1の誘電体層3を形成する。これは、次に行う周波数調整のためである。通常、2GHz帯の弾性境界波装置では、最終的な誘電体層の厚みの中心値に対し、100nm〜200nm程度厚くしておけば良い。
【0026】
次に、
図2(c)に示すように、上記第1の誘電体層3をパターニングする。すなわち、IDT電極2Aが形成されている部分を覆うが、配線電極構成部分を覆わないように第1の誘電体層3をパターニングする。
【0027】
次に、上記第1の誘電体層3が除去された領域内の第1の電極層2の直上に、第2の電極層4を形成する。従って、
図3(a)及び(b)に示すように、第2の電極層4は配線電極構成部分を覆うが、IDT電極2Aを覆わないように形成する。
【0028】
特に、本実施形態では、
図3(a)及び(b)に示すように、第2の電極層4のIDT電極2A側の端部4a,4bが、第1の誘電体層3の端部上面に至るように形成する。それによって第2の電極層4と第1の誘電体層3との境界において、第1の電極層2が露出しない。
【0029】
上記第2の電極層4を構成する材料としては適宜の金属材料を用いることができる。第2の電極層4を配線電極構成部分において第1の電極層2に積層することにより、配線電極の低抵抗化を図ることができる。好ましくは、第2の電極層4は、AlやCu,Auのような電気抵抗の低い金属もしくはこれらを主体とする合金を用いて形成することが望ましい。すなわち、第2の電極層4は、第1の電極層2よりも低抵抗の金属で構成されることが好ましい。それによって、配線電極の電気抵抗をより一層低めることができる。
【0030】
上記第2の電極層4の厚みは特に限定されないが、低抵抗化を図る上では、0.5μm〜3μm程度とすれば良い。
【0031】
上記第2の電極層4の形成に際しては、第1の電極層2と同様に、周知のフォトリソグラフィー法を用いてパターニングすれば良い。
【0032】
上記第2の電極層4を形成した後に、周波数特性を測定する。その結果に基づき、次に、第1の誘電体層3をエッチングし、周波数調整を行う。この周波数調整についてのエッチングは、RIEやイオンミリングなどの適宜の方法により行い得る。エッチングする部分は、IDT電極2Aの電極指交叉部上に位置している第1の誘電体層3部分である。もっとも、この部分のみを選択的にエッチングすることはできないため、同時に
図3(b)の矢印Aで示すように、配線電極構成部分もエッチングされることとなる。
【0033】
しかしながら、本実施形態では、第2の電極層4と第1の誘電体層3との境界において第1の電極層2が上方に露出していない。従って、エッチングによる第1の電極層2の断線を確実に防止することができる。
【0034】
図5及び
図6に示す従来法と対比して本実施形態の効果をより具体的に説明する。
【0035】
特許文献1に記載の周波数調整方法を特許文献2の構造に適用する場合、
図5に矢印Bで示す方向からエッチングを行う。すなわち、圧電体1001上にIDT電極及び配線電極構成部分に設けられた第1の電極層1002が積層されている。この第1の電極層1002上に、第1の誘電体層1003及び第2の電極層1004が積層されている。ここでは、第1の誘電体層1003が、IDT電極構成部分を被覆している。第2の電極層1004は配線電極構成部分において第1の電極層1002に積層されている。
【0036】
もっとも、第1の誘電体層1003と、第2の電極層1004との間に隙間Cが存在する。従って、反応性イオンエッチングやイオンミリングなどによりエッチングして第1の誘電体層1003の厚みを薄くしようとすると、第1の電極層1002がエッチングされ断線するおそれがあった。
【0037】
また、特許文献2の
図3では、
図6(a)に示すように、第1の誘電体層1013と第2の電極層1014との間に隙間がないように第1の誘電体層1013及び第2の電極層1014が形成されているように図示されている。なお、
図6(a)においては、圧電体1011及び第1の電極層1012上に、上記第1の誘電体層1013及び第2の電極層1014が積層されている。さらに、第1の誘電体層1013を覆うように第2の誘電体層1015が積層されている。しかしながら、このような構造をフォトリソグラフィー法により得ようとした場合、実際には、
図6(b)に示すように、第1の誘電体層1013の側面が傾斜する。同様に、第2の電極層1014の側面も傾斜する。
【0038】
すなわち、第1の誘電体層1013及び第2の電極層1014の端部を正確に垂直方向にパターニングすることはできず、図示の矢印Dで示すような隙間が生じざるを得ない。そのため、第2の誘電体層1015の形成に先立ち矢印Eで示すようにエッチングなどを施した場合、やはり、第1の電極層1012の断線が生じるという問題があった。
【0039】
上記のように、前述した特許文献2に記載の構成に特許文献1に記載の製造方法を用いた場合、第1の電極層の断線が避けられ難い。
【0040】
これに対して、本実施形態では、
図3(b)に示したように、第2の電極層4の端部4a,4bが、第1の誘電体層3の上面に乗り上げており、両者の間に隙間が生じない。よって、第1の電極層2が上方に露出していない。そのため、反応性イオンエッチングやイオンミリングなどによりエッチングを施したとしても、第1の電極層2の断線を確実に防止することができる。
【0041】
本実施形態の製造方法では、上記周波数調整を行った後に、
図1(b)に示したように、第2の誘電体層5を積層する。第2の誘電体層5としては、第1の誘電体層3よりも横波音速が速い適宜の誘電体材料、例えば窒化珪素、珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いることができる。
【0042】
このようにして、
図1(b)に示す弾性境界波装置6を得ることができる。なお、
図1(b)は、
図1(a)のA−A断面図である。
【0043】
なお、上記弾性境界波装置6では、第2の電極層4の端部4a,4bが第1の誘電体層3の上面に至るように形成されている。
【0044】
ここで、端部4a,4bは、IDT電極2Aの第1,第2のバスバー2A1,2A2の上方に至っており、電極指交叉部には至っていないことが望ましい。第2の電極層4がIDT電極指交叉部に至っていると、弾性境界波の励振が妨げられる。そのため、弾性境界波装置の動作が確実に得られない場合がある。また、第1の電極層2の断線が生じるのは、第1,第2のバスバー2A1,2A2と配線電極との接続部分近傍であるため、第1,第2のバスバー2A1,2A2の上方に至るように第2の電極層4が形成されておれば、第1の電極層2の断線を確実に防止することができる。
【0045】
図4に示すIDT電極の電極指交叉部の端部と第1の誘電体層3の端部との間の距離をa、第2の電極層4の端部4aと第1の誘電体層3の端部との間の距離をbとする。本発明では、上記b>0である。そして、好ましくは、a≧bである。それによって、上記のように、第2の電極層4の端部4aが、バスバーの上方に位置することとなる。
【0046】
上記配線電極構成部分とIDT電極2Aの間の電気抵抗は、第1の誘電体層3の形成範囲が広いほど、すなわち距離aが大きいほど、大きくなる。そのため、弾性境界波装置6の損失が大きくなる。
【0047】
他方、距離aの値が小さすぎると、製造ばらつきにより、電極指交叉部上に第1の誘電体層3が形成されず、第2の電極層4が位置するおそれがある。
【0048】
さらに、第1の誘電体層3と第2の電極層4の重なり部分の幅bが小さすぎると、製造ばらつきにより、第2の電極層4が第1の誘電体層3の上方に重なる部分がなくなるおそれがある。その場合には、第1の電極層2が露出するおそれがある。加えて、第2の電極層4の端部4aと電極指交叉部との距離である(a−b)が小さくなると、第2の電極層4が電極指交叉の上方に至ることになる。
【0049】
上記のような種々の点を検討したところ、2GHz帯の弾性境界波装置を得る場合、a<10μm,b>2μm,(a−b)>2μmとすれば、上記のような不具合が発生し難いと見いだした。
【0050】
上記a,b及び(a−b)の寸法については、使用する弾性境界波装置の周波数帯によってすなわちλの値によって変化するが、上記のとおり、a≧bであることが好ましい。
【0051】
上述した実施形態の弾性境界波装置及びその製造方法では、IDT電極2A及び反射器2B,2Cを有する弾性境界波装置につき説明したが、本発明において、IDT電極及び反射器の形態は、目的とする機能において適宜変形され得る。