(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電極層に含まれる25%以上の前記繊維状炭素が、前記正極層、前記固体電解質層および前記負極層の積層面に対して、50°以上90°以下の角度をなしている、請求項1に記載の全固体電池。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の携帯用電子機器の開発に伴い、これらの電子機器のコードレス電源として二次電池の需要が大きくなっている。その中でも、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウム等の金属酸化物、負極活物質として黒鉛等の炭素材料、電解質として、六フッ化リン酸リチウムを有機溶媒に溶解させたもの、すなわち、有機溶媒系電解液が一般に使用されている。このような構成の電池において、活物質量を増加させることにより内部エネルギーを増加させ、さらにエネルギー密度を高くし、出力電流を向上させる試みがなされている。また、電池を大型化すること、電池を車両に安全に搭載することも要求されている。
【0004】
しかし、上記の構成のリチウムイオン二次電池では、電解質に用いられる有機溶媒は可燃性物質であるため、電池が発火する等の危険性がある。このため、電池の安全性をさらに高めることが求められている。
【0005】
そこで、リチウムイオン二次電池の安全性を高めるための一つの対策として、有機溶媒系電解液に代えて固体電解質を用いることが検討されている。固体電解質としては、高分子、ゲル等の有機材料、ガラス、セラミック等の無機材料を適用することが検討され、その中でも、不燃性のガラスまたはセラミックを主成分とする無機材料を固体電解質として用いる全固体二次電池が注目されている。
【0006】
たとえば、特開2005−327528号公報(以下、特許文献1という)には、固体電解質に、メカニカルミリング処理により合成されるリチウムイオン導電性のLi
2S‐SiS
2‐P
2S
5を用いた固体電池が記載されている。特許文献1では、正極活物質にLiCoO
2、負極活物質に金属リチウムが用いられている。特許文献1には、LiCoO
2は電気化学容量が大きく、粉砕条件により粒度の調整が比較的容易であるため特に好ましいことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を正極活物質として用いた全固体電池では、コバルト酸リチウムと硫化物固体電解質の混合物を成形することによって正極層を作製しても強度が低いという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、硫化物固体電解質を用いた全固体電池において電極層の強度を向上させることが可能な全固体電池およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電極活物質と硫化物固体電解質とを含む電極材料の構成を種々検討した結果、電極活物質と硫化物固体電解質に繊維状炭素を添加するとともに、正極層、固体電解質層および負極層の積層方向に延びている繊維状炭素が少なくとも存在するように複数の繊維状炭素を配置することによって電極層の強度を高めることができることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従った全固体電池およびその製造方法は、次のような特徴を備えている。
【0011】
本発明に従った全固体電池は、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に介在する固体電解質層とを備える。正極層または負極層の少なくともいずれか一方の電極層が、電極活物質と、硫化物固体電解質と、繊維状炭素とを含む。繊維状炭素が、正極層、固体電解質層および負極層の積層方向に延びている繊維状炭素を少なくとも含む。
【0012】
本発明の全固体電池において、電極層に含まれる25%以上の繊維状炭素は、正極層、固体電解質層および負極層の積層面に対して、50°以上90°以下の角度をなしていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の全固体電池において、繊維状炭素は、硫化物固体電解質に固着していることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の全固体電池において、電極層は正極層であることが好ましい。
【0015】
電極層が正極層である場合、正極層が正極活物質を含み、正極活物質が、一般式Li
aM
mXO
bF
c(ただし、化学式中、Mは1種以上の遷移金属、XはB、Al、Si、P、Cl、Ti、V、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれた1種以上の元素であり、aは0<a≦3、mは0<m≦2、bは2≦b≦4、cは0≦c≦1の範囲内の数値である)で表されるポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物を含むことが好ましい。
【0016】
上記のリチウム複合酸化物はリン酸化合物であることが好ましい。
【0017】
上記のリン酸化合物はリン酸鉄リチウムであることが好ましい。
【0018】
本発明に従った全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池の製造方法であって、以下の工程を備える。
【0019】
(A)電極活物質と硫化物固体電解質と繊維状炭素とを混合することによって混合物を作製する工程
【0020】
(B)混合物を圧縮成形することによって成形体を作製する工程
【0021】
本発明の全固体電池の製造方法は、さらに以下の工程を備えることが好ましい。
【0022】
(C)成形体を加熱する工程
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極活物質と硫化物固体電解質に繊維状炭素を添加するとともに、正極層、固体電解質層および負極層の積層方向に延びている繊維状炭素が少なくとも存在するように複数の繊維状炭素を配置することによって、電極層の成形体の強度を高めることができ、自立で充放電する全固体電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1に示すように、本発明の全固体電池10は、正極層11と、負極層12と、正極層11と負極層12との間に介在する固体電解質層13とを備える。
図2に示すように本発明の一つの実施形態として全固体電池10は直方体形状に形成され、矩形の平面を有する複数の平板状層からなる積層体で構成される。また、
図3に示すように本発明のもう一つの実施形態として全固体電池10は円柱形状に形成され、複数の円板状層からなる積層体で構成される。なお、正極層11と負極層12のそれぞれは、硫化物固体電解質と電極活物質とを含み、固体電解質層13は硫化物固体電解質を含む。
【0027】
正極層11または負極層12の少なくともいずれか一方の電極層が、電極活物質と硫化物固体電解質とに加えて、繊維状炭素を含む。繊維状炭素が、正極層11、固体電解質層13および負極層12の積層方向に延びている繊維状炭素を少なくとも含む。
【0028】
このように、電極活物質と硫化物固体電解質に繊維状炭素を添加するとともに、正極層、固体電解質層および負極層の積層方向に延びている繊維状炭素が少なくとも存在するように複数の繊維状炭素を配置することによって、電極層の成形体の強度を高めることができ、自立で充放電する全固体電池を得ることができる。
【0029】
電極層に含まれる25%以上の繊維状炭素は、正極層11、固体電解質層13および負極層12の積層面に対して、50°以上90°以下の角度をなしていることが好ましい。このように構成することによって、積層面に対して垂直方向に加えられる外力に対する電極層の成形体の強度を高めることができる。
【0030】
また、繊維状炭素は硫化物固体電解質に固着していることが好ましい。このように構成することによって、電極層の成形性を高めることができるとともに、電池特性を向上させることができる。
【0031】
特に電極材料を圧縮成形することによって、繊維状炭素を硫化物固体電解質に固着させることができると、電極層内に強固なフレーム(骨組み)を形成することができる。そのフレーム内に電極活物質の粒子が取り込まれることによって、電極層は強固な成形体になる。これにより、プレス成形では、通常成形することが困難である電極活物質と硫化物固体電解質の混合物からなる電極合材も成形することが可能になる。さらに、得られた成形体を加熱することによって、電極層内で、固体電解質と固体電解質との界面に繊維状炭素が取り込まれて融合し、電極層がさらに強固な成形体になる。
【0032】
本発明によれば、以上のようにして電極層の強度を高めることができるので、その結果、電池全体の強度が大幅に向上するとともに、粒界抵抗も減少する。特に繊維状炭素を含む電極層を正極層11に適用すると、外圧を加えなくても作動することが可能な自立型の全固体電池10を得ることができる。また、少量の硫化物固体電解質を含ませるだけで電極層の成形が可能になるので、重量・体積当たりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0033】
特に、正極層11が上述した繊維状炭素を含む場合、正極層11に含まれる正極活物質は、一般式Li
aM
mXO
bF
c(ただし、化学式中、Mは1種以上の遷移金属、XはB、Al、Si、P、Cl、Ti、V、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれた1種以上の元素であり、aは0<a≦3、mは0<m≦2、bは2≦b≦4、cは0≦c≦1の範囲内の数値である)で表されるポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物を含むことが好ましい。上記のリチウム複合酸化物を正極活物質として用いても、硫化物固体電解質に繊維状炭素を添加することによって、正極層11の成形体の強度を高めることができ、自立で充放電する全固体電池を得ることができる。なお、正極活物質としてポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物を用いると、正極活物質として硫化物を用いた場合に比べて、放電電圧を高くすることができる。
【0034】
上記のリチウム複合酸化物はリン酸化合物であることが好ましく、リン酸化合物はリン酸鉄リチウムであることが好ましい。
【0035】
上記の本発明の構成と作用効果は、以下に説明する本発明者らの考察と知見に基づくものである。
【0036】
成形性を向上させるための一つの手段として、電極合材中の硫化物固体電解質の含有比率を高めることが考えられる。しかし、硫化物固体電解質の含有比率を高めると、エネルギー密度の低下につながるだけでなく、電極活物質間に存在する硫化物固体電解質が電子伝導パスを切断し、電池が作動しなくなる。電極活物質のポテンシャルを保ちつつ成形性を向上させるためには、電極層内の全体に電子伝導性材料のネットワークを形成しつつ、できるだけ少ない硫化物固体電解質でそのネットワークを保持する必要がある。
【0037】
そこで、本発明者らは、繊維状炭素を含ませることによって上記の状態を実現することができることを見出した。
【0038】
本発明では、繊維状炭素が電極層の構造体の支柱の役割を果たすとともに、電子伝導パスそのものになる。固体電解質は、上記の繊維状炭素の支柱を部分的に固定すればよい。これにより、固体電解質そのものが構造体を支える役割を果たす通常の全固体電池の電極層と比べて、電極層に含められる固体電解質の必要量は少なくなる。また、繊維状炭素が電極層内にランダムに存在することによって、構造体の支柱として作用する繊維状炭素が電極層全体の強度を高めることに寄与し、あらゆる方向からの機械的強度を向上させることができる。
【0039】
以上の理由により、本発明によれば、たとえば、正極活物質として、ポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物を用いても、具体的には、リン酸鉄リチウムを用いても、正極層の強度を高めることができ、自立型の全固体電池を製造することが可能になる。
【0040】
なお、繊維状炭素が延びる方向(配向)は、電極材料の圧縮方向に依存せず、すべての方向に向いていることが好ましい。電極層内において積層面に平行な方向に延びている繊維状炭素が存在していてもよいが、積層方向に延びている繊維状炭素、好ましくは積層面に垂直に近い方向に延びている繊維状炭素が存在していなければならない。なぜなら、水平方向に延びている繊維状炭素は、電極層の水平方向の変位に対して強度を高める作用をするが、垂直方向の変位に対しては強度を高めるように作用しない。言い換えれば、垂直に近い方向に延びている繊維状炭素が存在しないと、外圧による層のへき開が起こりやすくなるので、圧縮成形後の成形体の強度が低く、自立型の全固体電池を得ることができない。また、垂直に近い方向に延びている繊維状炭素が存在しないと、充放電時に起こる電極活物質の膨張・収縮により、垂直方向の電極活物質粒子間の結合が弱くなり、電子・イオン伝導パスが断たれる。これは電池特性の低下を招く。
【0041】
以上の理由から、繊維状炭素は、電極層内において、少なくとも積層方向に延びている繊維状炭素が存在している必要がある。
【0042】
なお、本発明の全固体電池10において正極層11を構成する正極活物質としての上記のポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物としては、たとえば、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiFe
0.5Co
0.5PO
4、LiMnPO
4、LiCrPO
4、LiFeVO
4、LiFeSiO
4、LiTiPO
4、LiFeBO
3、Li
3Fe
2PO
4、LiFe
0.9Al
0.1PO
4、LiFePO
3.9F
0.1等を挙げることができる。また、正極活物質の電子電導性を改善する目的で、上記の元素の一部を他の元素で置換したり、リチウム複合酸化物の表面を炭素等の導電性物質で被覆したり、正極活物質の粒子の内部に導電性物質を内包させたものであっても、本発明の効果を阻害することなく、好適に用いることができ、このようなものを用いた場合も本発明の範囲内である。正極活物質を構成する元素の組成比率は上述した比率に限定されず、化学量論からずれていてもよい。
【0043】
負極層12は、負極活物質と硫化物固体電解質を含む。負極活物質としては、たとえば、黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、合金系材料、硫黄、金属硫化物等を用いることができる。
【0044】
正極層11と負極層12との間に挟まれた固体電解質層13は、硫化物固体電解質を含む。
【0045】
なお、正極層11、負極層12、および、固体電解質層13に含まれる固体電解質は、イオン伝導性化合物を含むものであればよく、構成元素としてリチウムと硫黄とを少なくとも含有するものであればよく、このような化合物として、Li
2SとP
2S
5の混合物、Li
2SとB
2S
3の混合物等を挙げることができる。また、固体電解質は、構成元素としてリチウムと硫黄に加えて、好ましくはリンをさらに含有すればよく、このような化合物として、Li
2SとP
2S
5の混合物、Li
7P
3S
11、Li
3PS
4等を挙げることができ、これらの化合物においてアニオンの一部が酸素で置換されたもの等をあげることができる。上記の化合物の中でも、架橋Sを含まない、仕込み組成が80Li
2S-20P
2S
5等のガラスおよびガラスセラミックや、Thio‐LISICONであることが好ましい。固体電解質を構成する元素の組成比率は上述した比率に限定されるものではない。
【0046】
なお、本発明の全固体電池10は、
図1〜
図3に示される電池要素を、たとえば、セラミックス製の容器に装入された形態で用いられてもよく、
図1〜
図3に示される形態のままで自立した形態で用いられてもよい。
【0047】
また、外装方法も特に限定されず、金属ケース、モールド樹脂、アルミニウムラミネートフイルム等を使用してもよい。
【0048】
本発明に従った全固体電池の製造方法では、電極活物質と硫化物固体電解質と繊維状炭素とを混合することによって混合物を作製し、混合物を圧縮成形することによって成形体を作製する。
【0049】
本発明の全固体電池の製造方法では、さらに成形体を加熱することが好ましい。
【0050】
さらに成形体を加熱することによって、硫化物固体電解質と繊維状炭素の結合を強めることができるだけでなく、硫化物固体電解質と電極活物質との結合も強めることができる。これにより、電極層の構造体としての機械的強度を高めることができるだけでなく、硫化物固体電解質と電極活物質との接触状態が良好になり、リチウムイオンの移動がスムーズに行われる。これにより、電池抵抗を低くすることができる。
【0051】
なお、本発明の全固体電池10の製造方法では、原材料を圧縮成形することによって正極層11、負極層12、および、固体電解質層13を作製することができる。この場合、正極層11の原材料を圧縮成形することによって成形体を作製し、成形体を加熱することによって正極層11を作製することが好ましい。その後、正極層11と負極層12とを、固体電解質層13を介在させて積層することによって積層体を作製することができる。
【0052】
また、原材料を含むスラリー、ペースト、コロイド等の固液混合物を作製することによって、正極層11、負極層12、および、固体電解質層13の各層を作製することもできる。この場合、たとえば、まず、正極層11、負極層12、固体電解質層13の原材料を含む各固液混合物を作製する(固液混合物作製工程)。得られた各固液混合物を用いて、シート、印刷層、膜等の各成形体を作製する。そして、得られた各成形体を積層することによって積層体を作製する(積層体作製工程)。なお、積層体を、たとえば、コインセル内に封止してもよい。封止方法は特に限定されない。たとえば、積層体を樹脂で封止してもよい。また、Al
2O
3等の絶縁性を有する絶縁体ペーストを積層体の周囲に塗布またはディップして、この絶縁ペーストを熱処理することによって封止してもよい。
【0053】
なお、正極層11と負極層12から効率的に電流を引き出すため、正極層11と負極層12の上に炭素層、金属層、酸化物層等の集電体層を形成してもよい。集電体層の形成方法は、たとえば、スパッタリング法が挙げられる。また、金属ペーストを塗布またはディップして、この金属ペーストを熱処理してもよい。また、カーボンシートを積層してもよい。
【0054】
積層体作製工程では、正極層11、固体電解質層13、および、負極層12を積層して単電池構造を形成することが好ましい。さらに、積層体形成工程において、集電体を介在させて、上記の単電池構造の積層体を複数個、積層して積層体を形成してもよい。この場合、単電池構造の積層体を複数個、電気的に直列、または並列に積層してもよい。
【0055】
上記の各層を作製する方法は特に限定されないが、シートの形態の各層を形成するためにドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター等、または、印刷層、膜の形態の各層を形成するためにスクリーン印刷法等を使用することができる。また、各層を積層する方法は特に限定されないが、熱間等方圧プレス、冷間等方圧プレス、静水圧プレス等を使用して積層することができる。
【0056】
スラリーは、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルと、(正極活物質および固体電解質、負極活物質および固体電解質、または、固体電解質)とを湿式混合することによって作製することができる。湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法、ビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法、ニーダー分散法等を用いることができる。スラリーに含まれる有機材料は特に限定されないが、硫化物と反応しないアクリル樹脂等を用いることができる。スラリーは可塑剤を含んでもよい。
【0057】
なお、正極層11を形成する方法として、正極活物質と硫化物固体電解質と繊維状炭素とを混合することによって正極合材を作製し、正極合材を圧縮成形することによって正極層11を作製することができる。この場合、正極合材から成形体を作製し、成形体を加熱することによって正極層11を作製してもよい。また、正極合材と固体電解質を積層した後、積層体を加熱することによって正極層11と固体電解質層13の積層体を作製してもよい。
【0058】
正極合材の成形体を加熱する温度、雰囲気等の加熱条件は、特に限定されないが、全固体電池の特性に悪影響を及ぼさない条件で行うことが好ましい。真空雰囲気中にて250℃以下の温度で加熱することが好ましい。
【0059】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
以下、全固体電池を作製した実施例と比較例について説明する。
【0061】
(実施例)
<固体電解質の作製>
硫化物であるLi
2S粉末とP
2S
5粉末とをメカニカルミリング処理することにより、固体電解質を作製した。
【0062】
具体的には、アルゴンガス雰囲気中で、Li
2S粉末とP
2S
5粉末とを80:20のモル比になるように秤量し、アルミナ製の容器に入れた。直径が10mmのアルミナボールを入れて、容器を密閉した。容器をメカニカルミリング装置(フリッチュ製 遊星ボールミル、型番P-7)にセットして、370rpmの回転数で20時間、メカニカルミリング処理した。その後、容器をアルゴンガス雰囲気中に開放し、容器にトルエンを2ml入れて、容器を密閉した。さらに、メカニカルミリング処理を200rpmの回転数で2時間行った。このようにして得られたスラリー状の材料をアルゴンガス雰囲気中でろ過した後、真空乾燥した。得られた粉末を正極合材用ガラス粉末として用いた。
【0063】
得られた粉末を真空雰囲気中にて200℃〜300℃の温度で加熱することにより、ガラスセラミック粉末を得た。このガラスセラミック粉末を固体電解質層に用いた。
【0064】
<正極活物質の作製>
FeSO
4・7H
2Oを純水に溶解させ、この水溶液にP源としてのH
3PO
4(85%水溶液)と酸化剤としてのH
2O
2(30%水溶液)とを加えることによって混合水溶液を作製した。ここで、FeSO
4・7H
2O、H
3PO
4、および、H
2O
2はモル比率で1:1:1.5になるように調合した。
【0065】
次に、酢酸に純水を加え、この水溶液に酢酸アンモニウムを溶かすことによって緩衝溶液を作製した。なお、酢酸と酢酸アンモニウムのモル比は1:1であり、酢酸および酢酸アンモニウムの濃度は、いずれも0.5mol/Lとした。この緩衝溶液のpHを測定したところ、4.6であった。
【0066】
そして、緩衝溶液を常温で撹拌しながら、上記の混合水溶液を緩衝溶液に滴下することによって、沈殿粉末を作製した。なお、混合水溶液の滴下量が増加するに伴い、緩衝溶液のpHは低下し、pHが2.0になった時点で混合水溶液の緩衝溶液への滴下を終了した。
【0067】
その後、得られた沈殿粉末をろ過し、大量の水で洗浄した後に、120℃の温度に加熱し、乾燥させ、褐色のFePO
4・nH
2Oの粉末を作製した。
【0068】
次に、このFePO
4・nH
2O粉末とCH
3COOLi・2H
2O(酢酸リチウム・二水和物)とをモル比で1:1になるように調合し、この混合物に純水とポリカルボン酸系高分子分散剤を添加した。得られた混合物を、ボールミルを使用して混合粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤで乾燥した後、造粒し、酸素分圧が10
-20MPaの還元雰囲気に調整されたH
2‐N
2の混合ガス中にて、700℃の温度で5時間、熱処理することによって、正極活物質(LiFePO
4)を作製した。
【0069】
<正極合材の作製>
アルゴンガス雰囲気中にて、上記の固体電解質の作製工程で得られたガラス粉末と、上記で得られた正極活物質と、繊維状炭素としての昭和電工株式会社製の気相法炭素繊維(商品名:VGCF、登録商標:VGCF)とを60:34:6の重量比になるように秤量し、ロッキングミルで1時間混合することによって、正極合材を作製した。
【0070】
<正極合材と固体電解質の積層体の作製>
上記の固体電解質の作製工程で得られたガラスセラミック粉末25mgと、正極合材5mgとを、この順に直径が7.5mmの金型に入れた後、330MPaの圧力でプレス成形することによって成形体を作製した。
【0071】
得られた成形体を、カーボンルツボの上に置いた状態で、真空雰囲気中にて200℃の温度で6時間、加熱した。このようにして、正極合材と固体電解質の積層体を作製した。
【0072】
<電極層の状態観察>
上記で得られた積層体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(ERIONIX製、型番:ERA‐8900FE)によって観察した。アルゴンガス雰囲気中にて積層体の断面を露出して観察した。
【0073】
電極層(正極合材)部分を10,000倍に拡大した視野において10箇所を撮像して、繊維状炭素の長軸方向が積層面となす角度を測定した。その測定結果として、繊維状炭素の長軸方向が積層面となす角度の度数分布を
図4に示す。
【0074】
図4において、積層面となす角度が0〜50°、50〜90°に相当する繊維状炭素の数をカウントすると、それぞれ、71%、29%であることがわかる。このことから、積層面に平行な方向に延びているだけでなく、積層方向にも延びている繊維状カーボンが存在することがわかる。言い換えれば、25%以上の繊維状炭素は、積層面に対して、50°以上90°以下の角度をなしていることがわかる。
【0075】
なお、上記の電極層(正極合材)部分の観察において、固体電解質はプレス成形と加熱によって粒界がなくなり、径が1μm以上の塊となって存在していることがわかった。
【0076】
<全固体電池の作製>
上記で得られた積層体の固体電解質層側に負極材料としてのIn−Liを配置することによって、全固体電池の電池要素としての積層体を作製した。得られた積層体をステンレス鋼板で挟んだ後、ラミネート容器に封入して、全固体電池を作製した。なお、正極層とステンレス鋼板の間には、集電体としてカーボンシートを介在させた。
【0077】
<電池特性の評価>
上記で得られた全固体電池に対し、3.6V〜1.8Vの電圧の間で10μA(電流密度:22.7μA/cm
2)の定電流充放電と、50℃の温度で充放電サイクルを繰り返すことが可能であることを確認した。充放電曲線において電圧が2.8V付近に平坦部が存在し、充放電が可逆的に進行することを確認した。放電容量は正極活物質の単位重量当たり80mAh/gであり、正極合材の単位重量当たり27.2mAh/gであった。以上のことから、実施例の電池は、硫化物固体電解質を用いた自立型の全固体電池として作動することがわかった。
【0078】
以上の実施例の結果から、固体電解質の含有比率が比較的低く、成形が困難である正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極合材から、成形体を作製することができたことがわかる。これは、3次元に延びている繊維状炭素のネットワークに固体電解質が強固に結合していることによるものと考えられる。
【0079】
特に積層面に対して垂直に近い角度(50〜90°)をなす方向に延びている29%の繊維状炭素は、積層面に垂直な方向の外力に対する強度を高めることができ、成形体の作製時、電池組み立て時、充放電進行時において正極層が崩れるのを防止する作用をしたものと考えられる。
【0080】
また、プレス成形後、加熱すると、硫化物固体電解質は強固に結びつき、大きな塊になっていたことが観察されたので、充放電が可逆的に進行した理由として、成形後の加熱により、固体電解質が繊維状炭素だけではなく、正極活物質としてのリン酸鉄リチウムにも強固に結合し、硫化物固体電解質とリン酸鉄リチウムの密着性が向上したためと考えられる。硫化物固体電解質とリン酸鉄リチウムの密着性が向上すると、両材料間でのリチウムイオンの移動がスムーズに進行し、充放電が進行するものと考えられる。
【0081】
(比較例)
<固体電解質の作製><正極活物質の作製>
実施例と同様にして、固体電解質と正極活物質を作製した。
【0082】
<正極合材の作製>
アルゴンガス雰囲気中にて、上記の固体電解質の作製工程で得られたガラス粉末と、上記で得られた正極活物質と、粒状導電助剤としてのアセチレンブラックとを60:34:6の重量比になるように秤量し、ロッキングミルで1時間混合することによって、正極合材を作製した。
【0083】
<正極合材と固体電解質の積層体の作製>
実施例と同様にして、正極合材と固体電解質の積層体を作製しようとしたが、成形することができなかった。したがって、全固体電池の電池要素を作製することができなかった。
【0084】
<正極合材の状態観察>
実施例と同様にして、正極合材を走査型電子顕微鏡によって観察した。正極合材を10,000倍で観察したが、繊維状炭素は存在しないことを確認した。
【0085】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。