(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の携帯用電子機器の開発に伴い、これらの電子機器のコードレス電源として二次電池の需要が大きくなっている。その中でも、エネルギー密度が高く、充放電可能なリチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウム等の金属酸化物、負極活物質として黒鉛等の炭素材料、電解質として、六フッ化リン酸リチウムを有機溶媒に溶解させたもの、すなわち、有機溶媒系電解液が一般に使用されている。このような構成の電池において、活物質量を増加させることにより内部エネルギーを増加させ、さらにエネルギー密度を高くし、出力電流を向上させる試みがなされている。また、電池を大型化すること、電池を車両に安全に搭載することも要求されている。
【0004】
しかし、上記の構成のリチウムイオン二次電池では、電解質に用いられる有機溶媒は可燃性物質であるため、電池が発火する等の危険性がある。このため、電池の安全性をさらに高めることが求められている。
【0005】
そこで、リチウムイオン二次電池の安全性を高めるための一つの対策として、有機溶媒系電解液に代えて固体電解質を用いることが検討されている。固体電解質としては、高分子、ゲル等の有機材料、ガラス、セラミック等の無機材料を適用することが検討され、その中でも、不燃性のガラスまたはセラミックを主成分とする無機材料を固体電解質として用いる全固体二次電池が注目されている。
【0006】
たとえば、特開2011−28893号公報(以下、特許文献1という)には、硫化物固体電解質を用いた全固体電池の構成が記載されている。特許文献1では、正極活物質層(正極層)に、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等の導電化材(導電助剤)を添加することにより、正極活物質層の導電性を向上させることができると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、カーボンファイバー等の導電助剤を固体電解質と正極活物質とに添加して混合すると、導電助剤が凝集しやすいため、導電助剤が正極層内で分散しないで導電助剤の凝集体を形成してしまう。導電助剤が正極層内で凝集すると、正極活物質に電子を供給するという導電助剤の機能が低下する。すなわち、正極層内の電子供給パスが阻害されることにより、良好な電池特性が得られないという問題がある。
【0009】
また、導電助剤を正極材料内で分散させるために、固体電解質と正極活物質と導電助剤の混合物を、たとえば、ボールミルによって強く粉砕すると、導電助剤を正極材料内で分散させることができるが、固体電解質が粉砕されてしまう。これにより、リチウムイオン供給パスが寸断されることにより、良好な電池特性が得られないという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、電池特性を高めることが可能な正極材料、二次電池、および、それらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、正極活物質を含む正極材料の構成を種々検討した結果、繊維状炭素を正極活物質に結合させると、正極層内のリチウムイオン供給パスを確保することができるとともに、正極活物質に電子を良好に供給する、すなわち、正極層内の電子供給パスを確保することができることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従った正極材料、二次電池、および、それらの製造方法は、次のような特徴を備えている。
【0012】
本発明に従った正極材料は、正極活物質と、繊維状炭素とを含む。繊維状炭素が正極活物質に結合している。
【0013】
本発明の正極材料において、正極活物質が、一般式Li
aM
mXO
bF
c(ただし、化学式中、Mは1種以上の遷移金属、XはB、Al、Si、P、Cl、Ti、V、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれた1種以上の元素であり、aは0<a≦3、mは0<m≦2、bは2≦b≦4、cは0≦c≦1の範囲内の数値である)で表されるポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物を含むことが好ましい。
【0014】
上記のリチウム複合酸化物はリン酸化合物であることが好ましい。
【0015】
上記のリン酸化合物はリン酸鉄リチウムであることが好ましい。
【0016】
本発明に従った二次電池は、上述した正極材料を含む正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に介在する電解質層とを備える。
【0017】
本発明の二次電池において、正極層が固体電解質を含み、当該二次電池は全固体電池であることが好ましい。
【0018】
さらに、上記の固体電解質は硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0019】
本発明に従った正極材料の製造方法は、上述した正極材料の製造方法であって、以下の工程を備える。
【0020】
(A)正極活物質と繊維状炭素とを混合することによって混合物を作製する工程
【0021】
(B)混合物を加熱する工程
【0022】
本発明に従った二次電池の製造方法は、正極層が固体電解質を含み、当該二次電池が全固体電池であり、上記の固体電解質が硫化物固体電解質である上述した二次電池の製造方法であって、以下の工程を備える。
【0023】
(C)正極活物質と繊維状炭素とを混合することによって第1の混合物を作製する工程
【0024】
(D)第1の混合物を加熱する工程
【0025】
(E)第1の混合物と固体電解質とを混合することによって第2の混合物を作製する工程
【0026】
(F)第2の混合物から成形体を作製する工程
【0027】
本発明に従った二次電池の製造方法は、以下の工程をさらに備えることが好ましい。
【0028】
(G)成形体を加熱する工程
【0029】
(H)加熱された成形体を粉砕することによって粉砕物を作製する工程
【0030】
(I)粉砕物から成形体を作製する工程
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、正極活物質を含む正極材料において、繊維状炭素が正極活物質に結合しているので、正極層内のリチウムイオンパスを確保することができるとともに、正極活物質に電子を良好に供給することができる。これにより、硫化物固体電解質を用いた全固体電池等の二次電池の充放電特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0034】
図1に示すように、本発明の全固体電池10は、正極層11と、負極層12と、正極層11と負極層12との間に介在する固体電解質層13とを備える。
図2に示すように本発明の一つの実施形態として全固体電池10は直方体形状に形成され、矩形の平面を有する複数の平板状層からなる積層体で構成される。また、
図3に示すように本発明のもう一つの実施形態として全固体電池10は円柱形状に形成され、複数の円板状層からなる積層体で構成される。なお、正極層11と負極層12のそれぞれは、硫化物固体電解質と電極活物質とを含み、固体電解質層13は硫化物固体電解質を含む。
【0035】
上記のように構成された本発明の全固体電池10において、正極層11を構成する正極材料は、正極活物質と、繊維状炭素とを含む。繊維状炭素が正極活物質に結合している。
【0036】
正極活物質を含む正極層11において、繊維状炭素が正極活物質に結合しているので、正極層11内のリチウムイオンパスを確保することができるとともに、正極活物質に電子を良好に供給することができる。これにより、全固体電池10の充放電特性を向上させることができる。
【0037】
正極活物質が、一般式Li
aM
mXO
bF
c(ただし、化学式中、Mは1種以上の遷移金属、XはB、Al、Si、P、Cl、Ti、V、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれた1種以上の元素であり、aは0<a≦3、mは0<m≦2、bは2≦b≦4、cは0≦c≦1の範囲内の数値である)で表されるポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物を含むことが好ましい。
【0038】
上記のリチウム複合酸化物はリン酸化合物であることが好ましく、リン酸化合物はリン酸鉄リチウムであることが好ましい。
【0039】
上記の本発明の構成と作用効果は、以下に説明する本発明者らの考察と知見に基づくものである。
【0040】
全固体電池では、リチウムイオンを供給する電解質が固体であるため、正極活物質(固体)と固体電解質を混合して電子供給パスとリチウムイオン供給パスを形成する必要がある。ところが、固体電解質は電子絶縁体であるので、正極活物質の間に入り込んだ固体電解質は電子伝導を阻害してしまう。このため、固体電解質と正極活物質の混合物に導電性物質を添加することによって正極層の電子伝導性を改善することが考えられる。しかし、単に炭素等の導電性物質を添加するだけでは、正極活物質と導電性物質が離れてしまい、正極活物質へ効率良く電子を供給する電子供給パスを形成することができない。また、導電性物質を正極活物質の表面に付着させても、導電性物質と正極活物質の間に固体電解質が入り込んでしまうため、電子供給パスを形成することができない。特に、オリビン型構造のリチウムリン酸化合物等の電子伝導性が低い正極活物質を用いる場合には正極層内の電子供給パスを確保することが困難である。
【0041】
一方、繊維状の形態の導電性物質を用いると、正極活物質の間で電子供給パスが比較的形成されやすいが、繊維状の導電性物質は、固体電解質と正極活物質に添加して混合すると、混合時に凝集しやすい。導電性物質が正極層内で凝集すると、正極層内の電子供給パスが阻害される。
【0042】
そこで、本発明者らは、正極活物質に繊維状炭素を結合させると、正極層内のリチウムイオン供給パスを確保することができるとともに、正極活物質に電子を良好に供給する、すなわち、正極層内の電子供給パスを確保することができることを見出した。
【0043】
正極活物質に繊維状炭素を結合させることによって、以下の作用効果を得ることができる。正極活物質と硫化物固体電解質と繊維状炭素を混合しても、導電性物質としての繊維状炭素が正極活物質と結合しているので、正極活物質間の電子供給パスを確保することができる。また、正極活物質と硫化物固体電解質と繊維状炭素を混合しても、正極活物質と繊維状炭素が強固に結合することにより、硫化物固体電解質が正極活物質と繊維状炭素の間に入り込むことができず、混合後においても正極活物質と繊維状炭素との電気的接合が良好な状態を保つことができる。さらに、正極活物質と硫化物固体電解質と繊維状炭素を混合しても、繊維状炭素が分散した状態を保つことができ、凝集しない。さらにまた、正極活物質と繊維状炭素を融着させた複合粒子を用いることにより、正極活物質と導電性物質としての繊維状炭素との間の電子移動が良好になり、正極活物質への電子供給が良好になる。
【0044】
好ましくは、繊維状炭素が正極活物質に結合している形態として、正極活物質と繊維状炭素の複合体からなる2次粒子(複合体顆粒)を用いると、正極層内で正極活物質が部分的に凝集した状態となり、正極活物質への電子供給が良好になるため、電池特性をより高めることができる。さらに好ましくは、平均粒径が10μm以上の硫化物固体電解質と正極活物質と繊維状炭素の複合体顆粒からなる2次粒子を用いると、正極活物質へのリチウムイオン供給と電子供給がともに良好になり、電池特性をさらに高めることができる。さらにまた好ましくは、硫化物固体電解質と正極活物質と繊維状炭素の複合体を混合した後、成形して加熱することにより、正極活物質と硫化物固体電解質の間の密着性が良好になり、正極活物質へのリチウムイオン供給がさらに良好になる。
【0045】
以上のようにして、正極活物質に繊維状炭素を結合させる形態を最適化することにより、正極活物質への電子供給パスとリチウムイオン供給パスとがともに良好に形成されることによって、正極層内に含まれる正極活物質のほとんどが活性となり、正極活物質の利用率が90%を超える電池を得ることができる。
【0046】
上述した作用効果は、正極材料が正極活物質と繊維状炭素とを少なくとも含み、正極材料において繊維状炭素が正極活物質に結合していれば、上記の硫化物固体電解質を用いた全固体電池だけでなく、酸化物固体電解質を用いて焼成によって作製される全固体電池においても達成することができ、有機溶媒系電解液を用いた非水電解質二次電池においても達成することができる。すなわち、本発明の正極材料の構成は、全固体電池だけでなく、広範囲の二次電池に適用することができる。
【0047】
なお、本発明の全固体電池10において正極層11を構成する正極活物質としての上記のポリアニオン構造を有するリチウム複合酸化物としては、たとえば、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiFe
0.5Co
0.5PO
4、LiMnPO
4、LiCrPO
4、LiFeVO
4、LiFeSiO
4、LiTiPO
4、LiFeBO
3、Li
3Fe
2PO
4、LiFe
0.9Al
0.1PO
4、LiFePO
3.9F
0.1等を挙げることができる。また、正極活物質の電子電導性を改善する目的で、上記の元素の一部を他の元素で置換したり、リチウム複合酸化物の表面を炭素等の導電性物質で被覆したり、正極活物質の粒子の内部に導電性物質を内包させたものであっても、本発明の効果を阻害することなく、好適に用いることができ、このようなものを用いた場合も本発明の範囲内である。正極活物質を構成する元素の組成比率は上述した比率に限定されず、化学量論からずれていてもよい。
【0048】
負極層12は、負極活物質と硫化物固体電解質を含む。負極活物質としては、たとえば、黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、合金系材料、硫黄、金属硫化物等を用いることができる。
【0049】
正極層11と負極層12との間に挟まれた固体電解質層13は、硫化物固体電解質を含む。
【0050】
なお、正極層11、負極層12、および、固体電解質層13に含まれる固体電解質は、イオン伝導性化合物を含むものであればよく、構成元素としてリチウムと硫黄とを少なくとも含有するものであればよく、このような化合物として、Li
2SとP
2S
5の混合物、Li
2SとB
2S
3の混合物等を挙げることができる。また、固体電解質は、構成元素としてリチウムと硫黄に加えて、好ましくはリンをさらに含有すればよく、このような化合物として、Li
2SとP
2S
5の混合物、Li
7P
3S
11、Li
3PS
4等を挙げることができ、これらの化合物においてアニオンの一部が酸素で置換されたもの等をあげることができる。上記の化合物の中でも、架橋Sを含まない、仕込み組成が80Li
2S-20P
2S
5等のガラスおよびガラスセラミックや、Thio‐LISICONであることが好ましい。固体電解質を構成する元素の組成比率は上述した比率に限定されるものではない。
【0051】
なお、本発明の全固体電池10は、
図1〜
図3に示される電池要素を、たとえば、セラミックス製の容器に装入された形態で用いられてもよく、
図1〜
図3に示される形態のままで自立した形態で用いられてもよい。
【0052】
また、外装方法も特に限定されず、金属ケース、モールド樹脂、アルミニウムラミネートフイルム等を使用してもよい。
【0053】
本発明に従った正極材料の製造方法では、正極活物質と繊維状炭素とを混合することによって混合物を作製し、混合物を加熱する。
【0054】
本発明に従った全固体電池10の製造方法では、正極活物質と繊維状炭素とを混合することによって第1の混合物を作製し、第1の混合物を加熱し、第1の混合物と固体電解質とを混合することによって第2の混合物を作製し、第2の混合物から成形体を作製する。
【0055】
本発明に従った全固体電池10の製造方法では、さらに、成形体を加熱し、加熱された成形体を粉砕することによって粉砕物を作製し、粉砕物から成形体を作製することが好ましい。このようにすることにより、正極活物質への電子供給パスとリチウムイオン供給パスとがともに良好に形成されることによって、電池特性をさらに高めることができる。
【0056】
なお、本発明の全固体電池10の製造方法では、原材料を圧縮成形することによって正極層11、負極層12、および、固体電解質層13を作製することができる。この場合、上記で作製された正極材料を圧縮成形することによって成形体を作製することによって正極層11を作製する。あるいは、上記の成形体を加熱し、加熱された成形体を粉砕することによって得られた粉砕物を圧縮成形することによって正極層11を作製する。負極層12と固体電解質層13は、原材料を圧縮成形することによって作製される。その後、正極層11と負極層12とを、固体電解質層13を介在させて積層することによって積層体を作製することができる。
【0057】
また、原材料を含むスラリー、ペースト、コロイド等の固液混合物を作製することによって、正極層11、負極層12、および、固体電解質層13の各層を作製することもできる。この場合、たとえば、まず、正極層11、負極層12、固体電解質層13の原材料を含む各固液混合物を作製する(固液混合物作製工程)。得られた各固液混合物を用いて、シート、印刷層、膜等の各成形体を作製する。そして、得られた各成形体を積層することによって積層体を作製する(積層体作製工程)。なお、積層体を、たとえば、コインセル内に封止してもよい。封止方法は特に限定されない。たとえば、積層体を樹脂で封止してもよい。また、Al
2O
3等の絶縁性を有する絶縁体ペーストを積層体の周囲に塗布またはディップして、この絶縁ペーストを熱処理することによって封止してもよい。
【0058】
なお、正極層11と負極層12から効率的に電流を引き出すため、正極層11と負極層12の上に炭素層、金属層、酸化物層等の集電体層を形成してもよい。集電体層の形成方法は、たとえば、スパッタリング法が挙げられる。また、金属ペーストを塗布またはディップして、この金属ペーストを熱処理してもよい。また、カーボンシートを積層してもよい。
【0059】
積層体作製工程では、正極層11、固体電解質層13、および、負極層12を積層して単電池構造を形成することが好ましい。さらに、積層体形成工程において、集電体を介在させて、上記の単電池構造の積層体を複数個、積層して積層体を形成してもよい。この場合、単電池構造の積層体を複数個、電気的に直列、または並列に積層してもよい。
【0060】
上記の各層を作製する方法は特に限定されないが、シートの形態の各層を形成するためにドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター等、または、印刷層、膜の形態の各層を形成するためにスクリーン印刷法等を使用することができる。また、各層を積層する方法は特に限定されないが、熱間等方圧プレス、冷間等方圧プレス、静水圧プレス等を使用して積層することができる。
【0061】
スラリーは、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルと、(正極活物質および固体電解質、負極活物質および固体電解質、または、固体電解質)とを湿式混合することによって作製することができる。湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法、ビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法、ニーダー分散法等を用いることができる。スラリーに含まれる有機材料は特に限定されないが、硫化物と反応しないアクリル樹脂等を用いることができる。スラリーは可塑剤を含んでもよい。
【0062】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
以下、全固体電池を作製した実施例と比較例について説明する。
【0064】
(実施例)
<固体電解質の作製>
硫化物であるLi
2S粉末とP
2S
5粉末とをメカニカルミリング処理することにより、固体電解質を作製した。
【0065】
具体的には、アルゴンガス雰囲気中で、Li
2S粉末とP
2S
5粉末とを80:20のモル比になるように秤量し、アルミナ製の容器に入れた。直径が10mmのアルミナボールを入れて、容器を密閉した。容器をメカニカルミリング装置(フリッチュ製 遊星ボールミル、型番P-7)にセットして、370rpmの回転数で20時間、メカニカルミリング処理した。その後、容器をアルゴンガス雰囲気中に開放し、容器にトルエンを2ml入れて、容器を密閉した。さらに、メカニカルミリング処理を200rpmの回転数で2時間行った。このようにして得られたスラリー状の材料をアルゴンガス雰囲気中でろ過した後、真空乾燥した。得られた粉末を正極合材用ガラス粉末として用いた。
【0066】
得られた粉末を真空雰囲気中にて200℃〜300℃の温度で加熱することにより、ガラスセラミック粉末を得た。このガラスセラミック粉末を固体電解質層に用いた。
【0067】
<正極活物質の作製>
FeSO
4・7H
2Oを純水に溶解させ、この水溶液にP源としてのH
3PO
4(85%水溶液)と酸化剤としてのH
2O
2(30%水溶液)とを加えることによって混合水溶液を作製した。ここで、FeSO
4・7H
2O、H
3PO
4、および、H
2O
2はモル比率で1:1:1.5になるように調合した。
【0068】
次に、酢酸に純水を加え、この水溶液に酢酸アンモニウムを溶かすことによって緩衝溶液を作製した。なお、酢酸と酢酸アンモニウムのモル比は1:1であり、酢酸および酢酸アンモニウムの濃度は、いずれも0.5mol/Lとした。この緩衝溶液のpHを測定したところ、4.6であった。
【0069】
そして、緩衝溶液を常温で撹拌しながら、上記の混合水溶液を緩衝溶液に滴下することによって、沈殿粉末を作製した。なお、混合水溶液の滴下量が増加するに伴い、緩衝溶液のpHは低下し、pHが2.0になった時点で混合水溶液の緩衝溶液への滴下を終了した。
【0070】
その後、得られた沈殿粉末をろ過し、大量の水で洗浄した後に、120℃の温度に加熱し、乾燥させ、褐色のFePO
4・nH
2Oの粉末を作製した。
【0071】
次に、このFePO
4・nH
2O粉末とCH
3COOLi・2H
2O(酢酸リチウム・二水和物)とをモル比で1:1になるように調合し、この混合物に純水とポリカルボン酸系高分子分散剤を添加した。さらに、上記の混合物に、昭和電工株式会社製の気相法炭素繊維(商品名:VGCF、登録商標:VGCF、以下、「VGCF」という)を、100重量部のLiFePO
4に対してVGCFが15重量部になるように添加した後、ボールミルを使用して混合粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤで乾燥した後、造粒し、酸素分圧が10
-20MPaの還元雰囲気に調整されたH
2‐N
2の混合ガス中にて、700℃の温度で5時間、熱処理することによって、繊維状炭素(VGCF)を含む正極活物質(リン酸鉄リチウム:LiFePO
4)を作製した。
【0072】
得られた繊維状炭素を含む正極活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。得られた写真を
図4(高倍率)、
図5(低倍率)、
図6(中倍率)に示す。
図4から、正極活物質と繊維状炭素が結合した複合体を形成していることがわかる。
図5と
図6から、正極活物質と繊維状炭素とからなる2次粒子(複合体顆粒)を形成していることがわかる。
【0073】
<正極合材の作製>
アルゴンガス雰囲気中にて、上記の固体電解質の作製工程で得られたガラス粉末と上記で得られた繊維状炭素を含む正極活物質とを57:33の重量比になるように秤量し、ロッキングミルで1時間混合することによって、正極合材を作製した。
【0074】
得られた正極合材200mgを直径が10mmの金型に入れて、329MPaの圧力でプレス成形して、成形体を作製した。得られた成形体を、カーボンルツボの上に置いた状態で、真空雰囲気中にて200℃の温度で6時間、加熱した。加熱後の成形体を乳鉢にて粉砕することによって正極合材を得た。
【0075】
<全固体電池の作製>
ポリエチレンテレフタレート(PET)製の内径が10mmのダイに、上記の固体電解質の作製工程で得られたガラスセラミック粉末150mgを入れた後、110MPaの圧力でプレス成形することによって固体電解質層を作製した。
【0076】
上記のダイの片側から、上記で得られた正極合材10mgを入れ、上記のダイの反対側から、負極材料としてのIn‐Liを配置し、さらに両側にステンレス鋼板を配置した後、329MPaの圧力でプレス成形することによって全固体電池の電池要素としての積層体を作製した。得られた積層体をラミネート容器に封入して、全固体電池を作製した。
【0077】
<電池特性の評価>
上記で得られた全固体電池に対し、3.6V〜1.8Vの電圧で10μA(電流密度:12.7μA/cm
2)の定電流充放電を行った。50℃の温度で充放電サイクルを繰り返し、容量の変化がなくなった時点で放電容量を測定したところ、135mAh/gであった。得られた充放電曲線を
図7に示す。充放電曲線において電圧が2.8V付近に平坦部が存在することから、充放電が可逆的に進行することを確認できた。
【0078】
以上の実施例の結果から、繊維状炭素を正極活物質に結合させることにより、正極活物質への電子供給パスが良好になり、正極活物質として電子伝導性が乏しいリン酸鉄リチウムを用いても、充放電可能な電池を得ることができることがわかる。特に、上記の放電容量の値は、リン酸鉄リチウムの理論容量に近い値であり、正極合材中に存在するほぼすべてのリン酸鉄リチウムが充放電に関与していることがわかる。さらに、固体電解質と繊維状炭素を含む正極活物質とを混合した後、成形して加熱することにより、リチウムイオン供給パスと電子供給パスとがともに良好に形成され、容量の大きい電池を得ることができることがわかる。
【0079】
(比較例)
<固体電解質の作製>
実施例と同様にして、固体電解質を作製した。
【0080】
<正極活物質の作製>
実施例
の工程中において
、繊維状炭素を添加し
ないことを除いては、実施例と同様の作製方法により、繊維状炭素を含まない正極活物質を作製した。
【0081】
<正極合材の作製>
アルゴンガス雰囲気中にて、上記の固体電解質の作製工程で得られたガラス粉末と上記で得られた繊維状炭素を含まない正極活物質とを57:33の重量比になるように秤量し、ロッキングミルで1時間混合した。得られた混合物と上記のVGCFとを90:10の重量比になるように秤量し、ロッキングミルで1時間混合することによって、正極合材を作製した。
【0082】
<全固体電池の作製>
実施例と同様にして全固体電池を作製した。
【0083】
<電池特性の評価>
上記で得られた全固体電池に対し、3.6V〜1.8Vの電圧で10μA(電流密度:12.7μA/cm
2)の定電流充放電を試みた。しかし、抵抗が高く、充放電しなかったので、定電流の電流値を下げ、充放電の電圧範囲を拡げて定電流充放電を行った。具体的には5V〜1.5Vの電圧の間で1μA(電流密度:1.3μA/cm
2)の定電流充放電を行った。その結果、得られた充放電曲線を
図8に示す。
図8に示すように、充放電挙動が見られたが、リン酸鉄リチウムの充放電電圧とは異なる電圧で電流が流れていることがわかる。これは副反応による充放電挙動を示しており、この電池のリン酸鉄リチウムは充放電挙動に関与していないことがわかる。
【0084】
以上の比較例の結果から、導電助剤としてVGCFを添加しただけでは、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いた硫化物固体電池を充放電させることができないことがわかる。
【0085】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。