(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[タイヤトレッド用ゴム組成物]
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物(以下、単に「本発明のゴム組成物」とも略す。)は、共役ジエン系ゴム(A)を30質量%以上含むゴム成分と、シリカ(B)と、後述する式(I)で表されるアルキルトリエトキシシラン(C)とを含有するタイヤトレッド用のゴム組成物である。
ここで、上記共役ジエン系ゴム(A)は、共役ジエン系重合体鎖(a1)と、変性剤(a2)との反応により得られる、3以上の上記共役ジエン系重合体鎖(a1)が上記変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を5質量%以上含む。
また、上記共役ジエン系重合体鎖(a1)は、一方の端にイソプレン単位を70質量%以上含有するイソプレンブロックを有し、他方の端に活性末端を有する、共役ジエン系重合体鎖である。
また、上記変性剤(a2)は、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、上記エポキシ基と、上記ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である、変性剤である。
また、上記シリカ(B)は、窒素吸着比表面積が194〜225m
2/gであり、かつ、CTAB吸着比表面積が180〜210m
2/gであり、上記シリカ(B)の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して60〜150質量部である。
また、上記アルキルトリエトキシシラン(C)の含有量は、上記シリカ(B)の含有量に対して2.5〜8.0質量%である。
【0015】
本発明のゴム組成物は、後述する構造体(a)を所定量含有する共役ジエン系ゴム(A)と、シリカ(B)と、アルキルトリエトキシシラン(C)とを所定量併用するため、ウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性ならびに加工性のいずれについても優れた特性を示すタイヤトレッド用ゴム組成物となると考えられる。
【0016】
その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
後述するように、構造体(a)は、イソプレンブロックを有する共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合した構造を有する。また、シリカ(B)は、窒素吸着比表面積およびCTAB吸着比表面積が特定の範囲内となる表面性状を有する。更に、アルキルトリエトキシシラン(C)は、後述する式(I)で表されるように加水分解性基である3個のエトキシ基と特定の炭素数のアルキル基とを有する。
本発明においては、上記構造体(a)を所定量含有する共役ジエン系ゴム(A)と、シリカ(B)と、アルキルトリエトキシシラン(C)とを所定量併用することにより、アルキルトリエトキシシラン(C)の加水分解性基(エトキシ基)ならびに構造体(a)のイソプレンブロックおよび変性剤(a2)中の官能基が、いずれもシリカ(B)と相互作用しやすくなり、シリカ(B)の分散性を向上させ、結果として、優れたウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性ならびに加工性を示すものと考えられる。
特に、シリカ(B)の窒素吸着比表面積およびCTAB吸着比表面積が特定の範囲内であることにより、共役ジエン系ゴム(A)に対する補強性とシリカ(B)の分散性のバランスが向上するため、より詳しくは、シリカ(B)の比表面積が特定の値以上であることにより、ジエン系ゴム(A)に対する補強性が向上し、かつ、シリカ(B)の比表面積が特定の値以下であることにより、分散状態が良好になり、分散不良による耐摩耗性への悪影響が小さくなるため、優れた耐摩耗性を示すと考えられる。このことは、これらの比表面積を満たさないシリカを配合した場合(後述する比較例6および7参照)に耐摩耗性が劣るか改善されない事実からも推測することができる。
また、シリカ(B)を所定量含有させることにより、共役ジエン系ゴム(A)の補強性が向上するため、優れたウェット性能を示すと考えられる。このことは、シリカ(B)の含有量を満たさない場合(後述する比較例8参照)にウェット性能が劣る事実からも推測することができる。
更に、アルキルトリエトキシシラン(C)が、3個のエトキシ基とともに特定の炭素数のアルキル基を有することにより、共役ジエン系ゴム(A)との親和性が高くなるため、シリカ(B)の分散性が優れると考えられる。このことは、ジメチルジエトキシシランを配合した場合(後述する比較例10参照)にウェット性能および低転がり抵抗性が殆ど改善されない事実からも推測することができる。
また、アルキルトリエトキシシラン(C)を所定量含有させることにより、シリカ(B)の分散性を向上させつつ、共役ジエン系ゴム(A)の可塑効果も適度に高めるため、優れた加工性および耐摩耗性を示すものと考えられる。このことは、アルキルトリエトキシシラン(C)の含有量が多い場合(後述する比較例4参照)に耐摩耗性が劣る事実や、アルキルトリエトキシシラン(C)の含有量が少ない場合(後述する比較例5参照)に加工性の改善が不十分である事実からも推測することができる。
【0017】
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
【0018】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物に含有されるゴム成分は、後述する共役ジエン系ゴム(A)を30質量%以上含有する。上記ゴム成分は、共役ジエン系ゴム(A)以外のジエン系ゴムを含有してもよい。
【0019】
共役ジエン系ゴム(A)は、後述する共役ジエン系重合体鎖(a1)と、後述する変性剤(a2)との反応により得られる、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合してなる後述する構造体(a)を5質量%以上含むものである。
【0020】
<共役ジエン系重合体鎖(a1)>
共役ジエン系ゴム(A)に含まれる構造体(a)を形成するのに使用される共役ジエン系重合体鎖(a1)は、共役ジエン単量体単位を含んでなる重合体鎖であって、一方の端にイソプレンブロックを有し、他方の端に活性末端(重合活性末端またはリビング成長末端)を有するものであれば、特に限定されない。
【0021】
上記共役ジエン系重合体鎖(a1)は、不活性溶媒中で、イソプレンまたはイソプレンを所定量含んでなるイソプレン混合物を、重合開始剤を用いてリビング重合することにより、活性末端(重合活性末端またはリビング成長末端)を有するイソプレンブロックを形成させ、次いで、共役ジエン単量体または共役ジエン単量体を含んでなる単量体混合物を、活性末端を有するイソプレンブロックに結合させ、引き続きリビング重合することにより得ることができる。なお、上記共役ジエン単量体を含んでなる単量体混合物は、さらに芳香族ビニル単量体を含んでなることが好ましい。
【0022】
(イソプレンブロック)
イソプレンブロックは、イソプレンの単独重合体、または、イソプレンと他の単量体(モノマー)との共重合体であり、イソプレン単位の含有量が70質量%以上のポリイソプレンである。イソプレンブロック中のイソプレン単位の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0023】
上述のとおり、上記共役ジエン系重合体鎖(a1)は、一方の端に上記イソプレンブロックを有する。共役ジエン系重合体鎖(a1)の鎖中にさらにイソプレンブロックを有してもよい。両方の端にイソプレンブロックを有し、そのうちの一方の端のイソプレンブロックが活性末端を有してもよいが、活性末端ではない方の端にのみイソプレンブロックを有するのが生産性の観点から好ましい。
【0024】
イソプレンブロックの重量平均分子量は、特に制限されないが、強度の観点から、好ましくは500〜25,000、より好ましくは1,000〜15,000であり、特に好ましくは1,500〜10,000である。
【0025】
イソプレンブロックの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に制限されないが、生産性の観点から、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.0〜1.4、特に好ましくは1.0〜1.3である。
【0026】
イソプレンブロックを得るために用いるイソプレンと共重合し得るその他の単量体としては、イソプレンと共重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレンなどを用いることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。イソプレンブロック中、その他の単量体単位の含有量は、30質量%未満であり、20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、イソプレン単位以外の単量体を含有していないことが特に好ましい。
【0027】
イソプレン(またはイソプレン混合物)の重合に用いられる不活性溶媒としては、溶液重合において通常使用されるものであって、重合反応を阻害しないものであれば、特に制限なく使用できる。その具体例としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−ブテンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;などが挙げられる。不活性溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、全単量体(イソプレンおよびその他の単量体)の濃度が1〜50質量%になるような量であり、好ましくは10〜40質量%になるような量である。
【0028】
イソプレンブロックを合成する際の重合開始剤としては、イソプレン(またはイソプレン混合物)をリビング重合させて、活性末端を有する重合体鎖を与えることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、有機アルカリ金属化合物および有機アルカリ土類金属化合物、ならびにランタン系列金属化合物などを主触媒とする重合開始剤が好ましく使用される。有機アルカリ金属化合物の具体例としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、およびスチルベンリチウムなどの有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン、および1,3,5−トリス(リチオメチル)ベンゼンなどの有機多価リチウム化合物;ナトリウムナフタレンなどの有機ナトリウム化合物;カリウムナフタレンなどの有機カリウム化合物;などが挙げられる。また、有機アルカリ土類金属化合物としては、ジ−n−ブチルマグネシウム、ジ−n−ヘキシルマグネシウム、ジエトキシカルシウム、ジステアリン酸カルシウム、ジ−t−ブトキシストロンチウム、ジエトキシバリウム、ジイソプロポキシバリウム、ジエチルメルカプトバリウム、ジ−t−ブトキシバリウム、ジフェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ジステアリン酸バリウム、およびジケチルバリウムなどが挙げられる。ランタン系列金属化合物を主触媒とする重合開始剤としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムおよびガドリニウムなどのランタン系列金属と、カルボン酸、およびリン含有有機酸などとからなるランタン系列金属の塩を主触媒とし、これと、アルキルアルミニウム化合物、有機アルミニウムハイドライド化合物、および有機アルミニウムハライド化合物などの助触媒とからなる重合開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤のなかでも、有機モノリチウム化合物および有機多価リチウム化合物を用いることが好ましく、有機モノリチウム化合物を用いることがより好ましく、n−ブチルリチウムを用いることが特に好ましい。なお、有機アルカリ金属化合物は、予め、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミン(好ましくは、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミン)などの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミド化合物として使用してもよい。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、イソプレン(またはイソプレン混合物)100g当り、好ましくは4〜250mmol、より好ましくは30〜200mmol、特に好ましくは40〜100mmolの範囲である。
【0030】
イソプレン(またはイソプレン混合物)を重合するに際し、重合温度は、通常、−80〜150℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜90℃の範囲である。
【0031】
イソプレンブロックにおけるイソプレン単位由来のビニル結合含有量を調節するために、重合に際し、不活性有機溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。極性化合物としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパンなどのエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミンなどの第三級アミン;アルカリ金属アルコキシド;ホスフィン化合物;などが挙げられる。これらの中でも、エーテル化合物、第三級アミンが好ましく、その中でも、重合開始剤の金属とキレート構造を形成し得るものがより好ましく、2,2−ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、テトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、好ましくは0.1〜30mol、より好ましくは0.5〜10molの範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、ビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0032】
イソプレンブロックにおけるイソプレン単位由来のビニル結合含有量は、ウェット性能がより優れる理由から、好ましくは21〜85質量%、より好ましくは50〜80質量%、さらに好ましくは70〜80質量%である。なお、イソプレン単位由来のビニル結合含有量とは、イソプレンブロックにおける、イソプレン単位由来の1,2−ビニル結合の単位と、イソプレン単位由来の3,4−ビニル結合の単位との合計の割合(質量%)である。
【0033】
(イソプレンブロック以外の部分)
共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分は、共役ジエン単量体の単独重合体鎖または共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体鎖であることが好ましい。イソプレンブロック以外の部分における共役ジエン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位との質量比(共役ジエン単量体単位:芳香族ビニル単量体単位)は、100:0〜50:50が好ましく、90:10〜70:30がより好ましい。
【0034】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を得るために用いる共役ジエン単量体としては、特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、および1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、またはイソプレンを用いることが好ましく、1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。これらの共役ジエン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
また、共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を得るために用いる芳香族ビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、および4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を得るために用いる単量体として、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、所望により、共役ジエン単量体および芳香族ビニル単量体以外の他の単量体を使用することができる。他の単量体としては、例えば、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5−ヘキサジエン、1,6−へプタジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5−エチリデン−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンなどを挙げることができる。これらの単量体の使用量は、共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を得るために用いる全単量体中、10質量%以下とするのが好ましく、5質量%以下とするのがより好ましい。
【0037】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分の重合に用いられる不活性溶媒については、上述のイソプレンブロックの合成に用いられる不活性溶媒と同様である。
【0038】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分の合成に用いられる重合開始剤としては上述した活性末端を有するイソプレンブロックをそのまま用いる。重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、単量体(混合物)100g当り、通常、0.1〜5mmol、好ましくは0.2〜2mmol、より好ましくは0.3〜1.5mmolの範囲である。
【0039】
共役ジエン系重合体鎖(a1)においてイソプレンブロック以外の部分を重合するに際し、重合温度は、通常、−80〜150℃一、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分を、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体鎖とする場合、あるいは、2種以上の共役ジエン単量体からなる共重合体鎖とする場合には、結合のランダム性を制御しやすい点で、回分式が好ましい。
【0040】
共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるイソプレンブロック以外の部分を、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体鎖とする場合、あるいは、2種以上の共役ジエン単量体からなる共重合体鎖とする場合の各単量体の結合様式は、例えば、ブロック状、テーパー状、またはランダム状など種々の結合様式とすることができる。これらの中でも、ランダム状が好ましい。共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との結合様式をランダム状にする場合、重合系内において、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との合計量に対する芳香族ビニル単量体の比率が高くなりすぎないように、共役ジエン単量体または共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを、連続的または断続的に重合系内に供給して重合することが好ましい。
【0041】
共役ジエン系重合体鎖(a1)のイソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量を調節するためには、イソプレンブロックにおけるイソプレン単位由来のビニル結合含有量の調節時と同様、重合に際し、不活性有機溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。ただし、イソプレンブロックの合成時に、不活性有機溶媒に、共役ジエン系重合体鎖のイソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量を調節するのに十分な量の極性化合物を添加している場合は、新たに極性化合物を添加しなくてもよい。イソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量を調節するために用いられる極性化合物についての具体例は、上述のイソプレンブロックの合成に用いられる極性化合物と同様である。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、好ましくは0.01〜100mol、より好ましくは0.1〜30molの範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、イソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ、重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0042】
共役ジエン系重合体鎖(a1)のイソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量は、粘弾性特性と強度とのバランスの観点から、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
なお、イソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量とは、共役ジエン系重合体鎖(a1)のイソプレンブロック以外の部分における、ビニル結合単位の割合(質量%)である。
【0043】
(共役ジエン系重合体鎖(a1)の分子量)
共役ジエン系重合体鎖(a1)の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜2,000,000が好ましく、10,000〜1,500,000がより好ましく、100,000〜1,000,000が特に好ましい。共役ジエン系重合体鎖(a1)の重量平均分子量が上記範囲内にあるとき、タイヤの強度と低転がり抵抗性とのバランスが良好となる。
【0044】
共役ジエン系重合体鎖(a1)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.0〜2.5、特に好ましくは1.0〜2.2である。この分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、共役ジエン系ゴム(A)の製造が容易となる。
【0045】
(共役ジエン系重合体鎖(a1)の製造方法)
共役ジエン系重合体鎖(a1)は、例えば、上述したように、不活性溶媒中、まず重合開始剤を用いてイソプレン(またはイソプレン混合物)をリビング重合させることにより、活性末端を有するイソプレンブロックを形成し、次いで、このイソプレンブロックを新たな重合開始剤として用いて、共役ジエン単量体などの単量体をリビング重合させることにより得ることができる。この際、共役ジエン単量体などの単量体の溶液中にイソプレンブロックを加えてもよいし、イソプレンブロックの溶液中に共役ジエン単量体などの単量体を加えてもよいが、共役ジエン単量体などの単量体の溶液中にイソプレンブロックを加えることが好ましい。また、共役ジエン単量体などの単量体の重合転化率が通常95%以上になった時点で、新たにイソプレン(またはイソプレン混合物)を添加することにより、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端側にもイソプレンブロックを形成させることができる。このイソプレン(またはイソプレン混合物)の使用量は、初めの重合反応に使用した重合開始剤1molに対して、好ましくは10〜100mol、より好ましくは15〜70mol、特に好ましくは20〜35molである。
【0046】
(共役ジエン系重合体鎖(a1)の好適な態様)
共役ジエン系重合体鎖(a1)は、芳香族ビニル単量体単位を含有しなくともよいが、含有することが好ましい。共役ジエン系重合体鎖(a1)における共役ジエン単量体単位と芳香族ビニル単量体単位との質量比(共役ジエン単量体単位:芳香族ビニル単量体単位)の好ましい範囲は、上述のイソプレンブロック以外の部分と同じである。また、共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるビニル結合含有量の好ましい範囲も、上述のイソプレンブロック以外の部分と同じである。なお、共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるビニル結合量とは、共役ジエン系重合体鎖(a1)におけるビニル結合単位の割合(質量%)である。
【0047】
<変性剤(a2)>
本発明で使用される共役ジエン系ゴム(A)は、以上のようにして得られる共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端と、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、上記エポキシ基と、上記ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基(−OR:ここでRは炭化水素基またはアリール基)との合計数が3以上である変性剤(a2)とが反応してなるものである。
【0048】
本明細書において「変性剤」とは、1分子中に、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端と反応する官能基を有する化合物である。ただし、含有する上記官能基は、シリカと親和性を有するものに限る。本発明において、上記官能基は、エポキシ基、または、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基である。
【0049】
本発明の共役ジエン系ゴムに含有される構造体(a)を形成するのに用いられる変性剤(a2)は、エポキシ基および/またはヒドロカルビルオキシシリル基を有し、エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である変性剤であれば、特に限定されない。すなわち、変性剤(a2)としては、分子中に3以上のエポキシ基を有するものや、分子中にヒドロカルビルオキシシリル基を有し、ヒドロカルビルオキシシリル基においてケイ素原子と結合しているヒドロカルビルオキシ基が分子中に3以上含まれているものを用いることができ、それに加えて、分子中にエポキシ基およびヒドロカルビルオキシシリル基の両方を有し、1分子内において、エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基においてケイ素原子と結合しているヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上のものを用いることもできる。なお、分子中にヒドロカルビルオキシシリル基を有し、ヒドロカルビルオキシシリル基においてケイ素原子と結合しているヒドロカルビルオキシ基が分子中に2以上含まれているという場合、1つのヒドロカルビルオキシ基を有するケイ素原子が2以上含まれているもの、同一のケイ素原子に2以上のヒドロカルビルオキシ基を有するもの、およびこれらの組合せを指す。なお、ヒドロカルビルオキシシリル基のケイ素原子にヒドロカルビルオキシ基以外の有機基が結合している場合、この有機基については特に制限はない。
【0050】
なお、共役ジエン系重合体鎖(a1)が、エポキシ基を有する変性剤(a2)と反応する場合は、変性剤(a2)における少なくとも一部のエポキシ基が開環することにより、エポキシ基が開環した部分の炭素原子と共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端との結合が形成されると考えられる。また、共役ジエン系重合体鎖(a1)が、ヒドロカルビルオキシシリル基を有する変性剤(a2)と反応する場合は、変性剤(a2)のヒドロカルビルオキシシリル基における少なくとも一部のヒドロカルビルオキシ基が脱離することにより、変性剤(a2)が含有するケイ素原子と共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端との結合が形成されると考えられる。
【0051】
エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計数が3以上である変性剤(a2)を用いることにより、3以上の上記共役ジエン系重合体鎖(a1)が上記変性剤(a2)を介して結合してなる構造体(a)を有する共役ジエン系ゴム(A)を得ることができる。
【0052】
変性剤(a2)に含まれるヒドロカルビルオキシシリル基としては、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロポキシシリル基、ブトキシシリル基などのアルコキシシリル基、ならびにフェにキシシリル基などのアリールオキシシリル基が挙げられる。これらの中でも、アルコキシシリル基が好ましく、エトキシシリル基がより好ましい。
【0053】
また、変性剤(a2)に含まれるヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基などのアルコキシ基、ならびにフェノキシ基などのアリールオキシ基が挙げられる。これらの中でも、アルコキシ基が好ましく、エトキシ基がより好ましい。
【0054】
変性剤(a2)は、ウェット性能および低転がり抵抗性がより優れる理由から、ポリオルガノシロキサンであることが好ましい。
【0055】
変性剤(a2)の好適な態様としては、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサン、下記式(2)で表されるポリオルガノシロキサン、および下記式(3)で表されるポリオルガノシロキサン、ならびに下記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランなどが挙げられる。なかでも、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサン、下記式(2)で表されるポリオルガノシロキサン、および下記式(3)で表されるポリオルガノシロキサンであることが好ましく、下記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンであることがより好ましい。
【0057】
上記式(1)中、R
1〜R
8は、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(1)中、X
1およびX
4は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、もしくはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基、または、炭素数1〜6のアルキル基、もしくは炭素数6〜12のアリール基であり、X
1およびX
4は同一であっても相違していてもよい。上記式(1)中、X
2は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基である。上記式(1)中、X
3は、2〜20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基である。上記式(1)中、mは3〜200の整数、nは0〜200の整数、kは0〜200の整数である。
【0059】
上記式(2)中、R
9〜R
16は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(2)中、X
5〜X
8は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。
【0061】
上記式(3)中、R
17〜R
19は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(3)中、X
9〜X
11は、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(3)中、sは1〜18の整数である。
【0063】
上記式(4)中、R
20は、炭素数1〜12のアルキレン基である。上記式(4)中、R
21〜R
29は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。上記式(4)中、rは1〜10の整数である。
【0064】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R
1〜R
8、X
1およびX
4で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、およびシクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、およびメチルフェニル基などが挙げられる。これらのなかでも、ポリオルガノシロキサン自体の製造の観点から、メチル基、およびエチル基が好ましい。
【0065】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
1、X
2、およびX
4で表される炭素数1〜5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、およびブトキシ基などが挙げられる。なかでも、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端との反応性の観点から、メトキシ基、およびエトキシ基が好ましい。
【0066】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
1、X
2、およびX
4で表される炭素数6〜14のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、およびトリルオキシ基などが挙げられる。
【0067】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
1、X
2、およびX
4で表されるエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基としては、下記式(5)で表される基が挙げられる。
【0069】
上記式(5)中、Z
1は、炭素数1〜10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Z
2はメチレン基、硫黄原子、または酸素原子であり、Eはエポキシ基を有する炭素数2〜10のヒドロカルビル基(炭化水素基)である。上記式(5)中、*は結合位置を表す。
【0070】
上記式(5)で表される基において、Z
2が酸素原子であるものが好ましく、Z
2が酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものがより好ましく、Z
1が炭素数3のアルキレン基であり、Z
2が酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものが特に好ましい。
【0071】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
1およびX
4としては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基、または炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、また、X
2としては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4〜12の基が好ましく、X
1およびX
4が炭素数1〜6のアルキル基であり、かつ、X
2がエポキシ基を含有する炭素数4〜12の基であることがより好ましい。
【0072】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
3、すなわち2〜20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基としては、下記式(6)で表される基が好ましい。
【0074】
上記式(6)中、tは2〜20の整数であり、Pは炭素数2〜10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Qは炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリールオキシ基である。上記式(6)中、*は結合位置を表す。これらの中でも、tが2〜8の整数であり、Pが炭素数3のアルキレン基であり、Rが水素原子であり、かつ、Qがメトキシ基であるものが好ましい。
【0075】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、mは、低転がり抵抗性および機械的強度がより優れる理由から、好ましくは20〜150、より好ましくは30〜120の整数である。
【0076】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、nは、好ましくは0〜150の整数、より好ましくは0〜120の整数である。また、上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、kは、好ましくは0〜150の整数、より好ましくは0〜120の整数である。
【0077】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、m、n、およびkの合計数は、400以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが特に好ましい。m、n、およびkの合計数が400以下であるとポリオルガノシロキサン自体の製造が容易になると共に、その粘度が高くなりすぎず、取り扱いも容易となる。
【0078】
上記式(2)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R
9〜R
16の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のR
1〜R
8と同様である。また、上記式(2)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
5〜X
8の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のX
2と同様である。
【0079】
上記式(3)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R
17〜R
19の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のR
1〜R
8と同様である。また、上記式(3)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X
9〜X
11の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のX
2と同様である。
【0080】
上記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランにおいて、R
20で表される炭素数1〜12のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、およびプロピレン基などが挙げられる。これらの中でも、プロピレン基が好ましい。
上記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランにおいて、R
21〜R
29の具体例および好適な態様は、上記式(1)中のR
1〜R
8と同様である。
【0081】
上記式(4)で表されるヒドロカルビルオキシシランの具体例としては、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、およびN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらの中でも、N,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN,N−ビス(トリメチルシリル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いることが好ましい。
【0082】
変性剤(a2)の他の例としては、テトラメトキシシランなどのテトラアルコキシシラン化合物;ビス(トリメトキシシリル)メタンなどのヘキサアルコキシシラン化合物;メチルトリエトキシシランなどのアルキルアルコキシシラン化合物;ビニルトリメトキシシランンなどのアルケニルアルコシキシシラン化合物;フェニルトリメトキシシランなどのアリールアルコキシシラン化合物;トリエトキシクロロシランなどのハロゲノアルコキシシラン化合物;3−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシブチルプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−グリシドキシプロピル)ジメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィドなどの硫黄含有アルコキシシラン化合物;ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)メチルアミンなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物;テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどのエポキシ基含有化合物;などが挙げられる。
【0083】
変性剤(a2)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0084】
変性剤(a2)の使用量は、特に限定されないが、重合反応に使用した重合開始剤のモル数に対する、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端と反応する変性剤(a2)中の、エポキシ基と、ヒドロカルビルオキシシリル基に含まれるヒドロカルビルオキシ基との合計のモル数の割合が、通常、0.1〜5であり、低転がり抵抗性および機械的強度がより優れる理由から、0.5〜3であることが好ましい。
【0085】
共役ジエン系重合体鎖(a1)は、上述の変性剤(a2)を反応させる前に、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合停止剤、変性剤(a2)以外の重合末端変性剤、およびカップリング剤などを重合系内に添加して、共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端の一部を不活性化してもよい。
【0086】
このとき用いられる重合末端変性剤およびカップリング剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−フェニル−2−ピロリドン、およびN−メチル−ε−カプロラクタムなどのN−置換環状アミド類;1,3−ジメチルエチレン尿素、および1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノンなどのN−置換環状尿素類;4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのN−置換アミノケトン類;ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、および2,4−トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート類;N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのN,N−ジ置換アミノアルキルメタクリルアミド類;4−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒドなどのN−置換アミノアルデヒド類;ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのN−置換カルボジイミド類;N−エチルエチリデンイミン、N−メチルベンジリデンイミンなどのシッフ塩基類;4−ビニルピリジンなどのピリジル基含有ビニル化合物;四塩化錫、四塩化ケイ素、ヘキサクロロジシラン、ビス(トリクロロシリル)メタン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、1,3−ビス(トリクロロシリル)プロパン、1,4−ビス(トリクロロシリル)ブタン、1,5−ビス(トリクロロシリル)ペンタン、および1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサンなどのハロゲン化金属化合物;などが挙げられる。これらの中でも、カップリング効率がより優れる理由から、ハロゲン化金属化合物をカップリング剤として用いることが好ましく、1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するハロゲン化ケイ素化合物をカップリング剤として用いることがより好ましく、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサンを用いることが特に好ましい。
【0087】
カップリング剤の使用量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、例えば、1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するハロゲン化ケイ素化合物の場合、その使用量は、低転がり抵抗性および機械的強度がより優れる理由から、重合反応に使用した重合開始剤のモル数に対する、ハロゲン化ケイ素化合物のケイ素−ハロゲン原子結合のmol数の割合が、0.001〜0.25であることが好ましく、0.01〜0.2であることがより好ましい。
【0088】
上記カップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液に、変性剤(a2)およびカップリング剤などを添加する際には、反応を良好に制御する観点から、それらを不活性溶媒に溶解して重合系内に添加することが好ましい。その溶液濃度は、1〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
【0090】
<共役ジエン系ゴム(A)>
本発明のゴム組成物に含有される共役ジエン系ゴム(A)は、共役ジエン系重合体鎖(a1)と、変性剤(a2)とが反応することにより得られる共役ジエン系ゴムであり、具体的には、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合してなる構造体を5質量%以上含有するものである。
【0091】
共役ジエン系重合体鎖(a1)と変性剤(a2)との反応は、例えば、共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液に、変性剤(a2)を添加することにより行なうことができる。変性剤(a2)およびカップリング剤などを添加する時期は、特に限定されないが、共役ジエン系重合体鎖(a1)における重合反応が完結しておらず共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液がイソプレン等の単量体を含有している状態、より具体的には、共役ジエン系重合体鎖(a1)を含有する溶液が、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300〜50,000ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に変性剤(a2)およびカップリング剤などを添加することが望ましい。変性剤(a2)およびカップリング剤などの添加を行なうことにより、共役ジエン系重合体鎖(a1)と重合系中に含まれる不純物との副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
【0092】
共役ジエン系ゴム(A)を得るにあたり、変性剤(a2)およびカップリング剤などを2種以上併用する場合において、それらを重合系に添加する順序は特に限定されない。変性剤(a2)と、1分子中に5以上のケイ素−ハロゲン原子結合を有するカップリング剤としてのハロゲン化ケイ素化合物とを併用する場合においても、その添加順序は、特に限定されないが、カップリング剤の添加を変性剤(a2)の添加より先に行なうことが好ましい。このような順序で添加を行なうことにより、カップリング剤を介して得られる高分岐共役ジエン系ゴムが得られやすくなり、その高分岐共役ジエン系ゴムを用いて得られるタイヤは、操縦安定性がより優れる。
【0093】
変性剤(a2)およびカップリング剤などを反応させるときの条件としては、温度が、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃の範囲であり、それぞれの反応時間が、通常、1〜120分、好ましくは2〜60分の範囲である。
【0094】
共役ジエン系重合体鎖(a1)に変性剤(a2)を反応させた後は、メタノールなどのアルコール、または水を添加して活性末端を失活させることが好ましい。
【0095】
共役ジエン系重合体鎖(a1)の活性末端を失活させた後、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤、クラム化剤、およびスケール防止剤などを重合溶液に添加した後、直接乾燥およびスチームストリッピングにより重合溶液から重合溶媒を分離して、共役ジエン系ゴム(A)を回収する。なお、重合溶液から重合溶媒を分離する前に、重合溶液に伸展油を混合し、共役ジエン系ゴム(A)を油展ゴムとして回収してもよい。
【0096】
共役ジエン系ゴム(A)を油展ゴムとして回収する場合に用いる伸展油としては、例えば、パラフィン系、芳香族系およびナフテン系の石油系軟化剤、植物系軟化剤、ならびに脂肪酸などが挙げられる。石油系軟化剤を用いる場合には、多環芳香族の含有量が3%未満であることが好ましい。この含有量は、IP346の方法(英国のTHE INSTITUTE PETROLEUMの検査方法)により測定される。伸展油を使用する場合、その使用量は、共役ジエン系ゴム(A)100質量部に対して、通常、5〜100質量部、好ましくは10〜60質量部、より好ましくは20〜50質量部である。
【0097】
共役ジエン系ゴム(A)は、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合された構造体(a)を5質量%以上含有してなり、より好ましくは5〜40質量%含有してなり、特に好ましくは10〜30質量%含有してなるものである。
最終的に得られた共役ジエン系ゴム(A)の全量に対する、3以上の共役ジエン系重合体鎖(a1)が変性剤(a2)を介して結合された構造体(a)の割合を「3分岐以上のカップリング率(質量%)」(以下、単にカップリング率ともいう)として表す。これは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(ポリスチレン換算)により測定することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定により得られたチャートより、全溶出面積(s1)に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2.8倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積(s2)の比(s2/s1)を3分岐以上のカップリング率とする。なお、変性剤(a2)以外のカップリング剤などを変性前に添加した場合には、変性剤(a2)を添加する前にサンプルを採取し、GPCを測定しておくことで、カップリング剤のみと結合した共役ジエン系重合体鎖の割合の補正を行うことができる。
【0098】
共役ジエン系ゴム(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、通常、1,000〜3,000,000、好ましくは100,000〜2,000,000、より好ましくは300,000〜1,500,000の範囲である。重量平均分子量が3,000,000以下であると、共役ジエン系ゴム(A)へのシリカ(Q)の配合が容易となり、タイヤトレッド用ゴム組成物の耐スコーチ性がより優れたものとなる。また、重量平均分子量が1,000以上であると、得られるタイヤの低転がり抵抗性がより優れたものとなる。
【0099】
共役ジエン系ゴム(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、好ましくは1.1〜3.0、より好ましくは1.2〜2.5、特に好ましくは1.3〜2.2である。この分子量分布の値(Mw/Mn)が3.0以下であると、得られるタイヤの低転がり抵抗性がより優れたものとなる。
【0100】
共役ジエン系ゴム(A)のムーニー粘度(ML
1+4(100℃))も、特に限定されないが、通常、20〜100、好ましくは30〜90、より好ましくは40〜85の範囲である。なお、共役ジエン系ゴム(A)を油展ゴムとする場合は、その油展ゴムのムーニー粘度を上記の範囲とすることが好ましい。
【0101】
上述の通り、本発明のゴム組成物に含有されるゴム成分は、このような共役ジエン系ゴム(A)を30質量%以上含有するものであれば特に限定されないが、共役ジエン系ゴム(A)を40質量%以上含有するのが好ましく、50質量%以上含有するのがより好ましく、60〜90質量%含有するのが更に好ましい。
【0102】
<ジエン系ゴム>
上述のとおり、本発明のゴム組成物に含有されるゴム成分は、共役ジエン系ゴム(A)以外のジエン系ゴム(以下、「他のジエン系ゴム」ともいう。)を含有してもよい。
他のジエン系ゴムとしては特に制限されないが、その具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。上記ジエン系ゴムは、1種のジエン系ゴムを単独で用いても、2種以上のジエン系ゴムを併用してもよい。
このような他のジエン系ゴムを含有する場合、他のジエン系ゴムの含有量は、ゴム成分の60質量%未満であるのが好ましく、50質量%未満であるのがより好ましい。
【0103】
〔シリカ(B)〕
本発明のゴム組成物に含有されるシリカ(B)は、窒素吸着比表面積が194〜225m
2/gを満たし、かつ、CTAB吸着比表面積が180〜210m
2/gを満たすシリカである。
ここで、窒素吸着比表面積は、シリカ表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に従い測定した値である。
また、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面へのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)吸着量をJIS K6217−3:2001「第3部:比表面積の求め方−CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
このような表面性状を有するシリカ(B)を所定量用いることにより、上述したとおり、ウェット性能、転がり抵抗および耐摩耗性に優れたタイヤを作製することができる。
【0104】
上記シリカ(B)は、上述した表面性状を満たす限り特に限定されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている従来公知の任意のシリカを用いることができる。
上記シリカ(B)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられ、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0105】
本発明においては、上記シリカ(B)の含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、60〜150質量部であり、ウェット性能、低転がり抵抗性および加工性がより良好となる理由から、65〜145質量部であることが好ましく、70〜140質量部であることがより好ましい。
【0106】
〔アルキルトリエトキシシラン(C)〕
本発明のゴム組成物に含有するアルキルトリエトキシシラン(C)は、下記式(I)で表されるシラン化合物である。
このような構造のアルキルトリエトキシシラン(C)を所定量用いることにより、上述したとおり、加工性に優れたゴム組成物となり、耐摩耗性に優れたタイヤを作製することができる。
【0107】
【化8】
(式中、Rは、炭素数7〜20のアルキル基を表す。)
【0108】
ここで、Rの炭素数7〜20のアルキル基としては、具体的には、例えば、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
これらのうち、上記ゴム成分との相溶性の観点から、オクチル基、ノニル基であるのが好ましい。
【0109】
本発明においては、上記アルキルトリエトキシシラン(C)の含有量は、上記シリカ(B)の含有量に対して2.5〜8.0質量%であり、ウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性ならびに加工性がより良好となる理由から、3.0〜7.5質量%であるのが好ましく、4.0〜7.0質量%であるのがより好ましい。
【0110】
〔シランカップリング剤〕
本発明のゴム組成物は、上記シリカ(B)の分散性が向上する理由から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられる。
このようなシランカップリング剤の含有量は、上記シリカ(B)の含有量に対して0.1〜15質量%であるのが好ましく、2.0〜13質量%であるのがより好ましい。
【0111】
〔他の任意成分〕
本発明のゴム組成物には、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、本発明のゴム組成物に含有されるシリカ(B)以外の充填剤(例えば、カーボンブラック)、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、加工助剤、アロマオイル、プロセスオイル、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂、加硫剤、加硫促進剤などのタイヤトレッド用のゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0112】
〔タイヤトレッド用ゴム組成物の製造方法〕
本発明のゴム組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。
また、本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0113】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明のゴム組成物をタイヤトレッドに使用した空気入りタイヤである。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0114】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架されており、このカーカス層4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0115】
本発明の空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を空気入りタイヤのトレッドに用いる以外は特に制限はなく、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0117】
<共役ジエン系ゴムA1の製造>
窒素置換された100mlアンプル瓶に、シクロヘキサン28gおよびテトラメチルエチレンジアミン8.6mmolを添加し、さらに、n−ブチルリチウム6.1mmolを添加した。次いで、イソプレン8.0gをゆっくりと添加し、60℃のアンプル瓶内で120分反応させることにより、イソプレンブロック(開始剤1とする)を得た。この開始剤1について、重量平均分子量、分子量分布、およびイソプレン単位由来のビニル結合含有量を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0118】
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3−ブタジエン357.7gおよびスチレン132.3gを仕込んだ後、開始剤1を全量加え、40℃で重合を開始した。重合を開始してから10分経過後、1,3−ブタジエン195.3g、スチレン14.7gを60分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は60℃であった。連続添加終了後、さらに20分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、1,6−ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.08mmolを20質量%濃度のシクロヘキサン溶液の状態で添加し、10分間反応させた。さらに、下記式(7)で表されるポリオルガノシロキサンA0.027mmolを20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、共役ジエン系ゴムA1を含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、100質量部の共役ジエン系ゴムA1に対して0.15質量部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の共役ジエン系ゴムA1を得た。
【0119】
【化9】
【0120】
上記式(7)中、X
1、X
4、R
1〜R
3およびR
5〜R
8はメチル基である。上記式(7)中、mは80、kは120である。上記式(7)中、X
2は下記式(8)で表される基である(ここで、*は結合位置を表す)。
【0121】
【化10】
【0122】
共役ジエン系ゴムA1について、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、イソプレンブロック以外の部分におけるスチレン単位含有量、イソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量、および、ムーニー粘度を測定した。測定結果を第2表に示す。なお、測定方法は以下のとおりである。
【0123】
(重量平均分子量、分子量分布およびカップリング率)
重量平均分子量、分子量分布およびカップリング率(共役ジエン系ゴム(A)に対する構造体(a)の割合(質量%))については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより、ポリスチレン換算の分子量に基づくチャートを得て、そのチャートに基づいて求めた。なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィの具体的な測定条件は、以下のとおりである。
【0124】
・測定器:HLC−8020(東ソ一社製)
・カラム:GMH−HR−H(東ソ一社製)2本を直列に連結した
・検出器:示差屈折計RI−8020(東ソ一社製)
・溶離夜:テトラヒドロフラン
・カラム温度:40℃
【0125】
ここで、カップリング率は、全溶出面積(s1)に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2.8倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積(s2)の比(s2/s1)である。
【0126】
(スチレン単位含有量およびビニル結合含有量)
スチレン単位含有量およびビニル結合含有量については、
1H−NMRにより測定した。
【0127】
(ムーニー粘度)
ムーニー粘度(ML
1+4(100℃))については、JIS K6300−1:2001に準じて測定した。
【0128】
<共役ジエン系ゴムA2の製造>
窒素置換された100mlアンプル瓶に、シクロヘキサン28gおよびテトラメチルエチレンジアミン7.5mmolを添加し、さらに、n−ブチルリチウム5.4mmolを添加した。次いで、イソプレン7.0gをゆっくりと添加し、70℃のアンプル瓶内で120分反応させることにより、イソプレンブロック(開始剤2とする)を得た。この開始剤2について、重量平均分子量、分子量分布、およびイソプレン単位由来のビニル結合含有量を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0129】
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3−ブタジエン357.7gおよびスチレン132.3gを仕込んだ後、さらに開始剤2を全量加え、40℃で重合を開始した。重合を開始してから10分経過後、1,3−ブタジエン195.3g、スチレン14.7gを60分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は60℃であった。連続添加終了後、さらに20分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、上記式(7)で表されるポリオルガノシロキサンA0.023mmolを20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn−ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、共役ジエン系ゴムA2を含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤として、イルガノックス1520L(チバスペシャリティーケミカルズ社製)を、100質量部の共役ジエン系ゴムA2に対して0.15質量部添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の共役ジエン系ゴムA2を得た。
【0130】
共役ジエン系ゴムA2について、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、イソプレンブロック以外の部分におけるスチレン単位含有量、イソプレンブロック以外の部分におけるビニル結合含有量およびムーニー粘度を測定した。測定結果を第2表に示す。なお、測定方法や上述のとおりである。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
<標準例、実施例1〜5、比較例1〜10>
下記第3表に示す成分を、下記第3表に示す割合(質量部)で配合した。なお、下記第3表中、アルキルシランC1、比較アルキルシラン1およびシランカップリング剤については、含有量の下欄の括弧書きの中に、シリカに対する質量%も記載している。
具体的には、まず、下記第3表に示す成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて150℃付近に温度を上げてから、5分間混合した後に放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られたマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を混合し、タイヤトレッド用ゴム組成物を得た。
【0134】
<ムーニー粘度>(加工性の指標)
調製したタイヤトレッド用ゴム組成物(未加硫)について、JIS K6300−1:2001に準じて、L形ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、試験温度100℃の条件で、ムーニー粘度を測定した。
結果を第3表に示す。結果は標準例の値を100とする指数で表した。指数が小さいほど加工性に優れる。
【0135】
<tanδ(0℃)>(ウェット性能の指標)
調製したタイヤトレッド用ゴム組成物(未加硫)を金型(15cm×15cm×0.2cm)中で、160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴムシートを作製した。
作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準じて、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度0℃の条件で、tanδ(0℃)を測定した。
結果を第3表に示す。結果は標準例のtanδ(0℃)を100とする指数で表した。指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きく、タイヤにしたときにウェット性能に優れる。
【0136】
<tanδ(60℃)>(低転がり抵抗性の指標)
調製したタイヤトレッド用ゴム組成物(未加硫)を金型(15cm×15cm×0.2cm)中で、160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴムシートを作製した。
作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6394:2007に準じて、粘弾性スペクトロメーター(岩本製作所社製)を用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で、tanδ(60℃)を測定した。
結果を第3表に示す。結果は標準例のtanδ(60℃)を100とする指数で表した。指数が小さいほどtanδ(60℃)が小さく、タイヤにしたときに低転がり抵抗性に優れる。
【0137】
<耐摩耗性>
調製したタイヤトレッド用ゴム組成物(未加硫)を金型(15cm×15cm×0.2cm)中で、160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴムシートを作製した。
作製した加硫ゴムシートを、ランボーン摩耗試験機(株式会社岩本製作所製)を使用して、JIS K6264に準拠し、荷重1.5kg、スリップ率50%の条件にて測定し、試料の摩耗量を計測した。
耐摩耗性は、標準例の摩耗量を100として、次式により指数化したものであり、数値が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
耐摩耗性=(比較例1の摩耗量/試料の摩耗量)×100
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
上記第3表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・共役ジエン系ゴムA1:上述のとおり製造された共役ジエン系ゴムA1
・共役ジエン系ゴムA2:上述のとおり製造された共役ジエン系ゴムA2
・比較共役ジエン系ゴム1:NS616(日本ゼオン社製)(シリカ用末端変性SSBR)
・ブタジエンゴム:Nipo l1220(日本ゼオン社製)
・カーボンブラック:ショウブラックN339(CTAB吸着比表面積=90m
2/g、キャボットジャパン社製)
【0141】
・シリカB1:200MP(窒素吸着比表面積:207m
2/g、CTAB吸着比表面積:198m
2/g、ローディア社製)
・シリカB2:9000GR(窒素吸着比表面積:213m
2/g、CTAB吸着比表面積:193m
2/g、エボニック社製)
・比較シリカ1:Zeosil 1165MP(窒素吸着比表面積:160m
2/g、CTAB吸着比表面積:159m
2/g、ローディア社製)
・比較シリカ2:AQ(窒素吸着比表面積:211m
2/g、CTAB吸着比表面積:160m
2/g、東ソー・シリカ社製)
【0142】
・アルキルシランC1:オクチルトリエトキシシラン(KBE−3083、信越シリコーン社製)
・比較アルキルシラン1:ジメチルジエトキシシラン(KBE−22、信越シリコーン社製)
・シランカップリング剤:Si69(デグサ社製)
【0143】
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(正同化学工業社製)
・ステアリン酸:ステアリン酸YR(NOFコーポレーション社製)
・老化防止剤:Santoflex6PPD(Solutia Europe社製)
・ワックス:パラフィンワックス(大内新興化学工業社製)
・プロセスオイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・硫黄:油処理イオウ(鶴見化学工業社製)
・加硫促進剤1:ノクセラーCZ−G(大内新興化学工業社製)
・加硫促進剤2:Perkacit DPG(Flexsys社製)
【0144】
第3表に示す結果から、共役ジエン系ゴム(A)を配合せずに調製したゴム組成物は、加工性ならびにウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性のいずれか1つ以上が標準例と同等以下に劣ることが分かった(比較例1〜3)。
また、アルキルトリエトキシシラン(C)の含有量が多いゴム組成物は、耐摩耗性に劣り(比較例4)、アルキルトリエトキシシラン(C)の含有量が少ないゴム組成物は、加工性ならびにウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性の改善効果が不十分であることが分かった(比較例5)。
また、特定の表面性状を満たさないシリカを配合したゴム組成物は、耐摩耗性が劣ることが分かった(比較例6および7)。
また、シリカ(B)の含有量が少ないゴム組成物は、ウェット性能および低転がり抵抗性が劣ることが分かった(比較例8)。
また、共役ジエン系ゴム(A)の含有量が少ないゴム組成物は、加工性ならびにウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性の改善効果が不十分であることが分かった(比較例9)。
アルキルトリエトキシシラン(C)に相当しないジメチルジエトキシシランを配合したゴム組成物は、加工性ならびにウェット性能および低転がり抵抗性の改善効果は不十分であり、耐摩耗性が劣ることが分かった(比較例10)。
【0145】
これに対し、共役ジエン系ゴム(A)と、シリカ(B)と、アルキルトリエトキシシラン(C)とを所定量併用するゴム組成物は、いずれも、加工性が良好となり、タイヤにしたときにウェット性能、低転がり抵抗性および耐摩耗性が良好となることが分かった(実施例1〜5)。